第3章 日本の子供の貧困に関する先行研究の収集・評価(2.2.(4))
2. 先行文献の収集・評価結果
2.2. 先行研究から得られた各状況に関する主な知見
(4)中学校卒業後の進路の状況
中学校卒業後、我が国においては多くの子供が高等学校へ進学する。2010年3月に中学校を卒業した子供の98.0%が高等学校等(中等教育学校後期課程、特別支援学校高等部、高等専門学校を含む。以下同じ)に進学した339 。一方で、高等学校等に進学しない者もわずかながら存在する。厚生労働省が2010年4月1日付けで被保護世帯の子供の高等学校進学率を調査340 した結果、被保護世帯の子供の高校進学率は87.5%であり、全世帯に比べ10.5ポイントもの差が認められている。この背景には、①高等学校等進学に伴う経済的負担、②入学試験での失敗、③就労による収入増の必要など、経済的困窮に起因する事柄があると指摘されている341 。また、被保護世帯の子供の高等学校等進学率と全世帯の進学率は、都道府県間においても大きな差異がある。差が最も大きいのは佐賀県(26.5%)であり、香川県(23.0%)、愛媛県(22.1%)、栃木県(21.1%)、富山県(20.8%)、愛知県(同左)がそれに続いている。他方、福井県は一般世帯の高校進学率が98.7%、被保護世帯の高校進学率が100%と差が逆転しており342 、被保護世帯の子供の高等学校等進学率は、世帯の家計状況だけではなく、居住する地域の施策又は制度運用の実情によって影響を受けている可能性が指摘されている343 。
また、高等学校へ進学したとしても中途退学してしまうケースもあり、高等学校中途退学と世帯類型及び世帯所得との関係も数々の調査研究から伺い知ることができる。例えば、文部科学省「児童生徒の問題行動等生徒指導上の諸問題に関する調査」344 によれば、近年、経済的理由により高等学校を中途退学する者が私立学校に多く(図表3-9)、課程別では、定時制において突出して中途退学者が多いことがわかる(図表3-10)。さらに、高等学校中途退学者345 の世帯類型について見ると、中途退学者におけるひとり親世帯の割合は、母子世帯の子供が21.1%、父子世帯の子供が3.5%であり、国勢調査に基づく15歳以上20歳未満の子供がいる親族世帯に占める母子世帯の割合5.8%及び父子世帯の割合3.5%と比べると、高等学校中途退学者に占めるひとり親世帯の割合が高いとの調査結果もある346 (図表3-11)。
H25 | H26 | H27 | |
国立 | 0.0% | 0.0% | 0.0% |
公立 | 0.8% | 0.7% | 0.7% |
私立 | 4.8% | 4.9% | 6.3% |
合計 | 2.2% | 2.3% | 2.7% |
出典:文部科学省初等中等教育局児童生徒課(2016)p.105
H25 | H26 | H27 | |
全日制普通科 | 1.0% | 0.9% | 0.8% |
全日制専門学科 | 1.6% | 1.3% | 1.1% |
全日制総合学科 | 1.6% | 1.4% | 1.3% |
定時制 | 11.5% | 11.1% | 10.0% |
通信制 | 5.3% | 5.2% | 5.4% |
出典:文部科学省初等中等教育局児童生徒課(2016)p.109掲載の図表の一部を抜粋
図表3-11 高等学校中途退学者におけるひとり親世帯の割合
出典:宮本(2011) p.10
高等学校347 中途退学がフリーターや若年無業者等社会的に弱い立場に陥るリスクを高める大きな要因となっていることは、政府の会議(内閣府子供・若者支援地域協議会運営方策に関する検討会議348 )においても指摘されたことがある349 。1998年度以降、理容師や自動車整備に関する資格等、高等学校卒業を必要条件とする資格が増えているとされ350 、高等学校への非進学、もしくは中途退学により「中卒」の学歴に留まることは、将来のライフチャンス351 を狭めることにつながりかねない。一例として、平成25年度都立高校中途退学者等追跡調査352 から、特に定時制高校の中途退学者は非正規雇用に就く者が多いことが示されている(図表3-12)。中途退学後も非正規雇用に留まり不安定な雇用形態、収入が続くことになれば、将来的な貧困につながりやすくなる。内閣府「若者の意識に関する調査(高校中途退学者の意識に関する調査)」353 によれば、「高校を辞めたことを後悔している」中途退学者は23.7%にとどまっているが、「中途退学後、高卒の資格は必要だと考えた」のは78.4%に上っている。このように、就業や希望するキャリアの実現のために、高等学校を卒業していることが大きな意味をもっていることが、当事者からも実感として認識されていることが分かる。
図表3-12 学校層別にみた中途退学者の進路
出典:東京都教育委員会(2013)p.15
2001年と2006年を比較すると、2001年では高等学校中途退学又は中学校卒業でも7割前後が正規社員になったが、2006年になると2001年の半分にまで減った(図表3-13)との調査結果もあり354 、高等学校への非進学者や中途退学者を取り巻く就業状況は近年、より厳しいものとなっている様子が伺える。
図表3-13 東京に暮らす若者の学歴別就業状況 (%)
注: 調査対象は、東京都(島を除く)の18~29歳の若者2000人(正規課程の学生と専業主婦を除く)。
出典:鳫(2010)p.4
また、内閣府「若者の意識に関する調査(高校中途退学者の意識に関する調査)」355 の報告書によれば、高等学校中途退学者の父親で短大、大学を卒業したの割合は16.2%と、35歳から49歳までの一般男性の短大、大学の卒業率40.0%と比較して、半分以下であった。経済格差に加え、親の学歴格差も子供に引き継がれている可能性がある。
339文部科学省(2010)「学校基本調査-平成22年度(確定値)結果の概要」http://www.mext.go.jp/b_menu/toukei/chousa01/kihon/kekka/k_detail/1300352.htm
340厚生労働省「生活保護の現状等について」(日付なし。第1回生活保護制度に関する国と地方の協議への提出資料) http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000001dmw0-att/2r9852000001do56.pdf
341中嶋哲彦(2013) 「貧困を理由に誰ひとり排除しない教育制度を目指して」貧困研究11,10-18.
342前掲340
343前掲341
344文部科学省初等中等教育局児童生徒課(2016)「平成27年度『児童生徒の問題行動等生徒指導上の諸問題に関する調査』(速報値)について」http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/28/10/__icsFiles/afieldfile/2016/10/27/1378692_001.pdf
345内閣府子ども若者・子育て施策総合推進室(2011)「若者の意識に関する調査(高等学校中途退学者の意識に関する調査)報告書(解説版)」 https://www8.cao.go.jp/youth/kenkyu/school/kaisetsu.html
平成23年3月の結果に基づいており、本調査においては全日制、定時制(夜間を主とする場合)、定時制(昼間を主とする場合)高等学校を中退してからおおむね2年以内の者を対象としている。
346宮本みち子 (2011)「家庭の貧困と高校中途退学」パネルディスカッション『子どもの貧困問題について-地域・社会的養護及び学校の現場から子どもの貧困を考える-』(2011年12日10日)において使用された参考資料https://www8.cao.go.jp/youth/suisin/symposium/ikidurasa/pdf/s1.pdf
347高等学校(全日制・定時制・通信制)を指す。
348子ども・若者育成支援推進法により、社会生活を円滑に営む上での困難を有する子供・若者に対し、様々な機関がネットワークを形成し、それぞれの専門性を生かした発達段階に応じた支援が必要であり、このような支援を効果的かつ円滑に実施する仕組みとして、地方公共団体に、「子ども・若者支援地域協議会」を置くよう努めるものとされている。内閣府子供・若者支援地域協議会運営方策に関する検討会議では、この協議会の運営の方策が検討された。
349内閣府子ども・若者支援地域協議会運営方策に関する検討会議(2010)「社会生活を円滑に営む上で困難を有する子ども・若者への総合的な支援を社会全体で重層的に実施するために」https://www8.cao.go.jp/youth/suisin/shien/pdf/honpen.pdf
350鳫咲子 (2010)「子ども・若者の貧困と教育の機会均等」経済のプリズム,83,1-14.
351ライフチャンスの定義:前掲60
352東京都教育委員会(2013)「『都立高校中途退学者等追跡調査』報告書」http://www.metro.tokyo.jp/INET/CHOUSA/2013/03/DATA/60n3s302.pdf
353前掲345
354前掲350
355前掲345