資料3 第85回障害者政策委員会障害者基本計画(第5次)の実施状況についての意見 石橋大吾(全日本ろうあ連盟) p1 ○資料2−1障害者基本計画(第5次)の実施状況(令和6年度)について 1.差別の解消、権利擁護の推進及び虐待の防止 項目番号 1-(1)-1 意見 ・障害者虐待の相談支援専門員の中に、手話言語や聴覚障害に関する専門的な知識を十分に有している方はほとんどいません。きこえない・きこえにくい人への適切な支援を行うためには、手話言語や聴覚障害に関する理解を深める研修を実施し、幅広い障害に対応できる相談支援専門員の人材育成を推進してください。 特に盲ろうまた聴覚障害の特性を知らない方々が多いのが現状です。特性をしてもらい適切な支援をするためのを研修を行っていただくとともに、聴覚障害者情報提供施設、ろうあ者相談員と連携を取って対応できるような体制を整えてください。 項目番号 1-(1)-2 意見 ・強度行動障害支援者養成研修においても、手話言語や聴覚障害について専門的な知識を学べる内容を盛り込み、きこえない・きこえにくい人を含む幅広い障害に対応できる相談支援専門員の人材育成を促進してください。 項目番号 1-(1)-3 意見 ・きこえない当事者の相談員また手話言語で対応できる人材配置ができるように育成等を促進してください。 項目番号 1-(1)-4 意見 ・相談支援専門員には、手話言語や聴覚障害について専門的な知識をもっている人が少なく、きこえない・きこえにくい人への支援の質を高めるため、研修に手話言語や聴覚障害に関する内容を含め、幅広い障害に対応できる人材育成を推進してください。また、成年後見制度においては、きこえない人の意思形成・意思決定支援が充分に行えるよう、手話通訳を含めた情報保障を確保し、きこえない者の相談支援を業務としている聴覚障害情報提供施設等とも連携強化をしてください。 項目番号 1-(1)-5 意見 ・相談支援専門員の研修においては、手話言語や聴覚障害に関する内容を必須とし、きこえない・きこえにくい人を含む多様な障害に対応できる人材育成を推進してください。・きこえない者の意思決定支援の現場では、きこえない者の相談員等がきこえる手話通訳者の意思疎通を補うケースがあるので、きこえない者の手話通訳者の養成、派遣制度についても検討してください。 p2 項目番号 1-(1)-6 意見 ・きこえない・きこえにくい人の相談支援を業務としている聴覚障害者情報提供施設等とも連携してください。 項目番号 1-(1)-7 意見 ・きこえない・きこえにくい人が安心して相談できるよう、手話言語による相談体制の整備が必要です。手話通訳者の配置や電話リレーサービスの「手話リンク」の導入を検討し、誰もが平等に相談できる環境を整えてください。 項目番号 1-(1)-8 意見 ・聴覚障害と知的・精神障害を併せ持つ方への支援が可能となるよう、複合的な障害に対応できる人材の育成と研修体制の整備を進めてください。 項目番号 1-(1)-9 意見 ・きこえない・きこえにくい人の相談支援を業務としている聴覚障害者情報提供施設等とも連携しながら、手話言語で対応できる体制を整えてください。 項目番号 1-(2)-1 意見 ・(国土交通省、環境庁)今年10月、デフリンピック観戦のために都内のホテルを予約しようとしたきこえない方が、障害を理由に宿泊を拒否された事例がありました。このような差別的対応が起こらないよう、障害者差別解消法の趣旨をすべての事業者に対して徹底的に周知し、実効性ある監督体制の整備を強く求めます。 項目番号 1-(2)-2 意見 ・現行の日本産業規格「JISX8341-31」では、手話言語がAAA基準に位置づけられており、AA基準を満たすことが求められる行政HP等では対応してもらえません。2025年6月に手話施策推進法が成立したことを踏まえ、手話言語の位置づけをAA基準に引き下げるか、別枠での対応を可能とするよう規格の見直しをしてください。 項目番号 1-(2)-3 意見 ・都道府県及び市町村の差別支援地域協議会にきこえない当事者参画の状況を示してください。 項目番号 1-(2)-6 意見 ・きこえない・きこえにくい人からの相談、通報に迅速に対応するためには、ハローワークに手話通訳者(手話協力員)が常時いることが必要です。なお、遠隔手話通訳サービスが実施されているハローワークもありますが、きこえない・きこえにくい人の手話言語の状況、相談、通報の内容によっては遠隔手話通訳では対応できないケースがあるので、対面での手話通訳も配置する必要があります。それらを踏まえた制度設計をしてください。 項目番号 1-(2)-7 意見 ・きこえない・きこえにくい人が安心して相談できるよう、手話言語による相談体制の整備を進めてください。手話通訳者の配置や遠隔手話通訳の活用など、複数の手段を確保してください。 p3 項目番号 1-(2)-9 意見 ・各種国家試験において手話通訳者が必要な場合は、すべての会場で確実に配置できる体制を整えてください。 ・(警察庁)運転免許制度に関して、すべての運転免許センターに手話通訳ができる職員が配置されているわけではなく、タブレット対応のみの施設もあります。手話通訳者の常駐や対面通訳の対応強化を含めた改善をしてください。また、きこえない高齢者の認知機能検査については、聴覚障害の特性に配慮した試験方法への見直しが必要ですので試験内容の検討をお願いします。また、きこえない当事者に手話通訳が同行した場合にも、手話通訳ができるように配慮をしてください ・(文科省)大学入学者選抜実施要項では、きこえない志願者への配慮が明記されています。ただ、ろう学校教員が通訳を担ったというケースもあり、試験の公平性に疑義が生じる可能性があります。大学入学共通テストにおける手話通訳は、自治体や聴覚障害者情報提供施設等の公的機関からの通訳派遣を原則としてください。 2.安全・安心な生活環境の整備 項目番号 2-(2)-2 意見 ・緊急時において、きこえない・きこえにくい人が安全に避難できるよう、視覚的な情報による誘導や案内を接遇ガイドラインに明記し、現場での徹底を図ってください。また、ソフト面でのバリアフリー化を一層推進し、職員への研修やマニュアル整備なども強化してください。また、きこえない・きこえにくい人が運転中でも、パトカー、救急車、消防車などの緊急車両の接近を視覚的な情報で認識できるようにし、その対応をガイドラインに盛り込んでください。 項目番号 2-(3)-1 意見 ・建築物のバリアフリー化においては、物理的な整備(ハード面)だけでなく、情報提供や接遇対応などのソフト面のバリアフリーも各種基準に明記し、包括的な整備を推進してください。きこえない・きこえにくい人にとって、視覚的な案内や手話言語による対応などが不可欠です。 項目番号 2-(3)-8 意見 ・商品購入やサービス利用において、きこえない・きこえにくい人が情報にアクセスできるよう、手話言語による案内や手話リンクの導入を進めていください。今後、各省庁における手話リンクの導入予定についてお聞かせください。 項目番号 2-(4)-6 意見 ・公衆トイレにおいて、便房内で想定外の事態が発生した際に、きこえない人が外部へ連絡できるか等、安全性の検証を行ってください。 p4 3.情報アクセシビリティの向上及び意思疎通支援の充実 項目番号 3-(1)-2 意見 ・現行の日本産業規格「JISX8341-3:2016」では、AAが達成基準とされており、手話言語に関する項目はAAAに分類されているため、対応をしてもらえません。2025年6月に手話施策推進法が成立したことを踏まえ、手話言語による情報保障を制度的に位置づけるためにも、JIS規格の達成基準の見直しを行い、手話言語をAA基準に引き下げるか、もしくは別枠での対応を可能とする新たな基準設計を検討してください。 項目番号 3-(1)-7 意見 ・金融庁、現在、金融庁・総務省・厚生労働省など一部の省庁では、電話リレーサービスや手話リンクの導入が進められていますが、他の省庁では未導入のケースが多い状態です。すべての行政機関において、手話言語対応窓口の標準化を推進してください。 ・公共インフラであるにも関わらず、電話で提供されているサービスと同等に利用できないケースが多発しています。関係省庁だけではなく、すべての省庁で電話リレーサービスや手話リンクの普及啓発を各省庁内部や、管轄の事業者に対して行ってください。 項目番号 3-(2)-1 意見 ・手話放送についても、字幕放送や解説放送と同様に、対象放送番組の総放送時間に占める割合(パーセンテージ)による目標設定をしてください。令和4年度の実績では、NHK総合で0.75%、NHK教育で2.87%、在京キー局平均で0.17%と、いずれも1%未満の水準にとどまっており、情報保障としての手話放送の位置づけが極めて限定的です。放送分野における情報アクセシビリティの公平性を確保するためにも、手話放送時間の拡充と数値目標の明示をしてください。 項目番号 3-(2)-2 意見 ・聴覚障害者情報提供施設や障害者放送通信機構では映像ライブラリーが多数制作されています。映像ライブラリー制作の実態を明らかにして、今後ろう者の文化芸術活動、スポーツ、レクリエーションを通じて手話文化の保存・継承発展を図るため全国規模でのアーカイブ機能を構築することにつなげてください。 項目番号 3-(2)-4 意見 ・手話言語による教科書等の編纂・発行をしてください。 項目番号 3-(3)-1 意見 ・意思疎通支援者の養成の取り組みはありますが、必要十分な支援者の確保ができていません。意思疎通支援者確保のためには、その待遇改善を図り、特に若い人たちが意思疎通支援者をめざせるようにしてください。人材育成と並行し意思疎通支援者の労働環境・待遇改善を行ってください。 ・若年層を中心とした高等教育機関での人材養成の取り組みと共に、高等教育機関で単位取得を目指せる受け皿の体制を構築してください。 項目番号 3-(3)-2 意見 ・聴覚障害者用の日常生活用具品目は他の障害と比較すると、品目数が乏しく、(製品の価格が上昇しているにも関わらず)基準額が据え置きもしくは減額になっており、きこえない人の負担が増大しています。また聴覚障害者用通信装置の給付品目が現在では使われることが少なくなっているFAXのみに限定されています等、課題が多く早急に品目や基準額の見直しをしてください。 p5 項目番号 3-(4)-1 意見 ・政府ウェブサイトにおいて、手話言語による情報提供の導入を積極的に検討してください。首相会見や官房長官会見には手話通訳映像と字幕版が併せて掲載されている一方で、国会関連の動画(衆議院・参議院内閣委員会等)では、字幕の付与が一部欠如している事例が見受けられます。国会中継も含め、すべての公的映像コンテンツに対して、手話通訳および字幕の標準化を図り、きこえない・きこえにくい人が平等に情報へアクセスできる環境整備をしてください。 項目番号 3-(4)-5 意見 ・政見放送における手話通訳および字幕の付与については、現在「持ち込みビデオ方式」に限って候補者の任意で対応可能となっており、スタジオ録画方式では原則として付与されていません。この仕組みでは、候補者の所属や方式によって情報保障の有無が左右されるため、きこえない・きこえにくい有権者がすべての候補者情報にアクセスができていません。選挙における情報アクセスの平等を確保するため、すべての政見放送に対して一律に手話通訳および字幕を付与できる制度的枠組みの整備をしてください。 4.防災、防犯等の推進 項目番号 4-(1)-1 意見 ・きこえない当事者団体と連携しながら地域防災計画作成や防災訓練に参加できるような運営を行っている地域は少なく、きこえない・きこえにくい人が防災訓練に参加できていないことが多く見受けられるので地域の当事者団体や情報提供施設への連絡し状況を改善するようにしてください。 項目番号 4-(1)-3 意見 ・緊急災害時において、きこえない・きこえにくい人が迅速かつ正確に情報を受け取れるよう、リアルタイム手話放送に対応した情報アクセシビリティ機器「アイ・ドラゴン4」を公的機関や避難所、福祉避難所等に設置してください。現在、全国の福祉避難所は約25,000箇所ある一方で、「アイ・ドラゴン4」の設置台数は250台程度にとどまっており、情報保障の体制が著しく不足しています。災害時の命に関わる情報をすべての人に届けるため、きこえない人向けの情報アクセシビリティ機器の整備を早急に進めてください。 項目番号 4-(1)-5 意見 ・避難所にきこえない・きこえにくい人への情報提供手段である手話・字幕付き放送視聴機器(アイ・ドラゴン)の未設置状況の把握を行い、設置するようにしてください。4-(3)-1・無人交番への対応として手話リンクの導入を促進してください。それぞれ都道府県ごとの導入件数を教えてください。4-(3)-2・きこえない人へ適切な対応ができていない警察官が多く見受けられます。どのような研修を行っているか、研修内容や実施状況を教えてください。 p6 項目番号 4-(4)-3 意見 ・行政機関や公共サービスにおいて、きこえない・きこえにくい人が手話言語で円滑に情報を取得・相談できるよう、手話リンク等のICT技術を活用した体制整備を進めてください。特に、ウェブサイトや窓口業務において、遠隔手話通訳や手話動画による案内機能を標準化し、誰もが平等にアクセスできる環境の構築をしてください。 ○全体を通した意見 福祉計画の「基本理念」および「基本原則」が実際に十分に実現されているとは言い難く、成果目標が未達成である場合には、その理由を明確に示すべきです。加えて、本計画を取り巻く状況は、民間事業所における合理的配慮の義務化や手話施策推進法の制定など、大きく変化しています。これらを踏まえ、計画全体の見直しを行い、障害者施策が「恩恵的」な枠組みにとどまらず、権利保障に基づく制度として再構築されることを強く求めます。 公営住宅や公共輸送機関を含む公共施設においては、手話言語をはじめとする視覚的情報による安全・安心な利用が可能となるよう、案内表示や避難誘導、職員対応などの体制整備を進めていただきたいです。 厚生労働省の調査結果(2023年度)では、障害者施策が依然として家族や善意の支援者の存在を前提とした構造にあることが示されており、制度的な自立支援の不備が浮き彫りになっています。福祉分野における虐待の減少は、労働分野でのハラスメント対策やジェンダー平等の認識向上によるものであり、福祉分野にも同様の責任意識の浸透が必要です。 成年後見制度の見直しにおいては、国連障害者権利条約に基づく「支援付き意思決定支援」の考え方を踏まえ、手話言語で生きてきた人々に対しては、手話言語による意思形成・意思決定支援が確保されるよう、制度設計と運用体制の改善を求めます。 また、地方自治体における障害者差別解消法の「対応要領」の策定状況は、2025年時点でも未整備の自治体が存在しており、民間事業者に合理的配慮の義務化が進む中で、行政機関が先行して整備すべき責任を果たしていない状況です。未整備自治体の公表と改善支援を含め、国として積極的な対応を求めます。 さらに、「障害者差別解消支援地域協議会」の設置状況についても、差別解消にとどまらず、虐待防止の観点からも重要な役割を担うことが期待されます。全障害種別をそろえた構成員による助言機能の強化や、活動状況の公表を通じて、地域における障害者施策の実効性を高めていただきたいです。 音声言語優位の社会構造は、手話言語に対する認識の低さを背景に、きこえない・きこえにくい人々に多くの困難を押し付けてきました。その根本的な原因は、これまでの施策が不十分であったことにあると考えます。 近年、若年層の手話通訳者養成など新たな取り組みが示されていますが、現場の実態を踏まえると、手話通訳士・通訳者の高齢化、地域的偏在、健康課題などが深刻化しており、現状の施策では不十分です。特に、ろう者の参政権(投票権)や言語権の保障に直結する手話通訳者の不足は、制度的対応が急務です。 p7 聴力障害者情報文化センターの調査では、2009年から2019年にかけて手話通訳士の高齢化が進行し、性別の偏りも顕著であることが示されています。また、全国手話通訳問題研究会の調査では、雇用された手話通訳者のうち「やめたい・続けられないかもしれない」と回答した人の理由として、体力・健康・年齢が大きく影響していることが明らかになっています。2020年時点で、体力・健康上の理由を挙げた人は44.8%、年齢を挙げた人は44.3%に達しており、担い手の健康状態と年齢構成が制度維持の大きな課題となっています。 さらに、地域的偏在も深刻です。人口10万人当たりの手話通訳士数は、佐賀県が1.27人と最も少なく、東京都はその約5倍の6.59人となっており、地域によって言語保障の格差が生じています。これは、ろう者の参政権や言語権を脅かす状況であり、早急な制度的対応が必要です。 これらの課題を抜本的に改善するためには、手話通訳技能認定試験(手話通訳士)を国家資格化し、資格制度の充実と担い手の安定的確保を図ることが不可欠です。国家資格化を視野に入れた制度設計と政策提起を要望いたします。 ○資料2-3障害のある女性委員の人数等について ジェンダーバランスの確保も非常に重要な課題ですが、身体障害についても一括りにするのではなく、視覚障害・聴覚障害・肢体不自由といったそれぞれの当事者が、政府関係の会議に委員として参画し、その声が政策に反映される仕組みを整えてください。(例:厚生労働省労働政策審議会障害者雇用分科会など)