資料3−2 p1 「障害」の表記に関する国語分科会の考え方(令和3年3月12日文化審議会国語分科会) 文化審議会国語分科会は、衆議院文部科学委員会決議(平成30年5月30日)及び参議院文教科学委員会附帯決議(平成30年6月12日)が、「障害」の代わりに「障碍」と表記することについて、「政府は、「心のバリアフリー」を推進し、スポーツへの障害者の参加の更なる促進を通じた共生社会の実現を図るため、「障害」の「害」の表記について、障害者の選択に資する観点から(注:参議院文教委員会においては「障害者の意向を踏まえて」)、「碍」の字の常用漢字表への追加の可否を含め、所要の検討を行うべきである」としたことを踏まえ、このうち当分科会が関わる「「碍」の字の常用漢字表への追加の可否」について審議してきた。 まず、平成30年11月22日に「「障害」の表記に関するこれまでの考え方(国語分科会確認事項)」を示し、現行の常用漢字表の性格が地方公共団体や民間の組織において、表にない「いしへん」の「碍(礙がい)」(注:「碍」は「礙」の俗字)を用いて表記すること等を妨げるものではなく、それぞれの考え方に基づいた表記を用いることが可能であることを確認した。その後も、国語施策からの観点を中心に、審議を重ねてきたところである。 以下、これまでの検討内容について、大きく二つの観点からまとめる。  1常用漢字表等における漢字選定の問題として(国語施策の観点から) (1)漢字表の選定基準について 戦後すぐの当用漢字表から現在の常用漢字表に至るまで、国語施策の漢字表は、日本語を用いた書き言葉による民主的で円滑なコミュニケーションを実現するために、社会における漢字使用の実態を反映するようにして策定されてきた。これは何らかの課題を周知することを目的とするのではなく、分かりやすく通じやすい文書を書き表すための目安とするものである。 ある語を書き表すに当たっては、複数の表記を選択し得るときがある。そのような場合の混乱を避けるとともに、効果的に教育が行われることを目指して、国語施策は漢字使用の目安を定めてきた。したがって、漢字表に採用される漢字は、主に ・出現頻度(書籍、新聞、雑誌、ウェブサイト等における各漢字の使用数) ・造語力(熟語を構成する能力)が高く、社会生活上必要であると認められるものであった。 「害」は、出現頻度と造語力とが共に高い漢字であり、戦前から現在に至るまで、国語施策における漢字表の全てに選定されてきた。一方、「碍」は1例(昭和17年の「標準漢字表」において、「害」が「常用漢字」に、「碍」が「準常用漢字」に、「礙」が「特別漢字」に採用された。)を除いて採用されていない。 「障害」という表記が主に用いられてきたのは、当用漢字表が策定される際に、その時点における漢字の使用状況を調査した結果、「害」が採用されたことに基づく。「障害」と「障碍」という表記は、明治以来同様の文脈においてほぼ同じような意味で用いられてきており、新聞などの一般的な文章では「障害」の方が多く見られるという実態もあった。 昭和56年の常用漢字表及び平成22年に改定された常用漢字表においても、上述の観点から「碍」は追加されなかった。その後も、各種調査の結果からすると、現時点で、常用漢字表へ p2 の追加を要するような「碍」の使用頻度の高まりや使用状況の広がりが生じているとは判断で きない。 (2)障がい者制度改革推進本部における「「障害」の表記」に関する検討について 平成22年の国語分科会における常用漢字表の改定と並行して、当時、政府に置かれた「障がい者制度改革推進本部」において、当事者とその関係者を中心に「障害」の表記の在り方に関する検討が行われていた。国語分科会は、障がい者制度改革推進本部における検討の結果によっては、「碍」の扱いについて改めて検討することとしていた(「改定常用漢字表」平成22年6月7日文化審議会答申)。これは、出現頻度や造語力が低いとしても、社会全体で「障碍」の表記を用いることが政策として決定されれば、「碍」を社会生活上必要な漢字と捉え、常用漢字表の一部改定も含めた検討を行うという趣旨であった。なお、この考え方は現在においても変わっていない。 その後、障がい者制度改革推進本部の下での検討の結果、「障害者制度改革の推進のための第二次意見」(平成22年12月17日障がい者制度改革推進会議)が取りまとめられた。ここでは「「障害」の表記については、様々な主体がそれぞれの考え方に基づき、様々な表記を用いており、法令等における「障害」の表記について、見解の一致をみなかった現時点において新たに特定の表記に決定することは困難であると判断せざるを得ない」とされ、さらに、「法令等における「障害」の表記については、当面、現状の「障害」を用いることとし、今後、制度改革の集中期間を目途に一定の結論を得ることを目指すべきである」とされた。この結果を受け、国語分科会は新たな検討を行うには至らなかった。 なお、平成24年に障害者基本法に基づいて設置された「障害者政策委員会」においても、「法制上の「障害」の表記の在り方については、障害者権利条約における新しい障害の考え方を踏まえつつ、今後の国民、特に障害当事者の意向を踏まえて検討する」(「新「障害者基本計画」に関する障害者政策委員会の意見」平成24年12月17日)とされている。 (3)常用漢字表にはない新たな考え方について 国会委員会決議は「碍」の追加を検討すべき理由として、当事者の選択に資すること、及び、他の漢字圏の国々における漢字使用の状況等に配慮することを挙げている。これらは、常用漢字表の選定基準にない考え方である。 「選択に資する」という観点について言えば、常用漢字表は、表にない漢字を用いることや漢字を使わずに仮名で書くことを妨げるものではない。前書きにあるとおり、表の運用に当たっては、個々の事情に応じて適切な考慮を加える余地があるものである。例えば、法令においても、常用漢字表にない漢字や音訓を、振り仮名を付けて用いる場合がある。また、地方公共団体の中には「碍」を用いる表記を採用したところもある。 ただし、表内に選択肢としての漢字を追加することは、常用漢字表が日本語における表記の安定を目指すものであるという点と相反するおそれがある。常用漢字表では、同じ語を書き表すに当たっての目安として、表内に選択肢を設けるという考え方は採っていない。これは、表記の混乱を避けるためである。平成22年の改定において、社会全体で「障碍」の表記を用いることが政策として決定されることを再検討の条件としたのも、そのためであった。 このことについては、人に用いる場合と人以外に用いる場合とで使い分けが可能であるという意見もある。しかし、当事者の中に様々な考え方がある段階で、国語分科会が使い分けを指 p3 定することは困難である。また、社会において検討の過程にある課題について、それを周知したり問題提起したりすることを目的として漢字を選定し、その漢字を普及させるといったことは、常用漢字表の任ではない。 次に、他の漢字圏の国々との関係について言えば、漢字使用の在り方は、それぞれの国ごとに発展してきているものである。使用する漢字の字体がそれぞれで異なることをはじめ、同じ漢字を用いた語が異なる意味で用いられている場合も多い。さらに、漢字そのものがほとんど使用されなくなっている国もある。 常用漢字表は、日本語における漢字使用の実態に基づいて策定されているものである。他の漢字圏の国々における漢字使用との一致を図ることを目的として改定するのであれば、漢字表の性格に大きな転換をもたらすとともに、現在の日本語における文字表記の根幹に影響するおそれもある。国語施策とは別の観点からの、各分野における国際的な調整を経た上でない限り、対応することは難しい。 以上、国語施策の観点に基づく上記の検討から、国語分科会は、常用漢字表への「碍」の追加を直ちに行うことについて、慎重にならざるを得ない。その上で、国民を代表する国会の委員会から課されている課題を解決するという問題意識を持ち続けたいと考えている。そこで、国語施策の観点からは、次に挙げる点に取り組むこととしたい。 〇「碍」の字を直ちに常用漢字表に追加することはしないが、国会の委員会決議の趣旨に沿い、「碍」の扱いを常用漢字表における課題の一つと捉え、使用実態や国民の標記に関する意識を調査するなど、国語施策の観点から、引き続き動向を注視していく。 〇常用漢字表の次の改定が行われる際には、国会の委員会決議が取り上げている観点も参考にしつつ、選定基準の見直しが必要であるかどうか、改めて検討する。 なお、国会の委員会決議は、共生社会の実現を図るための「心のバリアフリー」を推進することを期待するとあるように、政府の関連部局、ひいては、広く国民全体に向けて投げかけられた課題と受け止めるべきであり、国語施策の枠組みにのみとらわれることなく、社会の様々な分野で、この課題についての議論を深めていく必要があると考える。とりわけ当事者の意向を踏まえることが重要である。そのようにして、各方面による検討を経た結果、「障碍」の表記が社会全体で用いることが合意された場合には、先述の「改定常用漢字表」(文化審議会答申)のとおり、国語分科会としても速やかに対応することとする。 また、現行の常用漢字表に基づいても、地方公共団体や民間の組織において、表にない「いしへん」の「碍」を用いて表記すること等を妨げるものではなく、それぞれの考え方に基づいた表記を用いることが可能であるという点について、引き続き理解を求めていく。 2用語の問題として (より広い観点から) 二つの国会委員会決議に指摘されるとおり、「「害」の字を、人に対して用いることが不適 p4 切であるという考え方」があり、この表記を受け入れ難いと感じている人たちがいることを、国語分科会は重く受け止め、つらい思いをしている人たちに寄り添いたいと願っている。一方で、「しょうがい」という用語の表記については、当事者・関係者の間に多様な意見があることにも留意している。 「しょうがい」の表記については、社会全体に関わる問題として、障がい者制度改革推進本部における議論をはじめ、国語施策とは異なるより広い観点から検討が行われてきた。平成 22年当時の障がい者制度改革推進本部の下での審議では、当事者の意見も聞きながら検討が行われた。それぞれの表記に対して、肯定的な意見、否定的な意見が出され、考え方が多岐にわたっており、結果として、一定の方向性は示されなかった。その後実施されてきた各種調査の結果を見ても、同様の状況が続いていることがうかがえる。現時点では、当事者を中心とした議論をもってしても、「しょうがい」という用語を用いる限り、一つの表記をもって合意に至ることは難しい状況にあると考えられる。 また「碍」を用いた「障碍」は元々仏教語に由来し、「しょうげ」と読まれてきた語である。「障碍(しょうげ)」は、最新の国語辞典や学習用の古語辞典等にも取り上げられており、必ずしも良い意味ではないということが指摘されてきた。近代の文学作品等に見られるだけでなく、仏教語としては現代においても用いられている例があり、言葉について検討する委員会として、このことがいずれ別の形で問題となることがないか、懸念せざるを得ないところがある。 これらを踏まえて検討を進めるに従い、国語分科会は、この課題について、どのような漢字を使うかという漢字表記の問題というよりも、どのような表現を使うかという用語の問題ではないかという認識に至った。「障害」という語は、一般に広く用いられており、その使用自体が問題とされることはほとんどない。一方、特にこの語が「障害者」として用いられる際には、これを受け入れ難いと感じる人がいる。漢字の入替えや交ぜ書き(「障がい」)を用いることによっても合意が困難であるならば、これを用語の問題として捉え直し、「しょうがい者」とは別の、新たな用語を検討してはどうかという考え方である。 そこで、用語自体の検討を行うべきかについても議論がなされた。消極的な意味を持たない、前向きで適切な表現を考えてはどうかという観点から、幾つかの言葉が取り上げられることもあった。しかし、審議が進むにつれ、国語施策の立場から具体的な用語を提案するのは行きすぎの面があり、安易にすべきでないと確認されるに至った。また、新たな用語を検討するのは現実的ではなく、前向きな表現とするのも実態とそぐわない面があるという指摘も受けている。いずれにせよ、この問題については、新たな用語に関する議論を行うかどうかも含め、当事者の意向を反映できる場で、当事者を中心に検討されるべきであると考えている。 以上のことから、国語分科会は、「障害」の表記に関して、この課題についての検討が当事者を中心にしかるべき場で行われることを希望するとともに、それが行われる際には、国語施策の観点から協力していくこととしたい。加えて、用語全般に関する課題を広く解決していくための考え方を国語施策の観点から整理することができないか検討することとする。 〇「障害」の標記に関しては当事者を中心とした議論の行方を見守ることとし、一方で、用語全般に関する課題を広く解決していくための考え方を国語施策の観点から整理することができないか検討する。 p5  (資料1)「障害」の表記に関する経緯等について   ※資料等については、直接確認できたもののみを挙げた。 国語施策において明治期から国が作成してきた漢字表等には、教育及び社会生活における漢字の負担を軽減するために、漢字制限の観点から使用頻度と造語力の高い「害」が採用される一方、「碍(礙)」は、一部の例を除いて採用されなかった。このため、「ショウガイ」の表記については、表内にある漢字を用いた「障害」を用いるよう整理されてきた。これは、「障害」と「障碍(礙)」とが、明治以降、一般社会においてほぼ同様の意味で用いられてきた実態を踏まえたものであった。「障害」とともに用いられていた「障碍(礙)」という表記がほとんど使われなくなっていったのは、このような経緯による。 なお、「障害」という用語は、明治期から、様々な文脈で広く用いられてきたものであるが、「障害者」という用語が一般に定着したのは、戦後になってからである。 江戸期まで ○「障碍(礙)」は平安時代から「しょうげ(しやうげ)」として用いられてきたもので、元々は仏教語であった。仏教語としての「しょうげ」は、現在においても用いられることがある。一方、「障害」は江戸期に現れた日本独自の漢語であり、江戸末期の辞書(「英和対訳袖珍辞書」文久2(1862)年)には既に見られる。「障碍(礙)」が「しょうがい」とも読まれるようになったのと前後して、同じ音で、かつ、読み方に揺れのない表記として現れたものと考えられる。なお「碍(礙)」と「害」の音が同じ(「ガイ」)であるのは、日本語だけである。 ○各種の辞典における「障碍(礙)」(しょうげ)の項の記述例『日本国語大辞典第2版』(小学館)しょうげ【障礙・障碍】(「げ」は「礙・碍」の呉音)仏語。ものごとの発生、持続などにあたってさまたげになること。転じて、悪魔、悪霊などが邪魔すること。さわり。障害。『明鏡第3版』(大修館書店)しょうげ【障礙(障碍)】事を行うときのさまたげとなるもの。特に、仏道のさまたげとなるもの。さわり。障害。『角川古語大辞典』(角川書店)しやうげ【障礙・障碍】一妨げること。たたり。二たたりをなすもの。魔障のもの。『ベネッセ全訳古語辞典改訂版』しゃうげ【障礙・障碍】魔物や霊魂などが妨げること。障害。 p6 明治期 ○「礙(碍)」は呉音で「ゲ」、漢音で「ガイ」。明治期の新聞(振り仮名付き)を確認すると、当初は「障碍(礙)」は「しょうげ」として用いられるものの方が多いものの、少しずつ「しょうがい」と読む例も現れるようになる。 ○「障碍(礙)」には「しやうげ」という振り仮名を付し、「障害」と使い分けるものも見られる。(例示中の()内は振り仮名。以下、同じ。)例)『校正増補漢語字類』(明治 9年 2月荘原和輯しゅう)「障礙(シャウゲ)サシサハリ」「障害(シャウガイ)上〔障礙〕ニ同シ」『ねじくり博士』幸田露伴(明治23年)「所が何も障害物(しやうがいぶつ)のない広い野だのに」「最も障碍(しやうげ)の少き運動の道は必らず螺旋的なり」「曲線という奴は無障碍(むしやうげ)の空間で試みに引のばして見玉え」 ○明治期から医学関係の文献等に「障碍(礙)」と「障害」を用いる例が共に見られるようになる。なお、振り仮名等がない場合、「障碍(礙)」は「しょうがい」「しょうげ」のどちらとして用いられているのかは不明である。 例)『病理新説巻 1』虞里応 (グリイン)著(明治 9年 8月)「補給機障碍」『養生雑誌第5号』(明治 14年 2月)「身体の健康に障害なき」『黴毒新論巻1』(明治 14年 12月文海堂)「機能障害」 ○明治33年8月小学校令施行規則中教授用漢字に関する規定(文部省令第 14号第3号表 1,200字)に「害」が採用される。これは「尋常小学校ニ於おいテ教授ニ用フル漢字ハ成ルベク第三号表ニ掲グル文字ノ範囲ニ於テ之これヲ選ブベシ」として示されたもの。 大正期 ○大正期から、医学、法律関係の文書等に「障礙(碍)者」と「障害者」の用例が共に見られるようになる。なお、振り仮名等がない場合、「障碍(礙)」は「しょうがい」「しょうげ」のどちらとして用いられているのかは不明である。 例)『刑法総論』(大正2年明治大学出版部)「精神障礙者」「精神ノ一部障礙者」「精神障害」「精神障礙」『ゲルダート英法原理』(大正6年3月早稲田出版協会)「精神障害」「精神障害者」 ○大正12年5月常用漢字表(臨時国語調査会1,962字(実字数 1,960字))に「害」が採用される。この表の選定については「(一)尋常小学校の各種教科書のなかに現れて p7 いるもの、(二)各新聞社において最も普通に用いている漢字、即ち大出張小出張と称する漢字表、(三)築地活版所・秀英舎等の印刷所において最も普通に用いているもの、(四)個人として常用漢字について研究されたもの等を材料として、だんだん研究を進めた。そうして、もっとも普通に使用されていてこれだけで国民生活上大体さしつかえないものと認めて決定」(「決定された常用漢字及び略字について」保科孝一「官報」大正12年5月12日)したもの。 ○大正15年〜昭和3年漢語整理案(臨時国語調査会)大正15年12月15日の「官報」附録雑報において、「障碍(礙)→障害」と整理する案を提示。この整理案は、大正 12年 5月の「常用漢字表」の策定を受け、「常用漢字の実行を円滑ならしめ、ひいて国語の健全なる発達を促さんがため、常用漢字と仮名とを用いて文章を書き綴つづり得るように漢語を整理したもの」。「障害」のように、漢語の一部を同音の漢字で書き換えるものだけでなく、和語に言い換えるもの、交ぜ書きにするもの、全て仮名にするもの、別の漢語に置き換えるものなどがあった。  例)斡旋→周旋、世話、あっ旋 軋轢→すれ合う、あつれき 穎才→英才    間諜→間ちょう、スパイ 恢復→回復 真摯→まじめ 昭和期 ○昭和17年6月標準漢字表(国語審議会答申計2,528字)において、「害」が「常用漢字」(「国民の日常生活に関係が深く、一般に使用の頻度の高いもの」1,134字)に、「碍」が「準常用漢字」(「常用漢字よりも国民の日常生活に関係が薄く、また一般に使用の程度も低いもの」1,320字)に、「礙」が「特別漢字」(「皇室典範、帝国憲法、歴代の天皇の御追号、国定教科書に奉掲の詔勅、陸海軍軍人に賜はりたる勅諭、米国及英国に対する宣戦の詔書の文字で、常用漢字、準常用漢字以外のもの」74字)にそれぞれ採用される。「礙」は「米国及英国に対する宣戦の詔書」(昭和16年12月8日)に見られる ためけつた (「帝国は今や自存自衛の為蹶然起つて一切の障礙を破砕するの外なきなり」)。 ○昭和21年11月当用漢字表(内閣告示・訓令1,850字)に「害」が採用される。当用漢字表は「法令・公用文書・新聞・雑誌および一般社会で、使用する漢字の範囲を示したもの」。 ○昭和23年2月当用漢字別表(内閣告示・訓令881字)に「害」が採用される。当用漢字別表は「当用漢字表の中で、義務教育の期間に、読み書きともにできるように指導することが必要であると認めたもの」。 ●昭和24年12月26日身体障害者福祉法公布 ○昭和29年3月法令用語改正例(国語審議会)で、「当用漢字表、同音訓表にはずれた部分を、それぞれ一定の他の漢字に改めて書く」ものの一つとして「障碍 →障害」を提示。法令用語改正例は「法令は一般国民の守るべき規則を定めたものでありますから、その用語は国民教育の線にそったものであり、かつ国民に理解しやすいものであることを要 p8 することはいうまでもありません」との認識から作成されたもの。  例)「当用漢字表、同音訓表にはずれた部分を、それぞれ一定の他の漢字に改めて書く」として挙げられたそのほかのもの    饗応→供応 繋留→係留 弘報→広報 洗滌→洗浄 曝露→暴露 ○昭和31年7月 同音の漢字による書きかえ(国語審議会報告)で「障碍 →障害」の書換えを提示。「同音の漢字による書きかえ」は「当用漢字の適用を円滑にするため、当用漢字表にない漢字を含んで構成されている漢語を処理する方法の一つとして、表中同音の別の漢字に書きかえる」旨を示したもの。  例)廻送→回送 稀少→希少 月蝕→月食 交叉→交差 牴(觝)触→抵触 ●昭和56年5月25日「障害に関する用語の整理等の法律」が公布され、医師法など 9本の法律を一斉改正。現在では不適切とされる用語を「―障害」に改める。 ○昭和56年10月常用漢字表(内閣告示・訓令1,945字)に「害」が採用される。常用漢字表は「法令、公用文書、新聞、雑誌、放送など、一般の社会生活において、現代の国語を書き表す場合の漢字使用の目安」。 ●昭和57年7月16日「障害に関する用語の整理に関する法律」が公布され、恩給法など 162本の法律を一斉改正。現在では不適切とされる用語を「―障害」に改める。 平成期 ●平成10年9月28日「精神薄弱の用語の整理のための関係法律の一部を改正する法律」が公布され、現在では不適切とされることのある用語を「知的障害」に改める。 ○平成22年11月常用漢字表(内閣告示2,136字)改定。引き続き「害」が採用された一方、文化審議会答申「改定常用漢字表」は、「碍」について「字種選定基準に照らして、現時点では追加しないが、政府の「障がい者制度改革推進本部」において、「「障害」の表記の在り方」に関する検討が行われているところであり、その検討結果によっては、改めて検討することとする」とした。 p9 (資料2)「「障害」の表記に関する検討結果について」(平成22年11月22日障がい者制度改革推進会議「障害」の表記に関する作業チーム)に示された当事者及び一般からの主な意見 「障害」 〈肯定的意見〉 ・「障害者自身は「差し障り」や「害悪」をもたらす存在ではなく、社会にある多くの障害物や障壁こそが「障害者」をつくりだしてきた。このように社会に存在する障害物や障壁を解消することが必要である。このような社会モデルの考え方と条文では、「Personswith Disabilities」と表記していることから、現段階では「障害」の表記を採用することが適当である」 ・「社会モデルの観点からは、「障害」がふさわしい」 〈否定的意見〉 ・「「害」は「公害」「害悪」「害虫」の「害」であり、当事者の存在を害であるとする社会の価値観を助長してきた」 ・「語源的にも人を殺あやめるという意味があり不適切」 「障碍」 〈肯定的意見〉 ・「「碍」は電流を遮断する「碍子」などで用いられているように、「カベ」を意味する言葉である。社会が「カベ」を形成していること、当事者自らの中にも「カベ」に立ち向かうべき意識改革の課題があるとの観点を踏まえ、「碍」の字を使うよう提唱」 ・「中国、韓国、台湾など漢字圏において、「しょうがい」は「障碍」又は「障礙」と表記されている。一例として「障碍人の権利に関する協約」(韓国)。東アジアの漢字圏において、日本が障害者福祉の面でリーダーシップを発揮する場合に備えて、表記を「障碍」に改めておくべき」 ・「社会モデルの観点からは、「障碍」がふさわしい」 ・「「碍」の字は価値中立的である」 〈否定的意見〉 ・「「障碍」の表記を採用する場合、仏教語に由来する「障碍(しょうげ)」の語源に関する問題もあるため、「害」の字を使う場合と同様又はそれ以上の問題の指摘を受ける可能性が否定できない」 ・「表記を変更したところで、「障」=「さわり」、「碍」=「さまたげ」であって、漢字の持つ負のイメージに変わりはない」 「障がい、しょうがい」 〈肯定的意見〉 ・「柔らかい印象があり、点字を利用している人でも書くことができる」 ・「移行期間という認識の下で、ひらがな表記が望ましい」 〈否定的意見〉 p10 ・「表意文字である漢字を、ひらがなに置き換えてしまうと、「社会がカベを作っている」「カベに立ち向かう」という意味合いが出ない」 ・「「障害」の表記を「障がい」に変更する考え方は、障害者の社会参加の制限や制約の原因が、個人の属性としての機能障害にあるとする個人モデル(医学モデル)に基づくものであり、医学モデルから障害を個人の外部に存在する種々の社会的障壁によって構築されたものとしてとらえる社会モデルへの転換を第一次意見において示した推進会議としては採用すべきではないのではないか」 ・「日本語として不自然」 p11 (資料3)「障害者に関する世論調査」(平成29年内閣府) 調査対象 全国 18歳以上の日本国籍を有する者3,000人 抽出方法 層化 2段無作為抽出法 調査時期 平成29年8月3日〜8月13日 調査方法 調査員による個別面接聴取法 有効回収数〈率〉 1,771人〈59.0%〉 2調査結果の概要>3.障害者関連施策について>(10)しょうがいの表記 「しょうがい」の表記について、法令では四角で囲った字(障害)を使っていますが、この表記の在り方については、さまざまな意見があります。「しょうがい」の表記として、どれがふさわしいと思いますか。この中から1つだけお答えください。 ア障害 31.6% イ障碍(いしへん) 2.5% ウ障がい(「がい」ひらがな) 40.1% エどれでもよい 18.8% その他 1.2% わからない 5.8% (作業者注:以下グラフ) 総数(該当者数1,771人) 障害:31.6% 障碍(いしへん):2.5% 障がい(「がい」ひらがな):40.1% どれでもよい:18.8% その他:1.2% わからない:5.8% [性] 男性(該当者数820人) 障害:33.7% 障碍(いしへん):3.7% 障がい(「がい」ひらがな):36.2% どれでもよい:20.4% その他:1.2% わからない:4.9% 女性(該当者数951人) 障害:29.9% 障碍(いしへん):1.6% 障がい(「がい」ひらがな):43.4% どれでもよい:17.5% その他:1.2% わからない:6.5% [年齢] 18〜29歳(該当者数150人) 障害:22.0% 障碍(いしへん):5.3% 障がい(「がい」ひらがな):52.0% どれでもよい:19.3% その他:0% わからない:1.3% 30〜39歳(該当者数210人) 障害:26.2% 障碍(いしへん):4.8% 障がい(「がい」ひらがな):44.3% どれでもよい:21.9% その他:1.0% わからない:% 40〜49歳(該当者数262人) 障害:28.2% 障碍(いしへん):1.5% 障がい(「がい」ひらがな):46.2% どれでもよい:20.2% その他:1.1% わからない:2.7% 50〜59歳(該当者数282人) 障害:28.4% 障碍(いしへん):2.1% 障がい(「がい」ひらがな):43.3% どれでもよい:19.9% その他:2.5% わからない:3.9% 60〜69歳(該当者数391人) 障害:29.7% 障碍(いしへん):2.0% 障がい(「がい」ひらがな):41.2% どれでもよい:17.1% その他:1.3% わからない:8.7% 70歳以上(該当者数476人) 障害:42.4% 障碍(いしへん):1.9% 障がい(「がい」ひらがな):28.4% どれでもよい:17.2% その他:0.8% わからない:9.2% (作業者注:グラフ終了)