資料8 2020年10月28日 障害者政策委員会資料 障害者差別解消法改正に関する意見書 日本弱視者ネットワーク代表 白井 夕子 1.民間企業の合理的配慮の義務化の必要性 障害者差別解消法で、民間企業の合理的な配慮の提供は、義務化すべきと考えます。理由は2つあります。 第1の理由は、私たちの生活は国や地方自治体の行政サービスだけでは成り立っておらず、日常生活を安全かつスムースに、文化的でより心豊かな人生を送るためには、民間企業による障害者への調整や配慮が必要不可欠であるということです。大学教育を例にとっても、国公立大学の合理的配慮は義務規定、私立大学は努力義務となっており、本来どこの大学に進学しても保障されるべき教育を受ける権利や法の下の平等について、法的に格差が生じています。障害児の進路を決める試験においても国や自治体が実施する入学試験や就職試験における配慮は義務ですが、民間が主催する入学試験や資格試験、検定試験は合理的配慮が努力義務ということです。 最近、「自助、公助、共助」ということも言われています。アメリカでは、ADAやリハビリテーション法によって、差別が禁止されていますので、例えば民間企業から市販されているスマートフォンにもアクセシビリティ機能が標準装備されたと言われています。 障害の有無に関わらず、だれもが分け隔てられない共生社会を目指す上で、障害者への配慮は国も自治体も民間企業も同列にし、日本がこれから目指すべき社会像を差別解消法の中でも明確にすべきだと考えます。 第2に他の法律や条例との整合性を考えなければならないということです。障害者雇用促進法では、雇用における民間企業の合理的配慮は義務規定になっています。しかし、人生の中で重要な場面は、雇用だけでなく、育児、教育、移動、情報保障、余暇、介護など様々な場面があります。また、いくつかの自治体では既に義務規定となっていますが、自治体ごとにばらつきがあるのも本来おかしなことです。 2.環境整備と合理的配慮の関係 第5条で環境整備の努力義務が定められていますが、よりスムースにユニバーサルな社会を実現するには、環境整備こそ義務化すべきと考えます。個人への合理的配慮を根拠に国や自治体、民間企業に配慮を申し出たとしても、「1人のためにそこまでできない」とか、「過重な負担」と言われてしまいかねません。その前に多くの障害者が共通に必要とするバリアフリー的な環境整備が標準的に進められていれば、ほとんどの場合、十分に使いやすいものになるでしょうし、個別の調整が必要だとしてもそれは比較的容易な調整で済むと考えられます。例えばハード面で考えると、点字ブロック、スロープ、エレベータなどは相当なコストを要します。1人の障害者が合理的配慮を根拠にそれをお願いしたとしても実現するのはかなり難しいのではと推察します。しかし、その後に2人目3人目の来訪者があるかもしれませんし、そもそもアクセスが不可能ということで、諦めている障害者も潜在しているかもしれません。ソフト面では、紙面上の活字を読むことが難しい視覚障害者やディスレクシアと呼ばれる発達障害者、ページをめくることが困難な寝たきりや上肢障害者にとって紙をそのまま渡されても自力でスムースに読むことはできません。点字や拡大版、音声を用意するのは難しいにしてもアクセシブルな電子データさえ準備していただければ障害者本人でも点訳や拡大、スクリーンリーダーによる読み上げも可能な時代になっています。つまり、プレインテキストをベースにした「One Source, Multi Use」ということです。これらの整備や調整は一朝一夕には難しいと思いますが、日本社会の将来目指すべき方向が法制度上示されていれば大規模改修や資料作成時に意識していってもらえるようになると考えます。 3.差別の定義の明文化 障害者への差別とは、障害を理由とした不当な取り扱いと合理的な配慮の不提供ということですが、これが差別解消法では明確になっていません。第2条に加筆していただけますようお願い致します。 4.障害を理由とする差別に関する紛争の防止又は解決に関する仕組みの明確化と周知 自治体ごとに障害を理由とする差別に関する紛争の防止又は解決の仕組みや機関が設けられていますが、「どこに相談したらよいのか分からない。」「そういう機関があるのを知らなかった。」という声を時々耳にします。機関名を統一する、ポータルサイトを作るなど、より一層分かりやすくしていただき、周知に努めていただけますようお願い致します。