(内閣府仮訳) < 要  約 > 障害者の状況に影響を与えている現在の傾向 1992年、ESCAPは1993年から2002年を「アジア太平洋障害者の十年」と宣言した。この「障害者の十年」が間もなく終了するが、この間に障害者に影響を与える問題に取り組む必要性を認識させるという点で、多くの進歩がみられた。しかし、「十年」の成果にもかかわらず、先進国、途上国を問わず、多くの地域において、障害者は依然として単一の最大の、もっともサービスの届かない、もっとも差別されている社会層である。この地域での開発プロセスにおける障害者の完全参加と平等を実現するには、まだ多くのことが残されている。 以下では、障害者の状況に影響を与えている現在の傾向をいくつか概観する。教育の不足が社会からの除外と貧困をもたらす主因となっていることから、このテーマについて最初に紹介し、その後、情報通信技術(ICT)開発と貧困における傾向を紹介する。「アジア太平洋障害者の十年」をさらに10年延長することによって、障害者の完全参加と自立という10年の目標の達成が完了することが期待される。 教育 この地域では、何らかの形で教育にアクセスすることのできる障害のある児童及び若年者は、全体でも10%に満たない。この数字は、多くの開発途上国においてはさらに低いかもしれない。十分な教育が受けられないことは、障害者、障害者でない者双方にとって、貧困と社会からの除外における主要なリスク要因である。しかし、障害児については、障害のない児童に比べ、教育不足による貧困のリスクはかなり高い。障害のある児童・若年者が教育から除外されていることは、高等教育及び雇用の機会からも除外されていることにつながり、これが家族や社会生活への参加やそれらへの貢献を制限している。教育からの排除はまた、経済や社会の自立の達成を妨げ、永続的な世代間のサイクルとなり、長期にわたる貧困という脆弱さを上昇させている。 教育における障害児の完全参加に対する障壁には、国際的なコミュニティ、政府、NGO、地域、障害者団体による活動ないし不活動が含まれる。20の政府は、全ての児童に教育を受けさせるための法律を可決ないし可決予定としているが、障害者に対する差別的な態度が社会の全てのレベルにおいて蔓延していることが、障害児の教育へのアクセスの強化を和らげてしまう。 この地域における障害児に対する教育提供のもっとも一般的な形は分離された特殊学校であり、これらの大部分は都市部に位置し、そして限られた収容力しかない。いくつかの事例においては、特殊教育が現在もっとも適した教育形態であるかもしれないが、その教育は、生徒が一般のシステムでの教育で学べるための準備を目的としなければならない。次の10年において普通教育を受けられる障害児の比率を飛躍的に上昇させるべきであるという傾向の中で、これまで27の政府が障害児の普通教育へのアクセスを上昇させている。 質の高い教育の供給に対する主要な障壁には、早期発見・処置サービスの欠如、否定的態度、障害児に対する排除的な政策や慣行があげられる。 その他の障壁としては、教師(特にインクルーシブ教育が実施される普通学校の教師)に対する不十分な訓練、教師を支援するシステムの欠如、教員用の教材の欠如、学校がアクセス可能な環境にないこと、等が関係している。 人生最初の4年間における早期の発見・識別を含む早期処置は、障害を持つ幼児やその家族にとってとくに重要である。両親や介護人に対する処置や支援が提供できなければ、児童が教育から利益を享受する機会をさらに制限してしまうという二次的障害をもたらす。この分野はまさに、保健、教育、社会福祉及び地域開発を含む他部門間の連携が欠かせない分野である。 情報通信技術(ICT) 情報通信技術ITは非常に日常的なものとなっており、公的、私的、個人的な生産性や生計の改善にとって不可欠なものとなった。これまでの10年においては、ICTの発展については世界的に大きな進歩があり、特にネットワーク形成、連帯、雇用及び自立的生活といった事項に関して、障害者に多くの機会を開くこととなった。補助的コンピュータ技術と他の増加している通信製品によって、障害者が情報通信にアクセスしやすくなった。補助的コンピュータ技術はまた、増加している雇用機会へのアクセスを容易にすることができる。 しかし、アジア太平洋地域の障害者は、ICTや、ICTから便益を享受するための技術や知識にアクセスできない複数の障壁に直面している。基本的な問題は、電気、通信、ハード・ソフトなど、ICTの発展、アクセス、利用を支援するインフラの欠如である。この問題は、大多数の障害者が生活する地域の地方で特に大きい。先進工業国でさえ、障害者のインターネットへのアクセス可能性は障害をもたない人々よりかなり低い。かつ、新しい補助的コンピュータ技術があったとしても、これらの技術の利用者が、入手可能なハード・ソフトへ手軽にアクセスできるかどうかといった点については、ほとんど注意が払われていない。 インターネットがテキスト・ベースの媒介からマルチメディア環境へと変換したことも、障害者に関する問題を引き起こしている。テキスト・ベースの媒体があれば、視覚障害者はインターネットにアクセスするためにスクリーン・リーダーを使うことができるのだが、現在のインターネットの特徴である図表の多いウェブページは障壁となってしまう。学習、認識ないし聴覚に障害のある者は、ウェブでのやりとりを手助けしない補助コンピューター技術によって困難を経験している。というのも、新しいインターネット環境は、アクセス可能なデザインの機能面での必要性に適応していないからである。 第三に、障害者は、ますますデジタル化された経済での労働市場において多くの困難に直面している。その理由の一つは、多くの障害者がわずらわされている、一般的な低レベルの教育達成度を反映して、ICTアプリケーションに対するスキルと理解が足りないことにある。 貧困 世界の6億人以上の障害者のうち、約4億がアジア太平洋地域に居住していると見積もられている。そのうち、70〜80%程度が貧困ライン以下の生活をしている。 調査によれば、障害者を持ち、かつ貧困ラインより低い生活をしている家族のかなりの割合が、障害者を持たない家族に比べ、より少ない総資産、小さい土地所有、大きな借金をしている。先進工業国のように障害者の失業率が入手可能なところでは、障害者の失業率は健常者のそれの2倍から3倍である。そして、障害者が雇用される際には、訓練のレベルにかんがみても、不完全雇用となる傾向がより強い。 障害は、貧困の原因であり結果である。貧困者は、安全でない環境において、要求が多く、より危険な肉体労働力となる傾向がある。カンボジアにおける市民の地雷事故は、燃料または食物を探しまわる間に起こった。バングラデシュにいる障害を持つ患者は、果物を集めているときに木から落ちて怪我をしたり、あるいは重い荷物を彼らの頭に載せて運んでいる際に事故が起き、首を折ってしまった。その他の研究では、農業機器と手足の切断の関係や、農薬が手足と視覚の障害における原因となる要因であるかもしれないことが示されている。 様々な形の栄養失調は、他の障害をもたらす病気をより受けやすくする他の病気に寄与する要因となると同時に、障害の原因である。FAOによれば、現在、5億1500万人のアジア人は慢性的に栄養不足であり、これは世界の飢えている人口のおよそ3分の2を占める。 障害と直接関連がある追加的なコストはかなりの程度になりうる。インドでは、処置と器材に直接かかる費用が所得3日分から2年分までにわたることが、調査によって明らかになった。1995年に4か国で行われた調査では、12〜60%の地雷犠牲者が、医療費をまかなうために、自らの資産を売却しなければならなかったことがわかった。そして、カンボジアの地雷犠牲者の61%が、医療費を支払うために借金状態にならざるを得なかった。 障害をもつ女性は、一般に、障害をもつ男性より不利な状況に置かれている。ESCAPによる研究は、障害をもつ少女が直面する困難は生まれた時に始まり、もし彼女らが生き残ることが許されたとしても、彼女らが家族内でも差別を受け、あまり関心を払われず、あまり食物を受けられず、家族の相互作用と活動から除外されるかもしれないことを記している。彼女らはヘルスケアやリハビリテーション・サービスへのアクセスの機会もより少なく、また教育や就業の機会も少ない。障害を持つ少女や女性は、時には家庭内でも身体的、精神的に虐待されるリスクが高い。 とくに開発途上国では、障害者はしばしば、社会の否定的な態度の犠牲者であって、その結果として、汚名、無視、そして時には障害が悪化し、また新たな障害がもたらされやすい。社会からの除外・疎外化は、障害者が生産的に家庭や地域に貢献する機会を減少させ、貧困に陥るリスクを上昇させる。 ※ この和訳は、内閣府において、便宜上仮訳したものです。誤りを含む場合がありますので、引用される際は、必ず原文を参照してください。