2020年10月26日 障害者差別解消法の見直し検討におけるヒアリング資料 NPO法人筋痛性脳脊髄炎の会 理事長 篠原 三恵子 p1 筋痛性脳脊髄炎、慢性疲労症候群(ME、CFS)は、脳と中枢神経に影響を及ぼす慢性疾患で、2014年の厚生労働省の患者の実態調査で、約3割が寝たきりに近く、ほとんどが職を失うという深刻な実態が明らかになりました。 ME、CFSは客観的診断基準が確立しておらず、一般の検査では異常がないため、精神的なものイコール怠けていると思われ、診断まで何年もかかる方がほとんどです。この病気の中核症状は労作後の消耗と呼ばれ、ほんの短い間動いたあとでも、急激に症状が悪化し何日も寝たきりになることが多く、他の方は寝たきりの状態を見ることがないため、「怠けている」という誤解や差別を生む傾向があります。 その上、WHOで神経系疾患と分類されている難病であるにも関わらず、日本では一部の医師が、認知行動療法や段階的運動療法などによって症状が改善するという事実と異なった情報を長年にわたって流しています。医師の情報だけに誤解を解くことが難しく、重症患者でも身体障害者手帳取得が困難で、障害者総合支援法の対象疾患にもなっていません。 こうした誤った認識が社会的な理解に影響し、他の人と平等に社会参加する権利、必要な介護を受ける権利、外出する権利、選挙権を行使する権利、教育を受ける権利、医療を受ける権利、就労する権利等を保障する合理的配慮がほとんど提供されていません。 厚労省から出された「医療関係事業者向けガイドライン」では、「不当な差別的取扱いと考えられる例」として、「わずらわしそうな態度や、患者を傷つけるような言葉をかけること」があげられています。ところが、患者達はしばしば「詐病」とみなされ、医療関係者からも患者の尊厳を踏みにじるような差別的な処遇を受け、全く医学的に関係がない精神科に回されるケースも多く見られます。 私達は、世界的な常識となっている「ME、CFSは神経系疾患である」ことを10年近く厚労省に訴えていますが、2019年2月の国会議員へのレクチャー資料に、病気の症状として、「抑うつ」「気分障害」「不安障害」「身体表現性障害」など、精神科的な疾患を思わせる記載があったことを確認しています。 実例1 10歳頃発症で病歴約30年。15年以上前にME、CFSと診断されたにも関わらず、両親のみならず行政(市)からも怠けていると思われ、身体障害者手帳を取得できないため何のサポートも得られず、寝たきりに近い状態で一人暮らし。3週間ほど前にスポーツドリンクだけで命をつないでいると、当会に電話で相談が入った。 p2 実例2 出産後にME/CFSを発症し、数年後にはおむつが必要なほど重症化したが、一般の検査で異常がないため、治療のためと称して精神病院に入院させられた。配偶者や両親が引き取りを拒むため、入院が数年に及んでいるという相談があった。 この病気はウィルス感染に引き続いて発症することが知られ、COVID-19がME、CFSの引き金になると多くの専門家は警告しており、当法人はアンケート調査でCOVID-19後にME、CFSを発症した方を確認しました。日本でも約1万人規模で新たなME/CFS患者が生まれる可能性が危惧されますが、COVID-19患者に対する風評被害は大きく、PCR検査を受けられずに後遺症に苦しむ人々が差別的な扱いを受けています。 要望 1. 障害者総合支援法の福祉サービスの対象疾患には客観的診断基準が確立していること等が求められ、ME、CFSなどの多くの難治性疾患が除外されています。疾患によって日常生活や社会生活に相当な制限を受けているのに、病名により除外される難治性疾患があることは、「行政機関において不当な差別的取扱いをすることにより、障害者の権利利益を侵害してはならない」としたことと矛盾します。福祉サービスの対象を病名ではなく、生活の困難さに応じて支援する仕組みに変え、慢性疾患によって困窮する全ての人に必要で合理的な配慮が提供されるようにして下さい。 2. 病気による内部障害は外からは見えないために、障害を理解されることが困難で、詐病の扱いを受けてきた疾患もあります。難治性疾患を抱える障害者も障害者差別解消法の対象であることを、当事者や国民に広く周知し、難病者が合理的配慮を求めやすくなるような環境整備をして下さい。また、各行政機関及び事業者等において、支援者となるべき職員が、疾患を抱える障害者の特性を理解するために、担当者による研修を必須として下さい。 3. 医療関係者や行政によって疾患についての間違った情報が長年にわたって広められ、それによって必要な合理的配慮が受けられない状況が続いていることに関して、障害者差別解消法によって解決できる道を示して下さい。 4. COVID-19罹患後の病態を理解する上でME/CFSの正しい理解は必要であり、COVID-19患者や後遺症に苦しむ患者が差別的な扱いを受けないよう、後遺症の追跡調査や研究を行い、正しい認知を広めるための啓発活動を行って下さい。