第3章 日本の子供の貧困に関する先行研究の収集・評価(2.2.(5))

2. 先行文献の収集・評価結果

2.2. 先行研究から得られた各状況に関する主な知見

(5)高等学校等卒業後の進路の状況

高校生の進路決定は、学力だけでなく世帯の経済力に規定されることが多くの研究から示されている356 ,357 ,358 ,359 。図表3-14は、高校生の進路を世帯年収別に示したものである。大学への進学率は世帯所得に比例して上昇するが、対照的に専門学校への進学や就職は下降している。また進学先としては、低所得世帯の子供ほど専門学校を選択している様子がうかがえる。なお、短期大学への進学については、世帯所得に関わらずほぼ一定の率を示している。360 このように、世帯の所得は大学等高等教育機関への進学率のみならず、進学先の学校種、そして就職の選択との関連が見受けられる。

図表3-14 両親年収別の高校卒業後の進路(所得階級7区分)

両親年収別の高校卒業後の進路(所得階級7区分)

出典:東京大学大学院教育学研究科 大学経営・政策研究センター(2007) p.3

注1: 「両親年収」は「保護者調査」(2005年11月)問25を用い、父母それぞれの税込年収に中央値をわりあて(例えば、「500~700万円未満」なら600万円)、合計したものを元にしている。無回答は欠損値として扱った。ただし、父親(又は母親)の年齢・職業・学歴・年収の全てが無回答という回答者については、「父親(又は母親)がいない」ものとみなし、父親(又は母親)の年収はゼロ円とした。
注2: 「進路」は、「第2回 高校生の進路選択に関する調査」(2006年3月)問1(4月からの進路)を用いた。無回答は欠損値として扱った。「就職など」には就職、進学、アルバイト、海外の大学・学校、家事手伝い・主婦、その他を含む。「専門学校」には各種学校を含む。
注3: 進路の構成比(割合)の数値は、「『高校生の進路追跡調査 第1次報告書』正誤表」(2008年5月。 東京大学 大学経営・政策研究センターホームページに掲載)による修正後のもの。


なお、大学進学を選択した者についても、国公私立別にみると世帯所得により大きな差異がある(図表3-15)。私立大学への進学は、家計所得1000万円以上の高所得層(第VI分位)では47.6%と半数近くに達しているが、200万円以下の低所得層(第I分位)では17.6%と高所得層の半分以下に留まっている。一方で国公立大学の場合には、所得階層による差はほとんどない。国公立大学は所得階層に関わらず、教育機会を提供していることを示していると考えられる361

図表3-15 両親年収別の高等学校卒業後の進路(所得階級7区分 国公立・私立別)

両親年収別の高等学校卒業後の進路(所得階級7区分 国公立・私立別)

出典:東京大学大学院教育学研究科 大学経営・政策研究センター(2007) p.4


高等学校卒業後4年以内という一定の期間を含めて子供の状況を調査した研究もある。図表3-16から、男女共に所得階層が高くなるほど大学・短大在学割合が高くなっていることがわかる。このことから、所得上位層においては大学進学に対する金銭的制約が存在せずに大学の選択が行えている一方で、中位以下の所得階層においては、金銭的制約が進学に影響している可能性があると指摘されている362

また、進路選択に当たっては性差も見受けられ、女子の特徴として、高所得層において専門・専修学校に通う割合が低くなっている。第V分位の高所得層においては7%であるのに対し、第I分位では12%、第II分位においては最多の22%となっている(図表3-16)。また、男女共に低所得層において子供が就業する割合が高くなっているが、その傾向は女子において顕著であり、とりわけ女子の教育機会が親の所得により大きな影響を受けていると考えられる363

図表3-16 世帯収入階層別にみた子供の就学・就業状態:男女、高校卒業後4年以内

世帯収入階層別にみた子供の就学・就業状態:男女、高校卒業後4年以内

出典: 四方(2007) p.234


なお、子供が「就業」「大学・短大在学」「専修・専門学校在学」という3つのうちどの状態にあるのか、多項ロジット分析によりさらに詳細な検討を行った結果が図表3-17である。世帯所得が高いほど大学・短大在学確率は上昇し、また専門・専修学校在学確率も上昇するが、世帯所得が上がるにつれて下降すると見られる364

親の教育水準も、子供の教育機会に格差をもたらす一要因となっている。高等教育への進学について、親の所得が高くなるにつれ子供の大学・短大進学確率は高まる。しかし両親が大学・短大卒の場合には世帯所得により進学率が直線的に上昇するが、両親が高卒の場合には一定以上の所得を過ぎると進学率の上昇が頭打ちになっている(図表3-18)365

図表3-17 子供の就学・就業状態に関する多項ロジット分析:男女計、各調査時点において高校卒業後4年以内の子供が対象(KHPS2004、2005、2006をプール366

子供の就学・就業状態に関する多項ロジット分析:男女計、各調査時点において高校卒業後4年以内の子供が対象(KHPS2004、2005、2006をプール)

注: ロバスト・スタンダードエラーを推計。
†・・・基準カテゴリー
***・・・有意水準0.001、**・・・有意水準0.01、*・・・有意水準0.05、+・・・有意水準0.1

出典:四方(2007) p.235


図表3-18 親の所得と教育水準別にみた男子の就業・就学状態のシミュレーション

親の所得と教育水準別にみた男子の就業・就学状態のシミュレーション

注: シミュレーションの仮定として、その他の変数は、父親の年齢、父親と母親の年齢差はそれぞれ平均値を当てはめており、高校卒業後の変数は2年目とした。

出典:四方(2007) p.236


つまり、親の教育水準により大学・短大在学確率の水準が異なっているだけでなく、親の教育水準により大学・短大在学確率と世帯所得との関係も異なってくる。まず両親とも高校卒である場合であるが、等価所得が700-800万円の上位の水準であっても、両親が大学・短大卒の場合における等価所得が下位の200万円と同水準の大学・短大在学確率に留まっている。そして世帯所得が上昇するにつれ、大学・短大在学確率の上昇幅は逓減する。対照的に、両親が大学・短大卒の場合には、大学・短大在学確率は世帯所得の上昇につれて減少することなく直線的に上昇している。また、専門・専修学校在学については、両親が高校卒の場合はどの所得階層でも専門・専修学校在学確率がほぼ一定の水準となっているが、両親が大学・短大卒の場合、専門・専修学校在学確率は低所得層において高く、世帯所得が上昇するにつれ低下している。就業については、両親が大学・短大卒の場合において世帯所得が上昇するにつれ就業確率は低下する。一方、両親が高校卒の場合は、世帯所得が上昇するにつれ就業確率は低くなるが、等価世帯所得が500万円を超えると就業確率の上昇が見られる。

356東京大学大学院教育学研究科 大学経営・政策研究センター (2007)「高校生の進路追跡調査第1次報告書」http://ump.p.u-tokyo.ac.jp/crump/resource/crumphsts.pdf

357矢野眞和 (2007)「高校生の進学行動と大学政策」IDE 現代の高等教育,489,13-19.

358藤村正司 (2009)「大学進学における所得格差と高等教育政策の可能性」教育社会学研究,85,27-48.

359四方理人 (2007)「子供の教育格差 ―教育費と高等教育への進学―」 樋口美雄, 瀬古美喜, 慶應義塾大学経商連携21世紀COE編『経済格差変動の実態・要因・影響(日本の家計行動のダイナミズム ; 3)』慶應義塾大学出版会, 223-239.

360東京大学大学院教育学研究科 大学経営・政策研究センター (2009)「高校生の進路と親の年収の関連について」http://ump.p.u-tokyo.ac.jp/crump/resource/crump090731.pdf

361前掲356

362前掲359

363同上

364これは図3-17において、等価世帯所得の相関係数が正に有意であること及び等価世帯所得2乗の相関係数が負に有意であることから言える。

365同上

366KHPSとは慶應義塾家計パネル調査を指す。