障害を理由とする差別の解消の推進 国・地方公共団体における 相談窓口担当者向け相談対応マニュアル 内閣府 令和6年(2024年)3月 はじめに  障害を理由とする差別の解消に関する法律の一部を改正する法律(令和3年法律第56号)により、国・地方公共団体の連携強化や相談対応を担う人材の育成及び確保についての責務が明確化されました。  また、改正後の障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本方針(令和5年3月14日閣議決定。以下「基本方針」という。)においても、相談対応等において、適切な関係機関との間で必要な連携・協力がなされ、国及び地方公共団体と連携して推進することが重要であり、内閣府においては、障害者や事業者、都道府県・市区町村等からの相談に対して法令の説明や適切な相談窓口等につなぐ役割を担う国の相談窓口について検討を進め、どの相談窓口等においても対応されないという事案が生じることがないよう取り組むほか、各相談窓口等に従事する人材の確保・育成の支援及び事例の収集・整理・提供を通じた相談窓口等の対応力の強化等にも取り組むこととされたところです。  本相談対応マニュアルは、基本方針の記載に基づき、国や地方公共団体における相談対応を行う人材の更なる専門性向上、相談対応業務の質の向上のため、内閣府において作成したものです。  なお、内閣府では令和4年度調査研究事業において、国や地方公共団体の相談窓口等担当者が相談対応業務を行うに当たり、障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(平成25年法律第65号。)や基本方針に沿った事案の分析・対応の検討を行う際の参考資料として「障害を理由とする差別の解消の推進 相談対応ケーススタディ集」(以下「ケーススタディ集」という。)を作成していますので、そちらも併せて参照いただくことが、人材の更なる専門性向上、相談対応の質の向上につながると考えられます。  相談対応機関においては、本マニュアル等を活用し、共生社会の実現に向け、適切な相談対応を推進いただきますと幸いです。 目次 <実践編> 1 相談対応マニュアル<実践編>の目的 8 2 相談窓口の役割 8 3 関係部局・関係機関との連携・協力体制の構築 11 4 障害者差別解消に向けた周知・啓発 18 5 相談体制の構築 20 5.1 相談窓口担当者への助言・支援体制の整備 21 5.2 相談窓口担当者のメンタルケア 21 5.3 相談者から取得する個人情報や相談内容の取扱い 23 6 相談対応の流れ 26 6.1 対応の流れの全体像(障害者からの相談の場合) 26 6.2 対応の流れの詳細(障害者からの相談の場合) 28 6.2.1 相談の受付 28 6.2.2 関係者(関係部局等)での情報共有、対応方針の検討 39 6.2.3 事実確認 41 6.2.4 関係者での情報共有・事案の評価分析・対応方針の検討 43 6.2.5 具体的な対応の実施 45 6.2.6 相手方(事業者)が対応を拒否する場合 46 6.3 対応の流れの全体像(事業者からの相談の場合) 48 6.4 対応の流れの詳細(事業者からの相談の場合) 49 6.4.1 相談の受付 49 6.4.2 関係者(関係部局等)での情報共有、対応方針の検討 54 6.4.3 事実確認 56 6.4.4 関係者での情報共有・事案の評価分析・対応方針の検討 58 6.4.5 具体的な対応の実施 60 6.4.6 相談者(事業者)が対応を拒否する場合 62 <法令編(障害者差別解消法の基本的な法令知識)> 1 障害者差別解消法とは 64 1.1 障害者差別解消法の背景・経過 64 1.2 主な条文及び解説 65 2 法的判断の検討プロセスフロー 88 2.1 「不当な差別的取扱い」に係る法的判断の検討プロセスフロー 89 2.2 「合理的配慮の提供」に係る法的判断の検討プロセスフロー 90 3 障害者差別解消法Q&A 93 3.1 総論 93 3.2 各論(条文別) 94 3.3 その他の論点 107 <参考資料> 1 障害特性と必要な配慮 110 1.1 視覚障害 110 1.2 聴覚・言語障害 111 1.3 盲ろう 112 1.4 肢体不自由 112 1.5 内部障害・難病に起因する障害 114 1.6 知的障害 115 1.7 重症心身障害 116 1.8 精神障害 116 1.9 発達障害 117 2 関係法令 118 2.1 障害者基本法 118 2.2 障害者雇用促進法 119 2.3 障害者総合支援法 120 2.4 身体障害者補助犬法 121 2.5 障害者虐待防止法 122 2.6 旅館業法 123 2.7 精神保健福祉法 125 2.8 障害者情報アクセシビリティ・コミュニケーション施策推進法 126 2.9 高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律(バリアフリー法) 127 2.10 電話リレーサービス法 128 3 障害者差別解消法以外の対応窓口 129 3.1 人権相談 129 3.2 消費者トラブル 129 3.3 雇用関係 129 3.4 補助犬に関する苦情 129 3.5 行政機関の職員からの障害を理由とする差別 130 3.6 命に関わる相談 131 3.7 学校における障害者差別以外のトラブル(いじめや学校職員の対応)に関する相談 132 3.8 生活保護・生活支援に関する相談 132 3.9 虐待が疑われる相談 132 3.10 配偶者やパートナーからの暴力(DV)が疑われる場合 132 3.11 性暴力が疑われる相談 132 3.12 旅館、ホテル等における障害者の宿泊拒否 132 4 相談受付票<例> 133 5 障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(平成25年法律第65号) 135 6 障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本方針(令和5年3月14日閣議決定) 143 7 令和5年度「障害を理由とする差別の解消に向けた事例の収集・分析に係る調査研究」障害者差別の解消に向けた事例分析検討会 構成員名簿 161 コラム 1 建設的対話とは 10 コラム 2 地域協議会運営の事例 16 コラム 3 地域資源の活用について 17 コラム 4 障害者差別解消法や相談窓口の普及啓発 19 コラム 5 女性の障害者に関する相談の場合や、障害児に関する相談の場合の対応 31 コラム 6 傾聴や一緒に考える姿勢を示すことの大切さ 32 コラム 7 興奮している相談者への対応 32 コラム 8 障害者側に寄り添った相談窓口等の紹介 38 コラム 9 障害者に対する差別の実態 91 コラム 10 事業者が障害者との対話の際に避けるべき言葉 92 場面別索引 <相談対応を行う体制について知りたい場合> 1. 障害者差別解消に向けた周知・啓発(P.18) 2. 相談対応を行う体制を構築する方法(P.11 / P.16 / P.20) 3. (要配慮も含めた)個人情報の取扱い(P.14 / P.24 / P.29 / P.33 / P.35 / P.40 / P.52) 4. 相談窓口担当者の支援やケア(P.21) <相談対応の方法について知りたい場合> 5. 対応の流れの全体像(P.26 / P.48) 6. 対応の流れの詳細(P.28 / P.49) 7. 相談者と事業者の間で認識が食い違う場合(P.43 / P.44 / P.58 / P.59) 8. 相手方(事業者)が対応を拒否する場合(P.46 / P.62) 9. 女性の障害者や障害児に対する複合的な差別に関する相談の場合 (P.31) 10. 環境の整備に関する相談の場合 (P.18 / P.53) 11. 障害者差別解消法の範囲外の相談を受けた場合(P.36 / P.53) 12. 虐待が疑われる相談の場合(P.33/ P.37/ P.40/ P.122/ P.132) <実践編> ページ8 1 相談対応マニュアル<実践編>の目的 ● 障害を理由とする差別の解消を効果的に推進するためには、相談対応に当たり、国・地方公共団体が役割分担、連携・協力し、一体となって対応を図ること、また、国・地方公共団体において相談対応を行う人材の専門性向上、相談対応業務の質の向上を図ることが重要となります。 ● 内閣府では令和4年度調査研究事業において、国や地方公共団体の相談窓口等担当者が相談対応業務を行うに当たり、障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(以下「障害者差別解消法」という。実践編において同じ。)の障害者差別解消法や基本方針に沿った事案の分析・対応の検討を行う際の参考資料としてケーススタディ集を作成しました。 ● 当ケーススタディ集に加え、令和5年度においては、国や地方公共団体における相談対応を行う人材の更なる専門性向上、相談対応業務の質の向上を目指し、個別具体の相談への対応等に資するような相談対応マニュアルを作成します。 ● 相談対応マニュアルは実践編と法令編(障害者差別解消法の基本的な法令知識)の二部から構成されています。本実践編では、関係機関の役割や相談対応の一連の流れ・留意事項等について整理を行います。 2 相談窓口の役割  相談窓口には、障害を理由とする差別に関する紛争の防止や解決を図ることが求められています。そのため、公正・中立な窓口として、 @ 障害者と行政機関等・事業者双方の法令に対する理解を促進すること A 相談事案について、法令に基づき個々の事案の事実関係を踏まえて適切な判断を行うこと B 障害を理由とする不当な差別的取扱い合理的配慮の不提供が発生していると考えられる場合にはその是正を図り、今後の円滑な対応に繋がる助言等を行うこと C 合理的配慮の提供に当たり、社会的な障壁を取り除くために必要な対応について、障害者と行政機関等・事業者が対話を重ね、ともに解決策を検討していくため、相互理解による建設的対話を促進すること D 障害者差別に関する紛争を未然に防ぐために行うべき取組について、障害者と事業者等に周知・説明すること 等が求められます。  このため、相談窓口は、障害者と行政機関等・事業者の双方から信頼を獲得し、相談窓口の行う事実確認や助言等について双方が納得した上で真摯な対応がなされるよう、相談対応を行うことが必要です。  相談対応に当たっては、窓口での相談のみでなく、電話やメールによる相談への対応も求められます。また、障害者が求める情報保障を担保することも望ましく、筆談やコミュニケーションボードの活用、手話・電話リレーサービスの活用等、多様な相談手段を準備することが求められます。 ページ10 コラム 1 建設的対話とは  障害者からの求めが過重な負担に当たると判断した場合、行政機関等・事業者は、障害者に丁寧にその理由を説明するものとし、理解を得るよう努めることが望まれます。その際、障害者にとっての社会的障壁を除去するための必要かつ実現可能な対応案を障害者と行政機関等・事業者が共に考えていくために、障害者と行政機関等・事業者の双方がお互いに相手の立場を尊重しながら、建設的対話を通じて相互理解を図り、代替措置の選択も含めた対応を柔軟に検討することが求められます。  例えば、障害者本人が社会的障壁の除去のために普段講じている対策や、行政機関等・事業者が対応可能な取組等を対話の中で共有する等、当事者間での対話を通じて相互理解を深め、様々な対応策を柔軟に検討することが円滑な対応に資すると考えられます。 建設的対話の具体例 ・車椅子を利用している宿泊客が宿泊先のホテルでシャワーチェアの貸出を求めたが、ホテルではシャワーチェアを貸出備品として用意していなかったため、対応できないことを伝えた。 宿泊客は、シャワーチェアの代わりに一般的なパイプ椅子の貸出を求めたが、ホテルはパイプ椅子の貸出は貸出可能な備品のリストに載っていないため出来ないことを伝えたが、「借りられないとシャワーを浴びられない」という宿泊客の声に基づき、上司と相談した上で、パイプ椅子を貸し出すこととした。 ・市役所の窓口において、視覚障害がある来庁者から「文字の資料を点訳してほしい」と言われたが、点訳機械がその場になかったため窓口担当者は、点訳はすぐの対応が難しいことを伝えた。 担当者は、代わりにテキストデータの提供を申し出たが、来庁者から読み上げ録音データがあればそちらを提供して欲しいと依頼されたため、録音データであればすぐに提供することが可能であったことから、録音データを渡すことにした。 ・病院の待合室において、患者から周囲の話し声や足音に対して過剰に反応してしまい、精神的に疲れてしまうため、診察の順番を優先的に変更して欲しいと申し出があったが、病院側は、予約順番の変更は難しいことを伝えた。 代わりに静かな個室を待合場所として提供可能であることを伝えると、患者が個室への移動を希望したことから、個室に案内した。  上記の例のように、障害者からの申し出をそのまま実施することが難しい場合に、どのような代替措置を講ずることができるか、柔軟に検討するための相互のやり取りを建設的対話といいます。  なお、建設的対話を一方的に拒むことは合理的配慮の提供義務違反となる可能性があります。 ページ11 3 関係部局・関係機関との連携・協力体制の構築  国及び地方公共団体には、様々な障害を理由とする差別の解消のための相談窓口等が存在しています。障害者差別解消法は、新たな機関は設置せず、既存の機関等の活用・充実を図ることとしているところ、個々の相談者のニーズに応じた相談窓口等の選択肢が複数あることは望ましく、国及び地方公共団体においては、適切な役割分担の下、相談窓口等の間の連携・協力を図ることにより、障害を理由とする差別の解消に向けて、効率的かつ効果的に対応を行うことが重要です。  相談対応に当たっては、事案の内容に応じて、相談者からの相談を受け付けた窓口で、相談受付から事案の終結まで対応を行う場合もあれば、内部の関係部局や都道府県・国等の外部の機関と連携・協力しながら対応することにより、効率的かつ効果的に対応を行える場合もあります。このため、事前に内部の関係部局との間で連携・協力体制を構築しておくことが重要です。例えば、相談を受けた事案の相手方が、当該地方公共団体内の他部署が所管する事業者であった場合は、当該事業者に直接連絡を行うのではなく、地方公共団体内の他部署に確認し、相談窓口担当課室と所管部署のどちらが事業者に連絡をとるか認識合わせを行うことが有効と考えられます。  また、都道府県や国(地方支分部局を含む。以下同じ。)等の外部機関と連携する事案も想定されることから、あらかじめ関係機関の連絡先を把握するとともに、後述する障害者差別解消支援地域協議会を設置すること等により、関係機関の相談窓口間等における情報共有方法を整理し、日ごろから障害者差別に関する取組状況等を関係機関間で共有する等連携体制を構築しておくことが望ましいです。  相談対応等に際して、想定される役割分担は下記のとおりですが、下記の役割分担はあくまでも原則であり、相談の個別性に留意し、柔軟に相談対応に当たることが必要です。   ■ 市区町村  一次相談受付から事案の終結までの対応を担います。障害者や事業者が所在している地域における障害を理由とする差別の解消を促進するために、相談者にとって一番身近な市区町村が基本的な窓口として、一次相談受付から事案の終結まで対応することが重要です。  都道府県や国に事案の対応を依頼した後も、一次相談を行った窓口として必要に応じて適切に対応することが求められます。 ■ 都道府県  広域的・専門的な相談における市区町村との連携や、市区町村のみでは十分な対応が困難な場合の市区町村への助言や、事案の引取り等を行います。また、必要に応じて一次相談受付から事案の終結までの対応も実施します(相談者が居住する市区町村に相談できない事情がある場合の対応等)。  市区町村や国に事案の対応を依頼した後も、一次相談を行った窓口として必要に応じて適切に対応することが求められます。 ページ12 ■ 国(事業所管府省庁)  広域的・専門的な相談における地方公共団体との連携や地方公共団体のみでは十分な対応が困難な場合の地方公共団体への助言や、事案の引取り等を行います。また、必要に応じて一次対応から事案の終結まで対応を行います。(全国的な影響が想定される事案への対応等)  さらに、障害者差別解消法第12条の規定により、主務大臣は、事業者における障害を理由とする差別に関し、特に必要があると認めるときは、対応指針に定める事項について、当該事業者に対し、報告の徴収並びに助言、指導及び勧告を行うことができます。  なお、事業分野ごとの国の相談窓口を明確化し、内閣府のHPで公表しているので必要に応じて参照してください。  【事業分野相談窓口(対応指針関係)】  https://www8.cao.go.jp/shougai/suishin/sabekai/pdf/soudan/taiou_shishin.pdf ■ 内閣府障害者施策担当  地方公共団体等からの問合せ等に対応するほか、必要に応じて地方公共団体や国(事業所管府省庁)との間の連携・調整を行います。  また、有識者によって構成される検討会において、地方公共団体の相談窓口担当者向けにケーススタディ集やマニュアルの作成を行っています。さらに、事業分野ごとの相談窓口の明確化を各府省庁に働きかけ、当該窓口一覧の作成・公表を行うほか、障害者や事業者、都道府県・市区町村等からの相談に対して法令の説明や適切な相談窓口等につなぐ役割を担う国の相談窓口「つなぐ窓口」を令和5年10月から令和7年3月まで試行的に開設しています。  https://www8.cao.go.jp/shougai/suishin/sabekai_tsunagu.html ページ13 ● 広域的な相談については、以下の役割分担で対応及び調整を行います。 (作業者注:以下、広域的な相談について、図の説明) 障害者からの相談の場合 @居住地方公共団体内にある事業所からの差別的取扱い等に関する相談の場合 A市在住の相談者がA市窓口へ相談する、というように、相談者居住地の市区町村が対応する。 A居住地方公共団体外にある事業所からの差別的取扱い等に関する相談の場合 パターンA:相談者の居住地と、関係する事業所の所在地が同一都道府県の場合 C県内のA市在住の相談者がC県内のB市の事業所からの差別的取扱いに関して相談する際には、相談者居住地の市区町村であるA市窓口が対応する。また、A市窓口は必要に応じ事業所所在の市区町村であるB市窓口と調整を行う。 ※関係する事業所がC県B市とC県D町にある場合、A市窓口が一時的に受け付けるが、適宜C県窓口に協力を要請する。 パターンB:相談者の居住地と、関係する事業所の所在地が別の都道府県の場合 C県A市在住の相談者がD県内のB市の事業所からの差別的取扱いに関して相談する際には、相談者居住地の市区町村としてA市窓口が対応する。また、必要に応じ事業所所在の市区町村であるB市窓口と調整を行う。A市窓口は必要に応じC県窓口に協力要請し、C県窓口は必要に応じD県窓口に協力要請する。D県窓口とD県B市窓口は、調整を行う。 事業者からの相談の場合 @関係する事業所が1か所のみの場合 A市に所在する事業所がA市窓口へ相談する、というように、関係する事業所所在地の市区町村が対応する。 A関係する事業所が1つの都道府県のうち、2つ以上の市区町村にまたがる場合 C県A市とB市に所在する事業所がC県窓口に相談する、というように、関係する事業所所在の都道府県が対応する。 B関係する事業所が2つの都道府県にまたがる場合 A県とB県に所在する事業所が、A県窓口とB県窓口へ相談する、というように、関係する事業所所在の都道府県同士が対応する。A県窓口とB県窓口は調整を行う。 C関係する事業所が3つ以上の都道府県にまたがる場合 A県に所在する事業所、B県に所在する事業所、C県に所在する事業所、の3つの事業所が、所管省庁窓口へ相談する、というように、関係する事業所の所管官庁が対応をする。(広域的な相談について、図の説明はここまで) (作業者注:図の説明ここまで) ページ14  ただし、上記は対応について基本的な考え方を示したものであり、障害者が居住する市区町村に相談できない事情がある場合等があるため、地域の事情や事案に応じて適切な対応を行うことができる相談機関について検討し、対応への協力を求める必要があります。 ● また、内部の関係部局や外部の機関と連携・協力するに当たり、相談者の個人情報(要配慮個人情報※を含む)の取扱いについてルールを整備しておくことも重要です。相談内容には、当然ながら要配慮個人情報である障害に関する情報などが含まれることから、相談対応に関係する職員等に要配慮個人情報を含む個人情報を取り扱うことへの注意喚起を行う必要があります。 ※ 「要配慮個人情報」とは、不当な差別や偏見その他の不利益が生じないようにその取扱いに特に配慮を要するものとして次の(1)から(11)までの記述等が含まれる個人情報を言います。(個人情報の保護に関する法律(平成15年法律第57号)第2条第3項)。これらの情報を推知させる情報に過ぎないものは、要配慮個人情報には当たりません。 (1)人種 (2)信条 (3)社会的身分 (4)病歴 (5)犯罪の経歴 (6)犯罪により害を被った事実 (7)身体障害、知的障害、精神障害(発達障害を含む。)その他の規則で定める心身の機能の障害があること(個人情報の保護に関する法律施行令第2条第1号)。 (8)本人に対して医師その他医療に関連する職務に従事する者((9)において「医師等」という。)により行われた疾病の予防及び早期発見のための健康診断その他の検査((9)において「健康診断等」という。)の結果(同条第2号)。 (9)健康診断等の結果に基づき、又は疾病、負傷その他の心身の変化を理由として、本人に対して医師等により心身の状態の改善のための指導又は診療若しくは調剤が行われたこと(同条第3号)。 (10)本人を被疑者又は被告人として、逮捕、捜索、差押え、勾留、公訴の提起その他の刑事事件に関する手続が行われたこと(犯罪の経歴を除く。)(同条第4号)。 (11)本人を少年法(昭和23年法律第168号)第3条第1項に規定する少年又はその疑いのある者として、調査、観護の措置、審判、保護処分その他の少年の保護事件に関する手続が行われたこと(個人情報の保護に関する法律施行令第2条第5号)。 出典:(令和6年4月1日実施)個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(行政機関等編) ページ15 ● 障害者差別解消支援地域協議会(以下「地域協議会」という。実践編において同じ。)  地域協議会とは、障害者差別解消法第17条の規定に基づくものであり、地域における様々な機関等が、障害者差別に関する相談及び当該相談に係る事例を踏まえて障害者差別解消のための取組を効果的かつ円滑に行うため、組織されるものです。具体的には、構成機関等内での必要な情報の交換、障害者からの相談や相談事例を踏まえた障害者差別解消の取組に関する協議等を行います。  また、地域協議会は構成機関等に対し、相談を行った差別事案に関する情報の提供、意見の表明等の必要な協力を求めることができます。  地域協議会の役割は、各地方公共団体の実情により異なっており、相談事例について適切な相談窓口を有する機関の紹介や、具体的事案の対応例の共有・協議、協議会の構成機関等における調停、斡旋等による紛争解決、複数の機関で紛争解決等に対応することへの後押し等を実施しています。  地域協議会の構成員は、各地方公共団体によって異なりますが、行政機関のほか、障害当事者団体や医療・福祉・教育等の分野の業務従事者、商工会議所等の事業者団体、弁護士や学識経験者等が想定されます。 ページ16 コラム 2 地域協議会運営の事例  地域協議会の組織運営方法の例としては以下のようなものが考えられます。ただし、以下の例はあくまでも一例であり、地域の事情に応じた地域協議会の組織や運営を行うことが求められます。  地域協議会の本体会議では、年2回程度の定期開催とし、地方公共団体として障害者差別解消法に関する取組の全体像を共有し、今後行うべき施策について検討を行います。議題例としては、障害者差別解消法に関する条例の制定・改正や、条例に基づく施策の検討、相談件数の全体像、障害者差別解消法の理解促進方法(事例の共有・公開方法や、研修の実施について)等が考えられます。  また、本体会議の下部組織として、必要に応じて年に4回程度の不定期で開催する会議体を置くことも相談に迅速に対応することにつながります。  この会議体では、相談対応に苦慮している事案や対応に行き詰まった事案等について、地域協議会構成員のうち特に当該事案に関する事業分野や障害種別等に詳しい方や、外部有識者等による議論を通じ、事案に対する助言や、あっせん等の調整方法の判断、事案の事後的分析を行います。  相談事案に対してより機動的な対応が求められることから、定足数を地域協議会よりも少なく設定し、柔軟に開催できるようにします。適切な事案が無い場合には、架空の事例を作成しケーススタディを行うことで対応力の向上を図ります。 ※ 内閣府にて別途作成しているケーススタディ集も適宜参照してください。(https://www8.cao.go.jp/shougai/suishin/jirei/case-study.html) ■ その他、適切な体制の構築  相談者が希望すると想定される様々な要望に応えられるように、必要に応じて上記の関係部局や関係機関のほか、外部の有識者等と協力することができる体制を構築しておくことが望ましいです(障害者、障害当事者団体や弁護士、学識者等をアドバイザーとする等)。 ■ その他、障害に関する相談を受け付ける窓口  相談事案が障害を理由とする差別に関するものではない場合や、再発防止等に当たり障害者の支援等が必要になる場合等に円滑な対応が可能となるよう、必要に応じて連携を行ってください。 ※ 法令編129頁以降を参考にしましょう。 ページ17 コラム 3 地域資源の活用について  地域における障害者差別の解消の促進や個別の相談事案に適切に対応するためには、地域の障害当事者団体や事業者団体と連携することが有効です。  また、障害当事者団体や事業者団体と連携をする場面としては、【普及啓発場面】【相談対応場面】【改善要求場面】が考えられます。  【普及啓発場面】においては、障害者差別解消法の理解促進のために障害当事者団体や事業者団体等に説明の機会を設けたり、チラシや冊子を配布するという手段により、普及啓発を行います。また、地域の住民や事業者への周知に当たって協力を依頼します。  【相談対応場面】においては、相談事案に対して、どのような配慮が取り得るか、障害当事者団体や事業者団体に意見を伺います。  【改善要求場面】においては、事業者によって不当な差別的取扱いが行われたり、合理的配慮の提供がなされなかった際に、事業者に障害を理由とする差別に該当する旨を伝え、改善するように伝達を行う場合があります。この時、事業者が改善に応じない場合、事業者団体に相談をして事業者団体から事業者に働きかけてもらうという方法もあります。なお、障害者差別解消法や条例により、斡旋や指導権限がある地方公共団体においては、この方法以外にも、権限行使を行うという方法がありますが、事業者団体を通じて事業者に自主的な改善を促すことが有効な場合があることに留意します。 ページ18 4 障害者差別解消に向けた周知・啓発  相談窓口における個別の相談対応だけでなく、障害者差別解消法についての正しい理解の促進も重要です。  各地方公共団体の障害者施策担当課等においては、障害者差別解消法の普及啓発の取組を進めるとともに、障害のある人とない人との交流や意見交換する場を作ること等により、障害の有無によって分け隔てなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会の実現を推進することが重要です。 ■ 相談対応を通じた普及啓発の取組  障害者差別解消法について正しい理解をしていただくためにも、相談対応を通じ、改めて障害者差別解消法の趣旨や内容を相談者に説明してください。 > 障害者に対しての普及啓発 ⇒ 行政機関等・事業者による合理的配慮の提供は、障害者からの社会的障壁の除去を求めた場合に過重な負担でないときに提供されるものであること。 ⇒ 合理的配慮の提供は、相互理解と建設的対話の上になされるものであること。 ⇒ スロープやエレベーターの設置等の環境の整備は努力義務であり、必ずしも行政機関等・事業者が整備しなければならないものではないこと。 > 事業者等に対しての普及啓発 ⇒ 事業者等による合理的配慮の提供は、障害者からの社会的障壁の除去を求めた場合に過重な負担でないときに提供されるものであるが、社会的障壁の除去を求められる前に、相手方に希望する配慮を尋ねることも事前的措置として重要であること。 ⇒ 合理的配慮の提供は、相互理解と建設的対話の上になされるものであること。 ⇒ スロープやエレベーターの設置等の環境の整備は努力義務であり、必ずしも行政機関等・事業者が整備しなければならないものではないが、不特定多数の障害者を主な対象として行われる事前的改善措置として環境の整備を行うことで、個別の場面において、個々の障害者に対して行われる合理的配慮を的確に行うことやその都度の合理的配慮の提供が不要になるという点で中・長期的なコストの削減・効率化にもつながること。 ⇒ 環境の整備を実施することは障害者だけではなく、高齢者や子連れの利用者等にとっても利便性が高くなるものであること。 ■ 地域協議会と連携した普及啓発の取組  地域協議会に参画している障害当事者団体や事業者団体を通じて、説明の機会を設けたり、チラシや冊子を配布する等により普及啓発を行うことも考えられます。  また、地域協議会の中で、相談対応を行った事案を紹介することで障害当事者団体や事業者団体を通じて共有され、再発防止が期待できます。 ページ19 ■ 障害当事者団体や事業者団体と連携した普及啓発の取組  地方公共団体や障害者差別解消相談センター等が主催し、事業者向けの説明会を行うほか、障害者福祉イベント等での周知啓発を実施することも重要です。  障害当事者団体や事業者等からの出前講座の依頼があった場合には、積極的に対応を行うことで、事案が発生した際の円滑な連携につながります。 コラム 4 障害者差別解消法や相談窓口の普及啓発  障害者の中には、障害を理由とする差別を受けたとしても「差別である」という認識がなかったり、認識があっても相談先が分からずに抱え込み、我慢してしまっている方もいます。結果として、どこへも相談できず苦悩してしまう人もいることから、障害者差別解消法についての正しい理解の促進と、困ったときには相談できる相談窓口の存在を周知することが重要です。  困ったときに、「相談して良かった」と感じてもらえるように、障害者差別解消法や障害者差別に関連する相談窓口が存在することを、広く発信することが求められます。 基本方針では、地域住民に対する啓発活動として、内閣府を中心に、関係省庁、地方公共団体、事業者、障害当事者団体、マスメディア等の多様な主体との連携により、インターネットを活用した情報提供、ポスターの掲示、パンフレットの作成・配布、障害者差別解消法の説明会やシンポジウムの開催など、アクセシビリティにも配慮しつつ、多様な媒体を用いた周知・啓発活動に積極的に取り組む旨、記載されています。 ページ20 5 相談体制の構築  法第14条において、国及び地方公共団体は、障害者及びその家族その他の関係者からの障害を理由とする差別に関する相談に的確に応ずるとともに、障害を理由とする差別に関する紛争の防止又は解決を図ることができるよう、人材の育成及び確保のための措置その他の必要な体制の整備を図るものとされています。  国においては、主務大臣がそれぞれの所掌する分野ごとに法第12条に基づく権限を有しており、各府省庁において所掌する分野に応じた相談対応を行っています。また、地方公共団体においては、障害を理由とする差別の解消に関する相談につき分野を問わず一元的に受け付ける窓口や相談員を配置して対応する例、各部署・機関の窓口で対応する例などがあります。  相談窓口担当者は、個人として対応しているのではなく、組織として対応していることを認識し、組織内での連携を適切に行うことが大切です。   ● 基本的な考え方  障害者差別解消法は、障害の有無によって分け隔てられることなく、互いに人格と個性を尊重し合いながら共に生きる共生社会を実現することを目的とし、不当な差別的取扱いや合理的配慮の不提供を差別と規定し、行政機関等や事業者に具体的取組を求めています。  障害者差別についての、相談を実施するに当たっては、建設的対話を促進することが求められます。 ● 相談窓口の主な業務  相談窓口では、障害を理由とする差別の解消を促進する機関として、紛争防止や解決を図ることが求められ、具体的には、以下の業務を行うことが望ましいと考えられます。 @ 法令に関する理解促進 障害者と行政機関等・事業者双方の法令に対する理解を促進すること A 適切な判断 相談事案について、法令に基づき個々の事案の事実関係を踏まえて適切な判断を行うこと B 是正・助言 障害を理由とする不当な差別的取扱い、合理的配慮の不提供が発生していると考えられる場合にはその是正を図り、今後の円滑な対応につながる助言等を行うこと C 予防のための取組の周知 障害者差別に関する紛争を未然に防ぐために行うべき取組について、障害者と行政機関等・事業者に周知・説明すること ページ21 5.1 相談窓口担当者への助言・支援体制の整備 ● 相談対応を複数人で行う場合でも一人で行う場合でも、相談窓口担当者を支援できる環境(体制や支援の仕組み等)を整えることが重要です。具体的には、以下のような点に留意することが考えられます。 【管理者による見守り・支援】  管理者が相談窓口担当者の状況を日常的に把握することで、適時相談窓口担当者に助言を行うことや、相談窓口担当者が管理者に気軽に相談、提案、懸念の表明、失敗の報告等をできるような心理的安全性の高い関係性作りを心掛けてください。 【他の職員の存在を認識できる執務場所】  他の相談窓口担当者が担当している相談事案の状況に気づき、適宜助言を行うことができるように、相談窓口担当者同士は出来る限り同じ執務室内で業務を行うようにしてください。 【コミュニケーションツール】  他の相談窓口担当者と気軽にオンラインでコミュニケーションを取り、助言等を行うことが出来るチャットツール等を導入することが考えられます。 【有識者・専門家による支援】  相談窓口担当者が対応に困った際には、相談窓口に配置されているアドバイザー※や地域協議会の構成員等から助言をもらえる仕組みを整備することが考えられます。 ※ アドバイザーの配置  対応困難な相談事案や、相談者が希望すると想定される様々な要望に応えられるように、障害者、障害当事者団体や弁護士、学識者等をアドバイザーとし、連携・協力できる体制を整備しておくことが望ましいです(常に連絡をとることができるようにしておく、月1回程度、相談窓口担当者とアドバイザーとの相談の場を設ける等)。 5.2 相談窓口担当者のメンタルケア > 相談対応者のメンタルケアの方法 ● 相談者が理不尽な要求や主張をし続ける事案や、当事者間の板挟みになる事案に対応している相談窓口担当者は、心身ともに疲労を抱えるケースがあることから、相談窓口担当者のメンタルケアが重要となります。 ● このような心身の疲労から来る、相談窓口担当者のモチベーションの低下や健康状態の悪化を避けるために、相談対応は体制上、可能な場合は、二人以上で行うことが望ましいと考えられます。二人以上で対応することで「あのときはこう言ったじゃないか」といった”言った、言わない論”を回避できたり、一人の相談窓口担当者に集中的に心身への負担を伴う言葉が発せられることを回避することが可能です。 ページ22 ● 複数人で相談対応を行うことが難しく、単独で相談対応を行う場合は以下のような留意が必要です。 ・ 相談窓口担当者が、業務終了後も必要以上に事案について考え続けるといったことの無いよう、業務終了前に、上司や他の相談窓口担当者に当日の事案について情報共有をすることのできる環境を整える等の配慮を行ってください。 ・ 一人で事案を抱え込まないよう、周囲の相談窓口担当者が積極的に声掛けを行ってください。 【専門家による支援】 定期面談やストレスチェックを行うことで、メンタルケアを必要とする相談窓口担当者の有無や心身の状態を確認してください。メンタルケアを必要とする相談窓口担当者がいると判断される場合には、心理ケアに関する専門性を持った職員を配置する等、心のケアを相談できる体制を整えてください。 ● また、地域横断の取組として、相談窓口担当者や関係者が一同に会し、日々の状況を共有できるような場があると、同じ悩みを抱える仲間に相談できる機会となり、相談窓口担当者同士での会話も弾み、心の支えにも繋がります。 > 相談機関で相談事案への対応の振り返り ● 相談機関において、相談窓口担当者内で対応方法について共有を行うほか、事案の対応が終了した後、必要に応じて、相談機関内で振り返りを行うことも考えられます。 ● その際には、事案の対応結果を振り返るため、事案の問題点、問題に対する取組内容、対応結果、課題等を記載できる「振り返りシート」等をあらかじめ整理することが考えられます。 > 相談窓口担当者の自己研鑽の方法 ● 日々、相談窓口職員は困難事案を含む様々な事案に対応することになります。個別性の高い相談対応において「こうすれば事が上手く運ぶ」、といった唯一無二の法則は無く、また、相談支援方法の研究や実践技術の発展は日進月歩であることから、相談窓口担当者は自己研鑽を重ね、様々な引出しを持ち、その場その場で適切な対応を行えるよう自身のスキルを高めていくことが必要です。 ● 相談対応のスキルを高めていく場面は、相談事案解決に向けた日々の連携の場面に加え、定期的に開催する有識者も交えた会議の場等を活用することが考えられます。 ページ23 【相談事案解決に向けた日々の報連相の場面】 日々の上長への報告・相談の中で、「もっとこうすれば良いのでは」という観点から議論することが望まれます。その際は、過去の事例を確認したり、他の相談窓口担当者の経験を聞いたりすることも有効です。 【定期的に開催する有識者を集めた会議】 月次で障害者差別解消法に関する有識者(障害者、弁護士、学識経験者等)を集め、相談事例に対する対応方法について意見をもらう場を設置している地方公共団体もあります。このような有識者の意見の中には、日々相談対応をしている相談窓口担当者とは視点の異なるものが多くあり、新たな知見を得ることができることから、会議に参加したり、議事録を確認することが、自己研鑽として有効であると考えられます。 特に、障害者からのフィードバックを得ることは、ユーザー視点でのサービス評価と質の向上を実現する上で有用です。 > 相談者の意見に基づく、相談対応の仕組みの改善 ● 相談窓口担当者が日々現場で感じる課題意識や改善提案を吸い上げ、現場を改善していくことが相談窓口担当者の意欲向上にも繋がります。特に広域支援相談窓口担当者等を配置している都道府県等においては市区町村の現場の相談窓口担当者の意見を吸い上げることができるよう、定期的な情報交換会を設けて意見の収集を行うことが望ましいと考えられます。 5.3 相談者から取得する個人情報や相談内容の取扱い ● 事案解決に向け、関係者と協議を行うに当たっては、必要に応じ、相談者の個人情報(要配慮個人情報を含む。以下同じ。)や相談内容を関係者で共有する必要があります。相談窓口の職員は、多くの相談者やその家族について他人が容易に知ることのできない個人情報を詳細に知ることができる立場にあることから、個人情報については、適正に取り扱う必要があります。 ● また、国及び地方公共団体職員は、国家公務員法(昭和22年法律第120号)第100条及び地方公務員法(昭和25年法律第261号)第34条において、「職員は、職務上知り得た秘密を漏らしてはならない。その職を退いた後も、また、同様とする。」とされており、守秘義務が課せられています。なお、地方公共団体から相談窓口業務を委託された事業者の職員においても、各地方公共団体の個人情報保護条例等において、受注者にその義務が課せられている場合があります。 ● 相談者の個人情報や相談内容を関係者で共有する際には、相談を受けた行政機関外に共有する際は必ず事前に相談者から同意を得ることが必要です。行政機関内の他部署への共有であっても、相談者によっては共有されたくない部署がある方もいるため、事前に相談者の同意を得ておくようにしましょう。 ページ24 ● 同意を得る際には、以下の点に注意してください。 > 共有する目的やその範囲・内容の説明  個人情報や相談内容がどのような目的で、どのように扱われるかについて、詳細を説明し、十分な理解や納得を得た上で、情報共有についての同意を取得してください。具体的には、以下のような事項を説明してください。 * 情報共有の目的や必要性 * 情報共有する相談内容や個人情報の範囲 * 情報共有する部署 * 情報共有した後の対応や支援の方法 * 情報共有した結果や内容のフィードバックの方法 ※ 個人情報の共有について相談者に説明する際には、分かりやすい言葉で相手が理解できるよう、丁寧に説明することを心掛けてください。 > 匿名化や概略化の必要性確認  相談者からの同意が得られなかったり、抵抗を示された場合には、匿名化や概略化等個人を特定できないような形で情報共有を行うことを提案してください。特に、差別をした相手方との調整をする際には、個人が特定できないような形で解決を望まれる場合も想定されます。どのような伝え方であれば、情報共有に同意をいただけるのか、慎重に確認してください。なお、個人を特定できないような形で情報共有を行ったとしても、具体的な状況等から相手方に特定される可能性が残ることは、相談者にしっかりと説明する必要があります。  一方、個人を特定できる情報をはじめ、共有できる情報の範囲が狭まると、相手方の具体的な対応の検討を困難にし、事態の是正が難しくなってしまう可能性があることも説明してください。 > 必要最小限の情報共有  情報共有を行う際には、必要最小限の相談内容や個人情報に限定することを心掛けてください。情報共有の目的や範囲に応じて、相談内容や個人情報を選別し、不要な部分は省略してください。例えば、相談内容に関する意見やアドバイスを求める場合は、相談者の氏名や住所等の個人情報は必要ありません。また、相談内容に関する知識や経験を共有する場合は、関係者や事案が明らかにならないようにするため、相談内容を概略化する等の対応が必要となります。 ページ25 > 情報共有する相談内容や個人情報の適切な管理  情報共有を行う際には、情報共有する相談内容や個人情報を適切に管理することが求められます。情報共有する方法や手段によって、以下の点に注意してください。 * 口頭で情報共有する場合は、第三者に聞かれないように注意してください。 * 文書で情報共有する場合は、紛失や盗難等の事故を防ぐために保管場所や管理者を定めてください。 * 電子メールやインターネット等で情報共有する場合は、暗号化やパスワード等のセキュリティ対策を行ってください。 > 相談者への、情報共有の結果や内容のフィードバック  部署での情報共有を行った後は、相談者に可能な範囲でフィードバックすることが望ましいです。フィードバックを行うことで、相談者に情報共有の透明性や信頼性を高めることができます。また、相談者の意見や感想を聞くことで、情報共有の効果や改善点を把握することが可能となります。 > 個人情報漏えいリスクを最小化するための仕組みづくりの必要性  個人情報の管理の重要性についての認識が十分にあっても、時間が経つと次第に意識が薄れてしまい、ある日情報漏えいを起こしてしまう可能性はゼロではありません。相談窓口担当者などの関係者に対して定期的に個人情報の取扱いについて注意喚起や研修を行うとともに、書面のやり取りで個人情報を扱う場合は、一人の担当者に任せきりにせず、複数人で正しく個人情報が扱われているかを確認する等、組織として個人情報が漏えいしないための仕組みを作ることが重要です。 ページ26 6 相談対応の流れ 6.1 対応の流れの全体像(障害者からの相談の場合) ※ 以下の図の各プロセスについては「6.2対応の流れの詳細」で説明します。各プロセスに記載している番号は6.2における見出しの番号と対応しています。 ※ 以下の図のフローは市区町村で一次受付を行った場合の流れを想定しています。本フローにおける市区町村は、障害者差別に関する条例を定めておらず、報告徴収等独自の権限を有していない場合であって、都道府県において権限(障害者差別解消法第22条及び障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律施行令(平成28年政令第32号。以下「施行令」という。)により主務大臣から都道府県に委任された権限又は都道府県の定める条例に基づく独自の権限)を有しているケースを想定しています。 ページ27 (作業者注:障害者からの相談の場合について、図の説明) 「相談の受付」は、障害者から直接相談を受付ける場合と、他の部局・自治体、国の相談窓口等からの取次により相談を受付ける場合がある。「相談の受付」を行った後、関係者間での検討が不要でその場で完結できる場合は「事案の終結」となる。関係者間の検討が必要な場合は「関係者での情報共有・対応方針検討」へ進む。(「相談の受付」に係る詳細は6.2.1参照) 「関係者での情報共有・対応方針検討」を行った際、相談者が窓口からの助言のみを希望する場合等は、「事案の終結」となる。相談者が相手方との調整や相手方への指導を希望する場合等は、「事実確認」へ進む。(「関係者での情報共有・対応方針検討」に係る詳細は6.2.2参照) 「事実確認」を行った後、「関係者間での情報共有・事案の評価分析・対応方針の検討」へ進む(「事実確認」に係る詳細は6.2.3参照) 「関係者間での情報共有・事案の評価分析・対応方針の検討」を行った後、「具体的な対応の実施」へ進む(「関係者間での情報共有・事案の評価分析・対応方針の検討」に係る詳細は6.2.4参照) 「具体的な対応の実施」の例には相手方への説明、相談者と相手方との調整等、がある。「具体的な対応の実施」を行った後、「事案の終結」へ進む場合と、「事業者が対応を拒否する場合」へ進む場合がある。(「具体的な対応の実施」に係る詳細は6.2.5参照) なお、事案対応の中で、新たな事実がわかった場合等は、「関係者での情報共有・対応方針検討」から「具体的な対応の実施」までを複数回繰り返す可能性がある。 「事業者が対応を拒否する場合」は、都道府県に連携・協力を依頼するか、国に連携・協力を依頼する。都道府県に連携・協力を依頼した後に、国に連携・協力を依頼することもあり得る。都道府県や国は、「事案の終結」に向けて助言・調整等を行う。(「事業者が対応を拒否する場合」に係る詳細は6.2.6参照) 都道府県や国に連携・協力を依頼したが、差別的な取扱いが繰り返される場合等は、「都道府県または主務大臣による報告徴収、助言、指導、勧告等」へ進むことがある。この場合、「都道府県または主務大臣による報告徴収、助言、指導、勧告等」を経て「事案の終結」に至る。 (障害者からの相談の場合について、図の説明はここまで) (作業者注:図の説明ここまで) 相談の受付に至るまでのルートとして、障害者から直接相談を受ける場合のほか、他の部局や、都道府県・国で設置する相談窓口等から取り次がれる可能性があります。   ページ28  6.2 対応の流れの詳細(障害者からの相談の場合) 6.2.1 相談の受付 (1) 相談受付時の心構え ● 相談を適切に受けるためには、相談者に対する応接が重要となります。相談受付時の心構えとしては以下の点が挙げられます。 * 公正・中立な立場で対応してください。 ⇒ 当事者双方から事実確認をした上で判断するという姿勢を示してください。 ⇒ 相談者の主張のみを聞いて拙速な判断を示すような発言は避けてください。 ⇒ 相談者の感情を受け止めつつも、事実を聞き取るようにしてください。 * 障害者と行政機関等・事業者の相互理解を醸成することを目指し、建設的対話を促進してください。 ⇒ 建設的対話の促進  相談事案の解決のためには、相談窓口において建設的対話を促進し、相互理解を実現することが望まれます。  そのため、当事者同士がお互いの主張を頑として曲げない、という姿勢を貫くのではなく、お互いが相手の状況を理解し、少しでもお互いが納得できる改善・対応方法を考えることが必要であることから、相談窓口では、障害者と行政機関等・事業者の双方から信頼を獲得し、相談窓口の行う事実確認や助言等について双方が納得した上で真摯な対応がなされることが求められます。  相談窓口担当者は、相談事案が不当な差別的取扱いや合理的配慮の不提供に該当するか否かを見定めるための事実確認を行うことが必要となる場合がありますが、どちらが悪い/悪くないという判断をするのではなく、共生社会の実現に資するかどうかという観点で対応を行うことに留意する必要があります。相談対応に当たっては、障害者と行政機関等・事業者の双方に対して、建設的対話の重要性を認識してもらえるよう、心掛けてください。 ※ 初めから権限行使を求められた場合でも、まずは対話が重要であることを伝えてください。 * 障害に対して、偏見や先入観を持たないようにしましょう。 ⇒ 障害の程度、置かれている状況は人によって様々であり、たとえ同じ障害種別であっても、対象者や場面が異なれば必要な対応は異なります。また、相談対応者から見て、相談者が一見過剰な要求をしているように感じられても、実際には相談者の障害特性に由来している場合があることにも留意が必要です。 * 相手の人格を尊重し、親切、丁寧な応接を行ってください。 ⇒ 分かりやすい言葉で説明や確認・質問を行いましょう。 ⇒ 話し方や聞き方を工夫してください。 ページ29 ⇒ 相談者に寄り添い、親身に接しましょう。相談者が主訴を明確に伝えられない場合であっても、粘り強く対応してください。 ⇒ 介助者や通訳者がいる場合でも、障害者本人が相談者であれば本人に向かって話をしてください。 ⇒ 相談者の話を遮ったり、否定したりすることは避けてください (相談者の話を十分に聞かないままに説明や反論を行ってしまうと相談者から必要な情報が十分に収集できない可能性があります) 。 ⇒ 傾聴する中で、話の矛盾点等が見受けられたとしても、相談者本人は事実として相談しているため、安易に否定・反論せず、共感して話を聞きつつ、できること・できないことを明確にし、対応困難な点については繰り返し伝えてください。 ⇒ 専門的な立場で相手を言い負かしたり、高圧的な態度や指示・説教的な態度をとったりすることは避けてください(相談者は必ずしも法令に詳しいとは限らず、制度を十分理解していない場合等もあります)。 * 相談者本人の意思決定を尊重してください。 ⇒ 本人が自身の考えに沿って意思決定できるよう寄り添う姿勢が大切です。 ⇒ 相談者が相談窓口の職員の考えと異なる決定や選択をしても、自身の価値観を押し付けず、相談者の決定を尊重することが求められます。 ⇒ 相談窓口の職員は、複数の解決方法を提示し、その中から本人が最良と考える選択ができるように工夫してください。 * 冷静な対応を心掛けてください。 ⇒ 相談者が興奮しているような場合でも、常に冷静さを失わず、受容的態度で相談者の話を聞いてください。対話を続けることが難しい場合には、対応者を変更することも検討してください。 ⇒ 相談者の要望が明確になっていない場合は、性急に要約しようとせず、まずは相談者の主張を反復したのちに、対話を通じて徐々に整理、要約を行ってください。その際には、相談に適切な対応をするために、事実と要望を正確に把握したい旨を伝えてください。 ⇒ コミュニケーションが難しいと思われる場合でも、敬遠したり、分かったふりをせず、「明確に」「ゆっくり」「丁寧に」「繰り返し」相手の意思を確認してください。 ● 記録の必要性 * 相談対応を行って得た個人情報や相談内容は、相談事案の解決や振り返りのために、相談者から同意を得た上で記録しておく必要があります。また、より正確かつ客観的に相談者や相手方の認識や主張を確認するため、要約のみでなく、電話で発言された内容や、相談メールの文面等も記録しておくことが望ましいです。 ページ30 * 記録された内容は、各相談窓口における行政文書管理規程等に基づいて適切に保管・管理し、一定期間ののち破棄してください。 ● 以下のような理由で相談対応を断ったりすることがないようにしてください。また、相談内容の中に相手方から以下のような理由で対応を断られたというような内容が含まれていた場合には、特に留意するようにしましょう。 * 「先例がありません」 ⇒ 先例は、対話を進める際のきっかけや参考にはなっても、その有無は判断の根拠にはなりません。当事者と、その状況に応じて個別具体的に検討、判断を行う必要があります。 * 「特別扱いはできません」 ⇒ 社会的障壁を除去することで、障害者が生活する上での制限を無くすことが目的であり、障害者を特別扱いするのではありません。 * 「もし何かあったら危ない、困る等」 ⇒ 「もし何か」というような曖昧な想定は、判断の根拠になりません。どのようなリスクがあるかを考え、そのリスクを低減するためにどのような対応ができるのか、具体的に検討する必要があります。 * 「その障害種別ならば」 ⇒ 同じ障害種別であっても、程度(盲/弱視、ろう/難聴、全身/半身 等)や障害者がおかれている状況等によって適切な配慮は異なります。一括りにして機械的に判断するのではなく、個別の状況に応じて、具体的に検討、判断することが必要です。 * 「既存のルール(規則)では」 ⇒ 古いルールが、不当な差別的取扱いの原因になっていたり、社会的障壁になっていたりする場合があります。既存のルールが正しいという考え方で相談対応に当たるのではなく、不適切なルールであれば見直しの可能性も視野に入れて対応に当たってください。 * 「一般常識では」 ⇒ 「常識」の捉え方は人によって異なり、客観的ではないことから判断の根拠にはなりません。各相談事案において、個別具体的に検討を行うことが必要です。 ページ31 コラム 5 女性の障害者に関する相談の場合や、障害児に関する相談の場合の対応  基本方針において、「障害者の性別、年齢、状態等に配慮するものとし、特に障害のある女性に対しては、障害に加えて女性であることも踏まえた対応が求められることに留意」し、「障害のあるこどもには、成人の障害者とは異なる支援の必要性がある」と記載しています。  障害のある女性の場合、その背景事情にも十分に配慮する必要があります。例えば、令和元(2019)年 に世界経済フォーラムが公表した「ジェンダー・ギャップ指数(GGI)」では、日本は 153 か国中 121 位となっています。女性に対する偏見が根深いことをしっかりと認識して、コミュニケーション手段をはじめ、相談窓口担当者や支援者の性別を含めて、本人の希望を確認し、本人の話をよく聞くことから、相談を始めることが重要です。また、婦人科検診の場で受けた差別的取扱いについて男性の相談窓口担当者に話しづらい、過去の性的被害のトラウマから男性の相談窓口担当者への相談に抵抗がある等の事情を抱えている場合があります。そのため、相談対応時における相談窓口担当者の性別に問題がないか、関係者が同席する際にも配慮を希望するか等、相談内容や本人の要望に応じて確認を行うことが望まれます。必要に応じて、男女共同参画担当課との連携・協力を検討ください。  障害児に関する相談の場合、保護者が主張することが多く、障害児本人が自身の気持ちを表現することが少なくなってしまうことがあります。可能な限り障害児本人の話や主張を聞く場を設けるように努めることが望ましいです。また、障害児自身の意見を尊重することで、「自分の意見を聞いてもらった」という安心感や納得感を持ってもらうことができます。障害児の考えと保護者の考えを混同しないよう留意しながら、相談内容の整理を行うことが望まれます。学校等、子供の日常に関係の深い場所での事例の場合、継続的な支援が必要となる可能性があることから、地域やPTA等が運営する委員会等との連携を行うことも解決方法のひとつとなります。 ページ32 コラム 6 傾聴や一緒に考える姿勢を示すことの大切さ  相談者の中には、様々な窓口へ相談したが解決に至らず相談する方、解決してほしいという気持ちというよりも、話を聞いてほしいという気持ちの方もいらっしゃいます。中には話したいことが沢山あるために、主訴を汲み取りにくい方もいらっしゃいます。様々な相談者がいらっしゃいますが、傾聴する姿勢と、相談者と伴走して相談者の話を整理・確認する姿勢が重要です。例えば「一度整理させてください」や「つまりは、こういうことですか?」と聞き返すことで、相談者が自身の主張を整理する機会にもなります。 コラム 7 興奮している相談者への対応  相談者が興奮している際には、いつも以上に冷静に対応することを心掛けましょう。まずは、相談者と相談窓口担当者の互いの信頼関係を築くことを意識して、公正・中立な立場を取りながらも、相手の気持ちに共感を示すことが重要です。相談者の気持ちへの共感を示しつつ、何らかの解決方法を見出すために一緒に考えていきたいという姿勢を見せて、対話に導くように努めましょう。  それでも社会通念から逸脱する主張・要求(内容及び態様)を止めようとしない場合は、相談窓口担当者の心の健康を保つことを意識することも重要です。  例えば、相談時間の目安を大幅に超えたり、障害者差別とは全く関係のない相談となった場合は、慎重に言葉やタイミングを検討した上で、その日の相談対応を中断し、相談窓口で事案を共有し対応方針を検討の上、後日改めて相談対応を実施することも考えられます。  相談者の怒りの矛先は相談窓口担当者ではなく、差別をした可能性のある相手方に向いています。公正・中立な立場であるがゆえに、相談者が望むような回答をできないこともあるかと思います。このような場合でも、相談窓口担当者は相談者の不満が自身に向いているわけではないことを大前提として認識した上で、一人で対応するのではなく、組織のサポートを受けてチームとして対応しましょう。  また、障害者側に寄り添って相談対応を行える支援者や機関を紹介することも有効です。 (2) 相談者から収集する情報 ● 公正中立な立場から相談対応を行うためには、事実確認を十分に行い、事実に基づいて対応することが重要です。このため、相談を受ける際は、相談者に配慮しつつ的確に必要な情報が取得できるようにしてください。 ● 相談対応に当たっては、建設的対話の促進や、相手方と事実認識にギャップが生じた場合の調整等の観点から、相手方にもまず何が起こったか事実確認を行った上で、相手方の主張を聞くことが望ましいです。「相談者が認識している事実」と「相談者の主張や心情」等はいずれも重要ですが、混同しないよう区別して整理しておく必要があります。 ページ33 ● 何が起こったかの事実確認に当たって、裏付け資料の有無を確認する等により事実を客観的に把握するとともに、相談者と一緒に問題点を整理しながら、相談者がどうしたいのかという意向や主訴を正確に把握することが大切です。 ● 相談の内容や主訴がはっきりしない場合や、相談者の生活状況や背景を把握する必要がある場合には、日ごろの状況を知っているサービス担当者に確認する等、関係者との協力を得ながら内容を確認してください。 ● なお、情報を収集する中で、「不当な差別的取扱いに該当するか」や「合理的配慮の不提供に該当するか」という質問があり、明確に判断できない場合は、「事実関係が十分に把握しきれていないため、この相談だけでは判断しかねる」旨を回答してください。 > 相談を受けたときに確認すべき内容  相談に適切に対応するため、下記の項目について確認する必要があります。確認に際しては、障害者差別解消法における不当な差別的取扱いや合理的配慮の提供の該当性を判断する観点から、ケーススタディ集において示している「法的判断の検討プロセスフロー」(「法令編」88頁参照)に示されている判断ポイントとなる事項が明らかになるように留意してください。 @ 相談者の氏名・所属※1・障害者との関係等※1 A 差別を受けたとされる者の氏名・障害種別・性別・年代 B 差別を行ったと思われる者の氏名又は事業者名・所在地・事業種別 C 相談者の主訴・相談内容(日時や状況、経緯、どういう事案が起きたのか等)※2 D すでにどこかに相談をしているかどうか。 E 窓口に対してどのような対応(情報提供、事実確認、事案解消等)を求めているか。 F 情報提供や事案解消を求めている場合、個人情報についてどこまで話しても良いか。 ※1 相談者が必ずしも障害者であるとは限らず、所属する障害当事者団体や親族、友人等からの相談の可能性もあるため、必要に応じて相談者の所属や障害者との関係について確認してください。 ※2 障害者差別解消法に関する相談ではなく、障害者に対する虐待が疑われる事案の場合には、速やかに各地方公共団体の障害者虐待防止センターにつないでください。 ※ 上記のすべてを確認することが望ましいですが、相談者が積極的に開示したがらない場合には、無理に聞き出すことはせず、状況のすべてが把握できないため、対応できることが限られる旨を伝え、理解いただくようにしてください。 ページ34 > 相談内容のアセスメント  相談内容は主として以下に分類されると考えられます。 [1]相談者が「差別を受けた」「差別の現場を見た」という主訴で   @ 相談窓口担当者としても不当な差別的取扱いや合理的配慮の不提供の可能性があると判断しているが、相談者の希望は、相談窓口の職員に話を聞いてほしい(それ以上は望まない)。   A 相談窓口担当者としても不当な差別的取扱いや合理的配慮の不提供の可能性があると判断しており、相談者の希望は相談窓口の職員から相手方に伝えてほしい。   B 相談窓口担当者としても不当な差別的取扱いや合理的配慮の不提供の可能性があると判断しており、相談者の希望は相談窓口の職員に双方の間に入って調整してほしい。   C 相談窓口担当者としては環境の整備に関する相談であると判断   D 相談窓口担当者としては障害者差別解消法に関する相談ではないと判断 [2]相談者は「差別を受けた」「差別の現場を見た」という認識ではないが、相談窓口担当者で差別事案の可能性があると判断 [3]環境の整備に関する相談 [4]私人間の問題(トラブル) [5]その他、福祉制度や窓口職員の応対に対する疑問、苦情、意見等  上記は、その後に相談窓口の職員が取る対応として下記に分類され、その後の対応は異なります。詳細は、6.2.2を参照してください。  1 障害者差別解消法上の差別事案として対応を検討する必要がある  ⇒ 上記[1]@、A、B、[2]の場合  2 障害者差別解消法上の環境の整備について説明を行い、必要に応じて相手方に情報提供や助言を行う必要がある  ⇒ 上記[1]C、[3]の場合  3 障害者差別解消法上の事案ではないが、相談内容を傾聴し、必要に応じて案内する必要がある  ⇒ 上記[1]D、[4]、[5]の場合 ページ35 > 相談者の障害等に関する基本的な情報  相談内容について理解を深めるために、33頁の@やAのほか、相談者本人に関する以下のような基本的な情報も必要な範囲で把握してください。なお、合理的配慮の提供等のために必要な範囲で、プライバシーに配慮しつつ障害者に障害の状況等を確認することは不当な差別的取扱いに当たりません。 * 障害の種類や程度、症状 * コミュニケーションの方法 * 介助者の有無 * その他相談内容に関連すると思われる相談者の状況 等 (3) 相談者に伝える内容 ● 聴取が一通り終了したら、相談窓口の職員の側から「お話を整理させていただくと・・・との内容で理解していますが、その認識でよいでしょうか」というように、相談者が認識している事実、主張、要望等について整理を行い、相談内容の要旨について振り返り確認をした上で、以下の内容を相談者に伝えてください。 > 個人情報や相談内容の取扱い(情報共有の目的・範囲・内容)  個人情報や相談内容がどのような目的で、どのように扱われるかについて、詳細を説明し、十分な理解や納得を得られたうえで、情報共有についての同意を取得する必要があります。具体的には、以下のような事項を説明してください。 * 情報共有の目的や必要性 * 情報共有する相談内容や個人情報の範囲 * 情報共有する部署 * 情報共有した後の対応や支援の方法 * 情報共有した結果や内容のフィードバックの方法 ※ 個人情報等の共有について相談者に説明する際には、分かりやすい言葉で相手が理解できるよう、丁寧に説明することを心掛けてください。 > 今後の進め方  相談内容の要旨について振り返り確認をしたうえで、相談内容及び相談者の要望に応じて今後の流れ等を相談者に伝えてください。 @ 障害者差別解消法に関する相談と考えられる場合や判断がつかない場合  相手方への事実確認、関係者での検討を行います(詳細は、6.2.2以降を参照)。  なお、相談受付時点で、差別に該当するかどうかの判断を求められた場合には、「相手方への事実確認が必要であり、この相談だけでは判断しかねる」旨、回答し、必要に応じて、不当な差別的取扱いや合理的配慮の概要を説明してください。リーフレット等を渡す、不当な差別的取扱いや合理的配慮の提供の法的判断の検討プロセスの説明をする等の対応を行ってください。 ページ36 A 障害者差別解消法に関する相談ではない場合 ● 相談内容から、明らかに相談者の主張が障害者差別解消法に関するもの(不当な差別的取扱いや合理的配慮の提供等に関する相談)とは言えないものである場合は、本人にその理由を説明し、障害者差別解消法に関する相談対応は終了となります。その際、相談の対象外である旨を説明した上で、関連する相談窓口の紹介等を行うことが望ましいです。 ● なお、他の機関を紹介する場合は、相談者が同じことを何度も説明させられたり、「たらいまわし」にされたという不信感を抱くことのないよう、本人の状況や希望に応じて丁寧に対応してください。   【障害者差別解消法の範囲外の相談と紹介先の例】 * 事業者以外の私人に係るものを含む障害者差別等の相談 ⇒ 法務局による人権相談 * 消費者トラブル ⇒ 消費生活相談センターや消費生活相談窓口へ繋がる消費者ホットライン * 労働者としての障害者差別等に係る相談 ⇒ 労働局、ハローワーク等 ※ 障害者差別解消法第13条において、行政機関等・事業者が事業主としての立場で労働者に対して行う障害を理由とする差別を解消するための措置については、障害者の雇用の促進等に係る法律の定めるところによるとされています。 ⇒ 就労支援施設については、雇用契約に応じて該当する法律が異なることから、以下を参照し相談先を紹介します。 > A型就労支援施設:雇用契約があるので、障害者雇用促進法の範囲となるためハローワークを紹介 > B型就労支援施設:作業所は雇用契約がなく、障害者総合支援法に定められている障害福祉サービスの一環の内容であるため、自治体の福祉部局を紹介 * 補助犬に関する苦情 ⇒ 各都道府県、指定都市または中核市 * 「死にたい」等といった命に関わる相談(自殺予防相談) ⇒ 「まもろうよこころ」で紹介している電話やSNSでの相談窓口 * 行政窓口の対応の改善等を求める相談 ⇒ 当該担当市区町村等の人事担当課等又は総務省の行政相談 ※ 都道府県は、市区町村に対して指揮命令関係や権限を有していないため都道府県では対応ができません。 ページ37 * 学校における障害者差別以外のトラブル(いじめ等)に関する相談 ⇒ 事案があった学校を所管する教育委員会等 * 生活保護・生活支援に関する相談 ⇒ 居住市区町村の福祉担当課等 * 虐待が疑われる相談 ⇒ 家庭内や障害者福祉施設等における障害者への虐待が疑われる場合には、市町村の障害福祉担当課等 ⇒ 障害者を雇用する事業所による障害者への虐待が疑われる場合には、市町村又は都道府県の障害福祉担当課等 ⇒ 障害児に対し、家庭内での虐待が疑われる場合には、所轄の児童相談所 * 配偶者やパートナーからの暴力(DV)が疑われる場合 ⇒ 居住地に設置されている「配偶者暴力相談支援センター」等 ※配偶者暴力相談支援センターは都道府県及び一部の市区町村に設置されています。 * 性暴力に関する相談 ⇒ 居住地の都道府県に設置されている「性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センター」 ※ 上記はあくまでも一例であり、事案に応じ検討し巻末の参考資料を参照の上、相談対応可能な適切な窓口を紹介することが望まれます。 ページ38 コラム 8 障害者側に寄り添った相談窓口等の紹介  障害者が行政機関等・事業者から受けた取扱いについて改善等を求める際、相談者である障害者は一人であることが多いのに対して、相手方の事業者は組織(複数人)である場合が多いです。障害者の中には、この不均衡を不安に感じている場合もあると考えられます。  また、相談窓口担当者は公正・中立な立場であるがゆえに、相談者が望むような回答ができず、相談者から不満や怒りを表現される場合もあると思います。  障害者が個人として行政機関等・事業者と向き合う不安の軽減や、相談窓口担当者に相談者の怒りの矛先が向いてしまい、相談窓口担当者が精神的に追い込まれることを防ぐ観点等から、必要に応じて、障害者側に寄り添って相談対応する支援者や機関、障害当事者団体等を紹介することも考えられます。 【障害者に寄り添って相談対応する支援者や機関】 ・ 人権擁護委員  法務大臣から委嘱された人権擁護委員は、地域住民から人権相談を受け、問題解決の支援や、人権侵害からの被害者の救済、人権に関する啓発活動等を行っています。 https://www.moj.go.jp/JINKEN/index_yougoiin-a.html ・ 身体障害者相談員、知的障害者相談員  市町村から委託を受け、障害者の相談・援助を行っています。 https://www.wam.go.jp/content/wamnet/pcpub/top/fukushiworkguide/jobguidejobtype/jobguide_job28.html https://www.wam.go.jp/content/wamnet/pcpub/top/fukushiworkguide/jobguidejobtype/jobguide_job29.html ・ 障害当事者団体  障害種別、疾病等に応じた障害当事者団体では、障害者の権利擁護に関する一般的な相談に応じていることが多いです。    https://www8.cao.go.jp/shougai/whitepaper/r04hakusho/zenbun/furoku_11.html ・ 民生委員・児童委員  厚生労働大臣から委嘱された民生委員・児童委員は、地域住民と同じ立場で相談に乗り、必要であれば福祉制度等を受けられるよう、関係機関へつなぐ役割を果たしています。 https://www.gov-online.go.jp/useful/article/201305/1.html ページ39 6.2.2 関係者(関係部局等)での情報共有、対応方針の検討 (1) 関係者との情報共有 ● 相談窓口担当課室において「4.2.1相談の受付」で聴取した相談事案の内容を整理した上で、当該事案が不当な差別的取扱い、合理的配慮の提供のいずれに該当する事案と考えられるか(場合によっては、両方に関わる事案もあります)や、相手方に対し、どのような事実確認が必要か等について検討を行います。 ● 上記の整理の結果、相談窓口担当課室のみでは検討が困難と判断される場合や、連携して対応を行うことが円滑な対応に資すると判断される場合等は、他部署や他機関への相談を検討し、連携を依頼してください。 【連携先として考えられる部署等の例】 (障害者差別解消法の相談窓口担当者・担当課室を中心として、相談事案の内容に応じて連携先を検討) * 福祉関係部局 * 相手方の事業を所管する関係部局(事業者との間で発生した事案等の場合) * 教育関係部局(学校で発生した事案等の場合) * 配偶者暴力相談支援センター(配偶者やパートナーからのDV等の場合)等 ● 広域的・専門的※な対応が必要となることが見込まれる場合や困難事案等については他の地方公共団体・国との連携も検討してください。      (2) 関係者との情報共有  対応方針の検討に当たっては、以下の事項を踏まえて検討を行ってください。 > 相談者が納得できるものとしてください※。 > 相談者と相手方の両者の建設的対話を促すという趣旨から、相談者の意向を踏まえて相談窓口として、まずは相手方に「要請(お願い)する」という方向性で検討を行ってください。 > ただし、相手方の対応が不適切であり、加えて障害や障害者に対しての理解をしようとする姿勢が見られない等、対応を改善する見込みが薄い場合には、障害者差別解消法の趣旨をしっかりと伝えて改善を求めることも検討してください。 ※ たとえ相談者の希望に沿うことができない内容となる場合であっても、丁寧に説明し、相談者に納得していただけるよう努めてください。  相談事案が障害者差別解消法に関するものである場合、相談者の希望に応じた基本的な対応方針は以下のとおりです。 ページ40 @ 相談窓口の職員に話を聞いてほしい  差別事案に遭遇したという主訴だが、相談者が相手方への伝達や調整を望まない場合には、「差別事案に遭遇した」という事実を障害者福祉担当課に知ってほしい、聞いてほしいという要望を持っていることから、相談内容を傾聴した上で、障害者差別解消法に関する説明(不当な差別的取扱いや合理的配慮の提供等)を行うことが望ましいです。  ※ なお、虐待が疑われる案件の場合には、「話を聞いてほしい」という主訴の場合であっても、市町村障害者虐待相談センター等と連携し対応を行う必要があります。 A 相手方への伝達を望むが調整は望まない  相談者が行政から相手方に対して、差別事案があったことを相手方に伝達することのみを望む場合には、原則として、障害者施策担当課等から相手方に伝達を行います。相手方に差別事案の伝達を行う際には、今後同様の事案が起きないよう、併せて相手方に障害者差別解消法について説明することが望ましいです。なお、相手方に連絡する際には、単に事案を伝達するだけではなく、相手方の状況についても確認し、一方的に相手方の対応を責めることがないよう留意する必要があります。  なお、相手方に差別事案に該当すると考えられる事案があったことを伝える場合には、必要に応じて個人情報も併せて伝える必要があることから、24頁に記載のとおり、個人情報の提供の可否について相談者に確認することが必要となります。  相手方に伝達を行ったあとは、相談者に対してそのフィードバックを行うことが望ましいです。 B 相手方への伝達及び調整を望む  相談者が相手方との調整を望む場合には、相手方への事実確認(相手方に事実確認を行う際には「6.2.3事実確認」を適宜参照してください)を行う必要があります。この際、適宜、関係部局・関係機関と連携して対応することが必要です。 > 相手方が相談を受けた地方公共団体内に所在する場合  相手方も相談者居住の地方公共団体に所在する場合には、終始、相談を受けた地方公共団体において事案解決することが求められます。相談を受けた部署のみならず、相手方を所管する関係部局と連携して対応することが望ましいです。   なお、相手方との調整が困難である場合等には、都道府県に協力を求めることも検討してください。 > 相手方が相談を受けた地方公共団体に所在していない場合※1  相手方が他の地方公共団体に所在する場合には、必要に応じて相談を受けた地方公共団体だけではなく、相手方所在の地方公共団体とも連携して対応することが望まれます。相手方所在の地方公共団体へのコンタクトの一例は13頁の図を参考にし、事案解決のために連携を図ってください。   ページ41 なお、相手方との調整が困難である場合や、地方公共団体の条例等において相談対応の対象が明確に定められている場合※2等対応が困難である場合には、都道府県や必要に応じて事業を所管する各府省庁と連携し対応を行ってください。 ※1 相談者が観光等で遠方を訪れた場合等が想定されます。 ※2 地方公共団体によっては、相談対応の対象について、本マニュアルが前提としている居住地(所在地)主義(相談者が居住(所在)する地方公共団体において対応する)ではなく、発生地主義(相談者の居住(所在)の場所にかかわらず、発生地の地方公共団体において対応する)とすることを条例等で明確にしている場合があります。 6.2.3 事実確認 ● 相談者である障害者から収集した情報について、相手方に対して相談窓口に相談が寄せられたことを伝え、事実確認を実施してください。 > 予備的情報の収集 * 事実の確認に当たっては、相談者から聞き取った内容に関連する情報について、事前の情報収集を行うと円滑に進みます。 * 相手方について、ホームページ等の公開資料で調べる等して、客観的情報をできるだけ収集してください。 * また、相手方の事業に関係する法律や制度、主務大臣の定める対応指針についても確認してください。 ※ 客観的な情報は、相談事案の検討に当たり、正当な理由に該当するか、又は過重な負担に該当するか等について判断するために重要な根拠となり得ます。 > 事実確認を行う内容 * 相談事案に関する情報について、事実関係の確認(起こったことについての相談者が主張する内容と相手方が主張する内容の突合) * 該当の取扱いを行った理由/求められた配慮の要望に応じなかった理由 * 相手方が現時点で可能と考えている対応 * 相手方が行政機関等・事業者である場合は、当該行為が、行為を行った個人の考えによるものか、行政機関等・事業者として整備しているマニュアル等によるものかどうか ※ 個人の考えによるものである場合は周知啓発、マニュアルによるものである場合はマニュアルの更新等により、効果的に再発防止につなげられる可能性があります。 ※ 「法的判断の検討プロセスフロー」(「法令編」88頁参照)で示されている判断ポイントとなる事項が明らかになるように聴取します。 ページ42 > 相手方と接触する際のポイント @ 相談窓口の役割・立場を認識してもらう * 相談窓口は公正・中立の立場にあり、当事者双方から事実確認をした上で判断するという姿勢を示してください(決めつけるような言動は避けてください)。 * 相談窓口では事案解決を援助する立場から、相談者と相手方との間を仲立ちして、当事者間の調整や事案解決に資する助言等を行っており、その実施に際しては、相手方から聴取した内容等を必要に応じて相談者に提供することがあり得る旨も説明してください。 A 相手方の障害者差別解消法に関する理解状況を把握 * 相談者から受けた相談内容について伝える際に、同時に障害者差別解消法に関する理解状況を確認してください。 * 障害者差別解消法について説明を行う際は、リーフレットや事例集を用いて説明をすることが効果的です。 * 直接説明する時間が取れない場合等は、あらかじめリーフレットや事例集を送付しておき、確認をしておいてもらうと、その後の調整を行いやすくなります。 B 伝え方に注意 * 相手方に対する報告徴収等の権限行使について、障害者差別解消法第22条の規定により行うことができる地方公共団体以外や、条例に定められていない地方公共団体においては、相談窓口は相手方に対して報告徴収等を求める法的権限はなく、相手方には報告等の義務がありません。この点に留意し、相手方に対してはあくまで「協力を求めている」という姿勢で接する必要があります。 * 相手方に連絡をする際は、障害者差別解消に関する相談窓口からの連絡である旨はしっかりと伝えつつも、極端に警戒されないよう、「まずは事実確認をしたい」「障害者、事業者双方の相互理解の醸成に向けて今後検討してきたい」旨を伝えてください。 * 相談者から収集した情報について、相談者の言葉をそのまま伝えてしまうと、時に言葉が強く相手の気分を害してしまい、話が先に進まなくなることがあるため、注意しながら事実確認を実施してください。 * 事実確認に当たっては、相手方の立場や感情について一方的に否定せずに傾聴してください。 ページ43 6.2.4 関係者での情報共有・事案の評価分析・対応方針の検討 ● 相手方からの情報収集が終了したら、相談者及び相手方から収集した情報を比較できるよう整理するとともに、再度、関係者で情報共有を行い、事案を評価・分析し、今後の対応を検討してください。 ● 事実確認の結果、相談者と相手方とで、起きたことに対する事実認識が異なっている場合には、客観的情報等を基にまずは両者の事実認識を一致させるよう努めましょう。 ● 一方で、"言った、言わない論"になった場合など、どうしても事実認識のギャップが埋まらない場合には、それを無理に合わせるよりも、今後どうすればお互いが納得して解決できるかという視点を持って話し合うように意識してください。 ● 対応が困難である案件の場合等には、地域協議会において事案解決のための検討を行うこと等も有効です。 @ 関係部局等での情報共有 > 情報共有を行う際は、相談者及び相手方から収集した情報を比較できるよう整理してください。 > 6.2.2 (1)で情報共有、対応方針の検討を行った場合は、そのメンバーで再度情報共有を実施してください。 A 事案の評価分析・対応方針の検討 > 相談者と相手方から聴取した内容を整理したものを踏まえて、相談内容が不当な差別的取扱い又は合理的配慮の不提供に該当するかを評価してください。 > 評価方法の詳細は「法令編」に記載の法令説明や、ケーススタディ集の「法的判断の検討プロセスフロー」(「法令編」88頁参照)や掲載事例を参照してください。 > 相談内容の評価結果に応じて対応方針を検討します。基本的な対応方針としては評価結果に応じて以下の対応が考えられます。 (@) <不当な差別的取扱い・合理的配慮の不提供に該当すると考えられると判断した場合> > 相手方に対し、今回の事案は障害者差別解消法違反に該当すると考えられるため是正が必要であることを要請として伝えるとともに、状況の是正・改善に向けた助言等を実施してください。 > これを踏まえ、是正・改善策としてどのような対応が可能か、相手方に確認してください。確認に当たっては、 * 不当な差別的取扱いに関する事案であれば、障害者でない者との不当な異なる取扱いをどのような方法で是正するか、またその内容が障害者差別解消法上妥当と考えられるか。 ページ44 * 合理的配慮の提供に関する事案であれば、障害者からの求めに対し、どのような合理的配慮を提供できるか、また、当該改善策が障害者にとっての社会的障壁を除去するための必要かつ実現可能なものとなっているか 等を確認してください。 > 相手方に確認した対応案を相談者に伝達します。その際に、対応案や代替案の検討等のために当事者間での調整が必要となる場合には、相談者、相手方それぞれに個別に連絡を行い、当事者間の建設的対話による代替案の検討を促す等の対応を講じることを検討してください。 > 相手方に確認した対応案を相談者に伝えると、これまでは分からなかったことが新たに分かることも多くあります。この場合、「6.2.2関係者(関係部局等)での情報共有、対応方針の検討」と「6.2.3事実確認」のプロセスを複数回繰り返し、対応策を適宜見直してください。 > 対応方針については、あらかじめ相談者の了解を得ることが望ましいです。事実確認や調整に当たっては、相談者の意向・要望が揺れ動くことも考えられるため、随時、相談者の意向・要望を確認することが重要です。 > 相談者が望む対応と事業者が提供可能な対応について意見が食い違う場合には、以下のとおり双方の事実認識、主張・要望やその理由、障害者差別解消法に対する理解等を確認し、調整を行います。 * 具体的には相談者や相手方本人が重要だと考えていない点についても確認するとともに、以下の点を確認してください。 ● 障害者側:相手側に求める最低限の要望やその理由 ● 行政機関等・事業者側:合理的配慮として提供可能な対応のライン/提供不可のラインやその理由 * このとき、相談者と相手方のいずれか、又は双方の障害者差別解消法に対する理解が及んでいない場合、双方の主張に対する理解や納得に至らない可能性があるため、必要に応じて障害者差別解消法の説明を行います。 * 双方の事実認識、主張・要望やその理由、障害者差別解消法に対する理解を確認した後は、双方の主張や相談状況に応じて、調整方法を検討します。原則としては、以下の点に留意しつつ、相談者と相手方に個別に連絡を行いながら調整を行います。  原則 個別に連絡を行いながら調整 ● 相談者、相手側の主張を確認の上、双方の歩み寄りを促しつつ、相談窓口担当者が双方の主張や対応を相手に伝えるプロセスを繰り返すことで、当事者同士では理解ができなかった主張も双方が理解できるようになることを目指します。 ページ45 ● 相談窓口担当者が双方に伝達・提供する際は、相談者・相手側がどのように捉えていたか、感じていたか、どのような対応を望んでいるのか又は実施することを考えているのか等を、第三者の立場として客観的に伝えるように留意します。 ● また、(相談者による相手方への情報伝達が不十分だった場合)相談者の主張に関する補足説明を行います。 例外 関係者を集めて話し合いを行いながら調整 ● 相談者からの要望があり、かつ双方の同意が事前に得られた場合には、関係者を集めて話し合いを行いながら調整する方法もあります。 ● ただし、相談者と相手方が直接対面すると、感情的な議論となり関係が一層悪化する可能性があるため、この方法は例外的に実施されるべきものであり、双方の感情には細心の注意を払う必要があります。 ● 話し合いの目的をしっかり伝えることに加え、話し合いは一度で終わらない可能性があることも伝えておくと、話し合いの中で良い結論が見いだせなかった際にも、「こういうものだ」と双方に思ってもらえ、次に繋げることができます。 (A) <不当な差別的取扱い・合理的配慮の不提供に該当しないと考えられると判断した場合> > 相手方に対し、今回は障害者差別解消法違反に該当しないと考えられる旨を伝えるとともに、必要に応じて、今後同様のトラブルが発生しないような改善案や環境の整備等の参考情報を提供してください。 > 相談者に対しても、今回は障害者差別解消法違反に該当しないと考えられる旨を伝えるとともに、必要に応じて、相手方への参考情報の提供結果を共有してください。 ※ 相談者に伝える際には、相談者の意向・要望に沿わないこともあるため、丁寧に説明することが重要です。 > 相手方が一定の対応を行う意向を示した場合に、相談者が望む対応と行政機関等・事業者の対応について意見が食い違う場合は、上記(@)の場合と同様に調整を行ってください。 6.2.5 具体的な対応の実施 <不当な差別的取扱い・合理的配慮の不提供に該当すると考えられると判断した場合> ● 6.2.4「A事案の評価分析・対応方針の検討」(@)に記載の方針に基づき相手方に助言・調整等を実施してください。 ページ46 ● 当事者間の調整等により解決策等が得られた場合や、相手方への説明等実施した場合には対応終了となりますが、必要に応じて、事案終結後の状況についてモニタリングを実施することも検討してください。 ● また、「5.相談体制の構築」にて記載のとおり障害者差別解消法においては相互理解と建設的対話が重要であり、どちらか一方の主張が通るまで事案終結とならないというものではありません。相手方の主張の内容や事案処理の進捗状況等によっては、障害者差別解消法に基づきできること・できないことを改めてはっきりと相談者や相手方に示し、事案の終結を視野に入れることも必要となることに留意してください。 ※ 障害者差別に関する紛争も、他の当事者間の具体的な紛争と同様、最終的には裁判所において判断されることとなります。 ● このプロセスにおいて、助言等行ったにも関わらず相手方(事業者)が対応の拒否を繰り返す等、自主的な改善を期待することが困難である場合等には、次の「6.2.6相手方が対応を拒否する場合」に進みます。 <不当な差別的取扱い・合理的配慮の不提供に該当しないと考えられると判断した場合> ● 6.2.4「A事案の評価分析・対応方針の検討」(ii)に記載の方針に基づく対応を行うことで対応終了となります。 6.2.6 相手方(事業者)が対応を拒否する場合 ● 相談事案の解決のためには、相談窓口において建設的対話を促進し、相互理解を実現することが望まれます。 そのため、相手方に自身の主張を頑として曲げない、という姿勢を貫くのではなく、お互いが相手の状況を理解し、お互いが歩み寄って少しでもお互いが納得できる改善・対応方法を考えることを粘り強く説明し、当事者間の建設的対話を促してください。 ● 障害者差別解消法第12条等に基づく措置の実施可否の検討 6.2.5の<不当な差別的取扱い・合理的配慮の不提供に該当すると考えられると判断した場合>のプロセスにおいて、助言等行ったにもかかわらず相手方(事業者)が対応の拒否を繰り返す等、自主的な改善を期待することが困難である場合等には、障害者差別解消法第12条に基づく措置の実施の可否を検討することが考えられます。相談窓口では、当該事業者の事業分野の主務大臣(具体的には事業分野ごとの相談窓口)に連絡を取り、事案の概要・経緯を報告する。主務大臣においては、報告を受け、事案の内容を踏まえ、必要な報告徴収、助言、指導、勧告を検討・実施します。 ● 障害者差別解消法第12条に基づく措置(報告徴収、助言、指導、勧告)は、主務大臣のほか、同法第22条及び施行令第3条により、各事業法等における監督権限に属する事務を地方公共団体の長等が行うこととされているときは、障害者差別解消法第12条に規定する主務大臣の権限に属する事務についても、当該地方公共団体の長等が行うこととされています。 ページ47 ● このほか、条例により独自の権限を定めている地方公共団体であれば、条例に基づく権限の行使を検討することも考えられます。 主務大臣からの権限が委任されていない場合や、条例による独自の権限が定められていない場合においては、権限行使が可能な国(主務大臣となる府省庁)や都道府県(当該都道府県に主務大臣の権限が委任されている場合や、条例による独自の権限がある場合)と連携をすることが考えられます。 なお、事業者が改善に応じない場合、事業者団体に相談して事業者団体から事業者に働きかけてもらうという方法も考えられます。 ページ48 6.3 対応の流れの全体像(事業者からの相談の場合) ※ 以下の図の各プロセスについては「6.4対応の流れの詳細」で説明します。各プロセスに記載している番号は6.4における見出しの番号と対応しています。 (作業者注:事業者からの相談の場合について、図の説明) 「相談の受付」は、事業者から直接相談を受付ける場合と、他の部局・自治体、国の相談窓口等からの取次により相談を受付ける場合がある。「相談の受付」を行った後、関係者間での検討が不要でその場で完結できる場合は「事案の終結」となる。関係者間の検討が必要な場合は「関係者での情報共有・対応方針検討」へ進む。(「相談の受付」に係る詳細は6.4.1参照) 「関係者での情報共有・対応方針検討」を行った際、相談者が窓口からの助言のみを希望する場合等は、「事案の終結」となる。相談者が相手方との調整や相手方への事情等の説明を希望する場合等は、「事実確認」へ進む。(「関係者での情報共有・対応方針検討」に係る詳細は6.4.2参照) 「事実確認」を行った後、「関係者間での情報共有・事案の評価分析・対応方針の検討」へ進む(「事実確認」に係る詳細は6.4.3参照) 「関係者間での情報共有・事案の評価分析・対応方針の検討」を行った後、「具体的な対応の実施」へ進む(「関係者間での情報共有・事案の評価分析・対応方針の検討」に係る詳細は6.4.4参照) 「具体的な対応の実施」の例には相手方への説明、相談者と相手方との調整の場の設定等、がある。「具体的な対応の実施」を行った後、「事案の終結」へ進む。(「具体的な対応の実施」に係る詳細は6.4.5参照) なお、事案対応の中で、新たな事実がわかった場合等は、「関係者での情報共有・対応方針検討」から「具体的な対応の実施」までを複数回繰り返す可能性がある。 (事業者からの相談の場合について、図の説明はここまで)  相談の受付に至るまでのルートとして、事業者から直接相談を受ける場合のほか、他の部局や、都道府県・国等で設置する相談窓口等から取り次がれる可能性があります。 (作業者注:ここまで) ページ49 6.4 対応の流れの詳細(事業者からの相談の場合) 6.4.1 相談の受付 (1) 相談受付時の心構え ● 事業者からの相談受付時においても、6.2.1「(1)相談受付時の心構え」に記載している障害者からの相談受付時と同様、公正・中立な立場であることを前提に、親切・丁寧な対応を行うこと等に留意することが求められます。 ●  加えて、あくまで個々の状況に対して、個別具体的に適切な対応が求められるのであり、「相談の結果得られた助言に基づいた対策をとっていれば、事業者側に非はない」と捉えられないように留意する必要があります。 ● 想定される相談の種類としては、@現在想定している対応が不当な差別的取扱いや合理的配慮の不提供に当たるか否か、Aどのような合理的配慮や環境整備が必要か、等です。これらはあくまで個別具体的に判断されるため、相談受付時に行う一般的な助言は参考情報であることを念押ししてください。 ● 事業者は、合理的配慮の提供相手である障害者のみでなく、他の顧客へのサービス提供も同様に重視していることから、障害者への合理的配慮の提供が、他の顧客から「障害者のみを優遇している」と捉えられ、不満に繋がらないようにしたいとも考えています。このため、必要に応じて、他の顧客への周知方法等についても、検討・助言を行うことが望ましいです。 (2) 相談者から収集する情報 ● 公正中立な立場から相談対応を行うためには、事実確認を十分に行い、事実に基づいて対応することが重要です。このため、相談を受ける際は、相談者に配慮しつつ的確に必要な情報が取得できるよう、以下の事項を中心に情報を収集してください。 ● 相談対応に当たっては、建設的対話の促進や、相手方と事実認識にギャップが生じた場合の調整等の観点から、相手方にもまず何が起こったか事実確認を行った上で、相手方の主張を聞くことが望ましいです。「相談者が認識している事実」と「相談者の主張や心情」等はいずれも重要ですが、混同しないよう区別して整理しておく必要があります。 ● 何が起こったかの事実確認に当たって、裏付け資料の有無を確認する等により事実を客観的に把握するとともに、相談者と一緒に問題点を整理しながら、相談者がどうしたいのかという意向や主訴を正確に把握することが大切です。 ● なお、情報を収集する中で、「不当な差別的取扱いに該当するか」や「合理的配慮の不提供に該当するか」という質問があり、明確に判断できない場合は、「事実関係が十分に把握しきれていないため、この相談だけでは判断しかねる」旨を回答してください。 ● 事業者から、障害を理由とする差別の解消のためにどのような対策が必要かについて相談があった場合、まずは相談者の障害者差別解消法についての理解度を確認し、正しい理解を醸成することを意識してください。 ページ50 > 相談を受けたときに確認すべき内容  相談に適切に対応するため、下記の項目について確認する必要があります。確認に際しては、障害者差別解消法における不当な差別的取扱いや合理的配慮の提供の該当性を判断する観点から、ケーススタディ集において示している「法的判断の検討プロセスフロー」(「法令編」88頁参照)に示されている判断ポイントとなる事項が明らかになるように留意してください。 @ 相談者の氏名・事業所名・事業種別・所在地・役職・立場 A 差別を受けたとされる者の障害種別・性別・年代 ※ 窓口において、事実確認や事案解消等の相手方との調整を求めている場合には、相手方の氏名・事業所名や連絡先を確認する必要があるため、必要に応じて確認してください。(「6.4.3 事実確認」以降を参照) B 差別を行ったと思われる者の氏名又は事業者名・所在地・役職・立場 C 相談者の主訴・相談内容(日時や状況、経緯、どういう事案が起きたのか等) D すでにどこかに相談をしているかどうか。 E 窓口に対してどのような対応(情報提供、事実確認、事案解消等)を求めているか。 F 情報提供や事案解消を求めている場合、事業者や従業員の情報についてどこまで話しても良いか。 G 相談内容と関係する従業員マニュアルの有無及びその内容※ ※ 事業所内において従業員向けマニュアルを作成しているかどうかを確認することで、対応策の検討の参考にできます。 ※ 上記のすべてを確認することが望ましいですが、相談者が積極的に開示したがらない場合には、無理に聞き出すことはせず、状況のすべてが把握できないため、対応できることが限られる旨を伝え、理解いただくようにしてください。 ページ51 > 相談内容のアセスメント  相談内容は主として以下に分類されると考えられます。 [1]事業者の側に対し、実際に障害者から障害者差別解消法に関する訴えがあり、   @ 障害者から求められている社会的障壁の除去について、適切な対応策を助言してほしい(合理的配慮の提供の義務)   A 相談窓口の職員から、障害者に対し、事業者側の事情や障害者の求める内容が障害者差別解消法の求める内容を超えていることを説明・調整してほしい(障害者差別解消法上の「必要かつ合理的な配慮」には当たらない/過重な負担に当たる)   B 従業員の言動に差別があったと言われたので説明・調整してほしい(不当な差別的取扱い)   C 環境の整備に関する相談であると判断されるもの   D 相談窓口担当者としては障害者差別解消法に関する相談ではないと判断されるもの [2]障害者差別解消法に基づく合理的配慮の提供についての事前の相談 [3]環境の整備に関する相談 [4]その他障害者差別解消法とは関係のない質問・相談  上記は、その後に相談窓口の職員が取る対応として下記に分類され、その後の対応は異なります。詳細は、6.4.2を参照してください。  1 障害者差別解消法上の差別事案として対応を検討する必要がある  ⇒ 上記[1]@、A、B  2 障害者差別解消法上の合理的配慮の提供又は環境の整備として説明や助言を行う必要がある  ⇒ 上記[1]C、[2]、[3]  3 障害者差別解消法上の事案ではないが、相談内容を傾聴し、必要に応じて他の窓口に案内する必要がある  ⇒ 上記[1]D、[4]の場合 > 相談者に関する基本的事項  相談内容について理解を深めるために、50頁の@、B、Gのほか、相談者に関する以下のような基本的な情報について必要な範囲で把握してください。 * 事業内容・事業規模 * 人的体制・設備の状況 * 相手方が求めている又は事業者として対応を検討している事項の実現可能性や事務・事業への影響の程度 * その他相談内容に関連すると思われる相談者の状況 等 ページ52  ※ 相手方から求められた社会的障壁を除去するための合理的配慮の内容が過重な負担にあたるかどうかを検討するために必要な情報等を確認してください。 (3) 相談者に伝える内容 ● 聴取が一通り終了したら、相談窓口の職員の側から「お話を整理させていただくと・・・との内容で理解していますが、その認識でよいでしょうか」というように、相談者が認識している事実、主張、要望等について整理を行い、相談内容の要旨について振り返り確認をした上で、以下の内容を相談者に伝えてください。 > 個人情報や相談内容の取扱い(情報共有の目的・範囲・内容)  事業者や従業員の情報や相談内容がどのような目的で、どのように扱われるかについて、詳細を説明し、十分な理解や納得を得た上で、情報共有について同意を取得する必要があります。具体的には、以下のような事項を説明してください。 * 情報共有の目的や必要性 * 情報共有する相談内容や事業者や従業員の情報の範囲 * 情報共有する部署 * 情報共有した後の対応や支援の方法 * 情報共有した結果や内容のフィードバックの方法   ※ 相談者である事業者から相手方の障害者に関する個人情報(電話番号、住所等)について提供があった場合には、相談者に対し、相手方が窓口に対しての情報提供に同意しているかの確認を行い、同意を得ていない場合にはその個人情報を使用した相談対応は控える必要があります。また、対応に必要となる情報以外の記録は残さないようにすることで、重大な情報漏えいを防ぐことができます。 > 今後の進め方  相談内容の趣旨について振り返り確認をしたうえで、相談内容及び相談者の要望に応じて今後の流れ等を相談者に伝えてください。 @ 障害者差別解消法に規定する差別事案に関する相談と考えられる場合や判断がつかない場合 ・ 相手方への事実確認、関係者での検討を行います(詳細は、6.4.2以降を参照) なお、相談受付時点で、差別に該当するかどうかの判断を求められた場合には、「相手方への事実確認が必要であり、この相談だけでは判断しかねる」旨、回答し、必要に応じて、不当な差別や合理的配慮の概要を説明する、リーフレット等を渡す、不当な差別的取扱いや合理的配慮の提供の法的判断の検討プロセスの説明を行ってください。 この際、相談窓口担当者は相談者に以下の情報についても提供することが考えられます。 ページ53 * 事業領域や想定している障害者・場面における、対応指針の内容、不当な差別的取扱いや合理的配慮の提供に関する事例 * 業務を行う上で避けるべき言葉(92頁参照) * 従業員全体の障害者差別解消法に対する理解醸成が必要である旨 * (地方公共団体等で事業者向けの研修を行っている場合)相談窓口にて行っている周知啓発研修の案内 * 建設的対話の重要性 ・ また、ただ単に情報提供・伝達をするのみでなく、事業者と共に考えることができるとなおよいです。例えば、事業者に「事業者ができると想定される配慮」「事業者ができないと想定される配慮」を書き出してもらい、それに対して相談窓口担当者の立場から助言をする等が考えられます。    A 障害者差別解消法のうち環境の整備に関する相談の場合 ・ 必要に応じて不当な差別的取扱いや合理的配慮の提供の法的判断の検討プロセスの説明を行ってください。 ・ 環境の整備は努力義務であることを説明するだけでなく、以下についても併せて説明を行ってください。 * 合理的配慮の提供を円滑に行うためにも環境の整備をすることは、中長期的に見て事業者にとってメリットとなりうること * 環境の整備を実施することは障害者だけではなく、高齢者や子連れ利用者等にとっても利便性が高くなるものであること * 環境の整備(バリアフリー)に関する補助等の具体的な相談窓口 ⇒ 所在地の地方公共団体のバリアフリー担当課室等を案内してください。  B 障害者差別解消法に関する相談ではない場合 ・ 相談内容から、明らかに相談者の主張が障害者差別解消法に関するもの(不当な差別的取扱いや合理的配慮の提供等に関する相談)とは言えないものである場合は、その理由を説明し、障害者差別解消法に関する相談対応は終了となります。その際、対象外である旨を説明した上で、関連する相談窓口の紹介等を行うことが望ましいです。 【障害者差別解消法の範囲外の相談と紹介先の例】 * 雇用主としての障害者差別等に係る相談 ⇒ 労働局、ハローワーク等 ※ 障害者差別解消法第13条において、行政機関等・事業者が事業主としての立場で労働者に対して行う障害を理由とする差別を解消するための措置については、障害者の雇用の促進等に係る法律の定めるところによるとされています(詳細については、119頁を参照ください)。 ページ54 * 補助犬に係る相談 ⇒ 所在地の都道府県(政令市・中核市を含む。)の補助犬担当課室 * 教育機関における障害者差別以外のトラブル(いじめ等)に係る相談 ⇒ 教育委員会等 ※ 上記は一例であり、事案に応じ検討し巻末の参考資料(129頁)を参照の上、相談対応可能な適切な窓口を紹介することが望まれます。 6.4.2 関係者(関係部局等)での情報共有、対応方針の検討 (1) 関係者との情報共有 ● 障害者からの相談と同様に相談事案の内容を整理し、必要に応じて関係機関等と情報共有を行ってください。(詳細は6.2.2(1)を参照ください) (2) 対応方針  対応方針の検討に当たっては、以下の事項を踏まえて検討を行ってください。 > 相談者及び相手方が納得できるものとしてください※。 > 相談者と相手方の両者の建設的対話を促すという趣旨から、相談者、相手方それぞれの意向を踏まえて相談窓口として、相談者に助言として対応の検討を依頼するという方向性で検討を行ってください。 > ただし、相談者の対応が不適切であり、加えて障害や障害者に対しての理解をしようとする姿勢が見られない等、対応を改善する見込みが薄い場合や、相手方が相談者にとって過重な負担であることを理解しようとしない場合には、障害者差別解消法の趣旨をしっかりと伝えて改善を求めることも検討してください。 ※ たとえ相談者や相手方の希望に沿うことができない内容となる場合であっても、丁寧に説明し、相談者に納得していただけるよう努めてください。  具体的には、相談者の求める対応に応じて以下を参考に対応方針を検討してください。 @ 障害者差別解消法に関する事案について助言をしてほしい    相談者(事業者)から、障害者から障害者差別解消法に関する訴えがあった場合や、事前的措置について助言を求められた場合には、法令の解釈や以下の資料を参考に可能な限りの情報提供や助言を行ってください。なお、合理的配慮の提供に関する相談については、事前的改善措置としての環境の整備についても併せて情報提供することが望ましいです。 【活用できる資料の例】 * 各府省庁の対応指針   https://www8.cao.go.jp/shougai/suishin/sabekai/taioshishin.html ページ55 * 合理的配慮等具体例データ集 合理的配慮サーチ https://www8.cao.go.jp/shougai/suishin/jirei/ * 障害を理由とする差別の解消の推進 相談対応ケーススタディ集 https://www8.cao.go.jp/shougai/suishin/jirei/case-study.html ※ 相談者が窓口からの助言のみを希望する場合には、相談内容に応じて、事業を所管する部局等の関係者間で検討した結果を基に相談者へ回答を行い、対応終了となります。 * 同業他社の取組事例 ※ 同業他社のホームページ等に掲載があるケースがあるほか、ニュース記事になっているケースもあります。  情報を共有する際は、事例や同業他社の取組と一律に同じことをすればよいわけではなく、事案毎に個別具体的に検討する必要がある点をしっかりと伝えることが重要です。 A 相手方に相談者の状況等を説明してほしい  相談者が行政から相手方に対して、差別事案があったことを相手方に伝達することのみを望む場合には、原則として、障害者施策担当課等から相手方に伝達を行ってください。相手方に相談者の状況等の伝達を行う際には、併せて相手方に障害者差別解消法について説明し、同法の内容の理解を促すことが望ましいです。なお、相手方に連絡する際には、単に事案を伝達するだけではなく、相手方の状況についても確認し、その内容も踏まえた対応を行う必要があることに留意してください。  なお、相手方に相談者の状況等を伝える場合には、必要に応じて事業者や従業員の情報も併せて伝える必要があることから、52頁に記載のとおり事業者や従業員の情報の提供の可否について相談者に確認することが必要となります。  相手方に伝達を行ったあとは、相談者に対してそのフィードバックを行うことが望ましいです。 B 相手方への伝達及び調整を望む  相談者が相手方との調整を望む場合には、相手方※への事実確認(相手方に事実確認を行う際には「6.4.3事実確認」を適宜参照ください)を行う必要があります。この際、適宜、関係部局・関係機関と連携して対応することが必要です。 ※ 相手方は個人であることが見込まれるため、前述のとおり相談者から連絡先を入手できない場合は、相手方への説明や伝達・調整等が困難となることが見込まれることにも留意する必要があります。 > 相手方が相談を受けた地方公共団体に居住する場合  相手方も相談者所在の地方公共団体に居住する場合には、終始、相談を受けた地方公共団体において事案解決することが求められます。相談を受けた部署のみならず、相手方を所管する関係部局と連携して対応することが望ましいです。   ページ56 なお、相手方との調整が困難である場合等には、都道府県に協力を求めることも検討してください。 > 相手方が相談を受けた地方公共団体に居住していない場合※1  相手方が他の地方公共団体に居住する場合には、必要に応じて相談を受けた地方公共団体だけではなく、相手方所在の地方公共団体とも連携して対応することが望まれます。相手方所在の地方公共団体へのコンタクトの一例は13頁の図を参考にし、事案解決のために連携を図ってください。  なお、相手方との調整が困難である場合や、地方公共団体の条例等において相談対応の対象が明確に定められている場合※2等対応が困難である場合には、都道府県 や必要に応じて事業を所管する各府省庁と連携し対応を行ってください。 ※1 相手方が遠方から観光等で居住地以外に来訪した場合等が想定されます。 ※2 地方公共団体によっては、相談対応の対象について、本マニュアルが前提としている所在地(居住地)主義(相談者が所在(居住)する地方公共団体において対応する)ではなく、発生地主義(事案が発生した地方公共団体において対応する)とすることを条例等で明確にしている場合があります。 6.4.3 事実確認 ● 相談者である事業者から収集した情報について、相手方に対して相談窓口に相談が寄せられたことを伝え、事実確認を実施してください。 > 予備的情報の収集 * 事実を確認するに当たっては、相談者から聞き取った内容に関連する情報について、事前の情報収集を行うと円滑に進みます。 * 相談者の事業に関する法律や制度、主務大臣の定める対応指針についても確認してください。 * 必要に応じて、関係部局や関係機関等に確認することも検討してください。 ※ 相手方の障害種別ごとの障害特性について事前に情報収集を行うことは対応の検討に当たり有効ですが、障害の内容・程度や困りごとは個々の障害者によってそれぞれであることについては留意してください。 ※ 客観的な情報は、相談事案の検討に当たり、正当な理由に該当するか、又は過重な負担に該当するか等について判断するために重要な根拠となりえます。 > 事実確認を行う内容 * 相談事案に関する情報について、事実関係の確認(起こったことについての相談者が主張する内容と相手方が主張する内容の突合)を行ってください。 ページ57 * 相手方が求める対応及び理由 ※ ケーススタディ集において示している「法的判断の検討プロセスフロー」(「法令編88頁参照)で示されている判断ポイントとなる事項が明らかになるように聴取する。 > 相手方と接触する際のポイント @ 相談窓口の役割・立場を認識してもらう * 相談窓口は公正・中立の立場にあり、当事者双方から事実確認をした上で判断するという姿勢を示してください(決めつけるような言動は避けてください)。 * 相談窓口では事案解決を援助する立場から、相談者と相手方との間を仲立ちして、当事者間の調整や事案解決に資する助言等を行っており、その実施に際しては、相手方から聴取した内容等を必要に応じて相談者に提供することがあり得る旨も説明してください。 ※ 個人情報の共有や相手方の主張について相談者に提供することについて相手方に説明する際には、分かりやすい言葉で相手が理解できるよう、丁寧に説明することを心掛けてください。 A 相手方の障害者差別解消法に関する理解状況を把握 * 相談者から受けた相談内容について伝える際に、同時に障害者差別解消法への理解の状況を確認してください。 * 障害者差別解消法について説明を行う際は、リーフレットや事例集を用いて説明をすることが効果的です。説明の際には、相手方の障害特性に応じた情報保障等を行うことも重要です。 B 伝え方に注意 * 相手方に連絡をする際は、障害者差別解消に関する相談窓口からの連絡である旨はしっかりと伝えつつも、極端に警戒されないよう、「まずは事実確認をしたい」「障害者、事業者双方の相互理解の醸成に向けて今後検討してきたい」旨を伝えてください。 * 事実確認に当たっては、相手方の立場や感情について一方的に否定せずに傾聴しつつ、事案の解決や改善に向けて相手方の協力や意見を求めてください。 * 相手方からの情報取集した内容については、相手方の一緒に問題点を整理しながら、相手方がどうしたいのかという意向や主訴を正確に把握することが大切です。 ページ58 * 相手方の内容や主訴がはっきりしない場合や、相手方の生活状況や背景を把握する必要がある場合には、日ごろの状況を知っているサービス担当者に確認する等、関係者との協力を得ながら内容を確認してください。 * 相談者から収集した情報について、相談者の言葉をそのまま伝えてしまうと、時に話が先に進まなくなることがあるため、注意しながら事実確認を実施してください。 * 聴取が一通り終了したら、相談窓口の職員の側から「お話を整理させていただくと・・・との内容で理解しておりますが、その認識でよいでしょうか」というように、相手方が認識している事実、主張、要望等について整理を行い、相手方主張の内容について振り返り確認を行ってください。 6.4.4 関係者での情報共有・事案の評価分析・対応方針の検討 ● 相手方からの情報収集が終了したら、相談者及び相手方から収集した情報を比較できるよう整理するとともに、再度、関係者で情報共有を行い、事案を評価・分析し、今後の対応を検討してください。 ● 事実確認の結果、相談者と相手方とで、起きたことに対する事実認識が異なっている場合には、客観的情報等を基にまずは両者の事実認識を一致させるよう努めます。 ● 一方で、"言った、言わない論"になった場合など、どうしても事実認識のギャップが埋まらない場合には、それを無理に合わせるよりも、今後どうしていけばお互いが納得して解決できるかという視点を持って話し合うように意識してください。 ● 対応が困難である案件の場合等には、地域協議会において事案解決のための検討を行うこと等も有効です。 @ 関係部局等での情報共有 > 情報共有を行う際は、相談者及び相手方から収集した情報を比較できるよう整理してください。 > 6.4.2(1)で情報共有、対応方針の検討を行った場合は、そのメンバーで再度情報共有を実施してください。 A 事案の評価分析・対応方針の検討 > 相談者と相手方から聴取した内容を整理したものを踏まえて、相談内容が不当な差別的取扱い又は合理的配慮の不提供に該当するかを評価してください。 > 評価方法の詳細は法令編に記載の法令説明や、ケーススタディ集の「法的判断の検討プロセスフロー」(「法令編」88頁参照)や掲載事例を参照してください。 > 相談内容の評価結果に応じて対応方針を検討する。基本的な対応方針としては評価結果に応じて以下の対応が考えられます。 ページ59 (@) <不当な差別的取扱い・合理的配慮の不提供に該当すると考えられると判断した場合> > 相談者に対し、今回の事案は障害者差別解消法違反に該当すると考えられるため是正が必要であることを要請として伝えるとともに、状況の是正・改善に向けた助言等を実施してください。 > 対応方針については、あらかじめ相手方(障害者)の了解を得ることが望ましいです。事実確認や調整に当たっては、相談者の意向・要望が揺れ動くことも考えられるため、随時、相談者の意向・要望を確認することが重要です。 > 相談者と相手方の間で要望及び提供可能な対応について意見が食い違う場合には、以下のとおり双方の事実認識、主張・要望やその理由、障害者差別解消法に対する理解等を確認し、調整を行います。 * 事案の解決に向けて、双方の意向をまずは確認しておきます。具体的には相談者や相手方本人が重要だと考えていない点についても確認するとともに、以下の点を確認してください。 ● 障害者側:相手側に求める最低限の要望やその理由 ● 事業者側:合理的配慮として提供可能な対応のライン/提供不可のラインやその理由 * このとき、相談者と相手方のいずれか、または双方の障害者差別解消法に対する理解が及んでいない場合、双方の主張に対する理解や納得に至らない可能性があるため、必要に応じて障害者差別解消法の説明を行います。 * 双方の事実認識、主張・要望やその背景、障害者差別解消法に対する理解を確認した後は、相談者の要望や相談状況に応じて、調整方法を検討します。原則としては、以下の点に留意しつつ、相談者と相手方に個別に連絡を行いながら調整を行います。  原則 個別に連絡を行いながら調整 * 相談者、相手側の主張を確認の上、双方の歩み寄りを促しつつ、相談窓口担当者が双方の主張や対応を相手へ伝えるプロセスを繰り返すことで、当事者同士では理解ができなかった主張も双方が理解できるようになることを目指します。 * 相談窓口担当者が双方に伝達・提供する際は、相談者・相手側がどのように捉えていたか、感じていたかどのような対応を望んでいるのか又は実施することを考えているのか等を、第三者の立場として客観的に伝えるように留意します。 * また、(相談者による相手方への情報伝達が不十分だった場合)相談者の主張に関する補足説明を行います。 ページ60 例外 関係者を集め話し合いを行いながら調整 ● 相談者からの要望があり、かつ双方が事前に同意を得られた場合には、関係者を集めて話し合いを行いながら調整する方法もあります。 ● ただし、相談者と相手方が直接対面すると、感情的な議論となり関係が一層悪化する可能性があるため、双方の感情に細心の注意を払う必要があり、その方法は例外的に実施されるべきものです。 ● 話し合いの目的をしっかり伝えることに加え、話し合いは一度で終わらない可能性があることも伝えておくと、話し合いの中で良い結論が見いだせなかった際にも、「こういうものだ」と双方に思ってもらえ、次につなげることができます。 (A) <不当な差別的取扱い・合理的配慮の不提供に該当しないと考えられると判断した場合> > 相談者に対し、今回は障害者差別解消法違反に該当しないと考えられる旨を伝えるとともに、必要に応じて、今後同様のトラブルが発生しないような改善案や環境の整備等の参考情報を提供してください。 > 相手方に対しても、今回は障害者差別解消法違反に該当しないと考えられる旨を伝えるとともに、必要に応じて、相談者への参考情報の提供結果を共有してください。 ※ 相手方に伝える際には、相手方の意向・要望に沿わないこともあるため、丁寧に説明することが重要です。 > 相手方が一定の対応を行う意向を示した場合に、事業者の対応と相手方が望む対応について意見が食い違う場合は、上記(@)の場合と同様に調整を行ってください。 6.4.5 具体的な対応の実施 <不当な差別的取扱い・合理的配慮の不提供に該当すると考えられると判断した場合> ● 6.4.4「A事案の評価分析・対応方針の検討」(@)に記載の方針に基づき相談者に助言等を実施してください。これを踏まえ、是正・改善策としてどのような対応が可能か、相談者に確認してください。確認に当たっては、 * 不当な差別的取扱いに関する事案であれば、障害者でない者との不当な異なる取扱いをどのような方法で是正するか、またその内容が障害者差別解消法上妥当と考えられるか * 合理的配慮の提供に関する事案であれば、障害者からの求めに対し、どのような合理的配慮を提供できるか、また、当該改善策が障害者にとっての社会的障壁を除去するための必要かつ実現可能なものとなっているか 等を確認してください。 ページ61 ● 当該の行為が、行為を行った個人の考えによるものである場合には事業者内における周知啓発が、事業者として整備しているマニュアル等によるものである場合にはマニュアルの改正等が、効果的に再発防止につなげられる可能性があるため検討を促してください。 ● 相談者が示した対応案を相手方に伝達します。その際に、対応案や代替案の検討等のために当事者間での調整が必要となる場合には、相談者、相手方それぞれに個別に連絡を行い、当事者間の建設的対話による代替案の検討を促す等の対応を講じることを検討してください。 ● 相談者が示した対応案を相手方に伝えると、これまでは分からなかったことが新たにわかることも多くあります。この場合、「6.4.2関係者(関係部局等)での情報共有、対応方針の検討」と「6.4.3事実確認」のプロセスを複数回繰り返し、対応策を適宜見直してください。 ● 当事者間の調整等により解決策等が得られた場合や、相手方への説明等実施した場合には対応終了となりますが、必要に応じて、事案終結後の状況についてモニタリングを実施することも検討してください。 ● 事業者からは、事業展開を進める上でどのような配慮をすべきか、といったような相談が来ることも想定されます。この段階で、不当な差別的取扱いや合理的配慮の提供の法的判断の検討プロセス及び類似例、環境の整備の有効性を教示することで、事業者が障害者差別解消法の趣旨を理解した上で、事業展開を進めることが可能となり、紛争の事前防止につながることもあります。そのため、紛争になる前段階における相談であった場合においても丁寧に対応を行ってください。 ● また、「5.相談体制の構築」にて記載のとおり障害者差別解消法においては相互理解と建設的対話が重要であり、どちらか一方の主張が通るまで事案終結とならないというものではありません。相手方の主張の内容や事案処理の進捗状況等によっては、障害者差別解消法に基づきできること・できないことを改めてはっきりと相談者や相手方に示し、事案の終結を視野に入れることも必要となることに留意してください。 ※ 障害者差別に関する紛争も、他の当事者間の具体的な紛争と同様、最終的には裁判所において判断されることとなります。 ● このプロセスにおいて、助言等行ったにも関わらず相手方(事業者)が対応の拒否を繰り返す等、自主的な改善を期待することが困難である場合等には、次の「6.4.6相手方が対応を拒否する場合」に進みます。 <不当な差別的取扱い・合理的配慮の不提供に該当しないと考えられると判断した場合> ● 6.4.4「A事案の評価分析・対応方針の検討」(A)に記載の方針に基づく対応を行うことで対応終了となります。 ページ62 6.4.6 相談者(事業者)が対応を拒否する場合 ● 相談事案の解決のためには、相談窓口において建設的対話を促進し、相互理解を促進することが望まれます。 そのため、相手方に自身の主張を頑として曲げない、という姿勢を貫くのではなく、お互いが相手の状況を理解し、お互いが歩み寄って少しでもお互いが納得できる改善・対応方法を考えることを粘り強く説明し、当事者間の建設的対話を促してください。 ページ63 <法令編(障害者差別解消法の基本的な法令知識)> ページ64 1 障害者差別解消法とは 1.1 障害者差別解消法の背景・経過  我が国は平成19年に、障害者の人権及び基本的自由の享有を確保すること並びに障害者の固有の尊厳の尊重を促進するための包括的かつ総合的な国際条約である障害者の権利に関する条約(以下「権利条約」という。)に署名して以来、批准に向けて国内法の整備等を進めてきた。権利条約は第2条において、「「障害に基づく差別」とは、障害に基づくあらゆる区別、排除又は制限であって、政治的、経済的、社会的、文化的、市民的その他のあらゆる分野において、他の者との平等を基礎として全ての人権及び基本的自由を認識し、享有し、又は行使することを害し、又は妨げる目的又は効果を有するものをいう。障害に基づく差別には、あらゆる形態の差別(合理的配慮の否定を含む。)を含む。」と定義するとともに、「障害者が他の者との平等を基礎として全ての人権及び基本的自由を享有し、又は行使することを確保するための必要かつ適当な変更及び調整であって、特定の場合において必要とされるものであり、かつ、均衡を失した又は過度の負担を課さないもの」を「合理的配慮」と定義しており、第5条で、締約国に対し、障害に基づくあらゆる差別を禁止することや、合理的配慮の提供が確保されるための適当な措置を取ることを求めている。我が国においては、平成23年の障害者基本法(昭和45年法律第84号)改正において、権利条約の趣旨を踏まえ、基本原則として、障害を理由とする差別その他の障害者に対する権利利益の侵害行為が禁止されるとともに、合理的配慮の提供が求められる旨が規定された。  障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(平成25年法律第65号。以下「法」という。法令編において同じ。)は、障害者基本法における差別の禁止の基本原則を具体化するものであり、全ての国民が、障害の有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会の実現に向け、障害を理由とする差別の解消を推進することを目的として平成25年6月に制定されたものであり、我が国は、本法の制定を含めた一連の障害者施策に係る取組の成果を踏まえ、平成26年1月に権利条約を締結した。また、令和3年6月には、事業者による合理的配慮の提供の義務付け等を内容とする、障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律の一部を改正する法律(令和3年法律第56号。以下「改正法」という。)が公布された。 ページ65 1.2 主な条文及び解説  以下、法の主な条文について、基本方針等に基づき解説を行う。 (目的) 第一条 この法律は、障害者基本法(昭和四十五年法律第八十四号)の基本的な理念にのっとり、全ての障害者が、障害者でない者と等しく、基本的人権を享有する個人としてその尊厳が重んぜられ、その尊厳にふさわしい生活を保障される権利を有することを踏まえ、障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本的な事項、行政機関等及び事業者における障害を理由とする差別を解消するための措置等を定めることにより、障害を理由とする差別の解消を推進し、もって全ての国民が、障害の有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会の実現に資することを目的とする。 【解説】 ● 法は、前述のとおり障害者基本法第4条に規定する「差別の禁止」の原則を具体化するものである。本条は、このような法の位置付けを踏まえ、法の目的について規定するものである。 ● 全ての国民は、障害の有無にかかわらず、等しく基本的人権を享有するかけがえのない個人として尊重されなければならない。 ● 障害者も障害者でない者も、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会を実現するためには、日常生活や社会生活における障害者の活動を制限し、社会への参加を制約している社会的障壁を取り除くことが重要である。このため、法では、行政機関等や事業者に対して、障害者への障害を理由とする不当な差別的取扱いを禁止するとともに、合理的配慮の提供を求め、これらの措置等を通じて、障害者が社会で提供されている様々なサービスや機会にアクセスし、社会に参加できるようにすること等を通じて、共生社会の実現を目指すこととしている。 ● 法は、障害者に対する不当な差別的取扱い及び合理的配慮の不提供を差別と規定し、行政機関等及び事業者に対し、差別の解消に向けた具体的取組を求めるとともに、障害者も含めた国民一人一人が、それぞれの立場において自発的に取り組むことを促している。 ● 特に、法に規定された合理的配慮の提供に当たっては、障害者や行政機関等・事業者、地域住民といった様々な関係者の建設的対話による相互理解により、共生社会の実現という共通の目標の実現に向けた取組が推進されることが期待される。 ● なお、法の目的である、全ての国民が、障害の有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会の実現を目指す旨は、障害者基本法第1条においても同法の大目的として同様に規定されている。 ページ66 【参照条文】 ○ 障害者基本法(昭和45年法律第84号)(抄) (目的) 第一条 この法律は、全ての国民が、障害の有無にかかわらず、等しく基本的人権を享有するかけがえのない個人として尊重されるものであるとの理念にのつとり、全ての国民が、障害の有無によつて分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会を実現するため、障害者の自立及び社会参加の支援等のための施策に関し、基本原則を定め、及び国、地方公共団体等の責務を明らかにするとともに、障害者の自立及び社会参加の支援等のための施策の基本となる事項を定めること等により、障害者の自立及び社会参加の支援等のための施策を総合的かつ計画的に推進することを目的とする。 (定義) 第二条 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。 一 障害者 身体障害、知的障害、精神障害(発達障害を含む。)その他の心身の機能の障害(以下「障害」と総称する。)がある者であって、障害及び社会的障壁により継続的に日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける状態にあるものをいう。 二 社会的障壁 障害がある者にとって日常生活又は社会生活を営む上で障壁となるような社会における事物、制度、慣行、観念その他一切のものをいう。 三 行政機関等 国の行政機関、独立行政法人等、地方公共団体(地方公営企業法(昭和二十七年法律第二百九十二号)第三章の規定の適用を受ける地方公共団体の経営する企業を除く。第七号、第十条及び附則第四条第一項において同じ。)及び地方独立行政法人をいう。 四 国の行政機関 次に掲げる機関をいう。 イ 法律の規定に基づき内閣に置かれる機関(内閣府を除く。)及び内閣の所轄の下に置かれる機関 ロ 内閣府、宮内庁並びに内閣府設置法(平成十一年法律第八十九号)第四十九条第一項及び第二項に規定する機関(これらの機関のうちニの政令で定める機関が置かれる機関にあっては、当該政令で定める機関を除く。) ハ 国家行政組織法(昭和二十三年法律第百二十号)第三条第二項に規定する機関(ホの政令で定める機関が置かれる機関にあっては、当該政令で定める機関を除く。) ニ 内閣府設置法第三十九条及び第五十五条並びに宮内庁法(昭和二十二年法律第七十号)第十六条第二項の機関並びに内閣府設置法第四十条及び第五十六条(宮内庁法第十八条第一項において準用する場合を含む。)の特別の機関で、政令で定めるもの ページ67 ホ 国家行政組織法第八条の二の施設等機関及び同法第八条の三の特別の機関で、政令で定めるもの ヘ 会計検査院 五 独立行政法人等 次に掲げる法人をいう。 イ 独立行政法人(独立行政法人通則法(平成十一年法律第百三号)第二条第一項に規定する独立行政法人をいう。ロにおいて同じ。) ロ 法律により直接に設立された法人、特別の法律により特別の設立行為をもって設立された法人(独立行政法人を除く。)又は特別の法律により設立され、かつ、その設立に関し行政庁の認可を要する法人のうち、政令で定めるもの 六 地方独立行政法人 地方独立行政法人法(平成十五年法律第百十八号)第二条第一項に規定する地方独立行政法人(同法第二十一条第三号に掲げる業務を行うものを除く。)をいう。 七 事業者 商業その他の事業を行う者(国、独立行政法人等、地方公共団体及び地方独立行政法人を除く。)をいう。 【解説】 * 第1号「障害者」について > 対象となる障害者は、身体障害、知的障害、精神障害(発達障害及び高次脳機能障害を含む。)その他の心身の機能の障害(難病等に起因する障害を含む。以下「障害」と総称)がある者であって、障害及び社会的障壁により継続的に日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける状態にあるものである。これは、障害者基本法第2条第1号に規定する障害者の定義と同様であり、いわゆる障害の「社会モデル」の考え方を踏まえている。したがって、法が対象とする障害者の該当性は、当該者の状況に応じて個別に判断されることとなり、いわゆる障害者手帳の所持者に限られない。 > また、「継続的に」には、断続的に、又は周期的に相当な制限を受ける状態にあるものも含む。 * 第2号「社会的障壁」について > 社会的障壁についても、いわゆる「社会モデル」の考え方を踏まえ規定するものである。社会的障壁としては、具体的に以下のものが挙げられる。 * 社会における事物(障害者にとって通行しにくい施設、設備など) * 制度(障害者にとって利用しにくい制度など) * 慣行(障害者の存在を意識していない慣習、文化など) * 観念(障害者への偏見など) ページ68 【参考】障害の「社会モデル」 ○ 共生社会を実現するために、障害者が直面するバリアを取り除いていくという考え方は、障害者の権利に関する条約の基本理念である障害の「社会モデル」の考え方を踏まえたもの。障害の「社会モデル」とは、障害者が日常生活又は社会生活で受ける様々な制限は、障害者自身の心身の機能の障害のみが原因なのではなく、社会の側に様々な障壁(バリア)があることによって生じるものという考え方である。 ○ 障害者も障害者でない者も分け隔てなく活動できる共生社会の実現のためには、このような考え方に基づき、障害者の活動や社会への参加を制限している様々な障壁を取り除くことが重要となる。 【社会モデルの考え方】 (作業者注:社会モデルの考え方について、図の説明) ● 階段しかないので、2 階には上がれない →「障害」がある ● エレベーターがあれば、2 階に上がれる →「障害」がなくなった! 車椅子の方は、何も変わっていない。変わったのは、あくまでも周囲の環境。 「社会モデル」の考え方に基づけば、「階段」という障壁(バリア)があることで車椅子の方に「障害」が生じていることになります。 (作業者注:図の説明はここまで) * 第3号〜第6号「行政機関等」について > 第3号「行政機関等」:法においては、「国の行政機関」、「独立行政法人等」、「地方独立行政法人」及び地方公共団体を対象としている。 > 第4号「国の行政機関」:法においては、国の全ての行政機関を対象とすることとしている。なお、立法府である国会、司法府である裁判所については、国の機関としての一般的な責務(法第3条)の対象から排除されるものではないが、不当な差別的取扱いや合理的配慮といった具体的な措置については、三権分立の観点から対象とされていない。 > 第5号「独立行政法人等」:独立行政法人等、一定の範囲の公共的な性格を持つ法人についても、国の行政機関と同様に整理することとしている。法における「独立行政法人等」の範囲については、独立行政法人のほかに、公共的な性格を持つ特殊法人、認可法人等の中でも政府の一部を構成するとみられる法人も対象としており、施行令第2条において該当法人を定めている。 ページ69 > 第6号「地方独立行政法人」:法においては、住民の生活、地域社会及び地域経済の安定等の公共の見地からその地域において確実に実施されることが必要な事務及び事業を担う地方独立行政法人についても、国の行政機関等と同様に整理することとしている。一方、「公営企業型地方独立行政法人」については、地方独立行政法人法において「常に企業の経済性を発揮する」ことが求められていること等から、法の「事業者」として扱うことが適当であるため、地方独立行政法人から除いている。 ● 第7号「事業者」について > 対象となる事業者は、目的の営利・非営利、個人・法人の別を問わず、同種の行為を反復継続する意思をもって行う者(地方公共団体の経営する企業及び公営企業型地方独立行政法人を含む。)である。したがって、例えば、個人事業者や対価を得ない無報酬の事業を行う者、非営利事業を行う社会福祉法人や特定非営利活動法人も対象となり、また対面やオンラインなどサービス等の提供形態の別も問わない。 【参照条文】 ○ 障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(平成25年法律第65号)(抄) (国及び地方公共団体の責務) 第三条 国及び地方公共団体は、この法律の趣旨にのっとり、障害を理由とする差別の解消の推進に関して必要な施策を策定し、及びこれを実施しなければならない。 2 国及び地方公共団体は、障害を理由とする差別の解消の推進に関して必要な施策の効率的かつ効果的な実施が促進されるよう、適切な役割分担を行うとともに、相互に連携を図りながら協力しなければならない。 ○ 障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律施行令(平成28年政令第32号)(抄) (法第二条第五号ロの政令で定める法人) 第二条 法第二条第五号ロの政令で定める法人は、沖縄科学技術大学院大学学園、沖縄振興開発金融公庫、外国人技能実習機構、株式会社国際協力銀行、株式会社日本政策金融公庫、株式会社日本貿易保険、金融経済教育推進機構、原子力損害賠償・廃炉等支援機構、国立大学法人、大学共同利用機関法人、日本銀行、日本司法支援センター、日本私立学校振興・共済事業団、日本中央競馬会、日本年金機構、農水産業協同組合貯金保険機構、福島国際研究教育機構、放送大学学園及び預金保険機構とする。 ページ70 (社会的障壁の除去の実施についての必要かつ合理的な配慮に関する環境の整備) 第五条 行政機関等及び事業者は、社会的障壁の除去の実施についての必要かつ合理的な配慮を的確に行うため、自ら設置する施設の構造の改善及び設備の整備、関係職員に対する研修その他の必要な環境の整備に努めなければならない。 【解説】 ● 法は、個別の場面において、個々の障害者に対して行われる合理的配慮を的確に行うための、不特定多数の障害者を主な対象として行われる事前的改善措置(施設や設備のバリアフリー化、意思表示やコミュニケーションを支援するためのサービス・介助者等の人的支援、障害者による円滑な情報の取得・利用・発信のための情報アクセシビリティの向上等)を、環境の整備として行政機関等及び事業者の努力義務としている。 ● 環境の整備は、不特定多数の障害者向けに事前的改善措置を行うものあるが、合理的配慮は、環境の整備を基礎として、その実施に伴う負担が過重でない場合に、特定の障害者に対して、個別の状況に応じて講じられる措置である。したがって、各場面における環境の整備の状況により、合理的配慮の内容は異なることとなる。 ■「環境の整備」と「合理的配慮の提供」の関係 (作業者注:「環境の整備」と「合理的配慮の提供」の関係について、図の説明) 環境の整備(事業者、行政機関等による事前的改善措置)はAさん、Bさん、Cさん、Dさんへの異なる合理的配慮の土台となる。 合理的配慮を的確に行うための環境の整備の上に、個々の場面での合理的配慮(過重な負担の無い範囲で必要かつ合理的な配慮)がある。 (作業者注:図の説明はここまで) ● 多数の障害者が直面し得る社会的障壁をあらかじめ除去する観点から、他の障害者等への波及効果についても考慮した環境の整備を行うことや、相談・紛争事案を事前に防止する観点からは、合理的配慮の提供に関する相談対応等を契機に、行政機関等及び事業者の内部規則やマニュアル等の制度改正等の環境の整備を図ることは有効である。 ページ71 (行政機関等における障害を理由とする差別の禁止) 第七条 行政機関等は、その事務又は事業を行うに当たり、障害を理由として障害者でない者と不当な差別的取扱いをすることにより、障害者の権利利益を侵害してはならない。 2 行政機関等は、その事務又は事業を行うに当たり、障害者から現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明があった場合において、その実施に伴う負担が過重でないときは、障害者の権利利益を侵害することとならないよう、当該障害者の性別、年齢及び障害の状態に応じて、社会的障壁の除去の実施について必要かつ合理的な配慮をしなければならない。 (事業者における障害を理由とする差別の禁止) 第八条 事業者は、その事業を行うに当たり、障害を理由として障害者でない者と不当な差別的取扱いをすることにより、障害者の権利利益を侵害してはならない。 2 事業者は、その事業を行うに当たり、障害者から現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明があった場合において、その実施に伴う負担が過重でないときは、障害者の権利利益を侵害することとならないよう、当該障害者の性別、年齢及び障害の状態に応じて、社会的障壁の除去の実施について必要かつ合理的な配慮をしなければならない。 【解説】 ● 法第7条及び第8条は、障害者基本法第4条の「差別の禁止」の基本原則を踏まえ、行政機関等(国の行政機関、独立行政法人等、地方公共団体、地方独立行政法人)及び事業者に対して、障害を理由とする不当な差別的取扱いを禁止するとともに、社会的障壁の実施についての必要かつ合理的な配慮を義務付けている。 (1)第7条第1項及び第8条第1項の用語解説 @ 「その事務又は事業を行うに当たり」※第8条第1項は「その事業を行うに当たり」 > 法における不当な差別的取扱いは、行政機関等が事務又は事業を行うに当たっての対応や、事業者が事業を行うに当たっての対応が対象となる。このため、当該対応が事務・事業と関係なく個人として行ったものであれば、不当な差別的取扱いには該当しない。 A 「障害を理由として」 > 法の対象は「障害を理由」とした差別であり、障害者に対するものであっても、障害以外の理由による場合は、法における不当な差別的取扱いには当たらない。なお、車椅子、補助犬その他の支援機器等の利用や介助者の付添い等の社会的障壁を解消するための手段の利用等を理由として行われる不当な差別的取扱いも、障害を理由とする不当な差別的取扱いに該当する。 ページ72 B 「障害者でない者と」 > 法の対象は、障害者と障害者でない者との間における不当な差別的取扱いであり、障害者間の取扱いの差異(例:障害種別間での優遇制度の違いに基づく異なる取扱い等)は対象としていない。 C 不当な差別的取扱い > 法における不当な差別的取扱いとは、障害者に対し、正当な理由なく、障害を理由として、障害者でない者には提供している財・サービスや各種機会の提供を拒否する、又は提供に当たって場所・時間帯などを制限する、障害者でない者に対しては付さない条件を付けることなどの取扱いを指す。 > 正当な理由に相当するのは、障害者に対して、障害を理由として、財・サービスや各種機会の提供を拒否するなどの障害者でない者と異なる取扱いが、 1. 客観的に見て正当な目的の下に行われたものであり、 2. その目的に照らしてやむを得ないと言える場合 であるとされている。正当な理由に相当するか否かについては、個別の事案ごとに、障害者、事業者、第三者の権利利益(例:安全の確保、財産の保全、事業の目的・内容・機能の維持、損害発生の防止等)及び行政機関等・事業者の事務・事業の目的・内容・機能の維持等の観点に鑑み、具体的場面や状況に応じて総合的・客観的に判断することが必要となる。 > なお、障害者を障害者でない者と比べて優遇する取扱い(いわゆる積極的改善措置)、法に規定された障害者に対する合理的配慮の提供による障害者でない者との異なる取扱いや、合理的配慮を提供等するために必要な範囲で、プライバシーに配慮しつつ障害者に障害の状況等を確認することは、不当な差別的取扱いには当たらない。不当な差別的取扱いとは、正当な理由なく、障害者を、問題となる事務・事業について本質的に関係する諸事情が同じ障害者でない者より不利に扱うことである点に留意する必要がある。 > 行政機関等及び事業者は、正当な理由があると判断した場合には、障害者にその理由を丁寧に説明するものとし、理解を得るよう努めることが望ましい。その際、行政機関等及び事業者と障害者の双方が、お互いに相手の立場を尊重しながら相互理解を図ることが求められる。 > 「正当な理由なく不当な差別的取扱いに該当すると考えられる例」及び「正当な理由があり不当な差別的取扱いに該当しないと考えられる例」としては、次のようなものがある。なお、記載されている内容はあくまでも例示であり、正当な理由に相当するか否かについては、個別の事案ごとに、前述の観点等を踏まえて判断することが必要であること、正当な理由があり不当な差別的取扱いに該当しない場合であっても、合理的配慮の提供を求められる場合には別途の検討が必要であることに留意する。 ページ73 【正当な理由がなく、不当な差別的取扱いに該当すると考えられる例】 ○ 障害の種類や程度、サービス提供の場面における本人や第三者の安全性などについて考慮することなく、漠然とした安全上の問題を理由に施設利用を拒否すること。 ○ 業務の遂行に支障がないにもかかわらず、障害者でない者とは異なる場所での対応を行うこと。 ○ 障害があることを理由として、障害者に対して、言葉遣いや接客の態度など一律に接遇の質を下げること。 ○ 障害があることを理由として、具体的場面や状況に応じた検討を行うことなく、障害者に対し一律に保護者や支援者・介助者の同伴をサービスの利用条件とすること。 【正当な理由があるため、不当な差別的取扱いに該当しないと考えられる例】 ○ 実習を伴う講座において、実習に必要な作業の遂行上具体的な危険の発生が見込まれる障害特性のある障害者に対し、当該実習とは別の実習を設定すること。(障害者本人の安全確保の観点) ○ 飲食店において、車椅子の利用者が畳敷きの個室を希望した際に、敷物を敷く等、畳を保護するための対応を行うこと。(事業者の損害発生の防止の観点) ○ 銀行において口座開設等の手続を行うため、預金者となる障害者本人に同行した者が代筆をしようとした際に、必要な範囲で、プライバシーに配慮しつつ、障害者本人に対し障害の状況や本人の取引意思等を確認すること。(障害者本人の財産の保全の観点) ○ 電動車椅子の利用者に対して、通常よりも搭乗手続や保安検査に時間を要することから、十分な研修を受けたスタッフの配置や関係者間の情報共有により所要時間の短縮を行った上で必要最小限の時間を説明するとともに、搭乗に間に合う時間に空港に来てもらうよう依頼すること。(事業の目的・内容・機能の維持の観点) ページ74 (2)第7条第2項及び第8条第2項の用語解説 @ 「その事務又は事業を行うに当たり」※第8条第2項は「その事業を行うに当たり」 > 合理的配慮の提供についても、前述の不当な差別的取扱いと同様、当該行政機関等・事業者が事務又は事業を行うに当たっての対応や、事業者が事業を行うに当たっての対応が対象となる。 A 「現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明があった場合において」 > 法では、行政機関等及び事業者が社会的障壁の除去を必要としている障害者の存在を認識する契機として、障害者からの「意思の表明」を要件としている。意思の表明は、言語(手話を含む。)のほか、点字、拡大文字、筆談、実物の提示や身振りサイン等による合図、触覚による意思伝達など様々な手段により伝えられる。また、意思の表明は障害者本人からのものだけでなく、障害特性等により本人の意思表明が困難な場合には、障害者の家族や介助者などコミュニケーションを支援する者が本人を補佐して行う意思の表明も含む。 > なお、意思の表明が困難な障害者が、家族や支援者・介助者等を伴っていない場合など、意思の表明がない場合であっても、当該障害者が社会的障壁の除去を必要としていることが明白である場合には、法の趣旨に鑑みれば、当該障害者に対して適切と思われる配慮を提案するために建設的対話を働きかけるなど、自主的な取組に努めることが望ましい。 B 「その実施に伴う負担が過重でないときは」 > 法では、後述の「必要かつ合理的な配慮」は「その実施に伴う負担が過重でないとき」に実施するものとされている。 > 過重な負担については、個別の事案ごとに、以下の要素等を考慮し、具体的場面や状況に応じて総合的・客観的に判断することが必要であるとされている。 ・ 事業への影響の程度(事業の目的・内容・機能を損なうか否か) ・ 実現可能性の程度(物理的・技術的制約、人的・体制上の制約) ・ 費用・負担の程度 ・ 事業規模 ・ 財政・財務状況 > 行政機関等及び事業者は、配慮の内容が過重な負担に当たると判断した場合には、障害者にその理由を丁寧に説明し、理解を得るよう努めることが望ましい。その際には、行政機関等及び事業者と障害者の双方が、お互いに相手の立場を尊重しながら、建設的対話を通じて相互理解を図り、代替措置の選択も含めた対応を柔軟に検討することが求められる。 ページ75 C 「当該障害者の性別、年齢及び障害の状態に応じて」 > 合理的配慮の内容は、障害の特性や具体的場面・状況に応じて異なり、多様かつ個別性の高いものであるため、障害者からの意思の表明があった場合の対応に当たっては、当該障害者の属性や状況を考慮することが必要であることから、「当該障害者の性別、年齢及び障害の状態に応じて」配慮を行う旨を規定している。 D 「社会的障壁の除去の実施についての必要かつ合理的な配慮」 > 「社会的障壁の除去の実施についての必要かつ合理的な配慮」とは、行政機関等及び事業者の事務・事業の目的・内容・機能に照らし、 1. 必要とされる範囲で本来の業務に付随するものに限られること 2. 障害者でない者との比較において同等の機会の提供を受けるためのものであること 3. 事務・事業の目的・内容・機能の本質的な変更には及ばないこと の三つの留意事項全てを満たすものであることに留意する必要がある。 > 障害者から求められている配慮の内容が、これら三つのうちいずれか一つでも当てはまらない場合、当該配慮は必要かつ合理的なものとはいえないが、障害者の社会的障壁を除去するために何らかの対応が必要な場合には、行政機関等及び事業者と障害者双方の建設的対話を通じて、社会的障壁を除去するために必要かつ実現可能な対応案を検討する必要がある。 > 建設的対話に当たっては、障害者にとっての社会的障壁を除去するための必要かつ実現可能な対応案を障害者と行政機関等・事業者が共に考えていくために、双方がお互いの状況の理解に努めることが重要である。建設的対話を通じた相互理解を深めるための対応として、例えば、障害者本人が社会的障壁の除去のために普段講じている対策や、事業者が対応可能な取組等を対話の中で共有することが挙げられる。なお、建設的対話を行政機関等や事業者が一方的に拒むことは、合理的配慮の提供義務違反となる可能性があること、また、障害者の側が相互理解の姿勢を持たず、自己の希望のみを主張し続けるようなことも建設的対話とは言えないことに注意が必要である。 > 合理的配慮の提供義務違反に該当すると考えられる例及び該当しないと考えられる例としては、次のようなものがある。なお、記載されている内容はあくまでも例示であり、合理的配慮の提供義務違反に該当するか否かについては、個別の事案ごとに、前述の観点等を踏まえて判断することが必要であることに留意する。 ページ76 【合理的配慮の提供義務違反に該当すると考えられる例】 ○ 試験を受ける際に筆記が困難なためデジタル機器の使用を求める申出があった場合に、デジタル機器の持込みを認めた前例がないことを理由に、必要な調整を行うことなく一律に対応を断ること。 ○ イベント会場内の移動に際して支援を求める申出があった場合に、「何かあったら困る」という抽象的な理由で具体的な支援の可能性を検討せず、支援を断ること。 ○ 電話利用が困難な障害者から電話以外の手段により各種手続が行えるよう対応を求められた場合に、自社マニュアル上、当該手続は利用者本人による電話のみで手続可能とすることとされていることを理由として、メールや電話リレーサービスを介した電話等の代替措置を検討せずに対応を断ること。 ○ 自由席での開催を予定しているセミナーにおいて、弱視の障害者からスクリーンや板書等がよく見える席でのセミナー受講を希望する申出があった場合に、事前の座席確保などの対応を検討せずに「特別扱いはできない」という理由で対応を断ること。 【合理的配慮の提供義務に反しないと考えられる例】 ○ 飲食店において、食事介助等を求められた場合に、当該飲食店が当該業務を事業の一環として行っていないことから、その提供を断ること。(必要とされる範囲で本来の業務に付随するものに限られることの観点) ○ 抽選販売を行っている限定商品について、抽選申込みの手続を行うことが困難であることを理由に、当該商品をあらかじめ別途確保しておくよう求められた場合に、当該対応を断ること。(障害者でない者との比較において同等の機会の提供を受けるためのものであることの観点) ○ オンライン講座の配信のみを行っている事業者が、オンラインでの集団受講では内容の理解が難しいことを理由に対面での個別指導を求められた場合に、当該対応はその事業の目的・内容とは異なるものであり、対面での個別指導を可能とする人的体制・設備も有していないため、当該対応を断ること。(事務・事業の目的・内容・機能の本質的な変更には及ばないことの観点) ○ 小売店において、混雑時に視覚障害者から店員に対し、店内を付き添って買物の補助を求められた場合に、混雑時のため付添いはできないが、店員が買物リストを書き留めて商品を準備することができる旨を提案すること。(過重な負担(人的・体制上の制約)の観点) ページ77 【参照条文】 ○ 障害者基本法(昭和45年法律第84号)(抄) (差別の禁止) 第四条 何人も、障害者に対して、障害を理由として、差別することその他の権利利益を侵害する行為をしてはならない。 2 社会的障壁の除去は、それを必要としている障害者が現に存し、かつ、その実施に伴う負担が過重でないときは、それを怠ることによつて前項の規定に違反することとならないよう、その実施について必要かつ合理的な配慮がされなければならない。 3 国は、第一項の規定に違反する行為の防止に関する啓発及び知識の普及を図るため、当該行為の防止を図るために必要となる情報の収集、整理及び提供を行うものとする。 (事業者のための対応指針) 第十一条 主務大臣は、基本方針に即して、第八条に規定する事項に関し、事業者が適切に対応するために必要な指針(以下「対応指針」という。)を定めるものとする。 2 (略) 【解説】 ● 本条は、事業者における適切な対応を確保するため、主務大臣(当該事業者の事業を所管する大臣。詳しくは後述の第21条解説を参照。)において、個別の場面における事業者の適切な対応・判断に資するための指針を作成するべき旨を規定するもの。 ● 対応指針は事業者の適切な判断に資するために作成されるものであり、盛り込まれる合理的配慮の具体例は、事業者に強制する性格のものではなく、また、それだけに限られるものではない。事業者においては、対応指針を踏まえ、具体的場面や状況に応じて柔軟に対応することが期待される。 ● 法第12条の主務大臣による報告の徴収、助言、指導、勧告を行うに当たっては、対応指針に定められた事項が主務大臣の判断の基準となる。 ページ78 (報告の徴収並びに助言、指導及び勧告) 第十二条 主務大臣は、第八条の規定の施行に関し、特に必要があると認めるときは、対応指針に定める事項について、当該事業者に対し、報告を求め、又は助言、指導若しくは勧告をすることができる。 【解説】 ● 本条は、事業者における実効性を確保するため、主務大臣による報告の徴収、助言・指導、勧告について規定するもの(「主務大臣」については、後述の第21条解説を参照)。 ● 「第八条の規定の施行に関し、特に必要があると認めるとき」について > 報告の徴収等の措置の対象は、法第8条に規定する、事業者による障害を理由とする不当な差別的取扱いの禁止及び合理的配慮の提供に関し、「特に必要があると認めるとき」とされている。 > 「特に必要があると認めるとき」として具体的に想定される場合としては、事業者による自主的な取組のみによってはその適切な履行が確保されず、例えば、事業者が法に反した取扱いを繰り返し、自主的な改善を期待することが困難である場合などが考えられる。 ● 主務大臣による行政措置に当たっては、事業者における自主的な取組を尊重する法の趣旨に沿って、まず、報告徴収、助言、指導により改善を促すことを基本とする必要がある。 ● こうした行政措置に至る事案を未然に防止するため、主務大臣は、事業者に対して、対応指針に係る十分な情報提供を行うとともに、事業者からの照会・相談に丁寧に対応するなどの取組を積極的に行うものとする。また、円滑な相談対応等が可能となるよう、各主務大臣は、相談事案に関係する他の主務大臣や地方公共団体など関係機関との連携を十分に図ること等が求められる。 ● なお、本条の規定による主務大臣による報告の徴収に応じず、又は虚偽の報告をした者は、20万円以下の過料に処される(法第26条)。 【参照条文】 ○ 障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(平成25年法律第65号)(抄)    第六章 罰則 第二十六条 第十二条の規定による報告をせず、又は虚偽の報告をした者は、二十万円以下の過料に処する。 ページ79 (事業主による措置に関する特例) 第十三条 行政機関等及び事業者が事業主としての立場で労働者に対して行う障害を理由とする差別を解消するための措置については、障害者の雇用の促進等に関する法律(昭和三十五年法律第百二十三号)の定めるところによる。 【解説】 ● 法は、教育、医療、福祉、公共交通等、日常生活及び社会生活全般に係る分野を広く対象としている。 ● 一方、雇用分野については、労使の紛争解決の蓄積がある都道府県労働局等を活用した紛争解決制度を構築すること等、雇用分野特有の内容を定める必要があることから、障害者の雇用の促進等に関する法律(昭和35年法律第123号。以下「障害者雇用促進法」という。)に具体的な措置が規定されている。 ● このため、法と障害者雇用促進法との間で重複が生じることを避けるため、雇用分野における具体的な措置については障害者雇用促進法の定めるところによるとしている。 (相談及び紛争の防止等のための体制の整備) 第十四条 国及び地方公共団体は、障害者及びその家族その他の関係者からの障害を理由とする差別に関する相談に的確に応ずるとともに、障害を理由とする差別に関する紛争の防止又は解決を図ることができるよう人材の育成及び確保のための措置その他の必要な体制の整備を図るものとする。 【解説】 ● 障害を理由とする差別の解消を効果的に推進するためには、障害者本人やその周囲からの相談に対して的確に応じるとともに、障害を理由とする差別に関する紛争の防止や解決を図ることができるよう、社会全体として体制整備を図ることが重要である。本条では、障害を理由とする差別の解消に関する事項について適切に対応できるような体制の整備について、行政の責務として規定している。 ※ なお、本法では、行政肥大化防止等の観点から、新たな機関は設置せず、既存の機関等の活用・充実を図ることとしている。 ● また、今般の改正法により相談件数の増加等が見込まれることで、例えば、国と地方公共団体の機関の間で相談事案の引継ぎを行うことなど、国及び地方公共団体が相互に協力をする必要性が一層高まると考えられる。 ● 改正法では法第3条において、国と地方公共団体が適切な役割分担を行いつつ相互に連携・協力すべき旨も新たに追加されているところ、これを踏まえれば国及び地方公共団体においては、適切な役割分担の下、相談窓口等の間の連携・協力により業務を行うことで、障害を理由とする差別の解消に向けて、効率的かつ効果的に対応を行うことが重要となる。具体的な役割分担としては、相談対応等に際して、地域における障害を理由とする差別の解消を促進し、共生社会の実現に資する観点から、まず相談者にとって一番身近な市区町村が基本的な窓口の役割を果たすことが求められる。都道府県は、市区町村への助言や広域的・専門的な事案についての支援・連携を行うとともに、必要に応じて一次的な相談窓口等の役割を担うことが考えられる。また、国においては各府省庁が所掌する分野に応じて相談対応等を行うとともに、市区町村や都道府県のみでは対応が困難な事案について、適切な支援等を行う役割を担うことが考えられる。 ページ80 ● 相談対応等においては、このような国・都道府県・市区町村の役割分担を基本としつつ、どの相談窓口等においても、対応されないという事案が生じることがないよう、適切な関係機関との間で必要な連携・協力がなされ、国及び地方公共団体が一体となって適切な対応を図ることができるよう取り組むことが重要である。 ● また、改正法による改正後の法第14条では、国及び地方公共団体による人材の育成・確保の責務も明確化されている。障害を理由とする差別の解消を効果的に推進するには、公正・中立な立場である相談窓口等の担当者が、障害者や事業者等からの相談等に的確に応じることが必要であり、法や解決事例に関する知識、当事者間を調整する能力、連携・協力すべき関係機関に関する知識、障害特性に関する知識等が備わっていることが望ましい。国及び地方公共団体においては、必要な研修の実施等を通じて、相談対応を担う人材の専門性向上、相談対応業務の質向上を図ることが求められる。 【参照条文】 ○ 障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(平成25年法律第65号)(抄) (国及び地方公共団体の責務) 第三条(略) 2 国及び地方公共団体は、障害を理由とする差別の解消の推進に関して必要な施策の効率的かつ効果的な実施が促進されるよう、適切な役割分担を行うとともに、相互に連携を図りながら協力しなければならない。 ページ81 (啓発活動) 第十五条 国及び地方公共団体は、障害を理由とする差別の解消について国民の関心と理解を深めるとともに、特に、障害を理由とする差別の解消を妨げている諸要因の解消を図るため、必要な啓発活動を行うものとする。 【解説】 ● 本条は、障害を理由とする差別の解消を効果的に推進していくためには、国民各層の関心を高め、その理解を協力の下に推進することが重要であることから、国及び地方公共団体において、必要な啓発活動を行う旨を規定するもの。 ● また、平成25年の法案審議時に出された「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律案に対する附帯決議」においては、国及び地方公共団体において、グループホームやケアホーム等を含む、障害者関連施設の認可等に際して周辺住民の同意を求めないことを徹底するとともに、住民の理解を得るために積極的な啓発活動を行うこととされたほか、基本方針においても、国は、グループホーム等を含む、障害者関連施設の認可等に際して、周辺住民の同意を求める必要がないことを十分に周知するとともに、地方公共団体においては、当該認可等に際して、周辺住民の同意を求める必要がないことに留意しつつ、住民の理解を得るために積極的な啓発活動を行うことが望ましい旨、規定されていることから、国及び地方公共団体においては附帯決議及び基本方針に沿って対応することが期待される。 ページ82 (障害者差別解消支援地域協議会) 第十七条 国及び地方公共団体の機関であって、医療、介護、教育その他の障害者の自立と社会参加に関連する分野の事務に従事するもの(以下この項及び次条第二項において「関係機関」という。)は、当該地方公共団体の区域において関係機関が行う障害を理由とする差別に関する相談及び当該相談に係る事例を踏まえた障害を理由とする差別を解消するための取組を効果的かつ円滑に行うため、関係機関により構成される障害者差別解消支援地域協議会(以下「協議会」という。)を組織することができる。 2 前項の規定により協議会を組織する国及び地方公共団体の機関は、必要があると認めるときは、協議会に次に掲げる者を構成員として加えることができる。 一 特定非営利活動促進法(平成十年法律第七号)第二条第二項に規定する特定非営利活動法人その他の団体 二 学識経験者 三 その他当該国及び地方公共団体の機関が必要と認める者 (協議会の事務等) 第十八条 協議会は、前条第一項の目的を達するため、必要な情報を交換するとともに、障害者からの相談及び当該相談に係る事例を踏まえた障害を理由とする差別を解消するための取組に関する協議を行うものとする。 2 関係機関及び前条第二項の構成員(次項において「構成機関等」という。)は、前項の協議の結果に基づき、当該相談に係る事例を踏まえた障害を理由とする差別を解消するための取組を行うものとする。 3 協議会は、第一項に規定する情報の交換及び協議を行うため必要があると認めるとき、又は構成機関等が行う相談及び当該相談に係る事例を踏まえた障害を理由とする差別を解消するための取組に関し他の構成機関等から要請があった場合において必要があると認めるときは、構成機関等に対し、相談を行った障害者及び差別に係る事案に関する情報の提供、意見の表明その他の必要な協力を求めることができる。 4 協議会の庶務は、協議会を構成する地方公共団体において処理する。 5 協議会が組織されたときは、当該地方公共団体は、内閣府令で定めるところにより、その旨を公表しなければならない。 【解説】 ● 障害を理由とする差別の解消を効果的に推進するためには、障害者にとって身近な地域において、主体的な取組が推進されることが必要である。 ● このため、第17条では、国の地方支分部局を含め、地域における様々な関係機関が、相談事例等に係る情報の共有・協議を通じて、各自の役割に応じた事案解決のための取組や類似事例の発生防止の取組など、地域における障害を理由とする差別の解消の機運醸成を図り、それぞれの実情に応じた差別の解消のための取組を主体的に行うネットワークとして「障害者差別解消支援地域協議会」(以下「協議会」という。)を組織することができることとしている。また第18条では、協議会の事務等について規定している。 ページ83 ● 構成員について(第17条) > 法第17条では、協議会のメンバーとして、国及び地方公共団体のうち、医療、介護、教育など障害者施策に関連する部署を始め、NPO法人などの団体、学識経験者、その他必要と認める者を示している。 > 協議会については、障害者及びその家族の参画を進めるとともに、性別・年齢、障害種別等を考慮して組織することが望ましい。また、情報やノウハウを共有し、関係者が一体となって事案に取り組むという観点から、地域の事業者や事業者団体も協議会に参画することが有効である。 ● 協議会の役割(第18条第1項〜第3項) > 協議会に期待される役割としては、関係機関から提供された相談事例等について、適切な相談窓口を有する機関の紹介、具体的事案の対応例の共有・協議、協議会の構成機関等における調停、あっせん等の様々な取組による紛争解決、複数の機関で紛争解決等に対応することへの後押し等が考えられる。 > このほか、関係機関において紛争解決に至った事例や合理的配慮の具体例、相談事案から合理的配慮に係る環境の整備を行うに至った事例などの共有・分析を通じて、構成機関等における業務改善、事案の発生防止のための取組、周知・啓発活動に係る協議等を行うことも期待される。 ● 協議会の庶務(第18条第4項) > 協議会については、障害を理由とする差別の解消に関し、既存の相談機関の連携の場を設けるとともに、具体的な相談事案を踏まえ、障害者にとって身近な地域における差別の解消に向けた取組に結び付けることをねらいとしており、当該地域に存在する各相談機関の連携を図る上で、当該地域に密着した施策を展開する地方公共団体がその中核を担うことが適切であると考えられることから、地方公共団体に協議会の庶務を行わせる旨規定している。 ● 協議会が組織された旨の公表(第18条第5項) > 第19条に定める秘密保持規定の対象となる範囲を障害者その他関係者に周知すること及び協議会について地域住民に広く周知を行うことを目的として、協議会の庶務を行う地方公共団体が、障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律施行規則(平成28年内閣府令第2号)で定めるところにより、その旨を公表することとするもの。 ページ84 【参照条文】 ○ 障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律施行規則 (平成28年内閣府令第2号)  障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(平成二十五年法律第六十五号)第十八条第五項の規定に基づき、障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律施行規則を次のように定める。 1 障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律第十八条第五項の規定による公表は、障害者差別解消支援地域協議会の名称及び構成員の氏名又は名称について行うものとする。 2 前項の規定による公表は、地方公共団体の公報への掲載、インターネットの利用その他の適切な方法により行うものとする。 ページ85 (秘密保持義務) 第十九条 協議会の事務に従事する者又は協議会の事務に従事していた者は、正当な理由なく、協議会の事務に関して知り得た秘密を漏らしてはならない。 (協議会の定める事項) 第二十条 前三条に定めるもののほか、協議会の組織及び運営に関し必要な事項は、協議会が定める。 【解説】 ● 秘密保持義務(第19条) > 協議会における協議事項は地域ごとに異なるが、個人情報等を扱う可能性がある場合は、守秘義務の確保が重要となる。本条では、協議会の事務に従事する者又はしていた者に対し、協議会の事務に関して知り得た情報を漏らしてはならない旨を規定しており、相談者に対して安心して相談できる環境を整備するとともに、協議会における積極的な情報交換や連携の推進を担保している。 > 法第19条の規定に違反して、正当な理由なく、協議会の事務に関して知りえた秘密を洩らした場合、1年以下の懲役または50万円以下の罰金が科される。 ● 協議会の定める事項(第20条) > 第20条では、協議会の組織及び運営に関し、第17条〜第19条までに規定するもの以外については、各地域の実情に応じて協議会が定める旨規定している。 【参照条文】 ○ 障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(平成25年法律第65号)(抄)    第六章 罰則 第二十五条 第十九条の規定に違反した者は、一年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。 ページ86 (主務大臣) 第二十一条 この法律における主務大臣は、対応指針の対象となる事業者の事業を所管する大臣又は国家公安委員会とする。 【解説】 ● 本条は、法第11条に規定する対応指針(事業者の適切な対応に資するための指針)の作成及び法第12条に規定する報告徴収、助言、指導、勧告を行う主務大臣を定めるものである。 ● 「対応指針の対象となる事業者の事業を所管する大臣」とは、いわゆる事業所管大臣をいう。事業所管大臣を主務大臣とするのは、法の実効性を確保する観点から、各事業者の行う事業を所管する大臣又は国家公安委員会が、当該事業の適正な運営を確保する一環として、その事業を行うに当たっての障害を理由とする差別の解消についても責任を有するとすることが適切と考えられるためである。 ページ87 (地方公共団体が処理する事務) 第二十二条 第十二条に規定する主務大臣の権限に属する事務は、政令で定めるところにより、地方公共団体の長その他の執行機関が行うこととすることができる。 【解説】 ● 法における主務大臣は、対応指針の対象となる事業者の事業を所管する大臣又は国家公安委員会となっているが、事業の分野によっては、当該事業者の許認可や監督権限が都道府県知事や都道府県国家公安委員会等(以下「地方公共団体の長等」という。)の事務とされている場合がある。 ● このような場合には、個別の事業者に対する主務大臣の権限に属する事務を当該事業者の活動内容を把握している地方公共団体の長等の事務とすることが適切な場合もあることから、本条では、政令で定めるところにより地方公共団体の長等が法に規定する主務大臣の権限に属する事務を行うことができることとしている。 ● 具体的には、施行令第3条により、各事業法等における監督権限に属する事務を地方公共団体の長等が行うこととされているときは、法第12条に規定する主務大臣の権限に属する事務についても、当該地方公共団体の長等が行うこととされている。この場合であっても、障害を理由とする差別の解消に対処するため特に必要があると認めるときは、主務大臣が自らその事務を行うことは妨げられていない。 【参照条文】 ○ 障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律施行令(平成28年政令第32号)(抄) (地方公共団体の長等が処理する事務) 第三条 法第十二条に規定する主務大臣の権限に属する事務は、事業者が行う事業であって当該主務大臣が所管するものについての報告の徴収、検査、勧告その他の監督に係る権限に属する事務の全部又は一部が他の法令の規定により地方公共団体の長その他の執行機関(以下この条において「地方公共団体の長等」という。)が行うこととされているときは、当該地方公共団体の長等が行うこととする。ただし、障害を理由とする差別の解消に適正かつ効率的に対処するため特に必要があると認めるときは、主務大臣が自らその事務を行うことを妨げない。 ページ88 2 法的判断の検討プロセスフロー  前述のとおり、法では、障害を理由とする差別を解消するための措置として不当な差別的取扱いの禁止と合理的配慮の提供を規定している。本項目では、前項目で解説した不当な差別的取扱いと合理的配慮の提供について、その該当性を判断するに当たっての法的判断の検討プロセスフローを示す。なお、実際の相談対応においては、例えば、障害のある相談者が不当な差別的取扱いに該当すると考えている事案であっても実際には相談者が合理的配慮の提供を求めている事案である場合や、不当な差別的取扱いの該当性等を確認した上で合理的配慮の提供について更に検討が必要となる場合等もある。法は不当な差別的取扱いの禁止と合理的配慮の提供が相まって「障害を理由とする差別」を解消しようとするものであり、相談対応に当たっては、不当な差別的取扱いと合理的配慮の提供の両方を視野に入れながら、当事者の相談内容をよく聞き、対応を検討していくことが重要となる。  各フローの問ごとに解説を付したものについては、ケーススタディ集を参照されたい。  【ケーススタディ集掲載URL】  https://www8.cao.go.jp/shougai/suishin/tyosa/r04jirei/index-w.html ページ89 2.1 「不当な差別的取扱い」に係る法的判断の検討プロセスフロー (作業者注:「不当な差別的取扱い」に係る法的判断の検討プロセスフローについて、図の説明) 「不当な差別取扱い」法的判断の検討プロセス フロー 〇障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(平成25年法律第65号) (行政機関等における障害を理由とする差別の禁止) 第七条 行政機関等は、その事務または事業を行うに当たり、障害を理由として障害者でない者と不当な差別的取扱いをすることにより、障害者の権利利益を侵害してはならない。 (事業者における障害を理由とする差別の禁止) 第八条 事業者は、その事業を行うに当たり、障害を理由として障害者でない者と不当な差別的取扱いをすることにより、障害者の権利利益を侵害してはならない。 Q1 行政機関等又は事業者の対応は、事務・事業(財・サービスや各種機会の提供等)を行うに当たり行ったものですか? 「Yes:事務・事業を行うに当たり行ったもの」である場合、Q2に続く。 「No:事務・事業での対応に関係ない」場合、行政機関等又は事業者の対応は「不当な差別的取扱い」に該当しない。障害者から申出があった場合には「合理的配慮の提供」を検討 Q2 行政機関等又は事業者の対応には、障害を理由とする、障害者でない者と比べた異なる取扱いがありますか? 「Yes:ある」場合、Q3に続く。 「No:ない」場合、行政機関等又は事業者の対応は「不当な差別的取扱い」に該当しない。障害者から申出があった場合には「合理的配慮の提供」を検討 Q3 行政機関等又は事業者の対応は、障害者、事業者、第三者の権利利益等の観点から、正当な理由によるものと判断できるでしょうか? 正当な理由の判断の視点 (以下の@とA両方を満たせば「正当な理由あり」) @障害者でない者と比べた異なる取扱いは、客観的に見て正当な目的の下に行われたものか  ・障害者、事業者、第三者の権利利益の観点から検討  (例:安全の確保、財産の保全、事業の目的・内容・機能の維持、損害発生の防止 等)  ・行政機関等の事務・事業の目的・内容・機能の維持等の観点から検討 A その目的に照らしてやむを得ないといえるか  ・正当な目的のために必要な範囲のものとなっているか?  ・必要な範囲を超え不必要な制限を課すものとなっていないか? 「No:正当な理由なし」の場合、行政機関等又は事業者の対応は「不当な差別的取扱い」に該当。障害者から申出があった場合には「合理的配慮の提供」を検討 「Yes:正当な理由あり」の場合、行政機関等又は事業者の対応は「不当な差別的取扱い」に該当しない。障害者から申出があった場合には「合理的配慮の提供」を検討 (作業者注:図の説明はここまで) ページ90 2.2 「合理的配慮の提供」に係る法的判断の検討プロセスフロー (作業者注:「合理的配慮の提供」に係る法的判断の検討プロセスフローについて、図の説明) 「合理的配慮の提供」法的判断の検討プロセス フロー 〇障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(平成25年法律第65号) (行政機関等における障害を理由とする差別の禁止) 第七条(略) 2行政機関等は、その事務又は事業を行うに当たり、障害者から現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明があった場合において、その実施に伴う負担が過重でないときは、障害者の権利利益を侵害することとならないよう、当該障害者の性別、年齢及び障害の状態に応じて、社会的障壁の除去の実態について必要かつ合理的な配慮をしなければならない。 (事業者における障害を理由とする差別の禁止) 第八条 (略) 2 事業者は、その事業を行うに当たり、障害者から現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明があった場合において、その実施に伴う負担が過重でないときは、障害者の権利利益を侵害することとならないよう、当該障害者の性別、年齢及び障害の状態に応じて、社会的障壁の除去の実施について必要かつ合理的な配慮をするように努めなければならない。 ※改正法により、令和6年4月1日から義務化(改正後の条文は以下のとおり) 第八条(略) 2 事業者は、その事業を行うに当たり、障害者から現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明があった場合において、その実施に伴う負担が過重でないときは、障害者の権利利益を侵害することとならないよう、当該障害者の性別、年齢及び障害の状態に応じて、社会的障壁の除去の実施について必要かつ合理的な配慮をしなければならない。 Q1障害者から行政機関又は事業者に対し、事務・事業(財・サービスや各種機会の提供等)を行うに当たり社会的障壁の除去を必要としている旨の意思表示がありましたか? 「Yes:ある(本人からの求め、家族や支援者・介助者等からの求め(本人からの意思表明が困難な場合))」の場合、Q2に続く。 「No:ない」場合、フロー終了。 Q2.求められている配慮は、社会的障壁の除去について、「必要かつ合理的な配慮」に該当しますか? 必要かつ合理的な配慮とは (以下の3つ全てを満たす必要がある) 行政機関等又は事業者の事務・事業の目的・内容・機能に照らし、 @必要とされる範囲で本来の業務に付随するものに限られること A障害者でない者との比較において同等の機会の提供を受けるためのものであること B事務・事業の目的・内容・機能の本質的な変更には及ばないこと 「Yes:該当する(@〜B全てを満たす)」場合、Q3に続く。 「No:該当しない(@〜Bを満たさない)」場合、Q4に続くことがある。 Q3求められている配慮は「過重な負担」に該当しますか? 過重な負担の判断の要素等 ・事務・事業への影響の程度 ・実現可能性の程度(物理的・技術的制約、人的・体制上の制約) ・費用・負担の程度 ・事務・事業規模 ・財政・財務状況 「Yes:該当する」場合、Q4に続く。 「No:該当しない」場合、合理的配慮の提供へ Q4建設的対話により、どのような代替案が考えられますか? 合理的配慮の提供へ (作業者注:図の説明はここまで) ページ91 コラム 9 障害者に対する差別の実態  法が制定されてから10年が経つが、内閣府が令和4年11月に実施した世論調査において、88.5%が障害者に対して、障害を理由とする差別や偏見があると思うと回答した。 ○ 障害者差別の事例は、国及び地方公共団体において収集されているが、身近なところで障害を理由とした差別等が発生している。 〔地方公共団体において実際にあった相談の一例〕  ・ 障害のある方が、体調不良により病院に行ったところ、同伴者(援助者)がいなければ受診できないと断られた。(不当な差別的取扱い)  ・ 自動車販売店において、判断能力に問題はないにも関わらず、障害当事者の本人を無視して介助者とばかりやり取りされた。(不当な差別的取扱い)  ・ イベント会場内の移動に際して支援を求めたが、「何かあったら困る」という抽象的な理由で具体的な支援の可能性を検討せずに対応を断られた。(合理的配慮の提供義務違反) ページ92 コラム 10 事業者が障害者との対話の際に避けるべき言葉  以下の言葉は、法の観点で、事業者が障害者との対話の際に避けるべき言葉とされている。障害者が事業者から、以下の言葉を言われたという相談があった場合、法に関する相談である可能性が高い。 ○ 「先例がありません」 ⇒先例は、対話を進める際のきっかけや参考にはなっても、その有無は判断の根拠にはならない。当事者と、その状況に応じて個別具体的に検討、判断を行う。 ○ 「特別扱いできません」 ⇒社会的障壁を除去することで、障害者が生活する上での制限を無くすことが目的であり、障害者を特別扱いするのではない。 ○ 「もし何かあったら(危ない、困る、等)」 ⇒「もし何か」というような曖昧な想定は、判断の根拠にならない。どのようなリスクがあるかを考え、そのリスクを低減するためにどのような対応ができるのか、具体的に検討する必要がある。 ○ 「その障害種別ならば」 ⇒同じ障害種別であっても、程度(盲/弱視、ろう/難聴、全身/半身 など)や障害者がおかれている状況等によって適切な配慮は異なる。一括りにして機械的に判断するのではなく、個別の状況に応じて、具体的に検討、判断することが必要である。 ○ 「ルール(規則)では」 ⇒古いルールが、不当な差別的取扱いの原因になっていたり、社会的障壁になっていたりする場合がある。既存のルールが正しいという考え方で相談対応にあたるのではなく、不適切なルールであれば見直しの可能性も視野に入れて対応にあたる。 ○ 「一般常識では」 ⇒「常識」の捉え方は人によって異なり、客観的ではないことから判断の根拠にはならない。各相談事案において、個別具体的に検討を行うことが必要である。 ページ93 3 障害者差別解消法Q&A  本項目では、T、Uを踏まえ、法の趣旨や解釈等に関連して、参考となるようなQ&Aを掲載する。 3.1 総論 問1-1 法が制定された背景や目的は? (答) ○ 我が国では、平成19年に権利条約に署名して以来、批准に向けて国内法の整備を進めてきた。 ○ その中で平成23 年に障害者基本法の改正が行われ、権利条約の趣旨を踏まえ、第4条において、基本原則として「差別の禁止」が規定された。 ○ 本法は、障害者基本法第4条の差別の禁止の基本原則を具体化する法律として位置付けられるものであり、全ての国民が、障害の有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会の実現に向け、障害を理由とする差別の解消を推進することを目的とするものである。 問1-2 本法の名称について、「差別の禁止」ではなく「差別の解消」としている理由は? (答) ○ 本法においては、行政機関や事業者等における障害を理由とする差別を禁止するとともに、それを社会において実効的に推進するための基本方針や指針の策定等の措置や、相談・紛争解決の体制整備等の国や地方公共団体における支援措置についても定めており、これらを通じて差別のない社会を目指すものとして、「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」としている。 問1-3 本法で差別の解消のための措置の対象としている分野の範囲は? (答) ○ 本法では、教育、医療、福祉、公共交通など、日常生活及び社会生活全般に係る分野が広く対象となる。 ○ なお、雇用分野については障害者雇用促進法の定めるところによることとしている。 ページ94 問1-4 本法は、事業者でない一般私人の行為や個人の思想や言論も対象としているのか。また、障害者への誹謗中傷等、ネット上での書き込みは、本法により規制されるのか。 (答) ○ 本法においては、事業者でない一般私人の行為や個人の思想、言論については、法により規制することは不適当と考えられることから対象としていない。 3.2 各論(条文別) (1) 第2条関係(定義) 問2-1 障害者の家族や支援者に対する差別も、障害者差別解消法の対象になるのか。 (答) ○ 本法はあくまでも障害者本人を対象とするものである。 問2-2 本法の障害者には障害児も含まれるのか。 (答) ○ 本法の障害者の定義は、障害者基本法と同じであり、障害児も当然に含まれる。 ○ なお、第7条第2項、第8条第2項に規定する「社会的障壁の除去の実施についての必要かつ合理的な配慮」については、障害者の年齢等に応じた配慮を行うべき旨、規定しているところ。 問2-3 学校法人や社会福祉法人は「独立行政法人等」に含まれるのか。 (答) ○ 学校法人や社会福祉法人は、「法律により直接に設立された法人」、「特別の法律により特別の設立行為をもって設立された法人」、「特別の法律により設立され、かつ、その設立に関し行政庁の認可を要する法人」のいずれにも該当しないことから、第2条第5号の「独立行政法人等」には含まれず、第2条第7号の「事業者」に含まれる。 問2-4 国公立の学校や福祉施設については、「行政機関等」に含まれるのか。 (答) ○ 国の独立行政法人や、地方公共団体などがその事務・事業の一環として設置、運営している学校や福祉施設は、基本的には本法における「行政機関等」に含まれる。 ページ95 (2) 第5条関係(環境の整備) 問3-1 環境の整備(第5条)と合理的配慮(第7条第2項、第8条第2項)との関係性は? (答) ○ 第5条(環境の整備)は、施設や設備のバリアフリー化、意思表示やコミュニケーションを支援するためのサービス・介助者等の人的支援、障害者による円滑な情報の取得・利用・発信のための情報アクセシビリティ向上など、不特定の障害者を主な対象として行われる「事前的改善措置」について規定したものである。 ○ 一方、合理的配慮は、環境の整備を基礎として、その実施に伴う負担が過重でない場合に、特定の障害者に対して、個別の状況に応じて講じられる措置である。したがって、各場面における環境の整備の状況により、合理的配慮の内容は異なることとなる。 問3-2 法第5条に違反した場合どのような法的効力があるのか。法第12条に規定する行政措置の対象となるのか。 (答) ○ 第5条は行政機関等及び事業者について環境の整備に努めなければならない旨を規定したものであり、違反に対する罰則等はない。また、法第12条は第8条の規定に関する措置を規定しているものであり、第5条については、対象となるものではない。 問3-3 いわゆるバリアフリー法など、これまでも不特定多数の障害者を対象とした事前的な措置を規定する法令は存在しているが、法の関係性は? (答) ○ 既存の法令に基づく不特定多数の障害者に対する「事前的改善措置」については、それぞれの法令の趣旨に照らし義務付け等の対象となっていることに加え、差別の解消の推進の観点から、法第5条に規定する「社会的障壁の除去の実施についての必要かつ合理的な配慮に関する環境の整備」としても位置付けられるものであり、本法及びそれぞれの法令に基づき積極的に推進されることが望ましいと考える。 ページ96 (3) 第7条第1項・第8条第1項関係(不当な差別的取扱いの禁止) <基本的な考え方> 問4-1 不当な差別的取扱いの「不当な」とはどのような意味か。 (答) ○ 「不当な」とは、当該取扱いに正当な理由がある場合には、本法により禁止される不当な差別的取扱いには該当しないという趣旨である。 <個別対応に係るQ&A> 問4-2 障害年金の給付や生活支援などの行政サービスについて、障害者が希望する金額や回数などの水準を満たさない場合には、不当な差別的取扱いとなるのか。 (答) ○ 一般論として、障害者に対する行政サービスは、障害者でない者への給付は想定されないことから、「障害者でない者と不当な差別的取扱い」にそもそも該当しないと考えられる。 ※ なお、申請手続などについて障害者から申し出があった場合には合理的配慮の検討が必要。 問4-3 地方公共団体が独自に取り組んでいる行政サービスについて、A市とB市で適用条件や内容などが異なっている場合には、不当な差別的取扱いとなるのか。 (答) ○ 法の対象は、A市が同市の行政サービスを行うに当たり、障害を理由として、障害者でない者と不当な差別的取扱いをしているか否かを問題としており、A市とB市の行政サービスの内容の相違については、法の対象とはならない。 問4-4 障害者割引について、身体障害者と知的障害者には適用され、精神障害者には適用されない場合には、不当な差別的取扱いとなるのか。 (答) ○ 法の対象は障害者と障害者でない者との間における不当な差別的取扱いであり、障害者間の取扱いの差異は対象とならない。したがって、障害者割引は、障害者を障害者でない者と比べて優遇する取扱い(いわゆる積極的改善措置)であり、不当な差別的取扱いには当たらず、また、障害種別間の取扱いの差異については法の対象とはならない。 問4-5 接客態度について、挨拶がなかったり丁寧でなかったりする場合には、不当な差別的取扱いとなるのか。 ページ97 (答) ○ 障害の有無とは関係なく、障害者に対しても障害者でない者に対しても普段の接客態度に至らない点がある場合、障害を理由とする障害者でない者と不当な差別的取扱いには当たらない。 ※ 障害の有無によって一律に接遇の質を下げるなど、接客態度を変えているのであれば、不当な差別的取扱いに当たる。 問4-6 障害者が不当な差別的取扱い/合理的配慮の不提供を受けたと感じた場合には、それをもって常に不当な差別的取扱い/合理的配慮の不提供となるのか。 (答) ○ 障害者側からの感じ方のみで不当な差別的取扱い/合理的配慮の不提供に当たると決まるのではなく法律上の要件に該当しているか等具体的場面や状況に応じて総合的・客観的に判断することとしている。 ページ98 (4) 第7条第2項・第8条第2項関係(合理的配慮の提供) <基本的な考え方> 問5-1 そもそも「合理的配慮」はどのような考え方から必要とされるのか。 (答) ○ 日常生活・社会生活において提供されている設備やサービス等においては、障害者でない者には容易に利用できるものでも、障害者には利用が難しく、結果として障害者の活動等が制限されてしまう場合がある。 ○ このような場合には、障害者の活動等を制限している社会的障壁を除去する必要があることから、法においては、行政機関等や事業者に対し、障害者に対する「合理的配慮の提供」を求めている。 問5-2 障害者からの「意思の表明」があった場合に限定している理由は何か。意思の表明がない場合には、「必要かつ合理的な配慮」を行う必要はないのか。 (答) ○ 「意思の表明があった場合において」としているのは、「合理的配慮」とは、社会的障壁の除去を必要としている障害者が現に存在する場合における個別の対応として求められるものであり、配慮を求められる相手方から見て、当該者が障害者なのか、配慮を必要としているか否かが分からない場合についてまで、具体的に配慮を義務付けることが困難なためである。 ○ なお、障害者からの意思の表明がない場合には法的な義務は発生しないものの、基本方針に記載のあるとおり、意思の表明がない場合であっても、当該障害者が社会的障壁の除去を必要としていることが明白である場合には、法の趣旨に鑑みれば、当該障害者に対して適切と思われる配慮を提案するために建設的対話を働きかけるなど自主的な取組に努めることが望ましい。 ページ99 問5-3 事業者による合理的配慮の提供を義務化した場合、施設の改修等によるバリアフリー化までも求められるのか。 (答) ○ 法においては、合理的配慮の規定とは別に、不特定多数の障害者を主な対象に、個別の場面での合理的配慮を的確に行うための環境の整備に努めることとされている(法第5条)。施設の改修等によるバリアフリー化は、多くの場合には、こうした環境の整備に該当するものと思われる。 ○ 一方で、合理的配慮は、個々の場面において、障害者から何らかの配慮を求められた場合に、過重な負担のない範囲で必要かつ合理的な対応として、個別に実施される措置である。 ○ このため、事業者による合理的配慮の提供が義務化されることによって、直ちに施設の改修等によるバリアフリー化が求められるものではない。 ○ ただし、先に述べたとおり、環境の整備は努力義務とされているとともに、基本方針においても、合理的配慮を必要とする障害者が多数見込まれる場合、障害者との関係性が長期にわたる場合等には、その都度の合理的配慮の提供ではなく、環境の整備を考慮に入れることにより、中・長期的なコストの削減・効率化につながる点は重要であるとされている。  したがって、環境の整備についても、こうした点を踏まえつつ、事業者の皆様に取り組んでいただきたいと考えている。 問5-4 事業者は「過重な負担」である旨の説明責任(立証責任)があるのか。 (答) ○ 法においては、事業者に過重な負担に係る説明義務を課す規定はない。 ○ しかし、合理的配慮の提供に当たっては、建設的な対話による相互理解が重要であることから、基本方針においては、行政機関等及び事業者は、過重な負担に当たると判断した場合は、障害者に丁寧にその理由を説明するものとし、理解を得るよう努めることが望ましいこと、その際には行政機関等及び事業者と障害者の双方が、お互いに相手の立場を尊重しながら建設的対話を通じて相互理解を図り、代替措置の選択も含めた対応を柔軟に検討することが求められる旨を記載している。 ページ100 問5-5 建設的対話とは何か。対話を拒むとどうなるのか。 (答) ○ 合理的配慮の提供に当たっては、社会的障壁を取り除くために必要な対応について、障害者と行政機関等・事業者が対話を重ね、共に解決策を検討していくことが重要である。 ○ このような双方のやり取りを建設的対話といい、建設的対話を一方的に拒むことは合理的配慮の提供義務違反となる可能性もある。障害者からの申出どおりの対応が難しい場合でも、建設的対話と相互理解を深めることで目的に応じた代替手段をみつけることが可能となることもあることから、まずは障害者との対話を始めることが重要となる。 ○ 他方で、建設的対話を行おうとしても、障害者の側が相互理解の姿勢を持たず、自己の希望のみを主張し続けるような場合は、建設的対話とは言えず、対応を打ち切ることもやむを得ない場合もある。 問5-6 事業者による合理的配慮の提供の義務規定に違反した場合、罰則はあるのか。どのように実効性を確保するのか。 (答) ○ 合理的配慮の提供の義務規定に違反した場合でも、不当な差別的取扱いの禁止(第7条第1項及び第8条第1項)と同様、これに違反した場合の罰則を設けることとはしていない。 ○ 法は共生社会の実現を目的とするものであり、事業者と障害者との間の建設的対話を通じて自主的に取組が行われることが期待される。 ○ このため、事業者に対しては、その事業を所管する主務大臣が、特に必要があると認めるときは、報告の徴収、助言、指導、勧告といった権限(法第12条)を行使することにより、法の実効性を確保することとしている。 ※ 当該事業者の事業を所管する主務大臣が法の規定(法第12条)に基づき報告を求めた場合に、事業者が報告をせず、又は虚偽の報告をした場合には、過料に処される(法第26条)こととされている。 ページ101 問5-7 合理的配慮の内容等を巡って事業者と障害者との間でトラブルが生じた場合、どのように対応するのか。また、最終的には、誰がどのように裁定するのか。 (答) ○ 御指摘のようなトラブルが生じた場合には、多くの事例では、まずは身近な地方公共団体の相談窓口に相談いただき、当事者双方への事実確認や調整を通じ、多くが解決が図られるものと考えられる。その上で、さらに解決が困難な事案の場合、例えば、法に基づく権限を有する主務大臣等との連携や、一部の地方自治体で条例で定められている紛争解決のための措置等を図ることにより、効果的に解決が図られると考えている。 ○ なお、他の当事者間の具体的な紛争と同様に、最終的には裁判所において判断されることになる。 <個別対応に係るQ&A> 問5-8 合理的配慮の不提供となるか否かについてどのように判断し、どのようなことに留意すればよいのか。 (答) ○ 合理的配慮の提供の対象となるものは、事務・事業の目的・内容・機能に照らし、@必要とされる範囲で本来の業務に付随するものに限られること、A障害者でない者との比較において同等の機会の提供を受けるためのものであること、B事務・事業の目的・内容・機能の本質的な変更には及ばないこと、の3つを満たすものであることに留意が必要であることや、その実施に伴う負担が過重でないときに該当するかについて、具体的場面や状況に応じて総合的・客観的に判断することが必要とされていることに留意する必要がある。  以下に掲載した(答)については、あくまでも一般論であり、71頁以下の第七条、第八条の解説を踏まえて、個別の事案ごとの具体的場面や状況に応じて総合的・客観的に判断することが必要である。 問5-9 相談/問合せについて、時間や回数などを制限した場合には、合理的配慮の不提供となるのか。 (答) ○ 相談/問合せの制限は、一律に合理的配慮の不提供に当たるのではなく、それが当たるのか否かを具体的場面や状況に応じて総合的・客観的に判断することとなる。   ページ102 ■合理的配慮の不提供に当たると考えられる例   具体的場面や状況に応じて総合的・客観的に判断することなく、マニュアルで相談/問合せの時間や回数などが決められていることのみを理由として、時間や回数などを制限した。 ■合理的配慮の不提供には当たらないと考えられる例   一人が相談し続けていることで他の相談者たちが長時間待っている状態だったので対応に区切りを付けた。 ■合理的配慮の提供例   マニュアルで定められた相談/問い合わせの時間・回答を超える対応について、必要性や対応可能性を検討した結果、事前に窓口が混雑しない時間帯や対応者が確保できる時間を明示し、その時間で対応した。 問5-10 店舗サービススタッフなどの職員等について、障害者が希望する人数や有資格者などを配置しない場合には、合理的配慮の不提供となるのか。 (答) ○ 合理的配慮の提供にあっては、事務・事業の目的・内容・機能に照らし、@必要とされる範囲で本来の業務に付随するものに限られること、A障害者でない者との比較において同等の機会の提供を受けるためのものであること、B事務・事業の目的・内容・機能の本質的な変更には及ばないこと、の3つを満たすものであることに留意が必要であることや、その実施に伴う負担が過重でないときに該当するかについて、具体的場面や状況に応じて総合的・客観的に判断することが必要とされており、必ずしも障害者が希望する措置を行うことが必要とされているものではない。 ○ ただし、恒常的に障害者への対応に支障を来しているのであれば、増員などの環境の整備に努めていただきたい。  ■合理的配慮の不提供に当たると考えられる例  聴覚障害者が、他の客に対応中の手話ができる店員による対応を希望した場合に、他の客との担当替えを検討することが可能であるにも関わらず、単に手話ができる店員が他の客に対応中であることだけを理由として、手話ができる店員による対応を断った。    ■合理的配慮の不提供に当たらないと考えられる例   有資格者の配置を求められ、検討したが、有資格者の確保や予算面等で対応が困難であり、対応できなかった。 ページ103  ■合理的配慮の提供例   要望に合わせて対応できる日時を明示し、その時間に来店していただくことで対応した。 問5-11 飲食店での食事介助や温泉施設での入浴介助など、身体介護に当たる行為を求める旨の配慮の申出があった場合には、お断りすると合理的配慮の不提供となるのか。 (答) ○ 一般論として、当該飲食店や温泉施設が身体介護や入浴介助に当たる行為を事業の一環として行っていない場合には、「必要とされる範囲で本来の業務に付随するものに限られること」の観点から、お断りしても合理的配慮の不提供には当たらないと考えられる。  ■合理的配慮の提供例  飲食店のケースについて、食事介護は対応できないが、ご希望があれば、箸以外にスプーンなどを用意することができることを案内した。 問5-12 障害により移動困難な方から、自宅や最寄り駅などへ送迎してほしい旨の配慮の申出があった場合には、お断りすると合理的配慮の不提供となるのか。 (答) ○ 一般論として、当該事業者が、自宅などへの送迎を事業の一環として行っていない場合には、「必要とされる範囲で本来の業務に付随するものに限られること」の観点から、お断りしても合理的配慮の不提供には当たらないと考えられる。  ■合理的配慮の提供例  飲食店のケースについて、食事介護は対応できないが、ご希望があれば、箸以外にスプーンなどを用意することができることを案内した。 問5-13 「主治医をA氏にしてほしい」「相談員からB氏を外してほしい」といった担当者変更を求める旨の配慮の申出があった場合には、お断りすると合理的配慮の不提供となるのか。 (答) ○ 当該障害者の障害特性により異性と話すことができないなどの特殊な理由があるときに、過重な負担に当たらないにも関わらず、担当医を変更しない場合には、担当者変更が合理的配慮の提供に当たる可能性がある。 ページ104 ○ その一方、合理的配慮の提供は、社会的障壁の除去を実施するための措置であり、単なる担当者の好き嫌いといった理由による変更の申し出は、お断りしても合理的配慮の不提供には当たらない。 ○ なお、担当者の業務遂行に問題がある場合は、そもそも障害の有無に関わらず対処すべきことなので、合理的配慮ではなく通常行うべきこととして変更を検討していただきたい。 問5-14 演奏会などの料金設定について、例えばA席5,000円/B席2,500円、車イス使用者がB席を希望、車イスに対応できるのはA席のみであった場合には、A席を2,500円で購入できるようにしないと合理的配慮の不提供となるのか。 (答) ○ 具体的場面や状況に応じて総合的・客観的に判断することなく、例えばマニュアルで車イスの使用者はA席のみと決められていることのみを理由として、B席の購入を認めない場合は、合理的配慮の不提供に当たる可能性がある。 ○ その一方、等級が分かれている料金設定の場合に、まず希望等級のものを選択できるように合理的配慮の提供を検討し、その結果として希望等級のものを選択できないのであれば、別等級への変更を勧めても、合理的配慮の不提供には当たらない。 ○ ただし、正当な理由なく障害の有無によって選択肢に差が生じることは望ましくないことから、いずれの選択肢においても対応できるよう環境の整備を検討することが期待される。 ※ 例示の場合には、まずB席を2,500円で購入できるように合理的配慮の提供を検討し、B席では対応できないという結果であれば、A席を5,000円で購入することを勧めても合理的配慮の不提供には当たらない。 ■合理的配慮の提供例  申出者と相談の上、立見席であるB席の一部をベルトパーテーションで区切り、「車いす席」と掲示することにより、B席での観覧を可能とした。 問5-15 スロープ/エレベーターについて、役所や店舗などに設置されていない場合には、合理的配慮の不提供となるのか。 (答) ○ 不特定多数の障害者向けに事前的改善措置として行うスロープ/エレベーターの設置は、環境の整備となるため、それらが設置されていなくとも、合理的配慮の不提供には当たらない。 ページ105 ○ ただし、恒常的に障害者への対応に支障を来しているのであれば、施設改修などの環境の整備に努めていただきたい。  ■合理的配慮の提供例   エレベーターがない役所において、2階以上にある窓口に行かなければ手続きできないところ、担当部署の職員が1階で対応した。 問5-16 聴覚に障害のない障害者が文章でのやり取りを求めたり、体温調節機能に障害のない障害者が室温変更を求めたりなど、他の障害種別向けの配慮を求める旨の申出があった場合には、お断りすると合理的配慮の不提供となるのか。 (答) ○ 合理的配慮の提供は、社会的障壁の除去を実施するための措置であり、一般論として、他の障害種別向けの配慮は、当該障害者の社会的障壁の除去に必要があるとは想定されないことから、お断りしても合理的配慮の不提供には当たらない。 問5-17 暴言や器物破損などの不適切な言動について、障害によるストレスや情緒不安定などが影響している場合には、許容しないと合理的配慮の不提供となるのか。 (答) ○ 一般的には、暴言や器物損壊といった不適切な言動を行う者に対してまで、行政機関等や事業者に合理的配慮の提供を行うことを期待することは妥当ではなく、そのような場合には、合理的配慮の不提供には当たらない。一方、合理的配慮の提供の際には、障害の状況を考慮することが必要であるところ、例えば、障害特性により興奮したり緊張してしまうお客様を落ち着けるスペースに案内して落ち着くまで待ってもらうといった配慮を行うことは考えられる。 (5) 第12条関係(主務大臣の権限行使) 問6-1 法第12条の権限行使の要件である「必要があると認めるとき」とは、具体的にどのような場合を想定しているのか。また、どのように運用しているのか。 (答) ○ 基本方針において例示しているとおり、主務大臣による権限行使が想定される具体的な場合とは、事業者が法に反した取扱いを繰り返し、自主的な改善を期待することが困難な場合などである。 ○ 運用においては、こうした事案を未然に防止するため、主務大臣は、事業者に対する十分な情報提供や事業者からの照会・相談への丁寧な対応等の取組を積極的に行うこととしているほか、行政措置に当たっては、事業者の自主的な取組を尊重する法の趣旨に沿って、まず、報告徴収、助言、指導により改善を促すことを基本とすることとしている。 ページ106 (6) 第14条関係(相談等体制整備) 問7-1 行政機関自らによる「不当な差別的取扱い」または「必要かつ合理的配慮の不提供」があった際には、どこに相談にいけばよいのか。 (答) ○ 行政機関において、その職員の対応に問題がある場合などは、まずは、当該行政機関内の窓口に申し出ることが考えられる。そのほか、例えば、各地方自治体に開設されている障害を理由とする差別の解消に関する相談窓口や、主務官庁がある場合には当該主務官庁、総務省の行政相談、人権に関わる相談であれば法務局による人権相談も考えられる。 (7) 第26条関係(罰則) 問8-1 障害者差別解消法第8条(不当な差別的取扱いの禁止・合理的配慮の提供)の規定に違反するとどのような罰則があるのか。 (答) ○ 法第8条の違反に対する罰則はない。 ○ ただし、法第12条において主務大臣が特に必要があると認めるときには、事業者に対して報告の徴収、助言・指導、勧告を行うことができることが定められている。 ○ 上記の報告の徴収に応じず、または虚偽報告を行った場合には、第26条の規定により二十万円以下の過料に処される可能性がある。 ○ なお、障害者差別解消法における罰則ではないが、正当な理由なくサービスの提供等を拒否することで、当該分野を規制する事業法の規定等により行政処分等がなされる可能性がある。 ページ107 3.3 その他の論点 (1) 改正法関係 問9-1 令和3年に成立した改正法において、なぜ事業者による合理的配慮の提供を義務化することとしたのか。 (答) ○ 事業者による合理的配慮の提供については、障害者と相手方の関係は様々であり、求められる配慮も多種多様であることから、法制定時には、事業者に対しては努力義務を課した上で、対応指針により自発的な取組を促すこととしていた。 ○ 法の施行以降、多くの事業者に合理的配慮の提供に取り組んでいただいており、地方公共団体においても、これを義務付ける条例の制定が進んでいる。また、東京2020年パラリンピック競技大会を契機とした官民の取組等が広がっており、事業者による合理的配慮の提供は一定の定着が図られてきている。 ○ このため、今般、共生社会の実現に向けた社会全体での取組を進めるべく、事業者による合理的配慮の提供を義務化することとした。 問9-2 事業者による合理的配慮の提供を義務化することで、何が変わるのか。 (答) ○ 事業者による合理的配慮の提供を努力義務から義務とすることにより、合理的配慮の内容自体が変わるものではないが、障害者からの申し出があった場合には、事業者は過重な負担のない範囲でどのような対応ができるかについて、真摯に検討することが求められることになると考えている。 ○ 事業者による合理的配慮の提供の義務化により、社会的な規範としての確立が図られることで、合理的配慮の必要性が社会全体で強く認識されるようになることが期待される。 問9-3 事業者による合理的配慮の提供を義務化した場合、民事法上の効果は変わるのか。 (答) ○ 民事法上の効果については、個別事案の訴訟に関するものであり、あくまで個別事案ごとに裁判所において判断されるものではあるが、その上で一般論としていえば、事業者による合理的配慮を義務化することにより、事業者による不十分な対応をめぐって不法行為(民法第709条)上の「違法」と評価される範囲が広がることもあり得ると考えている。 ページ108 問9-4 改正法において、国・地方公共団体は「適切な役割分担を行う」という規定が新たに定められているが、役割分担として具体的にイメージしているものはあるか。 (答) ○ 今般の法改正では事業者による合理的配慮の提供を義務化することとしているが、合理的配慮は求められる配慮も多種多様で個別性が高く、また、今後相談件数の増加も見込まれること等から、例えば、国と地方公共団体の機関の間で相談事案の引継ぎを行うことなど、国及び地方公共団体が相互に協力をする必要性が一層高まると考えられる。 ○ このため、従前より国・地方公共団体は必要な施策を策定・実施すべきとの責務が規定されていたが、改正法においては、これに、国と地方公共団体が適切な役割分担を行いつつ相互に連携・協力すべき旨を追加することとした。 ○ 相談対応における国と地方公共団体の役割分担として、基本方針においては、地域における障害を理由とする差別の解消を促進し、共生社会の実現に資する観点から、 ・まず相談者にとって一番身近な市区町村が基本的な窓口の役割を果たすこと ・都道府県は、市区町村への助言や広域的・専門的な事案についての支援・連携を行うとともに、必要に応じて一次的な相談窓口等の役割を担うこと ・国においては各府省庁が所掌する分野に応じて相談対応等を行うとともに、市区町村や都道府県のみでは対応が困難な事案について、適切な支援等を行う役割を担うこと が考えられる。 ページ109 <参考資料> ページ110 1 障害特性と必要な配慮  障害者差別解消法に係る相談対応を行うに当たり、障害種別ごとの特性と必要と考えられる配慮を理解することが重要です。  なお、本項目に記載しているものはあくまでも一例であり、障害の種類は同じでも程度や症状、必要とする配慮やニーズは多様であるため、画一的ではなく、柔軟に対応することが求められます。 1.1 視覚障害 <障害特性>  視覚障害には、全く見えない場合(全盲)と見えづらい場合(視機能の障害)がある。 [見えづらい場合]  ・細部がよくわからない  ・光がまぶしい  ・暗いところで見えにくい  ・見える範囲が狭い(視野の一部が欠けたり、望遠鏡でのぞいているような見え方)  ・特定の色がわかりにくい 【主な特徴】  〇一人で行動することが困難  ⇒慣れていない場所では、一人で移動することが難しい方が多いと言われています。  〇音声を中心に情報を得ている  ⇒視覚から情報が得にくいため、音や音声、手で触ることにより情報を入手しています。  〇文字の読み書きが困難  ⇒文書を読むことや書類に文字を記入することが難しい方が多いです。 【必要な配慮】  ・驚かせることのないように正面から「私は○○ですが何かお手伝いしましょうか?」と声をかける  ・誘導する際には、声かけをした上で、本人の希望を確認し、介助者の腕や肩をつかんでもらい、歩く速さを相手に合わせ、小さな段差などについても情報提供する  ・「こちら」「あちら」などの指示語ではなく「30センチ右」「2歩前」というように位置関係を分かりやすく伝える  ・資料を拡大文字や点字によって作成したり、資料の内容を読み上げて伝えたりする  ・パソコンなどで読上機能を使えるように資料のテキスト形式データを提供するよう  ・本人の意思を十分に確認しながら書類の記入やタッチパネルの操作などを代行する ページ111 1.2 聴覚・言語障害 <障害特性>  聴覚障害には、全く聞こえない場合と聞こえにくい場合があります。また、言語障害を伴う場合とほとんど伴わない場合もあり、言語障害のある場合にはその状況等に応じてて他者とのコミュニケーションに困難を生じる場合があります。 【主な特徴】  〇外見から分かりにくい  ⇒外見からは聞こえないことが分かりにくいため、挨拶したのに返事をしないなどと誤解されることがあります。  ○ 視覚を中心に情報を得ている  ⇒音や音声による情報が得にくく、文字や図などの視覚により情報を入手しています。  〇 声に出して話せても聞こえているとは限らない  ⇒聴覚障害のある方の中には声に出して話せる方もいますが、相手の話は聞こえていない場合があります。  〇 補聴器や人工内耳を付けても会話が通ずるとは限らない  ⇒補聴器や人工内耳を付けている方もいますが、それらを使用しても、、明瞭に聞こえているとは限らず、相手の口の形を読み取るなど、視覚による情報で話の内容を補っている方も多いです。 【必要な配慮】  ・筆談、手話、コミュニケーションボードなどの目で見て分かる方法を用いて意思疎通を行う  ・字幕や手話などの見やすさを考慮して座席配置を決める  ・窓口で順番を知らせるときには、アナウンスだけでなく身振りなどによっても伝える  ・難聴者がいるときには、ゆっくりはっきりと話したり、複数の発言が交錯しないようにする  ・言語障害により聞き取りにくい場合に分かったふりをせず、内容を確認して本人の意向に沿うようにする  ・筆談では、長文だと内容を理解しにくくなるため、短く簡潔に書き、必要に応じて記号や図を用いて、分かりやすく表現することを心がける ページ112 1.3 盲ろう <障害特性>  盲ろうは、視覚と聴覚の両方に障害がある状態をいいます。見え方や聞こえ方の程度によって様々なタイプに分けられ、大きく4つのタイプがあります。 (作業者注:盲ろうの4つのタイプについて、表の説明) 全盲ろう:見えない、聞こえない 全盲難聴:見えない、聞こえにくい 弱視ろう:見えにくい、聞こえない 弱視難聴:見えにくい、聞こえにくい (作業者注:表の説明はここまで) 【主な特徴】  ○ 見え方の違い、聞こえ方の違いに加え、コミュニケーション方法もさまざまです 【必要な配慮】  ・ 障害の程度(全盲ろう、全盲難聴、弱視ろう、弱視難聴)に応じたコミュニケーション方法を確認して用いる  ・ 手のひらに○、×、文字などを書いて周囲の状況を伝える  ・ 模型などを用いて触覚によって把握できるようにする 1.4 肢体不自由 <障害特性>  肢体不自由のある方の中には、上肢や下肢に切断や機能障害のある方、座ったり立ったりする姿勢保持が困難な方、脳性マヒの方等がいます。  また、移動には杖や松葉杖、義足、電動の車椅子等を使用する方、自力歩行の方等がいます。運動機能を補完するため、義肢・装具・車いす等の補装具を利用しています。 【主な特徴】  ○ 移動に制約のある方もいる  ⇒下肢に障害のある方は、段差や階段、手動ドアなどがあると、一人では進めない、 歩行が不安定で、転倒しやすいなどの制約があります。  車椅子を使用されている方は、高い所には手が届きにくく、床のモノは拾いにくいといわれています。  ○ 文字の記入が困難な方もいる  ⇒手にマヒのある方や脳性マヒで不随意運動を伴う方などでは、文字を記入できなかったり、 狭いスペースに記入することが困難な場合があります。  ○体温調節が困難な方もいる  ⇒脊髄を損傷された方では、手足が動かないだけでなく、感覚もなくなり、周囲の温度に応じた体温調節が困難な場合があります。  ○ 話すことが困難な方もいる  ⇒脳性マヒの方の中には、発語の障害に加え、顔や手足などが自分の思いとは関係なく動いてしまうため、自分の意思を伝えにくい方もいらっしゃいます。 ページ113 【必要な配慮】  ・ 車いす利用者のために段差に携帯スロープを渡す  ・ 高い所に陳列された商品を取って渡す  ・ 列に並んで順番を待つことが難しいときには、列から外れて順番を待てるようにする  ・ 脊髄損傷などにより体温調整が損なわれているときには、エアコンなどの室温調整に配慮する  ・ 本人の意思を十分に確認しながら書類の記入やタッチパネルの操作などを代行する ページ114 1.5 内部障害・難病に起因する障害 <障害特性>  内部障害とは、内臓機能の障害であり、心臓機能、呼吸器機能、じん臓機能、ぼうこう・直腸機能、小腸機能、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)による免疫機能、肝臓機能などの機能障害があります。  内臓機能の障害は難病(発病の機構が明らかでなく、治療方法が確立していない希少な疾病であって、長期にわたり療養を必要とする疾病)などに起因することもあります。症状の変化が毎日あり、日によって変化が大きく、進行性の症状を有することが多いです。同じ疾患でも患者によって異なる症状を示す場合もあります。 〇心臓機能障害   不整脈、狭心症、心筋症等のために心臓機能が低下した障害で、ペースメーカー等を使用している方もいます。 〇呼吸器機能障害   呼吸器系の病気により呼吸機能が低下した障害で、酸素ボンベを携帯したり、人工呼吸器を使用している方もいます。 〇腎臓機能障害   腎機能が低下した障害で、定期的な人工透析に通院している方もいます。 〇ぼうこう・直腸機能障害   ぼうこう疾患や腸管の通過障害で、腹壁に新たな排泄口(ストマ)を造設している方もいます。 〇小腸機能障害   小腸の機能が損なわれた障害で、食事を通じた栄養維持が困難なため、定期的に静脈から輸液の補給を受けている方もいます。 〇ヒト免疫不全ウイルス(HIV)による免疫機能障害   HIVによって免疫機能が低下した障害で、抗ウイルス剤を服用しています。 〇肝臓機能障害   肝臓の機能が低下した障害で、倦怠感(だるさ)、黄疸(皮膚や白目が黄色くなる)、出血傾向(あざができやすい)、易感染性(感染しやすい)、吐血、意識障害などが生じやすくなる方もいます。 【主な特徴】  ○ 外見から分かりにくい  ⇒外見からは障害が分かりにくいため、電車やバスの優先席に座っても周囲の理解が得られないなど、心理的なストレスを受けやすい状況にあります。  ○ 疲れやすい  ⇒障害のある臓器だけでなく全身状態が低下しているため、体力がなく、疲れやすい状況にあり、 重たい荷物を持ったり、長時間立っているなどの身体的負担を伴う行動が制限されます。   ページ115  ○ タバコの煙が苦しい方もいる  ⇒呼吸機能障害のある方では、タバコの煙などが苦しい方がいます。  ○ トイレに不自由されている方もいる  ⇒ぼうこう・直腸機能障害で人工肛門や、人工ぼうこうを使用されている方(オストメイト)は、 排せつ物を処理できるオストメイト用のトイレが必要です。 【必要な配慮】  ・ 症状に波があるので、症状に応じた柔軟な対応を行うようにする  ・ 継続的な通院や服薬が必要なときには、休暇や休憩などについて配慮する  ・ ペースメーカーや人工呼吸器などが必要なときには、それらの機器の使用について配慮する 1.6 知的障害 <障害特性>  知的機能の障害が発達期(おおむね18歳未満)にあらわれ、日常生活の中で様々な不自由が生じることを言います。例えば、複雑な事柄やこみいった文章・会話の理解が不得手であったり、おつりのやりとりのような日常生活の中での計算が苦手だったりするなど、知的な遅れと社会生活への適応のしにくさを有しています。  また、障害のあらわれ方は個人差が大きく、少し話をしただけでは知的障害の状況がわかりにくいこともあります。しかし、自分のおかれている状況や抽象的な表現を理解することが苦手であったり、未経験の出来事や状況の急な変化への対応が困難であったりする方は多く、支援の仕方も一人ひとり異なります。 【主な特徴】  ○ 複雑な話や抽象的な概念は理解しにくいこともあります  ○ 人にたずねたり、自分の意見を言うのが苦手な方もいます  ○ 漢字の読み書きや計算が苦手な方もいます  ○ 自分が納得できるまで同じ質問を繰り返す方もいます 【必要な配慮】  ・ ゆっくりはっきりと話したり、コミュニケーションボードなどを用いたりして意思疎通を行う  ・ 資料を簡潔な文章によって作成したり、文章にルビを付したりする  ・ 実物、写真、絵などの視覚的に分かりやすいものを用いて説明する ページ116 1.7 重症心身障害 <障害特性>  重症心身障害とは、  ・自分で体を動かすことができない重度の肢体不自由  ・年齢に相応した知的発達が見られない重度の知的障害 の2つが重複している状態をいいます。  その状態にある子どもを重症心身障害児、さらに成人した人を含めて「重症心身障害児(者)」といいます。 【主な特徴】  ○ ほとんど寝たままで自力では起き上がれない状態の方が多いです  ○ 移動、食事、着替え、洗面、トイレ、入浴などが自力ではできないため、日常の様々な場面で介助者による援助が必要な方もいます  ○ 声が出せても会話で意思を伝えることは難しいことが多いです  ○ 口や目の動き、身振りなどを用いて意思を伝えますが、日常的に介護している人でないと読み取りづらいこともあります 1.8 精神障害 <障害特性>  精神障害のある方は、統合失調症、そううつ病、うつ病、てんかん、アルコール依存症、摂食障害等のさまざまな精神疾患により、日常生活や社会生活のしづらさを抱えています。適切な治療・服薬と周囲の配慮があれば症状をコントロールできるため、大半の方は地域で安定した生活を送っています。  〇 統合失調症  幻覚、思考障害、感情や意欲の障害など多様な精神症状を特徴とし、現実を認識する能力が妨げられ、正しい判断ができにくくなる、対人関係が難しくなるなど、様々な生活障害を引き起こしますが、薬によってこれらの症状を抑えることもできます。  〇 気分障害  気分がひどく落ち込んだり、何事にも興味がなくなったりして、日常生活に支障が現れます。  〇 てんかん  通常は規則正しいリズムで活動している大脳の神経細胞(ニューロン)の活動が突然崩れて激しい電気的な乱れが生じることによって、発作が現れる病気です。薬によって約8割の方は発作を止められるようになっています。 【主な特徴】  ○ ストレスに弱く、疲れやすく、対人関係やコミュニケーションが苦手な方が多いです  ○ 外見からは分かりにくく、障害について理解されずに孤立している方もいます ページ117  ○ 精神障害に対する社会の無理解から、病気のことを他人に知られたくないと思っている方も多いです  ○ 周囲の言動を被害的に受け止め、恐怖感を持ってしまう方もいます  ○ 学生時代の発病したことや、入院が長くなったことなどで、社会生活に慣れていない方もいます  ○ 気が動転して声の大きさの調整が適切にできない場合もあります  ○ 認知面の障害のために、何度も同じ質問を繰り返したり、つじつまの合わないことを一方的に話す方もいます 【必要な配慮】  ・ 細かく決まった時間や多人数の集団で行動することが難しいときには、時間やルールなどの柔軟な運用を行うようにする  ・ 曖昧な情報や一度に複数の情報を伝えると対応できないときには、具体的な内容や優先順位を示すようにする  ・ 情緒不安定になりそうなときには、別室などの落ち着ける場所で休めるようにする   1.9 発達障害 <障害特性>  発達障害とは、自閉症、学習障害(LD)、注意欠如・多動性障害(ADHD)等、脳機能障害であって、通常低年齢において症状が発現するものです。発達障害には、知的障害を伴う場合と伴わない場合とがあります。 【主な特徴】  ○ 外見から分かりにくいです  ○ 相手の言っていることを、そのまま繰り返す可能性があります  ○ 遠回しの言い方や曖昧な表現だと理解が難しい方もいます  ○ 相手の表情・態度やその場の雰囲気を読み取ることが苦手な方もいます  ○ 想定外のことが起きた際に自分で立て直すことが苦手な方もいます  ○ 一般的な社会的コミュニケーションスキルが十分ではない方もいます  ○ 関心あることばかり一方的に話す方もいます  〇 知的発達に遅れがないものの、流暢に音読することができない方もいます 【必要な配慮】 ・ 書籍やノートなどを用いた読み書きに困難があるときには、タブレットなどの補助具を用いることができるようにする ・ 感覚過敏があるときには、それを和らげるための対処(例えば聴覚過敏に耳栓使用)を行えるようにする ・ 作業手順や道具配置などにこだわりがあるときには、一定のものを決めておくようにする ページ118 2 関係法令 2.1 障害者基本法 (作業者注:障害者基本法について、図の説明) 障害者基本法について(概要) 第1章 総則 1.目的 ・全ての国民が障害の有無にかかわらず、人格と個性を尊重し合いながら共生する社会(共生社会)の実現 2.定義 障害者:障害(身体障害、知的障害、精神障害(発達障害を含む)その他心身の機能の障害)がある者であって、障害及び社会的障壁により継続的に日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける状態にあるもの 社会的障壁:障害者が日常生活・社会生活を営む上で障壁となるような社会のバリア(事物、制度、慣行・観念その他一切のもの) ⇒障害者権利条約が採用する「社会モデル」の考え方(※)を踏まえた定義としている。 ※「社会モデル」の考え方:障害者が日常生活・社会生活において受ける制限は、心身の機能の障害のみに起因するものではなく、社会における様々なバリア(障壁)と相対することによって生ずるものとする考え方 3.基本原則 @地域社会における共生等 A差別の禁止 B国際的協調 4.施策の基本方針 ・障害者の性別、年齢、障害の状態、生活実態に応じ、有機的連携の下に総合的に策定・実施 ・国及び自治体は、施策の実施に当たり、障害者その他の関係者の意見を聴き、尊重するよう努力 5.障害者基本計画等 ・政府が講ずる障害者施策の最も基本的な計画(閣議決定による5か年計画)  ※現在は、第5次障害者基本計画(計画期間:令和5年度からの5年間)を推進 ・障害者政策委員会の意見を聴いて策定 ・都道府県や市町村は、障害者基本計画を基本として、それぞれ障害者計画を策定 ※その他、国・自治体・国民の責務、障害者週間(毎年12/3〜9)、障害者白書等について規定 第2〜3章 各則 @医療・介護等 ・医療等の給付、介護、生活支援 ・福祉用具の開発、補助犬の育成 A教育 ・障害特性を踏まえた教育の充実 ・人材の確保、教育環境の整備 B雇用の促進等 ・雇用機会の確保、雇用の安定 ・障害者雇用の経済的負担の軽減 C住宅の確保 ・障害者のための住宅の確保 ・障害者に適した住宅整備の促進 D公共的施設のバリアフリー化 ・バリアフリー化の計画的推進 ・補助犬同伴の障害者への便宜 E情報利用のバリアフリー化等 ・利用しやすい放送・通信の普及 ・災害時の迅速・的確な情報伝達 F文化的諸条件の整備 ・文化芸術・スポーツの施設整備、関連する活動への助成 G防災・防犯 ・性別、年齢、障害の状態、生活実態に応じた防災・防犯施策 H選挙・司法手続における配慮 ・円滑に投票できる環境の整備 ・司法手続の意思疎通手段の確保 ※その他、年金等、療育、職業相談等、消費者保護、国際協力、障害の原因となる疾病の予防等について規定 第4章 障害者政策委員会 1.任務 ・障害者基本計画の策定に関する調査審議・意見具申 ・ 障害者基本計画の実施状況の監視 ※必要があると認めるときは、関係大臣に勧告を行うことも可能 ・ 障害者差別解消法の基本方針に関する意見具申 2.構成 ・障害者、障害者の自立と社会参加に関する事業に従事する者、学識経験者の中から総理が任命(30名以内) ※都道府県も審議会等の合議制の機関を設置(市町村にも設置可能) (作業者注:図の説明はここまで) ページ119 2.2 障害者雇用促進法 (作業者注:障害者雇用促進法について、一つ目の図の説明) 障害者雇用促進法の概要(昭和35年法律第123号) 総則 目的(障害者の職業生活において自立することを促進するための措置を総合的に講じ、もって障害者の職業の安定を図ること)、基本的理念、事業主の責務、国及び地方公共団体の責務、厚生労働大臣による障害者雇用対策基本方針・障害者活躍推進計画作成指針、国及び地方公共団体における障害者活躍推進計画の作成義務等 職業リハビリテーションの推進 職業紹介等:ハローワークにおける求人の開拓・条件指導、職業指導、就職後の助言・指導、事業主に対する助言・指導等 障害者職業センター:障害者職業センターにおける障害者に対する職業評価・職業準備訓練、事業主に対する助言、職場適応援助者の養成・研修、関係機関に対する技術的助言等 障害者就業・生活支援センター:障害者就業・生活支援センター(都道府県知事指定)における障害者に対する指導・助言、関係機関との連絡調整、地域障害者職業センター等による職業準備訓練のあっせん等 障害者に対する差別の禁止等:事業主における障害者に対する差別の禁止及び合理的配慮の提供義務等 対象障害者の雇用義務等に基づく雇用の促進等 対象障害者の雇用義務等:国及び地方公共団体における、法定雇用率が未達成の場合の採用計画の作成義務、民間事業主における、法定雇用率の達成義務等 障害者雇用調整金の支給等及び障害者雇用納付金の徴収:法定雇用率を上回った場合の障害者雇用調整金、施設・設備等の助成金の支給、法定雇用率が未達成の場合の障害者雇用納付金の徴収等 特定短時間労働者等に関する特例:週所定労働時間10時間以上20時間未満の重度身体・知的、精神障害者の実雇用率算定等 対象障害者以外の障害者に関する特例:手帳所持者以外の精神障害者等に関する助成金の支給業務の実施等 障害者の在宅就業に関する特例:在宅就業障害者等に対する業務発注に関する特例調整金の支給等 紛争の解決:事業主による苦情の自主的解決、都道府県労働局長による紛争の解決の援助(助言・指導・勧告)、紛争調整委員会による調停等 雑則:障害者雇用に関する優良な中小事業主に対する認定、障害者雇用推進者・障害者職業生活相談員の選任、解雇の届出及び書類の保存の義務等 (作業者注:図の説明はここまで) (作業者注:障害者雇用促進法について、二つ目の図の説明) 公務員への適用について 障害者雇用促進法(85条の3)では、国家公務員及び地方公務員に適用除外規定が設けられている。 ⇒公務員は勤務条件が法律で定められている等、独自の法体系が存在することから、それぞれの法制度の中で基本的に対応が図られる。 国家公務員 ・障害者の差別禁止 ⇒国公法27条の平等取扱いの原則に基づき対応が図られる。 ・合理的配慮の提供 ⇒国公法27条や同71条の能率の根本基準に基づき対応が図られる。 地方公務員 ・障害者の差別禁止 ⇒地公法13条の平等扱いの原則に基づき対応が図られる。 ・合理的配慮の提供 ⇒国公法のような能率の根本基準に相当する規定がなく、合理的配慮を直接担保する法律がないため、障害者雇用促進法の規定を直接適用。 (参考) ・国家公務員法 (平等取扱の原則) 第二十七条 すべて国民は、この法律の適用について、平等に取り扱われ、人種、信条、性別、社会的身分、門地又は第三十八条第五号に規定する場合を除くほか政治的意見若しくは政治的所属関係によって、差別されてはならない。 (能率の根本基準) 第七十一条 職員の能率は、充分に発揮され、且つ、その増進がはかられなければならない。 ・2 前項の根本基準の実施につき、必要な事項は、この法律に定めるものを除いては、人事院規則でこれを定める。 ・3 内閣総理大臣は、職員の能率の発揮及び増進について、調査研究を行い、その確保のため適切な方策を講じなければならない。 ・地方公務員法 (平等取扱いの原則) 第十三条 すべて国民は、この法律の適用について、平等に取り扱われなければならず、人種、信条、性別、社会的身分若しくは門地によって、又は第十六条第五号に該当する場合を除く外、政治的意見若しくは政治的所属関係によって、差別されてはならない。 (公務員への適用について、図の説明はここまで) 2.3 障害者総合支援法 (作業者注:図の説明はここまで) ページ120 (作業者注:障害者総合支援法について、一つ目の図の説明) 地域社会における共生の実現に向けて新たな障害保健福祉施策を講ずるための関係法律の整備に関する法律の概要 (平成24年6月20日 成立・同年6月27日 公布) 1.趣旨 障がい者制度改革推進本部等における検討を踏まえて、地域社会における共生の実現に向けて、障害福祉サービスの充実等障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するため、新たな障害保健福祉施策を講ずるものとする。 2.概要 1.題名 「障害者自立支援法」を「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律(障害者総合支援法)」とする。 2.基本理念 法に基づく日常生活・社会生活の支援が、共生社会を実現するため、社会参加の機会の確保及び地域社会における共生、社会的障壁の除去に資するよう、総合的かつ計画的に行われることを法律の基本理念として新たに掲げる。 3.障害者の範囲(障害児の範囲も同様に対応。) 「制度の谷間」を埋めるべく、障害者の範囲に難病等を加える。 4.障害支援区分の創設 「障害程度区分」について、障害の多様な特性その他の心身の状態に応じて必要とされる標準的な支援の度合いを総合的に示す「障害支援区分」に改める。 ※ 障害支援区分の認定が知的障害者・精神障害者の特性に応じて行われるよう、区分の制定に当たっては適切な配慮等を行う。 5.障害者に対する支援 @ 重度訪問介護の対象拡大(重度の肢体不自由者等であって常時介護を要する障害者として厚生労働省令で定めるものとする) A 共同生活介護(ケアホーム)の共同生活援助(グループホーム)への一元化 B 地域移行支援の対象拡大(地域における生活に移行するため重点的な支援を必要とする者であって厚生労働省令で定めるものを加える) C 地域生活支援事業の追加(障害者に対する理解を深めるための研修や啓発を行う事業、意思疎通支援を行う者を養成する事業等) 6.サービス基盤の計画的整備 @ 障害福祉サービス等の提供体制の確保に係る目標に関する事項及び地域生活支援事業の実施に関する事項についての障害福祉計画の策定 A 基本指針・障害福祉計画に関する定期的な検証と見直しを法定化 B 市町村は障害福祉計画を作成するに当たって、障害者等のニーズ把握等を行うことを努力義務化 C 自立支援協議会の名称について、地域の実情に応じて定められるよう弾力化するとともに、当事者や家族の参画を明確化 3.施行期日 平成25年4月1日(ただし、4.及び5.@〜Bについては、平成26年4月1日) 4.検討規定(障害者施策を段階的に講じるため、法の施行後3年を目途として、以下について検討) @ 常時介護を要する障害者等に対する支援、障害者等の移動の支援、障害者の就労の支援その他の障害福祉サービスの在り方 A 障害支援区分の認定を含めた支給決定の在り方 B 障害者の意思決定支援の在り方、障害福祉サービスの利用の観点からの成年後見制度の利用促進の在り方 C 手話通訳等を行う者の派遣その他の聴覚、言語機能、音声機能その他の障害のため意思疎通を図ることに支障がある障害者等に対する支援の在り方 D 精神障害者及び高齢の障害者に対する支援の在り方 ※上記の検討に当たっては、障害者やその家族その他の関係者の意見を反映させる措置を講ずる。 (作業者注:図の説明はここまで) (作業者注:障害者総合支援法について、二つ目の図の説明) 障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律及び児童福祉法の一部を改正する法律(概要) (平成28年5月25日成立・同年6月3日公布) 趣旨 障害者が自らの望む地域生活を営むことができるよう、「生活」と「就労」に対する支援の一層の充実や高齢障害者による介護保険サービスの円滑な利用を促進するための見直しを行うとともに、障害児支援のニーズの多様化にきめ細かく対応するための支援の拡充を図るほか、サービスの質の確保・向上を図るための環境整備等を行う。 概要 1.障害者の望む地域生活の支援 (1) 施設入所支援や共同生活援助を利用していた者等を対象として、定期的な巡回訪問や随時の対応により、円滑な地域生活に向けた相談・助言等を行うサービスを新設する(自立生活援助) (2) 就業に伴う生活面の課題に対応できるよう、事業所・家族との連絡調整等の支援を行うサービスを新設する(就労定着支援) (3) 重度訪問介護について、医療機関への入院時も一定の支援を可能とする (4) 65歳に至るまで相当の長期間にわたり障害福祉サービスを利用してきた低所得の高齢障害者が引き続き障害福祉サービスに相当する介護保険サービスを利用する場合に、障害者の所得の状況や障害の程度等の事情を勘案し、当該介護保険サービスの利用者負担を障害福祉制度により軽減(償還)できる仕組みを設ける 2.障害児支援のニーズの多様化へのきめ細かな対応 (1) 重度の障害等により外出が著しく困難な障害児に対し、居宅を訪問して発達支援を提供するサービスを新設する (2) 保育所等の障害児に発達支援を提供する保育所等訪問支援について、乳児院・児童養護施設の障害児に対象を拡大する (3) 医療的ケアを要する障害児が適切な支援を受けられるよう、自治体において保健・医療・福祉等の連携促進に努めるものとする (4) 障害児のサービスに係る提供体制の計画的な構築を推進するため、自治体において障害児福祉計画を策定するものとする 3.サービスの質の確保・向上に向けた環境整備 (1) 補装具費について、成長に伴い短期間で取り替える必要のある障害児の場合等に貸与の活用も可能とする (2) 都道府県がサービス事業所の事業内容等の情報を公表する制度を設けるとともに、自治体の事務の効率化を図るため、所要の規定を 整備する 施行期日 平成30年4月1日(2.(3)については公布の日(平成28年6月3日)) (作業者注:図の説明はここまで) ページ121 (作業者注:障害者総合支援法について、三つ目の図の説明) 障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律等の一部を改正する法律(令和4年法律第104号)の概要 (2022年12月10日成立、12月16日交付) 改正の趣旨 障害者等の地域生活や就労の支援の強化等により、障害者等の希望する生活を実現するため、@障害者等の地域生活の支援体制の充実、A障害者の多様な就労ニーズに対する支援及び障害者雇用の質の向上の推進、B精神障害者の希望やニーズに応じた支援体制の整備、C難病患者及び小児慢性特定疾病児童等に対する適切な医療の充実及び療養生活支援の強化、D障害福祉サービス等、指定難病及び小児慢性特定疾病についてのデータベースに関する規定の整備等の措置を講ずる。 改正の概要 1.障害者等の地域生活の支援体制の充実【障害者総合支援法、精神保健福祉法】 @ 共同生活援助(グループホーム)の支援内容として、一人暮らし等を希望する者に対する支援や退居後の相談等が含まれることを、法律上明確化する。 A 障害者が安心して地域生活を送れるよう、地域の相談支援の中核的役割を担う基幹相談支援センター及び緊急時の対応や施設等からの地域移行の推進を担う地域生活支援拠点等の整備を市町村の努力義務とする。 B 都道府県及び市町村が実施する精神保健に関する相談支援について、精神障害者のほか精神保健に課題を抱える者も対象にできるようにするとともに、これらの者の心身の状態に応じた適切な支援の包括的な確保を旨とすることを明確化する。 2.障害者の多様な就労ニーズに対する支援及び障害者雇用の質の向上の推進【障害者総合支援法、障害者雇用促進法】 @ 就労アセスメント(就労系サービスの利用意向がある障害者との協同による、就労ニーズの把握や能力・適性の評価及び就労開始後の配慮事項等の整理)の手法を活用した「就労選択支援」を創設するとともに、ハローワークはこの支援を受けた者に対して、そのアセスメント結果を参考に職業指導等を実施する。 A 雇用義務の対象外である週所定労働時間10時間以上20時間未満の重度身体障害者、重度知的障害者及び精神障害者に対し、就労機会の拡大のため、実雇用率において算定できるようにする。 B 障害者の雇用者数で評価する障害者雇用調整金等における支給方法を見直し、企業が実施する職場定着等の取組に対する助成措置を強化する。 3.精神障害者の希望やニーズに応じた支援体制の整備【精神保健福祉法】 @ 家族等が同意・不同意の意思表示を行わない場合にも、市町村長の同意により医療保護入院を行うことを可能とする等、適切に医療を提供できるようにするほか、医療保護入院の入院期間を定め、入院中の医療保護入院者について、一定期間ごとに入院の要件の確認を行う。 A 市町村長同意による医療保護入院者を中心に、本人の希望のもと、入院者の体験や気持ちを丁寧に聴くとともに、必要な情報提供を行う「入院者訪問支援事業」を創設する。また、医療保護入院者等に対して行う告知の内容に、入院措置を採る理由を追加する。 B 虐待防止のための取組を推進するため、精神科病院において、従事者等への研修、普及啓発等を行うこととする。また、従事者による虐待を発見した場合に都道府県等に通報する仕組みを整備する。 4.難病患者及び小児慢性特定疾病児童等に対する適切な医療の充実及び療養生活支援の強化【難病法、児童福祉法】 @ 難病患者及び小児慢性特定疾病児童等に対する医療費助成について、助成開始の時期を申請日から重症化したと診断された日に前倒しする。 A 各種療養生活支援の円滑な利用及びデータ登録の促進を図るため、「登録者証」の発行を行うほか、難病相談支援センターと福祉・就労に関する支援を行う者の連携を推進するなど、難病患者の療養生活支援や小児慢性特定疾病児童等自立支援事業を強化する。 5.障害福祉サービス等、指定難病及び小児慢性特定疾病についてのデータベース(DB)に関する規定の整備【障害者総合支援法、児童福祉法、難病法】 障害DB、難病DB及び小慢DBについて、障害福祉サービス等や難病患者等の療養生活の質の向上に資するため、第三者提供の仕組み等の規定を整備する。 6.その他【障害者総合支援法、児童福祉法】 @ 市町村障害福祉計画に整合した障害福祉サービス事業者の指定を行うため、都道府県知事が行う事業者指定の際に市町村長が意見を申し出る仕組みを創設する。 A 地方分権提案への対応として居住地特例対象施設に介護保険施設を追加する。 等 このほか、障害者総合支援法の平成30年改正の際に手当する必要があった同法附則第18条第2項の規定等について所要の規定の整備を行う。 施行期日 令和6年4月1日(ただし、2@及び5の一部は公布後3年以内の政令で定める日、3Aの一部、5の一部及び6Aは令和5年4月1日、4@及びAの一部は令和5年10月1日) (作業者注:図の説明はここまで) 2.4 身体障害者補助犬法  @ 身体障害者補助犬の種類   ・盲導犬:視覚障害のある人が街なかを安全に歩けるようにサポート。   ・介助犬:肢体不自由のある人の日常生活動作をサポート。   ・聴導犬:聴覚障害のある人に生活の中の必要な音を知らせ、音源まで誘導。  A 施設等における身体障害者補助犬の同伴等   ・公共施設、公共交通機関及び民間施設※:補助犬を同伴しての利用を拒否することはできない。   ・事業所や事務所:勤務する身体障害者が事業所又は事務所で補助犬を使用することを拒否することはできない。   ※ 病院、ホテル、レストラン、デパートなど不特定多数の者が利用する施設  B 身体障害者補助犬の表示及び行動管理   ・補助犬を使用する人は、補助犬であることの表示や衛生の確保、行動を適切に管理しなければならない。 ページ122 2.5 障害者虐待防止法 (作業者注:障害者虐待防止法について、図の説明) 障害者虐待防止法の概要 (平成23年6月17日成立、同6月24日公布、平成24年10月1日施行) 定義 1.「障害者」とは、身体・知的・精神障害その他の心身の機能の障害がある者であって、障害及び社会的障壁により継続的に日常生活・社会生活に相当な制限を受ける状態にあるものをいう。 2.「障害者虐待」とは、次の3つをいう。 @養護者による障害者虐待 A障害者福祉施設従事者等による障害者虐待 B使用者による障害者虐待 3.障害者虐待の類型は、次の5つ。(具体的要件は、虐待を行う主体ごとに微妙に異なる。) @身体的虐待 (障害者の身体に外傷が生じ、若しくは生じるおそれのある暴行を加え、又は正当な理由なく障害者の身体を拘束すること) A放棄・放置 (障害者を衰弱させるような著しい減食又は長時間の放置等、@BCに掲げる行為と同様の行為の放置等) B心理的虐待 (障害者に対する著しい暴言又は著しく拒絶的な対応その他の障害者に著しい心理的外傷を与える言動を行うこと) C性的虐待 (障害者にわいせつな行為をすること又は障害者をしてわいせつな行為をさせること) D経済的虐待 (障害者の財産を不当に処分することその他障害者から不当に財産上の利益を得ること) 虐待防止施策 1.何人も障害者を虐待してはならない旨の規定、障害者の虐待の防止に係る国等の責務規定、障害者虐待の早期発見の努力義務規定を置く。 2.「障害者虐待」を受けたと思われる障害者を発見した者に速やかな通報を義務付けるとともに、障害者虐待防止等に係る具体的スキームを定める。 養護者による障害者虐待 [市町村の責務] 相談等、居室確保、連携確保 [スキーム] 虐待発見⇒市町村へ通報 @事実確認(立入調査等) A措置(一時保護、後見審判請求) 障害者福祉施設従事者等による障害者虐待 [設置者等の責務] 当該施設等における障害者に対する虐待防止等のための措置を実施 [スキーム] 虐待発見⇒市町村へ通報⇒都道府県へ報告 @監督権限等の適切な行使 A措置等の公表 使用者による障害者虐待 [事業主の責務] 当該事業所における障害者に対する虐待防止等のための措置を実施 [スキーム] 虐待発見⇒市町村へ通報⇒都道府県へ報告、または、虐待発見⇒都道府県へ通報 都道府県⇒労働局へ報告 @監督権限等の適切な行使 A措置等の公表 3.就学する障害者、保育所等に通う障害者及び医療機関を利用する障害者に対する虐待への対応について、その防止等のための措置の実施を学校の長、保育所等の長及び医療機関の管理者に義務付ける。 (作業者注:図の説明はここまで) ページ123 2.6 旅館業法 @ 旅館業法は、昭和23年(1948年)に制定された法律で、公衆衛生や国民生活の向上などの観点から、ホテルや旅館の営業者は、一定の宿泊拒否事由に該当する場合を除き、宿泊を拒んではならないとしている。こうした中で、過重な負担であって対応困難なものを繰り返し求められ、対応に苦慮する事例が少なくない状況も踏まえて、令和5年6月に旅館業法が改正され、同年12月13日に施行された。この改正によって、旅館業法第5条第1項第3号及び旅館業法施行規則第5条の6(以下「本規定」という。)に基づき、宿泊施設に過重な負担となり、ほかの宿泊者に対する宿泊サービスの提供を著しく阻害するおそれのある要求を繰り返す客の宿泊を拒むことができることとなった。 A 本規定については、障害者差別解消法に関連した規定が含まれることから、旅館業法所管部(局)から障害者差別解消法所管部(局)に、障害者の宿泊拒否に関する相談が寄せられることが考えられる。また、宿泊施設における障害者差別解消法に関わる相談については、旅館業法にも関わる内容である場合もある。このため、障害者差別解消法所管部(局)は、旅館業法所管部(局)からの相談に適切に対応することが臨まれるとともに、障害者の宿泊拒否に関する相談が障害者差別解消法所管部(局)にあった場合には、旅館業法第5条違反等の可能性もあるため、適宜、旅館業法所管部(局)とも連携して対応することが望まれる。 ページ124 (作業者注:旅館業法について、図の説明) 宿泊者の皆様へ 令和5年12月13日から旅館業法が変わります! 宿泊者も従業員も、誰もが気持ちよく過ごせる宿泊施設に @営業者は、宿泊施設に過重な負担となり、サービスの提供を著しく阻害するおそれのある要求を繰り返す迷惑客の宿泊を拒むことができるようになります。 新たな拒否事由に該当するものの例(以下の行為を繰り替えすもの) [1]不当な割引、契約にない送迎等、過剰なサービスの要求 [2]対面や電話等により、長時間にわたり、不当な要求を行う行為 [3]要求の内容の妥当性に照らして、当該要求を実現するための手段・態様が不相当なもの(※)等 (※)身体的な攻撃(暴行、傷害)、精神的な攻撃(脅迫、中傷、名誉棄損、侮辱、暴言)、土下座の要求等 新たな拒否事由に該当しないものの例 [1]障害のある方が社会の中にある障壁(バリア)の除去を求める場合 (※)社会の中にある障壁の除去を求める例 ・フロント等で筆談でのコミュニケーションを求めること ・車椅子利用者がベッドに移動する際に介助を求めること [2]障害のある方が障害を理由とした不当な差別的取扱いを受け、謝罪等を求めること [3]障害の特性により、場合に応じた音量の調整ができないまま従業者に声をかける等、その行為が障害の特性によることが本人やその同行者に聴くなどして把握できる場合 [4]営業者の故意・過失により損害を被り、何かしらの対応を求める場合(手段・態様が不相当なものを除く)等 A営業者は、特定感染症(※)の国内発生期間に限り、宿泊者に対し、必要な限度で、特定感染症の感染防止対策への協力を求めることができます。 宿泊しようとする者は、営業者から協力の求めがあったときは、正当な理由がない限りその求めに応じなければなりません。 (※)特定感染症:一類感染症、二類感染症、新型インフルエンザ等感染症、指定感染症(入院等の規定が準用されるものに限る)及び新感染症。なお、新型コロナウイルス感染症(Covid-19)は、対象外です。 B宿泊者名簿の記載事項について、「職業」が削除され、「連絡先」が追加されます。 改正事項の詳細や相談窓口については、厚生労働省HPをご覧ください。 厚生労働省HP:URL https://www.mhlw.go.jp/kaiseiryokangyohou/ (作業者注:図の説明はここまで) ページ125 2.7 精神保健福祉法  障害者基本法の基本的な理念にのっとり、精神障害者の権利の擁護を図りつつ、精神障害者その医療及び保護を行い、障害者総合支援法と相まって精神障害者の社会復帰の促進及びその自立と社会経済活動への参加の促進のために必要な援助を行い、精神障害の発生の予防その他国民の精神的健康の保持及び増進に努めることで、精神障害者の福祉の増進及び国民の精神保健の向上を図ることを目的とする法律です。  精神保健福祉法の一部改正を含む障害者総合支援法等の一部を改正する法律が令和4年12月に公布され、これにより精神保健福祉法についても一部改正し、主に以下の内容が新たに定められました。これらについては令和6年4月1日から施行されています。  ○ 医療保護入院の入院期間の法定化  ○ 精神科病院での虐待の通報制度の新設  ○ 入院者訪問支援事業の新設 ページ126 2.8 障害者情報アクセシビリティ・コミュニケーション施策推進法 (作業者注:障害者情報アクセシビリティ・コミュニケーション施策推進法について、図の説明)  障害者による情報の取得及び利用並びに意思疎通に係る施策の推進に関する法律(障害者情報アクセシビリティ・コミュニケーション施策推進法)概要(令和4年法律第50号) 目的(1条) 全ての障害者が、あらゆる分野の活動に参加するためには、情報の十分な取得利用・円滑な意思疎通が極めて重要 障害者による情報の取得利用・意思疎通に係る施策を総合的に推進し、共生社会の実現に資する ※「障害者」:障害者基本法第2条第1号に規定する障害者(2条) 基本理念(3条) 障害者による情報の取得利用・意思疎通に係る施策の推進に当たり旨とすべき事項 @障害の種類・程度に応じた手段を選択できるようにする A日常生活・社会生活を営んでいる地域にかかわらず等しく情報取得等ができるようにする B障害者でない者と同一内容の情報を同一時点において取得できるようにする C高度情報通信ネットワークの利用・情報通信技術の活用を通じて行う(デジタル社会) 関係者の責務・連携協力・意見の尊重(4条〜8条) 国・地方公共団体の責務等(4条)※障害者でない者にも資することを認識しつつ施策を行う ・事業者の責務(5条) ・国民の責務(6条) ・国・地方公共団体・事業者等の相互の連携協力(7条) ・障害者等の意見の尊重(8条) 基本的施策(11条〜16条) (1)障害者による情報取得等に資する機器等(11条) @機器・サービスの開発提供への助成、規格の標準化、障害者・介助者への情報提供・入手支援 A利用方法習得のための取組(居宅支援・講習会・相談対応等)、当該取組を行う者への支援 B関係者による「協議の場」の設置 など (2)防災・防犯及び緊急の通報(12条) @障害の種類・程度に応じた迅速・確実な情報取得のための体制の整備充実、設備・機器の設置の推進 A多様な手段による緊急の通報の仕組みの整備の推進 など (3)障害者が自立した日常生活・社会生活を営むために必要な分野に係る施策(13条) @意思疎通支援者の確保・養成・資質の向上 A事業者の取組への支援 (4)障害者からの相談・障害者に提供する情報(14条) 国・地方公共団体について @相談対応に当たっての配慮 A障害の種類・程度に応じて情報を提供するよう配慮 (5)国民の関心・理解の増進(15条) ・機器等の有用性・意思疎通支援者が果たす役割等、障害者による情報取得等の重要性に関する関心・理解を深めるための広報・啓発活動の充実 など (6)調査研究の推進等(16条) ・障害者による情報取得等に関する調査研究の推進・成果の普及 (1)から(6)を踏まえて、 ・障害者基本計画等(障害者基本法)に反映・障害者白書に実施状況を明示(9条) ・施策の実施に必要な法制上・財政上の措置等(10条) ※施行期日:令和4年5月25日 (作業者注:図の説明はここまで) ページ127 2.9 高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律(バリアフリー法) (作業者注:高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律(バリアフリー法)について、図の説明) 高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律(バリアフリー法) ※令和2年法改正の内容について、令和2年6月19日施行と、令和3年4月1日施行の箇所あり。 1.国が定める基本方針 ・移動等円滑化の意義及び目標 ・施設設置管理者が講ずべき措置 ・移動等円滑化促進方針(マスタープラン)の指針 ・基本構想の指針 ・国民の理解の増進及び協力の確保に関する事項(令和2年6月19日施行) ・情報提供に関する事項(令和2年6月19日施行) ・その他移動等円滑化の促進に関する事項 2.国、地方公共団体、施設設置管理者、国民の責務 3.公共交通施設や建築物等のバリアフリー化の推進 ・ハード面の移動等円滑化基準の適合については、新設等は義務、既存は努力義務 ・新設等・既存にかかわらず、基本方針において各施設の整備目標を設定し、整備推進 ・各施設設置管理者に対し、情報提供、(ここから令和3年4月1日施行)優先席・車椅子用駐車施設等の適正利用推進のための広報・啓発活動の努力義務(ここまで令和3年4月1日施行) ・公共交通事業者等に対し、以下の事項を義務・努力義務化 (ここから令和3年4月1日施行) ・旅客施設等を使用した役務の提供の方法に関するソフト基準の遵守(新設等は義務、既存は努力義務) ・他の公共交通事業者等からの協議への応諾義務 (ここまで令和3年4月1日施行) ・旅客支援、職員に対する教育訓練の努力義務 ・ハード・ソフト取組計画の作成・取組状況の報告・公表義務(一定規模以上の公共交通事業者等) 【バリアフリー基準適合義務の対象施設】 旅客施設及び車両等、道路/路外駐車場(令和3年4月1日施行で旅客特定車両停留施設を追加)、都市公園、建築物(令和3年4月1日施行で公立中学校を追加) 4. 地域における重点的・一体的なバリアフリー化の推進 ・市町村が作成するマスタープランや基本構想に基づき、地域における重点的かつ一体的なバリアフリー化を推進 ・基本構想には、ハード整備に関する各特定事業及び(ここから令和2年6月19日施行)「心のバリアフリー」に関する教育啓発特定事業(ここまで令和2年6月19日施行)を位置づけることで、関係者による事業の実施を促進(マスタープランには具体の事業について位置づけることは不要) ・定期的な評価・見直しの努力義務 【移動等円滑化促進方針(マスタープラン)及びバリアフリー基本構想のイメージ】 旅客施設を中心とした地区や、高齢者、障害者等が利用する施設が集積している地区を移動等円滑化促進地区または重点整備地区として設定し、面的・一体的なバリアフリー化を推進 5.当事者による評価 ・高齢者、障害者等の関係者で構成する会議を設置し、定期的に、移動等円滑化の進展の状況を把握・評価(移動等円滑化評価会議) (作業者注:図の説明はここまで) ページ128 2.10 電話リレーサービス法 (作業者注:電話リレーサービス法について、図の説明) 聴覚障害者等による電話の利用の円滑化に関する法律の概要 ■ 聴覚障害者等による電話の利用の円滑化を図るため、@国等の責務及び総務大臣による基本方針の策定について定めるとともに、A聴覚障害者等の電話による意思疎通を手話等により仲介する電話リレーサービスの提供の業務を行う者を指定し、当該指定を受けた 者に対して交付金を交付するための制度を創設する等の措置を講ずる。 ■ 公布日(令和2年6月12日)、施行日(令和2年12月1日) 電話リレーサービスの概要 電話リレーサービスとは、聴覚や発話に困難のある人と、きこえる人(聴覚障害者等以外の人)との会話を通訳オペレータが「手話」または「文字」と「音声」を通訳することにより、電話で即時双方向につながることができるサービスです。24時間・365日、双方向での利用、緊急通報機関への連絡も可能となります。 聴覚や発話に困難のある人と通訳オペレータはインターネット回線でつながり、通訳オペレータからきこえる人へは電話回線でつながります。 法律のポイント@: 国による基本方針の策定等 国及び電話提供事業者等の責務について定めるとともに、総務大臣が聴覚障害者等による電話の利用の円滑化に関する基本方針を定めることを規定。 法律のポイントA: 電話リレーサービスに関する交付金制度の創設等 電話リレーサービスの提供の業務を行う者(電話リレーサービス提供機関)を指定し、電話提供事業者に負担金の納付を義務付け、当該機関に対して電話リレーサービスの提供の業務に要する費用に充てるための交付金を交付するための制度を創設。 「聴覚障害者等による電話の利用の円滑化に関する法律」(令和2年法律第53号)においては、公共インフラとしての電話リレーサービスを適正かつ確実に提供することができる者を、総務大臣が「電話リレーサービス提供機関」として指定することとなっています。 更に、「電話リレーサービス提供機関」に対し、業務に要する費用に充てるための交付金を交付することとしており、その原資となる負担金を、電話サービスを提供する電話提供事業者に納付するよう義務付けております。 その際、交付金の交付や負担金の徴収業務が、公平かつ中立的に行われる必要があることから、総務大臣が「電話リレーサービス支援機関」として指定する者に対し、公正中立性や業務の透明性を確保する観点から業務を実施することとしています。 つまり、電話提供事業者が負担金を納付し、負担の徴収・交付金の交付等を業務とする電話リレーサービス支援機関を通じて、電話リレーサービス提供機関に交付金として交付する仕組みとなっています。 なお、電話提供事業者が負担金を利用者に転嫁することを妨げていません。令和5年度の番号単価は月額1円×10ヶ月(R5.4〜R6.1)で年間10円でした。 令和3年1月、総務大臣は、「電話リレーサービス提供機関」として一般財団法人日本財団電話リレーサービスを、「電話リレーサービス支援機関」として一般社団法人電気通信事業者協会を、それぞれ指定しました。 (作業者注:図の説明はここまで) ページ129 3 障害者差別解消法以外の対応窓口 3.1 人権相談  障害者差別解消法では、行政機関等及び事業者に対して差別の禁止等を求めているものであり、事業者以外の私人に対しては義務を課していません。当該私人間における人権相談については、法務局の人権相談において相談を受けています。   法務省HP https://www.moj.go.jp/JINKEN/index_soudan.html 3.2 消費者トラブル  契約や悪質商法における消費者トラブルの場合には、身近な消費生活相談センターや消費生活相談窓口へ繋がる消費者ホットラインを紹介します。   消費者ホットライン 188(局番なし) 消費者庁HP https://www.caa.go.jp/policies/policy/local_cooperation/local_consumer_administration/hotline/   独立行政法人国民生活センターHP   https://www.kokusen.go.jp/map/    3.3 雇用関係  職場における障害者差別や合理的配慮については、障害者雇用促進法による対応となるため、最寄りのハローワークを紹介します。就労支援施設については、雇用契約に応じて該当する法律が異なることから、以下を参照し、相談先を紹介します。    A型就労支援施設:   雇用契約があるので障害者雇用促進法の範囲となるためハローワークを紹介  B型就労支援施設:   作業所は雇用契約がなく、障害者総合支援法に定められている障害福祉サービ  スの一環の内容であるため、自治体の福祉部局を紹介 3.4 補助犬に関する苦情  補助犬の同伴又は使用に関する苦情については、身体障害者補助犬法において、都道府県知事及び指定都市または中核市の長において必要な助言、指導等を行うものとされていますので、各地方公共団体を紹介します。   ページ130  3.5 行政機関の職員からの障害を理由とする差別  行政機関の職員から障害者差別を受けた場合、行政機関ごとに職員の対応要領を作成している※ことから、行政・自治体の人事担当課を紹介します。 ※ 国の行政機関には対応要領の作成が義務付けられており(障害者差別解消法第9条)、地方公共団体における対応要領の作成は努力義務(障害者差別解消法第10条)とされています。 もしくは、総務省の行政相談(0570‐090110)を紹介します。 ページ131 3.6 命に関わる相談  「死にたい」等といった命に関わる相談(自殺予防相談)の場合、電話やSNSでの相談窓口をまとめたサイト「まもろうよこころ」を紹介します。 (作業者注:命に係わる相談について、一つ目の図の説明) 厚生労働省ホームページ「まもろうよ こころ」 電話やSNSによる相談窓口等の情報をわかりやすくまとめたサイト「まもろうよ こころ」を公開。広報ポスター、広報動画、政府広報、X(旧Twitter)、インターネット広告等を通じて広く周知を図っている。 Webページのイメージ図について、図の説明 あなたの声を聴かせてください もし、あなたが悩みを抱えていたら、相談してみませんか? 【電話で話したい】 【SNSで話したい】 URL https://www.mhlw.go.jp/mamorouyokokoro/ 【電話で話したい】 電話窓口一覧 ・#いのちSOS(特定非営利活動法人 自殺対策支援センターライフリンク) ・よりそいホットライン(一般社団法人 社会的包摂サポートセンター) ・いのちの電話(一般社団法人 日本いのちの電話連盟) ・こころの健康相談統一ダイヤル ・チャイルドライン(特定非営利活動法人(NPO法人) チャイルドライン支援センター) ・子供(こども)のSOSの相談窓口(そうだんまどぐち)(文部科学省) ・子どもの人権110番(法務省) 【SNSで話したい】 SNS相談等を行っている団体一覧 ・特定非営利活動法人 自殺対策支援センターライフリンク ・特定非営利活動法人 東京メンタルヘルス・スクエア ・特定非営利活動法人 あなたのいばしょ ・特定非営利活動法人 BONDプロジェクト ・特定非営利活動法人 チャイルドライン支援センター (作業者注:図の説明はここまで) (作業者注:命に係わる相談について、二つ目の図の説明) 自殺対策における主な相談窓口 【主な電話相談窓口】 ・#いのちSOS(NPO法人 自殺対策支援センターライフリンク) 0120-061-338 令和3年2月6日より相談開始 日、月、火、水、金、土曜日:0時〜24時(24時間) 木曜日:6時〜24時 ・よりそいホットライン(一般社団法人 社会的包摂サポートセンター) 0120-279-338 (岩手県・宮城県・福島県から:0120-279-226) 生活全般の相談を受ける「一般ライン」と、DV・性暴力や自殺防止など5つの「専門ライン」を設置。 24時間対応 ・いのちの電話(一般社団法人 日本いのちの電話連盟) 0120-783-556:毎日16時〜21時 ※毎月10日:8時〜翌8時 0570-783-556:毎日10時〜22時 ・チャイルドライン(NPO法人 チャイルドライン支援センター) 0120-99-7777 チャット相談もあり 18歳以下の子どもが対象 毎日16時〜21時 ・こころの健康相談統一ダイヤル(地方自治体の窓口) (電話をかけた所在地の都道府県・政令指定都市が実施している「こころの健康電話相談」等の公的な相談機関に接続) 0570-064-556 令和3年1月より、夜間電話対応を順次開始 【主なSNS相談窓口】 ・NPO法人 自殺対策支援センターライフリンク LINE、X(Twitter)、チャット 毎日11時〜22時30分(22時まで受付) ・NPO法人 東京メンタルヘルス・スクエア LINE、Facebook、チャット 毎日 第1部 12時〜15時50分(15時まで受付)、第2部 17時〜20時50分(20時まで受付)、第3部 21時〜23時50分(23時まで受付) 月曜日 4時から6時50分(6時まで受付) 毎月1回 最終土曜日〜日曜日 24時〜5時50分(5時まで受付) ・NPO法人 BONDプロジェクト LINE 10代〜20代の女性のための相談 毎週月、水、木、金、土曜日 10時〜22時(21時30分まで受付) ・NPO法人 あなたのいばしょ チャット 24時間365日 受付 【その他の相談窓口】 ・支援情報検索サイト http://shienjoho.go.jp/ 自治体や民間団体が実施する電話、メール、SNSなど様々な方法の相談窓口を集約し、検索機能を付したデータベース (作業者注:図の説明はここまで) ページ132 3.7 学校における障害者差別以外のトラブル(いじめや学校職員の対応)に関する相談  事案があった学校を所管する教育委員会等を紹介します。   3.8 生活保護・生活支援に関する相談  居住市区町村の福祉担当課等を紹介します。   3.9 虐待が疑われる相談  家庭内や障害者福祉施設等における障害者への虐待が疑われる場合には、居住又は事案発生地の市区町村に設置されている「障害者虐待防止センター」等又は市町村の障害福祉者施策担当課等を紹介します。障害者を雇用する事業所による障害者への虐待が疑われる場合には、市町村または都道府県の障害福祉担当課等を紹介します。  また、障害児に対し、家庭内での虐待が疑われる場合には、所轄の児童相談所を紹介します。  ※ なお、虐待を受けていることが明らかな場合には、相談者の同意の有無に関わらず、相談窓口の職員から市町村虐待防止センターへ相談概要を伝達します。   3.10 配偶者やパートナーからの暴力(DV)が疑われる場合  居住地に設置されている「配偶者暴力相談支援センター」等を紹介します。  ※配偶者暴力相談支援センターは都道府県及び一部の市区町村に設置されています。   3.11 性暴力が疑われる相談  居住地の都道府県に設置されている「性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センター」を紹介します。   3.12 旅館、ホテル等における障害者の宿泊拒否 旅館、ホテル等における障害者の宿泊拒否の場合には、適宜、地方公共団体の旅館業法所管部局と連携の上対応します。 厚生労働省HP https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000188046_00007.html ページ133 4 相談受付票<例> (作業者注:相談受付票の例を記載。項目は次のとおり。) 受付番号 担当者 タイトル 障害を理由とする差別に関する相談受付票 相談内容として記録する項目 相談受付日 受付方法 選択肢は、直接来訪、電話、電話リレーサービス、メール 相談者の属性 選択肢は、障害者本人、障害者団体、家族、支援者、事業者、地方公共団体、近隣住民・知人、その他、不明 〇相談者情報を記載する箇所 団体からの相談の場合 団体名(匿名希望チェックボックス)、担当者氏名(匿名希望チェックボックス)、ご連絡先、ご連絡先2(ご教示不可チェックボックス)、所在地 個人からの相談の場合 氏名(匿名希望チェックボックス)、ご連絡先、ご連絡先2(ご教示不可チェックボックス)、お住まいの地域(市区町村) 事業者・自治体からの相談の場合 事業者名・自治体名(匿名希望チェックボックス)、担当者氏名(匿名希望チェックボックス)、ご連絡先、ご連絡先2(ご教示不可チェックボックス)、所在地 、同一都道府県の他市区町村の店舗も事案に関係するチェックボックス、他都道府県の店舗も事案に関係するチェックボックス 〇事案に関係する障害者の情報を記載する箇所 事案に関係する障害者の種別 選択肢は視覚障害、聴覚・言語障害、盲ろう、肢体不自由、知的障害、精神障害、発達障害、内部障害、難病に起因する障害、重症心身障害、その他 障害の状態 障害者の性別 選択肢は、男性、女性、無回答、性的マイノリティ 性的マイノリティの選択肢は、本人から申告があった、相談内容から推察、その他 障害者の年代 選択肢は、10歳未満、10代、20代、30代、40代、50代、60代、70歳以上、不明 〇事案の概要を記載する箇所 説明文  相談者の主訴・相談内容(日時や状況、経緯、どういう事案が起きたのか等) (事業者からの相談の場合)相談内容と関係する従業員マニュアルの有無及びその内容 相談者に関する基本的な情報  (障害者からの相談の場合:コミュニケーションの方法、介助者の有無、その他相談内容に関連すると思われる相談者の状況等)  (事業者からの相談の場合):事業内容・事業規模、人的体制・設備の状況、相手方が求めている又は事業者として対応を検討している事項の実現可能性や事務・事業への影響の程度、その他相談内容に関連すると思われる相談者の状況 等) 相談済みの関係機関 事案の関係する分野 選択肢は、行政、農業、製造業、電気・ガス・熱供給・水道、情報通信、運輸、郵便、卸売、小売、金融、保険、不動産、物品賃貸、学術研究、専門・技術サービス、宿泊、飲食サービス、生活関連サービス、娯楽、教育、学習支援、医療、福祉、複合サービス、その他 事案の相手方の名前・名称 ページ134 〇対応に関する希望を記載する箇所 希望する対応 選択肢は、相談窓口の職員から相手方に対して注意をしてほしい、相談者と相手方の間に入って調整してほしい、相談窓口の相談員に話を聞いてほしい、その他 〇相手方・第三者に提供する情報の本人同意状況を記載する箇所 以下の機関に情報を共有してもよいか 自由記述欄 情報の項目は、氏名・団体名、居住地、障害の状態、年齢層、性別、経緯、主訴、相手方の名称、これまでの相談実績、他部署共有可否 選択肢はすべて、全了承、一部了承、不承、未確認 〇「取次先へ共有する情報の本人同意状況の補足(一部了承となった内容)を記載する箇所 取次先内で、次の部署へは情報提供をしてほしくない 自由記述欄 〇連絡時の留意点を記載する箇所 「障害者差別解消法に関する窓口であることを隠してほしい(個人名での連絡を希望)」のチェックボックス、「連絡希望日時」のチェックボックスと記入欄、その他の記入欄、 〇備考を記載する箇所 (作業者注:相談受付票の例について、ここまで) ページ135 5 障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(平成25年法律第65号) 目次 第一章 総則(第一条―第五条) 第二章 障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本方針(第六条) 第三章 行政機関等及び事業者における障害を理由とする差別を解消するための措置(第七条―第十三条) 第四章 障害を理由とする差別を解消するための支援措置(第十四条―第二十条) 第五章 雑則(第二十一条―第二十四条) 第六章 罰則(第二十五条・第二十六条)  附則 第一章 総則  (目的) 第一条 この法律は、障害者基本法(昭和四十五年法律第八十四号)の基本的な理念にのっとり、全ての障害者が、障害者でない者と等しく、基本的人権を享有する個人としてその尊厳が重んぜられ、その尊厳にふさわしい生活を保障される権利を有することを踏まえ、障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本的な事項、行政機関等及び事業者における障害を理由とする差別を解消するための措置等を定めることにより、障害を理由とする差別の解消を推進し、もって全ての国民が、障害の有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会の実現に資することを目的とする。  (定義) 第二条 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。 一 障害者 身体障害、知的障害、精神障害(発達障害を含む。)その他の心身の機能の障害(以下「障害」と総称する。)がある者であって、障害及び社会的障壁により継続的に日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける状態にあるものをいう。 二 社会的障壁 障害がある者にとって日常生活又は社会生活を営む上で障壁となるような社会における事物、制度、慣行、観念その他一切のものをいう。 三 行政機関等 国の行政機関、独立行政法人等、地方公共団体(地方公営企業法(昭和二十七年法律第二百九十二号)第三章の規定の適用を受ける地方公共団体の経営する企業を除く。第七号、第十条及び附則第四条第一項において同じ。)及び地方独立行政法人をいう。 四 国の行政機関 次に掲げる機関をいう。 イ 法律の規定に基づき内閣に置かれる機関(内閣府を除く。)及び内閣の所轄の下に置かれる機関 ページ136 ロ 内閣府、宮内庁並びに内閣府設置法(平成十一年法律第八十九号)第四十九条第一項及び第二項に規定する機関(これらの機関のうちニの政令で定める機関が置かれる機関にあっては、当該政令で定める機関を除く。) ハ 国家行政組織法(昭和二十三年法律第百二十号)第三条第二項に規定する機関(ホの政令で定める機関が置かれる機関にあっては、当該政令で定める機関を除く。) ニ 内閣府設置法第三十九条及び第五十五条並びに宮内庁法(昭和二十二年法律第七十号)第十六条第二項の機関並びに内閣府設置法第四十条及び第五十六条(宮内庁法第十八条第一項において準用する場合を含む。)の特別の機関で、政令で定めるもの ホ 国家行政組織法第八条の二の施設等機関及び同法第八条の三の特別の機関で、政令で定めるもの                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                             ヘ 会計検査院 五 独立行政法人等 次に掲げる法人をいう。 イ 独立行政法人(独立行政法人通則法(平成十一年法律第百三号)第二条第一項に規定する独立行政法人をいう。ロにおいて同じ。) ロ 法律により直接に設立された法人、特別の法律により特別の設立行為をもって設立された法人(独立行政法人を除く。)又は特別の法律により設立され、かつ、その設立に関し行政庁の認可を要する法人のうち、政令で定めるもの 六 地方独立行政法人 地方独立行政法人法(平成十五年法律第百十八号)第二条第一項に規定する地方独立行政法人(同法第二十一条第三号に掲げる業務を行うものを除く。)をいう。 七 事業者 商業その他の事業を行う者(国、独立行政法人等、地方公共団体及び地方独立行政法人を除く。)をいう。  (国及び地方公共団体の責務) 第三条  1 国及び地方公共団体は、この法律の趣旨にのっとり、障害を理由とする差別の解消の推進に関して必要な施策を策定し、及びこれを実施しなければならない。 2 国及び地方公共団体は、障害を理由とする差別の解消の推進に関して必要な施策の効率的かつ効果的な実施が促進されるよう、適切な役割分担を行うとともに、相互に連携を図りながら協力しなければならない。  (国民の責務) 第四条 国民は、第一条に規定する社会を実現する上で障害を理由とする差別の解消が重要であることに鑑み、障害を理由とする差別の解消の推進に寄与するよう努めなければならない。 ページ137  (社会的障壁の除去の実施についての必要かつ合理的な配慮に関する環境の整備) 第五条 行政機関等及び事業者は、社会的障壁の除去の実施についての必要かつ合理的な配慮を的確に行うため、自ら設置する施設の構造の改善及び設備の整備、関係職員に対する研修その他の必要な環境の整備に努めなければならない。 第二章 障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本方針 第六条 政府は、障害を理由とする差別の解消の推進に関する施策を総合的かつ一体的に実施するため、障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本方針(以下「基本方針」という。)を定めなければならない。 2 基本方針は、次に掲げる事項について定めるものとする。 一 障害を理由とする差別の解消の推進に関する施策に関する基本的な方向 二 行政機関等が講ずべき障害を理由とする差別を解消するための措置に関する基本的な事項 三 事業者が講ずべき障害を理由とする差別を解消するための措置に関する基本的な事項 四 国及び地方公共団体による障害を理由とする差別を解消するための支援措置の実施に関する基本的な事項 五 その他障害を理由とする差別の解消の推進に関する施策に関する重要事項 3 内閣総理大臣は、基本方針の案を作成し、閣議の決定を求めなければならない。 4 内閣総理大臣は、基本方針の案を作成しようとするときは、あらかじめ、障害者その他の関係者の意見を反映させるために必要な措置を講ずるとともに、障害者政策委員会の意見を聴かなければならない。 5 内閣総理大臣は、第三項の規定による閣議の決定があったときは、遅滞なく、基本方針を公表しなければならない。 6 前三項の規定は、基本方針の変更について準用する。 第三章 行政機関等及び事業者における障害を理由とする差別を解消するための措置  (行政機関等における障害を理由とする差別の禁止) 第七条 行政機関等は、その事務又は事業を行うに当たり、障害を理由として障害者でない者と不当な差別的取扱いをすることにより、障害者の権利利益を侵害してはならない。 2 行政機関等は、その事務又は事業を行うに当たり、障害者から現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明があった場合において、その実施に伴う負担が過重でないときは、障害者の権利利益を侵害することとならないよう、当該障害者の性別、年齢及び障害の状態に応じて、社会的障壁の除去の実施について必要かつ合理的な配慮をしなければならない。  (事業者における障害を理由とする差別の禁止) 第八条 事業者は、その事業を行うに当たり、障害を理由として障害者でない者と不当な差別的取扱いをすることにより、障害者の権利利益を侵害してはならない。 ページ138 2 事業者は、その事業を行うに当たり、障害者から現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明があった場合において、その実施に伴う負担が過重でないときは、障害者の権利利益を侵害することとならないよう、当該障害者の性別、年齢及び障害の状態に応じて、社会的障壁の除去の実施について必要かつ合理的な配慮をしなければならない。  (国等職員対応要領) 第九条 国の行政機関の長及び独立行政法人等は、基本方針に即して、第七条に規定する事項に関し、当該国の行政機関及び独立行政法人等の職員が適切に対応するために必要な要領(以下この条及び附則第三条において「国等職員対応要領」という。)を定めるものとする。 2 国の行政機関の長及び独立行政法人等は、国等職員対応要領を定めようとするときは、あらかじめ、障害者その他の関係者の意見を反映させるために必要な措置を講じなければならない。 3 国の行政機関の長及び独立行政法人等は、国等職員対応要領を定めたときは、遅滞なく、これを公表しなければならない。 4 前二項の規定は、国等職員対応要領の変更について準用する。  (地方公共団体等職員対応要領) 第十条 地方公共団体の機関及び地方独立行政法人は、基本方針に即して、第七条に規定する事項に関し、当該地方公共団体の機関及び地方独立行政法人の職員が適切に対応するために必要な要領(以下この条及び附則第四条において「地方公共団体等職員対応要領」という。)を定めるよう努めるものとする。 2 地方公共団体の機関及び地方独立行政法人は、地方公共団体等職員対応要領を定めようとするときは、あらかじめ、障害者その他の関係者の意見を反映させるために必要な措置を講ずるよう努めなければならない。 3 地方公共団体の機関及び地方独立行政法人は、地方公共団体等職員対応要領を定めたときは、遅滞なく、これを公表するよう努めなければならない。 4 国は、地方公共団体の機関及び地方独立行政法人による地方公共団体等職員対応要領の作成に協力しなければならない。 5 前三項の規定は、地方公共団体等職員対応要領の変更について準用する。  (事業者のための対応指針) 第十一条 主務大臣は、基本方針に即して、第八条に規定する事項に関し、事業者が適切に対応するために必要な指針(以下「対応指針」という。)を定めるものとする。 2 第九条第二項から第四項までの規定は、対応指針について準用する。  (報告の徴収並びに助言、指導及び勧告) 第十二条 主務大臣は、第八条の規定の施行に関し、特に必要があると認めるときは、対応指針に定める事項について、当該事業者に対し、報告を求め、又は助言、指導若しくは勧告をすることができる。  (事業主による措置に関する特例) ページ139 第十三条 行政機関等及び事業者が事業主としての立場で労働者に対して行う障害を理由とする差別を解消するための措置については、障害者の雇用の促進等に関する法律(昭和三十五年法律第百二十三号)の定めるところによる。 第四章 障害を理由とする差別を解消するための支援措置  (相談及び紛争の防止等のための体制の整備) 第十四条 国及び地方公共団体は、障害者及びその家族その他の関係者からの障害を理由とする差別に関する相談に的確に応ずるとともに、障害を理由とする差別に関する紛争の防止又は解決を図ることができるよう人材の育成及び確保のための措置その他の必要な体制の整備を図るものとする。  (啓発活動) 第十五条 国及び地方公共団体は、障害を理由とする差別の解消について国民の関心と理解を深めるとともに、特に、障害を理由とする差別の解消を妨げている諸要因の解消を図るため、必要な啓発活動を行うものとする。  (情報の収集、整理及び提供) 第十六条 国は、障害を理由とする差別を解消するための取組に資するよう、国内外における障害を理由とする差別及びその解消のための取組に関する情報の収集、整理及び提供を行うものとする。 2 地方公共団体は、障害を理由とする差別を解消するための取組に資するよう、地域における障害を理由とする差別及びその解消のための取組に関する情報の収集、整理及び提供を行うよう努めるものとする。  (障害者差別解消支援地域協議会) 第十七条 国及び地方公共団体の機関であって、医療、介護、教育その他の障害者の自立と社会参加に関連する分野の事務に従事するもの(以下この項及び次条第二項において「関係機関」という。)は、当該地方公共団体の区域において関係機関が行う障害を理由とする差別に関する相談及び当該相談に係る事例を踏まえた障害を理由とする差別を解消するための取組を効果的かつ円滑に行うため、関係機関により構成される障害者差別解消支援地域協議会(以下「協議会」という。)を組織することができる。 2 前項の規定により協議会を組織する国及び地方公共団体の機関は、必要があると認めるときは、協議会に次に掲げる者を構成員として加えることができる。 一 特定非営利活動促進法(平成十年法律第七号)第二条第二項に規定する特定非営利活動法人その他の団体 二 学識経験者 三 その他当該国及び地方公共団体の機関が必要と認める者 ページ140  (協議会の事務等) 第十八条 協議会は、前条第一項の目的を達するため、必要な情報を交換するとともに、障害者からの相談及び当該相談に係る事例を踏まえた障害を理由とする差別を解消するための取組に関する協議を行うものとする。 2 関係機関及び前条第二項の構成員(次項において「構成機関等」という。)は、前項の協議の結果に基づき、当該相談に係る事例を踏まえた障害を理由とする差別を解消するための取組を行うものとする。 3 協議会は、第一項に規定する情報の交換及び協議を行うため必要があると認めるとき、又は構成機関等が行う相談及び当該相談に係る事例を踏まえた障害を理由とする差別を解消するための取組に関し他の構成機関等から要請があった場合において必要があると認めるときは、構成機関等に対し、相談を行った障害者及び差別に係る事案に関する情報の提供、意見の表明その他の必要な協力を求めることができる。 4 協議会の庶務は、協議会を構成する地方公共団体において処理する。 5 協議会が組織されたときは、当該地方公共団体は、内閣府令で定めるところにより、その旨を公表しなければならない。  (秘密保持義務) 第十九条 協議会の事務に従事する者又は協議会の事務に従事していた者は、正当な理由なく、協議会の事務に関して知り得た秘密を漏らしてはならない。  (協議会の定める事項) 第二十条 前三条に定めるもののほか、協議会の組織及び運営に関し必要な事項は、協議会が定める。 第五章 雑則  (主務大臣) 第二十一条 この法律における主務大臣は、対応指針の対象となる事業者の事業を所管する大臣又は国家公安委員会とする。  (地方公共団体が処理する事務) 第二十二条 第十二条に規定する主務大臣の権限に属する事務は、政令で定めるところにより、地方公共団体の長その他の執行機関が行うこととすることができる。  (権限の委任) 第二十三条 この法律の規定により主務大臣の権限に属する事項は、政令で定めるところにより、その所属の職員に委任することができる。  (政令への委任) 第二十四条 この法律に定めるもののほか、この法律の実施のため必要な事項は、政令で定める。 第六章 罰則 ページ141 第二十五条 第十九条の規定に違反した者は、一年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。 第二十六条 第十二条の規定による報告をせず、又は虚偽の報告をした者は、二十万円以下の過料に処する。 附 則 抄  (施行期日) 第一条 この法律は、平成二十八年四月一日から施行する。ただし、次条から附則第六条までの規定は、公布の日から施行する。  (基本方針に関する経過措置) 第二条 政府は、この法律の施行前においても、第六条の規定の例により、基本方針を定めることができる。この場合において、内閣総理大臣は、この法律の施行前においても、同条の規定の例により、これを公表することができる。 2 前項の規定により定められた基本方針は、この法律の施行の日において第六条の規定により定められたものとみなす  (国等職員対応要領に関する経過措置) 第三条 国の行政機関の長及び独立行政法人等は、この法律の施行前においても、第九条の規定の例により、国等職員対応要領を定め、これを公表することができる。 2 前項の規定により定められた国等職員対応要領は、この法律の施行の日において第九条の規定により定められたものとみなす。  (地方公共団体等職員対応要領に関する経過措置) 第四条 地方公共団体の機関及び地方独立行政法人は、この法律の施行前においても、第十条の規定の例により、地方公共団体等職員対応要領を定め、これを公表することができる。 2 前項の規定により定められた地方公共団体等職員対応要領は、この法律の施行の日において第十条の規定により定められたものとみなす。  (対応指針に関する経過措置) 第五条 主務大臣は、この法律の施行前においても、第十一条の規定の例により、対応指針を定め、これを公表することができる。 2 前項の規定により定められた対応指針は、この法律の施行の日において第十一条の規定により定められたものとみなす。  (政令への委任) 第六条 この附則に規定するもののほか、この法律の施行に関し必要な経過措置は、政令で定める。  (検討) 第七条 政府は、この法律の施行後三年を経過した場合において、第八条第二項に規定する社会的障壁の除去の実施についての必要かつ合理的な配慮の在り方その他この法律の施行の状況について検討を加え、必要があると認めるときは、その結果に応じて所要の見直しを行うものとする。 ページ143 6 障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本方針(令和5年3月14日閣議決定)  政府は、障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(平成25年法律第65号。以下「法」という。)第6条第1項の規定に基づき、障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本方針(以下「基本方針」という。)を策定する。基本方針は、障害を理由とする差別の解消に向けた、政府の施策の総合的かつ一体的な実施に関する基本的な考え方を示すものである。 第1 障害を理由とする差別の解消の推進に関する施策に関する基本的な方向 1 法制定の背景及び経過  近年、障害者の権利擁護に向けた取組が国際的に進展し、平成18年に国連において、障害者の人権及び基本的自由の享有を確保すること並びに障害者の固有の尊厳の尊重を促進するための包括的かつ総合的な国際条約である障害者の権利に関する条約(以下「権利条約」という。)が採択された。我が国は、平成19年に権利条約に署名し、以来、国内法の整備を始めとする取組を進めてきた。  権利条約は第2条において、「「障害に基づく差別」とは、障害に基づくあらゆる区別、排除又は制限であって、政治的、経済的、社会的、文化的、市民的その他のあらゆる分野において、他の者との平等を基礎として全ての人権及び基本的自由を認識し、享有し、又は行使することを害し、又は妨げる目的又は効果を有するものをいう。障害に基づく差別には、あらゆる形態の差別(合理的配慮の否定を含む。)を含む。」と定義し、その禁止について、締約国に全ての適当な措置を求めている。我が国においては、平成16年の障害者基本法(昭和45年法律第84号)の改正において、障害者に対する差別の禁止が基本的理念として明示され、さらに、平成23年の同法改正の際には、権利条約の趣旨を踏まえ、同法第2条第2号において、社会的障壁について、「障害がある者にとつて日常生活又は社会生活を営む上で障壁となるような社会における事物、制度、慣行、観念その他一切のものをいう。」と定義されるとともに、基本原則として、同法第4条第1項に、「何人も、障害者に対して、障害を理由として、差別することその他の権利利益を侵害する行為をしてはならない」こと、また、同条第2項に、「社会的障壁の除去は、それを必要としている障害者が現に存し、かつ、その実施に伴う負担が過重でないときは、それを怠ることによつて前項の規定に違反することとならないよう、その実施について必要かつ合理的な配慮がされなければならない」ことが規定された。  法は、障害者基本法の差別の禁止の基本原則を具体化するものであり、全ての国民が、障害の有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会の実現に向け、障害を理由とする差別の解消を推進することを目的として、平成25年6月に制定された。我が国は、本法の制定を含めた一連の障害者施策に係る取組の成果を踏まえ、平成26年1月に権利条約を締結した。   ページ144  また、令和3年6月には、事業者による合理的配慮の提供を義務付けるとともに、行政機関相互間の連携の強化を図るほか、相談体制の充実や情報の収集・提供など障害を理由とする差別を解消するための支援措置の強化を内容とする改正法が公布された(障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律の一部を改正する法律(令和3年法律第56号))。 2 基本的な考え方 (1)法の考え方  法は、全ての障害者が、障害者でない者と等しく、基本的人権を享有する個人としてその尊厳が重んぜられ、その尊厳にふさわしい生活を保障される権利を有することを踏まえ、障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本的な事項等を定めることにより、障害を理由とする差別の解消を推進することで、共生社会の実現に資することを目的としている。全ての国民が、障害の有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会を実現するためには、日常生活や社会生活における障害者の活動を制限し、社会への参加を制約している社会的障壁を取り除くことが重要である。このため、法は、後述する、障害者に対する不当な差別的取扱い及び合理的配慮の不提供を差別と規定し、行政機関等及び事業者に対し、差別の解消に向けた具体的取組を求めるとともに、普及啓発活動等を通じて、障害者も含めた国民一人一人が、それぞれの立場において自発的に取り組むことを促している。  特に、法に規定された合理的配慮の提供に当たる行為は、既に社会の様々な場面において日常的に実践されているものもある。こうした取組を広く社会に示しつつ、また、権利条約が採用する、障害者が日常生活又は社会生活において受ける制限は、身体障害、知的障害、精神障害(発達障害及び高次脳機能障害を含む。)その他の心身の機能の障害(難病等に起因する障害を含む。)のみに起因するものではなく、社会における様々な障壁と相対することによって生ずるものとする、いわゆる「社会モデル」の考え方の国民全体への浸透を図ることによって、国民一人一人の障害に関する正しい知識の取得や理解が深まるとともに、障害者や行政機関等・事業者、地域住民といった様々な関係者の建設的対話による協力と合意により、共生社会の実現という共通の目標の実現に向けた取組が推進されることを期待するものである。 (2)基本方針と対応要領・対応指針との関係  基本方針に即して、国の行政機関の長及び独立行政法人等においては、当該機関の職員の取組に資するための対応要領を、主務大臣においては、事業者における取組に資するための対応指針を作成することとされている。地方公共団体及び公営企業型以外の地方独立行政法人(以下「地方公共団体等」という。)については、地方分権の観点から、対応要領の作成は努力義務とされているが、積極的に取り組むことが望まれる。   ページ145  対応要領及び対応指針は、法に規定された不当な差別的取扱い及び合理的配慮について、障害種別に応じた具体例も盛り込みながら分かりやすく示しつつ、行政機関等の職員に徹底し、事業者の取組を促進するとともに、広く国民に周知するものとする。 (3)条例との関係  地方公共団体においては、障害を理由とする差別の解消に向けた条例の制定が進められるなど、各地で障害を理由とする差別の解消に係る気運の高まりが見られるところである。法との関係では、地域の実情に即した既存の条例(いわゆる上乗せ・横出し条例を含む。)については引き続き効力を有し、また、新たに制定することも制限されることはなく、障害者にとって身近な地域において、条例の制定も含めた障害を理由とする差別を解消する取組の推進が望まれる。 第2 行政機関等及び事業者が講ずべき障害を理由とする差別を解消するための措置に関する共通的な事項  1 法の対象範囲 (1)障害者  対象となる障害者は、法第2条第1号に規定する障害者、即ち、身体障害、知的障害、精神障害(発達障害及び高次脳機能障害を含む。)その他の心身の機能の障害(難病等に起因する障害を含む。)(以下「障害」と総称する。)がある者であって、障害及び社会的障壁により継続的に日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける状態にあるものである。これは、障害者基本法第2条第1号に規定する障害者の定義と同様であり、いわゆる「社会モデル」の考え方を踏まえている。したがって、法が対象とする障害者の該当性は、当該者の状況等に応じて個別に判断されることとなり、いわゆる障害者手帳の所持者に限られない。 (2)事業者  対象となる事業者は、商業その他の事業を行う者(地方公共団体の経営する企業及び公営企業型地方独立行政法人を含み、国、独立行政法人等、地方公共団体及び公営企業型以外の地方独立行政法人を除く。)であり、目的の営利・非営利、個人・法人の別を問わず、同種の行為を反復継続する意思をもって行う者である。したがって、例えば、個人事業者や対価を得ない無報酬の事業を行う者、非営利事業を行う社会福祉法人や特定非営利活動法人も対象となり、また対面やオンラインなどサービス等の提供形態の別も問わない。 ページ146 (3)対象分野  法は、日常生活及び社会生活全般に係る分野が広く対象となる。ただし、行政機関等及び事業者が事業主としての立場で労働者に対して行う障害を理由とする差別を解消するための措置については、法第13条により、障害者の雇用の促進等に関する法律(昭和35年法律第123号)の定めるところによることとされている。 2 不当な差別的取扱い (1)不当な差別的取扱いの基本的な考え方 ア 法は、障害者に対して、正当な理由なく、障害を理由として、財・サービスや各種機会の提供を拒否する又は提供に当たって場所・時間帯などを制限する、障害者でない者に対しては付さない条件を付けることなどにより、障害者の権利利益を侵害することを禁止している。なお、車椅子、補助犬その他の支援機器等の利用や介助者の付添い等の社会的障壁を解消するための手段の利用等を理由として行われる不当な差別的取扱いも、障害を理由とする不当な差別的取扱いに該当する。  また、障害者の事実上の平等を促進し、又は達成するために必要な特別の措置は、不当な差別的取扱いではない。 イ したがって、障害者を障害者でない者と比べて優遇する取扱い(いわゆる積極的改善措置)、法に規定された障害者に対する合理的配慮の提供による障害者でない者との異なる取扱いや、合理的配慮を提供等するために必要な範囲で、プライバシーに配慮しつつ障害者に障害の状況等を確認することは、不当な差別的取扱いには当たらない。不当な差別的取扱いとは、正当な理由なく、障害者を、問題となる事務・事業について本質的に関係する諸事情が同じ障害者でない者より不利に扱うことである点に留意する必要がある。 (2)正当な理由の判断の視点  正当な理由に相当するのは、障害者に対して、障害を理由として、財・サービスや各種機会の提供を拒否するなどの取扱いが客観的に見て正当な目的の下に行われたものであり、その目的に照らしてやむを得ないと言える場合である。行政機関等及び事業者においては、正当な理由に相当するか否かについて、個別の事案ごとに、障害者、事業者、第三者の権利利益(例:安全の確保、財産の保全、事業の目的・内容・機能の維持、損害発生の防止等)及び行政機関等の事務・事業の目的・内容・機能の維持等の観点に鑑み、具体的場面や状況に応じて総合的・客観的に判断することが必要である。  正当な理由がなく、不当な差別的取扱いに該当すると考えられる例及び正当な理由があるため、不当な差別的取扱いに該当しないと考えられる例としては、次のようなものがある。なお、記載されている内容はあくまでも例示であり、正当な理由に相当するか否かについては、個別の事案ごとに、前述の観点等を踏まえて判断することが必要であること、正当な理由があり不当な差別的取扱いに該当しない場合であっても、合理的配慮の提供を求められる場合には別途の検討が必要であることに留意する。 ページ147 (正当な理由がなく、不当な差別的取扱いに該当すると考えられる例)  ・ 障害の種類や程度、サービス提供の場面における本人や第三者の安全性などについて考慮することなく、漠然とした安全上の問題を理由に施設利用を拒否すること。  ・ 業務の遂行に支障がないにもかかわらず、障害者でない者とは異なる場所での対応を行うこと。   ・ 障害があることを理由として、障害者に対して、言葉遣いや接客の態度など一律に接遇の質を下げること。  ・ 障害があることを理由として、具体的場面や状況に応じた検討を行うことなく、障害者に対し一律に保護者や支援者・介助者の同伴をサービスの利用条件とすること。 (正当な理由があるため、不当な差別的取扱いに該当しないと考えられる例)  ・ 実習を伴う講座において、実習に必要な作業の遂行上具体的な危険の発生が見込まれる障害特性のある障害者に対し、当該実習とは別の実習を設定すること。(障害者本人の安全確保の観点)  ・ 飲食店において、車椅子の利用者が畳敷きの個室を希望した際に、敷物を敷く等、畳を保護するための対応を行うこと。(事業者の損害発生の防止の観点)  ・ 銀行において口座開設等の手続を行うため、預金者となる障害者本人に同行した者が代筆をしようとした際に、必要な範囲で、プライバシーに配慮しつつ、障害者本人に対し障害の状況や本人の取引意思等を確認すること。(障害者本人の財産の保全の観点)  ・ 電動車椅子の利用者に対して、通常よりも搭乗手続や保安検査に時間を要することから、十分な研修を受けたスタッフの配置や関係者間の情報共有により所要時間の短縮を図った上で必要最小限の時間を説明するとともに、搭乗に間に合う時間に空港に来てもらうよう依頼すること。(事業の目的・内容・機能の維持の観点)  行政機関等及び事業者は、正当な理由があると判断した場合には、障害者にその理由を丁寧に説明するものとし、理解を得るよう努めることが望ましい。その際、行政機関等及び事業者と障害者の双方が、お互いに相手の立場を尊重しながら相互理解を図ることが求められる。 ページ148 3 合理的配慮 (1)合理的配慮の基本的な考え方 ア 権利条約第2条において、「合理的配慮」は、「障害者が他の者との平等を基礎として全ての人権及び基本的自由を享有し、又は行使することを確保するための必要かつ適当な変更及び調整であって、特定の場合において必要とされるものであり、かつ、均衡を失した又は過度の負担を課さないもの」と定義されている。   法は、権利条約における合理的配慮の定義を踏まえ、行政機関等及び事業者に対し、その事務・事業を行うに当たり、個々の場面において、障害者から現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明があった場合において、その実施に伴う負担が過重でないときは、障害者の権利利益を侵害することとならないよう、社会的障壁の除去の実施について、必要かつ合理的な配慮を行うこと(以下「合理的配慮」という。)を求めている。合理的配慮は、障害者が受ける制限は、障害のみに起因するものではなく、社会における様々な障壁と相対することによって生ずるものとのいわゆる「社会モデル」の考え方を踏まえたものであり、障害者の権利利益を侵害することとならないよう、障害者が個々の場面において必要としている社会的障壁を除去するための必要かつ合理的な取組であり、その実施に伴う負担が過重でないものである。 イ 合理的配慮は、障害の特性や社会的障壁の除去が求められる具体的場面や状況に応じて異なり、多様かつ個別性の高いものである。また、その内容は、後述する「環境の整備」に係る状況や、技術の進展、社会情勢の変化等に応じて変わり得るものである。  合理的配慮は、行政機関等及び事業者の事務・事業の目的・内容・機能に照らし、必要とされる範囲で本来の業務に付随するものに限られること、障害者でない者との比較において同等の機会の提供を受けるためのものであること、事務・事業の目的・内容・機能の本質的な変更には及ばないことに留意する必要がある。その提供に当たってはこれらの点に留意した上で、当該障害者が現に置かれている状況を踏まえ、社会的障壁の除去のための手段及び方法について、当該障害者本人の意向を尊重しつつ「(2)過重な負担の基本的な考え方」に掲げた要素も考慮し、代替措置の選択も含め、双方の建設的対話による相互理解を通じて、必要かつ合理的な範囲で柔軟に対応がなされる必要がある。  建設的対話に当たっては、障害者にとっての社会的障壁を除去するための必要かつ実現可能な対応案を障害者と行政機関等・事業者が共に考えていくために、双方がお互いの状況の理解に努めることが重要である。例えば、障害者本人が社会的障壁の除去のために普段講じている対策や、行政機関等や事業者が対応可能な取組等を対話の中で共有する等、建設的対話を通じて相互理解を深め、様々な対応策を柔軟に検討していくことが円滑な対応に資すると考えられる。 ページ149 ウ 現時点における合理的配慮の一例としては以下の例が挙げられる。なお、記載されている内容はあくまでも例示であり、あらゆる事業者が必ずしも実施するものではないこと、以下の例以外であっても合理的配慮に該当するものがあることに留意する。 (合理的配慮の例) ・ 車椅子利用者のために段差に携帯スロープを渡す、高い所に陳列された商品を取って渡すなどの物理的環境に係る対応を行うこと。 ・ 筆談、読み上げ、手話、コミュニケーションボードの活用などによるコミュニケーション、振り仮名や写真、イラストなど分かりやすい表現を使って説明をするなどの意思疎通に係る対応を行うこと。 ・ 障害の特性に応じた休憩時間の調整や必要なデジタル機器の使用の許可などのルール・慣行の柔軟な変更を行うこと。 ・ 店内の単独移動や商品の場所の特定が困難な障害者に対し、店内移動と買物の支援を行うこと。  また、合理的配慮の提供義務違反に該当すると考えられる例及び該当しないと考えられる例としては、次のようなものがある。なお、記載されている内容はあくまでも例示であり、合理的配慮の提供義務違反に該当するか否かについては、個別の事案ごとに、前述の観点等を踏まえて判断することが必要であることに留意する。 (合理的配慮の提供義務違反に該当すると考えられる例) ・ 試験を受ける際に筆記が困難なためデジタル機器の使用を求める申出があった場合に、デジタル機器の持込みを認めた前例がないことを理由に、必要な調整を行うことなく一律に対応を断ること。 ・ イベント会場内の移動に際して支援を求める申出があった場合に、「何かあったら困る」という抽象的な理由で具体的な支援の可能性を検討せず、支援を断ること。 ・ 電話利用が困難な障害者から電話以外の手段により各種手続が行えるよう対応を求められた場合に、自社マニュアル上、当該手続は利用者本人による電話のみで手続可能とすることとされていることを理由として、メールや電話リレーサービスを介した電話等の代替措置を検討せずに対応を断ること。 ・ 自由席での開催を予定しているセミナーにおいて、弱視の障害者からスクリーンや板書等がよく見える席でのセミナー受講を希望する申出があった場合に、事前の座席確保などの対応を検討せずに「特別扱いはできない」という理由で対応を断ること。  (合理的配慮の提供義務に反しないと考えられる例) ・ 飲食店において、食事介助等を求められた場合に、当該飲食店が当該業務を事業の一環として行っていないことから、その提供を断ること。(必要とされる範囲で本来の業務に付随するものに限られることの観点) ページ150 ・ 抽選販売を行っている限定商品について、抽選申込みの手続を行うことが困難であることを理由に、当該商品をあらかじめ別途確保しておくよう求められた場合に、当該対応を断ること。(障害者でない者との比較において同等の機会の提供を受けるためのものであることの観点) ・ オンライン講座の配信のみを行っている事業者が、オンラインでの集団受講では内容の理解が難しいことを理由に対面での個別指導を求められた場合に、当該対応はその事業の目的・内容とは異なるものであり、対面での個別指導を可能とする人的体制・設備も有していないため、当該対応を断ること。(事務・事業の目的・内容・機能の本質的な変更には及ばないことの観点) ・ 小売店において、混雑時に視覚障害者から店員に対し、店内を付き添って買物の補助を求められた場合に、混雑時のため付添いはできないが、店員が買物リストを書き留めて商品を準備することができる旨を提案すること。(過重な負担(人的・体制上の制約)の観点)  また、合理的配慮の提供に当たっては、障害者の性別、年齢、状態等に配慮するものとし、特に障害のある女性に対しては、障害に加えて女性であることも踏まえた対応が求められることに留意する。 エ 意思の表明に当たっては、具体的場面において、社会的障壁の除去を必要としている状況にあることを言語(手話を含む。)のほか、点字、拡大文字、筆談、実物の提示や身振りサイン等による合図、触覚による意思伝達など、障害者が他人とコミュニケーションを図る際に必要な手段(通訳を介するものを含む。)により伝えられる。その際には、社会的障壁を解消するための方法等を相手に分かりやすく伝えることが望ましい。  また、障害者からの意思表明のみでなく、障害の特性等により本人の意思表明が困難な場合には、障害者の家族、介助者等、コミュニケーションを支援する者が、本人を補佐して行う意思の表明も含む。なお、意思の表明が困難な障害者が、家族や支援者・介助者等を伴っていない場合など、意思の表明がない場合であっても、当該障害者が社会的障壁の除去を必要としていることが明白である場合には、法の趣旨に鑑みれば、当該障害者に対して適切と思われる配慮を提案するために建設的対話を働きかけるなど、自主的な取組に努めることが望ましい。 (2)過重な負担の基本的な考え方  過重な負担については、行政機関等及び事業者において、個別の事案ごとに、以下の要素等を考慮し、具体的場面や状況に応じて総合的・客観的に判断することが必要である。行政機関等及び事業者は、過重な負担に当たると判断した場合は、障害者に丁寧にその理由を説明するものとし、理解を得るよう努めることが望ましい。その際には前述のとおり、行政機関等及び事業者と障害者の双方が、お互いに相手の立場を尊重しながら、建設的対話を通じて相互理解を図り、代替措置の選択も含めた対応を柔軟に検討することが求められる。   ページ151 ○ 事務・事業への影響の程度(事務・事業の目的・内容・機能を損なうか否か)  ○ 実現可能性の程度(物理的・技術的制約、人的・体制上の制約)  ○ 費用・負担の程度  ○ 事務・事業規模  ○ 財政・財務状況 (3)環境の整備との関係 ア 環境の整備の基本的な考え方  法は、個別の場面において、個々の障害者に対して行われる合理的配慮を的確に行うための不特定多数の障害者を主な対象として行われる事前的改善措置(施設や設備のバリアフリー化、意思表示やコミュニケーションを支援するためのサービス・介助者等の人的支援、障害者による円滑な情報の取得・利用・発信のための情報アクセシビリティの向上等)を、環境の整備として行政機関等及び事業者の努力義務としている。環境の整備においては、新しい技術開発が投資負担の軽減をもたらすこともあることから、技術進歩の動向を踏まえた取組が期待される。また、ハード面のみならず、職員に対する研修や、規定の整備等の対応も含まれることが重要である。  障害を理由とする差別の解消のための取組は、法や高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律(平成18年法律第91号)等不特定多数の障害者を対象とした事前的な措置を規定する法令に基づく環境の整備に係る施策や取組を着実に進め、環境の整備と合理的配慮の提供を両輪として進めることが重要である。 イ 合理的配慮と環境の整備  環境の整備は、不特定多数の障害者向けに事前的改善措置を行うものであるが、合理的配慮は、環境の整備を基礎として、その実施に伴う負担が過重でない場合に、特定の障害者に対して、個別の状況に応じて講じられる措置である。したがって、各場面における環境の整備の状況により、合理的配慮の内容は異なることとなる。  合理的配慮の提供と環境の整備の関係に係る一例としては以下の例が挙げられる。 ・ 障害者から申込書類への代筆を求められた場合に円滑に対応できるよう、あらかじめ申込手続における適切な代筆の仕方について店員研修を行う(環境の整備)とともに、障害者から代筆を求められた場合には、研修内容を踏まえ、本人の意向を確認しながら店員が代筆する(合理的配慮の提供)。 ・ オンラインでの申込手続が必要な場合に、手続を行うためのウェブサイトが障害者にとって利用しづらいものとなっていることから、手続に際しての支援を求める申出があった場合に、求めに応じて電話や電子メールでの対応を行う(合理的配慮の提供)とともに、以後、障害者がオンライン申込みの際に不便を感じることのないよう、ウェブサイトの改良を行う(環境の整備)。   ページ152 なお、多数の障害者が直面し得る社会的障壁をあらかじめ除去するという観点から、他の障害者等への波及効果についても考慮した環境の整備を行うことや、相談・紛争事案を事前に防止する観点からは合理的配慮の提供に関する相談対応等を契機に、行政機関等及び事業者の内部規則やマニュアル等の制度改正等の環境の整備を図ることは有効である。また環境の整備は、障害者との関係が長期にわたる場合においても、その都度の合理的配慮の提供が不要となるという点で、中・長期的なコストの削減・効率化にも資することとなる。 第3 行政機関等が講ずべき障害を理由とする差別を解消するための措置に関する基本的な事項 1 基本的な考え方  行政機関等においては、その事務・事業の公共性に鑑み、障害を理由とする差別の解消に率先して取り組む主体として、不当な差別的取扱いの禁止及び合理的配慮の提供が法的義務とされており、国の行政機関の長及び独立行政法人等は、当該機関の職員による取組を確実なものとするため、対応要領を定めることとされている。行政機関等における差別禁止を確実なものとするためには、差別禁止に係る具体的取組と併せて、相談窓口の明確化、職員の研修・啓発の機会の確保等を徹底することが重要であり、対応要領においてこの旨を明記するものとする。   2 対応要領 (1)対応要領の位置付け及び作成・変更手続  対応要領は、行政機関等が事務・事業を行うに当たり、職員が遵守すべき服務規律の一環として定められる必要があり、国の行政機関であれば、各機関の長が定める訓令等が、また、独立行政法人等については、内部規則の様式に従って定められることが考えられる。  国の行政機関の長及び独立行政法人等は、対応要領の作成・変更に当たり、障害者その他の関係者を構成員に含む会議の開催、障害者団体等からのヒアリングなど、障害者その他の関係者の意見を反映させるために必要な措置を講ずるとともに、作成等の後は、対応要領を公表しなければならない。 (2)対応要領の記載事項  対応要領の記載事項としては、以下のものが考えられる。なお、具体例を記載する際には、障害特性や年齢、性別、具体的な場面等を考慮したものとなるよう留意することとする。 ページ153  ○ 趣旨  ○ 障害を理由とする不当な差別的取扱い及び合理的配慮の基本的な考え方  ○ 障害を理由とする不当な差別的取扱い及び合理的配慮の具体例  ○ 相談体制の整備  ○ 職員への研修・啓発 3 地方公共団体等における対応要領に関する事項  地方公共団体等における対応要領の作成については、地方分権の趣旨に鑑み、法においては努力義務とされている。地方公共団体等において対応要領を作成・変更する場合には、2(1)及び(2)に準じて行われることが望ましい。国は、地方公共団体等における対応要領の作成等に関し、適時に資料・情報の提供、技術的助言など、所要の支援措置を講ずること等により協力しなければならない。 第4 事業者が講ずべき障害を理由とする差別を解消するための措置に関する基本的な事項 1 基本的な考え方  事業者については、令和3年の法改正により、合理的配慮の提供が法的義務へと改められた。これを契機として、事業者においては、各主務大臣が作成する対応指針に基づき、合理的配慮の必要性につき一層認識を深めることが求められる。主務大臣においては、所掌する分野の特性を踏まえたきめ細かな対応を行うものとする。各事業者における取組については、障害を理由とする差別の禁止に係る具体的取組はもとより、相談窓口の整備、事業者の研修・啓発の機会の確保、個別事案への対応を契機とした障害を理由とする差別の解消の推進に資する内部規則やマニュアルなど制度等の整備等も重要であり、対応指針の作成・変更に当たっては、この旨を明記するものとする。 2 対応指針 (1)対応指針の位置付け及び作成・変更手続  主務大臣は、個別の場面における事業者の適切な対応・判断に資するための対応指針を作成するものとされている。作成・変更に当たっては、障害者や事業者等を構成員に含む会議の開催、障害者団体や事業者団体等からのヒアリングなど、障害者その他の関係者の意見を反映させるために必要な措置を講ずるとともに、作成等の後は、対応指針を公表しなければならない。  対応指針は事業者の適切な判断に資するために作成されるものであり、盛り込まれる合理的配慮の具体例は、事業者に強制する性格のものではなく、また、それだけに限られるものではない。事業者においては、対応指針を踏まえ、具体的場面や状況に応じて柔軟に対応することが期待される。 ページ154  また、対応指針は事業者に加え、障害者が相談を行う際や、国や地方公共団体における相談機関等が相談対応を行う際等にも、相談事案に係る所管府省庁の確認のため参照され得るものであることから、対応指針においては、各主務大臣が所掌する分野及び当該分野に対応する相談窓口を分かりやすく示すことが求められる。 (2)対応指針の記載事項  対応指針の記載事項としては、以下のものが考えられる。なお、具体例を記載する際には、障害特性や年齢、性別、具体的な場面等を考慮したものとなるよう留意することとする。  ○ 趣旨  ○ 障害を理由とする不当な差別的取扱い及び合理的配慮の基本的な考え方  ○ 障害を理由とする不当な差別的取扱い及び合理的配慮の具体例  ○ 事業者における相談体制の整備 ○ 事業者における研修・啓発、障害を理由とする差別の解消の推進に資する制度等の整備  ○ 国の行政機関(主務大臣)における所掌する分野ごとの相談窓口 3 主務大臣による行政措置  事業者における障害を理由とする差別の解消に向けた取組は、主務大臣の定める対応指針を参考にして、各事業者により自主的に取組が行われることが期待される。しかしながら、事業者による自主的な取組のみによっては、その適切な履行が確保されず、例えば、事業者が法に反した取扱いを繰り返し、自主的な改善を期待することが困難である場合などには、主務大臣は、法第12条に基づき、特に必要があると認められるときは、事業者に対し、報告を求め、又は助言、指導若しくは勧告をすることができることとされている。また、障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律施行令(平成28年政令第32号。以下「施行令」という。)第3条により、各事業法等における監督権限に属する事務を地方公共団体の長等が行うこととされているときは、法第12条に規定する主務大臣の権限に属する事務についても、当該地方公共団体の長等が行うこととされている。この場合であっても、障害を理由とする差別の解消に対処するため特に必要があると認めるときは、主務大臣が自らその事務を行うことは妨げられていない。  こうした行政措置に至る事案を未然に防止するため、主務大臣は、事業者に対して、対応指針に係る十分な情報提供を行うとともに、事業者からの照会・相談に丁寧に対応するなどの取組を積極的に行うものとする。特に、事業者による合理的配慮の提供の義務化に伴い、事業者から様々な相談が寄せられることが見込まれることから、円滑な相談対応等が可能となるよう、各主務大臣は、相談事案に関係する他の主務大臣や地方公共団体など関係機関との連携を十分に図ること等が求められる。また、主務大臣による行政措置に当たっては、事業者における自主的な取組を尊重する法の趣旨に沿って、まず、報告徴収、助言、指導により改善を促すことを基本とする必要がある。主務大臣が事業者に対して行った助言、指導及び勧告については、取りまとめて、毎年国会に報告するものとする。 ページ155 第5 国及び地方公共団体による障害を理由とする差別を解消するための支援措置の実施に関する基本的な事項 1 相談及び紛争の防止等のための体制の整備 (1)障害を理由とする差別に関する相談対応の基本的な考え方  法第14条において、国及び地方公共団体は、障害者及びその家族その他の関係者からの障害を理由とする差別に関する相談に的確に応ずるとともに、障害を理由とする差別に関する紛争の防止又は解決を図ることができるよう、人材の育成及び確保のための措置その他の必要な体制の整備を図るものとされている。  障害を理由とする差別の解消を効果的に推進するには、公正・中立な立場である相談窓口等の担当者が、障害者や事業者等からの相談等に的確に応じることが必要である。  国においては、主務大臣がそれぞれの所掌する分野ごとに法第12条に基づく権限を有しており、各府省庁において所掌する分野に応じた相談対応を行っている。また、地方公共団体においては、障害を理由とする差別の解消に関する相談につき分野を問わず一元的に受け付ける窓口や相談員を配置して対応する例、各部署・機関の窓口で対応する例などがある。  相談対応の基本的なプロセスとしては、以下のような例が考えられる。相談対応過程では相談者及びその相手方から丁寧な事実確認を行った上で、相談窓口や関係部局において対応方針の検討等を行い、建設的対話による相互理解を通じて解決を図ることが望ましい。その際には、障害者の性別、年齢、状態等に配慮するとともに、個人情報の適正な取扱いを確保することが重要である。なお、相談窓口等の担当者とは別に、必要に応じて、相談者となる障害者や事業者に寄り添い、相談に際して必要な支援を行う役割を担う者を置くことも円滑な相談対応に資すると考えられる。  その上で、基本的な対応での解決が難しい場合は、事案の解決・再発防止に向けた次の段階の取組として、国においては、法第12条に基づく主務大臣による行政措置や、地方公共団体においては、前述の施行令第3条に基づく措置のほか、一部の地方公共団体において条例で定められている報告徴収、助言、指導、勧告、公表などの措置や紛争解決のための措置による対応が考えられる。 ページ156  (相談対応のプロセスの例)  〇 相談者への丁寧な事実確認  〇 関係者(関係部局) における情報共有、対応方針の検討  〇 相手方への丁寧な事実確認  〇 関係者(関係部局) における情報共有、事案の評価分析、対応方針の検討  〇 相談者と相手方との調整、話合いの場の設定  なお、障害を理由とする差別に関する相談を担うこととされている窓口のみならず、日常的に障害者や事業者と関わる部局等も相談の一次的な受付窓口としての機能を担い得ることに留意する。 (2)国及び地方公共団体の役割分担並びに連携・協力に向けた取組  国及び地方公共団体には、様々な障害を理由とする差別の解消のための相談窓口等が存在している。法は、新たな機関は設置せず、既存の機関等の活用・充実を図ることとしているところ、差別相談の特性上、個々の相談者のニーズに応じた相談窓口等の選択肢が複数あることは望ましく、国及び地方公共団体においては、適切な役割分担の下、相談窓口等の間の連携・協力により業務を行うことで、障害を理由とする差別の解消に向けて、効率的かつ効果的に対応を行うことが重要である。  相談対応等に際しては、地域における障害を理由とする差別の解消を促進し、共生社会の実現に資する観点から、まず相談者にとって一番身近な市区町村が基本的な窓口の役割を果たすことが求められる。都道府県は、市区町村への助言や広域的・専門的な事案についての支援・連携を行うとともに、必要に応じて一次的な相談窓口等の役割を担うことが考えられる。また、国においては各府省庁が所掌する分野に応じて相談対応等を行うとともに、市区町村や都道府県のみでは対応が困難な事案について、適切な支援等を行う役割を担うことが考えられる。  相談対応等においては、このような国・都道府県・市区町村の役割分担を基本としつつ、適切な関係機関との間で必要な連携・協力がなされ、国及び地方公共団体が一体となって適切な対応を図ることができるような取組を、内閣府が中心となり、各府省庁や地方公共団体と連携して推進することが重要である。このため内閣府においては、事業分野ごとの相談窓口の明確化を各府省庁に働きかけ、当該窓口一覧の作成・公表を行うほか、障害者や事業者、都道府県・市区町村等からの相談に対して法令の説明や適切な相談窓口等につなぐ役割を担う国の相談窓口について検討を進め、どの相談窓口等においても対応されないという事案が生じることがないよう取り組む。また、(3)の各相談窓口等に従事する人材の確保・育成の支援及び3の事例の収集・整理・提供を通じた相談窓口等の対応力の強化等にも取り組むこととする。 ページ157 (3)人材の確保・育成  障害を理由とする差別に関する相談の解決を図るためには、障害者や事業者等からの相談を適切に受け止め、対応する人材の確保・育成が重要である。相談対応を行う人材は、公正中立な立場から相談対応を行うとともに、法や解決事例に関する知識、当事者間を調整する能力、連携・協力すべき関係機関に関する知識、障害特性に関する知識等が備わっていることが望ましい。国及び地方公共団体においては、必要な研修の実施等を通じて、相談対応を行う人材の専門性向上、相談対応業務の質向上を図ることが求められる。人材育成に係る取組に格差が生じることのないよう、内閣府においては、相談対応を担う人材育成に係る研修の実施を支援すること等を通じ、国及び地方公共団体における人材育成の取組を推進することとする。 2 啓発活動  障害を理由とする差別については、国民一人一人の障害に関する知識・理解の不足、意識の偏りに起因する面が大きいと考えられる。全ての国民が障害の有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会を実現するためには、障害者に対する障害を理由とする差別は解消されなければならないこと、また障害を理由とする差別が、本人のみならずその家族等にも深い影響を及ぼすことを国民一人一人が認識するとともに、障害を理由とする差別の解消のための取組は、障害者のみならず、全ての国民にとっての共生社会の実現に資するものであることについて、理解を深めることが不可欠である。このため、内閣府を中心に、関係行政機関等と連携して、いわゆる「社会モデル」の考え方も含めた各種啓発活動に積極的に取り組み、国民各層の障害に関する理解を促進するものとする。また、各種啓発活動や研修等の実施に当たっては、障害のある女性は、障害があることに加えて女性であることにより合理的配慮の提供を申し出る場面等において機会が均等に得られなかったり、不当な差別的取扱いを受けやすかったりする場合があるといった意見があること、障害のある性的マイノリティについても同様の意見があること、障害のあるこどもには、成人の障害者とは異なる支援の必要性があることについても理解を促す必要があることに留意する。 (1)行政機関等における職員に対する研修  行政機関等においては、所属する職員一人一人が障害者に対して適切に対応し、また、障害者や事業者等からの相談等に的確に対応するため、法や基本方針、対応要領・対応指針の周知徹底、障害者から話を聞く機会を設けるなどの各種研修等を実施することにより、職員の障害に関する理解の促進を図るものとする。 (2)事業者における研修  事業者においては、障害者に対して適切に対応し、また、障害者及びその家族その他の関係者からの相談等に的確に対応するため、研修等を通じて、法や基本方針、対応指針の普及を図るとともに、障害に関する理解の促進に努めるものとする。内閣府においては、障害者の差別解消に向けた理解促進のためのポータルサイトにおいて、事業者が障害者に対応する際に参考となる対応例等の提供を通じ、事業者を含め社会全体における障害を理由とする差別の解消に向けた理解や取組の進展を図ることとする。 ページ158 (3)地域住民等に対する啓発活動 ア 国民一人一人が法の趣旨について理解を深め、建設的対話を通じた相互理解が促進されるよう、障害者も含め、広く周知・啓発を行うことが重要である。このため、内閣府を中心に、関係省庁、地方公共団体、事業者、障害者団体、マスメディア等の多様な主体との連携により、インターネットを活用した情報提供、ポスターの掲示、パンフレットの作成・配布、法の説明会やシンポジウム等の開催など、アクセシビリティにも配慮しつつ、多様な媒体を用いた周知・啓発活動に積極的に取り組む。 イ 障害のあるこどもが、幼児教育の段階からその年齢及び能力に応じ、可能な限り障害のないこどもと共に、その特性を踏まえた十分な教育を受けることのできる、権利条約が求めるインクルーシブ教育システムの構築を推進しつつ、家庭や学校を始めとする社会のあらゆる機会を活用し、こどもの頃から年齢を問わず障害に関する知識・理解を深め、全ての障害者が、障害者でない者と等しく、基本的人権を享有する個人であることを認識し、障害の有無にかかわらず共に助け合い・学び合う精神を涵養する。障害のないこどもの保護者に対する働きかけも重要である。 ウ 国は、グループホーム等を含む、障害者関連施設の認可等に際して、周辺住民の同 意を求める必要がないことを十分に周知するとともに、地方公共団体においては、当該認可等に際して、周辺住民の同意を求める必要がないことに留意しつつ、住民の理解を得るために積極的な啓発活動を行うことが望ましい。 3 情報の収集、整理及び提供  障害を理由とする差別の解消を推進するためには、事例の共有等を通じて障害を理由とする不当な差別的取扱いや合理的配慮の考え方等に係る共通認識の形成を図ることも重要である。内閣府では、引き続き各府省庁や地方公共団体と連携・協力して事例を収集するとともに、参考となる事案の概要等を分かりやすく整理してデータベース化し、ホームページ等を通じて公表・提供することとする。  事例の収集・整理に当たっては、個人情報の適正な取扱いを確保しつつ、特に障害のある女性やこども等に対し実態を踏まえた適切な措置の実施が可能となるよう、性別や年齢等の情報が収集できるように努めることとする。あわせて、海外の法制度や差別解消のための取組に係る調査研究等を通じ、権利条約に基づき設置された、障害者の権利に関する委員会を始めとする国際的な動向や情報の集積を図るものとする。 ページ159 4 障害者差別解消支援地域協議会 (1)趣旨  障害を理由とする差別の解消を効果的に推進するには、障害者にとって身近な地域において、主体的な取組がなされることが重要である。地域において日常生活、社会生活を営む障害者の活動は広範多岐にわたり、相談等を行うに当たっては、どの機関がどのような権限を有しているかは必ずしも明らかではない場合があり、また、相談等を受ける機関においても、相談内容によっては当該機関だけでは対応できない場合がある。このため、国の地方支分部局を含め、地域における様々な関係機関が、相談事例等に係る情報の共有・協議を通じて、各自の役割に応じた事案解決のための取組や類似事案の発生防止の取組など、地域における障害を理由とする差別の解消の機運醸成を図り、それぞれの実情に応じた差別の解消のための取組を主体的に行うネットワークとして、障害者差別解消支援地域協議会(以下「協議会」という。)を組織することができることとされている。協議会については、障害者及びその家族の参画を進めるとともに、性別・年齢、障害種別等を考慮して組織することが望ましい。また、情報やノウハウを共有し、関係者が一体となって事案に取り組むという観点から、地域の事業者や事業者団体についても協議会に参画することが有効である。内閣府においては、協議会の設置状況等について公表するものとする。 (2)期待される役割  協議会に期待される役割としては、関係機関から提供された相談事例等について、適切な相談窓口を有する機関の紹介、具体的事案の対応例の共有・協議、協議会の構成機関等における調停、斡旋等の様々な取組による紛争解決、複数の機関で紛争解決等に対応することへの後押し等が考えられる。このほか、関係機関において紛争解決に至った事例や合理的配慮の具体例、相談事案から合理的配慮に係る環境の整備を行うに至った事例などの共有・分析を通じて、構成機関等における業務改善、事案の発生防止のための取組、周知・啓発活動に係る協議等を行うことも期待される。 (3)設置促進等に向けた取組  各地方公共団体における協議会の設置促進のためには、協議会の単独設置が困難な場合等に、必要に応じて圏域単位など複数の市区町村による協議会の共同設置・運営を検討することや、必要な構成員は確保しつつ、他の協議会等と一体的に運営するなど開催形式を柔軟に検討することが効果的と考えられる。  また、市区町村における協議会の設置等の促進に当たっては都道府県の役割が重要であり、都道府県においては、管内市区町村における協議会の設置・実施状況の把握や好事例の展開等を通じて、市区町村における取組のバックアップを積極的に行うことが望ましい。加えて、都道府県において組織される協議会においても、紛争解決等に向けた取組について、市区町村において組織される協議会を補完・支援する役割が期待される。内閣府においても、地方公共団体の担当者向けの研修の実施を通じ、地域における好事例が他の地域において共有されるための支援を行うなど、体制整備を促進する。 ページ160 第6 その他障害を理由とする差別の解消の推進に関する施策に関する重要事項  技術の進展、社会情勢の変化等は、特に、合理的配慮について、その内容、程度等に大きな進展をもたらし、また、実施に伴う負担を軽減し得るものであり、こうした動向や不当な差別的取扱い及び合理的配慮の具体例の集積等を踏まえるとともに、国際的な動向も勘案しつつ、必要に応じて、基本方針、対応要領及び対応指針を見直し、適時、充実を図るものとする。基本方針の見直しに当たっては、あらかじめ、障害者その他の関係者の意見を反映させるために必要な措置を講ずるとともに、障害者政策委員会の意見を聴かなければならない。対応要領及び対応指針の見直しに当たっても、障害者その他の関係者の意見を反映させるために必要な措置を講じなければならない。  行政機関等においては、各種の国家資格の取得等において障害者に不利が生じないよう、高等教育機関に対し、入学試験の実施や国家資格試験の受験資格取得に必要な単位の修得に係る試験の実施等において合理的配慮の提供を促すとともに、国家資格試験の実施等に当たり、障害特性に応じた合理的配慮を提供する。民間資格の試験を実施する事業者に対しても同様に、試験の実施等に当たっての合理的配慮の提供を促す。また、いわゆる欠格条項について、各制度の趣旨や、技術の進展、社会情勢の変化等を踏まえ、適宜、必要な見直しを検討するものとする。 附 則  この基本方針は、障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律の一部を改正する法律の施行の日から適用する。 ページ161 7 令和5年度「障害を理由とする差別の解消に向けた事例の収集・分析に係る調査研究」障害者差別の解消に向けた事例分析検討会 構成員名簿 (五十音順、敬称略) 氏 名、ご所属・役職 ・岩上 洋一 一般社団法人 全国地域で暮らそうネットワーク 代表理事 ・大下 英和 日本・東京商工会議所 産業政策第二部 部長 ・尾上 浩二 認定NPO法人 DPI日本会議 副議長 ・加野 理代 田辺総合法律事務所 弁護士 ・熊谷 晋一郎 東京大学 先端科学技術研究センター 准教授 ・小暮 亮 全国商工会連合会 産業政策部 産業政策課 課長 ・曽根 直樹 日本社会事業大学専門職大学院 教授 ・田中 伸明 社会福祉法人 日本視覚障害者団体連合 評議員 ・田中 正巳 日本チェーンストア協会 常務理事 ・中里 幸治 千葉県 健康福祉部 障害者福祉推進課 課長 ・◎野澤 和弘 植草学園大学 副学長/一般社団法人 スローコミュニケーション 代表 ・樋口 聡北九州市 保健福祉局 障害福祉企画課 課長 ・又村 あおい 一般社団法人 全国手をつなぐ育成会連合会 常務理事  ◎:座長