第6章 物質的はく奪指標(1.3)

1. 物質的はく奪指標の基本的概念等

1.3. 日本における活用状況

地方自治体においては、地域子供の未来応援交付金を活用した実態調査等により、地域における子供の貧困の実態を把握する方法として、欧州等のように標準的手順を踏んだ物質的はく奪指標を作成するには至らないものの、物質的はく奪指標を構成しうる項目を用いている例が見られる。

子供の貧困実態を把握する調査を実施した自治体においては、その6割が他の統計調査・実態調査の調査項目を参考に調査票を作成しており、特に足立区、横浜市、大阪府の調査が頻繁に参照されている。その他、学識経験者が調査項目を作成した自治体、内閣府が公表している実態調査の調査項目の具体的事例を基に調査項目を作成した自治体などがあった。(調査項目の詳細は参考資料「日本の自治体の物質的はく奪に関わる調査項目の一覧」を参照527

今後、独自に物質的はく奪指標を作成する予定があるとする自治体は見られなかったが、東京都528 、大阪府529 、大田区530 など、物質的はく奪状態を把握するためのものと考えられる調査項目を設定している例も見られる531 。東京都、大田区のように家計のひっ迫、子供の体験や所有物の欠如、所得の状況を合わせて、子供の貧困532 の状況として定義付けている自治体もある。

図表6-1 (参考)東京都「子どもの生活実態調査」(2016)における「生活困難」の定義と概念図533

(参考)東京都「子どもの生活実態調査」(2016)における「生活困難」の定義と概念図

(1)低所得: 等価世帯所得が厚生労働省「平成27年国民生活基礎調査」から算出される基準未満の世帯
(2)家計の逼迫: 経済的な理由で、公共料金や家賃を支払えなかった経験、食料・衣類を買えなかった経験などの7項目のうち、1つ以上が該当
(3)子供の体験や所有物の欠如: 子供の体験や所有物などに関する15項目のうち、経済的な理由で、欠如している項目が3つ以上該当

527これらの項目が物質的はく奪状態を示しているか否かは、諸外国の物質的はく奪指標を構成している項目との比較と学識経験者の意見を基に判断した。

528東京都 公立大学法人首都大学東京(2017)「子供の生活実態調査【小中高生等調査】<中間まとめ>」
http://www.metro.tokyo.jp/tosei/hodohappyo/press/2017/02/23/documents/21_02.pdf

529公立大学法人大阪府立大学(2017)「大阪府子どもの生活に関する実態調査」(大阪府委託)
http://www.pref.osaka.lg.jp/attach/28281/00000000/01jittaityosahoukokousyo.pdf

530大田区(2017)「大田区子どもの生活実態に関するアンケート調査報告書」
https://www.city.ota.tokyo.jp/kuseijoho/ota_plan/kobetsu_plan/fukushi/kodomo_seikatsu_plan/hinkon-chosa.files/houkokusho.pdf

531東京都、東京都大田区、大阪府のいずれかの調査票を参考に実態調査の調査票を作成したのは、千葉県柏市、石川県能美市、大阪府堺市、広島県、高知県、佐賀県武雄市、鹿児島県、沖縄県であった。(地域子供の未来応援交付金を活用して実態調査を行った自治体に対して行ったアンケート調査の回答による。また、これらの自治体の中には、東京都・東京都大田区・大阪府以外の自治体の調査項目や学識経験者や当事者の意見を併せて参考にした自治体も含まれる。)なお、大阪府大阪市、大阪府枚方市、大阪府八尾市等府内自治体は、大阪府と同じ調査票を使用して実態調査を共同実施した。(独自設問を設けた自治体有り。)

532子どもの貧困対策の推進に関する法律、大綱では貧困の定義が設けられていない。

533前掲528, 47頁