p1  1. 調査研究の概要  1.1 調査研究の目的  障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(平成25年法律第65号。以下「障害者差別解消法」という。)附則第7条においては、施行(平成28年4月)後3年を経過した場合に事業者による合理的配慮の在り方その他の施行状況について所要の見直しを行う旨規定されている。このため、障害者政策委員会において議論が行われ、令和2年6月に意見書が取りまとめられた。当該意見書等を踏まえ、事業者に対し合理的配慮の提供を義務付けるとともに、行政機関相互間の連携の強化を図るほか、障害を理由とする差別を解消するための支援措置を強化する措置を講ずることを内容とする同法の改正法が令和3年5月に成立・同年6月に公布された。  これを踏まえ、今後、改正法の施行に向け、地域の実情その他の実態等を踏まえつつ、今後の効果的な相談体制の整備、事例収集・共有の在り方等についての基本的な考え方を検討・提示するための調査研究を行う。    1.2 調査研究の実施経過  本調査研究の概要と実施経過は以下のとおりである。    1.2.1 検討会の開催  調査研究企画、進捗管理、結果分析、報告書のとりまとめを行うために「障害者差別の解消に向けた相談体制、事例の収集・共有の在り方等に関する検討会」を構成し、運営した。  検討会は、地方公共団体、障害者団体、事業者団体、有識者等10人を構成員とし、関係省庁をオブザーバーとした(委員名簿については、巻末奥付を参照)。  検討会の開催経過は以下のとおりである。    図表1 検討会の開催経過  第1回  日時 令和3年7月28日(水)10時30分〜12時30分  議題 (1)開会     (2)出席者紹介     (3)調査計画の検討        @調査計画(案)について        A地方公共団体悉皆調査への意見・要望        B好事例調査(ヒアリング)の対象・項目の確認     (4)構成員の相談体制の在り方に関する課題意識共有    第2回  日時 令和3年9月14日(火)10〜12時  議題 (1)開会     (2)出席者紹介     (3)地方公共団体へのヒアリング(好事例調査)       ・千葉県     (4)ヒアリング内容に関する質疑応答・意見交換     (5)相談体制のあり方に関するフリーディスカッション     (6)その他の調査の進捗状況報告    第3回  日時 令和3年9月30日(木)9時〜12時30分  議題 (1)開会     (2)出席者紹介     (3)自治体・地域への好事例ヒアリング       ・長野県上小圏域       ・兵庫県明石市       ・岡山県総社市       ・福岡県北九州市     (4)好事例ヒアリングに係る質疑応答・意見交換     (5)相談体制のあり方に関するフリーディスカッション    第4回  日時 令和3年10月28日(木)10時〜12時  議題 (1)開会     (2)「障害者差別の解消の推進に関する地方公共団体への調査結果」(速報値)報告     (3)類似制度調査ヒアリング結果報告     (4)相談体制のあり方に関するフリーディスカッション    第5回  日時 令和3年12月24日(金)13時〜15時  議題 (1)開会     (2)行政職員ヒアリング調査結果報告     (3)有識者ヒアリング調査結果報告     (4)「障害者差別の解消の推進に関する地方公共団体への調査結果」クロス集計報告     (5)相談体制のあり方に関する協議    第6回  日時 令和4年2月14日(月)13時〜15時  議題 (1)開会     (2)障害者差別の解消に向けた相談体制、事例の収集・共有の在り方について(今後の方向性)    第7回  日時 令和4年2月25日(金)10時〜12時  議題  (1)開会      (2)報告書の全体構成      (3)障害者差別の解消に向けた相談体制、事例の収集・共有の在り方について(今後の方向性)       ※全回、WEB会議方式で実施。   p2  1.2.2 地方公共団体悉皆調査・相談事例調査の実施  都道府県47件、市区町村1,741件(悉皆)を対象として、障害者差別の解消に向けた相談の実態を把握した。  また、23省庁(各省庁が所管する独立行政法人等も含む)を対象として、相談事例について、別途調査を行った。 p3   図表2 地方公共団体悉皆調査・相談事例調査の調査対象・回収状況  1  区分 都道府県  調査対象数 47  回収数 47  回収率 100%    2  区分 市区町村  調査対象数 1,741  回収数 1,741  回収率 100%    3  区分 省庁  調査対象数 23  回収数 23  回収率 100%    図表3 公共団体悉皆調査・相談事例調査の結果概要    【単純集計】  〇相談対応を行う体制について、全体でみると、「ワンストップ相談窓口を設置又は指定」が最も多く43%、次いで「明確な相談体制はなく、相談を受けた部署や通常の相談窓口で対応をしている」が38%、「統一的な解釈・判断を行う部局等を指定」が21%であった。  〇ワンストップ相談窓口が設置されている場合の組織について、全体でみると、「障害者施策主管部局や福祉事務所等」が最も多く90%、次いで「民間事業者、民間団体等」が5%、「その他」が3%であった。  〇相談実績、件数カウントの有無について、全体でみると、「相談実績がない」が最も多く72%、次いで「相談実績があり、相談件数をカウントしている」が16%、「相談実績があるが、相談件数をカウントしていない」が13%であった。自治体区分別でみると、「都道府県」「指定都市」は全数で相談実績がある一方、「中核市等1」で相談実績があるのは72%、「一般市2」では35%、「町村」は13%と割合が低くなっていた。  〇地域協議会の設置状況について、全体でみると、「設置済み」が59%、次いで「未定」が33%、「設置予定」が5%であった。自治体区分別でみると、「都道府県」「指定都市」は全数で設置済みである一方、「中核市等」「一般市」「町村」と規模が小さくなるにつれて、設置割合は低くなっていた。自治体規模に応じ、地域協議会の設置について課題があることが伺える。  〇地域協議会の構成メンバーについて、全体でみると、「福祉等」が99%、次いで「障害当事者、障害者団体、家族会等」が88%、「地方公共団体の障害者施策主幹部局」が82%、「医療・保健」が77%、「地方公共団体(障害者施策主幹部局を除く)」が77%、「教育」が63%、「事業者」が58%、「国の機関」が50%であった。  【クロス集計】  〇地域協議会の設置状況について、相談実績別でみると、「設置済み」は、「相談実績があり、相談件数をカウントしている」で79.5%、「相談実績があるが、相談件数をカウントしていない」で64.4%、「相談実績がない」で52.3%であった。相談実績のある地域のほうが、地域協議会の設置率は高い傾向にあった。  〇市町村における障害者差別に関する専門性のある相談員の配置有無について、相談実績別でみると、「障害者差別の解消などに関する知識・経験・資格等の専門性を有した者を配置している」割合は「相談実績があり、相談件数をカウントしている」で58.5%、「相談実績があるが、相談件数をカウントしていない」で43.3%、「相談実績がない」で42.1%であった。相談実績のある地域のほうが専門性のある相談員を配置している割合が高い傾向にある。  〇障害者差別の解消に向けた周知啓発の実施状況について、相談実績別でみると、「実施している」は、「相談実績があり、相談件数をカウントしている」で89.8%、「相談実績があるが、相談件数をカウントしていない」で71.2%、「相談実績がない」で56.2%であった。相談実績のある地域のほうが、周知啓発の実施率は高い傾向にある。  〇障害者基本法に基づく審議会その他の合議制の機関の設置状況(令和3年4月1日時点)について、相談実績別でみると、「設置済み」は、「相談実績があり、相談件数をカウントしている」で52.1%、「相談実績があるが、相談件数をカウントしていない」で45.5%、「相談実績がない」で36.1%であった。相談実績のある地域のほうが、審議会等の設置率は高い傾向にあった。  1「中核市等」とは、中核市、特別区及び県庁所在地(指定都市を除く)を示している。  2「一般市」とは、指定都市及び中核市等のいずれにも該当しない市を示している。 p4   1.2.3 詳細調査(ヒアリング)の実施  (1) 相談体制の好事例調査  障害を理由とする差別の解消に関する先進的な取り組みを実施している5自治体を対象に、相談体制構築の取組実態の把握をするとともに、体制構築の課題や解決策を調査するため、ヒアリングを実施した。    図表4 相談体制の好事例調査の実施経過  1   調査対象 千葉県  実施日時 令和3年9月14日(火)10〜12時(第2回検討会)    2   調査対象 長野県上小圏域  実施日時 令和3年9月30日(木)9時〜12時30分(第3回検討会)    3  調査対象 兵庫県明石市  実施日時 令和3年9月30日(木)9時〜12時30分(第3回検討会)    4  調査対象 岡山県総社市  実施日時 令和3年9月30日(木)9時〜12時30分(第3回検討会)    5  調査対象 福岡県北九州市  実施日時 令和3年9月30日(木)9時〜12時30分(第3回検討会)  ※全件、WEB会議方式で実施。 p5   図表5 相談体制の好事例調査からみえた相談体制構築パターン  本事業では、本事業内で実施した好事例調査に基づき、都道府県の相談体制を2種類、市区町村の相談体制を6種類に分類した。  都道府県の相談体制は、広域支援相談員配置型と広域連携型の2種類とした。広域支援相談員配置型は、都道府県設置の広域支援相談員等が市区町村を支援する体制である。以降本相談体制を、相談体制分類Aと称する。相談体制分類Aでは、都道府県障害福祉課等に設置された広域支援相談員等の相談員が、市区町村の相談体制を支援する。なおこの際、都道府県に設置された地域協議会等と広域支援相談員等の相談員が連携し、市区町村の協議会や相談体制を支援する場合もある。  広域連携型は、市区町村で相談を受け、困難事例等は広域で支援する相談体制である。以降、本相談体制を相談体制分類Bと称する。相談体制分類Bでは、広域支援相談員等を設置せず、都道府県障害福祉課や都道府県協議会等が、市区町村の相談窓口や協議会を直接支援する方式である。なお、都道府県における相談体制分類AとBでは、それぞれワンストップ窓口を設置する場合としない場合がある。  市区町村における相談体制は、地域協議会を持たない場合と、地域協議会を持つ場合の2つに大別される。それぞれの類型において、窓口の設置形態により3種類に分類する。地域協議会を持たない場合については相談分類ア〜ウ、地域協議会を持つ場合は相談分類エ〜カとし、窓口形態として、複数窓口型、ワンストップ窓口型、重層窓口型の3種類を定義する。複数窓口型は、各部署・機関の窓口で相談を受け付ける方式である。ワンストップ窓口型は、相談を1つのワンストップ窓口で受け付ける方式である。重層窓口型は、ワンストップ窓口と各部署・機関の窓口で重層的に相談を受け付ける体制である。それぞれの窓口形態とその分類名は次の通りとする。  ・相談分類アは複数窓口型(地域協議会無し)  ・相談分類イはワンストップ窓口型(地域協議会無し)  ・相談分類ウは重層窓口型(地域協議会無し)  ・相談分類エは重層窓口・協議会連携型  ・相談分類オはワンストップ窓口・協議会連携型  ・相談分類カは重層窓口・協議会連携型    (2) 行政職員調査  相談体制の運営主体となる行政(10都道府県、13市区町村)の職員を対象に、相談体制の現状や課題等を調査するため、ヒアリングを実施した。    図表6 行政職員調査の実施経過  都道府県  1   調査対象 茨城県  実施日時 11月15日(月)10:30~11:00  2  調査対象 群馬県  実施日時 12月2日(木)9:00~10:30  3  調査対象 福井県  実施日時 12月8日(水)9:00~9:30  4  調査対象 山梨県  実施日時 11月16日(火)10:30~12:00  5  調査対象 岐阜県  実施日時 12月2日(木)9:00~10:30  6  調査対象 三重県  実施日時 11月18日(木)16:00~16:30  7  調査対象 滋賀県  実施日時 12月2日(木)9:00~10:30  8  調査対象 奈良県  実施日時 11月16日(火)10:30~12:00  9  調査対象 広島県  実施日時 11月16日(火)10:30~12:00  10  調査対象 沖縄県  実施日時 11月16日(火)10:30~12:00    市区町村  1  調査対象 宮城県仙台市  実施日時 11月16日(火)15:30~17:00  2  調査対象 千葉県浦安市  実施日時 11月15日(月)13:00~14:30  3  調査対象 東京都大田区  実施日時 12月3日(金)14:30~16:00  4  調査対象 東京都世田谷区  実施日時 11月16日(火)15:30~17:00  5  調査対象 東京都中野区  実施日時 12月9日(木)10:00~10:30  6  調査対象 東京都練馬区  実施日時 12月3日(金)14:30~16:00  7  調査対象 大阪府門真市  実施日時 12月3日(金)14:30~16:00  8  調査対象 大阪府東大阪市  実施日時 11月15日(月)13:00~14:30  9  調査対象 兵庫県神戸市  実施日時 12月1日(水)11:00~11:30  10  調査対象 福岡県福岡市  実施日時 12月8日(水)10:00~10:30  11  調査対象 福岡県古賀市  実施日時 11月17日(水)11:00~11:30  12  調査対象 大分県別府市  実施日時 11月16日(火)15:30~17:00  13  調査対象 沖縄県那覇市  実施日時 11月15日(月)13:00~14:30  ※全件、WEB会議方式で実施。 p6   図表7 行政職員調査の結果概要    【相談体制】  〇調査対象の市区町村の多くは、相談窓口に相談員を配置し、相談対応を実施している。市区町村は、困難事例等について都道府県と連携して対応する場合がある。  〇労働局やハローワーク、法務局や人権擁護委員と連携し、先進地域の研修や近隣地域との会合を活用して相談対応が行われている場合が多い。  〇地域協議会を設置し、事例の共有、法・制度の動向の共有、相談体制の広報に関する検討が行われている場合が多い。  〇相談方法は電話やメール、FAXや来訪が主である。  【広報・周知策】  〇パンフレットやリーフレット、団体向けの出前講座による相談機関へのアクセス向上に向けた広報・啓発を実施している場合が多い。  【人材確保・相談員の育成】  〇相談員として社会福祉士、精神保健福祉士、行政OB等の相談業務経験者を配置している自治体が多く、単発研修やOJTでスキル向上を図っている場合が多い。  【事例の共有・その他】  〇庁内・相談員間で個別事例を共有し、地域協議会では匿名化した概要を共有する場合が多い。  相談体制維持のための予算措置や、広報、事例データベースの整備、研修体制の整備等を国に求めている自治体が多い。 p7  (3) 類似制度の取組調査  関係省庁が実施している相談体制等のうち比較的類似した制度について状況を把握し、実効性のある相談体制の在り方を検討するため、法務省、総務省、消費者庁にヒアリングを実施した。    図表8 類似制度の取組調査の実施経過  1  調査対象 法務省 人権相談  実施日時 2021年10月19日(火)14:00〜15:30  2  調査対象 総務省 行政相談  実施日時 2021年10月6日(水)13:00〜14:30  3  調査対象 消費者庁 消費生活相談  実施日時 2021年10月6日(水)16:00〜17:30  ※全件、WEB会議方式で実施。    図表9 類似制度の相談体制  類似制度調査として実施したヒアリングの結果をもとに、法務省・人権相談、総務省・行政相談、消費者庁・消費生活相談の相談体制について示した。  法務省・人権相談の所轄官庁・担当部署は法務省人権擁護局調査救済課である。相談窓口は、全国50か所に設置された法務局・地方法務局(法務局:8か所、地方法務局:42か所)と、全国261か所に設置された支局に設置されている。相談に対応するのは法務局職員と人権擁護委員(約14000名、ボランティア、法務大臣委嘱)である。  総務省・行政相談の所轄官庁・担当部署は総務省行政評価局行政相談企画課である。相談窓口は、全国50か所に設置された出先機関(管区行政評価局:8か所、行政評価事務所:7か所、行政監視行政相談センター:35か所)に設置されている。総務省行政評価局行政相談企画課は出先機関の監督・指示・支援等を行っている。相談に対応するのは出先機関職員と行政相談委員(約5000名、ボランティア、総務大臣委嘱)である。行政相談委員は市区町村毎に1名以上配置されており、出先機関からの支援を受けて相談に対応している。  消費者庁・消費生活相談の所轄官庁・担当部署は、消費者庁地方協力課であり、消費生活相談を所轄支援等している独立行政法人国民生活センターの監督等を行っている。相談窓口は、消費生活センター、消費生活窓口に設置されている。消費者庁地方協力課と独立行政法人国民生活センターは、消費生活センターや消費生活相談窓口の支援等を行っている。消費生活センターは、都道府県は設置必須、市区町村は努力規定となっている。消費生活相談窓口は、消費生活センターの基準(週4日以上の窓口開所、消費生活相談員の配置、PIO-NETなどの電子情報処理組織その他の設備の配置)を満たさない相談窓口である。現在は、全市区町村に消費生活センターまたは消費生活相談窓口が設置されており、相談に対応するのは消費生活相談員(約3000名、自治体採用)である。 p8   (4) 有識者調査  検討会で相談体制の在り方に関する基本的な考え方等をとりまとめる上で必要な専門的知見を有する有識者の立場から、助言や提案等を聴取するため、3回のヒアリングを実施した。    図表10 有識者調査の実施経過  1  調査対象 検討会 小牟礼構成員、穂苅構成員、又村構成員  実施日時 2021年12月2日(木)13:00~15:00  2  調査対象 佐藤彰一國學院大學教授  実施日時 2021年12月3日(金)10:00~11:00  3  調査対象 日本弁護士連合会  実施日時 2021年12月2日(木)15:30~17:00  ※全件、WEB会議方式で実施。