p1 資料6-1 相談・紛争解決の体制整備について ・個別事例の把握に資するとともに、障害を理由とする差別の解消を効果的に推進するための相談・紛争解決体制の在り方について、どう考えるか。 (1)現状 1 行政機関における相談・紛争防止等の体制 ・障害者差別解消法(以下「法」)第14条において、国及び地方公共団体は、障害者及びその家族その他の関係者からの相談に的確に応ずるとともに、紛争の防止又は解決が図ることができるよう必要な体制の整備を図ることとしている。その際、行政の肥大化を防止する等の観点から、新たな機関は設置せず、既存の機関等の活用・充実を図るとしている。 ※国における相談体制としては、事業者の事業を所管する各行政機関が定める相談窓口や国民からの相談や紛争解決に対応する機関がある。 ※地方公共団体における相談体制としては、約半数の地方公共団体でワンストップ相談窓口を設置している。障害者差別に関する相談員は、都道府県では約6割が市町村等では約1割が配置している。(平成30年4月1日時点) ・また、身近な地域において、それぞれの地域の特性を踏まえた主体的な取組が推進されることが必要であることから、地域において相談や紛争の防止・解決を推進するためのネットワークを構築する観点から、国や地方公共団体の機関が地域協議会を組織することができることとしている。 ・一部の都道府県等においては、独自の相談・紛争解決体制を構築している。都道府県と管内市町村など他機関との役割分担を定めており、市町村の相談機関における相談事案の解決を支援し、また相談機関では解決が困難な広域的・専門的な相談事案を取り扱う相談員等を配置し、管内市町村に対する情報の提供、助言等の支援を実施する体制を整備している。 ※例えば大阪府では、条例に基づき広域支援相談員を置き、市町村の相談機関における相談事案の解決の支援や、相談機関では解決が困難な広域的・専門的な相談事案を取り扱うこととされている。 ・法第12条において、主務大臣は、第8条(事業者における障害を理由とする差別の禁止)の施行に関し、特に必要があると認めるときは、対応指針に定める事項について、事業者に対し、報告を求め、又は助言、指導若しくは勧告をすることができるとされている。 ・このほか、47の地方公共団体(平成30年4月1日時点)において、条例により独自に報告徴収、助言、指導、勧告、あっせん、公表等の権限を有している。 p2 2紛争防止に資する事前的改善措置等 ・法第5条においては、社会的障壁の除去の実施についての必要かつ合理的な配慮に関する環境の整備として、行政機関等及び事業者は、社会的障壁の除去の実施についての必要かつ合理的な配慮を的確に行うため、自ら設置する施設の構造の改善及び設備の整備、関係職員に対する研修その他の必要な環境の整備に努めなければならないとされている。 ・障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本方針(以下「基本方針」)においては、合理的配慮を必要とする障害者が多数見込まれる場合や、障害者との関係性が長期にわたる場合等には、その都度の合理的配慮の提供ではなく、環境整備(事前的改善措置)を考慮に入れることにより、中・長期的なコストの削減・効率化につながるとしている。 ・この環境整備には、ハード面の対応のみならず、職員に対する研修等のソフト面の対応も含まれ、具体的には、施設等のバリアフリー化、意思表示等の支援のためのサービス・介助者等の人的支援、障害者の情報取得等のための情報アクセシビリティの向上、職員に対する研修などが該当する。 ・障害者権利委員会の平等及び無差別に関する一般的意見第6号では、差別を受けた場合の救済措置として、そもそもの対立構造を解消する形で権利実現を図るため、差別の構造的要因を克服するための金銭によらない体系的或いは実質的救済である「将来志向非金銭的救済(FNR)」を掲げており、事業者の内部規則の改定等が当該救済として行われている例がある。 (2)主な意見 <相談・紛争解決全般> ・法第14条は相談・紛争解決の体制整備を求めているが、具体的な内容は明記されていないため、改めて法律や指針の整備なのか、先駆的な取組を周知するのかなど整理が必要ではないか。 ・より一層の事例収集を進め、広く事業者、障害者、一般市民に分かりやすい形で情報を発信し、他の地域においても生かしていくことで、双方に納得感のある効果的な紛争解決・相談体制の整備につながっていくのではないか。 <相談体制> ・相談件数が少ない地方公共団体が多いのではないか。これでは、法が十分に機能しているとは言えないのではないか。 ・相談件数を数えていない地方公共団体が多いが、これでは法の運用実態が分からなくなり、問題ではないか。 ・地域協議会が設置されていないこと、十分に機能していないことと、相談件数が少 p3 ないことは、相互に関係しているのではないか。 ・日常生活や社会生活を送りながら、差別を受けたことについて相談や紛争解決に訴えることができない障害者やその家族も多いのではないか。 ・障害種別、男女別、年齢別等により届きにくい声をどのように拾い上げ、問題を解決していくか検討が重要ではないか。 ・現状では相談しても十分な解決につながっていないケースがあり、対応策を検討する必要があるのではないか。 <地方公共団体の役割> ・地域間で取組に随分大きな格差ができていることは課題。また、広域自治体も町村も、同じ「地方公共団体」として位置付けられているが、求められる水準は両者で全く異なり、広域自治体と基礎自治体の関係性も論点になるのではないか。 ・地方公共団体への調査結果をみると、国民に最も身近な市町村の対応が薄いのではないか。 ・地方公共団体の中で縦割りで対応するのではなく、他の制度・部署との情報共有や連携が重要ではないか。 ・広域自治体と基礎自治体は対等な位置付けにあり、広域自治体が基礎自治体に対して協力を求める内容を条例に規定しようとしても、踏み込んだ内容を盛り込めないので、この点も法の見直しの議論の中で検討すべきではないか。 <事業者の相談対応> ・障害者の権利を守るのと同時に、過度な負担を求められて困ってしまう企業を守るため、調整や紛争解決や相談の仕組みをきちんと機能させることを、国及び自治体はしなければいけないのではないか。 ・米国では、ADAセンターが各地にあり、事業者の相談対応をしている。その仕組みも併せて検討していく必要があるのではないか。 ・事業者としては、障害者と事業者の話し合いがうまくいかずに係争に発展した場合、相談できる体制の機能強化があると心強い。地方公共団体において問題解決に効果を上げている事例や、地域協議会に寄せられたいろいろな案件を具体的にどのように解決したか共有されると、双方に望ましい体制ができるのではないか。 <広域的・専門的な支援> ・潜在化している差別事例を掘り起こすことが重要。そうした対応が可能な人材を育成するとともに、端緒をつかんでいる相談支援専門員や関係団体が地域協議会に関わっていく必要があるのではないか。 ・広域支援相談員を普遍的な専門職として確立するため、全国レベルで研修制度を設けるなど、養成の仕組みを整備すべきではないか。 ・都道府県や市町村において、合理的配慮について相談する機関を置く必要があるの p4 ではないか。また、例えば経済団体などでも、対話のバックアップをする仕組みを置けば、より建設的な対話がしやすくなるのではないか。 <紛争解決・権限行使の在り方> ・紛争解決の在り方を地方公共団体に引き続き委ねるのか、何らかの措置を講ずるのかについて、今後十分な議論が必要ではないか。ある程度国もイニシアティブを取って、標準化していくことが必要ではないか。 ・事案解決の実効性を確保するためには、ワンストップ相談や権限の付与、適切な権限の行使など、様々な選択肢を洗い出しつつ、法の見直しが必要な事項を見極めていく必要があるのではないか。 ・権限行使の在り方の検討に当たっては、地方公共団体が有する独自の権限の状況が参考になるのではないか。 ・権限の委任の状況が当事者に分からないため、適切な機関への相談が難しく、工夫・改善が必要ではないか。 ・紛争がないから良いと一概に言えるものではなく、紛争を地域協議会で議論することを通じて、地域の対応力の底上げにつながるという面もあるのではないか。 ・仮に事業者の合理的配慮の提供を義務化し、斡旋等の紛争解決の手続を整備しても、事業者側の同意がなければ、行政として事業者側に合理的配慮の提供を強制することは困難と考えられる。こうした限界を踏まえると、事業者の合理的配慮の提供を義務化した場合でも、実際の違いがどれだけ出てくるのか。 <将来の紛争防止> ・障害者差別を受けた場合の救済措置についても、もう少し踏み込むことができないか検討すべきではないか。 ・相談事例のうち、個別の解決で済むものと、より広範囲で根本的な対策が必要となる事例を整理する必要があるのではないか。 ・現行法の下では、法の趣旨に反する規則の改正などを業界に働きかけることはできても徹底はできないのではないか。主務大臣のない事業や行政指導になじまない性質の事業もあり、その事業者に対しては、監督上の措置を講じることが難しいのではないか。 ・不当な差別的取扱いや合理的配慮の義務違反に当たるような企業のマニュアルや規則について、業界団体や地方公共団体を通じて周知し是正することができれば、予防的に今後生じる事例を解決できるのではないか。 ・差別事案の背景に内規やマニュアル、従業員教育等があることが判明すれば、それらを点検することで、差別事案の発生を事前に防止できるのではないか。 ・調整やあっせん、調停の仕組みを活用することにより、将来志向非金銭的救済が部分的に図られる、または図られる可能性があるのではないか。 p5 (3)検討の方向性(案) 1地域における相談・紛争解決体制の見直し ・障害者差別に関する相談・紛争解決体制については、既存の機関等の機能の充実や効果的な連携など、地域の実情に応じてそれらの機関等の活用を図ることを基本に検討してはどうか。 ・また、障害者差別の解消においては、双方の建設的対話による相互理解を通じた解決が重要であるとともに、事例収集にも資することから、相談体制の充実を検討してはどうか。 ・その一環として、各行政機関における取組を効果的に行うため、国・都道府県・市町村の役割分担について整理を図り、それぞれの基本的な役割を示すことを検討してはどうか。 例えば、既に実施されている地方公共団体での取組等を踏まえ、市町村は最も身近な相談窓口を担うこと、都道府県は広域的な事案や専門性が求められる事案の解決、市町村への情報提供や技術的助言等の支援を行うこと、また、国は市町村や都道府県の関係機関と連携しつつ、重層的な相談体制の一翼を担うことなど、基本的な役割の明確化を検討してはどうか。 ・相談体制については、法律上明記されている障害者やその家族等の関係者からの相談に加えて、事業者からの相談についても対象として明確化することを検討してはどうか。 ・また、都道府県による広域的・専門的な支援として、一部の都道府県で既に配置されている広域支援相談員等について、地域の実情に応じた配置を促すことも検討してはどうか。 ・加えて、国の機関と地方公共団体との連携の在り方についても検討してはどうか。例えば、幅広く人権相談に関する専門的な知見を有する法務省の人権擁護機関が、地域協議会に積極的に参画することを促すこと等により、地域における相談体制の充実化を図ることなどを検討してはどうか。 ・相談対応による解決が困難となった障害者差別に関する事案をより円滑かつ効果的に解決できるよう、地方公共団体と、人権侵犯事件の調査救済を実施している法務省の人権擁護機関等の機関や障害者差別解消法に基づき事業者による障害を理由とする差別的取扱い等についての報告徴収や助言、指導、勧告を行う権限を有する主務大臣との連携について整理することなどを検討してはどうか。 2相談対応等を契機とした事前的改善措置の促進 ・差別的取扱い等に関する相談対応や各事業者での対応等を契機に、事業者の内部規則やマニュアルの改正といった、不特定多数の障害者を対象とした「事前的改善措置」 p6 である環境整備を図ることは、相談・紛争の事案を事前に防止することに有効であると考えられる。 このため、特に幅広い事業者等における取組が期待される、相談対応等を契機とした事業者の内部規則見直し等のソフト面の環境整備について、その重要性の明確化を図り、そうした取組を促すための方策を検討してはどうか。