資料7 障害者の権利に関する条約の実施状況に係る障害者政策委員会の見解 2022年4月 障害者政策委員会 p1 障害者政策委員会は、障害者基本計画の実施状況の監視を通じて障害者の権利に関する条約(以下「障害者権利条約」という。)の国内実施状況の監視を担う機関としての役割を担っている。 障害者権利条約の国内実施状況に関する第1回政府報告の提出に当たっては、障害者政策委員会は「第3次障害者基本計画」の実施状況の監視を行い、その意見を「議論の整理」として取りまとめた。この「議論の整理」は、第1回政府報告の付属文書として国連に提出された。また、この中で、障害者政策委員会において特に重要なものとして選定された8つのテーマについては、第1回政府報告の本文においても、障害者政策委員会の意見が反映された。 国連障害者権利委員会による我が国の締約国審査に向けて、第4次障害者基本計画の実施状況を踏まえ、第1回政府報告の対象期間の後(2016年3月以降)における我が国の取組の進捗状況や今後の課題について追加的な議論を行い、本見解を取りまとめることとした。 本見解は、先般の第1回政府報告の提出に当たって障害者政策委員会が特に重要な分野かつ大きな課題を有する分野として挙げた8分野を引き続き中心としている。さらに、政府報告提出後、進捗や懸念点があったと考えられる第5条、第7条、第8条、第9条、第11条、第16条、第30条及び第33条を新たに追加して議論し、見解を取りまとめることとした。 p2 個別分野の議論 第5条 平等及び無差別 障害者政策委員会は、以下の進展を認める。 全ての事業者に対し合理的配慮の提供を義務付けること等を主な内容とする改正障害者差別解消法(注1・障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律の一部を改正する法律(令和3年法律第56号))が2021年5月に成立し、同年6月に公布された。 障害者政策委員会は、以下の対応を求める。 障害を理由とする差別に関する相談対応や、紛争の防止又は解決を図ることができるよう、国及び地方公共団体の双方において必要な体制の整備に一層取り組む必要がある。 資格免許制度等における相対的欠格条項を理由として、資格試験の受験が認められなかったり、高等教育機関や専門学校の入学を拒否されたり、さらには就業を拒否されるなどの例がある。合理的配慮の提供を行うことにより資格等に係る業務が可能となる場合には、受験や入学、あるいは就業を拒否されることのないようにする施策が求められる。 第6条 障害のある女性 障害者政策委員会は、以下の進展を認める。 障害者を含む被害者支援に対応する性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センターの設置が進んだ(注2・各都道府県に最低1か所設置の成果目標(令和2年まで)を前倒しし、平成30年10月に全都道府県への設置が実現された。)。 障害者政策委員会は、以下の対応を求める。 障害者権利条約第6条「障害のある女性」に対応するため、例えば、福祉施設、在宅介護サービスや医療施設での同性介助の標準化や障害のある女性に対する性犯罪防止策の更なる推進などに取り組む必要がある。 国や地方公共団体の政策を決定する様々な審議会や有識者会議の委員構成についてはジェンダーバランスの課題があり、そのためポジティブ・アクション(注3・男女が、社会の対等な構成員として、自らの意思によって社会のあらゆる分野における活動に参画する機会に係る男女間の格差を改善するため必要な範囲内において、男女のいずれか一方に対し、当該機会を積極的に提供すること)の取組が推進されているが、政策委員会も含め、障害者施策を審議する審議会や有識者会議においては、交差的差別解消の観点から、障害のある女性の参画について一層の取組が必要である。 p3 第7条 障害のある児童 障害者政策委員会は、以下の点を懸念し、対応を求める。 障害児は、被虐待のリスクがある。児童虐待防止を視野に入れた援助や支援の充実が求められる。 第8条 意識の向上 障害者政策委員会は、以下の対応を求める。 2020年の「バリアフリー法」(注4・高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律(平成18年法律第91号))の改正により「心のバリアフリー」(注5・様々な心身の特性や考え方を持つすべての人々が、相互に理解を深めようとコミュニケーションをとり、支え合うこと。「心のバリアフリー」を体現するためのポイントは、「ユニバーサルデザイン2020行動計画」(平成29年2月20日ユニバーサルデザイン2020関係閣僚会議決定)では、以下の3点とされている。(1)障害のある人への社会的障壁を取り除くのは社会の責務であるという「障害の社会モデル」を理解すること。(2)障害のある人(及びその家族)への差別(不当な差別的取扱い及び合理的配慮の不提供)を行わないよう徹底すること。(3)自分とは異なる条件を持つ多様な他者とコミュニケーションを取る力を養い、すべての人が抱える困難や痛みを想像し共感する力を培うこと。)に関する事項が追加されたところであるが、障害の社会モデル・人権モデルという観点から正確に理解されるよう、一層の理解促進に取り組む必要がある。 障害者を否定する優生思想の存在が津久井やまゆり園事件(2016年)によって一層、明らかとなった。優生思想を根絶する啓発や教育が必要である。 第9条 施設及びサービス等の利用の容易さ(アクセシビリティ) 障害者政策委員会は、以下の進展を認める。 2度にわたる「バリアフリー法」の改正(注6・平成30年には公共交通事業者等によるハード・ソフト一体的な取組の推進等を規定する等の改正を行い、また令和2年には公立小中学校等を特別特定建築物としてバリアフリー基準適合義務の対象に追加する等の改正を実施。)、一定規模以上のホテルにおけるバリアフリー客室の1%以上の整備義務化など、都市部を中心に「ユニバーサルデザインの街づくり」が進展した。また、バリアフリー法の実施状況を監視する枠組みの設置と、それへの障害者団体等の参画が制度化された。 障害者政策委員会は、以下の対応を求める。 公的機関が、アクセシビリティ規格に準拠した情報通信機器、サービスを優先的に調達することや、民間事業者が自社のウェブサイトやモバイルアプリケーションなどのアクセシビリティを推進することを確保するなど、情報アクセシビリティ環境の整備を推進するための法制度や施策が求められる。 地方の公共交通機関や小規模店舗のアクセシビリティを向上させるために、事業者支援など、効果的な施策が求められる。 第11条 危険な状況及び人道上の緊急事態 障害者政策委員会は、以下の対応を求める。 避難所、福祉避難所及び仮設住宅のユニバーサルデザイン化を促進する施策、防災情報、避難情報、災害時の情報、災害後の情報のアクセシビリティなどの課題を解決するための障害当事者の意見を反映した施策が急務である。 p4 第12条 法律の前にひとしく認められる権利 障害者政策委員会は、以下の対応を求める。 成年後見制度のうち、特に代行型の枠組みである後見類型は、最良の支援を提供しても、なお法的行為能力の行使が困難な場合に本人の権利と利益を守るための最終手段として利用されるべきものである。しかし、現行制度は、意思決定能力がある場合でも、事理弁識能力(注7・自分の法的行為の利害得失を合理的に判断する能力。)がないとされると、法的行為能力が制限されることがある制度となっている。 法的行為能力の行使及び法的行為能力の行使に繋がる日常的意思決定を支援する社会的枠組みの構築が急務である。 第14条 身体の自由及び安全 障害者政策委員会は、以下の対応を求める。 精神科における患者の権利擁護のため、家族や医療従事者から独立した権利擁護者の関与が不可欠であり、この観点から、精神保健福祉法(注8・精神保健及び精神障害者福祉に関する法律(昭和25年法律第123号))等の制度と運用については、医療保護入院についての規定である精神保健福祉法第33条の妥当性について再検証をする必要がある。 障害者政策委員会は、以下の点を懸念し、対応を求める。 精神障害者、認知症患者、強度行動障害者などに対する緊急手段でも最終手段でもない場合の、非自発的入院及び精神医療や入所施設における隔離拘束(化学的拘束による身体拘束も含む。)をなくすための具体的なロードマップの立案と実行がされていない。 第16条 搾取、暴力及び虐待からの自由 障害者政策委員会は、以下の点を懸念し、対応を求める。 精神科病院における虐待を防止するための効果的な施策が実施されていない。 第19条 自立した生活及び地域社会への包容 障害者政策委員会は、以下の進展を認める。 医療的ケア児支援センターの設置及び保育所及び学校等における医療的ケア(注9・人工呼吸器による呼吸管理、喀痰吸引その他の医療行為を指す。)その他の支援等を内容とする法律(注10・医療的ケア児及びその家族に対する支援に関する法律(令和3年法律第81号))が2021年6月に公布・同年に施行された。 p5 2017年度より、精神障害にも対応した地域包括ケアシステムの構築を進めるため、都道府県等自治体に対する補助事業において、ピアサポートの活用やアウトリーチ支援等が実施されており、また、都道府県等自治体の取組を支援する委託事業が実施されている。 障害者政策委員会は、以下の対応を求める。 入所施設からの地域移行が進んでいないことが課題である。グループホームの小規模化や医療へのアクセシビリティ確保を始め、本人の望む多様な暮らしの実現という観点からの地域移行を推進する必要がある。 日常的に医療支援を受けながら地域での自立生活を送る障害者に提供される医療サービスや介護サービスが不十分であり、また大きな地域格差がある。どこに住んでいても、人間らしく生きるための個人のプライバシーが尊重された24時間の医療的ケア保障、介護が保障される必要がある。 精神科病院に入院している人の退院と地域での生活を促進し、地域で暮らす精神障害者を訪問してサービスを提供すること等、精神障害者が地域で継続して生活できるための精神科医療、精神保健福祉の充実及び環境整備を進めることが急務である。 第21条 表現及び意見の自由並びに情報の利用の機会 障害者政策委員会は、以下の進展を認める。 聴覚障害者等による電話の利用の円滑化を図るため、聴覚障害者等の電話による意思疎通を手話等により仲介する電話リレーサービスの提供の業務を行う者を指定し、当該指定を受けた者に対して交付金を交付するための制度を創設する等の措置を講ずること等を内容とする法律(注11・聴覚障害者等による電話の利用の円滑化に関する法律(令和2年法律第53号))が2020年に公布・同年12月に施行された。 障害者政策委員会は、以下の点を懸念し、対応を求める。 障害の多様性に応じた情報提供や意思疎通支援に課題がある。特に、緊急時の対応、盲ろう者や難病者を含めた個別性の高いコミュニケーション方法を用いる人たちへの対応、省庁横断的な対応、地域格差などは大きな課題である。 また、デジタル教科書を含め、障害の多様性に対応したアクセシブルな教科書、教材、サービス等の提供を確保する施策や、公的機関等及び民間事業者が提供する情報のアクセシビリティを確保するための施策を更に推進する必要がある。 p6 第24条 教育 障害者政策委員会は、以下の進展を認める。 特別支援教育支援員等の外部人材の配置、通級による指導の制度化や教員定数の基礎定数化等、通常の学級に在籍する障害のある児童生徒に対する支援が進んだ。 小学校学習指導要領等の改訂により、通級による指導を受ける児童生徒に個別の指導計画及び個別の教育支援計画の作成を義務付けるとともに、通級を利用しない障害のある児童生徒に対しても個別の指導計画の作成を推奨した。 障害者差別解消法(注12・障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(平成25年法律第65号))の施行により、高等教育機関において障害のある学生への合理的配慮の提供が進展した。 障害者政策委員会は、以下の対応を求める。 障害のある児童生徒に関する実態把握のための詳細な調査や、通常学級における環境の整備並びに合理的配慮の提供により障害のある児童生徒を支援するための予算及び人的資源の配分見直しの更なる推進が必要である。 障害者政策委員会は、以下の点を懸念し、対応を求める。 特別支援学校及び特別支援学級に在籍する児童生徒の数が大幅に増えている。インクルーシブな教育環境における合理的配慮、個別化された支援措置等の提供を確保する施策が道半ばである。 第27条 労働及び雇用 障害者政策委員会は、以下の進展を認める。 雇用分野においては、2016年4月から事業主の障害者に対する差別禁止及び合理的配慮の提供が義務付けられ、「障害者差別禁止指針」及び「合理的配慮指針」等が策定されるとともに、紛争解決手続が整備された。 2018年4月から、身体障害者、知的障害者に加え、精神障害者が雇用義務の対象に追加され、民間企業の実雇用率及び雇用障害者数も着実に増加している。 p7 障害者政策委員会は、以下の点を懸念し、対応を求める。 障害者雇用率制度(注13・障害者の雇用の促進等に関する法律(昭和35年法律第123号)に定められたもの)においては障害者の範囲に難病等の障害分野が含まれていない。 第30条 文化的な生活、レクリエーション、余暇及びスポーツへの参加 障害者政策委員会は、以下の進展を認める。 障害者による文化芸術活動の推進に関する法律(注14・障害者による文化芸術活動の推進に関する法律(平成30年法律第47号))が成立し、これを受け、障害者による文化芸術活動の推進に関する施策が計画的に推進された。 障害者政策委員会は、以下の対応を求める。 観光地や娯楽施設、文化芸術施設におけるアクセシビリティの確保に向けた取組の一層の充実が必要である。 第31条 統計及び資料の収集 障害者政策委員会は、以下の進展を認める。 2022年国民生活基礎調査において、ワシントングループの設問により日常生活における機能制限の程度に関する状況を把握することとしている。 2021年社会生活基本調査において、欧州統計局の設問により日常生活への支障の有無による生活時間の違いなどを把握することとしている。 障害者政策委員会は、以下の対応を求める。 雇用や教育など、障害者施策において重要な分野に関する基本的な統計についても障害者や障害のある女性に関する設問を含めるなど、障害者に関する政策の監視・評価に使える水準の統計の更なる充実を推進すべきである。 第33条 国内における実施及び監視 障害者政策委員会は、以下の点を懸念する。 国内における人権救済のための、国内機構の地位に関する原則(パリ原則)に沿った、独立した機関がない。 以上 (作業者注・テキスト版では本文中に注釈を挿入しているが、元資料と同様に注釈一覧を以下に記載する。) p8 注釈 (注1)障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律の一部を改正する法律(令和3年法律第56号) (注2)各都道府県に最低1か所設置の成果目標(令和2年まで)を前倒しし、平成30年10月に全都道府県への設置が実現された。 (注3)男女が、社会の対等な構成員として、自らの意思によって社会のあらゆる分野における活動に参画する機会に係る男女間の格差を改善するため必要な範囲内において、男女のいずれか一方に対し、当該機会を積極的に提供すること (注4)高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律(平成18年法律第91号) (注5)様々な心身の特性や考え方を持つすべての人々が、相互に理解を深めようとコミュニケーションをとり、支え合うこと。「心のバリアフリー」を体現するためのポイントは、「ユニバーサルデザイン2020行動計画」(平成29年2月20日ユニバーサルデザイン2020関係閣僚会議決定)では、以下の3点とされている。 (1)障害のある人への社会的障壁を取り除くのは社会の責務であるという「障害の社会モデル」を理解すること。 (2)障害のある人(及びその家族)への差別(不当な差別的取扱い及び合理的配慮の不提供)を行わないよう徹底すること。 (3)自分とは異なる条件を持つ多様な他者とコミュニケーションを取る力を養い、すべての人が抱える困難や痛みを想像し共感する力を培うこと。 (注6)平成30年には公共交通事業者等によるハード・ソフト一体的な取組の推進等を規定する等の改正を行い、また令和2年には公立小中学校等を特別特定建築物としてバリアフリー基準適合義務の対象に追加する等の改正を実施。 (注7)自分の法的行為の利害得失を合理的に判断する能力。 (注8)精神保健及び精神障害者福祉に関する法律(昭和25年法律第123号) (注9)人工呼吸器による呼吸管理、喀痰吸引その他の医療行為を指す。 (注10)医療的ケア児及びその家族に対する支援に関する法律(令和3年法律第81号) (注11)聴覚障害者等による電話の利用の円滑化に関する法律(令和2年法律第53号) (注12)障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(平成25年法律第65号) (注13)障害者の雇用の促進等に関する法律(昭和35年法律第123号)に定められたもの (注14)障害者による文化芸術活動の推進に関する法律(平成30年法律第47号)