p1 資料11−2 事業者による合理的配慮について ・事業者による合理的配慮の提供は努力義務とされているが、その義務化を含め、事業者の取組を促すための方策について、どう考えるか。 (1)現状 1 障害者権利条約では、第2条において「障害に基づく差別」には合理的配慮の否定を含むとされており、第5条において障害に基づくあらゆる差別が禁止されている。 2 これを踏まえ、障害者基本法においては、社会的障壁の除去を必要としている障害者が現に存し、かつ、その実施に伴う負担が過重でないときは、必要かつ合理的な配慮がされなければならない旨が規定されている。 3 障害者差別解消法は、上記条約を踏まえつつ、障害者基本法の差別の禁止の基本原則を具体化するものであり、事業分野を特定せず、包括的に事業者に対して障害者に対する合理的配慮を求めるものとされている。その制定時には、障害者と事業者との関係は事業分野ごとに様々であり、求められる配慮も多種多様であることから、本法においては、事業者の合理的配慮は努力義務とされたところ。 4 また、同法の附則第3条(施行3年経過後の検討規定)においては、第8条第2項に規定する社会的障壁の除去の実施についての必要かつ合理的な配慮(事業者の合理的配慮)の在り方その他この法律の施行の状況について検討を加え、必要があると認めるときは、その結果に応じて所要の見直しを行うこととされている。 5 なお、雇用分野については、障害者の自立や社会参加にとって極めて重要な分野であり、労働者と事業主とは雇用契約における継続的な関係にあることなどを踏まえて、障害者雇用促進法において、事業主等の合理的配慮は義務とされている。 6 これまで、障害者差別解消法に基づく基本方針、主務大臣による対応指針を定め、合理的配慮の考え方や事例を示すとともに、事業者の合理的配慮の提供事例を国の行政機関(内閣府、関係省庁)及び地方公共団体において集積し、事例集などにより周知・提供しているところ。 7 17の地方公共団体(平成30年4月1日時点)においてはいわゆる「上乗せ条例」を制定し、事業者に合理的配慮の提供を義務付けている。東京都においても、2020年東京パラリンピック競技大会を見据え、事業者への合理的配慮の提供を義務付ける条例が平成30年10月1日に施行された。 8 このほか、2020年東京パラリンピック競技大会の開催を通じて、障害の有無等にかかわらず、誰もが相互に人格と個性を尊重し支え合う「心のバリアフリー」の推進により、共生社 p2 会の実現につなげるため、「ユニバーサルデザイン2020行動計画」が策定されている。同計画の中では、経済界等と連携して「心のバリアフリー」の取組を進めることや、障害のある人自身やその家族も「障害の社会モデル」を理解し、社会的障壁を解消するための方法等を相手にわかりやすく伝えることができるコミュニケーションスキルを身に付けることの重要性などが盛り込まれている。 9 さらに、「持続可能な開発目標(SDGs)」の理念を踏まえ、「誰一人とり残さない」包摂的で持続可能な社会の実現に向け、企業においても自主的な取組が進められているところ。 (2)主な意見 <義務の在り方> 1 現行法では、事業者の合理的配慮の提供は努力義務とされているが、障害者権利条約との関係で不十分ではないか。現行法の制定時も「小さく生んで大きく育てる」ことを念頭に置いていたのではないか。 2 事業者の合理的配慮の提供を努力義務としているが、障害者権利条約との整合性がとれていないのではないか。障害者権利委員会の事前質問事項に、合理的配慮の否定を私的及び公共の場所における障害に基づく差別の形態として認めているのか明確に説明いただきたいとあり、これも踏まえた議論が必要。 3 事業者による合理的配慮の提供については努力義務を前提とするのではなく、論点として、法的義務化も含めた形でしっかりと議論するという表現にすべき。 4 地方公共団体への調査結果において、事業者の合理的配慮の提供を義務化すると、事業者の反発を招くこと等が危惧される旨の回答が見られたが、そうした危惧から義務付けを後退させるのではなく、むしろ義務付けの上で様々な問題やケースについて議論を重ねて、より良いものにすべきではないか。 5 民間の合理的配慮の義務化についていけていない自治体があるから、むしろ国の法律で義務化をしていくのが有効ではないか。 6 事業者の合理的配慮が努力義務のままでいいのかは論点であり、既に義務が課されている条例等の実際の運用を基に議論すべきではないか。 7 一回限りのイベントの開催については、合理的配慮の提供の努力義務の対象となる「事業」に該当するかどうか微妙であり、運用だけでは対応できない事項ではないか。 8 地方公営企業などの公的機関も一部事業者として努力義務に入っているが、義務化について検討すべきではないか。 9 合理的配慮は「理にかなった工夫の積み重ね」である。ハード面を整備するだけではなく、ある時点、場所、人間関係の中で何かできるか話合いを続けることを義務化していくという p3 ことではないか。 10 合理的配慮の提供が広がれば、障害者のみならず、生きづらさを抱える多くの方々に良い影響が及び、優しい社会、生きやすい社会にする上でのイノベーションを起こせるのではないか。 11 SDGsの理念を踏まえて企業が自主的な取組を進める中で、一律に事業者による合理的配慮の提供を義務化することについては、中小・地方も含む全ての事業者や業界団体など、幅広いステークホルダーの意見を聴いて、慎重にその妥当性を検討すべき。 12 定義や範囲の特定が難しい合理的配慮の提供を義務化することは、かえって事業者の心理的なバリアや対応を硬直的にし、それぞれの場面における建設的な対話や柔軟な対応を阻害するリスクもある。 13 仮に義務化する場合は、合理的配慮の定義や範囲、過度な負担と認められる事項等を明らかにし、国があらゆる業種・規模の事業者に各地で周知徹底する期間を設け、段階的に導入する、条例で義務化している自治体が直面する課題を収集・整理し対応を公表する、具体的な成功事例を地域協議会で公表するなどが必要。 14 合理的配慮の提供は多様で個別的であり、ガイドラインや具体例のみを頼りに、一律にその内容を定めるのは難しい。事業の業態、規模、対応能力等は事業者により大きく異なるため、合理的配慮の提供についてある程度の柔軟性がないと、事業者には過重な負担となり、現場に混乱が生じる恐れがある。 15 法規制としては一般的・抽象的なものや努力義務とし、実際の運営に当たっては、ガイドライン等を参考にしながら事案毎の当事者間の対話による対応に委ねることが、相互理解につながるのではないか。 16 一旦係争となれば、当事者双方に大変大きな時間的・費用的負担を与えることとなる。今後も努力義務の中で対話や自主的な解決を尊重し、双方に大きな負担となることのないよう取り組んでいくことが重要。 17 障害者雇用における合理的配慮の義務化後、調整委員会にそんなに件数が上がらなかった理由は、合理的配慮の中身は今まで企業が当然にやってきていたため。義務化ではなく、実務上の実績の積み重ねが、合理的配慮を動かしていくのではないか。 <事業者への影響・建設的対話> 18 仮に事業者の合理的配慮の提供を義務化し、斡旋等の紛争解決の手続を整備しても、事業者側の同意がなければ、行政が事業者側に合理的配慮の提供を強制することは困難と考えられる。こうした限界を踏まえると、事業者の合理的配慮の提供を義務化した場合に、実際の違いがどれだけ出てくるのか。 19 企業の心配として、障害者と企業あるいは障害のない者があまり良い雰囲気にならないということが多かったのかもしれないが、より具体的に、例えば企業活動に影響がある、企業 p4 として生産性を上げるのに困難があるなどの情報が必要ではないか。 20 仮に合理的配慮を義務化しても、紛争解決のプロセスにおいては、当事者の建設的対話が原則。合理的配慮の内容は、障害特性、事業所の規模、事業内容、個別事情が関わるため、紛争解決プロセスの中で、話し合って柔軟にその場で決めていくものであり、義務化が建設的対話を通じた柔軟な対応を阻害するという心配は不要ではないか。 ・合理的配慮の義務化は必要だが、十分ではない。義務化した自治体での取組の有無による違いについて情報が欲しい。義務化で障害者の権利を守る一方、過度な負担を求められて困ってしまう企業を守るため、国及び自治体が調整、紛争解決、相談の仕組みを機能させることが必要。それで事業者の受けとめ方は違ってくるのでは。 ・合理的配慮においては、障害によって困ること、不便なことを、当事者自身が伝えるコミュニケーション力をしっかり持つことが大事。具体的に自分にとって困ること、不便なことを伝える力があれば、それを受けとめることも可能ではないか。 ・差別解消法では、建設的対話が重要。企業も障害者も、対話経験を通じて、お互いをリスペクトし合えるようになっていく。 (3)検討の方向性(案) 1 障害者権利条約の合理的配慮を求める趣旨からは、障害者差別解消法において、事業者も含めて合理的配慮の提供を義務化することがより整合的であるとの指摘がある。 2 また、これまで、障害者差別解消法に基づく基本方針等を定め、合理的配慮の考え方やその参考となる事例を示すとともに、国の行政機関(内閣府、関係省庁)及び地方公共団体において事業者の合理的配慮の提供事例を集積し、事例集などにより周知・提供を行っている。さらには、一部の地方公共団体では、条例により事業者の合理的配慮の提供を義務化しているなど、障害者差別解消に係る制度の趣旨については、一定の定着が図られてきている。 3 さらに、2020年東京パラリンピック競技大会を契機として、障害の有無にかかわらず、誰もが相互に人格と個性を尊重し支え合う「心のバリアフリー」等を推進し、共生社会の実現を大会のレガシーとすべく、「ユニバーサルデザイン2020行動計画」に基づき、「心のバリアフリー」に係る各種取組等が進められているところであり、共生社会の実現に向けた社会的な機運が高まっている。 4 このため、事業者の合理的配慮について現行の努力義務と同様の枠組みを維持しつつ、一定の周知期間を設けた上で、行政機関等と同じく、その実施を義務化することを考えてはどうか。 5 加えて、合理的配慮は、事業者側から一方的に行われるものではなく、双方の建設的対話による相互理解を通じて実施されるべきものであり、事業者のみならず障害者側も含め、そ p5 の点に十分留意することが必要である。このため、建設的対話や、障害者等が社会的障壁を解消するための方法等を伝えるコミュニケーションスキルを身に着けることの重要性をより明確にし、事業者・障害者ともに理解を醸成していくことが必要ではないか。 6 なお、合理的配慮の提供の内容は個別の事案に応じた多様かつ個別性が高いものであるため、その実施を促す観点からは、障害者のみならず事業者からの相談に適切に応じることができる体制も重要であり、相談・紛争解決体制の整備や各地域における関係機関の連携の在り方について、併せて議論していくことが適切である。