p161    7. 障害者差別の解消に向けた相談体制、事例の収集・共有の在り方について(今後の方向性)  7.1 基本的な考え方  ・今般、「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」(平成25年法律第65号。以下「障害者差別解消法」という。)が一部改正され、事業者の合理的配慮の提供が義務化されることとなった。障害者差別解消法が平成28年に施行されて以降、障害者団体、事業者、行政機関等など様々な関係者の努力により、障害の有無によって分け隔てられることなく、相互に尊重し合いながら共生する社会の実現に向けた取組が着実に進められている。今般の事業者に対する合理的配慮の提供の義務化はこれらの取組を更に推し進めるものであるが、障害者差別解消の取組を進める上では、障害者に対する支援を行うことはもちろんのこと、義務化の対象となった事業者が適切な取組を行えるよう、相談対応や情報提供などの必要な支援を行うことが不可欠である。地域の住民が、より安心して、暮らしやすい地域となり、共生社会の実現に資するよう、改正法の円滑な施行に向けて、地方公共団体と国は、連携して相談対応、事例の共有等に関する仕組みを整備し、総合的・一体的取組を推進する必要がある。本項では、前項までで整理した調査結果や検討会における議論等を踏まえ、障害者差別の解消に向けた相談体制、事例の収集・共有の在り方について基本的な考え方を整理した上で、取組が必要と考えられる事項等について述べることとする。  ・障害を理由とする差別に関する相談(以下「差別相談」という。)については、現在、国及び地方公共団体に様々な相談窓口が存在している。個々の相談者のニーズに応じアクセスが可能な窓口が複数存在することは重要であり、適切な役割分担の下、これら複数の既存窓口を活用・充実していくことが必要である。相談対応に際しては、差別相談の特性上のニーズに応じたマルチチャンネルでの対応の重要性に留意しつつ、まず相談者にとって一番身近な市区町村が基本的な窓口の役割を果たしつつ、都道府県が市町村への助言や広域的・専門的な事案についてのフォローや必要に応じて一次窓口の役割を行い、国においては各府省庁が所掌事務に応じて相談対応を行うという役割分担を基本とすることが考えられる。障害者差別の解消を推進する立場にある内閣府には、どの機関に相談があろうとも、相談があった機関から適切な機関に対して必要な連携・協力依頼が行われ、適切な対応が図られるよう、国及び地方公共団体の相談体制構築・強化に向けた司令塔としての役割を担うことが求められる。  ・各地域における関係機関のネットワーク構築・強化を図る観点からは、「障害者差別解消支援地域協議会」(以下「地域協議会」という。)の活用も重要である。現状では協議会の設置や運営に課題を抱えている地方公共団体もあることから、構成員や議題、開催形式の工夫等を通じて協議会の活動を活性化させることが求められる。  ・また、差別相談の解決を図るためには、障害者権利条約の理念や障害の「社会モデル」の考え方等を理解した上で、障害者の日常の困りごとから差別事案を拾い上げて適切に対応できる人材・公正中立な立場から相談対応を行える人材が必要不可欠である。具体的には、国及び地方公共団体において、広域支援相談員等その他の相談対応を担う者に対する研修等の実施を通じて、相談対応を行う職員の専門性の向上を図 p162 ることが求められる。この場合においても、人材育成に係る取組に格差が生じることのないよう、内閣府が各省庁や地方公共団体のバックアップを行うことが求められる。  ・さらに、障害者差別の解消を推進するためには、事例の収集・分析・共有を通じて、障害者と行政機関等及び事業者との間で障害を理由とする差別的取扱いや合理的配慮の考え方等に係る共通認識の形成を図るとともに、各相談機関における事案対応力を向上させることが重要である。地方公共団体においては、地域協議会の開催を通じた取組を行うことや、内閣府においては、障害者、事業者、各相談機関等が合理的配慮の提供や相談対応等に当たって参照できるよう、収集事例の蓄積、分析、分析結果の共有等の対応が求められる。  ・上述の基本的考え方に基づき、次の項目以降では、取組が求められる事項についてより具体的に整理することとする。    7.2 障害者差別の解消に向けた相談体制の在り方  7.2.1 相談の実施体制の構築  (1) 障害を理由とする差別に関する相談体制の現状  ・地方公共団体における障害を理由とする差別に関する相談体制については、差別相談を一元的に受け付ける窓口(ワンストップ窓口)の設置や相談員の配置、疑義等が生じた場合に統一的な解釈や判断を行う部局等をあらかじめ定めるといった相談体制の整備を、96%の都道府県、85%の指定都市、83%の中核市等が行っている。一方で、34%の一般市、45%の町村においては、明確な相談体制はなく、相談を受けた部署や通常の相談窓口で対応を行っているのが現状である。  ・半数の都道府県において、市町村の相談機関における相談事案の解決を支援し、また市町村の相談機関では解決が困難な広域的・専門的な相談事案を取り扱う「広域支援相談員等」が配置されており、個別の相談対応や市町村相談員への技術的助言等の業務を行っている。  ・また、地方公共団体悉皆調査のクロス集計結果からは、「相談実績があり、相談件数をカウントしている」地域は、「相談実績があるが、相談件数をカウントしていない」地域や「相談実績がない」地域に比べて、ワンストップ相談窓口、障害者差別の相談員の配置、統一的な解釈や判断を行う部局の設置率が高い傾向にあり、特に「相談実績があり、相談件数をカウントしている」地域ではワンストップ相談窓口の設置率が57%となっており、「相談実績があるが、相談件数をカウントしていない」地域(37%)や「相談実績がない」地域(41%)と比較して高くなっている。  ・地方公共団体における相談体制の構築パターンについて、本調査研究におけるヒアリング等を踏まえて整理すると以下の表のとおりとなる。 p163   図表103 各地方公共団体における現状の相談体制パターン  本事業では、本事業内で実施した好事例調査に基づき、都道府県の相談体制を2種類、市区町村の相談体制を6種類に分類した。  都道府県の相談体制は、広域支援相談員配置型と広域連携型の2種類とした。広域支援相談員配置型は、都道府県設置の広域支援相談員等が市区町村を支援する体制である。以降本相談体制を、相談体制分類Aと称する。相談体制分類Aでは、都道府県障害福祉課等に設置された広域支援相談員等の相談員が、市区町村の相談体制を支援する。なおこの際、都道府県に設置された地域協議会等と広域支援相談員等の相談員が連携し、市区町村の協議会や相談体制を支援する場合もある。  広域連携型は、市区町村で相談を受け、困難事例等は広域で支援する相談体制である。以降、本相談体制を相談体制分類Bと称する。相談体制分類Bでは、広域支援相談員等を設置せず、都道府県障害福祉課や都道府県協議会等が、市区町村の相談窓口や協議会を直接支援する方式である。なお、都道府県における相談体制分類AとBでは、それぞれワンストップ窓口を設置する場合としない場合がある。  市区町村における相談体制は、地域協議会を持たない場合と、地域協議会を持つ場合の2つに大別される。それぞれの類型において、窓口の設置形態により3種類に分類する。地域協議会を持たない場合については相談分類ア〜ウ、地域協議会を持つ場合は相談分類エ〜カとし、窓口形態として、複数窓口型、ワンストップ窓口型、重層窓口型の3種類を定義する。複数窓口型は、各部署・機関の窓口で相談を受け付ける方式である。ワンストップ窓口型は、相談を1つのワンストップ窓口で受け付ける方式である。重層窓口型は、ワンストップ窓口と各部署・機関の窓口で重層的に相談を受け付ける体制である。それぞれの窓口形態とその分類名は次の通りとする。  ・相談分類アは複数窓口型(地域協議会無し)  ・相談分類イはワンストップ窓口型(地域協議会無し)  ・相談分類ウは重層窓口型(地域協議会無し)  ・相談分類エは重層窓口・協議会連携型  ・相談分類オはワンストップ窓口・協議会連携型  ・相談分類カは重層窓口・協議会連携型    図表104 相談の実施体制構築パターン別自治体数  地方公共団体悉皆調査に基づき、図表5に示した類型で都道府県と市区町村の相談体制を分類した。都道府県での広域支援相談員配置型は18都道府県であり、全体の38%を占めた。そのうち、ワンストップ窓口を配置している都道府県が全体の34%を占める16箇所、ワンストップ窓口を配置していない都道府県が全体の4%を占める2箇所であった。  都道府県での広域連携型は全体の62%を占める29箇所であった。そのうち、ワンストップ窓口を配置している都道府県が全体の40%である19箇所、ワンストップ窓口を配置していない自治体が全体の21%を占める10箇所であった。  市区町村では、ワンストップ窓口を持たず、各部署・機関の窓口で対応する複数窓口型と、ワンストップ窓口を持つワンストップ窓口型・重層窓口型の合算で集計を行った。また、それぞれの窓口形態に加え、地域協議会の有無でさらに分類し、4分類で集計を行った。地域協議会を持たない複数窓口型は、全体の26.9%を占める468箇所であり、地域協議会を持たず、ワンストップ窓口を持つ自治体は全体の15.2%を占める265箇所であった。複数窓口を持ち、かつ地域協議会を持つ複数窓口・協議会連携型は、全体の30.7%を占める534箇所であり、ワンストップ窓口を持ち、かつ地域協議会を持つ自治体は全体の27.2%を占める474箇所であった。  出所)内閣府「令和3年度地方公共団体悉皆調査」    (2) 障害を理由とする差別に関する相談の体制構築の考え方  ・これまでの調査結果等を踏まえると、相談体制構築に当たり、以下の3つのプロセスごとに、それぞれ以下の事項に留意する必要があると考えられる。 p164  ・特に、地方公共団体における相談体制構築に当たっては、相談体制の地域間格差が大きい現状を踏まえ、地域の社会資源の状況、人口規模等に応じて、どの機能を、どの程度の規模(箇所数等)で、どのエリア単位(市区町村、圏域、都道府県)で相談窓口を整備するか等、段階的な体制整備方針を検討する必要がある。  ・また、国においても、地方支分部局又は各府省の相談窓口・担当課において相談対応を行うことから、以下の事項に留意した対応を検討する必要がある。  1) 相談の一次受付  ・相談の一次受付では、様々なチャンネルがあることが望ましい。  *差別相談はどこに相談に行けば良いか分かりにくいため、障害者も事業者も分かりやすいよう「差別相談窓口」と明確に看板を掲げた窓口が必要である。その際、全国共通の通称を決めておくことも、分かりやすさに寄与すると考えられる。  *一方、相談者本人が初めから差別という認識を持って相談に来るケースは少ないため、障害者からの生活上の困りごと相談や通常業務における事業者とのやり取り等の中から担当者が差別相談を拾い上げる必要がある。この点では、明示的な「差別相談窓口」だけでなく、日常的に生活支援に関わる部局や商工関係部局等も一次受付として重要な役割を担うこととなる。なお、これら部局等は目前の課題解決に注力せざるを得ない面がありつつも、差別事案への気付きや対応が後回しにならないよう留意することが求められる。  *身近なところで相談できる利便性の担保が重要である一方、差別相談の性格上、日常的な関わりがないところに相談したいというニーズもある。この点では、一次受付窓口の役割は必ずしも基礎自治体である市区町村のみが担うものではなく、圏域、都道府県、国の地方支分部局等国レベルでの一次受付窓口の重要性にも留意する必要がある。  2) 基本的な対応  ・窓口ごとに案件対応にばらつきが生じることのないよう、一次相談窓口で受け付けた差別相談については当該窓口のみで対応を完結させるのではなく、統一的な対応方針に基づく対応ができるよう、関係者間で案件を共有し、対応を検討することが望ましい。  ・相談の一次受付から案件終結までに想定される「基本的な対応」としては以下のような事項が想定される。  *相談者からの情報収集(事実確認)  *関係者での情報共有、対応方針の検討  *相手方からの情報収集(事実確認)  *関係者での情報共有、事案の評価分析、対応方針の検討  *相談者と相手方との調整、話し合いの場の設定  ・共有先となる「関係者」については、障害者施策関係部局のみならず、普段事業者等との関係がある部局(商工関係部局)等も含まれることに留意(なお、共有に当たっては、個人情報の保護のための所要の対応を行うことが必要である。) p165  ・上記の「基本的な対応」については、基礎自治体である市区町村レベルで実施できるような体制の整備が望ましい。  ・ただし、小規模な市区町村では、人材確保、ノウハウの蓄積等の観点から単独対応は難しい場合もある。また、一定規模の市区町村であっても、市区町村域を超えるため単独対応できない場合も想定される。このような場合は、都道府県が広域支援相談員等を通じて市区町村を支援することが期待される。  ・なお、相談者が障害者である場合や小規模事業者である場合等には、相談を躊躇したり諦めたりしてしまうことのないよう、公正中立な立場である相談窓口の担当者とは別に、相談者に「寄り添う」アドボケーターやアドバイザー等を置くことも円滑な相談対応に資すると考えられる。  3) 基本的な対応で解決が難しい場合の対応  ・基本的な対応で解決が難しい場合、次のステップとして以下のような対応が考えられる。その際、他機関への連携・協力を依頼する必要が生じることもあるが、その場合においては、権限を有する機関を判断し、当該機関に円滑に引き継ぎや連携協力の依頼を行うことが可能となるよう(「たらい回し」の防止)、後述のような担当機関の明確化、関係機関の連携が重要となることに留意する。  *当該地方公共団体による行政措置(条例により独自の権限を定めている場合や、障害者差別解消法第12条について、各事業法等における監督権限に属する事務を地方公共団体の長等が行うこととされている場合)  *当該地方公共団体による行政措置による対応ができない場合やより有効な解決を図ることができると考えられる場合等において、障害者差別解消法第12条に基づく主務大臣による行政措置(報告聴取、助言、指導、勧告)  ・上記1)〜3)を踏まえた具体的な流れのイメージとしては以下フロー図のとおり(図は市区町村で相談の一次受付を行った場合の例)。 p166   図表105 障害者差別事案の相談対応フローのイメージ  (例:市区町村で一次受付を行った場合)  市区町村で一時相談を受けた場合の障害者差別事案相談フローのイメージとして、障害者差別事案や事業者案件の相談対応フローを示す。  なお、ここでの市区町村は、障害者差別解消に係る条例を定めておらず、報告徴収等独自の権限を有しない場合を想定していることに留意が必要である。    差別をされた障害者又はその代理人は、以下の@からBのステップに沿った初期対応を受ける。  @相談の受付  相談の受付は各市区町村の障害福祉担当課又は、各市区町村の障害福祉担当部局や商工関連部局等が実施する。  相談者が障害者や小規模事業者等の場合、相談担当者とは別に相談者に寄り添うアドボケーター・アドバイザー等を置くことも有効である。  A市区町村における相談対応、関係部局等での情報共有、対応方針の検討  相談対応を実施した結果、相談のみで終結する事案もある。  B対応方針に応じ、各市区町村において相談事案に係る情報収集を実施  ここでは、事実確認を行い、その後以下のCDに進む。相手方から事実確認を拒否された場合等は都道府県や国に連携・協力依頼をする。    続いて、以下のCDのステップに従い、具体的な対応を実施する。  C関係者での情報共有、事案の評価分析、対応方針の検討  D具体的な対応を実施  具体的な対応として、相談者と相手方との調整、話し合いの場の設定などを行う。    CDを経て、事案が終結する場合もあるが、事業者が具体的対応を拒否する場合や、Bで相手方から事実確認を拒否された場合等により、  終結に至らなかった場合は都道府県又は国に連携・協力を依頼する。なお、都道府県に連携・協力を依頼しても終結に至らなかった場合は、さらに国に連携・協力を依頼する。これらの連携・協力により、助言・調整等が実施され、事案の終結に至る場合もあるが、それでも差別的な取り扱いが繰り返される場合等は、都道府県または主務大臣による報告徴収、助言・指導・勧告を行う。  虚偽報告等があった場合は過料がある。    (3) 相談の実施体制構築モデル  ・前項のプロセスを踏まえた各行政機関における相談体制の在り方の検討等に資するよう、望ましい相談の実施体制の在り方について、市区町村・都道府県・国それぞれの役割について、以下のとおり整理することとする。  ・相談の実施体制の構築に当たっては、以下に述べるような役割分担を基本としつつ、相談者がどの相談機関に相談しても、つながるべき相談機関につながり、適切な対応が図られるような環境整備が必要である。このため、内閣府においては、各府省庁の相談窓口の明確化や、各相談窓口の人材育成の支援、事例の収集・分析・共有を通じた障害者・事業者の障害者差別解消に関する理解の向上や行政の対応力の強化等に取り組むことにより、国・地方公共団体全体としてワンストップ相談窓口としての機能を担うことができるようにすることが求められる。 p167  図表106 国・都道府県・市区町村の役割分担図  障害者差別に関する相談の実施体制構築モデルとして、国・都道府県・市区町村の役割分担図を示す。    障害者は、合理的配慮が必要な場面において、事業者にその旨の申し出を行い、事業者は合理的配慮を提供する。  両者の関係において、相談が必要となる事案が生じた場合、市区町村・都道府県・国は重層的に相談者である事業者・障害者の相談を受付、助言や指導等を実施する。    市区町村は、身近な窓口として相談に対応する。相談窓口は、ワンストップ窓口や既存の各相談窓口とし、これらが重層的に対応する。また、市区町村の地域協議会はこれらの相談窓口の支援を実施する。  これらの取組を経て、事業者に対して助言・指導等を実施する。  また、市区町村は、必要に応じて都道府県や国に連携・協力依頼を行い、都道府県や国はこれを支援する。    都道府県は、広域的な相談等への対応や、市区町村への支援を実施する。都道府県としては、広域支援相談員や都道府県の地域協議会を設置し、これらの取組を支援する。  これらを経て、事業者に対して助言・指導等を実施し、必要に応じて国への連携・協力を行い、支援を受ける。    国は、所管している分野に応じた各省庁・地方支分部局の相談窓口にて、都道府県や市区町村、相談者からの相談に対応する。ここでは、以下の3つの対応を行う。  ・広域的な相談等への対応  ・所管の法令の適切な解釈・運用等  ・法第12条に基づく主務大臣の勧告徴収、助言、指導、勧告  上記3つの対応を経て、事業者に対して対応指針の策定や、主務大臣による報告徴収・助言・指導・勧告を実施する。    なお、内閣府は、各省庁・地方自治体における相談体制構築・強化に向けた司令塔の役割を果たし、以下の3つの対応を行う。  ・国の相談窓口の明確化  ・人材育成のための研修資料・マニュアルの作成  ・事例の収集・分析・フィードバック    1) 市区町村  ・現在、各市区町村において窓口を担っている主な機関は以下のとおりである。  *差別相談のワンストップ窓口  *市区町村の障害福祉施策所管部署  *市区町村の教育、就労、生活困窮、消費生活、施設管理、公共サービス、市民生活全般に関する相談窓口  *障害者総合支援法の基幹相談支援センター、市町村障害者相談支援事業を実施する相談窓口(事業の受託を受けた相談支援事業者)  *障害者虐待防止法に基づく障害者虐待防止センター  *成年後見制度利用促進のための中核機関(権利擁護センター等)  *社会福祉法に基づく重層的支援体制整備事業の相談窓口  ・相談者の利便性担保の観点から、市区町村は身近なところで相談できる基本的な窓口の役割を担うことが望ましい。  ・前述の差別事案の掘り起こし及び相談者からのアクセス向上の要請を踏まえると、市区町村においては将来的には重層窓口型を志向し、明示的な差別相談のワンストップ窓口と日常的に生活支援に関わる機関の窓口双方で、相談者の困りごとの中から差別相談を拾い上げられるような対応をすることが望ましい。ただし、小規模な市区町村ではワンストップ窓口は複数市町村において共同設置することも考えられる。  ・あわせて、各市区町村又は複数市町村共同で地域協議会を設置することで関係者間の連携を強化するとともに、各窓口での対応方針等を関係者で決定・確認し統一的に p168 対応する体制を構築することも重要である。    2) 都道府県  ・都道府県には、広域支援相談員や都道府県の地域協議会等を通じて、市区町村の相談体制整備、具体的な相談対応を広域的に支援する役割が求められる。  ・また、市区町村に相談の一次受付窓口が十分に整備されていない現状や、差別相談の特性上、相談者に日常的な関わりがないところに相談したいというニーズがあることを踏まえると、基本的な窓口としてアクセス可能な相談窓口(一次受付窓口)を、市区町村だけでなく都道府県においても設置することが望ましい。    3) 国  a. 国・地方公共団体全体としての「ワンストップ相談窓口」機能構築について  ・国及び地方公共団体が全体として「ワンストップ相談窓口」としての機能を担うことについては、検討会の場において以下のとおり合意がなされた。  *国においては、障害者差別解消法第12条に基づき、主務大臣は、特に必要があると認めるときは、対応指針に定める事項について、当該事業者に対し、報告を求め、又は助言、指導もしくは勧告を行うこととされている。これらの権限は特定の府省庁が一元的に担っているわけではなく、分野ごとに当該事業を所管する各主務大臣(各府省庁)が有しており、現状においても各府省庁に分野ごとの相談窓口が設けられている。国に対しては、差別相談の内容が各府省庁の所管法令等に関係する場合や事業者が広域展開している場合等、市区町村や都道府県のみでは対応が困難な事例において市区町村や都道府県に対し適切な支援等行うことが基本的な役割として求められており、このため、事案ごとに、市区町村や都道府県の相談機関等が同条の権限を有する適切な省庁の相談窓口に円滑にアクセスできることが必要となる。  *一方で、現状においては各府省庁の所掌する分野が複雑に入り組んでおり、相談窓口が必ずしも明確ではないため、障害者や事業者のみならず、地方公共団体にとっても、相談窓口が分かりにくいという問題がある。このため、内閣府においては、これらの課題に対応するため、以下の環境整備を行うことが考えられる。  *環境整備のための取組としては、まず相談対応を行うための人材育成の支援や事例収集・分析・提供に係る取組が考えられる。各相談窓口において「適切な相談窓口にきちんとつなぐ機能を備えるためには、関係者に必要な事実関係を確認し、対応方針を整理した上で適切な担当機関に連携・協力依頼を行うことができる人材の育成や、そのために参考となる事例の収集・分析・共有が必要である。このためには、内閣府において、後述の7.2.4のような研修プログラムの作成・窓口担当者向けのマニュアル作成等や事例の収集・分析・共有の取組など、他の相談機関をバックアップするための取組が必要である。  *また、国及び地方公共団体全体として「ワンストップ相談窓口」としての機能を構築するための取組として、担当府省庁の明確化も必要である。障害者差別解消 p169 法第6条に基づく「障害を理由とする差別の解消に関する基本方針」(平成27年2月24日閣議決定。以下「基本方針」という。)において、同法第11条に基づく主務大臣が作成する事業者のための対応指針に記載する事項として、「国の行政機関(主務大臣)における相談窓口」があるものの、現状では、所掌する分野(事業者・サービス内容等)と対応する相談窓口の分かりやすさについては、各府省庁により、ばらつきが生じている。この課題への対応としては、まず第一に、対応指針における書きぶりの更なる工夫による、所掌分野と対応した相談窓口の明確化や、内閣府のHP等において、一括して各府省庁の相談窓口を分かりやすく示す(窓口一覧等の作成・掲載)ことなどにより、相談者や各相談機関が法律上権限のある担当府省庁に円滑にアクセスできるための取組を行うことが必要と考えられる。加えて、各相談機関等における相談対応プロセスの中で国の対応を求める必要がある場合等において、国の窓口一覧を確認したものの、所管が複数の省庁にまたがる等どの省庁が担当するか分からないような場合には、内閣府が必要な助言等の対応を行うことが期待される。これらの取組により、どの相談機関でも対応されない事例が発生しないようにすることが重要である。また、司令塔としての役割を担う内閣府においては、障害者差別の解消の推進のために、障害者と事業者双方の困りごとを受け止めつつ、相談体制構築・強化に係る国や地方公共団体の取組に対する十分な支援ができるような体制整備を検討することが望まれる。    b. 国民からの一次相談を受け付ける総合窓口としての国の「ワンストップ相談窓口」新設について  ・内閣府における「ワンストップ相談窓口」の新設については、以下のとおり本調査研究の有識者ヒアリング及び検討会の場で様々な意見が出され、本検討会において意見の一致には達しなかったが、今後、本調査研究において得られた知見等も踏まえ、相談対応機能の充実のための取組について引き続き検討を進めることが望まれる。  *国、都道府県にも市町村にもワンストップの相談窓口を設置することを期待。国としての相談窓口は、全国的な大企業を相手先とする事案の対応には必須。(日本弁護士連合会に対する有識者ヒアリング。なお発言内容はヒアリング対象者個人の見解)  *国には国民が相談できるワンストップ相談窓口の設置を希望。相談員は、当初5〜10人程度の配置で始動することを想定。連携先を探すのが難しい相談事例等があった場合に、当該事例の対応を実施する市町村のフォローを行う機関の設置を希望。(検討会構成員に対する有識者ヒアリング)  *国のワンストップ窓口を設置した場合に、当該窓口が果たすべき役割  相談受付窓口としての役割:従前より、障害者が国に差別に関する相談を行う際、担当する主務官庁が分かりづらく、いわゆる「たらい回し」の状態になるとの問題点が指摘されている。これを解消するため、国においても、障害者の差別に関する相談をワンストップで受け付ける窓口を設置することが望ましい。  連絡・調整機関としての役割:障害者から寄せられた差別に関する相談 p170 について、各省庁に設置されている相談窓口の中から、担当することが適切な省庁の相談窓口につなぐ役割を担うことが望ましい。また、省庁の相談窓口と連携して、事業者・相談者と個別に、あるいは、同時に協議を行う場を設定する等の調整を行う役割を担うことも考えられる。(第5回検討会における構成員提出資料より一部抜粋・整理)  *仮に想定される事例ごとにどの相談窓口にアクセスするのが適当かを整理した窓口一覧を作成した場合、当該一覧はかなりの情報量となり相談者にとっては使いづらい。内閣府が最初の総合相談窓口としての役割を担う必要があるのではないか。  *どの省庁にアクセスすべきか道案内してくれるような窓口や、所管等相談できるようなルートは必要。  *自治体でしっかり相談対応をした上で、それでもなお対応に迷うものにつきどのように処理していくかが重要。担当省庁が分からない事例については、内閣府が「総合窓口」として各省に割振りをしていくのが良いのではないか。なお、割振りをする場合には、内閣府から各府省庁の担当課長会議(障害者差別解消関係府省連絡会議)につなぎ、そこから適当な窓口に繋げるような流れを想定。実施に当たっては、障害当事者の立場から助言等を行えるような人員も含めた体制整備が必要。  *相談体制の構築に当たっては、差別解消法の目的である共生社会の実現に結び付けていくことが重要であり、この点では、まず地域の相談体制を育てることが必要。全国展開の店舗も従業員は地域住民であり、いきなり国が介入することは地域の事業者も委縮する。相談体制については、まさに市区町村が地域の「かかりつけ医」的な存在として一次的な事案の対処に当たり、それでもなお対処が困難な事例があれば「専門医療機関」的な存在である都道府県や各省庁に上がっていく、というような重層的な相談体制が重要。  *地域の重要性を踏まえると、まずは地域の相談窓口につながり、地域が主体となって相談対応に当たることが重要ではないか。都道府県は広域対応を行い、国では所管省庁としての見解を示すということではないか。内閣府では、個別事案対応ではなく、窓口の明確化や人材育成支援(障害者差別解消のための指導者養成研修などによる地方公共団体への支援も含む。)、事例収集、国民の機運醸成を担うべきではないか。  *事業者の実態からすると、まず相談に行くのは地域の事情を知る地域の窓口。例えば、店舗によっては自治体との間で、当該地域にお住まいの高齢者・障害者の方に係る対応等も盛り込んだ地域包括協定を締結していることもある。このような観点からも、相談事例への対応については地域としっかり結びついた対応を行いたい。  *内閣府が個別の相談対応を担うのは法的にも予算・体制的にも困難。内閣府は既存の各府省庁の窓口等の情報整理を行うなど、市町村・都道府県のバックアップを担うのが基本ではないか。 p171   7.2.2 地域協議会の充実・活用  (1) 現状  ・地域協議会の設置状況をみると、都道府県、指定都市は100%設置済みであるが、中核市等83%、一般市69%、町村46%であり、小規模になるほど設置率が低い。地域協議会の開催頻度も、都道府県では81%、指定都市では55%、中核市等では53%、一般市では54%、町村では55%が年度に0回又は1回の開催となっている。  ・また、地域協議会の設置形態については、都道府県は全て単独の自治体による設置(単独設置)となっており、指定都市は100%、中核市等は96%、一般市は76%が単独設置となっているが、町村では単独設置と複数の自治体による共同設置の方法がそれぞれ約半数となっている。組織形態については、都道府県・指定都市・中核市等では、約6割が地域協議会を他の協議会と兼ねることなく設置しているが、市町村では約6〜7割が障害者総合支援法に基づく協議会を兼ねて設置している。  ・地方公共団体悉皆調査のクロス集計結果からは、相談実績のある地域の方が地域協議会の設置率が高い傾向にあること(「相談実績があり、相談件数をカウントしている」地域のうち80%、「相談実績があるが、相談件数をカウントしていない」地域のうち64%、「相談実績がない」地域のうち52%の自治体が地域協議会「設置済み」となっている)、また地域協議会を設置済みの自治体の方が障害者差別に関する周知啓発活動を実施している割合が高いこと(周知啓発を実施している割合については、地域協議会「設置済み」の自治体で73%、「設置予定」の自治体で48%、「設置しない」自治体で55%)が分かる。    (2) 役割  ・内閣府のガイドライン3においては、地域協議会で検討する事項として以下の内容が挙げられており、地域協議会の設置・活用によって相談への迅速かつ適切な対応や紛争解決に向けた対応力の向上等が期待されるとされている。  *複数の機関等によって紛争の防止や解決を図る事案の共有  *関係機関等が対応した相談に係る事例の共有  *障害者差別に関する相談体制の整備  *障害者差別の解消に資する取組の共有・分析  *構成機関等における斡旋・調整等の様々な取組による紛争解決の後押し  *障害者差別の解消に資する取組の周知・発信や障害特性の理解のための研修・啓発  *個別の相談事案に対する対応  ・障害者施策関係部局や障害者団体、福祉関係者だけでなく地域の事業者・事業者団体など多様な関係者が集い、事例共有等を通じて認識の共有を図り、地域としての差別解消の機運醸成を図る場として、地域協議会の重要性は高い。地域協議会未設置の自 p172 治体においては設置の検討を進めるとともに、地域協議会を設置しているものの利活用が十分でない自治体においては積極的な活用を検討するといった対応が期待される。  ・また、各自治体での設置促進・利活用に当たっては都道府県の役割が重要である。都道府県においては、管内各市町村における地域協議会の設置状況・実施状況の把握や好事例の展開等を通じて、市区町村における取組のバックアップを積極的に行うことが求められる。  3 内閣府政策統括官「障害者差別解消支援地域協議会の設置・運営等に関するガイドライン」(平成29年5月)    (3) 地域協議会を活用した関係者の連携強化  1) 現状  地域協議会のメンバー構成は、設置主体(都道府県・市町村)や区域の広さ、人口規模等によって異なるが、障害者差別解消法では、地域協議会のメンバーとして、国及び地方公共団体の機関のうち、医療、介護、教育など障害者施策に関連する部署を始め、NPO法人などの団体、学識経験者、その他必要と認める者を示している。  現在、9割近くの地域協議会に障害当事者、障害者団体、家族会等が参画しているが、一方で、事業者が参画している地域協議会は58%、国の地方出先機関が参画している地域協議会は50%となっている。  2) 関係者の連携強化  合理的配慮の義務化を内容とする障害者差別解消法改正法が施行されれば、地域の事業者、障害者からの相談が増加することが予測される。各地方公共団体においては、それらの事案に適切に対応し、又はトラブルを事前に防止することが求められる。地域支援協議会は、地域における差別の解消の推進を担う機関として、地域の様々な関係者やその関連する行政部局を参集し、地域の問題解決に当たることが重要である。  ・相談対応の円滑化、相談体制の充実に向け、地域協議会の構成メンバーとしては、従来、障害者施策関係部局や障害者団体、福祉関係者等の参画は確保されてきたが、今後さらに連携が期待される機関や関係者として以下が考えられる。  *地方公共団体の機関(商工関係部局、教育関係部局等):障害者福祉関係部局のみならず、事業者関係、教育関係など、合理的配慮の提供を担う者に関わる部局の参集を求めることが適当である。   *国の地方出先機関(法務局、運輸支局、地方経済産業局等):地域の具体的な差別事案を共有し解決の支援を受けるとともに、所管団体・機関への相談窓口の周知や事例の共有を依頼することも想定される。  *地域の事業者団体:地域における合理的配慮の提供の推進の重要な担い手であり、具体的な差別事案や合理的配慮の提供の事例の共有・分析を通じて、行政機関や障害者団体等とともに、共通認識を形成していくことが期待される。また、差別事案の共有を通じ、類似事例が発生しないよう、例えば、傘下の企業への情報提供や各企業のマニュアル等の見直しを行う等の差別解消の取組の広がりが p173 期待される。  *その他:関係案件に差別事案が含まれ得る警察や、差別判断に当たり、専門的知見からの検討や助言のため、弁護士や医師会、学識経験者を含めることも有効と考えられる。  ・また、これらメンバー構成に留意した上で考えられる地域協議会の設置促進・利活用の工夫としては以下の事項が考えられる。    (設置促進策)  *地域の事業者・事業者団体を始めとする多様な主体の参画の下、差別相談への対応に主眼を置いて議論を行う観点からは、地域協議会の単独設置が本来望ましい。一方で、小規模自治体ほど設置率が低いことを踏まえると、地域協議会を単独の会議体として設置する負担が大きいことが考えられる。このような場合には、構成メンバーが一部重複する障害者総合支援法に基づく(自立支援)協議会、障害者虐待防止法に基づくネットワーク、障害者基本法に基づく審議会等に合わせて開催したり、これらの会議の部会として位置付けるなど、柔軟に開催形式を検討することも考えられる。ただし、いずれの場合においても、他の協議会と一体的に運営した結果、連携を図るべき主体(地域の事業者・事業者団体等)が参画できていない状態となることを避けるため、構成メンバーについては「差別の解消」という目的に応じて必要な入替を行うなど、多様な関係者の参画を担保することが重要である。  *また、小規模な市区町村では地域協議会を複数の自治体で共同設置することでも差し支えない。  *設置促進策の好事例としては、以下の自治体の取組が挙げられる(以下の取組事例については本調査研究で実施したヒアリングで得た事例のほか、内閣府において別途収集した事例も含まれる)。    【複数の自治体で設置】  ・長野県上小圏域:圏域で協議会を設置(P72「3.3長野県上小圏域 3.3.2(3)4)障害者差別の解消に関して協議する会議体の設置状況」参照)  ・静岡県・香川県:地域によって圏域又は複数の市区町村で共同設置    【他の協議会と併せて開催】  ・千葉県:構成メンバーの一部が重複する「千葉県障害のある人の相談に関する調整委員会」と同時開催(P61「3.2千葉県 3.2.2(3)4)障害者差別の解消に関して協議する会議体の設置状況」参照)  ・長野県上小圏域・岡山県総社市:(自立支援)協議会と地域協議会を兼ねて実施(長野県上小圏域については上述のP72該当部分、岡山県総社市についてはP95「3.5岡山県総社市 3.5.2(3)4)障害者差別の解消に関して協議する会議体の設置状況」を参照)    (利活用策)  *「相談事案が少ない」等の理由により、開催回数が少ない地域支援協議会も多い。関係機関が「顔の見える関係」をつくり、事案発生時に迅速・円滑に対応できる p174 ネットワークを維持するためには、実際の意見交換の機会を確保することも有効であること、また、地域における障害者差別解消を推進するためには、「相談事案がないから地域に障害者差別はない」と安易に考えるのではなく、地域における実質的な障害者差別解消が進むよう、例えば、以下のような議題で定期的(年に複数回程度)に協議会を開催し、地域の取組を推進することが期待される。  ・差別解消の推進施策の効率的・効果的な実施(PDCAサイクル)  ・普及啓発策や職員研修の企画立案等の施策提案  ・行政職員の対応要領の更新  ・架空事例を使用した相談対応のシミュレーション、各機関の役割分担の確認  ・差別相談で基本的な対応を担当する行政職員に対する助言  ・差別事案の発生防止を目的とした企業内のマニュアルの見直しのポイント(障害者差別解消法に抵触する事項の有無の確認等)の提示やそれを踏まえた見直しの促進  *利活用策の好事例としては、以下の自治体の取組が挙げられる(以下の取組事例は内閣府において別途収集した事例)。  ・福岡県:条例に関する県の取組状況についての審議  ・兵庫県明石市:障害を理由とする差別を解消するために必要な施策に係る市長への意見・条例の施行状況の検討及び見直し  ・広島県広島市:条例・条例施行規則の検討、条例の実効性確保に向けた検討  ・宮城県:新規条例の制定に向けた検討    7.2.3 相談機関へのアクセス向上策  (1) 現状  障害者差別に関する相談の件数をみると、「相談実績がない」が72%、「相談実績があり、相談件数をカウントしている」地方公共団体においても、「相談件数が9件以下」が76%となっており、100件以上としているのは、都道府県で7自治体、指定都市で1自治体、町村で1自治体のみとなっている。    図表107 令和2年度における障害者差別に関する相談件数  出所)内閣府「令和3年度地方公共団体悉皆調査」  1  9件以下  合計の数 208   合計の割合 76%   都道府県の数 11   都道府県の割合 24%   指定都市の数 5   指定都市の割合 26%   中核市等の数 49   中核市等の割合 88%   一般市の数 115   一般市の割合 93%   町村の数 28   町村の割合 97%     2  10〜29件  合計の数 29   合計の割合 11%   都道府県の数 13   都道府県の割合 29%   指定都市の数 5   指定都市の割合 26%   中核市等の数 5   中核市等の割合 9%   一般市の数 6   一般市の割合 5%   町村の数 -   町村の割合 -   3  30〜49件  合計の数 12   合計の割合 4%   都道府県の数 4   都道府県の割合 9%   指定都市の数 5   指定都市の割合 26%   中核市等の数 2   中核市等の割合 4%   一般市の数 1   一般市の割合 1%   町村の数 -   町村の割合 -   4  50〜99件 5  合計の数 14   合計の割合 5%   都道府県の数 10   都道府県の割合 22%   指定都市の数 3   指定都市の割合 16%   中核市等の数 -   中核市等の割合 -   一般市の数 1   一般市の割合 1%   町村の数 -   町村の割合 -   5  100件以上  合計の数 9   合計の割合 3%   都道府県の数 7   都道府県の割合 16%   指定都市の数 1   指定都市の割合 5%   中核市等の数 -   中核市等の割合 -   一般市の数 -   一般市の割合 -   町村の数 1   町村の割合 3%   計  合計の数 272   合計の割合 100%   都道府県の数 45   都道府県の割合 100%   指定都市の数 19   指定都市の割合 100%   中核市等の数 56   中核市等の割合 100%   一般市の数 123   一般市の割合 100%   町村の数 29   町村の割合 100%  p175  (2) 相談機関へのアクセス向上策  ・(1)のとおり、相談実績がない、又は相談があっても件数が少ない自治体が多いのが実態ではあるが、相談実績がないことが地域における障害者差別に関する問題が生じていないということとは限らない。相談窓口がどこにあるのか分からない、相談をして良いのかどうか分からない、そもそも自分が差別を受けているのかも分からない、といった様々な理由が隠れていることも考えられる。  ・このため、相談機関があることを周知広報していくこと、どのようなことが障害者差別に当たるのか、気付きを促していくことも、相談機関へのアクセス向上策として、重要である。  ・相談機関へのアクセス向上策としては、次の3点が考えられる。いずれも主に地方公共団体における取組を念頭に整理したものとなるが、国(特に内閣府)においては、広報用コンテンツの提供や全国的な周知の取組を通じて、地方公共団体におけるこれら取組をバックアップすることが求められる。    1) 継続的な広報周知  ・相談機関へのアクセスを向上させるためには、まず障害者差別について相談ができる窓口があることを広報周知する必要がある。  ・制度の創設や窓口設置、法改正のタイミング等で一時的、重点的に広報周知するだけでは、その時点で困りごとを抱えている人にしか情報がキャッチされず、その時点で困りごとがない人には流されてしまう可能性が高い。困りごとを抱えた人が情報収集を始めたときに、いつでも、できるだけ早く相談窓口に関する情報を入手できるよう、国及び地方公共団体においては、定期的・継続的に情報発信することが求められる。  ・地方公共団体における情報発信に当たっては、障害者団体や事業者団体等と連携しつつ、紙媒体(パンフレット、リーフレット等)の配布だけでなく、SNS、動画、専用ウェブサイト(SNS及び動画の掲載を含む)といった多様な媒体を活用した情報発信を行うことが期待される。広報周知例としては以下のとおりである。  *市の広報誌等での広報  *障害者団体、事業者団体を通じた広報  *障害者週間等に合わせたイベント開催  *地域協議会でパンフレットを作成し全戸配布、コンビニや医療療機関等にパンフレットを設置周知、商工会議所等を通じて事業者に配布  *子供たちの障害者理解を深めるため、小中学校の授業カリキュラムに権利擁護のイベントを組み込み  ・また、国においても、障害者差別解消のための周知啓発イベントの活用や、ポータルサイトの設置・運用を通じた情報発信を行うとともに、個別の自治体による広報周知に対する支援として、パンフレットのひな形等の広報用コンテンツの提供等を通じて各自治体での取組を支援する必要がある。 p176   2) 対象を限定した啓発・意識喚起  ・相談機関へのアクセスを向上させるためには、継続的な情報発信だけでなく、相談者の窓口利用を促進すべく、相談者となる障害者が「もしかして、これは差別なのかもしれない」ということに気付いたり、事業者が「この社内ルールは障害者の方に対する差別となりうるかもしれない」という気付きを得たり、「合理的配慮提供のために何をすればよいのか知りたい」と自発的に行動できたりするような啓発・意識喚起の取組が求められる。    a. 障害者  ・障害者は、生活の上での不利な状態、望ましくない影響があっても、それが日常化しがちであるため、「障害者差別の事案」として相談すべきものなのか、自身では見極めがつきにくい。そこで、自治体の取組として、障害者ワークショップやアンケート調査、支援者からの聞き取りを通じて、確認した「困ったこと」「嫌な思いをしたこと」「気になったこと」から差別事案を引き出し、このような場合は積極的に相談することが問題解決につながり得ることを認識してもらうことが差別事案の掘り起こし・相談窓口の活用促進に有効であると考えられる。  ・また、事案を掘り起こした後も、差別相談の性質上、心理的、物理的に相談しづらい可能性もあるため、どのような窓口であれば相談しやすいか、前述のワークショップ等を行った際やその後のフォローアップ過程等の中で、要望を確認するなどの工夫も必要である。    b. 事業者  ・現状では自治体の窓口における事業者からの相談は僅かであり、今後施行される事業者の合理的配慮提供の義務化に関する周知の実施率も低い。  ・「障害者差別解消」というと、事業者になじみがなく取組のハードルが高まる可能性があるため、合理的配慮が充実していくとサービス向上や新たなビジネスの芽につながり得るという建設的な視点で情報提供することに留意しつつ、実際に事業者が障害者からの申出を受けた場合に参照できるような対応事例集の提供等を通じて事案への適切な対応について理解促進を図ることが考えられる。また、情報発信に際しては、既存の業務マニュアルの中に障害者差別解消法に抵触するような内容がないか点検するなど、相談事案が発生する前段階で事業者自身が取り組める予防的な対応について積極的に発信することも有効であると考えられる。情報発信に当たっては、商工部局の情報展開の場を活用したり、地域協議体に参画している事業者団体の協力を得るだけでなく、企業と協働した事業者向け研修の実施や出前講座を開催する等といった、多様なルート・媒体の活用も効果的である。  ・事業者向けの啓発・意識喚起の取組例として以下のような例が挙げられる。  *庁内の商工所管部署が運営する事業者向けメールマガジンで障害者理解に関する広報記事を配信  *企業からの求めに応じた出前講座の開催  *事業者と協働した車いすユーザー等への対応研修の実施 p177  *事業者向けリーフレットの作成・配布  *障害者の雇用促進施策等を通じた企業との日常的なネットワーク構築    3) 相談者の利便性に考慮した相談対応  ・相談機関へのアクセス向上を図るためには、相談者にとって利用しやすい相談窓口の仕組みを検討することも重要である。  ・障害者の相談者が利用しやすい窓口として、相談受付時に障害特性に応じた意思疎通支援を柔軟に行うことは重要である。意思疎通支援の取組として以下のような例が挙げられる。  *電話、FAX、電子メール、TV電話、WEB会議での相談受付  *筆談対応  *ルビ付きの資料作成、テキストデータの提供、点字、拡大文字  *電話リレーサービスの活用、対話支援機器の利用、手話通訳士(者)の配置   ・また、窓口の利便性向上という観点からは、AI(人工知能)が基本的な定型質問に回答するチャットボット等のICT利活用も期待されるが、各自治体においてそれぞれの実情等に応じ段階的な導入を検討することが望ましい。    7.2.4 相談対応を担う人材の確保・育成方策  ・差別相談の解決を図るためには、障害者や事業者等からの相談を適切に受け止め、対応する人材の確保・育成が重要である。障害者差別解消法改正法においても、国・地方公共団体の相談対応を担う人材の育成及び確保についての責務が明確化されており、国及び地方公共団体においては人材育成・確保に一層取り組む必要がある。  ・相談対応を行う人材には、公正中立な立場から相談対応を行えるよう、障害者差別解消法や解決事例に関する専門的な知識に加え、当事者同士の考えや希望を聞いてそれを調整する能力が必要であるとともに、事業者の現場での業務実態等に関する知識や、どの機関に相談があろうとも、適切な対応が図られるよう、事案に応じて、連携・協力依頼を行うべき機関に関する知識・ネットワークを有していること等の様々な能力が重要になってくる。  国においては、自治体単独で取り組む場合など、自前での研修資料の作成や研修の実施が困難である場合もあることを踏まえ、できるだけ多数の窓口で相談の一次受付を担えるよう、例えば、以下のような2種類の研修用コンテンツを作成し、既存の各相談機関に提供するとともに、必要に応じ、当該相談機関の人材育成プログラムの一部に盛り込むよう関係機関に働きかけることが効果的である。  *国や地方公共団体における既存の各相談窓口(基礎):日常の困りごとから差別事案を引き出し適切に対応できるよう、障害者権利条約の理念や障害の「社会モデル」の考え方、障害者差別解消法・基本方針の解説など基本的な法令知識や、必要に応じ、他機関に連携・協力依頼ができるよう、差別相談窓口の連絡先等を盛り込んだコンテンツ。  *ワンストップ窓口(障害者差別相談窓口)(応用):ワンストップで相談を受け付けられるような人材を育成するための「ワンストップ相談研修」用の素材とし p178 て、上述の既存の各相談窓口向けコンテンツに加え、相談対応の一連の流れや関係機関の役割、具体的な事例分析・ポイントの整理等、個別具体の差別事案への適切な対応等に資するようなコンテンツ。  ・このツールは、特に、以下の人材育成プログラムで活用してもらえるよう関係機関に働きかけることが期待される。  *地方公共団体における各種相談受付窓口の担当者研修、初任者・管理職研修  *各府省庁における相談窓口課室の担当者研修、初任者・管理職研修  *相談支援専門員研修  *人権擁護部局、行政相談部局、消費生活相談部局等の国が運営する類似相談制度の担い手に対する研修  ・既存の人材育成プログラムの中で研修を実施することが難しい場合や、こうした研修を受講する機会がない相談窓口があることも踏まえ、当該コンテンツはインターネットを利用したeラーニングでの提供も検討することが望まれる。  7.3 障害者差別の解消に向けた事例の収集・共有の在り方  ・障害者差別の解消に向けた事例の収集・共有は、障害者、事業者双方の障害者差別の解消に関する認識を深めるとともに、前述のとおり国及び地方公共団体の相談体制強化の観点からも非常に重要である。  ・地方公共団体においては、自治体内で受け付けた相談を共通帳票で収集した上で、当該事例を関係機関や地域協議会で共有し、個別事例の対応や今後の相談体制の在り方検討に活用している例が多い。しかし、単一自治体内では相談件数が少なく、事例収集・分析を通じた相談ノウハウの蓄積には至っていない場合が多い。  ・一方、内閣府では、市町村、都道府県、関係省庁から、毎年「広く情報共有することが望ましい、特徴的な相談事例」を収集しており、これを元に作成した「合理的配慮の提供等事例集」を平成29年4月にホームページ上に掲載している。しかし、その後は更新されておらず、市町村、都道府県が相談対応に困った際に閲覧するインセンティブは低下しているのが現状である。  ・単一自治体内では事例収集・分析を通じた相談ノウハウの蓄積が困難であることを踏まえれば、今後、内閣府において構築するデータベースに収集事例を蓄積するとともに、参考となる事例を、自治体や障害者、事業者等に対し、事案や解決のポイント等が分かりやすい形で、定期的にフィードバックすることや、周知啓発を行うことが重要である。  ・特に、各相談機関における事案対応力を向上させる観点からは、参考となる事例を共有するに当たっては、単に収集事例をそのまま共有するだけでなく、内閣府において、事例の内容・対応パターン別にどのような機関と連携し、どのような対応を進めることが解決に当たって適当であったのか等、収集事例のケーススタディを行い、分かりやすく整理した上で各相談機関に共有することが望ましい。このことは、類似事案において連携が必要となる関係機関の見当をつける際の参考にも資すると考えられる。  ・このような内閣府による事例の収集・分析・共有を通じて、合理的配慮や差別の禁止についての社会的な認識共有を図り、建設的対話が円滑に進むことや、各相談機関に p179 おける事案対応力が向上することが期待される。    7.4 検討会から関係者へのメッセージ  ・障害者の日常の困りごとから差別事案を拾い上げることの重要性はこれまで述べたとおりである。しかし、件数が少ない=差別事案が少ない(ニーズが少ない)と捉え相談体制を整備しないこととするのではなく、相談体制の構築・強化に取り組み、いかに差別事案の掘り起こし・課題解決を図っていくか、地域の行政機関、事業者、障害者など関係者が一体となって検討を進めていくことが差別解消の推進ひいては住みやすい地域づくりに資するものと考える。実際に、本調査研究における調査の過程においては、実際に障害者差別の解消に向けた相談体制の構築・強化に取り組む自治体から「相談体制の整備により、自分の自治体は変わったと実感している」との声もあった。  ・相談体制の構築・強化を始めとした障害者差別の解消に係る取組を一歩ずつ進め、「多様性」を尊重するという価値観を地域の関係者皆で共有することが、ひいては障害者のみならず、社会全体の「多様性」を認め、共に生きる共生社会の実現に向けた原動力となるものと考える。  ・国や地方公共団体を始めとする関係者においても、本報告書に記載の取組事例等も参考に、ぜひ積極的に相談体制構築・強化に取り組んでいただきたい。