第6章 物質的はく奪指標(2.3)
2. 欧州における物質的はく奪指標作成手順
2.3. ウェイト付け(重み付け)を行う場合の考え方
このようにして選定された物質的はく奪指標を用いて調査を実施する際には、物質的はく奪指標を構成する項目を全て同等に扱う(項目のウェイト付けをしない)方法とウェイトを付ける方法がある。
図表6-2 ウェイト付け(重み付け)のイメージ
EUにおいては、項目のウェイト付けを行っておらず、ある項目Aを所有していないことと、別の項目Bを所有していないことは、同等に扱われる。
一方、例えばイギリスにおいては、普及率が高い財・サービスを保持・享受できない世帯は、普及率が低い財・サービスを保持・享受できない世帯と比べ、より重度のはく奪状態にあるという考えに基づき545 、項目ごとに異なるウェイト付け(重み付け)が行われる。具体的には、ある財・サービスが経済的理由で保持・享受できない場合には1点が与えられ、それが保持・享受されていたり、保持・享受できない理由が当該財・サービスを必要としないなど経済的理由でない場合には0点が与えられる。それぞれの財・サービスの点数には普及率から算定したウェイトを乗じ(より多くの家庭が所有している項目ほど、ウェイトが高く設定される)、これを加算して最大合計点数で割り、100を乗じてスコアを算出する546 。スコアが25点未満の世帯の子供は物質的はく奪状態にあると定義されている。
ウェイト付けを行う場合と行わない場合のどちらが適切かは、物質的はく奪指標を構成する項目を「最低限度の必需品」のみとするか、より拡大するかによって異なる。前者の場合であれば、全ての項目が等しく必需品であるため、ウェイト付けを行わない方が適切とされる547 。
なお、ウェイト付けを行う利点は、「多くの人が所有しているものを所有できない方が、より著しい物質的はく奪の状態にある」という考え方がもっともらしいと考えられる点である。他方、ほとんど全ての人が保持・享受している財・サービスについては、所得による保持・享受の状況の差が生じにくいという点がデメリットとして指摘されている548 。
545Fusco, A., Guio, A.-C. and E. Marlier.(2013).“Building a Material Deprivation Index in a Multinational Context: Lessons from the EU Experience,” in Berenger, V. and Bresson, F. (ed.), Poverty and Social Exclusion around the Mediterranean Sea, New York, Springer, 43-71.
546UK Department for Work and Pension (2016). Households Below Average Income (HBAI) Quality and Methodology Information Report. London, UK Department for Work and Pension.
547前掲535
548McKay, S. (2010).“Using the new Family Resources Survey question block to measure material deprivation among pensioners”, DWP Working Paper no.89, London, UK Department for Work and Pension.