国連経済社会理事会 E/ESCAP/APDDP/2 2002年9月12日 原文:英語 (内閣府仮訳) 国連アジア太平洋経済社会委員会(ESCAP) 「アジア太平洋障害者の十年(1993-2002)」最終年ハイレベル政府間会合 2002年10月25-28 日 滋賀県大津市 「アジア太平洋障害者の十年(1993〜2002)」行動課題実施に関する達成状況レビュー (暫定議題4) 「アジア太平洋障害者の十年(1993〜2002)」行動課題実施を支援するための地域レベルの行動のレビュー 要約 「アジア太平洋障害者の十年(1993〜2002)」は、アジア太平洋地域の各国政府による域内障害者施策推進運動であり、「障害者に関する世界行動計画」の目標達成に影響する様々な問題に取り組むため、地域協力を強化することを目的としている。「十年」は、2002年に終了する。 本文書は、「アジア太平洋障害者の十年」の目標である、障害者の完全参加と平等を実現するための取組に関し、アジア太平洋地域内の政府を支援する地域レベルでの行動について報告するものである。特に、「アジア太平洋障害者の十年(1993〜2002)」行動課題の実施に向けたESCAPによる地域レベルの支援行動や、その他の国連団体、専門機関、政府間機関による取組について報告する。 目次(ページ略) 序 一.各地域における「十年」支援行動の概要 二.地域協力のメカニズム 三.「十年」支援に向けたESCAPの事業 A.概要 B.行動課題の政策領域におけるESCAPの活動 C.その他のESCAP支援事業 D.「十年」基金 四.その他の国連機関による活動 A.国連食糧農業機関(FAO) B.国際労働機関(ILO) C.国際電気通信連合(ITU) D.国連開発計画(UNDP) E.国連教育科学文化機関(UNESCO:ユネスコ) F.国連難民高等弁務官(UNHCR) G.国連児童基金(UNICEF:ユニセフ) H.世界保健機関(WHO) I.アジア開発銀行(ADB) 五.結論 序 1.1991年8月、バンコクにてESCAPが主催した「アジア太平洋地域における国連障害者の十年の成果を評価する専門家会議」では、ESCAP地域で得られたこれまでの成果をさらに確固たるものとするため、次期「障害者の十年」が必要であるとの認識が得られた。1991年10月、マニラにて開催された第4回社会福祉と社会発展に関するアジア太平洋閣僚会議においても、この必要性が支持された。しかし、その他の地域の政府及び非政府組織(NGO)からは、国際レベルで「十年」を延長するというESCAP地域の各政府の意見に同調する動きはなかった。 2.そのため、世界人口の3分の2を占めるESCAP地域の各国政府は、この地域独自の十年計画として「アジア太平洋障害者の十年(1993〜2002)」を宣言した。この宣言は、1992年北京で開催された第48回ESCAP総会において採択された1992年4月23日決議48/3によるものである。この決議は、「障害者に関する世界行動計画」の達成に影響を与える様々な問題、特に障害者の完全参加と平等に関する問題の解決に向けた地域協力を強化することを意図したものであった。 3.「アジア太平洋障害者の十年」は2002年に終了する。本文書は、この「十年」の目標の達成に向けた取組に関し、アジア太平洋地域内の政府を支援する地域レベルでの行動について報告するものである。特に、ESCAPによる地域レベルの支援行動や、その他の国連団体、専門機関、政府間機関による取組について報告する。 一.各地域における「十年」支援行動の概要 4.決議48/3に従い、ESCAPは1992年12月北京において「アジア太平洋障害者の十年(1993〜2002)」開始会議を召集した。この会議において、「アジア太平洋地域の障害者の完全参加と平等に関する宣言」及び「アジア太平洋障害者の十年(1993〜2002)」行動課題が採択された。 5.決議48/3により、事務局長は「十年」の終了までの期間、ESCAPに対し、2年ごとに決議の実施に関する進ちょく状況を報告し、ESCAPへの推奨事項を提出することを求められた。この決定に従い、ESCAPは行動課題の実施に関する進ちょく状況の検証を目的とした地域会議を招集した。1995年6月、バンコクで開催された地域会議は、「十年」開始以来の進ちょく状況を検証し、行動課題実施に関する73の目標と78の推奨事項が採択された。これらには、行動課題実施におけるジェンダーの視点に関する項目も含まれている。 6.1997年9月、韓国政府をホストとして「アジア太平洋障害者の十年」中間年高級事務レベル会合がソウルで開催され、「十年」の前半5年間の進ちょく状況を検証した。この会議では、「アジア太平洋障害者の十年の後半へのソウル提言」が採択され、行動課題の実施に向けた取組の決意を再度表明した。この一連の地域会議の第3回は1999年11月、バンコクで開催された「『アジア太平洋障害者の十年』の目標の達成とこの地域の障害のある人々の機会均等化に関する地域フォーラム」である。この会議では、1995年の採択後初めて行動課題の目標と実施に関する検証が行われ、行動課題の実施に向けた目標を強化するとともに、項目を73項目から107項目に増やした。 7.「十年」を通じて、行動課題及び目標実施に関する展開やモニタリングに向けた地域内の行動の調整において、地域協力機構が重要な役割を果たした。以下の章では、この機構の役割と成果を検証する。 二.地域協力のメカニズム 8.「アジア太平洋障害者の十年」を通じ、行動課題の実施に対する広範な支援を提供するためのパートナーシップの開発に向けた行動が推進された。また同時に、既存の協力体制も継続・強化された。ESCAPが事務局となっているRICAP(アジア太平洋地区機関間委員会)の障害者問題小委員会(旧障害に関するアジア太平洋組織間調査委員会)は、1992年以後、機能が拡張・強化されている。この小委員会には、11の国連団体及び国連機関が参加している。また障害関連分野の様々なサービスを提供するNGOや自助NGOもこの小委員会に参加し、その活動に積極的に参加している。さらに、地域協力への貢献に関心の高い政府の代表も事務局に指示を仰ぐだけではなく、自主的に委員会に出席した。小委員会メンバーの中で、行動課題の特定分野の実施に向けた地域的支援を行うためのチームが組織された。委任を受けた、能力と資源を備えたメンバーがチームの調整役を引き受けた。小委員会の協力体制で重視されたのは、情報の共有と専門家の知見の蓄積であった。 9.2000年、RICAP小委員会に代わり、TWGDC(テーマ別グループ障害者委員会)が設置された。この障害者委員会の主な目標は「アジア太平洋障害者の十年(1993〜2002)」の目標達成に向けた動きの勢いを維持することであった。この委員会は、ESCAPと国連食糧農業機関及びNGOが共同で議長を務めた。この障害者委員会はメンバーの範囲を広げ、50のNGO、15の政府代表、アジア開発銀行(ADB)が参加するようになった。この障害者委員会のメンバーは、行動課題の実施に関する成果の検証に積極的に参加し、「アジア太平洋障害者の十年の延長(2003年〜2012年)」の提唱に大きな役割を果たした。障害者委員会のメンバーは「アジア太平洋障害者のためのインクルーシブで、バリアフリーかつ権利に基づく社会に向けた行動のためのびわこミレニアム・フレームワーク」の草案作成に活発に関与してきた。びわこミレニアム行動課題は、2002年10月25日〜28日に日本の滋賀県大津市で開催される「アジア太平洋障害者の十年」最終年ハイレベル政府間会合に提出され、採択を目指す。 三.「十年」支援に向けたESCAPの事業 A. 概要 10.決議48/3に加えて、委員会は以下の3件の決議を採択した。1993年4月29日決議49/6「アジア太平洋障害者の十年(1993〜2002)」宣言及び行動課題、21世紀に向けた障害者のための地域支援の強化を定めた1998年4月22日の決議54/1、「21世紀におけるアジア太平洋地域の障害者のためのインクルーシブで、バリアフリーかつ権利に基づく社会の促進」を定めた2002年5月22日の決議58/4である。これらの決議に従い、ESCAPは行動課題の中の政策面に関して、域内各国の機能を強化するためのプロジェクトを多数実施した。 11.「十年」の期間中、ESCAPは政府及びNGOが行動課題を実施していくための支援として、政府、NGO、特に障害者団体に対し、数々の専門的な助言を提供した。さらに、ESCAPは地域及び準地域の会議、セミナー、ワークショップ等の開催を通じ、また、「アジア太平洋障害者の十年」基金を通じた財政支援の提供によって、政府、NGO、自助団体のそれぞれの好事例に関する情報交換を促進した。ESCAPは、刊行物、ウェブサイト及びCD-ROMを通じ、専門的情報の積極的な普及に努めてきた。ESCAPによる障害関連の出版物はほぼすべてESCAP「十年」のホームページ(http://www.unescap.org/decade)において閲覧可能である。 B.行動課題の政策領域におけるESCAPの活動 12.12の政策領域にわたる行動課題のうち、ESCAPは他の国連団体及び国連機関の管轄・専門ではない分野に特に力を入れて活動を行ってきた。ESCAPは、国内調整、立法、情報(特に障害に関する統計)、アクセス可能性、介助機器及び障害関連の自助団体といった分野の政策に焦点を当ててきた。 13.ESCAPの最重要計画となっているのが、1993年から開始された障害者に不利のない物理的環境整備の促進と、「アジア太平洋障害者の十年」が宣言される前の1990年から開始された自助団体に対する活動支援を通じた障害者の地位の向上である。この2つの方針に基づき、単年プロジェクト及び複数年プロジェクトが実施された。1998年には、この2つの方針(アクセス可能性と自助団体)を統合し、障害者を彼ら自身に不利のない環境整備を促進するためのトレーナーとして訓練するプロジェクトを開始した。 14.プロジェクトの様々な活動は、ESCAP事務局内の多部門横断的なアプローチで実施された。他プログラムと比較して、ESCAPの障害関連プログラムが優れているのは、部門間の活発な協力関係が形成されていることであった。例えば、障害者に不利のない環境整備の促進に関してはESCAPのHuman Settlements Section、農村地域の障害者間の貧困削減に関してはRural Development Section、公共交通機関へのアクセス可能性及びバリアフリーな旅行の促進に関してはGeneral Transport, Coordination and Communication SectionやTourism Unitといった部門が関わっていた。 15.以下に、ESCAPが実施した様々なプログラムや活動を紹介する。これらの活動は、行動課題の政策領域ごとに、また新たに発生した分野横断的な課題ごとにまとめられている。 1.国内調整 16.国内調整委員会の強化は、国家レベルで行動課題を実施していくための重要課題である。ESCAPは、行動課題の実施に関して多部門を横断するアプローチを積極的に進めてきた。 17.ESCAPは1996年、インド政府及びマレーシア政府が障害者のための多部門横断的協力体制に関する国家間セミナーを開催するのを支援した。両国のチームはそれぞれ多彩な政府機関及び障害関連NGOの代表で構成されていた。このセミナーでは、多部門を横断するような意見と行動に向けた課題や条件に関し、多様な洞察が得られた。多部門横断的な協力関係を促進し、かつ障害に関する国内調整委員会が直面している重要課題に取り組むことを目的として、ESCAPは1997年、マニラで障害関連の国内調整委員会に関する課題と戦略を検討する地域会議が開催されるに当たり、フィリピン政府に専門的な支援を提供した。ESCAPは1997年、この地域における国内調整委員会の設立と強化に関する進ちょく状況を査定するため、アンケート調査を実施した。 2.立法 18.ESCAP地域における平等を目指す立法の進展と強化に対し、大きな関心が集まっていた。事務局に対しても、各国の政府及びNGOから立法のモデルとなる枠組みを求める声が多数届いていた。こうした要求に応えるため、ESCAPは1995年、2冊の出版物を発行した。「開発における障害者の機会均等及び完全参加に関する立法・地域的概観(ST/ESCAP/1622)」と「開発における障害者の機会均等及び完全参加に関する立法・ESCAP地域における実例(ST/ESCAP/1651)」である。これらの出版物では、ESCAP地域のうち16カ国の事例を紹介し、各国の国会議員、政策立案者、関係NGOに配布された。 3.啓発広報 19.ESCAPは、1993年以後、「アジア太平洋障害者の十年」を推進するための地域キャンペーンを積極的に支援してきた。これらのキャンペーンは、「アジア太平洋障害者の十年」推進のための地域NGOネットワークがホスト国と各地域のNGOの協力を得て開催したものである。1994年7月にマニラで開催された「キャンペーン1994」では「十年」のロゴが採択された。ESCAPは、香港(中国)(1998年)、バンコク(2000年)、ハノイ(2001年)での地域キャンペーンに最貧国及び後発開発途上国の参加を促すため、財政支援を行った。 20.バンコクの「キャンペーン2000」には、ESCAPも主催者として参加した。このキャンペーンでは、行動課題実施のための目標に関する取組を検証し、お互いの好事例に関する情報を共有するための地域フォーラムが開催された。2001年12月にハノイで開催された「キャンペーン2001」は、最大の地域キャンペーンであった。このキャンペーンでは、障害者の社会統合促進に関する「キャンペーン2001」ハノイ宣言が採択された。この宣言は「アジア太平洋障害者の十年(1993〜2002)」をさらに10年延長することを、ESCAP地域の政府に促すものであった。ESCAPは、2002年10月に日本の大阪で開催される最後の地域キャンペーンを支援する予定である。 21.ESCAPは、障害者の物理的環境や公共交通機関へのアクセス可能性を促進するため、『障壁(バリア)からの解放』と題するビデオテープを制作した。また「アジア太平洋障害者の十年」を推進するため、もう1本のビデオ『見られるために、聞かれるために、認識されるために』を制作し、広く配布した。 4.情報 22.1994年、ESCAPは準地域における情報の普及と「十年」関連文書の現地語への翻訳を含む活動を支援した。1997年には、「十年」ホームページ(http://www.unescap.org/decade)を作成した。このウェブサイトでは、様々な情報、資源、障害関連団体へのリンク、TWGDCの報告書、障害に関するESCAPの出版物や活動のほぼすべてを閲覧することができる。 23.情報の中でも重要なのが、障害に関する統計である。アジア太平洋統計研修所及びESCAPは2000年2月、ニューデリーにおいて、障害関係の統計に関する準地域ワークショップを開催した。このワークショップは、インド政府がホストを務め、国内の統計局及び関連機関の統計専門家と、障害関連の政策立案者よりデータを収集した。同様の準地域ワークショップは2001年4月、中国の上海においても開催された。次の「十年」には、このような準地域ワークショップが大洋州及び中央アジアで開催される予定である。 5.アクセス可能性とコミュニケーション (a)アクセス可能性 24.建造物における障壁除去という緊急の課題に取り組むため、ESCAPは1993年、ESCAP地域において障害者のための不利のない環境整備を促進するためのプロジェクトに着手した。 (1)障害者に不利のない環境整備の促進に関するプロジェクト 25.ESCAPはプロジェクトの第1段階として、障害者及び高齢者にとって不利のない環境整備を促進するための地域別ガイドラインを作成した。ESCAPは1994年6月、バンコクにおいて専門家グループ会合を招集し、同年11月には地域会合を招集した。これらの会合を通じ、建造物へのアクセス可能性向上のための一連のガイドラインを作成し事例研究を行った。このガイドラインは、アクセシビリティ向上につながる建築計画や設計、アクセス可能性に関する政策の規定及び立法措置、一般の人々に対する啓発に向けた指針を提示している。このガイドライン(ST/ESCAP/1492)は、1995年に刊行された。 26.プロジェクトの第2段階として、いくつかの試験計画を通して地方自治体レベルでのガイドライン実施を支援する計画が立てられた。これらの試験計画は、ESCAP地域の開発途上国という条件下でモデル地区となるように計画され、バンコク、北京、ニューデリーの3つの都市で実施された。各都市に1か所、約1平方キロメートルの試験計画地区が選ばれ、アクセス可能な地区として整備された。 27.このプロジェクトの一環として、1995年11月、3つの試験計画都市の運営委員会のメンバー6名により日本の横浜において5日間の研究ワークショップが開催された。これは、障害者の建造物へのアクセスの現況を確認し、試験計画のための行動課題を進展させることを目的に行われたもので、横浜市とアジア太平洋都市間協力ネットワーク(CITYNET)により共同開催された。 28.3つの試験計画都市それぞれにおいて、試験計画を実施するための、セミナー及び地域ワークショップが開催され、ESCAPが専門的支援及び財政的支援を提供した。バンコクでは1997年5月、バンコク市当局、ノンタブリ、パタヤの技術者を訓練するワークショップが開催された。北京では1996年1月から2月にかけて、試験計画開始セミナーとワークショップが開催された。1997年4月にはプロジェクトの中間点検証のためのワークショップ、1998年5月に最終ワークショップが開催された。これらのワークショップには、中国の16都市とESCAP地域の8都市から60名の参加者があった。ニューデリーでは1996年12月、試験計画開始セミナーが開催され、1998年6月に最終ワークショップが開催された。この最終ワークショップには、南アジアの各国からも障害者が参加した。 29.北京とニューデリーにおける最終国内ワークショップでは、3つの都市における試験計画の成果を共有することができた。両ワークショップでは、北京ワークショップに参加した各都市間のアクセス可能性向上への取組をネットワーク化していくことを含め、いくつかの推奨事項が採択された。 30.3つの試験計画地区では、実際にアクセス可能性の向上を達成した。バンコクでは5000か所にスロープが設置され、15キロメートルの点字ブロック付き歩道が整備された。北京では、住宅設備、商業設備及び教育設備合わせて23か所のアクセス可能性が向上した。ニューデリーでは、14の公共建築物及びその外部環境のアクセス可能性が向上した。 31.これらの試験計画の結果を受け、各国政府は、試験計画地区の物理的な環境向上の検証とともに、障害者のアクセス可能性に関する政策及び方針、アクセス可能性に関する法規の改正などに関する検討を行った。 (2)アクセス可能性の向上を目指すその他のESCAPのイニシアチブ 32.ESCAPは、障害者を不利のない環境整備の促進を行うためのトレーナーとして訓練する訓練ガイドラインを作成した。このテーマに関する専門家グループ会合が1998年6月、タイのパタヤで開催された。この会合において作成されたガイドラインの草案は、その後、インドのバンガロール、タイのパタヤ、マレーシアのペナンにおいて実地的に試験された。このガイドラインは『不利のない環境整備の促進者としての障害者:トレーナー訓練のためのガイドライン』(ST/ESCAP/2046)として2000年に刊行された。 33.ESCAP及び中国障害者連盟は2000年11月、深土川において、公共交通機関のアクセス可能性に関する最初の訓練セミナーを開催した。このセミナーには、香港を含む中国の6か国から参加者が集まった。訓練は国際的な専門家により実施され、アクセス可能性の向上した交通機関を体験するため、香港への視察旅行を行った。 34.2000年9月、障害者の旅行に関するアジア太平洋会議がバリで開催された。これは、アクセス可能性に関する新たなイニシアチブの展開であった。この会議は、インドネシア政府及びESCAPとの密接な協力関係により地域NGOが開催したものだが、この種の会議としてはESCAP地域で開催された初めてのものであった。この会議では、障害者のためのバリアフリーな旅行に関連する主な課題が議論された。この会議により「障害者のためのバリアフリーな旅行に関するバリ宣言」が採択された。 35.2000年3月と2002年2〜3月の2回にわたり、障害者にとって不利のない環境整備を促進するための14日間の地域トレーナー訓練コースがバンコクで開催された。11か国から集まった建築家、都市計画関係者、そして障害者らが訓練を受けた。日本の国際協力事業団(JICA)、タイ政府、ESCAPという三者間の協力体制により、「南南協力」(途上国による途上国への協力)として素晴らしい成果が得られた。この三者はすべて、このコースを二年間継続することに同意している。 36.以上のような活動が、この問題に関係のある政府職員を訓練することや、地方自治体、地域、または国家レベルでの不利のない環境整備を推進することに積極的な障害者、建築家、都市計画関係者らを結ぶ地域ネットワークの形成につながった。 (b)コミュニケーション 37.情報通信技術(ICT)は、障害者のための情報通信分野におけるアクセス可能性の必要性を考える上でますます重要になってきている。ESCAP、障害者委員会のICTタスクフォース、タイ王国政府、各種NGOは2002年6月、バンコクで開催された障害者のためのICTアクセス可能性に関するセミナーを共同主催した。これは、この種のセミナーとしてはESCAP域内で初めて開催されたものである。このセミナーでは、アジア太平洋地域における障害者のためのICTアクセス可能性に向けた政策/立法ガイドラインに関する推奨事項が採択された。 6.教育 38.教育分野におけるESCAPの活動は、「万人のための教育」キャンペーンにおける障害を持つ子供と若年者のインクルーシブ教育を支援することを目指した。ESCAPは1998年と2001年の2回にわたり、インドとラオス人民民主共和国において開催されたインクルーシブ教育に関するセミナーに参加した。またESCAPは1999年11月、バンコクにおいて21世紀における障害を持つ子供と青年のための教育に関する地域フォーラムを開催した。このフォーラムは、ユネスコのアジア太平洋地域教育開発計画のための主要地域事務所との協力で開催されたもので、障害を持つ児童と若年者の早期処置及び教育に関する地域調査の結果が報告された。さらにこのフォーラムでは、行動課題の教育に関する目標が検証され、改訂された。 7.訓練と雇用 39.ESCAPは障害者の就業斡旋サービスの強化に向けた取組に関し、国連労働機関(ILO)に対する協力・支援を行った。ESCAP及びILOは1999年3月、シンガポールで障害者のための効果的な就業斡旋サービスに関する地域的な専門協議会を組織した。2000年5月、ESCAP及びILOは、RICAP障害部門小委員会と合同で域内各国における障害者の訓練・雇用に関する活動について討議するための専門会議に協力した。その他の関連活動として、ESCAPは2001年5月、世界応用障害研究・情報ネットワーク(GLADNET)に対し、技術を利用した障害者の雇用と訓練機会に関する情報提供を行った。 8.障害原因の防止及びリハビリテーションサービス 40.1994年12月にジャカルタで開催された第4回障害者インターナショナルアジア太平洋ブロック評議会の一環として、ESCAPは1994年、インドネシアのソロにおいて、地域ベースのリハビリテーションに関するワークショップを共同開催した。このワークショップでは、障害者の地域ベースのリハビリテーションプログラムへの参加に焦点が当てられた。さらに、ESCAPは1997年9月、シンガポールで開催された地域ベースのリハビリテーションにおける人的資源開発に向けたリソースグループ・フォーラムの第2回会合において助言と技術的支援を提供した。2000年には、リハビリテーションサービスの向上に向けた戦略に関する国家間ワークショップに情報提供を行った。これは、WHOとの共同事業である。 9.介助機器 41.ESCAPは1995年9月、インドのマドラスにおける介助機器の現地製造とその流通に関する技術ワークショップを開催した。このワークショップでは、様々な施設の視察も行われた。この介助機器に関する地域研究ワークショップの結果として、1997年に『障害者のための補助具の製造と流通』(ST/ESCAP/1774)と題された2部構成の刊行物が作成された。 10.自助団体 42.自助団体を通じた障害者の地位の向上に特に関心を寄せてきたESCAPは1990年、障害者の自助団体の設立を支援するプロジェクトを開始した。ESCAPは、域内各国の自助団体との密接な協力体制により、自助団体の設立と強化に関するガイドラインを作成し、1991年には『障害者の自助団体』(ST/ESCAP/1087)を刊行した。同書は5か国語及び英語の点字に翻訳された。 (a)自助団体の運営に関する地区訓練ワークショップ 43.自助団体に関するプロジェクトの一環として、ESCAPは「障害者インターナショナルアジア太平洋地域ブロック評議会」その他のNGOとの密接な協力体制の下、1993年12月にはダッカにおいて、また1994年1月にはフィリピンのバコロド市、1996年2月にはスバにおいても自助団体の管理に関する一連の地区ワークショップを開催した。このワークショップでは、自助団体の役員及び高官に対する訓練の必要性について議論された。このワークショップは、参加者のマネジメント技能の向上や、障害者に関する政策立案やプログラムの開発において、より効果的かつ協力的な役割を果たすための能力の向上を目指すものであった。このワークショップの参加者が共有した情報、議論及び経験は『障害者の自助団体の運営』(ST/ESCAP/1849)に収録されている。 (b)ESCAPが実施または支援したその他の活動 44.「十年」の期間中、ESCAPは自助団体の強化を支援するため、定期的に専門的サービスや助言サービスを提供してきた。例えば1994年9月、カンボジアで開催された第1回障害者セミナーを支援し、カンボジア初の国内障害者自助団体を創設する基礎を築いた。また1996年10月、ベトナムで初めて開催された障害者の自助への取組促進に関する国内ワークショップに対し、財政的支援及び技術的支援を提供した。1999年、ラオス人民民主共和国においても自助団体の設立を支援した。2001年9月、ポートヴィラにて開催された、太平洋地域8カ国から参加した障害者のための能力開発に関する訓練セミナーでは、障害者インターナショナル・オセアニア事務所を支援し、情報提供を行った。 45.ESCAPは、アクセス可能性と自助団体という2つの政策面に関する方針を統合し、障害者自身を不利のない環境整備促進のためのトレーナーとして訓練するプロジェクトを発足させた。このための訓練ガイドラインが作成され、7か国から障害を持つ18人の受講者が3つのワークショップで訓練を受けた。参加者はワークショップの合間に、それぞれの都市におけるフィールドワークを8か月間実施した。このフィールドワークとして、インフラ開発及び公共交通機関に関係する行政公務員のためのワークショップの開催及び様々な公共施設のアクセス可能性調査などが行われた。これらの障害者トレーナーは、各自の都市において活動を続け、2000年のESCAP訓練を終了したグループによって初めて設立された地域アクセシビリティ向上ネットワークに参加している。 C.その他のESCAP支援事業 46.2001年、ESCAPは『先駆者たち:ESCAP地域における障害者の完全参加と平等に向けて』(ST/ESCAP/2170)を出版し、行動課題における12の方針の多くに関係してくる好事例を報告した。さらに、ESCAPは以下のような課題に関し、解決に向けた支援を行ってきた。 1.女性障害者 47.女性障害者は、もっとも無視されやすいグループの一つである。ESCAPは、国連婦人開発基金とRICAP障害関連問題小委員会のその他のメンバーとの密接な協力体制により、女性・少女障害者の地位向上を促進するためのプロジェクトを企画・実施してきた。これらのプロジェクトに対し、スウェーデン・ハンディキャップ・インターナショナル支援基金は資金面での協力を提供した。このプロジェクトの成果の1つが、行動課題の実施においてジェンダーの視点を強化するための推奨事項がまとめられたことである。このプロジェクトの一部として、ESCAPは『隠された姉妹たち:アジア太平洋地域における障害者女性及び少女』(ST/ESCAP/1548)を刊行した。これは、1995年9月に北京で開催された第4回世界代表会議に参加した政府代表及びNGOに配布された。 48.さらに、ESCAPは2001年6月、「女性市長及び女性議員によるアジア太平洋サミット」の一環として、タイのピッサヌロークにて「男女平等化イニシアチブの主流への障害者女性及び少女の組み入れに関する地域訓練ワークショップ」を開催した。このワークショップには、10名の障害者女性が8か国から参加した。ワークショップの焦点は、ジェンダーの視点の意識化と権利擁護のスキル開発であった。このワークショップから障害者女性のネットワークが誕生した。 2.農村に住む障害者の貧困削減 49.1999年12月、インド政府農村開発省との密接な協力体制により「農村在住障害者の貧困緩和に関する地域セミナー及び視察調査」がインドのハイデラバードで開催された。このセミナーはESCAP域内の開発途上国の農村地域における貧しい障害者の問題に光を当てるためにESCAPが組織したこの種のセミナーとしては初めてのものであった。 D.「十年」基金 50.「十年」のための技術協力信託資金は、「アジア太平洋障害者の十年(1993〜2002)」のための宣言と行動課題に関する1993年4月29日の決議49/6によって設立されたものである。2002年8月時点で、この基金への拠出金は424,000ドルを超えている。この基金には、各国政府、地方政府、労働組合、私企業から寄付が寄せられている。中国は年間10,000ドルをこの基金に寄付している。ESCAPはこの基金によって技術交換、訓練、好事例の広報、助言サービスの提供を行い、それを通して国家間協力の推進と各国・地域における行動課題の12領域の実施が可能になった。さらに、「十年」基金は、事務局による「十年」推進活動の人的支援に役立った。 四.その他の国連機関による活動 A. 国連食糧農業機関(FAO) 51.FAOは、ESCAPとの密接な協力体制により、2000年からTWGDCの共同議長を務めている。FAOは、障害者のスキル開発と、障害者の自助能力の向上に関わるすべての関係者を結ぶネットワークと協力体制の確立に向けた地域のシステム作りに取り組んでいる。以下に、行動課題に関連するFAOの活動をいくつか記載する。 (a)1999年、タイの農村在住の障害者のためのマッシュルーム生産訓練プログラムが実施された。その結果、村落レベルでマッシュルーム会社を設立することに成功し、障害者自身にも非障害者家族にも雇用が提供されるようになった。 (b)カンボジアでは、障害者の農民が訓練プログラムに差別なく参加できるようにするための農林水産省のプロジェクトにおいて、統合的な伝染病管理のための能力開発をハンディキャップインターナショナルと協力して行った。 (c)タイの農業相談局から派遣された相談員及びトレーナーを対象に、2000年の養蚕プロジェクト援助に含まれる障害者の農民を支援できるようにする特別訓練を提供した。 (d)カンボジアの弱者グループに対し、村落レベルでの食品加工に向けた訓練を実施した。これは彼らが社会的・経済的に地域社会に参加するための基礎として、また農村地域での小規模企業の開発に焦点を当てた自助グループのネットワークを確立するための基礎として、障害者の元兵士やその家族による小規模企業の設立を目指したものである。 (e)農村地域に居住する障害者による小規模企業開発に関するトレーナー訓練マニュアルを作成した。訓練方法は元来、ESCAPとFAOの共同プロジェクトとして開発されたもので、小規模で実行可能な農村企業のモデルとして農業その他の事業で模倣が可能であることが証明されている。 (f)1999年、WHOは食品の安全性向上を目指して、食品規格を設定した。食品の安全性は健康に直接的な影響を与え、栄養不良または不適切な食生活を原因とする予防可能な障害の減少につながる。また、各地域で使用する食事ガイドライン及び栄養教育のための資料を作成した。さらに、栄養と食品の安全性に関する女性の知識が向上することが、より病気、障害、早すぎる死の予防につながるため、政策立案者及び各種プログラム策定者に向けて、栄養と食品の安全性に関する女性の知識向上を助言した。また農業機具及び農業用化学薬品の安全な使用によって農業及び林業作業中の事故の減少・防止を図り、障害を防止するための特別プログラムを実施した。 (g)障害者を含む小規模農民グループや団体に対し、意思決定への参加促進のための、また農業組合や信用組合を含む自営・起業のための能力開発支援を行った。また農村地域居住障害者の社会参加を促進することを目的とした政策助言や、各種のプログラム及び活動に関する計画及び訓練を行うための公共機関の機能強化のため、公共機関との連携を図った。特に関係者との対話と協力を可能にするための制度的な機構を整備することに力を入れた。 B.国際労働機関(ILO) 52.ILOは、ESCAP及びその他の国連機関との協力による多数の活動とプログラムを通じて「アジア太平洋障害者の十年(1993〜2002)」に貢献した。以下に一例を挙げる。 (a)セイロン雇用者連盟、モンゴル雇用者連盟、カンボジア事業諮問委員会などの雇用者団体が障害者の雇用機会を増加させる上で果たす役割について啓発を行った。 (b)モンゴルでの労働者会合に対する技術援助の提供を通じ、労働組合における障害者問題の啓発を行った。 (c)地域に焦点を当てたビデオ『アジアの能力』を制作し、個々の雇用者における障害者の雇用推進を図った。このビデオは、ILOの地域ネットワークを通じて配付し、NGOやその他の団体も利用できるようにした。さらに、タイでは『タイの能力』も制作された。 (d)障害者の雇用と訓練に関して、あるいは「十年」の目標に関しての情報を提供するILO地域ウェブサイト(www.ilo.org/abilityasia)を制作した。このウェブサイトを通じて障害者の訓練及び雇用の推進に向けた労働組合と雇用者の取組の拡大を奨励した。 (e)農村での職業訓練プログラムに障害者を差別なく参加させるための効果的な方策及び仲間・同業者を訓練することによって遠隔地域のニーズに取り組むための効果的な方策を提示した。 (f)『障害者の女性及び女児の通常職業訓練プログラムへの差別なき参加:実践ガイド』を出版し、配布した。 (g)通常雇用サービス及びトレーナー訓練ワークショップに障害者を差別なく参加させるための地域プロジェクトを実施した。このプロジェクトでは、域内の数カ国もワークショップ及び技術援助を行った。このプロジェクトの結果は報告書として出版され、現在、中国語、クメール語、タイ語、ベトナム語に翻訳されている。 (h)ILO及びFAOは農業関連産業を促進する方法を開発することを目的として、ラオス人民民主共和国で共同プロジェクトを実施した。 53.「十年」を終了するに当たり、ILOは14カ国において国別研究を実施している。この研究は「十年」の総括として、障害者の訓練及び雇用政策に関する比較分析の基礎となるはずである。この研究は、現在の状況を示す基本データを提供するものであり、かつ次の「十年」に向けて、各地域で取り組むべき活動について提言を行うものである。 C.国際電気通信連合(ITU) 54.ITUは、特に障害者向けに計画されたプログラムを実施しているわけではない。しかし、その地域ごとの活動の中に、障害者グループに関わる課題が組み込まれている。 55.2001年10月、女性の平等なICT(情報通信技術)へのアクセスに関するアジア太平洋地域ワークショップがソウルで開催された。ITUは、異なる能力を有する韓国女性連合から代表者に論文発表を依頼した。発表では、特に農村部の女性や障害者が日常的に、かつ適当な料金でICTを利用することが可能になるような政策や法がないということが指摘された。ITUは、障害者女性を含む女性たちのICTスキルの向上を目指したプログラムを開発するため、資金調達を行うことを推奨事項として提示した。 56.2002年6月、アジア太平洋地域のICT業界団体のための地域セミナーがバンコクで開催された。ITUは、日本障害者リハビリテーション協会の代表者にICTの社会的関連についての論文発表を依頼した。この論文は、セミナー参加者のうち、社会的立場のさらに弱い人々に対する可能性について述べたものであった。ITUに対して、推奨事項が提出された。 D.国連開発計画(UNDP) 57.国連開発計画・障害関連活動グループは、1990年に組織された。その主要な目標は地域ベースのリハビリテーションを推進し、持続可能な人間開発における通常プログラムへの、障害者の差別なき参加を促進することである。障害関連活動グループは各国政府、UNDP国別事務所、またはNGOの要請により、その国を訪問し、以下の実現に向けて助言を行う。 (a)開発途上国における障害者向けサービスの創設及び計画に関する援助。実施中の開発プログラム、または計画済みの開発プログラムに対する障害者の参加の促進。地域ベースのリハビリテーションプログラムのマネージャー/コーディネーターを中心とした、開発途上国の職員向けの訓練コースの計画及び実行。障害者団体運営者のための訓練コースの計画及び実行。 (b)障害者の能力及び人権に関する意識啓発。障害とリハビリテーションに関する一般の人々の意識の啓発。進行中のプログラムの評価。障害者の雇用機会均等化に関する標準規則のフォローアップ。 58.1999年春、UNDPは世界リハビリテーション基金と協力して、カンボジアなど3か国の地雷被害者及びその他の障害者の社会経済的統合に向けた新たなアプローチを計画し、推進するため、世界規模の3か年計画の調整を開始した。 E.国連教育科学文化機関(UNESCO:ユネスコ) 59.1994年、スペインのサラマンカにて開催された「特別なニーズ教育に関する世界会議」の準備として、ユネスコはこの地域及び中国・ネパール地区で2つの地区セミナーを開催した。この会議の準備及びフォローアップは、障害者教育の焦点が特別なニーズ教育から普通教室でのインクルーシブ教育へと変化していく大きな要因となった。ユネスコは、インクルーシブ教育におけるアプローチを万人への教育を達成するための方策と考えている。ユネスコは、教師及び生徒の両者が、教室における多様性に嫌悪感や差別を覚えることなく、多様性を問題というよりは学習環境を豊かにし成長を促すものと捉えることができるように支援することを目指している。 60.ユネスコは、TWGDCの4つのタスクフォースの1つである、障害を持つすべての子供のための教育に関するタスクフォースの共同議長を務めた。以下に、アジア太平洋地域内におけるインクルーシブ教育を促進するために、ユネスコが行った活動の例をいくつか挙げる。 (a)ユネスコは、インクルーシブ教育に関する様々な資料を作成した。その中の1つ『教師の教育リソースパック:教室における特別なニーズ教育』は、学校や教師が特別なニーズを持つ生徒に対応する際に役立つよう作成されたものである。このリソースパックは、地域内の各国語に翻訳され、配付された。また、ユネスコは、いくつかの国において、教師のための国内訓練ワークショップを開催した。 (b)サラマンカ会議へのフォローアップとして、ユネスコは、国家レベル、地方レベル、局地レベルで行われる新規性のある小規模の取組に関し、その活動を支援し、情報を広く提供するためのプロジェクトを開始した。その取組とは、身体障害や学習障害を持つ子供の一般の学校への統合、すなわちインクルーシブ教育に向けた学校や地域の支援プログラムを促進するものである。このプロジェクトは、中国、インド、ラオス人民民主共和国、ベトナムなど30数か国が参加し、地球規模で実施された。 F.国連難民高等弁務官(UNHCR) 61.UNHCRは、障害者難民への援助を優先して行っており、障害者難民には、第三国定住のための特別割り当て制度がある。UNHCRは、ハンディキャップインターナショナル、赤十字国際委員会(ICRC)などのような機関と協力し、障害者難民のための多数の特別プロジェクトを実施している。難民キャンプに居住する障害者のための地域ベースのリハビリテーションプロジェクトもその1つである。ハンディキャップインターナショナルは、いくつかのミャンマーの難民キャンプにおいて、このプロジェクトを開始した。これは、障害者とその家族の意識を高め、地域のグループやネットワークの機能を確立し、障害者とその家族に医療的リハビリテーションと社会経済的統合のための知識やリソース及びサービスを利用しやすくすることを目的として掲げていた。 62.サービスの提供には様々な困難があるが、UNHCRは以下の実現に向けて活動を行っている。 (a)難民キャンプ及び行政区レベルで様々な機関が提供しているサービスの調整 (b)障害者の家庭における効果的な医療サービスの提供 (c)キャンプ内の障害者が、支援物資に依存して自主的な帰国の意思をなくさないような食糧及び非食糧の支援の在り方に関する難民組織及びNGOとの討議 G.国連児童基金(UNICEF:ユニセフ) 51.ユニセフは、障害者を含む、もっとも恵まれない子供たちに対し、特別な保護を与えることがその責務である。子供時代に障害を受ける主な原因の防止に関して、大きな進展があったことが報告されている。「国連障害者の十年(1983〜1992)」終了後、ILO、ユネスコ、ユニセフ及びWHOにより機関間ワークグループが組織された。このワークグループが設置された目的は、子供の障害に関連する問題について協議することと、各機関が共通の専門能力を開発することの2点である。共通の能力の開発は、訓練教材やワークショップの開発、早期発見のための指標を定めたガイドラインの作成、普通教育やその他の社会サービスへのアクセスを始めとする、効果的な介入の設計などを通して行われる。これらの共同プログラムの一部を以下に挙げる。 (a)アフガニスタン、カンボジア及びラオス人民民主共和国を含む16か国における、地雷被害防止を目的とした地雷認識及び地雷教育向上における支援。 (b)カンボジア、中国、インド、イラン-イスラム共和国、モンゴル、ネパール、スリランカ、ベトナムにおける幼年期障害に関するプログラム。これには、予防と介入、アドボカシー、公的教育、地域ベースのリハビリテーション、パートナーシップ形成及び能力開発、教育、訓練、認識の向上、データ収集・調査などが含まれる。 H.世界保健機関(WHO) 64.WHOの障害及びリハビリテーションプログラムは、その世界的な障害及びリハビリテーション活動の中でも、特に低所得国に注目している。WHOは1998年、障害問題とリハビリテーション活動を監視する世界的なネットワークを構築した。ESCAP地域では、WHOは継続して地域に密着したリハビリテーションの概念及び実施の促進に取り組んだ。活動には、以下が含まれる。 (a)1996年、インドネシア・シロト(Ciloto)において、リハビリテーションプログラムの運営に関する訓練ワークショップが2か所で開催された。このワークショップは、地域ベースのリハビリテーションプログラムの開発と実施におけるマネジメント・スキルを強化することに焦点を当てたものである。 (b)1996年12月、プライマリーケアに必要不可欠である、地域に密着したリハビリテーションプログラムの強化に向けた地域ワークショップがニューデリーで開催された。このワークショップでは、いくつかの国と地域で、プログラム活動の持続・拡大に加え、各地域の保健医療制度にワークショップの内容を反映することが推奨された。その結果、バングラデシュ、ブータン、インド、インドネシア、ミャンマー、スリランカ、タイ王国において、地域ベースのリハビリテーションをプライマリーケアサービスに組み込む動きがスタートした。この新たな動きを支援するために、WHOの地域ベースのリハビリテーション・マニュアルがバングラデシュ、ブータン及びインドで出版された。インドでは、ムンバイのスラム地区に居住する恵まれない人々のための地域ベースのリハビリテーションが開始された。ブータンにおいては、地域ベースのリハビリテーションに関するプログラムが、国の健康増進のための最優先プログラムとして確立された。 (c)スリランカでは、低コストの義肢を地域で製造することが可能かどうかを検討し、地域ベースのリハビリテーションに関する保健専門家やボランティアのための訓練プログラムを維持するために技術援助が提供された。インドネシアでは、地域の保健関連職員のための地域ベースのリハビリテーションに関する訓練ワークシートが制作された。またインドでは、様々な側面を取り扱うセミナーが開催された。 (d)タイでは、地域ベースのリハビリテーションの別モデルに関する研究が実施された。地域ベースのリハビリテーションプログラムはいくつかの地域で実施されるようになり、地域ベースのリハビリテーションにおける保健師の訓練強化に関する国家間協議会が1999年5月、バンコクで開催された。この会議で採択された推奨事項により、ESCAP地域の国々における地域ベースのリハビリテーション訓練の有効性は大きく向上した。 (e)1997年10と11月の2回、地域ベースのリハビリテーション国内プログラム運営者のための4週間の訓練コースがコロンボで開催された。この訓練後、バングラデシュ、ブータン、インド、ミャンマー、スリランカでも行政区ごとの訓練コースが開催された。 (f)WHOは2000年11月、ジャカルタで開催された地域ベースのリハビリテーションの開発と持続可能性に関して、リハビリテーション従事者を訓練するトレーナーの訓練を支援した。この結果、健康増進の分野では見過されがちなこの地域の会員国において最重要課題である人的資源の開発に成功した。 I.アジア開発銀行(ADB) 65.ADBは、障害に関する分野では、近年、活動を開始したばかりである。ADBは、1999年10月、地域内の10か国から政府職員を招き、開発と障害に関する地域ワークショップをマニラで開催した。このワークショップには、ESCAP、ILO、UNDP、ユニセフ、WHO、米国国際開発局、障害者インターナショナル、その他の国際NGO及びアジア開発銀行の職員などが参加した。 66.ADBは、障害に関わる問題についての主要プロジェクトを開始した。このプロジェクトの成果は、ADBが障害に関わる問題について深く認識し、ADBの活動に障害に関する課題を組み込むためのツールとなると思われる。また、「十年」の目標と目的に対しても多大な貢献となるはずである。このプロジェクトは、カンボジア、インド、フィリピン、スリランカの4か国で行われている貧困撲滅の取組における障害者問題を特定することに焦点を当てたものである。このプロジェクトは、地域的アプローチをとり、部門間及び機関間の協力を得て、2002年11月の終わりまでに終了することになっている。関係者として各国政府、障害関連NGO、国連、出資機関及び開発団体などがある。このプロジェクトでは、障害者政策の特定及び調整に主要な役割を果たす能力を向上させるため、国内の障害関連タスクフォースとの協力も行われる。 67.ADBが行っている障害関連のその他の行動には、2001年にADBが採択した社会保護方策が含まれる。この社会保護方策にも障害関連問題が取り込まれ、またモンゴルでの雇用機会を拡大するためのプロジェクトにも障害者が含まれている。 五. 結論 68.地域レベルでの強力な支援なしには、アジア太平洋地域独自の「十年」は国家レベルで実行が困難であっただろうということは明白である。地域協力のための機構、すなわち、RICAP障害関連問題小委員会及びTWGDCは、「十年」の目標達成を支援することを目的とした政策ツールの開発に重要な役割を果たした。また、この政策ツールの実行のモニタリングにおいても同様である。「十年」のための地域協力機構に関しては国連が重要な役割を果たした。この点は本書を読めば明らかであろう。この地域では、障害者のための包括的なバリアフリー人権尊重社会を達成するため、さらに10年延長して様々な取組を行っていく予定である。この目的を達成するために、国連加盟国は、それぞれの活動をさらに強化し、手を取り合って、地域協力及び支援の相乗作用を生み出していくことが必要である。  ※この和訳は、内閣府において便宜上仮訳したものであり、誤りを含む場合がありますので、引用される際は、必ず原文を参照して下さい。