第6章 物質的はく奪指標(2.1)
2. 欧州における物質的はく奪指標作成手順
2.1. はく奪指標を構成する項目候補の選定方法
はく奪指標を作成するためには、まず、はく奪指標を構成する項目を選定しなければならない。項目の選定方法は複数あるが、一般的によく使われる手法として「合意基準アプローチ」がある534 。合意基準アプローチとは、「最低限必要なもの」を社会全体で選定する手法で、具体的には以下のとおりである。
- まず、ある社会で個人や世帯にとって必要不可欠と考えられる財(家、家財、食料など)・サービス(食料、光熱・水道、教養娯楽など)のリストを作成する。
- リストの作成には、生活で必要となることが考えられる様々な財・サービスについて、研究者がそれまでの研究等に基づき絞り込む方法535 や、収入、世帯属性、年齢・性別などの属性ごとに無作為に抽出された一般市民に、あらかじめ多めに選んだ項目リストのひとつひとつについて、それが最低限の生活に必要かどうかをインタビューし、絞り込む方法がある536 ,537 。
- こうして作成された項目リストに基づき、予備調査(標本調査)を行う。調査客体は、リストに掲げられた財・サービスの項目について、当該国(社会)に属する全ての個人・世帯に必要と思うかどうかを回答する。調査客体の50%以上が「必要である」と答えた項目をはく奪指標を構成する項目の候補とするのが一般的である538 ,539 ,540 ,541 。その上で、統計的な精査を行う。
- なお予備調査では、異なるグループ間(性別、年代、所得、居住エリア等)の回答傾向に違いがあるかどうか検定し、大きな差がないと統計的に判断された項目のみをはく奪指標を構成する項目の候補とするため、本アプローチは社会科学的に頑強な手法であるといえる542 。
534合意基準アプローチのほか、因子分析を用いる統計的アプローチがあり、アイルランドやニュージーランドで採用されている。
535European Comission(2009).“What can be learned from deprivation indicators in Europe”, Eurostat Methodologies and Working Papers, 2009 edition. Luxembourg, Office for Official Publications of the European Communities.
536阿部彩(2008)『子どもの貧困―日本の不公平を考える―』岩波新書
537Gordon, D., Adelman, A., Ashworth, K., Bradshaw, J., Levitas, R., Middleton, S., Pantazis, C., Patsios, D., Payne, S., Townsend, P. and Williams, J. (2000). Poverty and social exclusion in Britain, York: Joseph Rowntree Foundation.
538Mckay, S.(2011).“Review of the Child Material Deprivation Items in the Family Resources Survey”, Department for Work and Pensions Research Report No.746, UK Department for Work and Pensions.
539前掲535
540同上
541学識経験者からは、このように予備調査で挙げられた候補項目一覧の妥当性を、貧困の当事者(低所得世帯・生活保護世帯等の世帯員や困窮状態にある者によるセルフ・サポート団体に属する者等)に確認をしてもうことで、作成する物質的はく奪指標の貧困を捉える指標としての適性が増すであろうという意見が挙げらた。
542前掲536