第6章 物質的はく奪指標(2.4)
2. 欧州における物質的はく奪指標作成手順
2.4. はく奪状態の基準の設定方法
はく奪状態の基準の設定方法は、主に3つの方法が挙げられる。
1. はく奪指標を構成する項目はそもそも社会が認知する「最低限必要なもの」との前提に立ち、1つでも経済的理由で保持できない場合ははく奪状態にあるとする方法549 ,550
2. 保持できない項目数に応じた調査客体の割合の変化の状況や、ウェイト付けしたはく奪スコアと貧困を表す代表的な指標(相対的貧困率など)との比較により、総合的に判断する方法551
前者については、例えば、保持できない項目数に対応する調査客体の割合をプロットし、保持できない項目を1つ増やしたときに、調査客体の割合が最も大きく変化した点で、一般世帯とかい離が生じたと考え、大きく変化した後の項目数をはく奪の基準とする。後者については、あるスコアをはく奪の基準とした場合に、はく奪の状態にあることとなる調査客体の割合について、実際の貧困線と比較することなどにより、総合的に判断する。
3. 回帰分析(一般線形モデル)など統計的処理を行う方法552
例えば、被説明変数を所得、説明変数を適当な仮の基準に従ってはく奪状態にある人とはく奪状態にない人の割合、制御変数を世帯の大人の数として、回帰分析を行う。この結果、様々な仮の基準(独立変数)のうち、統計的に最も確からしいものについて、正しいはく奪基準とする方法である。
他にもROC(受信者動作特性)曲線(低所得(所得の第1五分位など)にあることを真の貧困状態として、いくつかの仮の基準によるはく奪の状況とを比較することにより、より確からしい基準を判定する方法)などがある。
ただし、いずれにしても何らかの形で収入を活用することから、収入に依存せずに貧困を表す指標を作るという本来の趣旨と必ずしも合致していないのではという指摘があり得る。