第6章 物質的はく奪指標(2.2)

2. 欧州における物質的はく奪指標作成手順

2.2. はく奪指標を構成する項目の統計的な精査の実施

予備調査により選定されたはく奪指標を構成する項目候補が、低所得など貧困の状況を表すとされる代表的な指標と関連があるかなどについて、統計的な精査を行う必要がある。項目の候補の選定から確定まで、例えば、EUにおいては以下の分析枠組みを用いている543


1)項目としての必要性の判断

合意基準アプローチを用いて予備調査を行い、ある社会において、50%以上の住民が当該社会の全ての世帯が保持・享受すべきであると判断する財・サービスを選定し、リスト化する(2.1参照)。


2)仮調査の実施(非経済的理由による非保持・非享受を除外)

下記の統計的精査のため、1.の予備調査で必要性が確認された各項目について、当該項目を保持している、経済的理由で保持していない、その他の理由で保持していないかを選択する社会調査(調査客体は標本抽出)を行う。その際、ある項目を保持していない場合において、その理由が本人の選好によるものであるのか、経済的理由によるものであるのかを判別し、前者を除外することが重要とされている。


3)項目の妥当性(貧困との関連性)を二項ロジスティック回帰分析により判定

選択される項目は、その欠如が貧困を表す指標として妥当でなければならない。このため、貧困と高い相関を持つとされる変数と関連があるかどうかを回帰分析によって判断する(EUにおいては、低所得、主観的貧困感及び主観的健康状態を説明変数、物質的はく奪指標項目候補の所有有無を被説明変数とする二項ロジスティック回帰分析を行っている)。回帰分析の結果、説明変数と被説明変数の間に統計的に有意な相関が見られるかどうかを確認し、物質的はく奪項目に含めるか判断する。

EUにおいては、ある候補項目と、3つのうち2つの説明変数との間に統計的に有意な相関がなく、同様の結果が3か国以上で見られた場合、当該項目には妥当性がないと判断されている。


4)項目の回答に一貫性(等質性)があるかを調べることにより信頼性を測定

このようにして選定された項目群を合成して一つのはく奪指標を作成するためには、それぞれの項目への回答傾向にある程度の一貫性が必要である。

そこで、各項目の回答の分散を調査客体の回答の合計の分散で除すことにより算出される信頼係数(クロンバックのアルファ係数)を内部一貫性の判定に用いる。物質的はく奪指標を構成する候補項目のうち、ある項目を除いたときに算出されるアルファ係数が、全項目を用いて算出されたアルファ係数より大きくなった場合は、当該の除かれた項目は統計的に適切ではないと判断される(古典的テスト理論)。

EUにおいては、3か国以上で同様の結果が出た場合、当該項目は候補から除外される。


5)項目を足し上げることができるかの検討

最後に、物質的はく奪指標を構成する項目を足し上げることができるか、すなわち、経済的理由で所有していない項目の多いほうが、より「はく奪の状況にある」と言えるかどうか544 の検討を行う。

そこで、物質的はく奪指標構成項目(候補)のうち任意の2つの項目について、両方とも経済的理由で所有していない人のほうが、1つだけ所有していない人や両方とも所有している人よりも等価可処分所得が少ないと仮定する。同様に、経済的理由で1つの項目を所有していない人のほうが、両方とも所有している人よりも等価可処分所得が低いと仮定し、全ての候補項目の組み合わせについて、これらの仮定が正しいことを検証する。

これを検証するため、1つの項目について、所持している人のほうが所持していない人に比べて等価可処分所得が高いことを、一要因分散分析によって確認する。さらに、別の項目を組み合わせ、二要因分散分析を行い、それぞれに交互作用がないことを確認する。全ての項目について交互作用がなければ、足し上げることができる。交互作用がある場合は、それぞれが独立していない(補完関係にある)ため、足し上げに問題が生ずることとなり、交互作用がある項目は除外すべきであるということになる。

543前掲540

544加算可能性(additivity)と呼ばれる。