資料2 一般社団法人 全日本難聴者・中途失聴者団体連合会 p1 1 情報取得等に資する機器の活用状況について 普段どのような支援機器等を、どのような場面で使用しているか。(団体で行っているアンケート結果や具体的なエピソード等) 近年は、テクノロジーの進展に伴い、多くの国民がIT(インフォメーションテクノロジー)やICT(インフォメーションアンドコミュニケーションテクノロジー)の恩恵にあずかっています。何らかの障害を有している人たち(難聴者・中途失聴者・ろう(あ)者・盲ろう者・知的障害者・発達障害者等)も、その恩恵を受け、さまざまな情報取得支援機器を活用できるようになってきました。 例えば、私ども難聴・中途失聴の立場では、テレビ番組への字幕付与、メールなどの文字によるコミュニケーションの成立。公共交通機関の可変式情報装置や電光掲示板、空港などのフライトインフォメーション、商業施設などのデジタルサイネージ、公共施設等に配備されているヒアリングループや赤外線補聴援助システム、火災報知器の音に連動する光の点滅機等、公共性の高い情報取得支援機器が充実してきました。ただ、ヒアリングループなどの補聴援助システムについては、機器環境はあるのに有効活用されていない施設もあります。マニュアルを統一し、機器が設置されている周知や、機器のメンテナンスがきちんとなされることも重要です。 難聴・中途失聴当事者の取り組みとしては、コロナ禍でマスク社会となり、口の動き(読話)や表情でコミュニケーションが取りにくくなったことを受け、筆談の代替手段や情報取得媒体として、音声認識アプリを使用する場面が増えてきました。使用されている実例としては、医療機関における医療従事者とのやりとり、駅での切符購入、レストランでの注文や説明、買い物の購入時の店員からの説明、ワクチン接種会場でのやりとり等、幅広く活用されています。遅延した電車の車内アナウンスの内容を知るためにアプリを使用し助かった、などといった事例の報告も受けています。これらは、さまざまな生活場面で当事者である難聴者・中途失聴者から対応する相手である「話し手」に依頼をして活用されるケースが多く、能動的な利用形態となっているのが特徴です。 この音声認識アプリが情報保障として活用されている地域もありますが、全難聴としては、音声認識は会話支援機の位置づけです。加えて、周りがさわがしかったり、雑音が多かったりすると、認識率が低下する傾向にあるのがマイナス要因となっています。 2 生活する中で、どのような場面で困りごとがあるか、また、困りごとの中で、情報取得等に資する機器を活用することで、困りごとを解消できると考えられるようなものはあるか。 p2 アンケートを実施した結果から見えてきたことを報告します。生活の中での、こまごまとした困りごとが多いのが特徴です。その解決策の一助となる手段も追記します。 【当事者意見1】 「困りごと」を簡潔に言えば「音声情報全て」なのです。 例えば、 ・ホームや車内での電車の案内(アナウンス)→電光掲示板の設置を。事故発生時や災害発生時などの緊急情報伝達も重要。 ・映画(邦画)の上映回数、時間を制限せずに全てに字幕を→スーパーインポーズ方式の字幕や字幕メガネなどの対策を。 ・テレビ番組もすべてに遅れ(タイムラグ)のない字幕を、CMにも字幕を→字幕付与の拡充を。 ・緊急放送や施設の放送・スーパーでのバーゲンの放送などの見える化を→視覚情報提供媒体の設置を。 ・病院での呼び出しや医師・薬剤師・看護師の説明が聞き取れない→病院は命に関わる現場。双方向性のコミュニケーションが成り立つことが重要。対策を。 ・公共施設にヒアリングループなどの補聴援助システムが少なく参加しにくい。駅、空港も同様→海外の対応機器設置事例を参考に。 ・タクシー内では、運転手と双方向の会話ができる環境整備を。 ・演劇などエンターテイメントに字幕やタブレットへの文字情報提供の配慮を。 ・美術館・博物館などに設置されている音声ガイドに接続する補聴機器への互換性に配慮を。(通常のイヤホンジャックに統一を) ・全ての音声言語は、視覚、触覚、嗅覚情報に変換することで困りごとは解決すると考える。これからの社会に必要なこと。 ・「障害は社会がつくる」という概念を国民へ広く浸透させることが必要、と考えます。 【当事者意見2】 生活の中での困りごとはほとんどがコミュニケーションの場面であり、他には交通機関のアナウンスの場面で困ることが多い。特にマスク社会の今、口の動きが読めず、さらにパーティーションなどの仕切りにより、聞き取りにくく、話しかけられていることにも気がつかないことがある。 筆談対応が必要な場面で、音声認識アプリを使い、解決することもあるが、距離がある時、まわりが騒がしい時、パーティーションで音がこもり認識しないときもある。行政や交通機関の窓口等には、字幕モニター、透明ディスプレイに文字を表示するシステムがあると相手の顔を見ながら会話ができる。 コロナ禍の影響で新しい生活様式が浸透し、オンラインによる会議や学びの場が増えている。主催者が字幕を用意してくれると助かるが、ほとんど障害当事者自身が用意することになる。字幕を起こすためのデバイス、変換アダプター、モノラルケーブルなどのツールが必要になり、職場などでオンライン参加するとき、負担になっている。アプリ等に字幕をつけることが義務化されると負担が軽減できる。 p3 【当事者意見3】 マスク社会により口元が見えず、誰が何を話しているか分からない。コロナ感染対策のアクリル板なども聞こえの妨げとなっている。声を発しているかどうかも分からない。今の日本社会は聞こえることが前提。筆談対応もあるが、情報支援機器を使用することで解消できる場面もあり、実際に難聴者自身が活用している。 補聴支援システムや音声認識アプリを会議や授業に導入している会社や学校も多い。学校は、生まれ育った地元の学校に入学し、健常児とともに学ぶ難聴児も増えているが、そういったシステムで授業支援を受けている子もおり、健常者・健常児と同じように情報を受け取る権利擁護に繋がっている。また、そういった音声認識アプリを使用し始めたことで聞こえていない情報があったことに気がつく難聴児・難聴者もいる。今はタブレット端末を設置している学校も多い。生徒同士や先生との雑談など、日常のコミュニケーションツールとして教育現場から活用を促してほしい。教育の場における健常児のそうした経験が社会へ出たときに活かされることが期待できる。 反面、デジタルの扱いに慣れていない高齢者が使いこなすにはハードルが高く、使いやすい機器の開発が望まれる。そして、情報を発信する側(社会)にそういった機器使用に対する配慮(使い方の周知)と理解(文字にすることを目障りだと言って嫌がる人もいる)も必要と考える。高齢者が使いこなせなくても、(作業者注・下線ここから)社会の側がそれらを正しく活用することで困りごとの解消(作業者注・下線ここまで)が期待できる。 第1回目の協議の場で、関連省庁の厚生労働省からも説明のあった「障害者ICTサポート総合推進事業」などで、こうした問題や課題がカバーされることを望みます。 なお、屋内・屋外などの場所を問わずあらゆる場で障害者の生活支援機器として利用度の高いスマートフォンを「日常生活用具」に指定してほしいという要望が高まっています。 教育の場における支援については、文部科学省において「ICT活用教育アドバイザー事業」や「情報通信技術支援員(ICT支援員)の配置の促進」などが挙げられていますが、当事者や家族・支援者からは、下記のような具体的な声や提案が挙がってきています。 インクルーシブ教育が推奨されている中、地域の学校へ通学する難聴児への支援が置き去りになっているケースがある。音声認識や補聴システムを設置するだけで、あとは本人や親御さん任せ。学校側が用意すべきロジャー(マイク)などの補聴支援機器を当事者が購入しているケースがある(その後のことを考慮して「自分たちで購入したほうがいい」と学校から勧められる)。「本人が頑張れ」で片付ける学校もある。聞こえのバリアは、社会の側にある。学校や先生がたの合理的配慮がないと聞こえの環境はよくならない。国が教育機関における環境を整えるマニュアルを統一し、指導してほしい。 例えば、補聴システムならば、伝わっていないかもと確認(分かった?大丈夫?ではなく、聞こえていないことを前提とし視覚情報できちんと伝えるなど)すること。音声認識ならば正しく使いこなすことが大切。マイクや設定の変更だけで認識が変わったというケースも聞きます。導入するだけではなく、正しく使いこなす知識が必要です。難しい年頃ですので、要約筆記者のような支援者が難聴児に付くことは現実的ではありません。機器利用は良いことだと思いますが、それがあればあとは「放置」ではいけません。そのことを文科省(教育委員会)に理解してほしいです。 p4 「人は宝」。その「人材」を育てるのは教育。現状に即した障害児・障害者教育の充実を望みます。 3 情報取得等に資する機器の開発や活用に関連したグッドプラクティス事案(企業・業界団体や、行政と連携した事例を含む) 様々な企業が参入している分野と認識しています。把握している事例を紹介します。 <事例1> 愛知県の「株式会社アイシン」は、独自に開発した音声認識システムのYYProbe(読み:ワイワイプローブ)を社内の聴覚障害がある従業員のコミュニケーション支援に使用。その運用を踏まえ、自治体や企業の窓口等でアクリル板付き透明ディスプレイを用いたシステムの実証実験を山口県内の6自治体で実施中。 愛知県内では情報アクセシビリティについて行政担当者向けの勉強会と自社製のYYSystem(読み:ワイワイシステム)のデモンストレーションを実施。地元のボランティア団体や当事者とともにユーザー目線のアプリを現在も開発中。個人ユーザーには無料で利用できるLite版を展開している。 <事例2> 音声認識アプリの「UDトーク」(Shamrock Records株式会社(読み:シャムロックレコード)開発)には、「アプリ導入プログラム」というプランがあり、条件付きで官公庁、地方自治体及び教育機関が法人アカウントを無料利用できるようなプランがある。また自治体に登録している意思疎通支援者向けに法人アカウントを無料提供するプログラムもあり、全国には、そのプログラムを利用して聴覚障害者への情報保障に活用している事例が多数ある。(UDトーク導入事例マップ参照) <事例3> 「富士通」は昨年、川崎市のろう学校と協働し、東京の上野駅で「エキマトペ」として、駅のホーム上の音情報を文字や手話映像・オノマトペとして視覚化する実証実験を約半年間にわたって実施。全国的にも話題になった。 <事例4> また、「リコー」も自社の聴覚障害者の声を受け、音声認識システムPekoe(読み:ペコ)を開発。社内向けの活用はもちろん、一般企業向けの販売も開始。 その他、多数の企業が同種の事業を実施中。企業が社内向けから一般向けへと開発を進めており、他の企業や行政も関心を持ちつつある。 p5 【行政と連携した事例】 愛知県では、「手話言語の普及及び障害の特性に応じたコミュニケーション手段の利用の促進に関する条例」の施行(平成28年10月18日)後に、災害時も含め幅広く活用できるコミュニケーション支援アプリが、障害当事者・支援者・事業者・企業の意見・声を取り入れ、行政主導で、三年前に開発された。しかしながら、やり取りをすべてアプリ内の文字やイラストで行うシステムになっているため、発声・発音のできる難聴者・中途失聴者にとっては使い勝手がいまいちで、積極的な活用がなされていないところである。なお、このアプリは、障害の特性に応じたコミュニケーション手段の利用促進に係る普及啓発の一環として作られたもので、発達障害の方などからは、文字やイラストでコミュニケーションができることを評価する声もあがっている。 愛知県内の消防署本部が管轄する救急車の中には、イラストでやり取りできる紙ベースのコミュニケーションボードが搭載されていて、聴覚障害者だけでなく外国の方ともコミュニケーションがとれるよう配慮されている。通信機器に頼らないアナログ的な対策ではあるが、よい事例と思います。災害時に通信環境が遮断されたりすると、アナログ対応が必要となるケースも考えられます。すべてを機器に依存するのではなく、アナログとデジタルの融合や、ソフト・ハード両面での支援も課題です。 最後に、障害者権利条約対日審査総括所見の中でも、委員会から「政府のすべてのレベルにわたってアクセシビリティを取り入れ、ユニバーサルデザイン基準を定着させるために行動計画及びアクセシビリティ戦略を実施すること、特に建物・交通・情報・通信・その他の市民に開放・提供されている施設やサービス(主要都市以外も含む)のアクセシビリティを確保すること」との勧告がありました。これを受けて、関係省庁が取り組む様々な事業の実効性に期待しているところです。そのためにも、「障害者情報アクセシビリティ・コミュニケーション施策推進法」の三条に規定されている基本理念に沿って、様々な視点から情報支援ができる環境を整えていくことが重要と考えます。