資料1 情報アクセシビリティ・コミュニケーションに関する視覚障害者の現状について 社会福祉法人日本視覚障害者団体連合 常務理事 三宅隆 p1 はじめに 日本視覚障害者団体連合(以下、本連合)は視覚障害者自身の手で、“自立と社会参加”を実現しようと組織された視覚障害者の全国組織である。1948年(昭和23年)に結成された、都道府県・政令指定都市における60の視覚障害者団体の連合体で、国や地方自治体の視覚障害者政策−人権、福祉、教育、職業、環境問題等−の立案・決定に際し、視覚障害者のニーズを反映させるため、陳情や要求運動を行っている。 T 情報取得等に資する機器の活用状況について、普段どのような支援機器等を、どのような場面で使用しているか。(団体で行っているアンケート結果や具体的なエピソード等) 1.オンライン会議システムの活用 本連合では、全国の役員や団体長が集まる会議をZoom等のオンライン会議システムを利用して開催している。視覚障害者がオンライン会議システムを利用することで、移動にかかる困難さの解消に繋がっている。しかし、多機能なアプリの一部の機能として提供されている会議システムは、決して使いやすいものとはなっていない。視覚障害者が参加する場合、画面を見ていないことを前提とした配慮が必要となっている。 2.YouTubeを利用した全国大会やイベントの実施 本連合が年に1度開催する「全国視覚障害者福祉大会」は、YouTubeのライブ配信を利用してハイブリッド開催を行っている。時間や移動に制約のある視覚障害者等からの視聴もあり、より多くの視覚障害者に広がったと考えられる。なお、この方法は、他のイベント等の開催でも活用している。 3.書籍を点訳・音訳・テキスト化等されたデータを集めたサピエ図書館や国立国会図書館等の利用 2019年に成立した読書バリアフリー法により、視覚障害者の読書環境の整備が促進されている。その中の1つとして、国会図書館が提供する視覚障害者等用データ配信システムがより充実されている。また、大学図書館の連携により、視覚障害学生向けに制作された資料が全国で共有できる仕組みが構築されてきている。 p2 U 生活する中で、どのような場面で困りごとがあるか、また、困りごとの中で、情報取得等に資する機器を活用することで、困りごとを解消できると考えられるようなものはあるか。 1.全国の視覚障害者からの要望【参考資料1】 本連合は、全国の加盟団体及び協議会等から国への要望事項を募り、毎年8月を目途に関係府省庁及び関係機関に対して陳情書を提出している。近年は情報アクセシビリティの向上や自身のコミュニケーションを円滑に行うための要望が多く寄せられている。令和3年度と令和4年度の陳情書からこれらに関する内容を整理すると、次のテーマに分かれている。 <全般、選挙、就労、教育、移動、商品、買物、金融、行政手続き、放送分野、インターネット、スマートフォン、デジタル化社会> この項目だけ見ても、情報アクセシビリティやコミュニケーションに関することは、視覚障害者の生活のほぼ全てに関わることが分かる。 そして、整理した陳情内容の要望を細かく整理すると次の内訳になる。 <1 情報を取得する、2 情報を発信する、3 情報保障、4 アクセシビリティの確保、5 バリアフリー化、6 スキルの習得、7 経済的支援、8 人的支援> 視覚による情報取得が困難な視覚障害者は、「1 情報を取得する」に関することが困難であることから、3,4,5の環境の改善、6のスキルの習得、7,8の各種支援を求める結果となっている。また、視覚からの情報取得が困難なことは、同時に文字の記入等も難しく、「2 情報を発信する」に関することの要望にも繋がっている。 2.要望の背景 (1)様々な視覚障害者の声【参考資料2】 本連合には弱視部会という組織があり、この部会には弱視者(ロービジョン)を中心に様々な見え方の会員が集っている。弱視者(ロービジョン)は、人によって見え方が異なることから、困り事も異なっている。ただし、情報アクセシビリティやコミュニケーションに関することは共通して困っていることが分かっている。 p3 弱視部会が発行する「弱視者の困り事 資料集」(※1・http://nichimou.org/all/news/secretariat-news/201201-jimu-2/)に掲載したテーマの中では、ICTに関することとして「ウェブサイトやアプリ」「オンライン会議」が掲載されている。また、シーン別では「金融機関」に関する困り事を掲載している。「ウェブサイトやアプリ」を例にとると、ウェブサイトやアプリに表示されている内容が読みづらい、入力が難しい等、様々な困り事が寄せられている。この中には次の重要な意見が含まれている。 <弱視者(ロービジョン)は、人によって読みやすいフォントが違うので、それぞれが読みやすいフォントに変えられることが理想だと思う。情報を提供する側がフォントを決めるのではなく、情報を得る側が読みやすいフォントに変えたり、選べたりすることが大切だと思う。> つまり、情報アクセシビリティの向上や自身のコミュニケーションを円滑に行うことを求める背景には「視覚障害者が自身で情報を取得できるように、自身の判断によって情報を取得しやすい方法を選択できること」が根幹にある。その中には、機器のアクセシビリティを高める、支援者の援助を受ける等の「外部的な要因」もあれば、機器等を操るための訓練を受ける等の「内部的な要因」も含まれている。社会モデルの観点からしても、この視点は大変重要である。 (2)調査から見えた課題【参考資料3】 本連合は、視覚障害者に関する様々な課題を解決するため、様々な調査事業を実施している。その中で、令和3年度を中心に実施した「視覚障害者の情報機器の活用に関する実態調査」には、興味深い調査結果が含まれている。 この調査事業は、ICT機器を利用している視覚障害者及び利用することが困難な視覚障害者の現状と課題を把握し、社会全体がデジタル化へ進む中で視覚障害者が取り残されることの無いよう、「誰一人取り残されない」の実現に向けての方策を検討することが目的となっている。視覚障害者がICT機器を容易に利用することができれば、様々な情報にアクセスでき、周りとのコミュニケーションも取りやすくなる。そのため、ICT機器に関する背景を探るため、調査を実施した。 まず、当事者調査では、デジタル化が進む中でICT機器の利用を前提とした手続きや情報のやりとりで困っている視覚障害者が多いことが分かった。視覚障害者がICT機器を使いこなして情報の取得、情報の発信を行うためには、「アクセシビリティの確保」「スキルの取得」「経済的な支援」が重要だということが分かった。また、国が進めるデジタル化の流れの中で視覚障害者にとって必要な取り組みを尋ねたところ、ICT機器の操作方法を学ぶこと、ICT機器自体のアクセシビリティを高めること等を求める声が多かった。デジタル化の推進の中で、視覚障害者が情報の取得、情報の発信を行うためには「人的支援」「アクセシビリティの確保」「バリアフリー化」「経済的支援」が必要だということが分かる。 p4 一方で、自治体調査も行っており、「障害者ICTサポート総合推進事業」の実施についても調査している。結果は、都道府県レベルでは実施しているものの、政令指定都市や中核市では殆ど実施していないことが分り、身近な地域でサポートを受けたいと望む視覚障害者のニーズに即していないことが判明した。 これらの結果を整理すると、情報取得のためにICT機器等の利用を進めたい視覚障害者は、現状では様々な支援が必要となっているが、自治体等からの地域レベルの支援が受けられないことが課題となっている。特に、この課題は、都市圏よりも地方の方が顕著になっている。また、若い視覚障害者よりも高齢の視覚障害者の方が困難さが高いことも分かっている。視覚障害者の中で情報格差が生まれていることは問題である。 3.視覚障害者が求める支援 ここまでの内容を整理すると、視覚障害者が情報アクセシビリティの向上や自身のコミュニケーションを円滑に行うためには、次の3つがポイントになる。 1 情報の取得は、その者が求める情報の取得方法が選べることが根幹であること 2 視覚障害者に対しては、視覚障害者のニーズに沿ったアクセシビリティの向上や支援等が行われること 3 支援については、視覚障害者の身の回りで実施されること これらのポイントを基に、各府省庁は施策の推進、関係する業界ではその施策に沿った対応を図ってほしい。 p5 V 情報取得等に資する機器の開発や活用に関連したグッドプラクティス事案(企業・業界団体や、行政と連携した事例を含む。) 1.加盟団体向け研修会の開催 開催名 令和4年度第2回全国団体長会議 開催日 令和4年10月7日(金曜日) 13時30分から16時30分まで 開催方法 ハイブリッド方式 参加者 加盟団体の団体長、本連合役員等 約80名 研修会名 「障害者情報アクセシビリティ・コミュニケーション施策推進法」について 講師 厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部企画課自立支援振興室室長補佐 冨原博 様 令和4年5月に「障害者情報アクセシビリティ・コミュニケーション施策推進法」が施行されたことで、本連合の全国の加盟団体より「法律の詳しい内容が知りたい」「法律が施行されたことに伴い、どのような運動を行ったらよいか」といった要望や質問が寄せられた。そこで、同法に関するオンライン研修会を開催することになった。講師は厚生労働省に依頼し、資料を基に詳細な説明をいただき、説明後は参加者との質疑応答を行った。その結果、参加者からは「同法のことを理解した」「地元の自治体へ働きかける際に役立てたい」等の感想が寄せられた。この研修会は、同法の理念を全国の視覚障害者に周知し、行動に移すための好事例と言える。 なお、参加者の更なる理解を深めるため、厚生労働省が使用した資料は、本連合で点字版、拡大文字版、テキスト版を作成し、参加者の希望に沿った資料提供を行った。また、終了後には、当日の研修会の内容を収めた動画(DVD)、音声(CD)を作成し、加盟団体に配布した。 p6 2.パブリックコメントに対する要望 提出日 令和5年5月29日 提出先 内閣府 内閣府を始め各府省庁で実施するパブリックコメントは、検討中の施策の案等に対して様々な国民から意見を募るものとなっている。しかし、近年のパブリックコメントは、「1 インターネット上の意見募集フォームからの入力」「2 郵送」「3 FAX」が主となり、一部の視覚障害者から要望がある「メール」での提出が対象外となるケースが目立っている。 パソコン操作が得意ではない視覚障害者の中には、インターネット上の意見募集フォームからの入力ができない者がいる。そして、これらの者は、視覚障害者にとって操作が比較的簡易な「メール」での意見提出を望んでいる。パブリックコメントは、意見提出を希望する障害者が望む提出方法が用意されるべきである。そのため、国のパブリックコメントが情報アクセシビリティの観点から問題があることから、視覚障害者の意見を取りまとめ、要望書(※2・要望書の全文 http://nichimou.org/all/news/secretariat-news/230530-jimu/)として内閣府に提出した。 要望書を提出した際、対応いただいた自見はなこ政務官からは「視覚障害者のアクセシビリティを確保することは非常に大切なことなので、今後、内閣府が所管するパブリックコメントはメールでの受付を対応します」との回答を頂いた。また、このメールでの受付方法は他省庁でも実施する方向で調整するとの回答も頂いた。その結果、7月に実施した内閣府の「対応要領改定案及び対応指針改定案のパブリックコメント」では、メールでの提出方法が可能となった。 障害者団体が情報アクセシビリティの必要性を整理し、国との対話の結果、情報アクセシビリティの向上を図ることができた好事例と言える。 p7 3.「アイコサポート」による視覚情報の遠隔支援サービス 「アイコサポート」は、SOMPOグループの株式会社プライムアシスタンスが提供している視覚情報提供支援サービスである。日常生活で視覚情報を確認したい時、専用アプリを立ち上げワンクリックするだけで、ビデオ電話を通じて専門のオペレータから周辺の状況を確認できるサービスである。 本連合は、サービス提供に当たり助言や実証実験への協力を行った。2020年よりサービス実施についての助言を行い、2022年より市販サービスとして実施されている。このことにより、視覚障害者のニーズに沿った質の高いサービスが提供されていると考えている。障害当事者団体が民間企業の相談に対応し、提供するサービスにおいて情報アクセシビリティ等の向上が図られた好事例と言える。 なお、同サービスは、午前9時から午後9時の間、1回10分程度、月2時間、スマホ等のカメラを通して遠隔のオペレータが視覚情報を声により提供してくれる。ただし、安全性を考え、移動しながら、あるいは駅のプラットホームでの使用は禁止となっている。個人情報の取扱いには特に注意されており、郵便物や金融関係の書類などにも対応してもらえる。