資料3 障害者差別解消法に基づく基本方針の改定について 令和4年8月29日 障害者政策委員会 委員長 石川准 様 委員 竹下義樹 p1 1 差別について 差別には嫌がらせ(ハラスメント)が含まれることを明記すべきである。 理由 障害を理由とし個人の尊厳を侵害することを目的として、またはそのような効果をもたらす行為は差別として禁止されるべきことについては、障害者権利条約第5条の「平等及び無差別に関する一般的意見第6号」でも指摘されていることである。 2 正当化事由について (1)正当化事由の立証責任は、行為者が負うことを明確にすべきである。 理由 障害または障害に関連する事由を理由とする異なる取扱いは原則として差別に該当し、行為者の目的ややむを得ない事情は行為者しかわからないからである。 (2)正当化事由の具体例は示すべきではない。 理由 正当化事由にあたるか否かは、同じ事象であっても対応や場面によって判断が異なることが想定できるし、具体例を挙げてしまうと当該事例が一律に正当化事由にあたると誤解される可能性があり、拡大解釈を招きかねない。正当化事由の具体例を挙げるのではなく、合理的配慮の提供によって差別的取扱いを回避できる事例を数多く挙げることにより、良好な関係に誘導することができるのである(日弁連平成27年7月16日付「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律のガイドラインについての意見書」参照)。 なお、旅客船や航空機の利用における具体例が示されているが、大阪高裁 平成20年5月29日判決及び日弁連の令和元年10月29日付 人権救済申立事件における勧告書は搭乗拒否における正当化事由を否定していることも参照すべきである。 3 合理的配慮の提供における過重な負担について (1)過重な負担にあたる旨の主張は、事業者において資料を示して過重な負担にあたることを立証する責任がある。 理由 過重な負担になるかどうかの判断にあたっては、経済的・財政的な負担の有無や程度、業務遂行に及ぼす影響、あるいは技術的な難易度等が考慮されることになるが、過重な負担にならないことを障害者が資料を収集して立証する等ということは極めて困難である。「過重な負担」が拡大解釈されることは極めて危険であり、単に抽象的に「困難である」とか、「負担が大きい」といった主張だけでは足りず、具体性を以て根拠資料が示されることが建設的対話を進める上では極めて重要な要素である。 p2 (2)過重な負担にあたるか否かについての具体例は示すべきではない。 理由 同じ具体例であっても、場面により、事業規模により、あるいは合理的配慮の提供の可能性によって判断が異なるからであり、具体例が一律に「過重な負担」にあたるとは言えないからである(前記日弁連意見書参照)。 4 合理的配慮を求める者に対する不利益取扱いの禁止について 合理的配慮を求めた者に対し、不利益取扱いをしてはならないことを明記すべきである。 理由 改めて示す必要もないと思うが、障害者雇用促進法に基づき定められた合理的配慮指針においても、そのことが明記されていることを喚起すべきである。 5 合理的配慮の提供と環境の整備との関係について (1)社会的障壁の除去を必要としている障害者が現に存する場合、それが環境整備に該当することを理由に合理的配慮の提供を拒絶してはならないことを明記すべきである。 理由 法的義務として課せられている合理的配慮の提供として検討されるべき事例であるにもかかわらず、努力義務として定められている環境整備の一例として取り扱われてしまうと、個々の対応が不十分、あるいは不適切な結果となってしまう可能性がある。たとえば、内閣府が作成している合理的配慮の提供等事例集において、環境の整備の事例として、2-(1)-4では「試験や受験の当日には合理的配慮の提供を受けられるが、日常の勉強で使える障害に対応した練習問題が少ない」が掲げられており、「過去問等を電子テキスト化し、パソコンの読み上げ機能で使える問題集を作成した」という事例が掲げられている。それらの事例が合理的配慮の提供としては位置づけられず、環境の整備の事例として挙げられることによって合理的配慮の提供が否定されてしまっている。 (2)合理的配慮の提供としては「過重な負担」に該当すると判断される場合であっても、そのことが環境の整備として検討すべきであることを明記すべきである。 理由 個別の場面では合理的配慮としては過重な負担にあたるとしても、多数の障害者にとって社会参加のための社会的障壁に該当する場合には、社会環境の問題として速やかな改善が必要となる場合がある。