p1  資料5 令和 2年 10月 23日 障害者差別解消法見直しに係るご意見 公益社団法人日本精神科病院協会 常務理事 櫻木 章司 日本精神科病院協会は、昭和24年国民の精神保健の向上と精神疾患を持つ人への適切な医療・福祉の提供、精神障害者の人権の擁護と社会復帰を図ることを目的として設立された。平成24年4月には公益社団法人に移行し、以来「精神保健医療福祉に関する調査研究及び資料収集」「精神保健医療福祉従事者の人材育成及び教育研修」「精神保健医療福祉に関する普及及び啓発」を三つの柱とした活動を積極的に行っている。 〇合理的配慮の義務化について、どのように考えているか。 日本が2007年に条約署名した障害者権利条約においては、その第2条において、「合理的配慮」について、障害者の人権と基本的自由を確保するための「必要かつ適当な変更及び調整」であって、「均衡を失した又は過度の負担を課さないもの」と定義している。つまり、障害者が困ることをなくしていくために、周囲の人や事業者がすべき無理のない配慮のことである、と解することができる。さらに、障害に基づく差別には「合理的配慮の否定」が含まれるとしている。 もちろん、こうした内容に対しては、当然のこととして同意する。ただし、「均衡を失した又は過度の負担を課さないもの」の検討については、十分な議論や慎重な検証がなされたたはいえない側面もあるのではないか。 ことに精神障害においては、身体障害、運動器の障害ないしは感覚器の障害の場合のように、必要とされる「変更及び調整」が必ずしも明確とはならない可能性がある。 〇業界で、障害者への対応(雇用関係を除く)において具体的に困っていること、これまでに困ったことはあるか。  病状が安定して退院可能となった精神障害者が、地域生活を送るうえで、住ま p2 いの確保は基本的事柄である。家族、特に両親が既に亡くなっていたり、高齢化したケースでは、単身生活を送ることが多くなっている。その場合、公的住宅を申し込む単身生活者には制限が加わっているケースが多い。また、複数名の保証人を要求されるケースも多いと聞く。民間アパートでも、同様に保証人の確保が困難なケースが多い。公的保証人の制度が整備されている地域は未だ少ないのが実状である。  〇合理的配慮について、どのような取り組みをされてきたか。   精神障害者が、退院後に地域生活を送ることができるために、日本精神科病院協会会員病院では、地域の中にグループホーム、福祉ホーム、自立訓練施設等の居住系の施設を立地する取り組みを続けている。しかし残念ながら、それらの決して少なくないケースにおいて、地域住民の反対運動によって、計画の中断、変更を余儀なくされている。毎日新聞電子版の記事(2019年12月22日)によれば、過去5年間に少なくとも全国21都府県で計68件起きていたとしている。さらに、反対運動が起きても民間精神科病院等の施設を運営する事業者に任せ、県や自治体などが対応しなかったケースが32件あったとしている。また、神奈川新聞電子版(2020年10月14日)が報じた横浜市のケースでは、精神障害者らのグループホームに近隣住民が反対するのは差別にあたるとして、事業者や入居予定の家族が、紛争を解決するための相談対応とあっせんを市に申し立てたとの報道がなされている。障害者差別解消法では、第14条において国や自治体に、障害がある人や関係者から差別に関する相談に応じ、紛争や解決のために必要な体制を整備するよう求めており、横浜市ではこれに基づき、条例で具体的な手続きを定めているとのことである。日本精神科病院協会でも、会員病院からの相談が寄せられるケースもあるが、有効な手立てが打てないのが実状である。  以上