参考資料(3)

3.Atkinsonほか(2002)「社会的指標:EUと社会的包摂(Social Indicators: The EU and Social Inclusion)」による指標の選定基準(仮訳)

ラーケン指標の検討を行った指標作業部会に在籍していたAtkinsonら研究者達によって発表された「社会的指標:EUと社会的包摂(Social Indicators: The EU and Social Inclusion)」562 には、指標の詳細な選定基準が提言されている。

現在EUで用いられている指標の選定基準はこのAtkinsonsらの提言をもとに構築されており、詳細な議論の参考として現在でも参考文献として記載されている。今後の議論の参考になると考えられることから、提言を翻訳したもの563 を掲載する。

指標作成にあたっての原則について

これまで強調してきたように、我々の目的はEUの発展における特定の段階の特定の目的に沿った指標を作成することであり、この過程においては加盟国がそれぞれ社会的包摂を達成するための政策に対して責任を持つとされている。社会的包摂政策の目的は加盟国が同意して設定するが、この目的をどのように達成するかに関しては、それぞれの加盟国がその方法を選択する。貧困率削減のために、ある加盟国は労働市場政策によって、別のある加盟国は社会移転によって、それぞれ目的を達成するかもしれない。職業訓練について言えば、ある国では徒弟制度のような形で行われ、別の国では学校で行われるかもしれない。このように加盟国が用いる政策がそれぞれ異なるということは、つまり、社会的指標はインプットではなくアウトプットに焦点を当てたものであるべきであるということだ。よって、我々の目的は社会的アウトカムを測ることであり、アウトカムが達成されたその手段を測ることではない。

ここでアウトプットが重要であるということを強調するのは、インプットに関するデータの方が手に入れやすいという現状を踏まえてのことである。例えば、我々が30年以上前にアメリカで発表した報告書「ソーシャル・リポートに向かって」564 に示したように、米国保健教育福祉省の教育に関する統計報告書は100頁以上にも及ぶものであったのにも関わらず、「事実上、子供たちの学習習熟度に関する情報は見られなかった」565 。しかしながら、「アウトプット」の定義については様々な意見があるため、厳格な定義は設けないほうが良い。例えば、教育支出額は教育に使用される資源、つまりインプットであるため、学習習熟度のほうが適切である一方で、教師の配置状況はインプットでありながら教育機会を示す指標としても捉えられる。先を見越し、こういった機会から個人が将来的に得られる利益についても考慮に入れることも可能である。また、こういったサービスの存在により、将来に対する自信・安心感が向上し得るため、この価値を付加価値的なアウトプットとして捉えることも可能である。教育機関や医療施設がなければ、排除感が高まり得る。例えば、その人が就学年齢ではない大人であっても、自分の住む町に中等教育機関がなければ、社会から切り離されているように感じるであろう。

■ 個別の指標に適用される原則

1 問題の本質を特定し、明確かつ一般的に受け入れられた標準的な解釈を持つもの

政策目標を定量的に測定することは、必然的にその問題のある側面を除外し、特定の側面に焦点を当てなければならないことを意味するが、これは問題の核心を簡潔に示し、誤解を招かない方法で行われなければならない。つまり、指標はあらゆる利用者にとって意味のあるものとして認識され、一般の人々に受け入れられるものでなければならないが、これは、指標作成の基本原則が容易に理解できるものでなければならないことを意味する。このため、政策の評価に用いられる指標の構築に際しては、社会的排除のリスクにさらされている人々や関連組織に意見を提示してもらう参加型アプローチを採ることが重要だと考える。指標は直感的に妥当性を持つものでなければならず、ヨーロッパの市民が「納得できる」結果を示すものであるべきである。例えば、EUの人口の半分以上が貧困層になっているとする貧困指標は、大げさに誇張しているとみなされるため適切ではない。さらに、この本の目的である、ヨーロッパにおける社会的包摂に関連して言うと、指標は明確な標準的解釈を持つものが選択されるべきである。つまり、指標の特定の方向への動きが改善を表すということについて、一般的な合意があるべきである。ただし、これは必ずしも全ての指標に当てはまるとは限らない。特定の動きが改善を表すものとは限らない指標の例として、EUは労働生産性の例を挙げている。もう一つの例は、出生率であろう。EU諸国は、出生率が改善すべきか否かについて中立的かもしれない。しかし、社会包摂指標に関して言うと、私たちは、社会包摂という特定の目的のための指標を提案するのであり、国家が目標を設定し、成果を評価できるような指標でなければならない。

2 頑強で統計学的に検証できるもの

指標は、一般的な支持を集める方法で測定できなければならない。採用されるデータは統計的に信頼性があるとみなされ、恣意的な調整をしていないものあるべきだ。データを標本調査から得る場合、ベストプラクティスと最高水準の調査手法論に準拠したものである必要がある。採用される手法は、あいまいな質問、誤解を招く定義、無回答から生じる偏り、面接者又はプログラムを行う者の誤りから生じる誤差を最小限に抑えるものであるべきである。指標は、他のエビデンスを参考にして可能な限り検証されるべきであり、欧州レベルで作成されるものについては、個々の加盟国のレベルで入手可能な情報と照合する必要がある。どのような指標でも必然的に誤差は含まれるものだが、体系的に偏ったものであってはいけない。また、予測できない又は説明のつかない変動をするものであってはならない。例えば、気象条件に敏感な指標や季節によって変動する指標は避けるべきである。加えて、景気循環の影響を受けやすいものなど社会政策と無関係の理由で変化する可能性のある指標には注意をする必要がある。これは、指標自体の値と適用されている尺度の両方について言えることである。これには、例えば、等価可処分所得の中央値の一定の割合として設定された貧困線が該当する。そして、指標の分析の際には社会的不利益を被っている人々(例えば、収入分布の最下層の人々、失業者、福祉施設に住んでいる人、ホームレス)が置かれている状況は統計的に測定するのが最も困難であることに留意する必要がある。

3 政策介入の効果をよく捉えるもので、かつ操作されないもの

指標は、政策介入の成果を反映するものでなければならない。貧困層が置かれている状況が改善しているにも関わらず、この変化を捉えられない貧困評価基準は、誤解を招き、政治的にも受け入れられない。さらに、指標は施策と関連づけられるものでなければならない。同時に、指標は容易に操作できないようにすべきである。加盟国にとって、人為的な政策変更によって向上できる指標であってはならない。例えば「送金を受けている失業者の割合」という指標は、皆に毎月1ユーロを支払うことによって操作することができる。

4 EU加盟国間で十分に比較可能な指標であり、国連やOECDが国際的に用いている指標ともできる限り比較可能である

完全な比較可能性は、通常は達成できない理想である。なぜなら、データが加盟国間で調和している場合であっても、制度的及び社会的構造が異なるため、データの解釈にも違いがあり得ることを意味するからだ。重要なのは、比較可能性が許容可能な基準に達することであり、この基準を達成するにあたって2つの点に関して特に考慮が必要と思われる。一つ目は統計調査方法の発展である。可能であれば、比較可能性の度合いを向上させるための統計整備方法を開発するよう加盟国を奨励するべきである。また、社会指標の開発を前提としてEUレベルの統計整備も行っていくべきである。そして、OECDや他の国際機関との協力も、比較可能性の範囲を広げる上で重要である。二つ目は、指標の選択である。指標の中には、他の指標よりも加盟国間の社会構造の違いに影響を受けやすいものもある。例えば、貧困に関連する指標は、農村人口の規模の違いと、それによって発生する国内消費のための生産量が異なるため、これを考慮し国家間で衡平な統計であるべきである。別の例として、所有権を持つ住宅の家賃(帰属家賃)も挙げられる。帰属家賃を計算から除外した指標は、指標の値が国家間の住宅所有の程度に左右されてしまう。これらの構造的差異に過度に影響を受けるなものや、特定の加盟国の解釈に特定の問題を引き起こすような指標は避けるべきである。

5 時宜にかなっており、適時修正されるもの

マクロ経済分野では、政治家は最新の情報を受け取ることに非常に慣れてきているが、社会的包摂の分野では、最新のデータを入手することは困難だ。2001年6月の社会的包摂に関するポルトガル国別行動計画では、貧困に関する最新のデータが1995年現在のものであり、労働市場と社会政策の重要な変化が起こった以前のデータであることが指摘されている。また、貧困に関する研究が発展したり、政策課題が変更になったりした場合には、データそのものの改訂だけでなく、その背景にある概念を改定することも、同様に重要である。このような改訂前後で指標の連続性を持たせることが理想的である。

6 測定が、加盟国、企業、EU市民にあまりにも大きな負担をかけないもの

今後社会的指標を構築するために必要な情報の提供は加盟国の責任となるであろうが、加盟国の統計局は既に大きな負担を負っている。社会的指標の設計においては、可能な限りEU統計局に既に提供されている情報又は大部分の加盟国が既に自国での使用のために収集している情報を活用すべきである。新しい情報が必要な場合には、可能な限り、既存の調査に質問を追加するなど、既存の手段を活用して取得するべきである。

■ 指標体系の構成に適用される原則

1 主要な分類が確実にカバーされるようにするとともに、加盟国ごとの重要性の違いを考慮し、バランスをとって構成する

網羅的な指標体系というものはあり得ず、指標の範囲が広すぎると指標の透明性が失われるという問題が発生する。指標が多すぎ、加盟国が好きな指標を選んで使うようになってしまえば、その指標体系の信頼は失われてしまう。従って指標は選定されなければならない。この選定は、全ての主要な分野が網羅され、異なる分野における加盟国の政策的優先順位が反映されるよう考慮すべきである。労働市場の不安定さを特に懸念している国もあれば、子供の貧困の削減の優先順位が高い国もあるであろう。加盟国は、EU指標を独自の指標で補完するよう奨励されるが、EUの指標体系は、加盟国のこういった関心をバランスよく表象し、一般的な支持を集められるようにするべきである。

2 指標が相互に一貫性を持っており、一つ一つの指標が同等の関係にある

相互の一貫性は明確な必要条件である。全ての指標の重要性が完全に同等でなくてもよいが、大きく異なると、指標体系の解釈が難しくなってしまう。例えば、貧困率のような国レベルで重要な指標と専門的な分野に特化し指標やある地域に特化した指標が混在していると、指標体系が示す貧困の動向がどういったものであるか解釈が難しくなってしまう。

3 EU市民にとってできるだけ透明性が高く、かつアクセス可能である

現時点では、社会指標の形式と目的について一般の理解を得られていない。従って、欧州委員会が述べたように、指標は「読みやすく理解しやすい」ことが重要である。これは、個々の指標にも指標体系全体にも当てはまることである。また、統合指標の問題も考慮しなければならない。指標の傾向について記事を書くジャーナリストは、プラスとマイナスの指標の数を数える傾向があるが、こういった評価のしやすい統合指標を作成するとなると、指標体系の範囲及び体系に含まれる指標の数の範囲に影響する可能性がある。指標の数が多すぎると、透明性と信頼性が失われることになる。EUレベルでは、指標の数と指標を段階別566 に分けるべきかについて議論が行われている。EUにおける社会政策の進展に関する新聞・テレビ・ラジオの報道は限られていて一般の理解は低いことを認識し、指標の作成方法や指標の動向に関する情報の普及に取り組んでいく必要がある。この普及においては、非政府組織や研究者たちが中心的な役割を果たしていくだろう。

562前掲187, pp.21-25.

563日本語訳の書籍は発表されていない。

564US Department of Health, Education, and Welfare (1969). Toward a Social Report, Washington D.C, US Department of Health, Education, and Welfare.(日本語訳概要:合衆国保健教育福祉省(著)菊池貞夫(訳) (1970)「ソーシャル・リポートへ向って : "toward a social report" ― アメリカにおけるソーシャル・インディケーターズの試み」 季刊社会保障研究, 6(2), 44-55.)

565同報告書66頁

566 議論された段階は以下の3つの段階を指す。
Level 1: 物質的はく奪状態、教育の欠如、就業者の欠如、不健康状態、悪い住居環境を含む主な分類をカバーする約10個の一次指標。
Level 2: 一次指標を補完してより詳細な情報を示したり、一次指標が網羅していない分類をカバーする指標である。この指標の数に制限は設けないが、指標の数が増えると、加盟国間が同意に達すべき事項と統計調査等に費やされる資源が増加するため、不必要に指標の数を増やすことは避けるべきである。
Level 3: 加盟国が特定の政策分野の詳細を示したり、Level 1及びLevel 2の指標が示す傾向を理解するために使用し、ナショナル・アクションプラン(加盟国がそれぞれ自国においての社会的包摂に関する現状と対応策をまとめEUに提出する年次報告書)に含める指標である。これらのLevel 3の指標を加盟国が設定し使用した上で、適当とみなされた場合には将来の指標改定時にEUレベルで採択される可能性もある。