第3章 日本の子供の貧困に関する先行研究の収集・評価(2.2.(2))

2. 先行文献の収集・評価結果

2.2. 先行研究から得られた各状況に関する主な知見

(2)学力

世帯の所得と子供の学力には明確な関連があることが、以下のように数々の調査研究から示されている。

第一に、就学援助受給世帯において学力に課題のある子供が多い傾向がある。平成19年~平成22年全国学力・学習状況調査321 の結果報告では、就学援助を受けている児童生徒の割合が高い学校のほうが平均正答率が低い傾向があることが指摘されている。また、学力テストの結果のみならず、学力に関わる複数の側面「自らが設定する課題や教員から設定される課題を理解して授業に取り組む」「授業において、自らの考えがうまく伝わるよう、資料や文章、話の組み立てなどを工夫して、発言や発表を行う」「熱意をもって勉強している」「授業中の私語が少なく、落ち着いている」のいずれにおいても、就学援助率が低い学校の方が学力が高い傾向が認められている(平成28年度同調査)322

次に、主要教科に関わる学力についてみていくと、世帯所得と学力は比例関係にある (図表3-5)。例えば、平成25年度全国学力・学習状況調査(きめ細かい調査)では、世帯所得が低いほど国語と算数の正答率が低いとの結果が得られている323 ,324 。図表3-6及び図表3-7から見て取れるように、小学校6年生、中学校3年生のいずれの学年段階においても、子供の国語・算数(数学)の学力と世帯所得には、統計的に有意な関連が認められている。

図表3-5 「世帯収入(税込年収)」と学力の関係

「世帯収入(税込年収)」と学力の関係

出典:浜野(2014) p.40


図表3-6 保護者の収入・学歴が学力に与える影響(小6)

保護者の収入・学歴が学力に与える影響(小6)

注1: Bは非標準化回帰係数であり、独立変数が1単位変化した時のテストの正答率を推計した値である。
注2: SEは標準誤差を指す。
注3: ベータは標準化回帰係数であり、独立変数が正答率に与える影響力の度合いを示す。標準化するということは、変数の平均0、分散1となり、切片はゼロとなる。

出典:山田(2014) p.58


図表3-7 保護者の収入・学歴が学力に与える影響(中3)

保護者の収入・学歴が学力に与える影響(中3)

注1: Bは非標準化回帰係数であり、独立変数が1単位変化した時のテストの正答率を推計した値である。
注2: SEは標準誤差を指す。
注3: ベータは標準化回帰係数であり、独立変数が正答率に与える影響力の度合いを示す。標準化するということは、変数の平均0、分散1となり、切片はゼロとなる。

出典:山田(2014) p.58


さらに、世帯類型も子供の学力と関連があるとされている。文部科学省「2013年度全国学力・学習状況調査」の分析から、ひとり親家庭であることは、正答率に対して負の効果をもたらすことが示されている325 。この点については、PISA2000を分析した結果からも同様の結果が得られており(図表3-8)、ひとり親家庭であることが学力(読解力)に対して負の効果を持つことが確認されている326

図表3-8 家族構成と読解力

家族構成と読解力

出典:白川(2010) p.255


なお、生活保護世帯に焦点を当てた地方自治体の調査から、生活保護と低学力の相関関係が示されている327 ことも特筆される。定量調査に加えて定性調査からも、低所得世帯の子供は家庭学習時間がほとんどなく、学力に課題を抱えており、将来展望を描きにくいことから学習意欲が低いとされている328 ,329 。このように、生活保護世帯をはじめとした低所得世帯の子供は、学力だけではなく意欲の面でも課題を抱えていると言える。

321国立教育政策研究所(2007)「平成19年度 全国学力・学習状況調査 調査結果のポイント」
https://www.nier.go.jp/tyousakekka/tyousakekka_point.pdf
国立教育政策研究所(2008)「平成20年度 全国学力・学習状況調査 調査結果のポイント」
http://www.nier.go.jp/08chousakekkahoukoku/01chousakekka_houkokusho_point.pdf
国立教育政策研究所(2009)「平成21年度 全国学力・学習状況調査 調査結果のポイント」
http://www.nier.go.jp/09chousakekkahoukoku/01chousakekka_houkokusho_point.pdf
国立教育政策研究所 (2010)「平成22年度 全国学力・学習状況調査 調査結果のポイント」
http://www.nier.go.jp/10chousakekka/0726CD_data/22_chousakekka_point.pdf

322国立教育政策研究所(2016)「平成28年度 全国学力・学習状況調査 調査結果のポイント」http://www.nier.go.jp/16chousakekkahoukoku/16hilights.pdf

323浜野隆 (2014)「家庭環境と子どもの学力(1)家庭の教育投資・保護者の意識等と子どもの学力」国立大学法人お茶の水女子大学編『平成25年度全国学力・学習状況調査(きめ細かい調査)の結果を活用した学力に影響をあたえる要因分析に関する調査研究』, 16-41.

324山田哲也 (2014)「社会経済的背景と子どもの学力(1)家庭の社会経済的背景による学力格差:教科別・問題別・学校段階別の分析」国立大学法人お茶の水女子大学編 『平成25年度全国学力・学習状況調査(きめ細かい調査)の結果を活用した学力に影響をあたえる要因分析に関する調査研究』, 57-70.

325卯月由佳・末冨芳 (2015)「子どもの貧困と学力・学習状況 : 相対的貧困とひとり親の影響に着目して」国立教育政策研究所紀要,144,125-140.

326白川俊之 (2010)「家族構成と子どもの読解力形成 -ひとり親家族の影響に関する日米比較-」理論と方法,25(2),249-265.

327千葉県検証改善委員会 (2008)「平成19年度『全国学力・学習状況調査』分析報告書」http://www.p.u-tokyo.ac.jp/kikou/chiba/chiba.pdf

328盛満弥生(2011)「学校における貧困の表れとその不可視化―生活保護世帯出身生徒の学校生活を中心に―」 教育社会学研究,88,273-294.

329小西祐馬(2003)「生活保護世帯の子どもの生活と意識」 教育福祉研究,9,9-22.