障害を理由とする差別を禁止する法制に関する意見募集の結果について 平成25年3月 内閣府障害者施策担当 障害を理由とする差別を禁止する法制について、国民の皆様からの御意見を募集したところ、以下のとおり御意見をいただきました。今般、お寄せいただいた御意見をとりまとめましたので公表いたします。 1.意見募集の概要 ○ 意見募集の対象 障害を理由とする差別を禁止する法制について ※ 参考資料として「障害を理由とする差別の禁止に関する法制」についての差別禁止部会意見を掲載 ○ 意見募集期間 平成24年10月5日(金)から11月5日(月)まで  ・意見募集の告知方法   電子政府の総合窓口(e-gov)及び内閣府ホームページに掲載  ・意見の提出方法   電子メール、郵送又はFAXのいずれかの方法 2.結果の概要 ○ 意見総数 1,081件(うち、個人916件、団体165件) ※ 氏名・連絡先の記入があった御意見の延べ数。同一の方が多数の御意見を提出された り、同内容の御意見を幾度も提出された事例が多く見られ、御意見を提出された方の実数は把握していません。 ○ 頂いた意見の概要  この意見募集は、障害を理由とする差別の禁止に関する法制について国民の問題意識をできるだけ幅広く把握するために行ったものであり、また各々の意見の分類は極めて困難なため、内訳についての集計は行っていません。 以下に掲載している御意見は、当方で整理又は要約したものです。  @ 法制の必要性や総論に関する意見 (法律の必要性についての意見) ・ 部会意見に沿った法制化を望む。 ・ 差別禁止法は障害のある人が障害のない人と同様に権利を行使し、地域生活を送るために不可欠な法律である。 ・ 具体的に何が差別に当たるかについての明確な「物差し」を共有することが必要である。 ・ 部会意見を読む限り、差別をなくすべきと思う心と、自分の思いがけない行動が結果として差別とされた上に法で裁かれるのはかなわないと思う気持ちの両方を感じる人が多いのではないか。障害者と関わることに難しさを感じ、結果として避けてしまうようになることを懸念。 ・ 誰かを罰するためではなく、障害のある人に対する理解を深めるために法律が必要である。 ・ 事業者は障害者の話をほとんど聞いてくれない。話し合いをしやすくするためにも差別禁止法が必要である。 ・ 現に障害者に対する激しい差別が存在する以上、差別禁止法が必要である。 ・ 国民の差別に対する意識が低く、マナーに頼っていても問題は解決しないので、罰則を含めて法整備を行うことによって社会の意識を変える必要がある。 ・ 差別禁止法は、障害者の人権を守るために他人の人権を奪う法であり、認められない。 ・ 裁判等において根拠法として使える法律が必要である。 ・ 「合理的配慮の不提供」を差別と位置付けることで、社会インフラの整備が進むことが期待できる。 (法案の名称について) ・ 「障害者」「差別」という文言を極力使わない方が一般に受け入れられやすいのではないか。 ・ この法律の目指すところが、障害ゆえに社会から排除されないことであり、共生社会の実現を目指すものであるなら、法律名は「共生社会実現のための社会参加均等法」等目指す社会の在り方について提案し、一般市民はもちろん障害当事者も親しみやすい柔らかな表現を求めるべき。 (差別の定義について) ・ 差別の類型化に当たっては、社会の変化を前提として、固定的に定めるべきではない。 ・ 「合理的配慮」は、障害者が生活できるという意味で合理的なものでなければならない。 ・ 「合理的配慮」が本人の望まない「形だけの配慮」の押し付けにならないよう、本人の請求を踏まえることが重要であることを明確にすべき。 ・ 「合理的配慮」に「障害者の求め」といった申請主義的な前提を盛り込むべきではない。 ・ 「合理的配慮」には、日本の現状では実現困難なものが多く、差別と位置付けても実効性がないどころか、障害のある人とない人とのトラブルが増え、その調整に労力を要し、法律の理念・目的とはかけ離れたものになるのではないか。関係者の意見を十分に聴取した上で、実効性のある法律としてほしい。 ・ 法律の実効性を確保するためには、「過重な負担」の定義をあいまいにすべきでない。 ・ 「合理的配慮の不提供」に関する作為義務は、資本主義国家においては、民間事業者にまで課すべきではない。 ・「合理的配慮」について、誰もが明確に判断できるわかりやすい具体例を伴うガイドラインが必要である。 ・ 何が「合理的配慮の不提供」に当たるかについては、企業としても今後の対応や配慮に苦慮している。現場の声を聴いてほしい。 ・ 分野別のガイドラインは、業界団体の圧力でゆがめられないよう、内閣府が最低限の基準を示すべきである。 (その他) ・ この法律は、障害者に特別な権利を与えるものではなく、他の者との平等を保つために必要なものであるという点を特記すべき。 ・ 国民の意識を根本から変えないと、法律を作っても実効性を持たないのではないか。 ・ 法制化するならば、無責任なスローガンの押し付けは許されない。あらゆる障害について国民が理解すべき知見と具体的な対処法を国として提示し続ける必要がある。 ・ 法の施行に当たり現場が混乱しないよう、周知・準備のための時間を十分に取ってほしい。 ・ 法律により障害者が守られるというメリットの一方、人々から「助け合い」の気持ちが薄れてしまうことを懸念する。法制の趣旨の説明会などを国として行ってほしい。 ・ 差別禁止部会における議論は、差別される側と差別する側が徹底して議論し相互理解をする、という姿勢がなく、社会的理解の醸成のための議論の工夫も時間も不足している。 ・ 障害のある女性や子どもに対する差別についても規定すべき。 ・ 障害者手帳保持者とそうでない障害者の格差、障害種別間の格差など、障害者間格差にも目を向けるべき。 ・ 法律で地方自治体の差別禁止条例の制定を義務付けるべき。 A 各分野における差別の禁止に関する意見 (教育) ・ 本人や保護者の意見を反映されずに就学先が決まる分離教育は差別である。 ・ 障害を抱えて生きる術を学ぶために特別支援学校があり、普通学級では対処の難しい障害児を無理に普通学級にいれるべきではない。 ・ 普通学校への通学や学校内外での学習に当たり、障害を理由として保護者の付き添いを条件にしたり、強要することは差別である。 ・ 学校教育における障害者の隔離や分離が無知や差別を助長している。 ・ 普通学校への障害児の入学については、現実問題として、普通学校に通うことで学習が遅れたり、事故やけがなどで症状を悪化させたといった事例などの存在も考慮して論じるべき。 ・ 差別のない就学を可能とするためには、教育予算面での十分な措置や、少人数学級や過重労働の軽減などの環境整備が必要であり、それを視野に入れた法制が必要。 ・ 聴覚障害児にとって、普通学校とともに聴覚障害のための教育施設が選択しうる環境の1つであることに留意すべき。 ・ 文部科学省との十分な調整を行い、現行制度や中央教育審議会特別支援教育部会の審議内容との整合性を図った対応を望む。 ・ 入試や定期試験において、障害の特性に応じた「合理的配慮」がされるべき。 ・ 知的障害のある子どもも高校に通えるように入試の採点で「合理的配慮」がされるべき。 (雇用) ・ 雇用において、障害を理由とした採用拒否を行うことは差別である。 ・ 雇用において、自力での通勤・職務遂行を条件にすることは差別である。 ・ 障害者雇用率のダブルカウントや最低賃金の除外特例等は差別として見直すべき。 ・ 雇用に関してあまりに杓子定規な規定がされると障害者雇用が減っていくことを懸念。雇用や就労について策定する際には、当事者の意見だけでなく、雇用をしている企業や支援をしている機関の意見等を踏まえるべき。 (公共交通) ・ 障害者が必要な時に必要な交通手段が選べないことや、乗車位置を勝手に決められることは差別である。 ・ LCCや高速ツアーバスなど、バリアフリー化に逆行するような公共交通機関が増えてきており、法律で「合理的配慮」を確実に提供させる必要がある。 ・ タクシー事業について、@身体障害者に対する運賃割引等のサービスを提供するために必要な手帳の確認等の行為は、差別禁止の対象となる「運送に必要な手続きや条件の付加」に当たらないこと、A障害者の安全輸送のために乗客に対し障害の種別や様態等の情報を得るための行為は「不均等待遇」に当たらないこと、B経営基盤が脆弱な中小事業者が多い実態に鑑み、福祉タクシーの配車が常に「合理的配慮」とされないこと、を明確にされたい。また、福祉専用車の導入は大きな負担であり、まずは行政による補助の拡充が必要。 (福祉) ・ 知的障害者が本人の意思に反して親等の意向により施設に入れられることは差別である。 ・ グループホーム等の建設に対して不当な反対運動や必要以上の制限を求めることを禁止する規定が必要。 ・ 部会意見の「入所中の障害者にとって多くの場合は結婚という生活スタイルの選択肢はない」という記述は事実と異なり、障害者支援施設に対して誤解を与えかねないので撤回すべき。 ・ 市町村毎に障害者に対する福祉サービスの水準が異なることが差別である。 (その他) ・ 店員や乗務員が障害者本人ではなく介助者のみを相手にすることは差別である。 ・ 各種問い合わせ先に電話番号しか書いていないことは、聴覚障害者に対する差別である。 ・ あらゆる分野においてもコミュニケーションが前提になることから、「情報・コミュニケーション」に関する規定を明記すべき。 ・ 「お金がない」ということを言い訳に適切な情報保障を行わないことは差別である。 ・ 不動産賃貸において、車いすで生活していることを理由に入居を断られるのは差別である。 ・ 飲食店で、混雑しているときに車椅子で入店すると嫌な顔をされたり入店拒否をすることは差別である。 ・ 結婚情報提供事業者は、ほとんどが中小企業であり、かつ、長期にわたり情報提供を行うという性質を持つため、個々人の障害の状況に合わせて人員を配置することは現実的に困難。また、一般論として、入会希望者が期待する結婚の目的を達成するのに十分な相手の紹介が困難と考えられる場合は、そもそも入会を断らざるを得ないというのが現状(消費者センターから「相手に十分なサービス提供が困難であると知っていながら入会契約を締結するのは不当」と指導されることがある)。 ・ 捜査や公判段階において障害に起因する不利益を受けないようにするために、障害の特性に適切な対応をすることができる人材の確保、配置が必要。 B 紛争の解決等に関する意見 ・ 法の実効性を確保するために、差別が起こった時の救済措置を明記すべき。 ・ 障害者が困ったときにいつでも気軽にサポートを受けられる救済機関を設置すべき。 ・ 司法による紛争解決では当事者の負担が大きくなるため、簡易迅速な紛争解決の仕組みが必要。 ・ 既存の組織やボランティアは、現状の任務だけでも手一杯であり、あてにすべきではない。 ・ 法曹関係者を入れた救済機関が必要。 ・ 救済機関には、障害当事者や障害者支援をしている専門家の参加が必要。 ・ 救済機関による裁定等には裁判所の判決に準じる法的効力を与えるべき。 ・ 紛争解決に向け、強制力のある行政指導が行えるようにするべき。 ・ 悪質な事案に対応するため、第三者機関に調査権限や出頭命令権限を持たせるべき。 ・ 国民に対して法律を迅速に浸透させるために、差別禁止法には罰則を設けるべき。 ・ 言動等による差別など、現場で取り押さえていないと罰することが難しいため、現行犯逮捕規定が必要。 ・ 教育分野における差別については、当事者と学校関係者以外の第三者からなる救済機関が必要。 C その他の意見 ・ 正しく障害を伝えることや、助け合いの心を早期教育から行っていくことが差別をなくしていくことにつながる。 ・ 資格試験等の欠格条項の見直しを徹底すべき。 ・ 視覚障害者の情報アクセシビリティについて行政が積極的に指導すべき(例:スマートフォンなど、タッチパネルでしか操作できないツールは、視覚障害者にとって操作が難しい)。 ・ 聴覚障害者の情報保障とコミュニケーションのための取組を進めてほしい。 ・ 自ら(又はその周囲の人)が受けた差別体験の紹介(教育、雇用、公共交通機関、飲食店、不動産賃貸、医療、福祉施設等)。 いただいた御意見は、今後の法案化作業の参考とさせていただきます。 (以上)