第4章 指標の体系化と現行の指標の課題(1.2.1)

1. 指標の体系化

1.2. 把握すべきと考えられる指標の分類

1.2.1. 教育の機会均等について把握すべき状況

今回調査・分析した諸外国における子供の貧困に関する指標及びウェル・ビーイング指標などの関連指標並びにその分類では、教育に関する指標及びその分類が含まれることが明らかになった。2章で示した、諸外国における指標を把握すべき分類に整理すると、以下のとおりとなる487

(1)諸外国における指標の整理
ア 「就学等の状況」

Educational attainment(教育達成488 ・学歴489 )とも言われるもので、第3章で示したように、日本では将来的な正規雇用の就職に影響を及ぼすことが明らかとなっている490 。諸外国の指標でいえば、例えば、「高等学校への進学」(イギリス労働年金省・教育省「子供の貧困戦略 2014-2017」、ユニセフ・イノチェンティ研究所(2007年)「レポートカード7:先進国における子供の幸せ:生活と福祉の総合評価」)、「早期退学者」(EU「社会的包摂関連指標(旧ラーケン指標)」、フランス国立貧困・社会的排除監視機構「ONPESの指標」、ドイツ連邦政府「連邦政府貧富報告書」など)、「教育年数」(国連開発計画「多次元貧困指数」、OECD「より良い暮らし指標」など)、大学入学率(アメリカ連邦政府フォーラム「子供のウェル・ビーイング指標」)などが挙げられる。

イ 「学習習熟度」

Educational achievement(教育到達度491・学習到達度)とも言われるもので、日本では義務教育課程で十分な学力がつかないと高等教育での脱落につながりやすいことが、マクロデータを用いた先行研究で示されている492 。諸外国の指標でいえば、例えば、「学習の到達度(テストのスコアが一定レベルを達成している/達成していない者の割合)」(イギリス労働年金省・教育省「子供の貧困戦略 2014-2017」、OECD「より良い暮らし指標」、OECD(2009年)「子供の福祉を改善する報告書」、EU(2012年)「社会的保護委員会から欧州委員会への勧告書:子供の貧困対策・予防と子供のウェル・ビーイングの推進」など)、「学習到達の状況を示す成績の上位1割と下位1割の成績の差」(OECD(2009年)「子供の福祉を改善する報告書」)などが挙げられる。

ウ 「主観的学校満足度」

日本において主観的学校満足度と貧困の関係性を示す先行研究は十分ではない。諸外国の指標でいえば、例えば、「学校生活が大好きな子供の割合」(OECD(2009年)「子供の福祉を改善する報告書」、ユニセフ・イノチェンティ研究所(2007年)「レポートカード7:先進国における子供の幸せ:生活と福祉の総合的評価」)、「学校で疎外されていると感じる子供の割合」、「学校では気後れし居心地が悪いと感じる子供の割合」、「学校で孤独だと感じる子供の割合」(全てユニセフ・イノチェンティ研究所(2007年)「レポートカード7:先進国における子供の幸せ:生活と福祉の総合的評価」)などが挙げられる。

エ 「基礎教育財のはく奪」

本報告書の第6章で詳細を述べる「物質的はく奪指標」の項目をのうち教育に関連するものに特化した指標といえる。諸外国の指標でいえば、例えば、「勉強部屋、辞書など各種基礎教育財のうち一定数以下しか所有していない者の割合」(OECD(2009年)「子供の福祉を改善する報告書」、ユニセフ・イノチェンティ研究所(2007年)「レポートカード7:先進国における子供の幸せ:生活と福祉の総合的評価」)が挙げられる。

(2)日本の子供の貧困に関する先行研究の整理

以上のように整理した、諸外国における子供の貧困に関する把握すべき状況に対し、日本の子供の貧困に関する先行研究の収集・分析の結果を整理すると、以下のとおりとなる。

ア 「就学等の状況」

「保育園・幼稚園等での幼児教育」、「中学校卒業後の就学状況」、「高等学校等卒業後の就学状況」が挙げられる。

イ 「学習習熟度」

「学力」、「学校外での学習状況」が挙げられる。

諸外国の例でみられる「主観的学校満足度」及び「基礎教育材のはく奪」については、日本の先行研究では参考となるが見られなかったことから、教育の機会均等に関する把握すべき状況は、「就学等の状況」「学習習熟度」としてはどうか。

487ここでは子供の貧困に関する指標及びウェル・ビーイング指標(大人を含まず、子供に着目した貧困に関する指標及びウェル・ビーイング指標)から例を挙げており、人口全体の貧困に関する指標及びウェル・ビーイング指標(大人も含む指標)からは例を挙げていない。

488近藤・古田(2009)では、教育達成をEducational attainmentと翻訳している。(参考:近藤博之・古田和久(2009)「教育達成の社会経済的格差 : 趨勢とメカニズムの分析」社会学評論 59(4), 682-698.

489OECD統計の日本語訳では「学歴(Education attainment)」と翻訳されている。 (参考:OECD東京センター「主要統計」http://www.oecd.org/tokyo/statistics/#Education)

490詳細は「第3章2(4)中学校卒業後の進路の状況」を参照 。

491国立教育政策研究所(2012)「国際数学・理科教育動向調査の2011年調査 国際調査結果報告(概要)」(http://www.nier.go.jp/timss/2011/T11_gaiyou.pdf)では、教育到達度(educational achievement)と翻訳されている。

492末冨芳(2015)「高校非卒業率の動向および子どもの貧困・学力指標との関連性の検討-2002-2012年度都道府県別データを用いた高校非卒業率の算出と変動」厚生労働科学研究費補助金政策科学総合研究事業(政策科学推進研究事業)『子どもの貧困の実態と指標の構築に関する研究』平成26年度総括研究報告書(研究代表者 阿部彩), 83-100.