第3章 日本の子供の貧困に関する先行研究の収集・評価(2.2.(6))
2. 先行文献の収集・評価結果
2.2. 先行研究から得られた各状況に関する主な知見
(6)食事の摂取状況
子供の食事や栄養の摂取の状況についても、世帯所得により差異があることが指摘されている。例えば21世紀出生児縦断調査を用いて所得と7歳児の朝食欠食の関連を調べたところ、低所得群はそうでない群に比して朝食欠食の割合が1.80倍高いとされている367 。朝食の摂取頻度に焦点を当て小学校5年生を対象に実施した調査においても、摂取頻度が週4~5日以下である子供の割合を低収入世帯と非低収入世帯で比較したところ、統計的に有意な差異が認められたことが報告されている368 。
朝食欠食者は他の生活習慣にも課題を抱えがちであり、夕食時刻が不規則、夜食をたくさん取る、歯磨きを毎日しない、排便を毎日しない等、望ましくない習慣が多く見られるとされ、例えば、就寝時刻は朝食欠食者は平均45分遅く、平均睡眠時間も30分以上短かったと報告されている369 。また起床時刻、就寝時刻共に朝食欠食者で遅くなっており370 、統計的に有意な差が認められている371 。
さらには、朝食を欠食している児童・生徒の学力372 ,373 ,374 ,375 や学習時間376 、学習効率377 、体力レベル378 が、そうではない児童・生徒に比して低いことが指摘されている。平成21年度全国学力・学習状況調査379 においては、子供の学力と朝食摂取の関連が示されており(図表3-19)、朝食摂取をはじめ望ましい生活習慣の確立は、学力の向上につながる可能性も考えられる。
図表3-19 朝食摂取と学力の相関
<小学校>
<中学校>
出典:国立教育政策研究所(2009)p.18
朝食の欠食は、子供たちの心身の状態とも関連がみられる380 。朝食を欠食する児童・生徒の方がそうではない児童・生徒に比して不定愁訴をはじめとする疲労自覚381 ,382 、体調不良感を抱く傾向が高く383 ,384 、自身が元気であると自覚している者の割合が低い。朝食の摂取と自尊心(self-esteem)385 ,386 ,387 、自己効力感(self-efficacy)388 ,389 の関連を指摘する研究も存在する。健康かつ健全な心身の発達に向けても、朝食摂取は効果がある可能性があると言えよう。
なお、朝食の摂取状況は所得や世帯類型の影響を受けていることも示されている。平成25年度「全国学力・学習状況調査(きめ細かい調査)」(文部科学省)の分析から、貧困世帯390 やひとり親世帯において、朝食を毎日食べている割合が低くなっていることが示されている391 (図表3-20)。
図表3-20 世帯種、経済状況別にみた子供の朝食摂取の状況
注1:ウエイト調整後の推定値。( )内の数値は標準誤差。
注2:等価可処分世帯所得が、平成24年度「国民生活基礎調査」による等価可処分所得の中央値の半分未満の世帯を「貧困世帯」、半分以上の世帯を「非貧困世帯」としている。
出典:卯月・末冨(2015) p.129-130から一部抜粋
また、収入及び所得の低い世帯の子供は、食生活が不規則であり、栄養摂取の偏りがあることが指摘されている392 ,393 。食事回数が少ない、食品群別摂取量では乳製品、果物、魚が少なく肉類、ソフトドリンクが多い、栄養素摂取量ではカルシウム、ビタミンD、たんぱく質エネルギー比率が少なく炭水化物エネルギー比率が高いといった特徴があると指摘されている394 。世帯年収が貧困基準395 以下の世帯の子供が貧困基準より上の世帯の子供より摂取量が少なかった栄養素はたんぱく質、ビタミン、ミネラル類、不溶性食物繊維、食品群は魚介類、乳類であった。一方で、貧困基準以下の世帯の児童で摂取量が多かったのは炭水化物、穀類エネルギー比率であり396 、主食に食事が偏っていると推察される。
以上のように、家庭の事情により朝夕の食事を十分にとれない子供も少なくないことから、公立学校における給食が、子供の食のセーフティネットとなっているとの指摘397 ,398 があることも特筆される。
367藤原武男 (2015)「子どもの貧困をモニタリングできる健康指標の検討」厚生労働科学研究費補助金政策科学推進研究事業(政策科学推進研究事業)『子どもの貧困の実態と指標の構築に関する研究』平成26年度総括研究報告書(研究代表者 阿部彩), 143-154.
368石田裕美他 (2015)「世帯の社会経済状態と子どもの食生活と栄養状態との関連:児童の食生活」厚生労働科学研究費補助金循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究事業(循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策政策研究事業)『日本人の食生活の内容を規定する社会経済的要因に関する実証的研究』平成24-26年度総合研究報告書(研究代表者 村山伸子), 79-87.
369鈴木恵美子他(2007)「小学生の朝食欠食が生活習慣や健康状態に及ぼす影響」福岡女子大学人間環境学部紀要,38,43-49.
370春木敏・川畑徹朗(2005)「小学生の朝食摂取行動の関連要因」日本公衆衛生雑誌,52(3),235-245.
371ここで挙げた生活習慣に加えて、用いられている統計調査の信頼性が十分とは言えないものの、朝食の欠食は家族との共食やコミュニケーションを取る機会にも悪影響があるという指摘をする調査研究も存在する。(鳫咲子(2011)「未納問題から考える学校給食―子どもの食のセーフティネット―」経済のプリズム, 87, 10-26.)
372文部科学省 国立教育政策研究所(2010)「平成21年度 全国学力学習・状況調査【小学校】報告書」
373文部科学省 国立教育政策研究所(2010)「平成21年度 全国学力学習・状況調査【中学校】報告書」
374野々上敬子・平松清志・稲森義雄 (2008)「中学生の生活習慣および自覚症状と学業成績に関する研究-岡山市内A中学校生徒を対象として-」学校保健研究 50(1), 5-17.
375国立教育政策研究所教育課程研究センター(2005)「平成15年度小・中学校教育課程実施状況調査結果の概要」https://www.nier.go.jp/kaihatsu/katei_h15/H15/03001000000007001.pdf
376野田龍也他(2011)「小学生・中学生・高校生の朝食欠食と学習時間の関係」厚生の指標,58(15),1-6.
377森山三千江・小島茂義 (2012)「朝食欠食が及ぼす身体・気分尺度への影響 : 児童と大学生の比較から」日本未病システム学会雑誌, 18(2),85-88.s
378文部科学省(2009)「平成21年度全国体力・運動能力、運動習慣等調査結果」http://www.mext.go.jp/a_menu/sports/kodomo/zencyo/1287864.htm
379国立教育政策研究所(2009)「平成21年度 全国学力・学習状況調査 調査結果のポイント」
http://www.nier.go.jp/09chousakekkahoukoku/01chousakekka_houkokusho_point.pdf
380吉岡有紀子 (2008)「子どもの朝食欠食と食育」小児科臨床,61(7), 1464-1475.
381文部科学省スポーツ・青少年局学校健康教育課(2002)「児童生徒の心の健康と生活習慣に関する調査:報告書」
382池田順子他 (1994)「中学生の食生活、生活習慣と血液性状および疲労自覚症状との関連」日本栄養・食糧学会誌,47(2), 131-138.
383志垣瞳他(2001)「幼児の健康と食生活に関する研究」帝塚山大学部紀要,38, 103-114.
384玉井浩他(2008)「子どもの朝食欠食について考える」日本小児栄養消化器肝臓学会雑誌,22(1), 22-32.
385村松常司他(2000)「小学生の健康習慣とセルフエスティームに関する研究」教育医学, 45(4),832-846.
386前掲370
387前掲373
388岡村佳代子他(2009)「小学校高学年児童の生活リズムと朝食摂取との関連性」大阪教育大学紀要 第II部門,57(2),37-47.
389森山三千江・本山ひふみ(2013)「食まるファイブによる食育がもたらす児童の意識・行動の変化」日本家庭科教育学会大会例会、セミナー研究発表要旨集56(0),11.
390厚生労働省が採用している相対的貧困の定義に倣い、等価可処分世帯収入がその中央値の半分未満の世帯を相対的貧困の状態にあると定義している。
391前掲325
392前掲368
393村山伸子他(2015)「世帯の社会経済状態と子どもの食生活・栄養状態との関連:児童の食物摂取状況」厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究(循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策政策研究事業) 『日本人の食生活の内容を規定する社会経済的要因に関する実証的研究』平成24-26年度総合研究報告書(研究代表者 村山伸子), 89-95.
394村山伸子・山本妙子(2013)「世帯の経済状態と子どもの食事・栄養状態との関連に関する文献レビュー」厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究(循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策政策研究事業) 『日本人の食生活の内容を規定する社会経済的要因に関する実証的研究』平成24年度総括・分担研究報告書(研究代表者 村山伸子), 117-122.
395等価可処分世帯所得が、平成24年度「国民生活基礎調査」による等価可処分所得の中央値の半分未満の世帯を「貧困世帯」、半分以上の世帯を「非貧困世帯」としている。
396前掲393
397鳫咲子(2016a)「学校給食と子どもの貧困」 跡見学園女子大学マネジメント学部紀要,21,81-96.
398鳫咲子(2016b)「学校給食と子どもの貧困II─ 公立中学校の完全給食実施の必要性と課題」跡見学園女子大学マネジメント学部紀要, 22,65-86.