第7章 まとめと今後の課題(2)

2. 物質的はく奪指標について

本研究事業では欧州で広く用いられている物質的はく奪指標について、その基本的概念や諸外国における活用状況を整理し、物質的はく奪指標の作成手順を確認し、日本における今後の進め方について検討を行った。

物質的はく奪指標を構成する、典型的に保持・享受するものとされている財・サービスの項目については、EUにおいて知見の蓄積があり6.1.2.においてEUの物質的はく奪指標の構成項目を整理したところであるが、社会的、文化的背景が大きく異なり、EUで用いられる指標項目をそのまま日本に適用することは難しい。一例として、欧州では教育に係る状況が日本と異なることから教育関連の項目ははく奪指標の構成項目として必ずしも含まれないなどの課題がある。

物質的はく奪指標の構成項目として参考となる国内統計について収集・分析したが、定期的に実施されている統計調査についても、財・サービスの不保持・非享受の理由が経済的理由によるものなのか、本人の選好によるものなのかが判別できない。他方、その点を明確にした調査は存在するものの、全国を対象として定期的に実施している調査ではなかった。

このため、仮に日本で物質的はく奪指標を作成するためには、EUにおける物質的はく奪指標の作成手順を踏まえることが必要となると考えられるが、それには相当の作業期間、作業量及び費用を要することが見込まれる。

また、物質的はく奪指標は財・サービスの保持状況を示す集計的指標であり、個別の指標項目については、関連施策との関係が弱く、貧困の連鎖の要因の解消との関係が薄い項目も見られ、全体として施策の実施状況や効果の検証・評価には不適な面もあると考えられる(例えば、イギリスでは物質的はく奪指標を相対的貧困率と合わせた形で公表するが、その際に物質的はく奪指標の構成項目について、個別の数値を公表しているわけではない)。

なお、地方自治体においては、今年度、地域子供の未来応援交付金を活用した実態調査等により、地域における子供の貧困の実態を把握する方法として、欧州等において標準的な手法を用いた物質的はく奪指標を作成するには至らないものの、物質的はく奪指標を構成しうる項目を調査した例が見られた。今後の検討に当たっては、これらの結果を踏まえることが適当ではないかと考えられる。