第1章 高齢社会対策の方向

2 ゆとりある経済状況

 前期高齢者の個人所得をみると、男性で354.6万円、女性で117.5万円であり、女性の所得は男性の3分の1程度である。男性の場合、前期高齢者の所得は後期高齢者(240.0万円)の約1.5倍となっている。また、所得の種類別にみると、男性では稼働所得が多く、142.5万円(所得に占める割合40.2%)となっている。公的年金・恩給を中心とした社会保障給付は男性で180.9万円(同51.0%)、女性で80.0万円(同68.1%)となっている(前掲図1−1−9)。
 所得分布については、男女とも高齢者全般(65歳以上)と基本的な傾向は同じであるが、稼働能力の高さを反映してか、高所得層の分布が若干多くなっている(前掲図1−1−10)。また、貯蓄額の分布をみると、高齢者全般と基本的な傾向は変わらず、現役世代と比べて高貯蓄の世帯に属する者が多くなっている(前掲図1−1−11)。このように、前期高齢者の経済状況は多様であるとはいうものの、他の年齢の者に比べて、より恵まれた状況にある者も多い。
 また、持ち家率は男性86.7%、女性85.1%と高い(前掲図1−1−12)。土地家屋などの資産の老後における活用の仕方については、「できるだけ子孫のために残す」と「自分の老後を豊かにするために活用する方がよい」という考え方のうち、前者の意見に近いという者が男女ともに多い(男性64.9%、女性66.3%)が、一方で後者の意見に近い者も、男性で32.4%、女性で31.5%と3分の1近くなっており、その割合は後期高齢者(男性19.5%、女性25.4%)よりも高い(図1−2−5)。

図1−2−5 資産の使い方  <CSVデータ>

年齢階級別、男女別にみた高齢者の資産の使い方に関する意識を示したグラフ

 資産の活用、特に住宅の売却のような、居住環境の変化や資産内容の大規模な変更を伴う選択を主体的に行うことは、より高齢になり心身の能力が低下するにつれ困難になることが予想される。そのため、活動的な時期に、将来を見越して準備することが必要と考えられる。

(新大綱に基づく施策の方向)
 ゆとりある高齢期の生活のため、高齢者が貯蓄等の金融資産を活用できるよう、金融商品等の開発、金融サービス等の充実を促進するとともに、投資教育などの機会を充実する。また、土地家屋などの資産を活用できるよう、売却のための中古住宅市場などの環境整備を推進する。また、持ち家に住み続けたままこれを担保に継続して生活資金を借り死亡時に売却等により一括返済できるような仕組み(リバース・モーゲージ)の整備を進めることとし、社会福祉協議会において、低所得の高齢者世帯を対象とした貸付制度を設ける。
 また、高齢者の判断能力が低下しても資産を活用して尊厳を持った暮らしを続けられるよう、あらかじめ自分で準備するための相談・啓発活動などを通じ、任意成年後見制度の普及を図る。
 一方、高齢者の中には現役の者に比べて経済的に恵まれている者も見受けられることにかんがみ、税制等において高齢者を年齢だけで一律に優遇している措置について、その必要性等の見直しを行うこととし、例えば、従来高齢者であれば一律に適用を受けることができた少額貯蓄非課税制度を、障害者等を対象とした制度に改める。また、社会保障制度においても、所得にかかわらず一律に高齢者の負担を現役の者に比べて低くしているものについて見直しを行い、例えば、一定以上の所得を有する高齢者については医療費の患者負担を定率2割とする。これらの見直し等を通じて、社会保障制度等における世代間の関係がより公平なものとなるように給付と負担の均衡を図り、世代間の連帯意識を強化する。

成年後見制度を活用した老い支度
 Iさんは、母親の介護のため妻に大変苦労させた経験から、同じような苦労を息子夫婦にさせたくない、老後を子供に頼らず、夫婦が最後まで助け合って生きていきたいと考えている。しかし、痴呆が出てきた場合などに、財産管理や介護の手配などをどうするのかという問題がある。
 平成12年度から施行されている成年後見制度(表3-1-13参照)には、判断能力が不十分な状態にある者に対し家庭裁判所が成年後見人等を選任する法定後見制度(補助・保佐・後見)のほか、判断能力が不十分な状態になる前にあらかじめ本人が自ら選んだ者と契約を締結し、療養看護や財産管理などに関し必要な事務を代理してもらう任意後見制度がある。
 この任意後見制度を知ったIさんは、ある弁護士のところに相談に行き、自分の家族や財産の状況、どのような老後を送りたいかなどの点について何度も打合せを重ねた。半年後、Iさんは、十分信頼できると考えたこの弁護士と任意後見契約を結んだ。
 任意後見契約は、痴呆の発生など本人の判断能力が低下してきたときに、家庭裁判所が申立てを受け、任意後見監督人を選任することによって、実際にスタートする。Iさんは今のところ判断能力には問題ないが、いざというときの備えがあるという安心感は、Iさんの今後の人生をさらに充実したものにするであろう。

任意後見人に代理してもらえる事務の例
(任意後見契約において、代理権を付与する事務の範囲を具体的に指定する。)
○不動産などの財産の管理・保存
○金融機関、証券会社、保険会社との取引
○定期的な収入の受領、定期的な支出の支払
○生活に必要な物品の購入
○医療契約、介護契約その他の福祉サービス利用契約に関する事項(病院への入院、福祉関係施設への入所、要介護認定の申請・異議申立て等)

 

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