障害者による情報取得等に資する機器等の開発及び普及の促進並びに質の向上に関する協議の場(第6回)議事概要 p1 1 日時:令和7年10月20日(月)13:30から15:30まで 2 場所:中央合同庁舎8号館823会議室(WEB会議にて開催) 3 出席者:石川座長、浅川委員、阿部委員、門川構成員、黒田構成員、五島構成員、古瀬構成員、嶋本構成員、世木構成員、西構成員、西本構成員、日詰構成員、三宅構成員、森川構成員       (ヒアリング対応者)又村氏((一社)手をつなぐ育成会連合会)、金子氏((株)マイクロブレイン)   出席府省庁:古屋内閣府政策統括官(共生・共助担当)付参事官(障害者施策担当)、大澤内閣府政策統括官(共生・共助担当)付参事官(障害者施策担当)付参事官補佐、坂本デジタル庁戦略組織グループ統括官付参事官補佐、高橋デジタル庁戦略組織グループ統括官付参事官補佐、田邉デジタル庁国民向けサービスグループ統括官付参事官補佐、福井総務省自治行政局選挙部管理課理事官、榎総務省情報流通行政局放送業務課長補佐、池町総務省消防庁国民保護・防災部防災課防災情報室課長補佐、森田総務省大臣官房企画課係長、吉元厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部企画課自立支援振興室長補佐、増田厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部企画課自立支援振興室長補佐、遠藤経済産業省経済産業政策局経済社会政策室室長補佐 4 概要: (1)開会 (2)知的・発達障害に関する取組についてヒアリング 3団体からヒアリングを実施した。 p2 ○(一社)全国手をつなぐ育成会連合会 又村 あおい氏(常務理事兼事務局長)   ◇団体について ・知的障害・発達障害のある当事者やその家族、支援者で構成される障害者団体であり、権利擁護や政策提言を目的として活動。   ◇取組について ・知的障害領域における情報取得支援は、ICT機器に限らず、ソフト面での支援も重要である。 ・代表的な支援機器として以下の例を紹介した。 1. コミュニケーションボード 発語が難しい人の意思表示を支援する。指差し式で、食事場面などで写真を用いて選択できるよう工夫。近年はタブレット端末で代替するケースも増加。 2. パーテーション 作業に集中するため、周囲との過剰なコミュニケーションを減らす器具として活用。知的障害や発達障害のある人は作業スピードが遅く見られることにストレスを感じることもあり、コミュニケーション量の「低減」も支援の一形態と位置づけられる。 3. 時間・スケジュール管理支援 ホワイトボードやタブレットを用い、1日の流れを視覚的に示す。集中力の維持や記憶の補助として有効。支援者が常に同伴できない場面での自立支援に寄与する。   ◇議題・課題について ・字幕表示などの情報提供は聴覚障害分野で進展しているが、知的障害者にとっては「分かりやすい日本語」になっていない。ふりがなの欠如等も課題。 p3 ・情報アクセシビリティ・コミュニケーション施策推進法の理念に基づき、特定の障害種別に限定せず、知的障害者にも活用できるよう改善を進めるべき。 ・知的・発達障害の特性を踏まえたコミュニケーションアセスメントを実施し、結果に応じた合理的配慮や環境調整を行う事例もあることを紹介。タイマー等の機器利用で集中力や生産性が向上した。   ◇まとめ ・知的障害の人にとって、情報取得支援は必ずしも電子的手段に限らない。 ・「分かりやすい情報」「過剰でないコミュニケーション」「適切な環境整備」が必要である。    ○(一社)日本発達障害ネットワーク 日詰 正文(副理事長、事務局長)   ◇団体について ・発達障害者支援法の制定の際に設立された団体であり、発達障害のある本人やその家族、支援者等による全国的なネットワーク組織。理解促進、支援体制の整備、権利擁護や政策提言などに取り組む。   ◇発達障害の特性と支援の必要性   1. 感覚過敏(重症例含む) ・聴覚過敏であれば、大人数の教室、店内放送、災害警報やニュースの音で動けなくなることがある。 →ノイズキャンセリング機器、イヤマフなどを活用し、避難所などで不安を軽減。   2. 学習障害(発達性読み書き障害) ・会話は可能だが、文字の読み書きが困難。 ・文字が重なって見える、反転して見える。 ・書き写す作業や読書で疲労や混乱が生じる。 →文字間に隙間を入れるツール、文字の音声化機器の使用することや、ヘルプマーク等を使い、支援が必要であることを周囲に知らせる p4   3. 注意欠如・多動症(ADHD) ・注意が散漫になりやすく、忘れ物や片付けの困難が多い。 ・その一方で、他者の困難に気づき助けることができる。 →アラームや紛失防止センサーなどのテクノロジーを活用。   ◇取組 ・既存機器や技術を活用して社会の理解を促進。 ・聴覚過敏のある人への避難所での対応を周知(厚労省との協力によるチラシ等)。 ・音量の大きいスポーツ観戦等の場での「センサリールーム」の設置(新国立競技場、秩父宮ラグビー場、夢洲駅(大阪関西万博会場の最寄り駅)など)に関する提案。 ・厚労省・文科省・経産省などと連携し、図書館資料の文字情報音声化を推進と周知に協力。 ・金融機関や役所の書面手続きでヘルプマーク等を活用する場合があることを周知。   ◇まとめ ・発達障害は多様な特性があり、それぞれに応じた支援が必要。 ・技術やツールを活用して、当事者が社会で困難を減らせる環境づくりを進めている。 ・社会理解や制度面での支援も重要であり、団体として情報発信や実践的対応を行っている。 p5 ○株式会社マイクロブレイン 金子 訓隆(取締役)   ◇会社について ・株式会社マイクロブレインは、精神障害や発達障害者向けにタブレット端末等を活用した医療支援ツール「はっするでんたー」を開発・提供。   ◇取組の背景 ・知的・発達障害のある方にとって、歯科治療は治療行為や器具、見慣れない環境、大きな音により、不安やパニックを起こしやすい。 ・従来、安全確保のため全身麻酔や身体拘束(レストレイナー)で対応することがあるが、患者に大きな負担や恐怖・トラウマを与え、治療拒否につながるケースもある。   ◇はっするでんたーの開発 ・iPadで動作するデジタル絵カードシステム「はっするでんたー」を開発。  特徴: ・治療内容や器具を視覚・聴覚で提示して不安や恐怖を軽減 ・496枚の豊富なカードを実装、患者ごとにカスタマイズ可能 ・患者自身がカードを進めることで治療の見通しや主体性を促進   ◇課題・展望 ・発達障害のあるお子さんや保護者が、どの地域でも安心して歯科通院できる環境作りに貢献。 ・医療のバリアフリー化、障害者差別解消法に沿ったインクルーシブな社会の実現を目指す。 ・今後は多言語化対応やさらなる全国展開に取り組む予定。※英語には既に対応。 ○上記の講演の後、下記のとおり意見交換が行われた。   【五島構成員】 ・現状、支援機器を当事者のニーズに沿って開発の相談や活用できる体制や機関は整っているのか。また、県単位くらいでニーズの情報共有や自立支援と適切な活用を促す教育機会を広げることは可能か。 p6  【→金子氏回答】 ・ハッスルデータは生活支援にも応用を広げ、放課後等デイサービスで子どもの1日を視覚的に示すタブレット型アプリを開発中。利用者からの意見を学会で共有し、改良を重ねている。  【→又村氏回答】 ・個々の状況に応じた適切な対応には、正確なアセスメントを行える機関の存在が重要。その上で、情報提供や支援機器活用への助言、さらには実践をブラッシュアップする機能を地域で担える体制が望ましい。   【石川座長】 ・発達障害や知的障害のある人への合理的配慮は、個々の特性の多様性から判断が難しい場合が多い。どのように妥当な配慮を判断・提供していくべきか。  【→日詰氏回答】 ・AIを活用した自己アセスメントが広がっており、当事者自身の情報を蓄積・分析する仕組みの整備が必要と指摘。合理的配慮の申請については、自己申告を支援する方法としてヘルプマークの活用(例えばマークの裏面に提供してほしい配慮を記載)が進んでいる。また、感覚過敏への対応では、学齢期から本人がイヤマフなどを試し、自分に合った方法を体験的に学ぶことが重要。  【→又村氏回答】 ・知的・発達障害分野については、個人の状況や特性によって症状は様々であるため、その場限りの対応において個人に最適化された合理的配慮を提供することは極めて難しいので、まずは反復・継続する関係性のある場(学校、事業所など)では、適切なアセスメントを通じて、合理的配慮を的確に実施する必要がある。 p7 ・一方で、その場限りの対応であっても、不特定多数の場所で合理的配慮を進める工夫を地域で進める必要はある。そのために、障害者差別解消支援地域協議会を活用して事例を収集・共有し、対応を検討する取組も重要。   【黒田構成員】 ・聴覚障害者は耳マークにより合理的配慮が得やすくなった。見た目で分かりにくい知的・発達障害者にも、自己申告できるマークの活用が有効ではないか。  【→日詰氏回答】 ・「聞こえすぎて困る」など独自のマークもあるが、現在はヘルプマークの活用が広く進んでいる。 (3)情報アクセシビリティの向上及び意思疎通支援の充実に係る施策の進捗状況について   デジタル庁、総務省、厚生労働省、経済産業省より令和6年度の施策の進捗状況について報告。 ○デジタル庁   ◇情報提供の充実 ・調達や開発段階でのレビューの実施やガイドラインの整備を行い、ウェブアクセシビリティを向上させる取組を推進。 ・令和4年11月に「デジタル庁デザインシステム」を公開、令和5年5月からウェブ版を提供し、行政職員や事業者向けの研修や勉強会を通じて普及を図り、最新の技術動向や視覚障害当事者の知見を反映した「デジタル社会推進標準ガイドライン」や導入ガイドブックを整備している。 p8   ◇意思疎通支援の充実 ・障害者や高齢者を含めデジタルに不慣れな人への支援を行うデジタル推進委員の活動を継続。令和7年9月時点で約5.8万人が活動。関係団体と連携し、デジタルに不慣れな方が身近な場所でデジタルに関する相談ができる体制の拡充を進めている。 ○総務省   ◇情報提供の充実 ・ICT機器等の研究開発の助成や国立研究開発法人情報通信研究機構を通じた情報通信サービスの利用提供事業者に対する助成を実施。 ・企業の情報アクセシビリティ普及のため、優れた製品を募集・公表する取組を実施。 ・字幕放送・解説放送・手話放送の普及目標値を定めた指針を策定。民間放送事業者の字幕番組等の制作費、生放送番組への字幕付与設備の整備費に対して助成。   ◇意思疎通支援の充実 ・電話リレーサービスに関する周知啓発活動を実施。電話リレー法施行から5年を機に検討会を実施予定。より適切かつ着実なサービス提供等の実現を目指して提供状況等を総括する。   ◇行政情報アクセシビリティの向上 ・防災行政無線の情報の文字表示板・パトライト・文字表示機能付き戸別受信機を地方財政措置で支援。 ・選挙情報について、候補者情報を選管ホームページに掲載すること、音声による選挙情報をきめ細かく提供することなど、障害特性に応じた情報提供を全国の選管へ要請。 p9 ○厚生労働省   ◇障害者自立支援機器の開発促進について ・企業と障害当事者の連携による機器開発に助成(令和6年度採択7件、他省庁連携3件)。 ・ニーズ・シーズマッチング交流会を開催(ウェブ、対面:東京・大阪)で約1.2万回アクセス。   ◇ICT利活用促進 ・都道府県によるICTサポートセンター運営に補助。令和6年度末で36都道府県を含む計60カ所、令和7年度は42都道府県に拡大予定。 ・自治体間で地域格差是正のため、ICT利用支援会議を開催し好事例の共有を行い、その様子を取りまとめた手引き・事例集を作成し周知している。   ◇情報提供の充実 ・読書バリアフリー法に基づく第二期基本計画を策定・公表(令和7年3月)(文科省と共管)。 ・視覚障害者向け電磁音声図書(サピエ図書館)の運営補助を継続。   ◇意思疎通支援の充実 ・手話通訳者、予約筆記者、盲ろう者向け通訳介助員、失語症者向け支援者養成と派遣を地域生活支援事業で実施。 ○経済産業省   ◇情報提供の充実 ・出版業界における、アクセシブルな電子書籍の販売やオーディオブック等の普及促進、環境整備に向けた取組を支援。・アクセシブルな電子書籍の量的拡充と質的向上を進めるため、電子書籍を対象とするガイドブック骨子案を令和6年度に策定。国内外の標準動向調査や関係者の議論を反映し、現実的かつ実効性のある案を作成・公表した。この骨子案を元に、令和7年度中にガイドブックを策定予定。 p10   ◇意思疎通支援の充実 ・意思疎通に困難を抱える人の意思伝達支援のため、絵記号を作成する際の原則を定めるとともに、絵記号の例示を300件程度作成し、令和6年度も継続して電子ファイルを無償提供。   ◇その他普及啓発 ・障害者政策や合理的配慮に関する理解促進のため、事業者等を対象とした研修を実施(約100名参加)。 ・合理的配慮に関する国内企業における実践事例集を取りまとめて公表。 ・所管事業者や業界団体等に向けた説明会・セミナーで周知活動を継続。 ○上記の報告の後、下記のとおり意見交換が行われた。   【三宅構成員】 ・大阪府四条畷市で試験的に導入された電子投票機について、当時は音声ガイド機能を外して導入した経緯があるが、現在はアクセシビリティ機能を含む電子投票機が開発・実装されるように進められているか。 ・デジタル庁には公共調達を所管していると認識しているが、中央省庁がアクセシビリティに配慮した機器や意思疎通支援が容易な機器を導入する際に、より強力なガイドラインを策定できる可能性はあるか。 【⇒総務省】 ・四條畷市で試行された際に音声機能がなかったことは承知。電子投票機の音声読み上げ機能については、従来から事業者に搭載を要請しており、今後も引き続き、事業者への働きかけをしてまいりたい。 p11 【⇒デジタル庁】 ・従来は、サービスデザインやウェブアクセシビリティに関するガイドラインは参考情報的な位置づけだったが、アクセシビリティを含めた「ユーザビリティガイドライン」を政府情報システム整備・管理ルールとして基本遵守すべき文書として発出した。また、作成済みのアクセシビリティに関するガイドブックをガイドライン群に組み込み、府省の情報システム調達において考慮されるよう整備しているところ。デジタル庁として、各府省がアクセシビリティに配慮した調達を進められるよう、継続的に取り組む。   【黒田構成員】 ・電話リレーサービスの普及は進んでいるものの、新機能の「ヨメテル」は登録手順が複雑で利用できるデバイスが限定されている(タブレットは登録不可、スマホも限定的)という課題もある。改善が進めば「ヨメテル」登録者数の増加につながると考えられる。  【⇒総務省】 ・電話リレーサービスの登録手順が煩雑であること、利用できるデバイスが限定されていることに関する課題意識は同サービスの提供機関である(一財)日本財団電話リレーサービスと共有している。具体的な改善策はまだ検討中だが、しっかりと改善を進めていく方針。   【阿部構成員】 ・デジタル庁のデジタル推進員や厚労省のICTサポートセンター事業について、地域で実際にICT機器を活用する際に、サポートが十分に届かないケースがある。厚生労働省のICT利用支援会議でサポートの充実を図る際に、どのような課題があるのか。 p12 ・デジタル庁の取組を全国規模で展開する際に、課題として考えていることはあるのか。  【⇒厚生労働省】 ・ICTサポートセンターやパソコンボランティアの運営は自治体の予算制約や委託先団体の専門性の違いにより対応範囲が限られるが、地域資源を活用して適切な支援にバトンタッチする運用を推奨し、運用手引きや全国会議を通じて重要性の周知と充実を図っている。  【⇒デジタル庁】 ・デジタル推進委員は現在5万8千人任命されており、さらに関係団体と連携し、多様な活動をしていただけるようにデジタル推進委員間の情報共有等を強化して活動の活性化を図ってまいる。   【西構成員】 ・知的障害のある人にとって、新しい機器や取り組みを使いこなすのは難しいため、施設や学校などで具体的な操作方法や周知を行い、個々の能力に合わせた情報提供を行うことや、将来的にはパーソナルアシスタント的なAI開発を行うことが望ましい。   【五島構成員】 ・支援機器は小ロット・多品種で個々のニーズに対応する必要があり、日常生活用具の給付や装具支給だけでなく、各省庁のサービスが連携して利用環境を整備すべき。 ・適切なアセスメントに基づいて、支援機器を活用し、そのうえで利用効果のフィードバック、評価及び情報共有が必要。障害の程度は千差万別であり、正確なアセスメントに基づいた安全な活用や、データ・ソフトの更新・バージョン対応も含めた支援が重要である。 p13   【石川座長】 ・WCAG 2.2(ISO/IEC 40500:2025)が国際標準化されたことを踏まえ、JIS X 8341-3(経産省のウェブアクセシビリティ基準)の改定は速やかに行われるのか確認したい。  【⇒経済産業省】 ・WCAG 2.2(ISO/IEC 40500:2025)の国際標準化を受け、JISX8341-3の改定に向けて、原案作成団体である一般社団法人情報通信ネットワーク産業協会では今年10月末に第1回JIS原案改正委員会を開始し、速やかに改正を行うこととしている。改正は、2026年6月以降となる見込み。   【金子氏】 ・支援機器の開発過程で、使用者からのフィードバックや情報収集を行う際、個人情報の取り扱いが大きな課題となる。民間では個人情報の取得が難しく、信頼できる医師等を通じた情報収集が必要となる場合がある。国が中心となって情報収集や個人情報の管理を行う方が、開発のブラッシュアップや改善に効果的と考えている。  ※構成員ではないが、開発現場の立場から参考意見を述べた。  【⇒五島構成員】 ・個人情報を活用した支援機器開発は重要だが、国がすべてを網羅して一括管理する形は必ずしも最適でなく、開発が鈍化する懸念がある。 ・高齢者施設での認知機能低下者向け機器開発の例のように、幅広い状態や環境にある利用者情報をフィードバック・共有しつつ、プライバシーや個人情報を保護する方法の検討が必要。 p14 ・障害者支援機器も同様、当事者の意向を正しく汲み取れる当事者に近い家族・支援者とのかかわりも重要であり、多様な利用状況や状態に応じた情報活用と保護のバランスが必要と考える。 (4)閉会