第3章 日本の子供の貧困に関する先行研究の収集・評価(2.2.(8))

2. 先行文献の収集・評価結果

2.2. 先行研究から得られた各状況に関する主な知見

(8)親の社会的孤立の状況

生活困窮や低所得は、経済的な困窮だけに留まらず、地域や人とのつながりから阻害され社会的孤立にも陥りやすいとの指摘もある417 。例えば、名古屋市の保育所に通う子供の保護者を対象とした調査では、「日頃、保育所以外に子供を預かってもらえる人」がいない世帯は貧困層418 に最も多く、約4人に1人が「いずれもいない」と回答した419 (図表3-24)。また、所得の低い父子世帯は子供のことで家庭内外に頼る人がいない割合が高い(図表3-25)との調査結果もある420

図表3-24 所得階層別 保育所以外に預かってもらえる人の有無

所得階層別 保育所以外に預かってもらえる人の有無

出典:中村(2015)p.105


図表3-25 父子家族の子育てと教育

父子家族の子育てと教育

出典:岩田(2009)p.26より一部抜粋


子育ての悩み・不安・困難に対する「相談相手」にも特徴があり、貧困層421 は「配偶者」「自分の親」「学校時代や職場の友人」「保育所・学校等の先生」「子育てサークル」を相談相手とする割合が、非貧困層に比べ低い(図表3-26)。特に「配偶者」の割合が低い。他方で、「その他の親戚」「公的機関相談員」「インターネット」「誰にも相談していない」「悩み・不安なし」が非貧困層に比べて若干高い結果となっている422

ひとり親の持つ社会資本は、実の父母や兄弟姉妹、友人(親密圏)と、行政機関やNPO団体、ネット・コミュニティ(公共圏)の2つが大きいとされている。このうち、生活の充実感と関連しているのは、実の父母や兄弟姉妹、友人(親密圏)との関係の豊かさであると考えられる423 。相談相手として親密圏の人々とのつながりが希薄であることは、ひとり親の生活充実感を損ねる要因となり得るのではないか。

図表3-26 所得階層別 子育ての悩み・不安・困難に対する相談相手

所得階層別 子育ての悩み・不安・困難に対する相談相手

出典:中村(2016)p.105


また、貧困層424 の親は子供を「厳しく叱った」「ついついあたった」「ついつい叩いた」という経験が非貧困層に比べて多い(図3-27)。図3-26と図3-27は同じ調査による結果であることから、貧困層の親は社会とのつながりが希薄になりやすく、かつ、育児ストレスを抱えやすい傾向にあることが伺える。同様の結果は別の調査でも報告されている (図表3-28)425

図表3-27 低所得層における質問項目別肯定群の割合(全世帯肯定群順位順) (%)

低所得層における質問項目別肯定群の割合(全世帯肯定群順位順) (%)

注:養育態度に対する経験を尋ねた際に「あてはまる」又は「どちらかといえばあてはまる」と回答した者を肯定群とし、その中で「あてはまる」と回答した者を「積極的肯定」群とした。

出典:中村(2016)p.102


図表3-28 子供へのかかわりとつながり

子供へのかかわりとつながり

出典:小西(2015)p.146-147


さらに、5歳時点において、「病気のときに世話をしてくれる人」「さびしいときの話し相手」「相談相手」などに恵まれなかった者ほど、その後も人間関係が希薄であるとの報告がある426 ことから、子供時代に人とのつながりに乏しい環境に育つことが、社会的孤立の連鎖をもたらしていることも考えられる。

417中村強士 (2016)「保育所保護者への調査からみえた貧困」 秋田喜代美編『保育と貧困』かもがわ出版

418本調査(中村(2015)下記脚注419)では、父母の年収を世帯所得とし、世帯人数の平方根で除した等価世帯所得を求めた結果、中央値が300万円となった。その2分の1である150万円を下回る世帯を「貧困層」としている。

419中村強士 (2015)「保育所保護者における貧困と子育て・家庭生活の悩み・不安・困難-名古屋市保育所保護者への生活実態調査から-」日本福祉大学社会福祉論集,132,1-10.

420岩田美香(2009)「ひとり親家族から見た貧困」貧困研究,3, 22-33.

421本調査の等価世帯所得は中央値が300万円であったことから、以下のように所得階層を定義している。「貧困層」=年間所得150万円未満の世帯、「低所得層」=同150万円以上300万円未満の世帯、「中所得層」=同300万円以上600万円未満の世帯、「高所得層」=同600万円以上の世帯。

422前掲417

423前掲420 

424前掲421

425小西祐馬 (2015)「貧困と保育(3) 養育環境の不平等」現代と保育,92, 143-151.

426菊地英明 (2007)「排除されているのは誰か?-「社会生活に関する実態調査」からの検討-」季刊社会保障研究,43(1),4-14.