第5章 現行指標に追加すべき新たな指標の例(3.1)

3. 健やかな成育環境の確保に関する指標

3.1. 健康・生活習慣の把握

3.1.1.「朝食欠食児童・生徒の割合」

(1) 指標候補の例とする理由

子供たちの健やかな成育環境を確保し、将来の貧困を防ぐためには、適切な栄養の摂取、発達段階に応じた生活習慣の確立などの健康・生活習慣の確保が重要である。したがって、適切な栄養摂取の状況や生活習慣を把握することのできる朝食欠食児童・生徒の割合が有用な指標と考えられる。

数々の先行研究において「朝食欠食」は、起床(就寝)時刻の遅さ等の生活リズムや生活習慣との関連が指摘されており497 ,498 ,499 ,500 ,501 ,502 ,503 ,504 、生活習慣全般を反映する指標として考えることができる505

また、適切な栄養の摂取を確保し、発達段階に応じた生活習慣を確立することは、健やかな成育環境を確保し、将来の貧困を防ぐ上で重要である。したがって、健康・生活習慣を把握する上で代表的と考えられる朝食摂取の状況についても、特定の子供に限定することなく全ての子供について把握することが必要ではないか506 ,507 ,508

我が国の先行研究においても、食事の摂取状況と世帯所得の関連性については、朝食の欠食に焦点を当てたものが多い。

以上のように、朝食の摂取状況の把握が適切な栄養摂取ならびに生活習慣の把握につながることに加え、朝食の摂取状況に関する我が国の統計調査が充実していることから、朝食欠食の状況を新指標とすることが適切ではないかと考えられる。

(2) 大綱における関連施策

現行の子供の貧困に関する施策と関連施策は以下のとおりである。

  • 子供の生活習慣づくり支援事業
  • 「健やか親子21」による母子保健活動の推進
  • 国民健康づくり運動の推進(「健康日本21(第二次)」)
(3) 活用が考えられる統計調査

朝食欠食の状況を把握するのに寄与するわが国の統計調査としては、以下の2つが候補として考えられる。

① 厚生労働省「国民健康・栄養調査」による「朝食欠食児童・生徒の割合」

本調査においては、調査日当日に朝食を欠食した者の割合を集計している。日常の朝食摂取状況を捉える集計ではないため、3か年移動平均値509 (たとえば、平成23年度の値は、平成22~24年度の値の平均値)を採用することにより、各年度の調査のばらつきを少なくすることが期待される。就学前の子供や義務教育を終えた子供の朝食欠食の状況を把握することができる。

図表5-4 朝食欠食率の移動平均値の推移

朝食欠食率の移動平均値の推移

出典:国民健康・栄養調査(厚生労働省)

※平成6年度から毎年度実施。最新の調査結果は平成26年度。


朝食欠食率の移動平均値の推移

注1) 各年の朝食欠食率と、各年のばらつきを少なくすることを目的とした移動平均値が公表されている。移動平均値は各年次結果の前後の年次結果を足し合わせ、計3年分を平均化したものである。例えば、平成23年度の値は、平成22,23,24年度の値平均値。
注2) 移動平均値は男女別のみ公表されているため、男女を合わせた値は各年の朝食欠食率を用いて算出した。
注3) 平成27年度調査の結果はまだ発表されておらず、平成26年度の移動平均値は算出できない。


② 文部科学省「全国学力・学習状況調査」による「朝食欠食児童・生徒の割合」

本調査においては、小学校6年生と中学校3年生を対象とした、「朝食を食べていますか」との設問がある。本設問の活用により、「あまりしていない」「まったくしていない」と回答した児童生徒の割合を把握することができる。

なお、本項目についての調査は2007(平成19)年度から開始され、その後毎年度実施されている。直近での実施は2015年度であり、結果は以下のように推移している。

図表5-5 朝食欠食率の推移

朝食欠食率の推移

朝食欠食率の推移

出典:全国学力・学習状況調査(文部科学省)

※平成19年度より毎年度実施。最新の調査は平成28年度。

注1) 「朝食を食べていますか」との設問に「あまりしていない」「全くしていない」と回答した児童(小学校6年生)と生徒(中学校3年生)の割合
注2) 平成23年度は、東日本大震災の影響を考慮し、調査の実施を見送った。


(4) 考慮すべき点

国民健康・栄養調査は、子供の集計客体数が極めて少なく、平成26年度調査を除き、世帯収入に関する調査項目が含まれていない。

全国学力・学習状況調査は、平成25年度の保護者に対する調査を除き、世帯収入や世帯属性に関する調査項目が含まれていない。なお、第3次食育推進基本計画(平成28年3月決定)においては、子供の朝食欠食をなくすことが目標として掲げられているが、現状を表す統計としては全国学力・学習状況調査が用いられている。

497春木敏・川畑徹朗 (2005)「小学生の朝食摂取行動の関連要因」日本公衆衛生雑誌,52(3),235-245.

498鈴木恵美子他(2007)「小学生の朝食欠食が生活習慣や健康状態に及ぼす影響」福岡女子大学人間環境学部紀要,38,43-49.

499小林奈穂・篠田邦彦(2007)「幼児,児童,生徒の朝食欠食を促す要因に関する系統的レビュー」 新潟医療福祉学会誌,7(1),2-9.

500阪本孝志(2008)「高校生の生活実態に関する研究(第5報) : 高校生の睡眠不足による学校生活への影響について: 睡眠不足と朝食欠食との関連について」大阪体育大学短期大学部研究紀要,9,67-80.

501岡村佳代子他(2009)「小学校高学年児童の生活リズムと朝食摂取との関連性」大阪教育大学紀要第II部門,57(2),37-47.

502日本スポーツ振興センター(2010)『平成22年度児童生徒の食事状況等調査報告書【食生活実態調査編】』http://www.jpnsport.go.jp/anzen/anzen_school/tyosakekka/tabid/1490/Default.aspx

503河村昌幸・石田章・横山繁樹(2013)「中高生の朝食欠食・偏食に関する考察」農生技管誌,20(3), 85-93.

504石田章・吾郷早也佳・横山繁樹(2015)「母子世帯における子どもの食行動と母親の影響 : とくに朝食欠食に着目して」食農資源経済論集,66(2),27-43.

505山本由理・三宅敦子・森惠子(2010)「児童・生徒の朝食摂取状況と生活習慣の関連について」中国学園紀要,9,1-8.

506前掲497

507山田英明・河田哲典・門田新一郎(2009)「中学生の朝食摂取と生活習慣に関する健康意識・知識・態度,健康状況との関連」栄養学雑誌,67(5),270-278.

508会退友美・市川三紗・赤松利恵(2011)「幼児の朝食共食頻度と生活習慣および家族の育児参加との関連」栄養学雑誌,69(6),304-311.

509移動平均値は、時系列データにおいてデータを平準化し、傾向を把握することに役立つ。