第4章 指標の体系化と現行の指標の課題(1.2.2)
1. 指標の体系化
1.2. 把握すべきと考えられる指標の分類
1.2.2 健やかな成育環境の確保に関して把握すべき状況
(1)諸外国における指標の整理
今回調査・分析した諸外国における子供の貧困に関する指標及びウェル・ビーイング指標などの関連指標並びにその分類では、健やかな成育環境の確保に関する様々な指標及びその分類が含まれることが明らかになった。第2章で示した諸外国における指標を、把握すべき分類に整理すると以下のとおりとなる493 。
ア 「健康・生活習慣」
経済的な困窮が、適切な健康管理や生活習慣の欠如、不十分な栄養摂取を招き、発育・発達への影響、学ぶ意欲の低下、自己肯定感の低下などを招き、結果として十分な教育の機会の確保や安定した職に就く制約となり、貧困の連鎖を招くおそれがある。したがって、貧困状態にある子供たちの健やかな成育環境を確保し、将来の貧困の連鎖を予防するためには、健やかな発育・発達及び健康の維持・増進、適切な栄養の摂取の確保、発達段階に応じた生活習慣の確保が必要である。諸外国の指標でいえば、例えば、以下のような例がある。
(ア) 健康
「低体重出生児の割合」(イギリス労働年金省・教育省「子供の貧困戦略 2014-2017」、EU(2012年)「子供の貧困対策・予防と子供のウェル・ビーイングの推進」、OECD(2009年)「子供の福祉を改善する報告書」、スウェーデン子供オンブズマン局「子供のウェル・ビーイング指標」など)、「予防接種の接種状況」(EU(2012年)「子供の貧困対策・子供のウェル・ビーイングの推進」、ユニセフ・イノチェンティ研究所(2007年)「レポートカード7:先進国における子供の幸せ」、アメリカ子供と家族の統計に関する連邦政府フォーラム「子供のウェル・ビーイング指標」など)、「過体重・肥満の子供の割合」(OECD(2015年)「How’s Life?2015年版幸福度の測定」、ユニセフ・イノチェンティ研究所(2013年)「レポートカード11:先進国における子供たちの幸福度」など)、「口腔内の健康(虫歯のある子供の割合・歯科医を受診した子供の割合)」(アメリカ子供と家族の統計に関する連邦政府フォーラム「子供のウェル・ビーイング指標」、スウェーデン子供オンブズマン局「子供のウェル・ビーイング指標」)、「感情・行動面に困難をもつ子供の割合」(EU(2012年)「子供の貧困対策・予防と子供のウェル・ビーイングの推進」、OECD(2015年)「How’s Life?2015年版幸福度の測定」、スウェーデン子供オンブズマン局「子供のウェル・ビーイング指標」など)、「主観的健康が悪い子供の割合」(OECD(2015年)「How’s Life?2015年版幸福度の測定」、ユニセフ・イノチェンティ研究所(2007年)「レポートカード7:先進国における子供の幸せ」)、「うつ病を経験している子供の割合」、「深刻な健康状態により行動上の制限がある子供の割合」、「ぜんそくのある子供の割合」(全てアメリカ子供と家族の統計に関する連邦政府フォーラム「子供のウェル・ビーイング指標」)などが挙げられる。
(イ) 生活習慣(日常生活のリスク)
「朝食を毎日食べている子供の割合」(ユニセフ・イノチェンティ研究所(2007年)「レポートカード7:先進国における子供の幸せ:生活と福祉の総合的評価」など)、「毎日果物を摂取する子供の割合」(ユニセフ・イノチェンティ研究所(2013年)「レポートカード11:先進国における子供の幸福度」など)、「10代で妊娠・出産した者の割合」(イギリス労働年金省・教育省「子供の貧困戦略 2014-2017」、OECD(2009年)「子供の福祉を改善する報告書」など)、「喫煙率」(EU(2012年)「子供の貧困対策・子供のウェル・ビーイングの推進」、OECD(2009年)「子供の福祉を改善する報告書」、スウェーデン子供オンブズマン局「子供のウェル・ビーイング指標」など)、「飲酒率」(EU(2012年)「子供の貧困対策・予防と子供のウェル・ビーイングの推進」、OECD(2009年)「子供の福祉を改善する報告書」、ユニセフ・イノチェンティ研究所(2013年)「レポートカード11:先進国における子供の幸福度」、など」)、「薬物使用率」(アメリカ子供と家族の統計に関する連邦政府フォーラム「子供のウェル・ビーイング指標」、スウェーデン子供オンブズマン局「子供のウェル・ビーイング指標」など)などが挙げられる。
イ 「家庭・社会とのつながり」
貧困の状況にある家庭は様々な不利を背負うばかりでなく、社会的に孤立し、情報の遮断などの理由により必要な支援が受けられないこともあり、一層困難な状況に置かれるおそれがある。また、親や社会とのつながりの欠如は、ロールモデルの不在、学ぶ意欲の低下、自己肯定感の低下等を招くおそれがある。これらは、十分な教育の機会の確保や安定した職に就く制約となり、貧困の連鎖を招くおそれがある。したがって、貧困の状況にある子供及びその保護者の対人関係や社会参加の機会など、社会とのつながりに目を向けることが重要である。
諸外国の指標でいえば、例えば、「週に2回以上親とメインの食事を一緒に食べる子供の割合」(ユニセフ・イノチェンティ研究所(2007年)「レポートカード7:先進国における子供の幸せ:生活と福祉の総合的評価」)、「親と会話をする子供の割合や時間」(OECD(2015年)「How’s Life?2015年版幸福度の測定」、ユニセフ・イノチェンティ研究所(2013年)「レポートカード11:先進国における子供たちの幸福度」など)、「友人が親切で、困っているときに助けてくれると思うと答えた子供の割合」(ユニセフ・イノチェンティ研究所(2007年)「レポートカード7:先進国における子供の幸せ:生活と福祉の総合的評価」、ユニセフ・イノチェンティ研究所(2013年)「レポートカード11:先進国における子供たちの幸福度」)、「家庭での読み聞かせをしてもらった子供の割合」(アメリカ子供と家族の統計に関する連邦政府フォーラム「子供のウェル・ビーイング指標」)などが挙げられる。
ウ 「親の雇用(保護者の就労状況)」
保護者が就労することにより、労働による一定の収入を得て、世帯の安定が図られ、子供の成育環境の確保につながることから、親の雇用(保護者の就労状況)に関する指標が重要であることは言うまでもない。諸外国の指標でいえば、例えば、「非就業者世帯に暮らす子供の割合」(イギリス労働年金省・教育省「子供の貧困戦略 2014-2017」、EU(2012年)「子供の貧困対策・予防と子供のウェル・ビーイングの推進」、OECD(2015年)「How’s Life?2015年版幸福度の測定」など)、「親が不安定雇用である子供の割合」(アメリカ子供と家族の統計に関する連邦政府フォーラム「子供のウェル・ビーイング指標」)などが挙げられる。
エ 「物質的豊かさ・所得」
所得と生活水準に一定の関連性があり、所得に係る統計が整備され、その入手も容易であることから、所得の状況を把握する指標として、相対的貧困率が主に先進国において多用されている。しかし、算定の基礎となる所得に学習支援、医療、保育などの現物給付が含まれない、世帯の資産などが評価されないといった制約があり、生活水準を保つための資源(=金銭)の状況は示しているが、生活水準そのものを示しているとは言えないとの指摘もある494 。これを補完する指標として、物質的はく奪指標がある。これは、その国で典型的に保持・享受するものとされている財・サービスの経済的理由による欠如について集計的に把握する指標でありEUを中心に併用されている。
(2) 日本の子供の貧困に関する先行研究の整理
以上より、日本の子供の貧困に関する先行研究の収集・分析の結果を把握すべき分野に整理すると、以下のとおりとなる。
ア 「健康・生活習慣」
「食事の摂取状況」「う歯の状況」が挙げられる。
イ 「家庭・社会とのつながり」
「親の社会的孤立の状況」が挙げられる。
ウ 「保護者の就労状況」
「ひとり親の就業状況」が挙げられる。
エ 「物質的豊かさ・所得」
「ひとり親家庭の離婚後の収入」が挙げられる。
「家庭・社会とのつながり」については、日本の子供の貧困に関する先行研究の蓄積や、特に経済的に困窮している保護者やその子供は孤立しやすいとの有識者会議構成員、アドバイザーの指摘を踏まえると、「社会とのつながり」を把握すべきではないかと考えられる。また、「物質的豊かさ」については、「物質的はく奪指標」を活用しているか、物質的はく奪指標の構成項目に類似した項目を活用している例495 がほとんどである。物質的はく奪指標については、別途第6章にて取り上げる。
以上を踏まえ、健やかな成育環境に関して把握すべき状況は、「健康・生活習慣」「保護者の就労状況」「所得」としてはどうか。