目次 I. はじめに 1 II. 本ケーススタディ集の構成・活用方法 2 1 本ケーススタディ集の構成 2 2 本ケーススタディ集の活用方法 2 (1) 基本的な活用方法 2 (2) 発展的な活用方法 2 @本ケーススタディ集の各ケースの「条件設定」を変更して行うケーススタディ 2 A既存の事例等を活用したケーススタディ 2 Bロールプレイング 3 III. 障害者差別解消法について 3 1 障害者差別解消法制定の背景・経過及び概要 3 (1) 障害者差別解消法制定の背景・経過 3 (2) 障害者差別解消法の趣旨 4 (3) 対象となる障害者 4 (4) 対象となる事業者及び分野 5 (5) 不当な差別的取扱いの禁止 5 (6) 合理的配慮の提供 5 (7) 環境の整備 6 (8) 基本方針並びに対応要領及び対応指針 6 コラム:障害の「社会モデル」とは 8 2 「不当な差別的取扱い」及び「合理的配慮の提供」の法的判断の検討プロセス 9 (1) 不当な差別的取扱い 10 (2) 合理的配慮の提供 13 IV. ケーススタディ 17 1 「不当な差別的取扱い」ケース 18 Case1 ペースメーカー利用者がスポーツジムの入会を断られた 18 【コラム1】障害者への適切なサービス提供に向けた個別事情等の確認 20 【コラム2】入会後の「合理的配慮の提供」の検討 20 Case2 聴覚障害者(ろう者)が旅行会社主催のツアーサービスに介助者の同伴を求められた 22 【コラム1】障害者に対する個別事情等の具体的な確認プロセスとサービス提供時の留意点 25 【コラム2】「個別の事案ごとに、具体的場面や状況に応じて総合的・客観的に判断」することの重要性 26 Case3 肢体不自由の障害児が学校の実験実習での作業に一部制限をかけられた 28 【コラム】学校教育分野における「合理的配慮の提供」の検討 31 Case4 精神障害者が代金不払いを繰り返し通信販売の利用を断られた 33 【コラム】「障害の有無」ではなく、問題となる事象等に着目したルールづくりの重要性 35 2 「合理的配慮の提供」ケース 37 Case1 発達障害(聴覚過敏)のある子供が通う習い事教室に遮音対応を断られた 37 【コラム】建設的対話に当たっての留意事項 39 Case2 知的障害者が対面による入院給付金の手続申請説明を拒否された 41 【コラム1】オンラインでのサービス提供を実施している事業者における「事業の目的・内容・機能」の判断 43 【コラム2】オンラインでのサービス提供を実施している事業者において想定される代替案 45 Case3 内部障害者(オストメイト)がバリアフリートイレを探してほしいと駅員に頼んだが、拒否された 47 【コラム】「地域協議会」を活用した関係機関の連携 50 Case4 試験会場への交通費負担を「合理的配慮の提供」として求められた 51 【コラム】金銭要求への対応について 55 Case5 車椅子利用者が夜間の給油補助を断られた 56 【コラム】障害者への丁寧な説明 59 3 「不当な差別的取扱い」・「合理的配慮の提供」複合ケース 60 Case 車椅子利用者が通常席での参加を希望したコンサートで特別席を勧められた 60 <「不当な差別的取扱い」と「合理的配慮の提供」の関係> 60 【コラム】事業者への建設的対話の働きかけ 66 V. 相談対応事例インタビュー 69 インタビューケース@:地域の勉強会にて、聴覚障害者が手話通訳者の位置を指定されたケースへの対応事例 70 インタビューケースA:視覚障害者がスイミングクラブへの入会を断られたケースへの対応事例 73 インタビューケースB:聴覚障害者がタクシー予約時に伝えた聴覚障害であることが運転手にうまく伝わっていなかったケースへの対応事例 77 VI. 参考資料 81 1 障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(平成25年法律第65号) 81 2 (障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律の一部を改正する法律 新旧対照表) 89 3 障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本方針(令和5年3月14日閣議決定) 91 4 障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本方針新旧対照表 109 5 令和4年度「障害を理由とする差別の解消に向けた事例の収集・分析に係る調査研究」障害者差別の解消に向けた事例分析検討会 構成員名簿 149 I.    I. はじめに    令和3年5月の障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(平成25年法律第65号。以下「障害者差別解消法」という。)の改正により事業者による合理的配慮の提供が義務化されたことに伴い、今後は事業者からの相談も含め、相談件数が増加することが見込まれます。このような中で障害を理由とする差別の解消を効果的に推進するためには、相談対応等に当たり、国及び地方公共団体が役割分担・連携協力し、一体となって適切な対応を図ること、また、国や地方公共団体において相談対応を行う人材の専門性向上、相談対応業務の質向上を図ることが重要となります。  このため、今般、国や地方公共団体の相談窓口等担当者が相談対応業務を行うに当たり、障害者差別解消法や同法に基づき策定される「障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本方針」に沿った事案の分析・対応の検討を行う際の参考資料としていただけるよう、内閣府において、令和4年度「障害を理由とする差別の解消に向けた事例の収集・分析に係る調査研究」として「障害者差別の解消に向けた事例分析検討会」を開催し、検討会における議論の下、本ケーススタディ集を作成しました。  本ケーススタディ集で取り上げられているケースは架空の場面設定かつあくまでも一例であるため、実際の相談対応に当たっては個別具体の検討が必要となりますが、「不当な差別的取扱い」「合理的配慮の提供」の法的判断の検討プロセス及び実際の相談対応に当たって関係者に対応する際のヒント等を併せて習得いただき、実際の相談対応において円滑に対応いただけるようにすることをねらいとしています。また、本ケーススタディ集は相談対応時の参考資料としていただくほか、相談機関等における研修等にも活用いただけるものと考えています。    本ケーススタディ集が、相談窓口等担当者の皆様を始め、本ケーススタディ集を手に取った方々の障害者差別解消法に関する理解促進に役立つものとなり、ひいては障害を理由とする差別の解消の推進に資することとなれば幸いです。    令和5年3月  障害者差別の解消に向けた事例分析検討会 座長  熊谷 晋一郎 II. 本ケーススタディ集の構成・活用方法 1 本ケーススタディ集の構成 本ケーススタディ集では、まず始めに「V.障害者差別解消法について」において、障害者差別解消法の概要を示した上で、同法における「不当な差別的取扱い」及び「合理的配慮の提供」の該当性の検討に当たり必要となる、障害者差別解消法及び基本方針に基づいた思考プロセスをフロー形式で示すとともに、フロー中の各設問について解説を示しています。また、「W.ケーススタディ」においては、具体的なケースを10件(いずれも架空の場面設定)用意し、各ケースにおける事業者の対応が「不当な差別的取扱い」に該当するのか、また障害者の申出内容が提供すべき「合理的配慮」に該当するのか等を法的判断の検討プロセスのフローに沿って検討し、解説を行っています。   2 本ケーススタディ集の活用方法 (1) 基本的な活用方法  本ケーススタディ集は、相談窓口等担当者において個別事案に対応する際の参考資料としていただくほか、相談機関等における研修において、研修資料や素材として活用いただくことが想定されます。また、障害者差別解消法に基づき各地方公共団体に設置される障害者差別解消支援地域協議会(以下「地域協議会」という。)において、本ケーススタディ集を活用して「不当な差別的取扱い」や「合理的配慮の提供」への理解を深めることや、同様の事案が発生した際に適切な対応ができるよう話合いを持つこと等が考えられます。  このほか、発展的な活用方法として、以下のような形で活用することも考えられます。   (2) 発展的な活用方法  @本ケーススタディ集の各ケースの「条件設定」を変更して行うケーススタディ   本ケーススタディ集の事例は、「●相談内容」において、詳細な場面設定・条件付けを行うことで、その後の法的な検討・判断を行いやすい形にしています。「不当な差別的取扱い」や「合理的配慮の提供」は個別具体のケースにごとに判断する必要があるため、場面設定や条件付けは可能な限り詳細にしないと、法的な検討や判断が行えないためです。  ここで、発展的な活用として、「●相談内容」における場面設定や条件付けを変更して、その上で再度ケーススタディを行ってみましょう。類似の事例でも、条件付けが変わると、その後の法的検討・判断が大きく異なることがあるなど、広がりのある学習が可能となります。  A既存の事例等を活用したケーススタディ  自治体等において既に事例が蓄積されている場合には、当該事例を基に、本ケーススタディ集の検討プロセスを当てはめたケーススタディを行ってみましょう。また、更に以下の観点から議論してみることも考えられます。 * 当該事例においても、上記(1)のように、場面設定や条件付けを変更してみて、もし障害者や事業者の状況が異なっていた場合には、結論がどのように変わってくるか、検討してみましょう。場面設定等を場合分けして検討することで議論を深めることができます。 * 所属する地方自治体においては、相談対応に当たりどのような機関との連携が考えられるでしょうか?連携が想定される機関とのネットワークの構築のあり方などもあわせて考えてみましょう。  Bロールプレイング 実際の相談事例やケーススタディ集に記載されている各ケース等を基に、障害者(相談者)役、事業者役、相談対応者役に分かれてロールプレイングを行ってみましょう。相談対応者は、本ケーススタディ集の検討プロセスを念頭に置きながら対応にあたってみてください。ロールプレイングは以下のポイントを意識しながら行い、終了後は全員で振り返りを行ってみましょう。 * 実際の事例では、判断を行うための情報が十分に得られていない場合が多いと考えられます。どのようにすれば、障害者や事業者から判断に必要な情報を得ることができるでしょうか? * 相談対応者は、双方から得られた情報を踏まえ、どのようなアクションをとるべきでしょうか? * 障害者や事業者に対しては、何をどのように伝えるべきでしょうか? III. 障害者差別解消法について 1 障害者差別解消法制定の背景・経過及び概要  この項目では、障害者差別解消法の制定の背景や経過、概要について説明します。   (1) 障害者差別解消法制定の背景・経過  我が国は平成19年に、障害者の人権及び基本的自由の享有を確保すること並びに障害者の固有の尊厳の尊重を促進するための包括的かつ総合的な国際条約である障害者の権利に関する条約(以下「権利条約」という)に署名して以来、批准に向けて国内法の整備等を進めてきました。権利条約は第2条において、「「障害に基づく差別」とは、障害に基づくあらゆる区別、排除又は制限であって、政治的、経済的、社会的、文化的、市民的その他のあらゆる分野において、他の者との平等を基礎として全ての人権及び基本的自由を認識し、享有し、又は行使することを害し、又は妨げる目的又は効果を有するものをいう。障害に基づく差別には、あらゆる形態の差別(合理的配慮の否定を含む。)を含む。」と定義するとともに、「障害者が他の者との平等を基礎として全ての人権及び基本的自由を享有し、又は行使することを確保するための必要かつ適当な変更及び調整であって、特定の場合において必要とされるものであり、かつ、均衡を失した又は過度の負担を課さないもの」を「合理的配慮」と定義しており、第5条で、締約国に対し、障害に基づくあらゆる差別を禁止することや、合理的配慮の提供が確保されるための適当な措置を取ることを求めています。我が国においては、平成23年の障害者基本法(昭和45年法律第84号)改正において、権利条約の趣旨を踏まえ、基本原則として、障害を理由とする差別その他の障害者に対する権利利益の侵害行為が禁止されるとともに、合理的配慮の提供が求められる旨が規定されました。  障害者差別解消法は、障害者基本法における差別の禁止の基本原則を具体化するものであり、全ての国民が、障害の有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会の実現に向け、障害を理由とする差別の解消を推進することを目的として平成25年6月に制定されたものであり、我が国は、本法の制定を含めた一連の障害者施策に係る取組の成果を踏まえ、平成26年1月に権利条約を締結しました。また、令和3年6月には、事業者による合理的配慮の提供の義務付け等を内容とする、障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律の一部を改正する法律(令和3年法律第56号。以下「改正法」という。)が公布されました。   (2) 障害者差別解消法の趣旨  全ての国民は、障害の有無にかかわらず、等しく基本的人権を享有するかけがえのない個人として尊重されなければなりません。  障害者も、障害者でない者も、互いに、その人らしさを認め合いながら、共に生きる社会(共生社会)を実現することが重要です。障害者差別解消法では、障害者が日常生活や社会生活で受ける様々な「制限」は、障害者自身の心身の機能の障害のみが原因ではなく、社会における様々な障壁(バリア)があることにより生じるものという、権利条約が採用する障害の「社会モデル」という考え方を踏まえています(障害の「社会モデル」については7頁目のコラム参照)。この「社会におけるバリア」を取り除いていくことで、障害者が障害者でない者と同様に、社会に参加できるようにしていくことが必要です。このため、障害者差別解消法では、行政機関等や事業者に対して、障害者への「障害を理由とする不当な差別的取扱い」を禁止するとともに、「合理的配慮の提供」を求め、これらの措置等を通じて、障害者が社会で提供されている様々なサービスや機会にアクセスし、社会に参加できるようにすることで、共生社会の実現を目指すこととしています。   (3) 対象となる障害者  障害者差別解消法において対象となる障害者は、身体障害、知的障害、精神障害(発達障害及び高次脳機能障害を含む。)その他の心身の機能の障害(難病等に起因する障害を含む。)がある者であって、障害及び社会的障壁(障害がある者にとって日常生活又は社会生活を営む上で障壁となるような社会における事物、制度、慣行、観念その他一切のものをいう。)により継続的に日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける状態にあるものを指しており、いわゆる「社会モデル」の考え方を踏まえています。したがって、対象となる障害者の該当性は、当該者の状況等に応じて個別に判断されることとなり、いわゆる障害者手帳の所持者に限られません。   (4) 対象となる事業者及び分野  障害者差別解消法では、行政機関等のほか、事業者も障害を理由とする差別を解消するための措置を行うこととされています。対象となる事業者は、商業その他の事業を行う者(地方公共団体の経営する企業及び公営企業型地方独立行政法人を含み、国、独立行政法人等、地方公共団体及び公営企業型以外の地方独立行政法人を除く。)であり、目的の営利・非営利、個人・法人の別を問わず、同種の行為を反復継続する意思をもって行う者を指します。したがって、例えば、個人事業者や対価を得ないボランティア団体、非営利事業を行う社会福祉法人や特定非営利活動法人も対象となり、また対面やオンラインなどサービス等の提供形態の別も問いません。  分野としては、日常生活及び社会生活全般に係る分野が広く対象となりますが、雇用分野については、障害者の雇用の促進等に関する法律(昭和35年法律第123号)の定めるところによるとされています。   (5) 不当な差別的取扱いの禁止  障害者差別解消法では、障害を理由とする差別について、不当な差別的取扱いの禁止と合理的配慮の提供の二つに分けて整理しています。  不当な差別的取扱いとは、正当な理由なく、障害を理由として、財・サービスや各種機会の提供を拒否する又は場所・時間帯などを制限すること、障害者でない者に対しては付さない条件を付けることなどにより、障害者の権利利益を侵害する行為をいい、このような行為は、行政機関等であるか事業者であるかの別を問わず禁止されています。   (6) 合理的配慮の提供  障害者やその家族、介助者等、コミュニケーションを支援する者から何らかの配慮を求める意思の表明があった場合には、その実施に伴う負担が過重でない範囲で、社会的障壁を取り除くために必要かつ合理的な配慮を行うこと(合理的配慮)が求められます。具体的にどのような配慮を行うかは、個別に判断する必要がありますが、一例としては、車椅子を使う障害者が電車やバスなどに乗り降りするときに手助けをすることや、窓口で障害の特性に応じたコミュニケーション手段(筆談や読み上げなど)で対応すること、障害の特性に応じて休憩時間を調整することなどが挙げられます。  日常生活・社会生活において提供されている施設やサービス等については、障害者と障害者でない者に対し同じ形で提供した場合に、障害者でない者は容易に利用できるにもかかわらず、障害者には利用が困難となる場合があります。このような場合には、障害者が当該便益等を享受する上で不利益を被ることのないよう、「障害者でない者とは異なる、障害者に配慮した取扱い」を行わなければ、実質的に障害者が社会に参加することはできなくなってしまいます。このため、障害者差別解消法では、行政機関や事業者等に対し、障害者に対する「不当な差別的取扱い」を禁止するだけではなく、併せて、「合理的配慮の提供」を求めているのです。  また、合理的配慮の提供にあたっては、障害者にとっての社会的障壁を除去するために必要かつ実現可能な取組を、障害者と事業者が共に考えていくために、双方がお互いの状況の理解に努めることが重要です。新基本方針においても、「例えば、障害者本人が社会的障壁の除去のために普段講じている対策や、行政機関等等や事業者が対応可能な取組等を対話の中で共有する等、建設的対話を通じて相互理解を深め、様々な対応策を柔軟に検討していくことが円滑な対応に資する」としています。  建設的対話を事業者が一方的に拒むことは、合理的配慮の提供義務違反となる可能性があること、また、障害者の側が相互理解の姿勢を持たず、自己の希望のみを主張し続けるようなことも、建設的対話とはいえず、法の趣旨に沿ったものとはいえないことに注意が必要です。  なお、事業者による合理的配慮の提供については、前述のとおり改正法により、令和6年4月1日から義務化されることとなっています。   (7) 環境の整備  障害者差別解消法では、不特定多数の障害者を主な対象として行われる事前的改善措置(公共施設や交通機関におけるバリアフリー化、意思表示やコミュニケーションを支援するためのサービス・介助者等の人的支援、障害者による円滑な情報の取得・利用・発信のための情報アクセシビリティの向上等)については、個々の障害者に対して行われる合理的配慮を的確に行うための環境の整備として実施に努めることとしています。これには、ハード面のみならず、職員に対する研修等のソフト面の対応も含まれます。   (8) 基本方針並びに対応要領及び対応指針  政府は、障害を理由とする差別の解消の推進に関する施策を総合的かつ一体的に実施するため、「障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本方針」(平成27年2月24日閣議決定。以下「現行基本方針」という。)を策定しました。この現行基本方針に即して、行政機関等は、不当な差別的取扱いの禁止や合理的配慮の提供に関し、その職員が適切に対応するために必要な「対応要領」を定めることとされているほか、事業者の事業を所管する各主務大臣は、現行基本方針に即して、不当な差別的取扱いの禁止や合理的配慮の提供に関し、事業者が適切に対応するために必要な事項(相談体制の整備、研修・啓発等)や、各事業分野における合理的配慮の具体例等を盛り込んだ「対応指針」を定めることとされています。  また、現行基本方針は、障害者差別解消法の改正を受けて令和5年3月に変更され、改正法の施行日(令和6年4月1日)に施行されることとされています(以下、変更後の基本方針を「新基本方針」といいます。)。  新基本方針については、本ケーススタディ集末尾の「Y参考資料」を確認いただくとともに、各府省庁における対応要領・対応指針については以下の内閣府ウェブサイトを御確認ください。  なお、本ケーススタディ集において、単に「基本方針」と記載している場合、現行基本方針・新基本方針共通の内容となります。   【対応要領】https://www8.cao.go.jp/shougai/suishin/sabekai/taioyoryo.html  【対応指針】https://www8.cao.go.jp/shougai/suishin/sabekai/taioshishin.html コラム:障害の「社会モデル」とは * 共生社会を実現するために、障害のある人が直面するバリアを取り除いていくという考え方は、権利条約の基本理念である障害の「社会モデル」の考え方を踏まえたものです。障害の「社会モデル」とは、障害のある人が日常生活又は社会生活で受ける様々な「制限」は、障害のある人ご自身の心身のはたらきの障害のみが原因なのではなく、社会の側に、様々な障壁(バリア)があることによって生じるもの、という考え方です。 ※ 障害の「社会モデル」に対し、障害は個人の心身のはたらきの障害によるものであるという考えを「医学モデル」といいます。 * 障害のある人もない人も分けへだてなく活動できる共生社会の実現のためには、このような考え方に基づき、障害のある人の活動や社会への参加を制限している様々な障壁(バリア)を取り除くことが重要です。 【社会モデルの考え方】 ● 階段しかないので、2 階には上がれない →「障害」がある ● エレベーターがあれば、2 階に上がれる →「障害」がなくなった! 車椅子の方は、何も変わっていない 変わったのは、あくまでも周囲の環境 ●「社会モデル」の考え方に基づけば、「階段」という障壁(バリア)があることで車椅子の方に「障害」が生じていることになります。 〔表〕 <社会的障壁(バリア)の例> @社会における事物:通行・利用しにくい施設、設備など A制度:利用しにくい制度など B慣行:障害のある方の存在を意識していない慣習、文化など C観念:障害のある方への偏見など 2 「不当な差別的取扱い」及び「合理的配慮の提供」の法的判断の検討プロセス  前述のとおり、障害者差別解消法では、「障害を理由とする差別」を解消するための措置について、「不当な差別的取扱い」の禁止と「合理的配慮の提供」を規定しています。本項目では、「不当な差別的取扱い」と「合理的配慮の提供」について、その該当性を判断するに当たっての法的判断の検討プロセスについて説明します。なお、実際の相談対応においては、例えば、障害のある相談者が「不当な差別的取扱い」に該当すると考えている事案であっても実際には相談者が「合理的配慮の提供」を求めている事案である場合や、「不当な差別的取扱い」の該当性等を確認した上で「合理的配慮の提供」について更に検討が必要となる場合等もあります。障害者差別解消法は「不当な差別的取扱い」の禁止と「合理的配慮の提供」が相まって「障害を理由とする差別」を解消しようとするものであり、相談対応に当たっては、「不当な差別的取扱い」と「合理的配慮の提供」の両方を視野に入れながら、当事者の相談内容をよく聞き、対応を検討していくことが重要となります。  また、ここでは障害者と事業者間の事案に関する相談対応を行うことを想定し、事業者における「不当な差別的取扱い」と「合理的配慮の提供」について取り上げていますが、行政機関等においても考え方は変わりません。なお、本項目での法的解釈等に係る説明については、特段の補足がない限り現行基本方針・新基本方針共通の内容となります。 (1) 不当な差別的取扱い  「不当な差別的取扱い」に係る法的判断の検討プロセスのフローは以下のとおりとなります。 「不当な差別取扱い」法的判断の検討プロセス フロー 〇障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(平成25年法律第65号) (事業者における障害を理由とする差別の禁止) 第八条 事業者は、その事業を行うに当たり、障害を理由として障害者でない者と不当な差別的取扱いをすることにより、障害者の権利利益を侵害してはならない。 Q1 事業者の対応は、事業(財・サービスや各種機会の提供等)を行うに当たり行ったものですか? 「Yes:事業を行うに当たり行ったもの」である場合、Q2に続く。 「No:事業での対応に関係ない」場合、事業者の対応は「不当な差別的取扱い」に該当しない。障害者から申出があった場合には「合理的配慮の提供」を検討 Q2 事業者の対応には、障害を理由とする、障害者でない者と比べた異なる取扱いがありますか? 「Yes:異なる取扱いがある」場合、Q3に続く。 「No:異なる取扱いがない」場合、事業者の対応は「不当な差別的取扱い」に該当しない。障害者から申出があった場合には「合理的配慮の提供」を検討 Q3 業者の対応は、障害者、事業者、第三者の利益の維持等の観点から、正当な理由によるものと判断できるでしょうか? 正当な理由の判断の視点 (以下の@とA両方を満たせば「正当な理由あり」) @客観的に見て正当な目的の下に行われているか  ・障害者、事業者、第三者の権利利益の観点から検討  (例:安全の確保、財産の保全、事業の目的・内容・機能の維持、損害発生の防止 等) Aその目的に照らしてやむを得ないといえるか  ・@の目的のために必要な範囲のものとなっているか?  ・必要な範囲を超え不必要な制限を課すものとなっていないか? 「No:正当な理由なし」の場合、事業者の対応は「不当な差別的取扱い」に該当。障害者から申出があった場合には「合理的配慮の提供」を検討 「Yes:正当な理由あり」の場合、事業者の対応は「不当な差別的取扱い」に該当しない。障害者から申出があった場合には「合理的配慮の提供」を検討 【法的判断の検討プロセスフロー上の設問及び各設問の解説】 Q1:事業者の対応は、事業(財・サービスや各種機会の提供等)を行うに当たり行ったものですか?  障害者差別解消法第8条第1項では事業者による不当な差別的取扱いの禁止が規定されています。条文において「事業者は、その事業を行うに当たり」とあるとおり、不当な差別的取扱いは、当該事業者が事業(財・サービスや各種機会の提供等)を行うに当たっての対応が対象となります。このため、当該対応が事業と関係なく個人として行ったものであれば、不当な差別的取扱いには該当しません。 Q2:事業者の対応には、障害を理由とする、障害者でない者と比べた異なる取扱いがありますか?  障害者差別解消法第8条第1項では、@「障害を理由」としてA「障害者でない者」と不当な差別的取扱いをしてはならない、とされています。 @ 「障害を理由」として: 本法の対象は、条文のとおり「障害を理由」とした差別であり、障害者に対するものであっても、障害以外の理由による場合は、本法における差別の禁止の対象とはなりません。なお、新基本方針においては、車椅子、補助犬その他の支援機器等の利用や介助者の付添い等の社会的障壁を解消するための手段の利用等を理由として行われる不当な差別的取扱いは、障害を理由とする不当な差別的取扱いに該当することが明記されています。 A 「障害者でない者」と: 本法の対象は、障害者と障害者でない者との間における不当な差別的取扱いであり、障害者間での取扱いの差異(例:障害種別間での優遇制度の違いに基づく異なる取扱い等)は対象としていません。「不当な差別的取扱い」とは、正当な理由なく、障害者を、問題となる事業について本質的に関係する諸事情が同じ障害者でない者より不利に扱うことである点に留意する必要があります。 Q3:事業者の対応は、障害者、事業者、第三者の権利利益等の観点から、正当な理由によるもの(Q2の異なる取扱いが、@客観的に見て正当な目的の下に行われたものであり、Aその目的に照らしてやむを得ないといえること)と判断できるでしょうか?  正当な理由に相当するのは、障害者に対して、障害を理由として、財・サービスや各種機会の提供を拒否するなどの取扱いが、「客観的に見て正当な目的の下に行われたもの」であり、「その目的に照らしてやむを得ないと言える」場合であるとされています。正当な理由に相当するか否かについては、個別の事案ごとに、障害者、事業者、第三者の権利利益(例:安全の確保、財産の保全、事業の目的・内容・機能の維持、損害発生の防止等)の観点に鑑み、具体的場面や状況に応じて総合的・客観的に判断することが必要です。  なお、障害者の事実上の平等を促進し、又は達成するために必要な特別の措置は、「不当な」差別的取扱いではなく、例えば、障害者を障害者でない者と比べて優遇する取扱い(いわゆる積極的改善措置)、合理的配慮の提供による障害者でない者との異なる取扱いや、合理的配慮を提供等するために必要な範囲で、プライバシーに配慮しつつ障害者に障害の状況等を確認することは、「不当な」差別的取扱いには当たりません。  事業者は、正当な理由があると判断した場合には、障害者にその理由を丁寧に説明するものとし、理解を得るよう努めることが望まれます。その際、事業者と障害者の双方が、お互いに相手の立場を尊重しながら相互理解を図ることが求められます。 Q4:その他の検討事項  Q1〜Q3までは、障害者差別解消法及び現行基本方針・新基本方針に基づいた法的解釈に関する設問となりますが、Q4では、次の「Wケーススタディ」で取り上げる各ケースにおいて、円滑な相談対応の観点から検討することが有効と考えられる以下問いを個別に設けています。 ○ 障害特性に応じた配慮や支援サービスの内容について問い合わせたい場合等においては、どのような機関にアクセスすることが考えられますか?  相談事案に関わる障害者に対し必要な配慮等について確認したい場合等にアクセスすることが考えられる機関等について、各ケースの内容に応じて記載しています。なお、相談対応に当たっての行政機関等との連携については、「不当な差別的取扱い」「合理的配慮の提供」各ケースに共通して以下の対応等が考えられます。 * 相談対応に当たり、どの機関がどのような権限を有しているか明らかでない場合や、単一の機関での対応が難しい場合においては、地域における様々な関係機関が集い、地域の実情に応じた差別解消のための取組を行うネットワークである地域協議会において相談事案に係る情報の共有・協議を行い、地域の関係者が一体となって事案に取り組むといった対応が考えられます。 * また、仮に事業者が差別的取扱いや合理的配慮の不提供を繰り返し、自主的な改善を期待することが困難な場合において、まずは相談を受け付けた市区町村自身による行政措置(条例その他の法令により権限を有する場合(障害者差別解消法第12条・第22条、障害者差別解消法施行令第3条))が考えられるほか、当該市区町村に権限がない場合や広域的・専門的な事案等の場合は都道府県への相談、市区町村や都道府県のみでは対応が困難な事案等においては主務大臣へ相談するなど、必要に応じてより広域的な連携をしていくことが考えられます。 ○ 事業者へのアドバイスとして、どのようなことが考えられますか?  相談事案に関わる事業者が今後再発防止策や改善策を考えるに当たり、アドバイスできるポイントについて、各ケースの内容に応じて以下問いを設けて記載しています。 * 本ケースのような不当な差別的取扱いを防止するための対策として、どのような対応が考えられますか? * 今後の障害者への円滑なサービス提供のために考えられる対応はありますか? (2) 合理的配慮の提供  「合理的配慮の提供」に係る法的判断の検討プロセスのフローは以下のとおりとなります。 〇障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(平成25年法律第65号) (事業者における障害を理由とする差別の禁止) 第八条 (略) 2 事業者は、その事業を行うに当たり、障害者から現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明があった場合において、その実施に伴う負担が過重でないときは、障害者の権利利益を侵害することとならないよう、当該障害者の性別、年齢及び障害の状態に応じて、社会的障壁の除去の実施について必要かつ合理的な配慮をするように努めなければならない。 ※改正法により、令和6年4月1日から義務化(改正後の条文は以下のとおり) 第八条(略) 2 事業者は、その事業を行うに当たり、障害者から現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明があった場合において、その実施に伴う負担が過重でないときは、障害者の権利利益を侵害することとならないよう、当該障害者の性別、年齢及び障害の状態に応じて、社会的障壁の除去の実施について必要かつ合理的は配慮をしなければならない。 Q1障害者から事業者に対し、事業(財・サービスや各種機会の提供等)を行うに当たり社会的障壁の除去を必要としている旨の意思表示がありましたか? 「Yes:ある(本人からの求め、家族や支援者・介助者等からの求め(本人からの意思表明が困難な場合))」の場合、Q2に続く。 「No:ない」場合、フロー終了。 Q2.求められている配慮は、社会的障壁の除去の実施について、必要かつ合理的な配慮に該当しますか? 必要かつ合理的な配慮とは (以下の3つ全てを満たす必要がある) 事業者の事業の目的・内容・機能に照らし、 @必要とされる範囲で本来の業務に付随するものに限られること A障害者でない者との比較において同等の機会の提供を受けるためのものであること B事業の目的・内容・機能の本質的な変更には及ばないこと 「Yes:該当する(@〜B全てを満たす)」場合、Q3に続く。 「No:該当しない(@〜Bを満たさない)」場合、Q4に続くことがある。 Q3求められている配慮は「過重な負担」に該当しますか? 過重な負担の判断の視点 * 事業への影響の程度 * 実現可能性(物理的・技術的制約、人的・体制上の制約) * 費用・負担の程度 * 事務・事業規模 * 財政・財務状況 「Yes:該当する」場合、Q4に続く。 「No:該当しない」場合、合理的配慮の提供 Q4建設的対話により、どのような代替案が考えられますか? 合理的配慮の提供へ 【法的判断の検討プロセスフロー上の設問及び各設問の解説】 Q1:障害者から事業者に対し、事業(財・サービスや各種機会の提供等)を行うに当たり社会的障壁の除去を必要としている旨の意思表明がありましたか?  障害者差別解消法第8条第2項では、事業者による「合理的配慮の提供」が定められており、条文では「事業者は、その事業を行うに当たり、障害者から現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明があった場合において」合理的配慮の提供を行うよう努めなければならないとされています(なお、改正法により、令和6年4月1日から義務化。)。  このため、合理的配慮の提供についても、前述の不当な差別的取扱いと同様、当該事業者が事業(財・サービスや各種機会の提供等)を行うに当たっての対応が対象となります。  また、本法においては、事業者が社会的障壁の除去を必要としている障害者の存在を認識する契機として、障害者からの「意思の表明」を要件としています。意思の表明は、言語(手話を含む。)のほか、点字、拡大文字、筆談、実物の提示や身振りサイン等による合図、触覚による意思伝達など様々な手段により伝えられます。また、意思の表明は障害者本人からのものだけでなく、障害特性等により本人の意思表明が困難な場合には、障害者の家族や介助者などコミュニケーションを支援する者が本人を補佐して行う意思の表明も含みます。  なお、意思の表明が困難な障害者が、家族や支援者・介助者等を伴っていない場合など、意思の表明がない場合であっても、当該障害者が社会的障壁の除去を必要としていることが明白である場合には、法の趣旨に鑑みれば、当該障害者に対して適切と思われる配慮を提案するために建設的対話を働きかけるなど、自主的な取組に努めることが望ましいものとされています。 Q2:求められている配慮は、社会的障壁の除去の実施について、必要かつ合理的な配慮に該当しますか?(事業者の事業の目的・内容・機能に照らし、@必要とされる範囲で本来の業務に付随するものに限られること、A障害者でない者との比較において同等の機会の提供を受けるためのものであること、B事業の目的・内容・機能の本質的な変更には及ばないことの全てを満たしますか?)  合理的配慮の留意点には、事業者の事業の目的・内容・機能に照らし、「必要とされる範囲で本来の業務に付随するものに限られること」、「障害者でない者との比較において同等の機会の提供を受けるためのものであること」、「事業の目的・内容・機能の本質的な変更には及ばないこと」の三つがあります。相談を受けた場合には、当該事案において障害者が求めている配慮の内容がこれら三つの留意事項全てに当てはまるかどうか、具体的場面や状況等に応じて検討を行う必要があります。障害者から求められている配慮の内容が、これら三つのうちいずれか一つでも当てはまらない場合、当該配慮は必要かつ合理的なものとは言えませんが、障害者の社会的障壁を除去するために何らかの対応が必要な場合には、この後のQ4に記載のとおり、事業者と障害者双方の建設的対話を通じて、社会的障壁を除去するために必要かつ実現可能な対応案を検討する必要があります。 Q3:求められている配慮は、過重な負担に該当しますか?  障害者差別解消法では、必要かつ合理的な配慮は「その実施に伴う負担が過重でないとき」に実施するものとされています。Q3では、Q2の検討の結果「必要かつ合理的な配慮」とされたものの実施に過重な負担がないかどうかを検討します。  過重な負担については、個別の事案ごとに、以下の要素等を考慮し、具体的場面や状況に応じて総合的・客観的に判断することが必要であるとされています。 * 事業への影響の程度(事業の目的・内容・機能を損なうか否か) * 実現可能性の程度(物理的・技術的制約、人的・体制上の制約) * 費用・負担の程度 * 事業規模 * 財政・財務状況 事業者は、配慮の内容が過重な負担に当たると判断した場合には、障害者にその理由を丁寧に説明し、理解を得るよう努めることが、円滑な対応のためには望ましいと考えられます。   Q4:建設的対話により、どのような代替案が考えられますか?  合理的配慮は障害者にとっての社会的障壁を除去することが目的であり、Q2、Q3において、障害者が求める配慮の内容が実施困難と判断された場合でも、障害者の社会的障壁を除去するために何らかの対応が必要な場合には、事業者と障害者双方の建設的対話を通じて、社会的障壁を除去するために必要かつ実現可能な対応案を検討する必要があります。  新基本方針では、建設的対話に当たっては、障害者にとっての社会的障壁を除去するための必要かつ実現可能な対応案を障害者と事業者が共に考えていくために、双方がお互いの状況の理解に努めることが重要であるとされており、建設的対話を通じた相互理解を深めるための対応として、例えば、障害者本人が社会的障壁の除去のために普段講じている対策や、事業者が対応可能な取組等を対話の中で共有することが挙げられています。 Q5:その他の検討事項  Q1〜Q4までは、障害者差別解消法及び基本方針・新基本方針に基づいた法的解釈に関する設問となりますが、Q5については、次の「Wケーススタディ」で取り上げる各ケースにおいて、円滑な相談対応の観点から検討することが有効と考えられる以下の問いを個別に設けています。 ○ 障害特性に応じた配慮や支援サービスの内容について問い合わせたい場合等においては、どのような機関にアクセスすることが考えられますか?  相談事案に関わる障害者に対し必要な配慮等について確認したい場合等にアクセスすることが考えられる機関等について、各ケースの内容に応じて記載しています。 ※ 相談対応に当たっての行政機関等との連携については、「不当な差別的取扱い」法的判断の検討プロセスフローのQ4を参照ください(11頁)。 ○ 事業者へのアドバイスとして、どのようなことが考えられますか?  相談事案に関わる事業者が今後再発防止策や改善策を考えるに当たり、アドバイスできるポイントについて、各ケースの内容に応じて以下問いを設けて記載しています。 * 本事業で取り得る「環境の整備」として、どのような対応が考えられますか?  障害者差別解消法第5条では、個別の場面において個々の障害者に対して行われる合理的配慮を的確に行うための、「不特定多数の障害者を主な対象として行われる事前的改善措置」(施設や設備のバリアフリー化、意思表示やコミュニケーションを支援するためのサービス・介助者等の人的支援、障害者による円滑な情報の取得・利用・発信のための情報アクセシビリティの向上等)を環境の整備として、行政機関等・事業者の努力義務としています。  新基本方針においては、多数の障害者が直面し得る社会的障壁をあらかじめ除去するという観点から、他の障害者等への波及効果についても考慮した環境の整備を行うことや、相談・紛争事案を事前に防止する観点からは合理的配慮の提供に関する相談対応等を契機に、行政機関等及び事業者の内部規則やマニュアル等の制度改正等の環境の整備を図ることは有効であること、また障害者との関係が長期にわたる場合においても、その都度の合理的配慮の提供が不要となるという点で、中・長期的なコストの削減・効率化にも資することが示されています。 IV. ケーススタディ  この項目では、「V.障害者差別解消法について」2で示した「不当な差別的取扱い」及び「合理的配慮の提供」の思考プロセスに基づき、10件の具体的なケース(いずれも架空の場面設定)について、各ケースが「不当な差別的取扱い」に該当するのか、また障害者の申出内容が提供すべき「合理的配慮」に該当するのか等を検討プロセスフロー上の各設問に沿って検討し、解説を行っています。なお、実際の個別事案においては障害者や事業者の置かれた状況等によって求められる対応等も多種多様であり、各ケースにおける結論が、類似する相談事例に一概に当てはまるわけではないことには留意が必要です。 1 「不当な差別的取扱い」ケース Case1 ペースメーカー利用者がスポーツジムの入会を断られた * 障害種別:内部障害(ペースメーカー利用者) * 生活場面:スポーツジム(所管省庁:経済産業省) * 相談内容: > 内部障害者(ペースメーカー利用)の方からの説明は以下のとおり。 * スポーツジムが提供するフィットネスプログラムを利用したいと思い、複数のプログラムを用意しているスポーツジムに入会の申込みを行った。 * 申込み時にペースメーカー利用者であることを事業者に申し出たところ、器具の利用やプログラムへの参加によって、相談者の身体へ負担がかかり体調不良になってしまう懸念があることから、入会を遠慮していただきたいと言われた。 * 相談者は、ペースメーカーを使用し始めて5年ほど経過している。普段から、主治医とも相談しつつウォーキングやランニングを行っており、ペースメーカー植込み位置に近い筋肉を長時間動かす運動や、激しく身体がぶつかり合う運動でなければ、適度な運動は主治医から認められていた。このため、スポーツジム入会後は、自身の体調に影響を及ぼさないことが見込まれる、音楽に合わせて身体を動かすプログラムに参加することを検討していた。 > 事業者からの説明は以下のとおり。 * スポーツジムでの運動により相談者の身体への負担がかかることが懸念されたことから、「利用者本人の安全」を確保するために断らせていただいた。 * 事業者は、以前ジムを利用していたペースメーカー利用者が別のプログラム参加中に体調を崩し、その後退会した実績があったことから、同様の事態が生じることを懸念し、入会を断っていた。 * 検討事項: Q1:事業者の対応は、事業(財・サービスや各種機会の提供等)を行うに当たり行ったものですか? > 今回のケースは、スポーツジムから、当該スポーツジムへの入会を希望する相談者に対し入会を断ったものであることから、「事業(財・サービスや各種機会の提供等)を行うに当たり」行ったものであると考えられる。 Q2:事業者の対応には、障害を理由とする、障害者でない者と比べた異なる取扱いがありますか? > 今回のケースにおいては、「内部障害(ペースメーカーの利用)」を理由として、サービスの提供を拒否する取扱いを行っていることから、障害者でない者と比べた異なる取扱いがあるものと考えられる。なお、この「異なる取扱い」が「不当な差別的取扱い」(正当な理由のない異なる取扱い)に該当するかどうかはQ3以降で検討することとする。 Q3:事業者の対応は、障害者、事業者、第三者の権利利益等の観点から、正当な理由によるもの(Q2の異なる取扱いが、@客観的に見て正当な目的の下に行われたものであり、Aその目的に照らしてやむを得ないといえること)と判断できるでしょうか? > 基本方針においては、正当な理由に相当するのは、障害者に対して、障害を理由とする異なる取扱いが、 @客観的に見て正当な目的の下に行われたものであり、 Aその目的に照らしてやむを得ないと言える場合であるとされている。 そして、正当な理由に相当するか否か(上記@A)については、個別の事案ごとに、障害者、事業者、第三者の権利利益等の観点に鑑み、具体的場面や状況に応じて総合的・客観的に判断することが必要であるとされている。 基本方針における当該記述を本ケースに当てはめた場合、以下のとおりとなるものと考えられる。 > まず、本ケースにおいて事業者が主張する「利用者の安全の確保」の根拠は過去の経験のみであり、相談者の個別事情は考慮されていない。このような判断は、基本方針に記載のあるような「個別の事案ごとに、障害者、事業者、第三者の権利利益等の観点に鑑み、具体的場面や状況に応じて総合的・客観的に判断」したものとは言いがたい。 > 実際に、本ケースでは、相談者は普段から適度な運動を問題なく行えていること、また今回希望していたのは音楽に合わせて身体を動かすといった、主治医から認められている範囲内の運動であったことが確認できている。これらの事情を踏まえれば、本スポーツジムに入会し、希望するプログラムに参加した場合であっても、相談者が体調を崩す可能性は低いということが考えられることから、相談者本人の身体の状況を考慮せずに「利用者本人の安全の確保」を理由に入会拒否を行うことは「@客観的に見て正当な目的の下に行われたもの」とはいえない。 > また、事業者の対応が「Aその目的に照らしてやむを得ない」に該当するかどうかについては、当該行為が利用者本人の安全確保という目的のために必要な範囲のものとなっているか、それを超えて不必要な制限を課すものとなっていないか、といった観点から具体的な検討を行うことが必要となる。 > 本ケースにおいて、利用者は激しい運動には制限があるものの、普通の運動なら可能なケースであるところ、利用者本人の安全確保の観点から、個々のプログラムの参加可否を検討するのではなく、スポーツジムへの入会そのものを拒否しており、必要な範囲を超えた対応を講じていると考えられる。 > 実際に、事業者が提供するプログラムの中に相談者が体調を崩さず参加できることが見込まれるものが含まれていたことは前述のとおりであり、「入会を拒否する」という行為が利用者本人の安全確保という「目的に照らしてやむを得ない」ものであったとはいえない。 > したがって、本ケースでの事業者の対応は正当な理由がなく、「不当な差別的取扱い」に該当すると考えられる。 【コラム1】障害者への適切なサービス提供に向けた個別事情等の確認 ○ 事業者においては、サービスの提供に当たって、障害の特性に応じて、障害者・事業者・第三者の権利利益の保護の観点から確認が必要と考えられる場合には、障害者に対し、障害者の個別の事情や、配慮が必要か等の確認を行うことが有効である(障害者・事業者・第三者の権利利益等の観点を判断するためや合理的配慮の提供のために、プライバシーに配慮しながら、障害者に障害の状況等を確認することは不当な差別的取扱いには該当しない)。 ○ 障害者への確認の過程において、本ケースのように、障害者が普段から主治医と相談しつつ運動を行っていることが明らかになった場合に、障害者本人の安全の確保を図るため、事前に主治医に、参加可能なプログラム、または参加を控えるべきプログラムを相談してもらい、それに応じてプログラムを選択するよう求めることや、普段行っている運動の状況を聞いた上で、その範囲内のプログラムを選択するよう求めること等については、障害者でない者と比べた異なる取扱いとなるものの、個々の利用者の健康状態や普段の運動への取組状況等を確認した上で、安全確保上、制限が必要と認められる場合にのみプログラムへの参加を制限する取扱いであると考えられることから、客観的に見て正当な目的の下に行われるものであって、その目的に照らしてやむを得ない場合に該当し、不当な差別的取扱いに該当しない可能性が高いと考えられる。 【コラム2】入会後の「合理的配慮の提供」の検討 内部障害のある方の中には障害のある臓器だけでなく全身の状態が低下しているため、体力がなく、疲れやすくなっている方もいる。今回のケースにおいて相談者の入会を認め、主治医からの指示に基づき相談者が希望するプログラムに参加することとなった場合でも、自身の体調に応じた配慮を求められた場合には、「合理的配慮の提供」を検討することが求められる。 Q4:その他の検討事項 @ 障害特性に応じた配慮や支援サービスの内容について問い合わせたい場合等においては、どのような機関にアクセスすることが考えられますか? * 例えば、障害特性に応じた必要な配慮の内容について、基幹相談支援センターや地域の障害者団体等、障害特性に関する専門性を有する機関・団体等に問い合わせることが考えられる。 * また、基幹相談支援センター等の相談支援機関に対し、相談者が利用可能な支援サービスを問い合わせることも考えられる。 A 事業者へのアドバイスとして、どのようなことが考えられますか? 〇 本事例のような不当な差別的取扱いを防止するための対策として、どのような対応が考えられますか? * 今回のケースは、事業者において、「ペースメーカー使用者は一律、ジムでの運動は困難である」といった、ペースメーカー利用者への理解が十分でないために起きたものとも考えられる。 * 事業者や必要に応じて事業者団体等に対し、マニュアル等の内容に障害を理由に一律にサービスの提供を拒否・制限する内容が含まれていないか確認を行い、問題のある内容が含まれていた場合には改善を行うことが必要であることを教示することが、不当な差別的取扱いの再発を防ぐために重要である。 Case2 聴覚障害者(ろう者)が旅行会社主催のツアーサービスに介助者の同伴を求められた * 障害種別:聴覚障害(ろう者) * 生活場面:日帰りバスツアー(所管省庁:国土交通省) * 相談内容: > 聴覚障害者(ろう者)の方からの説明は以下のとおり。 * 旅行会社の窓口で日帰りバスツアーのプランを見つけ、申込手続を行おうとしたところ、旅行会社より、「添乗員とのコミュニケーション手段を確保するため、聴覚障害のある方は介助者同伴の上で参加してほしい」と言われた。 * 相談者は同伴を依頼できそうな家族や友人との日程調整がつかないこともあり、一人で参加したい旨を伝えたが、旅行会社からは「介助者を付けないと参加は認められない」との回答しか得られなかった。 * 相談者は、聴覚障害者(ろう者)であり、発話を聞き取ることは難しいが、筆談やジェスチャーの他、自身で所持するワイヤレスマイクを併用したスマートフォンのコミュニケーション支援アプリによる音声と文字の相互変換機能の活用等によってコミュニケーションを取ることができる。 > 事業者からは、聴覚障害者が一人でツアーに参加することは、以下の理由から「事業の目的・内容・機能の維持」や相談者本人の「安全の確保」の観点から問題があると考えたことから、参加に条件を付けたとの説明あり。 * 聴覚障害者の方一人での参加は、パーキングエリアでの休憩時や現地散策時の集合点呼、緊急時の避難誘導等において発話による意思疎通が難しいことから、旅行中のお客様の安全を確保することができない恐れがある。 * また、聴覚障害者とのコミュニケーションに時間を要することで、スケジュールどおりにバスツアーを運行できない恐れがある。 * 事業者では、ツアー時の一般的な対応手順として、参加者には「旅のしおり」を事前配布した上で、集合時間の案内等は観光地やパーキングエリアに到着した際にその都度参加者に口頭で簡単に説明すること、集合時間を過ぎても集合場所に到着しない参加者がいた場合には、当該参加者に電話連絡をすることが業務マニュアルに記載されていた。また、避難誘導についても、あらかじめ「旅のしおり」に記載されている緊急時対応プロセスを前提に、緊急時には参加者へ当該プロセスに従い避難を促す声掛けを行うことがマニュアルに記載されていた。また、体の不自由な方が参加する場合には、付添いの同行を求めることと記載されていた。このため、聴覚障害者が一人で参加した場合、当該マニュアルに従った対応が困難であると判断し、介助者の同行を求めていた。 * 検討事項: Q1:事業者の対応は、事業(財・サービスや各種機会の提供等)を行うに当たり行ったものですか? > 今回のケースは、旅行会社である事業者から相談者に対し、自身が主催するバスツアーの参加に当たっては介助者を同伴するよう求めているものであることから、「事業(財・サービスや各種機会の提供等)を行うに当たり」行ったものであると考えられる。 Q2:事業者の対応には、障害を理由とする、障害者でない者と比べた異なる取扱いがありますか? > 今回のケースにおいては、聴覚障害を理由として、ツアー参加時における介助者の同伴を求めるという、障害者でない者に対しては付さない条件を付けていることから、障害を理由とする、障害者でない者と比べた異なる取扱いがあるものと考えられる。なお、この「異なる取扱い」が「不当な差別的取扱い」(正当な理由のない異なる取扱い)に該当するかどうかはQ3以降で検討することとする。 Q3:事業者の対応は、障害者、事業者、第三者の権利利益等の観点から、正当な理由によるもの(Q1の異なる取扱いが、@客観的に見て正当な目的の下に行われたものであり、Aその目的に照らしてやむを得ないといえること)と判断できるでしょうか? > 基本方針においては、正当な理由に相当するのは、障害者に対して、障害を理由とする異なる取扱いが、 @客観的に見て正当な目的の下に行われたものであり、 Aその目的に照らしてやむを得ないと言える場合であるとされている。 そして、正当な理由に相当するか否か(上記@A)については、個別の事案ごとに、障害者、事業者、第三者の権利利益等の観点に鑑み、具体的場面や状況に応じて総合的・客観的に判断することが必要であるとされている。 基本方針における当該記述を本ケースに当てはめた場合、以下のとおりとなるものと考えられる。 > 本ケースにおいて事業者が発話によるコミュニケーションを想定している場面は、添乗員による、ツアー参加者への * 集合時間の案内や集合時の点呼、集合に遅れた方向けの電話連絡 * 緊急時の避難誘導(事前の配布資料に記載のプロセスに従うよう声掛け) である。相談者は、発話を聞き取ることは難しいものの、状況に応じてワイヤレスマイクを併用しつつ、スマートフォンのコミュニケーション支援アプリによる音声と文字の相互変換機能等を活用すること等によって、コミュニケーションをとることができることが確認できている。 > まず、本ケースにおいて事業者が主張する「障害者本人の安全の確保」や「事業の目的・内容・機能の維持」は、実際に想定される発話でのコミュニケーション場面や相談者が普段利用している意思疎通手段等の個別事情を踏まえた上で検討したものではなく、一般論として聴覚障害がある場合には発話によるコミュニケーションが取れず、業務マニュアルに従った対応ができないであろうということを理由としており、相談者の個別事情は考慮されていない。このような判断は、基本方針に記載のあるような「個別の事案ごとに、障害者、事業者、第三者の権利利益等の観点に鑑み、具体的場面や状況に応じて総合的・客観的に判断」したものとは言いがたい。 > 実際に、本ケースでは、事業者は、集合時の点呼や緊急時の避難誘導において発話による連絡・指示ができないとしているが、これらの場面で具体的に想定される発話による連絡・指示の内容については、例えば添乗員に自身のワイヤレスマイクを使用してもらうことで集音を図りつつ、コミュニケーション支援アプリを活用すること等により、相談者が添乗員の発話内容を理解することは十分に可能であると推察される。 > 「事業の目的・内容・機能の維持」の観点については、事業者は、聴覚障害者とのコミュニケーションに時間を要することで、スケジュール通りにバスツアーを運行できないおそれがあると主張するが、コミュニケーション支援アプリの活用により、相談者が添乗員の発話内容を理解することは十分可能であると推察されること、また、集合に遅れた方向けの電話連絡ができないことについては、「集合に遅れる場合」という仮定の場面に過ぎないこと、また、メッセージアプリなど、電話とは異なる連絡手段が数多く存在し、自由に選択できる状況下においては、障害者に対して電話で連絡が取れないことのみをもって「事業の目的・内容・機能の維持」ができなくなるとまでは言えない。 > したがって、本ケースでの事業者の対応は、「個別の事案ごとに、障害者、事業者、第三者の権利利益等の観点に鑑み、具体的場面や状況に応じて総合的・客観的に判断」されていないことが明らかであり、「@客観的に見て正当な理由の下に行われたもの」とはいえず、「不当な差別的取扱い」に該当すると考える。 【コラム1】障害者に対する個別事情等の具体的な確認プロセスとサービス提供時の留意点 ○ 本ケースでは、事業者が、障害者の個別の事情等に考慮しておらず、聴覚障害を理由に一律の判断をしてしまったこと等から、正当な理由がないと判断された。では、実際の場面において、事業者は、どのような対応をすれば、適切にサービスを提供することができるだろうか。 ○ 事業者においては、サービスの提供に当たって、障害の特性に応じて、障害者・事業者・第三者の権利利益の保護の観点から確認が必要と考えられる場合には、障害者に対し、障害者の個別の事情や、配慮が必要か等の確認を行うことが有効である。(障害者、事業者、第三者の権利利益等の観点を判断するためや合理的配慮の提供のために、プライバシーに配慮しながら、障害者に障害の状況等を確認することは不当な差別的取扱いには該当しない。)。 ○ 障害者に対し可能な限り制約を付けずにサービス提供するにはどうすればよいか、障害者と事業者が共に検討すれば、双方が納得する形でのサービス提供が可能となることが多い。このため、確認の過程で障害者から合理的配慮の提供の申出が行われた場合には、「合理的配慮の提供」に係るケーススタディで示しているQ1〜Q4(14〜21頁参照)に従い検討を行っていくことが重要である。 また確認に当たっては、障害者から合理的配慮の提供の申出がない場合でも、事業者側から「何かお手伝いできることはありますか?」といった自主的な声掛けを行うことが有効である。 ○ 障害者から合理的配慮の提供の申出がない場合や、事業者からの自主的な声掛けに対し配慮を求めない旨の回答があった場合には、事業者は当該障害者へのサービス提供等に当たり、以下の点に留意する必要がある。 * 確認の過程で聞き取った個別事情等を踏まえると、当該障害者に対し、障害者でない者と異なる取扱いをする必要があると考えられる場合には、当該取扱いが正当な理由によるもの(「@客観的に見て正当な目的の下に行われたものもの」であり、「Aその目的に照らしてやむを得ないといえるもの」)と判断できるかよく検討すること * 検討の結果、正当な理由があると判断した場合には、障害者にその理由を丁寧に説明し、理解を得るよう努めることがトラブル防止の観点から有効であること 【コラム2】「個別の事案ごとに、具体的場面や状況に応じて総合的・客観的に判断」することの重要性 ○ 本事例においては、事業者側が、個別の事案ごとに、正当な理由の有無について、具体的場面に応じて総合的・客観的に判断していないことから、不当な差別的取扱いに該当すると判断された。 ○ この個別判断の重要性については、事業者側、障害者側双方が十分に理解することが必要である。例えば、「知り合いの障害者の方が、大丈夫だったから」「他の事業者の場合は問題がなかったから」といった理由のみで、やり取りを拒否等することは、相互理解を妨げ、適切なサービスの提供に結び付かない場合がある。相談機関においては、必要に応じ、このことを障害者、事業者双方に教示することが有効である。 Q4:その他の検討事項 @ 障害特性に応じた配慮や支援サービスの内容について問い合わせたい場合等においては、どのような機関にアクセスすることが考えられますか? * 例えば、障害特性に応じた必要な配慮の内容について、基幹相談支援センターや聴覚障害者情報提供施設、当該相談者が利用する相談支援事業所や障害福祉サービス事業所等、地域の障害者団体等、障害特性に関する専門性を有する機関・団体等に問い合わせることが考えられる。 * また、基幹相談支援センター等の相談支援機関に対し、相談者が利用可能な支援サービスを問い合わせることも考えられる。  A 事業者へのアドバイスとして、どのようなことが考えられますか? (ア)本ケースのような不当な差別的取扱いを防止するための対策として、どのような対応が考えられますか? * 今回のケースは、聴覚障害者への理解が十分ではないことや、業務マニュアルが障害者に対応しておらず、不当な差別的取扱いを惹起し得る内容となっていたことにより生じたものと考えられる。 * 事業者及び必要に応じて事業者団体等に対し、マニュアル等の内容に障害を理由に一律にサービスの提供を拒否・制限する内容が含まれていないか確認を行い、問題のある内容が含まれていた場合には改善を行うことが必要であることを教示することが、不当な差別的取扱の再発を防ぐために重要である。  (イ)さらに今後の障害者への円滑なサービスの提供のために考えられる対応はありますか? * マニュアル等の整備にあたり障害特性に応じた対応時の留意事項等を補足することや、当該マニュアルを活用した従業員に対する研修実施等の対策を行うこと、また例えば本件のような聴覚障害者から合理的配慮の提供の申出があった場合に、より的確な合理的配慮の提供が行えるようにするために、意思表示やコミュニケーション支援の観点から筆談器等をあらかじめ用意しておくこと等の「環境の整備」を検討することも、円滑なサービス提供に有効であると考えられる。 Case3 肢体不自由の障害児が学校の実験実習での作業に一部制限をかけられた * 障害種別:肢体不自由(上肢の軽度麻痺) * 生活場面:学校(所管省庁:文部科学省) * 相談内容: > 私立の学校に通う肢体不自由(上肢の軽度麻痺)の方からの説明は以下のとおり。 * 自身の通う学校の化学の授業では度々実験実習を行っており、実験実習の授業では、実験に関する講義を聞いた後、受講者同士でグループを組んで実験実習を行い、その結果を各自でレポートにまとめて提出することとなっている。自身は上肢の軽度麻痺があるため細かな作業を行うことが難しく、これまでのグループ実習では試薬をこぼしてしまったり、器具を落としてしまったりすることもあったが、毎回グループ実習に参加し、試薬の取扱いも含めた作業を行っていた。 * しかし、先日の実験実習の後、担当教員から「次の回の実験では、触れるとやけどを負うなど危険性の高い試薬を使用する予定である。このため、次回のグループ実習では試薬の計量など試薬を取り扱う作業は他のグループメンバーに対応してもらうこととし、相談者は試薬以外の器具の取扱いやデータの記録等、試薬を取り扱わない作業を行うこととしてほしい」との話があった。 * 自身はグループ実習での作業を毎回楽しみにしていたこともあり、グループ内での作業が一部制限されてしまったことが残念でならない。 > 学校からの説明は以下のとおり。 * 相談者は、これまでの実験で、試薬をこぼしたり器具を落としてしまったりすることが多々あったが、これまで実習で取り扱っていた試薬はいずれも危険性のないものであったこと、またグループ実習においてはグループメンバー間で協力して実験を行うとともに実験操作を学んでもらうことを重視していたことから、グループ実習での作業分担はグループ内で検討してもらい、その中で相談者には試薬の計量等も含めた作業を行ってもらっていた。 * しかし、次回の実験で使う試薬は、誤ってこぼして皮膚につけるとやけどをしたり、多量に混ぜてしまうと爆発的に反応してしまったりする懸念がある。このため、「障害者本人及び第三者の安全の確保」の観点から、今回の実験における作業分担については従来どおりグループに検討を任せてしまうのではなく、相談者の行う作業については試薬を取り扱わないものに限定してほしいことをあらかじめお願いしたもの。 * また、次回の実験で使用する試薬について学ぶことは、この学年で修得すべき事項としてカリキュラム上必須としているものである。このため、「事業の目的・内容・機能の維持」の観点から当該実験実習を学んでもらうことは必要であり、相談者と受講者の双方が実験実習の内容を修得できる形で実習を実施するためには、相談者の作業を一部制限することはやむを得ないと考えた。 * 検討事項: Q1:事業者の対応は、事業(財・サービスや各種機会の提供等)を行うに当たり行ったものですか? > 今回のケースは、学校の教員から、学校での授業の実施に当たり相談者にグループ実習における作業の一部制限を求めたものであることから、「事業(財・サービスや各種機会の提供等)を行うに当たり」行ったものであると考えられる。 Q2:事業者の対応には、障害を理由とする、障害者でない者と比べた異なる取扱いがありますか? > 今回のケースにおいては、学校が上肢障害を理由として、グループ実習における作業を一部制限する取扱いを行っていることから、障害者でない者と比べた異なる取扱いがあるものと考えられる。なお、この「異なる取扱い」が「不当な差別的取扱い」(正当な理由のない異なる取扱い)に該当するかどうかはQ3以降で検討することとする。 Q3:事業者の対応は、障害者、事業者、第三者の権利利益等の観点から、正当な理由によるもの(Q1の異なる取扱いが、@客観的に見て正当な目的の下に行われたものであり、Aその目的に照らしてやむを得ないといえること)と判断できるでしょうか? > 基本方針においては、正当な理由に相当するのは、障害者に対して、障害を理由とする異なる取扱いが、 @客観的に見て正当な目的の下に行われたものであり、 Aその目的に照らしてやむを得ないと言える場合であるとされている。 そして、正当な理由に相当するか否か(上記@A)については、個別の事案ごとに、障害者、事業者、第三者の権利利益等の観点に鑑み、具体的場面や状況に応じて総合的・客観的に判断することが必要であるとされている。 基本方針における当該記述を本ケースに当てはめた場合、以下のとおりとなるものと考えられる。 > まず、本ケースにおいて事業者が主張する「障害者本人及び第三者の安全確保」については、漠然とした安全性への不安等から主張するものではなく、相談者がこれまで実験実習に参加した際の様子や試薬の特性の検討等も行った上で主張するものであり、「個別の事案ごとに、障害者、事業者、第三者の権利利益等の観点に鑑み、具体的場面や状況に応じて」判断したものと考えられる。 > 実際に、相談者が過去に参加したグループ実習において、試薬をこぼしたり器具を落としたりしていた点に鑑みると、次回の実験で同様に試薬をこぼしたり器具を落としてしまった場合、試薬の特性上、相談者がやけどを負ったり、一気に多量に混合して爆発し相談者や他の受講者が怪我をしたりするといった事故が起こることが懸念される。 > 「事業の目的・内容・機能の維持」の観点については、次回の実験で使用する試薬について学ぶことはこの学年で修得すべき事項としてカリキュラム上必須となっており、この実験実習を行えなかった場合、カリキュラムで定めている教育目的や内容に影響を及ぼすことが見込まれる。 > 以上から、「障害者本人及び第三者の安全確保」「事業の目的・内容・機能の維持」を理由に、次回の実験に限りグループ実習における作業を一部制限することは「@客観的に見て正当な目的の下に行われたもの」といえる。 > また、事業者の対応が「Aその目的に照らしてやむを得ない」に該当するかどうかについては、当該行為が「障害者本人及び第三者の安全確保」「事業の目的・内容・機能の維持」という目的のために必要な範囲のものとなっているか、それを超えて不必要な制限を課すものとなっていないか、といった観点から判断を行うことが必要であり、本ケースにおいては、事業者が相談者に対し、次回の実験に限りグループ実習における作業を一部制限することが、「障害者本人及び第三者の安全確保」「事業の目的・内容・機能の維持」のために必要な範囲の取扱いであり、不必要な制限を課すものとなっていないかの判断が必要となる。 > まず、相談者がこれまでグループ実習に参加した際の様子や、次回の実験で使用する試薬の特性を考慮すれば、相談者がグループ実習において試薬を取り扱った場合に障害者本人及び同じグループの他の受講者の安全確保が困難となる可能性が高いと考えられること、また当該実験実習を行えなかった場合カリキュラムで定めている教育目的や内容に影響を及ぼすことは前述のとおりである。このような場合において、相談者と他の受講者の安全を確保しつつ、相談者がグループ実習に参加することができるようにするための必要最小限の制限として、次回のグループ実習で予定されている作業のうち、実際に試薬を取り扱う作業に限り制限することは「その目的に照らしてやむを得ない」ものであると考えられる。 > したがって、本ケースにおいて事業者が相談者に対し、次回のグループ実習での作業を一部制限することは正当な理由によるものであり、「不当な差別的取扱い」には該当しないといえる。 【コラム】学校教育分野における「合理的配慮の提供」の検討 ○ 今回のケースでは、相談者と他の受講者との安全を確保しつつ、相談者と他の受講者が共にグループ実習に参加できるようにするための対応として、グループ実習での作業を危険が具体的に見込まれるものに限り一部制限することは「不当な差別的取扱い」に該当しないこととされた。一方、各受講者が単独で実施する必要がある実験実習など、単に作業を一部制限するだけでは障害者が実習に参加することが困難となる場合に、障害者から実習に参加できるような合理的配慮の提供を求められたときには、障害者にとっての社会的障壁を除去するための必要かつ実現可能な対応案を、障害者と事業者が建設的対話を通じて共に検討していくことが必要となる。特に学校教育分野における合理的配慮の提供に当たっては、学校教育を受ける障害者が障害のない者と同様の教育機会を得られるよう、障害者一人一人の障害の状態や教育的ニーズ等に応じて、学校と障害者本人又は保護者との間で合意形成を図った上で提供されることが重要であること、また障害者との関係性が反復継続して長期にわたるという固有の特徴に鑑み、提供する合理的配慮の内容について適宜見直しを行うことも重要であることに留意が必要である。 ○ 障害者が実験実習に参加できるようにするための「合理的配慮」としては、例えば、当該実験実習を通じて習得すべき本質(安全に実験実習を行うための知識と技術を含む)を十分に検討し、本人と共有した上で障害者を伴った事前の実験室視察を行い、その結果と本人の要望を踏まえ、その他の受講者とは別に個別の実習時間を確保することや代替課題の設定、教職員による補助等といった対応を講ずることが考えられる。 ○ また、より円滑に合理的配慮を行うための「環境の整備」として、必要に応じて授業の補助を行えるよう学校内に教員以外の支援スタッフ等を配置しておくなどの人的体制の整備や実験補助のための器具の整備等をあらかじめ行っておくことも考えられる。 Q4:その他の検討事項 @ 事業者へのアドバイスとして、どのようなことが考えられますか? ○ 今後の障害者への円滑なサービスの提供のために考えられる対応はありますか? > 本ケースにおいては、事業者の個別事情に鑑み、相談者に対し、次回のグループ実習での作業を一部制限することは「不当な差別的取扱い」に該当しないこととされた。 > 一方、学校が提供する様々な機会において、学校教育を受ける障害者が障害のない者と同様に参加できるよう、合理的配慮の提供等の一層の充実を図るとともに、障害者に対する適切な支援を行うことができるような環境の整備に努めることは重要である。 > 特に学校教育分野については、前述のとおり障害者との関係が反復継続して長期にわたるなど固有の特徴を有することから、合理的配慮の提供や環境の整備等について検討する際には、文部科学省の策定する「対応指針」に記載されている「分野別の留意点」等も参照しながら検討することが重要である。 Case4 精神障害者が代金不払いを繰り返し通信販売の利用を断られた * 障害種別:精神障害 * 生活場面:通信販売(所管省庁:経済産業省) * 相談内容: > 精神障害者の方からの説明は以下のとおり。 * 自身には精神障害があるため、在宅環境にて服薬を怠ってしまうと躁状態になり、つい買い物をしすぎてしまうことがある。 * 同居していた家族が1年前に他界したため、現在は一人で生活している。以前は、金銭管理や買い物、服薬の管理は家族のサポートがあったが、今は全て自分で行わなければならない。 * 先日、つい最近利用した高額商品を扱う通信販売事業者から、今後のサービス利用を停止する旨の連絡を受けた。この通販サービスに対しては、この数か月間で2回、支払いができずキャンセルをした経緯がある。 * 前回支払いをキャンセルした際には、窓口担当者に対し、精神障害があることから誤注文してしまうことがある旨を伝えたところであり、サービス利用を停止されてしまったのは自身の精神障害が理由なのではないかと気になっている。 > 事業者からの説明は以下のとおり。 * 相談者は、過去3か月以内に2度、相談者から注文を受けて商品を発送したものの、いずれも代引きの際に相談者から代金が支払われなかったということがあった。相談者からは、「現金の持ち合わせがないため、このような高額商品の支払いはできない。自身は精神障害があることから、このような誤注文をしてしまった。」という連絡も受けていた。 * 当社は通常、不良品を除き商品の返品は受け付けていないが、相談者が商品の代金を支払うことができなかったため、これまでやむを得ず2度にわたり返品を受け付けた。 * 当社では、契約の留意事項として、短期間で複数回支払不履行が生じた顧客に対しては、今後も同様の支払不履行が生じる可能性があることから、支払不履行となった理由の如何を問わず、支払不履行の実績・頻度に基づき通販サービスの利用を停止する措置を講じることをお示ししている。このため、今回のケースについても、相談者の支払不履行の実績・頻度に鑑み、契約に基づいてサービスの利用を停止した。なお、過去には相談者と同様の頻度で支払不履行となった顧客に対しても同様の措置を講じた例が複数あり、他の顧客と比べて特段厳しい措置を講じているわけではないと考えている。 * 検討事項: Q1:事業者の対応は、事業(財・サービスや各種機会の提供等)を行うに当たり行ったものですか? > 今回のケースは、通信販売サービスを提供する事業者から、自身の通信販売サービスを利用している相談者に対しサービスの利用を停止する措置を講じたものであることから、「事業(財・サービスや各種機会の提供等)を行うに当たり」行ったものであると考えられる。 Q2:事業者の対応には、障害を理由とする、障害者でない者と比べた異なる取扱いがありますか? > 本ケースにおいては、精神障害のある相談者が通信販売サービスの利用停止措置を受けたことが、障害を理由とする、障害者でない者と比べた異なる取扱いに該当するか検討する必要がある。 > まず、事業者は、契約の留意事項として、短期間に複数回の支払不履行が生じた顧客に対しては、今後も同様の支払不履行が生じる可能性があることから、支払不履行の理由の如何を問わずサービスを停止する旨を示しており、契約に基づき相談者のサービス利用を停止したと主張している。 > 実際に、相談者は過去3か月以内に2度にわたり商品の支払いができなかったという実績があること、また過去に同様の頻度で支払不履行となった顧客に対してサービス停止措置を講じた例が複数あることを踏まえれば、相談者に精神障害があることを理由としてサービスの利用停止を行ったものではなく、事業者は契約に則り、相談者の支払不履行の実績・頻度に基づきサービス利用の停止措置を講じたとものと認められる。 > したがって、本ケースにおける事業者の取扱いは、障害を理由とする、障害者でない者と比べた異なる取扱いとは言えないことから、「不当な差別的取扱い」に該当しないと考えられる。 【コラム】「障害の有無」ではなく、問題となる事象等に着目したルールづくりの重要性 ○ 本ケースでは、相談者のサービス利用停止措置は精神障害を理由としたものではなく、契約に基づき、相談者の支払不履行の実績・頻度に鑑みて講じたものであることから、障害を理由とする、障害者でない者と比べた異なる取扱いとは言えず、「不当な差別的取扱い」に該当しないと判断された。 ○ このように、「障害を理由とした」一律の対応を行うのではなく、障害の有無にかかわらず、消費者の行動として、どのようなものが事業者に損害を与える事象となるのか、等を理由とする対応を行うことが重要である。事業者においては、リスク発生について検討する場合には、障害を理由とする一律のルールを設定するのではなく、問題となる事象等に着目した対応に取り組むことが重要である。 Q3:その他の検討事項 @ 障害特性に応じた配慮や支援サービスの内容について問い合わせたい場合等においては、どのような機関にアクセスすることが考えられますか。 * 本ケースの注文・支払いに関するトラブルは、精神障害のある相談者が一人で金銭管理等を行わなければならないという生活環境に起因している可能性があると考えられる。 * 共生社会の実現という観点からは、障害者が様々なサービスを円滑に利用することができるようにすることが重要である。このためには、事業者だけに対応を任せきりにするのではなく、地域社会全体で障害者の暮らしを支えるべく、今後相談者が同様の問題に直面しないよう、相談者本人の自己決定を尊重・支援しつつ、その障害特性や生活状況に応じた福祉サービスや、必要に応じて金銭管理等の権利擁護支援(「成年後見制度」や「日常生活自立支援事業」など※)等を適切に受け、自立できるよう支援することが重要であり、相談窓口としては、相談者の希望等に応じて、基幹相談支援センターや権利擁護支援に関する担当部署等を教示したり、必要に応じてつなぐといった対応をすることも考えられる。 ※ 成年後見制度:認知症、知的障害、精神障害などにより判断能力が十分でない方の権利を守る援助者(「成年後見人」等)を選ぶことで本人を法律的に支援する制度。家庭裁判所が選任した成年後見人等が代理権・同意権・取消権を行使する「法定後見制度」と、本人が十分な判断能力を有するときに、あらかじめ任意後見人や権限等を決めておき、本人の判断能力が不十分になった後に、任意後見人が権限等を本人に代わって行う「任意後見制度」がある。 ※ 日常生活自立支援事業(実施主体:都道府県・指定都市社会福祉協議会(窓口業務等は市町村の社会福祉協議会等で実施)):認知症高齢者、知的障害者、精神障害者等のうち判断能力が不十分な者が地域において自立した生活が送れるよう、利用者と契約を締結。支援計画に基づいて生活支援員が定期的に訪問を行い、福祉サービスの利用援助や日常的金銭管理等の支援を行う制度。   2 「合理的配慮の提供」ケース Case1 発達障害(聴覚過敏)のある子供が通う習い事教室に遮音対応を断られた * 障害種別:発達障害 * 生活場面:子供向けの習い事教室(所管省庁:経済産業省(経済産業省の所掌外のものを除く)) * 相談内容: > 発達障害のある子供の保護者からの説明は以下のとおり。 * 子供向け習い事教室に子供を通わせているが、そこの講師から、児童が習い事中に興奮して叫ぶことがあるとの連絡があった。 * 子供は自閉症と診断されており、特定の音に対する聴覚過敏がある。習い事教室は飛行機の音がよく聞こえる場所にあり、教室が開講している時間帯は飛行機が1、2回程度飛ぶこともあることから、飛行機の音に反応して興奮してしまっていると考えられる。 * このため、子供が落ち着いた状態で過ごせるよう、教室の窓を防音窓にしてほしいと依頼したところ、対応が難しいと断られてしまった。 * なお、相談者の子供は普段イヤーマフを使用することもあるが、習い事では音声教材等を利用する機会が多いことから、習い事の支障とならないよう、イヤーマフを持ち込んでいなかった。 > 事業者からの説明は以下のとおり。 * 教室の窓を防音窓に変えることは、資金がなく対応が難しいことから断ったものである。 * 生徒から徴収している月謝には施設利用費に相当する額は含まれていない。 * 市の相談窓口担当者は、防音窓の設置は一般的には障害者差別解消法第5条の「環境の整備」の対応に該当するものとも考えたが、相談者の相談内容から、防音窓の設置を求めているのは、「落ち着いて過ごせなくなる飛行機の音」という社会的障壁を除去するために部屋を遮音する防音窓の設置を求めていることから、相談者の求める「防音窓の設置」が「合理的配慮」として適当かどうか検討することとした。 * 検討事項: Q1:障害者から事業者に対し、事業(財・サービスや各種機会の提供等)を行うに当たり社会的障壁の除去を必要としている旨の意思表明がありましたか? > 基本方針においては、障害者からの意思の表明について、障害者からの意思表明のみでなく、障害の特性等により本人の意思表明が困難な場合には、障害者の家族、介助者等、コミュニケーションを支援する者が、本人を補佐して行う意思の表明も含むものとされている。 > 本ケースにおいては、相談者の子供が通う習い事教室に対し、子供の習い事受講に当たり「落ち着いて過ごせなくなる飛行機の音」という社会的障壁の除去のために防音窓を設置することについて、障害者の保護者からの求めがあったため、事業を行うにあたり、社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明はあったといえる。 Q2:求められている配慮は、社会的障壁の除去の実施について、必要かつ合理的な配慮に該当しますか?(事業者の事業の目的・内容・機能に照らし、@必要とされる範囲で本来の業務に付随するものに限られること、A障害者でない者との比較において同等の機会の提供を受けるためのものであること、B事業の目的・内容・機能の本質的な変更には及ばないことの全てを満たしますか?) > 基本方針においては、合理的配慮は、障害者が個々の場面において必要としている社会的障壁を除去するための必要かつ合理的な取組であり、その実施に伴う負担が過重でないものであるとされ、事業者の事業の目的・内容・機能に照らし、@必要とされる範囲で本来の業務に付随するものに限られること、A障害者でない者との比較において同等の機会の提供を受けるためのものであること、B事業の目的・内容・機能の本質的な変更には及ばないことに留意する必要があるとされている。 > そこで、まずは本ケースにおいて、防音窓を設置することが「障害者が個々の場面において必要としている社会的障壁を除去するための必要かつ合理的な取組」といえるか否かを、前述の@〜Bの留意事項ごとに検討することとする。 @必要とされる範囲で本来の業務に付随するものに限られることといえるか * 「必要とされる範囲で本来の業務に付随するものに限られること」とは、行われる配慮の内容が社会的障壁を除去するために必要と認められる範囲で、本来の業務を行う上で業務との関連でなされるものに限られ、業務との関連がない措置や必要性を超える措置は求められないこと(障害者が求める措置そのものではなくても必要性を満たす措置がある場合には、当該措置を行えば足りること)、と解することが相当である。 * 本ケースにおいては、社会的障壁を除去するためには、飛行機の音を遮音することが必要である。遮音の措置は、「習い事教室で受講者に指導する」という本来の業務を行うに当たり、習い事に集中できるような環境の提供という本来の業務に関連するものであり、「本来の業務に付随するもの」と考えられる。 * 一方で、遮音の措置としては、防音窓の設置の他に、窓を閉める、相談者の子供が所有し普段使用しているイヤーマフを活用する等の方法があるところ、窓閉めやイヤーマフの活用で遮音の措置としての必要性を満たすと考えられることから、今回のケースにおいては、防音窓の設置は必要性を超える措置と考えられ、改めて、建設的対話により、代替措置として、イヤーマフの活用等について検討すべきと考えられる。 ※ なお、「防音窓の設置」は、他の児童と同様に「集中して受講する」という機会の提供を受けるためのものであり、「A障害者でない者との比較において同等の機会の提供を受けるためのもの」には該当すると考えられるほか、防音窓を設置することは、習い事教室の「B事業の目的・内容・機能の本質的な変更」には及ばないものと考えられる。 Q3:建設的対話により、どのような代替案が考えられますか? > 本ケースでは、習い事の特性上、相談者の子供はイヤーマフを使わずに受講していたが、相談者と事業者との間において、双方の事情等を踏まえた建設的対話を行うことを通じ、次のような代替案を講ずることが考えられる。 * 相談者の子供にはイヤーマフを持ってきてもらうこととし、相談者の子供が出席している授業においては、窓を閉めるとともに、飛行機が通過することが見込まれる時間帯においてはイヤーマフを装着してもらうこととする。また、事業者において必要に応じてイヤーマフの装着を手伝うとともに、イヤーマフ装着時の子供への声掛けや、音声教材等の使用タイミングについても配慮を行う。 【コラム】建設的対話に当たっての留意事項 ○ 障害者にとっての社会的障壁を除去するために必要かつ実現可能な対応案を障害者と事業者が共に考えていくためには、障害者・事業者双方がお互いの状況の理解に努め、普段本人が行っている対策や、事業者が対応可能な取組等、柔軟に対応策を検討することが重要である。今回のようなケースにおいては、建設的対話の過程で、普段本人が音を遮断したり気持ちを落ち着けたりするために使用している機器や取組等(例:イヤーマフの使用、カームダウン・クールダウンのための別室利用等)を確認し、それを活用するために事業者が行える配慮等について対話を行うことが円滑な対応にも資するものと考えられる。 Q4:その他の検討事項 @ 障害特性に応じた配慮や支援サービスの内容について問い合わせたい場合等においては、どのような機関にアクセスすることが考えられますか。 * 例えば、障害特性に応じた必要な配慮の内容について、基幹相談支援センターや発達障害者支援センター、当該相談者が利用する相談支援事業所や障害福祉サービス事業所等、地域の障害者団体等、障害特性に関する専門性を有する機関・団体等に問い合わせることが考えられる。 * また、基幹相談支援センター等の相談支援機関に対し、相談者が利用可能な支援サービスを問い合わせることも考えられる。 A 本事例で取り得る「環境の整備」として、どのような対応が考えられますか? * 今回のケースでは、防音窓の設置は、「必要とされる範囲」を超える対応となることから、「合理的配慮」には該当しないこととされたが、設備整備といった不特定多数の障害者に向けた事前的改善措置については、「環境の整備」として、行政機関等及び事業者への努力義務(法第5条)となっており、合理的配慮を的確に行うために検討をすることが求められる。 * 新基本方針においても、「多数の障害者が直面し得る社会的障壁をあらかじめ除去するという観点から、他の障害者等への波及効果についても考慮した環境の整備を行うこと」は有効であるとされていること、また、このような環境の整備は「障害者との関係が長期にわたる場合においても、その都度の合理的配慮の提供が不要となるという点で、中・長期的なコストの削減・効率化にも資する」とされており、今後も同様の要望が見込まれる場合には、環境の整備の実施可能性について、事業者に検討を促すことが考えられる。 Case2 知的障害者が対面による入院給付金の手続申請説明を拒否された * 障害種別:知的障害 * 生活場面:入院給付金の手続説明(所管省庁:金融庁) * 相談内容: > 知的障害者の方からの説明は以下のとおり。 * 自身が怪我で入院をしたため、退院後、加入していた生命保険会社の電話相談窓口へ入院給付金の手続方法を問い合わせたが、電話による口頭説明だけでは入院給付金の手続方法を理解することができなかった。 * そのため、生命保険会社に対し、電話では内容が理解できないことから、一つ一つ記入内容の確認等ができるように対面での説明を求めたところ、電話相談窓口の担当者から「当社においては対面による給付金申請の手続説明は行っていない」と対応を拒否されてしまった。 * 相談者は普段の生活において、例えば市役所で申請手続等を行う際には、窓口の担当者から図や実際の書類等を使用しつつ丁寧な説明をしてもらうことで、手続を行うことができている。 > 事業者からの説明は以下のとおり。 * 当社における入院給付金の手続説明は電話・電子メールのみで受け付けており、対面による説明の窓口は設けられていない。また、当社の所在地も相談者の居住地からは遠方である。このため、自社担当者から対面説明を行うことは過重な負担(「事業への影響の程度」や「人的・体制上の制約」)の観点から対応が難しいと判断した。 * 事業者は対面での給付金手続説明は行っておらず、また、体制面も電話や電子メールで受け付けることを前提にしている。一方で、相談者の居住地の近隣にある保険代理店では当該事業者の保険を取り扱っており、当該保険代理店と事業者は円滑な業務実施のため、個別の顧客対応も含め、普段から連携を行っている。 * 検討事項: Q1:障害者から事業者に対し、事業(財・サービスや各種機会の提供等)を行うに当たり社会的障壁の除去を必要としている旨の意思表明がありましたか? > 本ケースでは、相談者から自身が加入している生命保険会社に対し、入院給付金の申請手続に当たり手続方法を理解することが難しいという社会的障壁を除去するために対面での説明が求められていることから、障害者から、事業を行うに当たり、社会的障壁を取り除くための意思表明があったといえる。 Q2:求められている配慮は、社会的障壁の除去の実施について、必要かつ合理的な配慮に該当しますか?(事業者の事業の目的・内容・機能に照らし、@必要とされる範囲で本来の業務に付随するものに限られること、A障害者でない者との比較において同等の機会の提供を受けるためのものであること、B事業の目的・内容・機能の本質的な変更には及ばないことの全てを満たしますか?) > 基本方針においては、合理的配慮は、障害者が個々の場面において必要としている社会的障壁を除去するための必要かつ合理的な取組であり、その実施に伴う負担が過重でないものであるとされ、事業者の事業の目的・内容・機能に照らし、@必要とされる範囲で本来の業務に付随するものに限られること、A障害者でない者との比較において同等の機会の提供を受けるためのものであること、B事業の目的・内容・機能の本質的な変更には及ばないことに留意する必要があるとされている。 > そこで、まずは本ケースにおいて、申請手続について対面での説明を求めることが「障害者が個々の場面において必要としている社会的障壁を除去するための必要かつ合理的な取組」といえるか否かを、前述の@〜Bの留意事項ごとに検討することとする。 @必要とされる範囲で本来の業務に付随するものに限られることといえるか * 「必要とされる範囲で本来の業務に付随するものに限られること」とは、行われる配慮の内容が社会的障壁を除去するために必要と認められる範囲で、本来の業務を行う上で業務との関連でなされるものに限られ、業務との関連がない措置や必要性を超える措置は求められないこと(障害者が求める措置そのものではなくても必要性を満たす措置がある場合には、当該措置を行えば足りること)、と解することが相当である。 * 本ケースにおいては、社会的障壁を除去するためには、相談者が内容を理解できる形での説明を行うことが必要である。顧客にサービスに関して説明を行うことは、「利用者へ生命保険サービスを提供する」という本来の業務との関連で通常行われるものであり、「本来の業務に付随するもの」と考えられる。 * また、契約内容の説明の方法としては、事業者が行っている電話、電子メールによる方法、相談者が求める対面による方法のほか、いわゆるチャット等のテキスト送受信、オンライン面談の方法等が考えられるが、相談者は図や実際の書類を示しながら丁寧な説明を受ければ一定の申請手続等を行えるということであることから、相談者が内容を理解できる説明を行うためには、相談者の面前で図や書類の説明箇所を指し示しつつ、相談者の理解を確認しながら説明することが求められるところであり、対面での説明は、相談者の社会的障壁の除去のために必要と認められる範囲と考えられる。 * したがって、入院給付金の手続申請に際して「対面での説明を行って欲しい」との求めは、必要とされる範囲で本来の業務に付随するものといえる。 A 障害者でない者との比較において同等の機会の提供を受けるためのものであるか * 本ケースは、他の生命保険の契約者と同様に「入院給付金の請求」という機会の提供を受けるために申請手続きを行うためのものであり、障害者でない者との比較において同等の機会の提供を受けるためのものに該当すると考えられる。     B 事業の目的・内容・機能の本質的な変更に及ばないものであるか * 入院給付金を適切に支払うことは、生命保険会社の生命保険サービスの提供の核心部分であり、そのために顧客が入院給付金の申請手続きを理解し、対応できるように、対面で説明等を行うことは、事業者の事業の目的・内容・機能の本質的な変更には該当しないものと考えられる。 > 上記より、相談者から求められている「対面による説明」は、@からBの全てを満たすものと考えられる。 【コラム1】オンラインでのサービス提供を実施している事業者における「事業の目的・内容・機能」の判断 ○ 今回のケースでは、本事業者に対し「対面による説明」を求めることはQ2の@〜Bを満たすと判断されたが、例えばオンライン上でのサービス提供を実施している事業者においては、オンラインでのサービス提供をその事業の核心として事業全体を構築していることがある。 ○ このような事業者の場合、その事業の目的・内容・機能から対面でのサービスの提供の手段を有してはおらず、当該事業者に対して本ケースと同様に「対面による」サービスの提供を求めた場合、あくまで個別の判断とはなるものの、上記Q2の「B事業者の事業の目的・内容・機能の本質的な変更」に該当する可能性が高いものと考えられ、その場合には、建設的対話により代替手段の提供を模索することとなる。 Q3:求められている配慮は、過重な負担に該当しますか? > 基本方針において、過重な負担については、個別の事案ごとに、事業への影響の程度(事業の目的・内容・機能を損なうか否か)や実現可能性の程度(物理的・技術的制約、人的・体制上の制約)、費用・負担の程度等を考慮し、具体的場面や状況に応じて総合的・客観的に判断することが必要であるとされている。 > 本ケースにおいては、Q2で述べたとおり、必要かつ合理的な対応として「対面での説明を行うこと」が考えられるが、当該対応が事業者にとって過重な負担となるかどうかを検討する。 > 本ケースにおいては、事業者は、入院給付金の手続説明を電話・電子メールでのみ受け付けることを前提とした人員体制となっており、対面による説明の窓口は設けられておらず、また、会社の所在地も相談者の居住地からは遠方である。このような体制下で、事業者が、相談者が対面で説明を受けることが可能な相談者の居住地の近隣において対面での説明のための場所を確保し、説明対応者を派遣して説明を行うことは、人的・体制上の制約から困難であることが考えられ、過重な負担に該当する可能性が高い。したがって、改めて、建設的対話により、代替措置を検討すべきと考えられる。 Q4:建設的対話により、どのような代替案が考えられますか? > 本ケースでは、社会的障壁を除去するための対面での説明が求められているところ、適切に説明することが可能であれば、説明の主体が異なっても目的は果たせると考えられる。 > 今回のケースでは、事業者への事実関係等を確認する過程において、相談者の居住地の近隣に所在する保険代理店と事業者は普段から個別の顧客対応も含め連携を行っていることが明らかになったことから、事業者が当該代理店に対し、相談者からの要望内容や対応に際しての留意事項など補足事情を伝えた上で、相談者の求めに応じて申請手続のサポートを行うよう依頼することを、代替案として提案することが考えられる。 【コラム2】オンラインでのサービス提供を実施している事業者において想定される代替案 ○ 事業者においては、サービスの提供に当たって、障害の特性に応じて、障害者・事業者・第三者の権利利益の保護の観点から確認が必要と考えられる場合には、障害者と必要な対話を行い、障害者の個別の事情や、配慮が必要か等の確認を行うことが有効である。(障害者、事業者、第三者の権利利益等の観点を判断するためや合理的配慮の提供のために、プライバシーに配慮しながら、障害者に障害の状況等を確認することは不当な差別的取扱いには該当しない。)。 ○ 今回のケースにおいて仮に事業者が保険代理店と連携していなかった場合や、先のコラムで示したような、オンラインでのサービス提供等を事業の核心としており、対面でのサービスの提供の手段を有さない事業者の場合においては、建設的対話の過程において、福祉サービス事業所の支援員や介助者等、相談者本人が支援者として指定する者がいる場合には、申請手続に当たり当該者にサポートしてもらうことや、説明動画をオンデマンド配信している場合には当該動画の視聴、また知的障害のある方等にむけ手続内容をかみ砕いて記載した「わかりやすい版」パンフレットがあれば当該パンフレットの紹介を代替案として相談者に提案することも考えられる。 Q5:その他の検討事項 @ 障害特性に応じた配慮や支援サービスの内容について問い合わせたい場合等においては、どのような機関にアクセスすることが考えられますか? * 例えば、障害特性に応じた必要な配慮の内容について、基幹相談支援センター、当該相談者が利用する相談支援事業所や障害福祉サービス事業所等、地域の障害者団体等、障害特性に関する専門性を有する機関・団体等に問い合わせることが考えられる。 * また、基幹相談支援センター等の相談支援機関に対し、相談者が利用可能な支援サービスを問い合わせることも考えられる。 A 事業者へのアドバイスとして、どのようなことが考えられますか?  〇 本事例で取り得る「環境の整備」として、どのような対応が考えられますか? * 今回のケースでは、事業者の窓口担当者において知的障害のある相談者にとっての社会的障壁が何であるか、その除去のためどのような対応が取り得るかを建設的対話の過程で十分に把握・理解することができなかったために起きたものと考えられる。 * 新基本方針においては、「相談・紛争事案を事前に防止する観点からは、合理的配慮の提供に関する相談対応等を契機に、行政機関等及び事業者の内部規則やマニュアル等の制度改正等の環境の整備を図ることは有効」であるとされている。本ケースの場合でも、このような事案が今後起きることのないよう、必要に応じて事業者団体とも協力しつつ、障害特性に応じた対応時の留意事項等を補足するなど、事業者マニュアルの整備等を行うとともに、マニュアルを活用した従業員研修の実施や、社内において関係部署間が円滑に連携できるような相談体制の整備等の「環境の整備」を行うことが、円滑なサービスの提供に資すると考えられる。 Case3 内部障害者(オストメイト)がバリアフリートイレを探してほしいと駅員に頼んだが、拒否された * 障害種別:内部障害(オストメイト) * 生活場面:駅周辺のトイレ利用(所管省庁:国土交通省) * 相談内容: > 内部障害者(オストメイト)の方からの説明は以下のとおり。 * 相談者は駅で、オストメイトの排せつ処理に対応したバリアフリートイレを探していたが、同駅にはバリアフリートイレは設置されていなかった。また、駅周辺にバリアフリートイレがあるか分からず、駅員に駅周辺の近隣施設のバリアフリートイレの場所を聞いたところ「分からない」とのことであった。 * 相談者は以前別の駅で駅員から近隣のバリアフリートイレを教えてもらった経験があったため、「駅周辺の近隣施設のバリアフリートイレを探してほしい」と駅員に依頼したが、「対応が難しい」と断られてしまった。 > 事業者からの説明は以下のとおり。 * 駅員は、鉄道の駅での切符の出札・改札・集札、乗越し運賃の精算、ICカード関連のサービス提供、ホームでの乗客整理、利用客の乗降介助など、旅客の円滑な輸送のための駅施設の運営業務をその業務内容とすることが業務規程に定められており、駅施設と無関係な周辺施設のバリアフリートイレ設置状況の把握・案内は駅員業務に含まれないと判断した。 * 検討事項: Q1:障害者から事業者に対し、事業(財・サービスや各種機会の提供等)を行うに当たり社会的障壁の除去を必要としている旨の意思表明がありましたか? > 本ケースでは、相談者から駅施設において業務に従事している駅員に対し、利用可能なバリアフリートイレの場所がわからないという社会的障壁を除去するために、駅周辺施設におけるバリアフリートイレの探索が求められていることから、障害者から社会的障壁を取り除くための意思表明があったといえる。 Q2:求められている配慮は、社会的障壁の除去の実施について、必要かつ合理的な配慮に該当しますか?(事業者の事業の目的・内容・機能に照らし、@必要とされる範囲で本来の業務に付随するものに限られること、A障害者でない者との比較において同等の機会の提供を受けるためのものであること、B事業の目的・内容・機能の本質的な変更には及ばないこと、の全てを満たしますか?) > 基本方針においては、合理的配慮は、障害者が個々の場面において必要としている社会的障壁を除去するための必要かつ合理的な取組であり、その実施に伴う負担が過重でないものであるとされ、事業者の事業の目的・内容・機能に照らし、@必要とされる範囲で本来の業務に付随するものに限られること、A障害者でない者との比較において同等の機会の提供を受けるためのものであること、B事業の目的・内容・機能の本質的な変更には及ばないことに留意する必要があるとされている。 > そこで、まずは本ケースにおいて、駅周辺で利用可能なバリアフリートイレの探索を求めることが「障害者が個々の場面において必要としている社会的障壁を除去するための必要かつ合理的な取組」といえるか否かを、前述の@〜Bの留意事項ごとに検討することとする。 @必要とされる範囲で本来の業務に付随するものに限られることといえるか * 「必要とされる範囲で本来の業務に付随するものに限られること」とは、行われる配慮の内容が社会的障壁を除去するために必要と認められる範囲で、本来の業務を行う上で業務との関連でなされるものに限られ、業務との関連がない措置や必要性を超える措置は求められないこと(障害者が求める措置そのものではなくても必要性を満たす措置がある場合には、当該措置を行えば足りること)、と解することが相当である。 * 駅員の業務規程によると、駅員の本来業務は旅客の円滑な輸送のための駅施設の運営であるとされている。一方、本ケースにおいて相談者から求められている内容は、駅とは無関係の周辺施設におけるバリアフリートイレの設置状況の確認・教示であり、駅施設の運営という駅員の本来の業務に付随しているとは言いがたい。 * したがって、「近隣のバリアフリートイレを探してほしい」との求めは、必要とされる範囲で本来の業務に付随するものとはいえないため、改めて、建設的対話により、代替措置を検討すべきと考えられる。 ※ なお、「駅周辺のバリアフリートイレの探索」は駅員業務に含まれない以上、他の利用客からの求めであっても実施するものではないことから、「A障害者でない者との比較において同等の機会の提供を受けるためのもの」には該当しないと考えられるほか、駅員業務の「B事業の目的・内容・機能の本質的な変更」にも当たると考えられる。 Q3:建設的対話により、どのような代替案が考えられますか? > 本ケースでは、駅周辺のバリアフリートイレを探すという行為が、駅事業者の本来の業務に付随しないものであったため、対応を行うのが困難と判断されたが、相談者と事業者との間において、双方の事情等を踏まえた建設的対話を行うことを通じ、駅周辺施設でなくとも、同じ路線内の周辺駅におけるバリアフリートイレの有無を確認し、このうち最寄りとなる駅を案内するといった対応を講ずることが代替案として考えられる。 Q4:その他の検討事項 @ 障害特性に応じた配慮や支援サービスの内容について問い合わせたい場合等においては、どのような機関にアクセスすることが考えられますか? * 例えば、障害特性に応じた必要な配慮の内容について、基幹相談支援センターやオストメイトに関する地域の障害者団体等、障害特性に関する専門性を有する機関・団体等に問い合わせることが考えられる。 * また、基幹相談支援センター等の相談支援機関に対し、相談者が利用可能な支援サービスを問い合わせることも考えられる。 A 本事例で取り得る「環境の整備」として、どのような対応が考えられますか? > 今回のケースでは「近隣のバリアフリートイレの探索」は「必要とされる範囲で本来の業務に付随するもの」とはいえない対応となることから、提供可能な「合理的配慮」には該当しないこととされたが、設備整備といった不特定多数の障害者に向けた事前的改善措置については、「環境の整備」として、行政機関等及び事業者への努力義務(法第5条)となっており、合理的配慮を的確に行うために検討をすることが求められる。 > 基本方針においては、環境整備について「ハード面でのバリアフリー化施策、情報の取得・利用・発信におけるアクセシビリティ向上のための施策、職員に対する研修等、環境の整備の施策を着実に進めることが必要」であること、また、新基本方針においては、「多数の障害者が直面し得る社会的障壁をあらかじめ除去するという観点から、他の障害者への波及効果についても考慮した環境の整備を行うこと」は有効であるとされている。このような環境の整備はその都度の合理的配慮の提供が不要となるという点で、中・長期的なコストの削減・効率化にも資すると考えられることから、今後も同様の要望が見込まれる場合には、環境の整備の実施可能性について、事業者に検討を促すことが考えられる。 > 本ケースにおける環境の整備の例としては、当該駅へのバリアフリートイレ設置や、バリアフリートイレが設置されている付近の駅を示す貼り紙を掲示するといった対応が考えらえる。 【コラム】「地域協議会」を活用した関係機関の連携 ○ 本ケースでは駅周辺の近隣施設におけるバリアフリートイレの設置状況の把握・案内は駅員の本来業務に付随せず対応が困難であるとされたが、住みよい地域づくりの観点からは、一事業者による対応だけでは難しい課題について地域全体で取り組んでいくことが重要である。 ○ このように、地域全体で社会的障壁の除去に取り組んでいく場合に、関係者間の連携の場としての役割を担うことが期待されるのが「地域協議会」である。 ○ 本ケースにおいては、例えば * 地域協議会の場に鉄道事業者も参画してもらい、本ケースのような事案があった場合に講じ得る措置等について意見交換を行う * 地域の障害者団体や事業者など、地域協議会に参画する他の構成員と連携して当該地域内のバリアフリーマップを作成し、地域内におけるバリアフリートイレ等の施設情報の共有を図る * バリアフリートイレ整備状況の案内サイトに関する情報など、社会的障壁の除去に有益な情報を地域協議会の構成員間で共有する といった対応を地域協議会において行えば、本ケースのような事案が発生した場合にも業種を問わず障害者に対し有益な情報提供が可能となり、ひいては住みよい地域づくりにつながると考えられる。 Case4 試験会場への交通費負担を「合理的配慮の提供」として求められた * 障害種別:視覚障害(弱視) * 生活場面:資格試験の受験(所管省庁:当該資格に関連する事業分野を所管する府省庁) * 相談内容: > 視覚障害者(弱視)の方からの説明は以下のとおり。 * 自身は弱視であるため、民間団体が主催する資格試験の受験申込みの際に、主催者に対し「弱視のため問題の読み取りに時間を要することから、受験に当たり配慮してもらいたい」と依頼した。 * その結果、主催者からは試験時における拡大読書器の利用を認めるほか、試験時間の延長を行うとの対応が示され、また、当該対応が可能な会場として、自身の居住地から最寄りの会場とは別の、居住地から電車で1時間ほどかかる会場を受験会場として指定する旨の回答があった。 * 拡大読書器の利用が認められたこと、また試験時間の延長が可能となったことはよいが、指定された試験会場が居住地から遠く、交通費がかかってしまうので、最寄りの会場にしてほしい。また、それが難しい場合、主催者側で交通費を負担してもらいたい。 > 事業者からの説明は以下のとおり。 * 相談者からの申出を受けどのような対応を行うことができるか検討した結果、拡大読書器の使用を認めるほか、試験時間の延長を行うこととしたが、試験時間の延長を行うに当たっては、相談者やその他の受験者が試験に集中できるよう、他の受験者とは別の部屋で受験してもらう必要があると判断した。しかし、相談者の居住地から最寄りの試験会場は部屋の数に限りがあり、別室を確保することが困難であったことから、当該会場とは別の、別室確保が可能な会場であって、相談者の居住地からなるべく近い会場で対応することとした。 * 事業者は受験者の受験会場までの移動に関しては全く関与しておらず、試験会場までの交通費は受験者各自が負担している。例えば、試験会場の定員との関係から、受験者の希望する会場以外の会場を指定するケース等においても、受験者の障害の有無にかかわらず、交通費は一律で自己負担としている。居住地から電車で1時間ほどの会場を指定したことについても、その他の受験者に対して同様の移動時間を要する会場を別会場として指定することもあること、移動時間についても1時間程度であり、他の受験者に比べて特別遠い会場を指定しているわけでもないと考えている。このため、相談者の受験に際しても交通費は自己負担としていただきたい。 * 市の相談窓口担当者は、合理的配慮の提供を検討する際には、金銭要求によらない案を障害者・事業者双方で検討していくことが適当であると認識していたものの、相談者からの申出を踏まえ、今回のケースにおいて事業者が相談者の居住地の最寄りの会場で対応することや、相談者の試験会場までの交通費を負担することも「合理的配慮の提供」に含まれるかを検討することとした。 * 検討事項: Q1:障害者から、事業(財・サービスや各種機会の提供等)を行うに当たり社会的障壁の除去を必要としている旨の意思表明がありましたか? > 本ケースでは、弱視である相談者から資格試験を主催する事業者に対し、当該資格試験の受験に当たって、弱視のため問題の読み取りに時間を要するという社会的障壁を除去するための配慮を求めていることから、社会的障壁の除去を必要としている旨の意思表明があったといえる。 Q2:求められている配慮は、社会的障壁の除去の実施について、必要かつ合理的な配慮に該当しますか?(事業者の事業の目的・内容・機能に照らし、@必要とされる範囲で本来の業務に付随するものに限られること、A障害者でない者との比較において同等の機会の提供を受けるためのものであること、B事業の目的・内容・機能の本質的な変更には及ばないこと、の全てを満たしますか?) > 基本方針においては、合理的配慮は、障害者が個々の場面において必要としている社会的障壁を除去するための必要かつ合理的な取組であり、その実施に伴う負担が過重でないものであるとされ、事業者の事業の目的・内容・機能に照らし、@必要とされる範囲で本来の業務に付随するものに限られること、A障害者でない者との比較において同等の機会の提供を受けるためのものであること、B事業の目的・内容・機能の本質的な変更には及ばないことに留意する必要があるとされている。 > 本ケースにおいては、事業者は、弱視である相談者からの「受験に当たり配慮してもらいたい」という申出に対し、当該申出に対する「合理的配慮」として、事業者において試験時における拡大読書器の利用を認めるほか、試験時間の延長をすることとし、試験時間の延長に際して、相談者及び他の受験者が円滑に試験を受験できるようにするために別室を確保する必要があることから、相談者の居住地から電車で1時間程度の試験会場(以下「本件会場」という。)で対応を行うこととしたものである。相談者は、拡大読書器の利用や試験時間の延長については了としたが、試験会場について、もともと希望していた相談者の居住地から最寄りの会場ではなく、本件会場となったことを不服とし、(ア)相談者の居住地の最寄りの会場で対応すべきこと(イ)それが困難な場合には本件会場までの交通費を負担することを求めていることから、これらの対応が、「障害者が個々の場面において必要としている社会的障壁を除去するための必要かつ合理的な取組」に含まれるか否かを、前述の@〜Bの留意事項ごとに検討することとする。 @ 必要とされる範囲で本来の業務に付随するものに限られることといえるか * 「必要とされる範囲で本来の業務に付随するものに限られること」とは、行われる配慮の内容が社会的障壁を除去するために必要と認められる範囲で、本来の業務を行う上で業務との関連でなされるものに限られ、業務との関連がない措置や必要性を超える措置は求められないこと(障害者が求める措置そのものではなくても必要性を満たす措置がある場合には、当該措置を行えば足りること)、と解することが相当である。 * 本ケースにおいて社会的障壁を除去するためには、弱視である相談者の受験に当たり、問題の読み取りに要する時間を確保するための手段を講ずる必要がある。事業者の事業は、資格試験の受験申込みを行ったものに対し、当該資格に合格する能力の有無を適切に検査し、合格した場合にはその証明を行うことであると考えられるところ、問題読み取りのための試験時間の調整を行うことができる試験会場を設定することについては、資格試験の主催者である事業者の「本来の業務に付随するもの」であると考えられる。 * ここで、相談者は、(ア)相談者の居住地の最寄りの会場で対応すべきことを主張する。しかし、今回対応すべき社会的障壁については、弱視である相談者の受験に当たり、問題の読み取りに要する時間を確保するための手段を講ずるという対応が必要であるが、会場の場所について、相談者の居住地から「最寄りの受験会場であること」が必要であるという特段の事情は示されていない。また、本件会場は相談者の居住地から電車で1時間程度であること、事業者は他の受験者に比べて特別遠い会場を指定しているわけではないこと、が認められる。したがって、本件会場は、問題の読み取りに要する時間を確保するための手段を講じるために妥当な会場の設定と考えられ、相談者が自身の居住地の最寄りの会場を指定することを求めることは、必要性を超える措置と考えられる。 * さらに、相談者は、(イ)最寄りの会場とすることが困難な場合には本件会場までの交通費を負担することを求めている。しかし、事業者は、前述のとおり、事業者は、受験者の会場までの移動に関しては対応を行っておらず、また、交通費についても一律受験者の自己負担としていることが認められることから、事業者は、交通費の補助を事業の一環として行っておらず、したがって本来業務に付随しているとはいえないと考えられる。また、上記のとおり、そもそも、相談者の居住地の最寄りの会場を求めることは必要性を超える措置であるところ、最寄りの会場が指定されていないことを理由として求める交通費の支給もまた、必要性を超える措置に該当する。 * 以上より、(ア)(イ)ともに、「必要とされる範囲で本来の業務に付随するもの」に該当しない。     A 障害者でない者との比較において同等の機会の提供を受けるためのものか * @に記載のとおり、(ア)(イ)はいずれも、相談者の社会的障壁を除去するための措置としては、相談者の居住地から「最寄りの受験会場であること」が必要であるという特段の事情は示されていないこと、事業者は他の受験者に比べて特段遠い会場を指定しているわけではないこと、また事業者は受験者の会場までの移動に関し対応を行っておらず、交通費についても一律受験者の自己負担としていることが認められることから、「障害者でない者との比較において同等の機会の提供を受けるためのもの」に該当しない。     B 事務・事業の目的・内容・機能の本質的な変更に及ばないものか * (ア)について、前述のとおり、事業者の事業は、資格試験の受験申込みを行ったものに対し、当該資格に合格する能力の有無を適切に検査し、合格した場合にはその証明を行うことであると考えられるところ、問題読み取りのための試験時間の調整を行うことができる試験会場を設定することについては、資格試験を主催する事業者の業務の範囲内の対応であると考えられるため、「B事務・事業の目的・内容・機能の本質的な変更」には及ばないものと考えられる。 * (イ)について、前述のとおり事業者は受験者の受験会場までの移動に関して対応を行っておらず、試験会場までの交通費も一律で自己負担としていることから、事業者の事務・事業の目的・内容・機能の本質的な変更に該当すると考えられる。 > 以上から、(ア)(イ)ともに、社会的障壁の除去の実施について、必要かつ合理的な配慮には該当しないと考えられる。 【コラム】金銭要求への対応について ○ 合理的配慮の提供は、障害者の活動等を制限している社会的障壁を取り除くために講じられる措置であり、合理的配慮の提供の趣旨を超える不当な金銭要求への対応とは明確に区別されるべきものである。 ○ 一方で、昨今、一部の悪質な消費者が、事業者に対し不当な金銭の要求を行うケースが「悪質クレーム」として社会問題化していること、営利事業者においては、財・サービスや各種機会を提供し、その対価を受けることを生業としており、契約内容にない金銭要求に対応することは経営上大きな問題であることから、消費者側からの金銭的な要求が発生した場合、法曹・警察関係者に相談を行う等の慎重な対応が行われることが多い。 ○ 合理的配慮の提供に当たっては、「社会的なバリアをいかに取り除くか」の方法について、事業者等と障害者が対話を重ね、相互理解を通じて柔軟な対応がなされることが期待されるが、このような現状に鑑みれば、障害者から金銭支払いの要求がなされた場合、当該要求の内容が不当か否かにかかわらず、事業者側は「合理的配慮の提供のための建設的対話」の姿勢から「金銭要求に対する対応」に切り替わり、身構えてしまうことが想定される。 ○ これにより建設的対話が進まず、本来行われるべき合理的配慮の提供がなされない事態となることは適当ではない。このため、相談窓口において金銭要求に係る相談を受けた場合には、障害者、事業者双方に対し、金銭提供によらない代替案等がないか、検討するよう促すことが重要となる。 ○ 例えば本ケースの場合には、相談窓口担当者から相談者に対し、「合理的配慮」の考え方について改めて説明し理解を得ること、また事業者に対しては、相談者の居住地の最寄りの会場において他の受講者と時間帯をずらして受験を実施することが可能か、また「環境の整備」として、次回以降の試験実施の際には各試験会場で別室確保を行うことや、ウェブ試験の導入等の工夫ができないか、といった検討を促すことが考えられる。 Case5 車椅子利用者が夜間の給油補助を断られた * 障害種別:肢体不自由(車椅子利用) * 生活場面:ガソリンスタンド(セルフサービス方式)(所管省庁:経済産業省(消防法等、経済産業省の所掌外のものを除く)) * 相談内容: > 肢体不自由者の方からの説明は以下のとおり。 * 相談者は夜間の運転中、ガソリンが少なくなっていることに気づき、近くのセルフサービス方式のガソリンスタンドに立ち寄った。 * セルフサービス方式のガソリンスタンドで相談者が給油をするためには、パネルの操作や給油ノズルの差込みをおこなう必要があるが、パネルや給油ノズルが高い位置にあり、独力での給油作業は難しかった。 * そこで、操作パネルについているインターホンで、事務室にいる従業員に対して、パネル操作やノズル差し込みなどの給油の補助をお願いしたところ、「人員がいないので手伝えない。現在他の客への整備対応を行っており、手が離せないので、その対応が終わるまで待ってほしい」と言われて待たされてしまった。合理的配慮の提供を申し出たにもかかわらず、他の客への対応を優先し、後回しにされたようで残念に感じた。 > 事業者からの説明は以下のとおり。 * ガソリンスタンドでは、消防法に基づき、事業所内の制御卓に配置された従業員又はタブレット端末を持った従業員が、制御卓又はタブレット端末等の制御装置により給油許可等を行うこととされている。 * 自社のガソリンスタンドではタブレット端末を導入していないため、相談者の給油補助を行うには、従業員が相談者の給油作業を補助しながら、別の従業員が事務室に設置された制御卓前にて給油許可等を行う必要がある。 * 相談者が訪れた時間帯は従業員2名のみで営業を行っていた。他の客がいないような場合には手伝うことも可能であったと思われるが、当時は従業員1名がタイヤ交換等の整備業務を行っており、中断できない作業の途中であったことから持ち場を離れることができない状況にあったこと、またもう1名については、前述のとおり相談者の給油許可を行うためには制御卓にて操作を行う必要があることから、制御卓前を離れることができない状態にあった。したがって、「事業への影響の程度」「人的・体制上の制約」の観点からガソリンスタンドの従業員は相談者の給油補助ができず、他のお客様への整備対応が一段落するまで、対応をお待ちいただくよう伝えたもの。 * 検討事項: Q1:障害者から、事業(財・サービスや各種機会の提供等)を行うに当たり社会的障壁の除去を必要としている旨の意思表明がありましたか? > 本ケースでは、セルフサービス方式のガソリンスタンドの従業員に対し、相談者から、ガソリン給油に当たってのパネル操作やノズル差込みという社会的障壁を除去するために給油の補助が求められていることから、事業を行うに当たり、障害者から社会的障壁を取り除くための意思表明があったといえる。 Q2:求められている配慮は、社会的障壁の除去の実施について、必要かつ合理的な配慮に該当しますか?(事業者の事業の目的・内容・機能に照らし、@必要とされる範囲で本来の業務に付随するものに限られること、A障害者でない者との比較において同等の機会の提供を受けるためのものであること、B事業の目的・内容・機能の本質的な変更には及ばないこと、の全てを満たしますか?) > 基本方針においては、合理的配慮は、障害者が個々の場面において必要としている社会的障壁を除去するための必要かつ合理的な取組であり、その実施に伴う負担が過重でないものであるとされ、事業者の事業の目的・内容・機能に照らし、@必要とされる範囲で本来の業務に付随するものに限られること、A障害者でない者との比較において同等の機会の提供を受けるためのものであること、B事業の目的・内容・機能の本質的な変更には及ばないことに留意する必要があるとされている。 > そこで、まずは本ケースにおいて、セルフサービス方式のガソリンスタンドで給油補助を行うことが「障害者が個々の場面において必要としている社会的障壁を除去するための必要かつ合理的な取組」といえるか否かを、前述の@〜Bの留意事項ごとに検討することとする。 @ 必要とされる範囲で本来の業務に付随するものに限られることといえるか * 「必要とされる範囲で本来の業務に付随するものに限られること」とは、行われる配慮の内容が社会的障壁を除去するために必要と認められる範囲で、本来の業務を行う上で業務との関連でなされるものに限られ、業務との関連がない措置や必要性を超える措置は求められないこと(障害者が求める措置そのものではなくても必要性を満たす措置がある場合には、当該措置を行えば足りること)、と解することが相当である。 * 本ケースにおいて社会的障壁を除去するためには、相談者の給油が可能となるようパネル操作やノズル差込み等の補助が必要である。ガソリンスタンドにおいて「利用者の車へガソリンを給油する」ことはガソリンスタンドを運営する事業者の本来の業務に関連するものであるが、セルフサービス方式の場合は、給油を利用者自らが行うことを前提としており、従業員による給油は想定していないものの、やむを得ない場合に利用者が給油できるよう補助を行うことは、「本来の業務に付随するもの」と考えられる。 * また、ガソリンスタンドの設備上、パネル操作やノズル差込み等を行わなければ相談者の車に給油することはできないことから、従業員による給油の補助を行うことは、相談者の社会的障壁の除去のために必要と認められる範囲と考えられる。 * したがって、セルフサービス方式のガソリンスタンドにおいてやむを得ない場合に利用者が給油できるよう補助を行うことは、必要とされる範囲で本来の業務に付随するものといえる。     A 障害者でない者との比較において同等の機会の提供を受けるためのものか * 本ケースは、他のガソリンスタンド利用者と同様に「ガソリンの給油」という機会の提供を受けるためのものであり、障害者でない者との比較において同等の機会の提供を受けるためのものに該当すると考えられる。     B 事務・事業の目的・内容・機能の本質的な変更に及ばないものか * ガソリンスタンドにおいて給油を行うことは、ガソリンスタンドにて提供しているサービスそのものである。前述のとおり、セルフサービス方式の場合は、給油を利用者自らが行うことを前提としており、従業員による給油は想定していないものの、やむを得ない場合に利用者が給油できるよう補助を行うことは、事業者の事務・事業の目的・内容・機能の本質的な変更には該当しないものと考えられる。 > 上記より、相談者から求められている「従業員による給油の補助」は、@からBの全てを満たすものと考えられる。 Q3:求められている配慮は、過重な負担に該当しますか? > 基本方針において、過重な負担については、個別の事案ごとに、事業への影響の程度(事業の目的・内容・機能を損なうか否か)や実現可能性の程度(物理的・技術的制約、人的・体制上の制約)、費用・負担の程度等を考慮し、具体的場面や状況に応じて総合的・客観的に判断することが必要であるとされている。 > 本ケースにおいては、Q2で述べたとおり、必要かつ合理的な対応として「従業員による給油の補助」が考えられるが、当該対応が事業者にとって過重な負担となるかどうかを検討する。 > 本ケースにおけるガソリンスタンドでは遠隔での監視が可能なタブレット端末の導入もないことから、少なくとも従業員のうち1名は、常に制御卓前にいて給油許可等を行う必要があった。加えて、当日、相談者が訪れた際に配置されていたもう1名の従業員は他の客のタイヤ交換等の整備対応を行っており、中断できない作業の途中であったため持ち場を離れることができない状況にあったことから、このような中で整備対応を行っている従業員が他の客への整備対応を一時停止した上で相談者の車に出向いて給油補助を行うことは、「実現可能性の程度(人的・体制上の制約)」や「事務・事業への影響の程度(事務・事業の目的・内容・機能を損なうか否か)」の観点から困難であったことが考えられ、過重な負担に該当する可能性が高い。したがって、他の客への整備対応が終わるまで待たせる対応となったことは、やむを得ないものであったと考えられる。 【コラム】障害者への丁寧な説明 ○ 本ケースでは、消防法上のルールや中断できない作業の途上であることにより、従業員が合理的配慮の提供を依頼されてからすぐに相談者の給油補助を行うことは過重な負担に該当するため、一定程度、相談者に待ってもらうこともやむをえないと判断された。 ○ 新基本方針においては、事業者が「過重な負担に当たると判断した場合は、障害者に丁寧にその理由を説明するものとし、理解を得るよう努めることが望ましい。」とされており、今回のようなケースにおいても、事業者が、相談者に消防法等の法令上のルールや当日の店舗の体制、中断できない作業を行っており他の利用者に順番に対応していることから〇分ほど待ってほしいこと等について説明した上で、一定の時間待ってもらうことについて、説明を行うことで、相互理解が図られ、円滑な顧客対応につながることが考えられる。 Q5:その他の検討事項 @ 事業者へのアドバイスとして、どのようなことが考えられますか? ○ 今後の障害者への円滑なサービスの提供のために考えられる対応はありますか? > 本件事業者はセルフサービス方式のガソリンスタンドであり、給油は利用者自らが行うことを前提としており、従業員による給油は想定していないものの、車椅子利用者である相談者一人ではパネルや給油ノズルに手が届かず給油作業ができなかったため、やむを得ない場合として、相談者が給油できるよう補助を行ったものであり、本件事業者の取組は合理的配慮の趣旨に沿った取組として評価できる。 > その上で、今後も給油補助を必要とする者からの申出があり得ることから、不特定多数の障害者に向けた事前的改善措置として「環境の整備」を検討することが円滑なサービス提供の観点からも有効である。本ケースにおいては、このような給油補助の求めがあったことを契機として、従業員が監視室の外にいても給油許可等を行えるようなタブレット端末の導入といった「環境の整備」を新たに検討していくことが考えられる。 3 「不当な差別的取扱い」・「合理的配慮の提供」複合ケース Case 車椅子利用者が通常席での参加を希望したコンサートで特別席を勧められた ※ 本ケースは、相談者に対する事業者の対応が「不当な差別的取扱い」に該当するか検討するとともに、相談者からの求めに対し、どのような「合理的配慮」が提供し得るか併せて検討する事例とする。 <「不当な差別的取扱い」と「合理的配慮の提供」の関係> ○ 障害者基本法第4条では、基本原則として「障害を理由とする差別」を禁止しており、障害者差別解消法はその基本原則を具体化したものである。 ○ 具体的には、「障害を理由とする差別」を解消するための措置として、障害者差別解消法においては、事業者による「不当な差別的取扱い」の禁止が第8条第1項、「合理的配慮の提供」が第8条第2項で定められている。 (事業者における障害を理由とする差別の禁止) 第八条 事業者は、その事業を行うに当たり、障害を理由として障害者でない者と不当な差別的取扱いをすることにより、障害者の権利利益を侵害してはならない。 2 事業者は、その事業を行うに当たり、障害者から現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明があった場合において、その実施に伴う負担が過重でないときは、障害者の権利利益を侵害することとならないよう、当該障害者の性別、年齢及び障害の状態に応じて、社会的障壁の除去の実施について必要かつ合理的な配慮をするように努めなければならない。 ※ 上記条文は現行法のもの。第8条第2項の事業者による「合理的配慮の提供」は改正障害者差別解消法により義務化されている(改正法は未施行)。 ○ 「不当な差別的取扱い」とは、正当な理由なく、障害者に対し、財・サービス、各種機会の提供を拒否したり、それらを提供するに当たって場所・時間帯等を制限したりするなど、「障害者でない者と異なる取扱い」をすることにより障害者を不利に扱うことである。 ○ 一方で、人的サービスや社会インフラなどを障害者と障害者でない者に対し同じ形で提供した場合に、障害者でない者は容易に利用できるにもかかわらず、障害者には利用が困難となる場合がある。このような場合には、障害者が当該便益を享受する上で不利益を被ることのないよう、「障害者でない者とは異なる、障害者に配慮した取扱い」を行わなければ、実質的に障害者が社会に参画することはできない。 ○ 「合理的配慮の提供」とは、こうした考え方に立って、個別の場面で障害者の権利利益を侵害することとならないよう、過重な負担のない範囲において、様々な日常生活や社会生活における障害者の活動を制限し、又は社会への参加を制約している社会的障壁を除去しようとするものである。 ○ したがって、障害者差別解消法は同法第8条第1項と第8条第2項が相まって「障害を理由とする差別」を解消しようとするものであり、例えば第8条第1項に反しない場合でも、第8条第2項については別途の検討が必要であることに留意が必要である。 * 障害種別:肢体(下肢)不自由(車椅子利用者) * 生活場面:コンサート(主務大臣:経済産業省) * 相談内容: > 肢体(下肢)不自由(車椅子利用者)の方からの説明は以下のとおり。 * 近隣のライブハウスで開催されるコンサートへ参加したいと思い、通常席である立見席の参加申込みを行った。 * 申込フォームの「備考」欄に「車椅子で参加したいのでよろしくお願いします。」と記載したところ、主催者であるライブハウスから、「通常席では車椅子で御利用いただけるスペースが確保できず、お客様自身や、他の観客の安全を確保できない。一方で、最前方の特別席であれば車椅子スペースが確保可能なので、特別席のチケットを購入してほしい」と言われた。 > 事業者からの説明は以下のとおり。 * 今回のコンサートは、通常席である立見席と、最前方の特別席の2枠での受付としていた。 * チケットの販売状況は好調であり、通常席については既に収容可能人数の8割以上のチケットが購入されている。過去のコンサートの販売状況からみても、今回もほぼ満員となることは確実である。通常席内は自由に移動が可能であり、今回の出演者のコンサートではいつも通常席の参加者は盛り上がり曲に合わせて皆で飛んだり跳ねたりダンスをしたりかなり激しい動きがある。そのため、車椅子で入場すると、他の参加者と接触してしまう懸念があり、相談者と他の参加者双方にとって危険である。 * 実際に、自身のライブハウスにおいて過去実施したコンサートにおいて、車椅子の方に通常席で観覧いただいたことがあったが、同程度混雑した状況の中、バランスを崩した他の複数の参加者が車椅子利用者の上に折り重なって倒れてしまい、車椅子利用者と倒れこんだ参加者の双方が打撲するという事故があった。 * このため、通常席を案内することは、「車椅子利用者本人の安全」「第三者の安全」を確保するために断らざるを得ない、と判断した。 * 一方で、最前方の特別席であれば、他の参加者の移動は想定されず、また出入口が前方にもあることからトイレ等にもアクセスしやすいと想定されるが、席の価格が相談者の希望する通常席よりも高く設定されている。最前方の特別席は出演者との距離も近く、公演をより楽しめる席となっていることから価格を通常席より高めに設定しているところであり、相談者の方が当該座席を利用する際に提供されるサービスも、特別席を利用するその他の参加者に提供されるものと何ら変わるところはないため、特別席を希望される場合は既定の料金を頂きたい。 * コンサート会場のイメージ図は以下のとおり。 * 前方にステージがあり、客席の前方に特別席、その後ろに通常席(立見席) * 会場の最後方にはトイレ、2階のバーカウンターに上がる階段 * 壁沿いに動線がある * 入口は前方と後方に1つずつ * ※通路幅は歩行者がすれ違える程度。 * 検討事項 <フェーズ1(不当な差別的取扱い)> Q1:事業者の対応は、事業(財・サービスや各種機会の提供等)を行うに当たり行ったものですか? > 今回のケースは、ライブハウスである事業者から、自身が主催するコンサートのチケット販売に当たり相談者に対し特別席のチケット購入を勧めたものであることから、「事業(財・サービスや各種機会の提供等)を行うに当たり」行ったものであると考えられる。 Q2:事業者の対応には、障害を理由とする、障害者でない者と比べた異なる取扱いがありますか? > 今回のケースにおいては、障害者でない参加者に対しては通常席と特別席のチケットの両方を希望に応じて販売しているところ、相談者に対しては、車椅子を利用していることを理由として、相談者が希望する通常席ではなく、特別席のチケット購入を勧めていることから、障害者でない者と比べた異なる取扱い(不利な取扱い)があるものと考えられる。なお、この「異なる取扱い」が「不当な差別的取扱い」(正当な理由のない異なる取扱い)に該当するかどうかはQ3以降で検討することとする。 Q3:事業者の対応は、障害者、事業者、第三者の権利利益の観点から、正当な理由によるもの(Q1の異なる取扱いが、@客観的に見て正当な目的の下に行われたものであり、Aその目的に照らしてやむを得ないといえること)と判断できるでしょうか? > 基本方針においては、正当な理由に相当するのは、障害者に対して、障害を理由とする異なる取扱いが、 @客観的に見て正当な目的の下に行われたものであり、 Aその目的に照らしてやむを得ないと言える場合であるとされている。 そして、正当な理由に相当するか否か(上記@A)については、個別の事案ごとに、障害者、事業者、第三者の権利利益等の観点に鑑み、具体的場面や状況に応じて総合的・客観的に判断することが必要であるとされている。 基本方針における当該記述を本ケースに当てはめた場合、以下のとおりとなるものと考えられる。 > まず、本ケースにおいて事業者が主張する「障害者本人の安全確保」や「第三者の安全確保」については、過去に発生した、同会場・同程度の混雑状況下における事故のみを理由とするものではなく、実際に当該相談者の参加可能性について、チケットの売上状況から想定される当日の混雑状況、参加者の動きといった個別の事情についての検討を行った上で主張するものであり、「個別の事案ごとに、障害者、事業者、第三者の権利利益等の観点に鑑み、具体的場面や状況に応じて」判断したものと考えられる。 > 実際に、本ケースにおいては過去に同会場で行われたコンサートで事故が発生したことがあること、また今回も既に通常席枠は8割のチケットが販売されており、事故発生時と同程度の混雑状況となることが見込まれることを踏まえると、車椅子利用者が参加することで車椅子利用者や他の参加者が転倒する可能性は過去の事例と同程度にあるものと考えられる。このような状況下において「障害者本人の安全確保」「第三者の安全確保」を理由に通常席での参加を認めないことは「@客観的に見て正当な目的の下に行われたもの」といえる。 > また、事業者の対応が「Aその目的に照らしてやむを得ない」に該当するかどうかについては、当該行為が「利用者本人の安全確保」「第三者の安全確保」という目的のために必要な範囲のものとなっているか、それを超えて不必要な制限を課すものとなっていないか、といった観点から判断を行うことが必要であり、本ケースにおいては、通常席での参加を認めない代わりに、参加可能な席として最前方の特別席のチケット購入を勧めることが、利用者本人及び第三者の安全の確保のために必要な範囲の取扱いであり、不必要な制限を課すものとなっていないかの判断が必要となる。 > まず、過去発生した事故例や当日の混雑状況、参加者の動きを考慮すれば、相談者が通常の立見席枠に参加した場合に障害者本人の安全確保・第三者の安全確保が困難となる可能性が高いと考えられたことは前述のとおりである。また、本コンサートでは通常席と特別席の2枠しか用意されておらず、通常席での参加を認めることが困難な場合に、相談者本人と第三者双方の安全を確保しながら相談者に参加いただくための対応案として、価格は通常席よりも高くなってしまうものの、移動の動線等が確保されている最前方の特別席のチケット購入を勧めることは「目的に照らしてやむを得ない」ものであると考えられる。なお、相談者が最前方の特別席枠でコンサート会場に参加することとした場合、相談者に提供されるサービス等は障害者でない者が特別席でコンサートに参加した場合と同様のものが提供されることとなる。 > したがって、本ケースにおいて事業者が「障害者本人の安全確保」「第三者の安全確保」の観点から特別席のチケット購入を勧めること自体は正当な理由によるものであり、「不当な差別的取扱い」には該当しないといえる。(共生社会の実現に向けた施設・設備やサービス等のアクセシビリティ向上の重要性については後述の「Qその他の検討事項」Aを参照。) > なお、基本方針では「不当な差別的取扱いとは、正当な理由なく、障害者を、問題となる事務・事業について本質的に関係する諸事情が同じ障害者でない者より不利に扱うことである点に留意する必要がある」とされている。上記のとおり、本ケースにおいて相談者に対し特別席のチケット購入を勧めることは「不当な差別的取扱い」とはいえず、また相談者が最前方の特別席枠でコンサート会場に参加することとした場合、相談者に提供されるサービス等は障害者でない者が特別席でコンサートに参加した場合と同様であることから、事業者が相談者に対し特別席の既定料金を求めることは不当とはいえない。 > しかしながら、相談者が、申込フォームの「備考」欄に「車椅子で参加したいのでよろしくお願いします。」と記載していることから、相談者は通常席の利用にあたり、車椅子を利用して観覧するための「合理的配慮」の提供を求めていると考えられる。したがって、事業者としては、上記のとおり、通常席を他の参加者と同様に利用することは、「利用者本人の安全確保」「第三者の安全確保」上困難であるとしても、車椅子を利用して通常席を利用するために必要な合理的配慮について検討する必要がある。 > これを踏まえ、事業者が提供できる「合理的配慮」を検討するに当たり、市の相談窓口担当者が会場の設備等を確認したところ以下の点が明らかになった。 * 立見席のエリア内は場所指定があるわけではなく、自由に移動できる。また、通路を確保するため、動線と立見席エリアはライブハウスの備品であるベルトパーテーションを用いて区切っている。 > これらを踏まえ、市の相談窓口担当者は、相談者に対し、「通常席に他の参加者と同様にそのまま参加することは安全上難しく、また、特別席の購入を求めることも不当とは言えない」ことを説明した上で、「一方で、合理的配慮の内容として、他の参加者と同様に通常席を自由に移動できる形で利用するのではなく、通常席に車椅子用スペースを確保するといった形での利用を希望するかどうか」を確認したところ、「特別席は値段が高く、購入は難しい。そのような形でも可能ならありがたい」とのことであった。 > そこで、市の相談窓口担当者は、上記設備状況等を踏まえ、事業者に対し、以下の対応を「合理的配慮」として提供してはどうか提案した。 * 相談者と参加者双方の動線を確保しつつ、かつ車椅子利用者と参加者双方の安全を確保しながら通常席に参加いただくための案として、通常席の最前方で動線に最も近い場所をベルトパーテーションで区切り、仮設の車椅子エリアを1名分設けてはどうか。(イメージ図は以下のとおり) * 通常席(立見席)のうち、もっとも動線(壁側)に近い場所に、車椅子スペースをベルトパーティションを用いて設置 * あわせて、周囲の参加者へのアナウンスや必要に応じて「車椅子席」といった張り紙をパーテーションに掲示する等を行うこと。 【コラム】事業者への建設的対話の働きかけ ○ 本ケースでは、過去に車椅子利用者と参加者が転倒する事故が発生しており、事業者側としては同様の事故が再発する可能性があることから、車椅子利用者の通常席への参加を認めることに慎重となり、場合によっては参加可否について検討に向けた対話そのものを拒む可能性もある。このような場合には、相談機関は事業者に対し * 過去に事故が発生したという理由だけで車椅子利用者の参加を一律お断りしてしまうのではなく、参加を希望する個別の車椅子利用者ごとに、当該希望者の個別事情やその時々の会場の設備等を確認するなど、全体を見て参加可否を客観的に判断する必要があること * 当初は対応が困難に思われるような場合であっても、建設的対話を通じて個別の事情等を互いに共有すれば、事業者と障害者双方にとって納得できる形で社会的障壁の除去が可能となることもあるため、まずは障害者との対話を始めることが重要であること を丁寧に説明することが有効である。 ○ 特に、合理的配慮の提供が義務化されれば、建設的対話を一方的に拒むことは義務違反となる可能性もあることから留意が必要である。 <フェーズ2(合理的配慮の提供)> Q1:障害者から、事業(財・サービスや各種機会の提供等)を行うに当たり社会的障壁の除去を必要としている旨の意思表明がありましたか? > 本ケースでは、コンサートを主催する事業者に対し、相談者が通常席の購入申込みに当たり、申し込みフォームの備考欄に「車椅子で参加したいのでよろしくお願いします。」と記載した上で申し込みを行っていることから、障害者から、車椅子でコンサートに参加するために必要な社会的障壁を取り除くための何らかの配慮を求める意思表明があったといえる。 Q2:提案された手段は、社会的障壁の除去の実施について、必要かつ合理的な配慮に該当しますか?(事業者の事業の目的・内容・機能に照らし、@必要とされる範囲で本来の業務に付随するものに限られること、A障害者でない者との比較において同等の機会の提供を受けるためのものであること、B事業の目的・内容・機能の本質的な変更には及ばないこと、の全てを満たしますか?) > 基本方針においては、合理的配慮は、障害者が個々の場面において必要としている社会的障壁を除去するための必要かつ合理的な取組であり、その実施に伴う負担が過重でないものであるとされ、事業者の事業の目的・内容・機能に照らし、@必要とされる範囲で本来の業務に付随するものに限られること、A障害者でない者との比較において同等の機会の提供を受けるためのものであること、B事業の目的・内容・機能の本質的な変更には及ばないことに留意する必要があるとされている。 > そこで、まずは本ケースにおいて、通常席の一区画をベルトパーテーションで区切ることで仮設の車椅子エリアを1名分設けること、併せて、周囲の参加者にアナウンス等をすることが「障害者が個々の場面において必要としている社会的障壁を除去するための必要かつ合理的な取組」といえるか否かを、前述の@〜Bの留意事項ごとに検討することとする。 @ 必要とされる範囲で本来の業務に付随するものに限られることといえるか * 「必要とされる範囲で本来の業務に付随するものに限られること」とは、行われる配慮の内容が社会的障壁を除去するために必要と認められる範囲で、本来の業務を行う上で業務との関連でなされるものに限られ、業務との関連がない措置や必要性を超える措置は求められないこと(障害者が求める措置そのものではなくても必要性を満たす措置がある場合には、当該措置を行えば足りること)、と解することが相当である。 * 本ケースにおいては、社会的障壁を除去するためには、車椅子利用者と参加者双方の安全を確保しつつ、車椅子利用者が通常席で参加できる手段を講ずる必要がある。参加者の安全等を確保しつつコンサートを開催することはコンサート主催者である事業者の本来の業務に関連するものであり、「本来の業務に付随するもの」と考えられる。 * 本ケースにおける社会的障壁を除去するための手段としては、例えば特別席を通常席の料金で案内するといった対応も考えられるが、市の相談窓口担当者が提案した「通常席の一区画をベルトパーテーションで区切ることで仮設の車椅子エリアを1名分設けること、併せて、周囲の参加者に必要なアナウンス等を行うこと」との方法であれば、事業者がコンサートで使用する備品を活用し、アナウンス等を行うことで、車椅子利用者と参加者の接触を減らすとともに車椅子利用者と参加者双方の動線を確保しつつ、相談者に通常席で観覧してもらうことが可能となると考えられることから、市の相談窓口担当者が提案した措置は、社会的障壁の除去のために必要と認められる範囲と考えられる。 * したがって、「通常席の一区画をベルトパーテーションで区切ることで仮設の車椅子エリアを1名分設けること、併せて、周囲の参加者に必要なアナウンス等を行うこと」については、必要とされる範囲で本来の業務に付随するものといえる。    A 障害者でない者との比較において同等の機会の提供を受けるためのものか * 「通常席の一区画をベルトパーテーションで区切ることで仮設の車椅子エリアを1名分設けること、併せて、周囲の参加者に必要なアナウンス等を行うこと」は、その他の参加者と同様に「通常席でコンサートを観覧する」という機会の提供を受けるためのものであることから、「A障害者でない者との比較において同等の機会の提供を受けるためのもの」に該当すると考えられる。    B 事業の目的・内容・機能の本質的な変更に及ばないものか * 「通常席の一区画をベルトパーテーションで区切ることで仮設の車椅子エリアを1名分設けること、併せて、周囲の参加者に必要なアナウンス等を行うこと」は、コンサート会場の運営業務の範囲内であると考えられるため、ライブハウスの「B事業の目的・内容・機能の本質的な変更」には及ばないものと考えられる。 > 上記より、市の相談窓口担当者が提案した「通常席の一区画をベルトパーテーションで区切ることで仮設の車椅子エリアを1名分設けること、併せて、周囲の参加者に必要なアナウンス等を行うこと」は、@からBの全てを満たすものと考えられる。 Q3:求められている配慮は、過重な負担に該当しますか? > 基本方針において、過重な負担については、個別の事案ごとに、事業への影響の程度(事業の目的・内容・機能を損なうか否か)や実現可能性の程度(物理的・技術的制約、人的・体制上の制約)、費用・負担の程度等を考慮し、具体的場面や状況に応じて総合的・客観的に判断することが必要であるとされている。 > 本ケースにおいては、Q2で述べたとおり、必要かつ合理的な対応として「通常席の一区画をベルトパーテーションで区切ることで仮設の車椅子エリアを1名分設けること、併せて、周囲の参加者に必要なアナウンス等を行うこと」が考えられるが、当該対応が事業者にとって過重な負担となるかどうかを検討する。 > 本ケースにおいて仮設の車椅子エリアを設けることは、事業者が既に所持しているベルトパーテーションを活用することで対応が可能である。このため、エリアを区切るに当たり、新たな備品を購入するといった金銭負担は発生しない。また、車椅子エリアは相談者1名分のスペースのみ確保することを想定しており、例えば過度に広範囲のエリア設定をすることにより、当初予定していた参加人数分のスペースが確保できず事業者の収益に影響を及ぼすといったことも見込まれない。 また、周囲の参加者にアナウンスを行ったり貼り紙を掲示したりすることは、作業内容・量の観点からも常駐しているスタッフにおいて、十分に対応が可能な行為と考えられる。 > このため、「通常席の一区画をベルトパーテーションで区切ることで仮設の車椅子エリアを1名分設けること、併せて、周囲の参加者に必要なアナウンス等を行うこと」という対応は過重な負担に該当しないと考えられる。 Q:その他の検討事項(不当な差別的取扱い・合理的配慮の提供 共通) @ 事業者へのアドバイスとして、どのようなことが考えられますか?  〇 今後の障害者への円滑なサービスの提供のために考えられる対応はありますか? > 全ての国民が障害の有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会を実現するためには、日常生活や社会生活における障害者の活動を制限し、社会への参加を制約している社会的障壁を取り除く必要があり、そのためには施設・設備やサービス等へのアクセシビリティ向上に向けた環境の整備を図っていくことが重要である。 > 本ケースにおいては、今後も車椅子利用者からの参加希望があり得ることから、不特定多数の障害者に向けた事前的改善措置として環境の整備を検討することが円滑なサービス提供の観点からも有効であり、例えばこのような参加の求めがあったことを契機として、会場の設備改修※や人員配置の拡大、車椅子の方が通常席の料金で参加できるような観覧用スペースの設置、コンサートのライブ配信といった環境の整備を新たに検討していくことが考えられる。 ※ 設備改修に当たっては、バリアフリー設計のガイドラインとして国土交通省において策定している「高齢者、障害者等の円滑な移動等に配慮した建築設計標準」を事業者に紹介することも考えられる。 > また、「障害者差別解消」というと、事業者にはなじみがなく取組のハードルが高いものと受け取られる可能性があるが、合理的配慮の提供や環境の整備といった障害者が直面する多様な社会的障壁の除去に取り組んでいくことは、障害者に限らない多様な顧客に対してのサービス向上や顧客層の拡大、新たなビジネスの芽につながる可能性もあり、事業者において、このような建設的な視点から取組を進めていくことが、ひいては共生社会の実現に資するものと考えられる。 I. V. 相談対応事例インタビュー  本項目では、地方公共団体における、相談窓口担当者、相談を行った障害者、行政機関・事業者に対し実施したインタビューを掲載しています。本インタビューで紹介している事例は、障害者と事業者との間で事案解決に向けた建設的対話がなされ相互理解が深まった事例や、相談窓口からの助言を基に取組の工夫を行った事例など、相談窓口への相談を契機として状況の改善がなされたものとなります。相談窓口の皆様におかれては、本インタビュー記事に記載されている当事者の方々の実体験を通じて、相談対応を行う際のヒント等を得ていただけると幸いです。なお、類似する個別事案の対応に当たっては、必ずしも本インタビューに掲載の各事例と同様の対応を講ずることが求められるものではなく、個々の状況に応じた対応を検討することが必要となることに留意が必要です。       インタビューケース@:地域の勉強会にて、聴覚障害者が手話通訳者の位置を指定されたケースへの対応事例 相談に対応された障害福祉課のAさんと、相談が生まれるきっかけとなった勉強会の主催者である市の生活安全課のBさんにお話を伺いました。 ■ インタビュー参加者 【相談窓口の担当者】:障害者福祉課のAさん(以降、福祉課A) 【行政機関】生活安全課のBさん(以降、安全課A) 【インタビューアー】NTTデータ経営研究所 ■ 相談内容について ―― 相談を受けた障害者福祉課のAさんに伺います。どのような出来事があったのか教えていただけますでしょうか? (福祉課A)聴覚障害者の手話通訳をされている方から報告を受けた当事者団体の会長から、市の障害者福祉課情報保障担当に連絡をいただきました。聴覚障害者の方が地域で市の生活安全課が開催している勉強会に参加をした際に、勉強会の運営スタッフから指定された手話通訳者の位置は配慮が足りないのではないかというものでした。 ――配慮が足りなかったとは、具体的に何があったのでしょうか。 (福祉課A)相談者は一番前のテーブル席に座り、手話通訳者には講師の横に立ってもらい、話をしている講師と手話通訳者が同じ視界に入る状態で参加をしたかったそうです。  しかし、運営スタッフから「他の参加者が集中しづらくなってしまうから」という理由で会場後方の席に手話通訳者と対面で座るよう案内をされたとのことでした。後方の席では講師との距離が遠く、手話通訳者が同じ視界に入らなくなってしまいます。  今後も同様の勉強会に参加する希望があるということから「次回以降は、講師と手話通訳者の双方を同じ視界で見られるようにしてほしい」と相談者の要望を受けた手話通訳者から相談が来たというものです。 ■ 相談窓口と生活安全課のやり取りについて ―― 後方の席では、講師の方の様子が見えづらくなってしまいますね。Aさんは障害者福祉課の担当として、相談を受けてどのような対応をされたのですか? (福祉課A)まずは、勉強会の主催者側である生活安全課のBさんに連絡をして、なぜ相談者と手話通訳者を後方の席に案内したのか当時の運営スタッフに理由を尋ねていただくようにしました。 (安全課B)はい。私がAさんから連絡を受けました。私は勉強会の運営担当ではなかったため、勉強会運営の責任者に今回の相談内容を説明し、当時の運営スタッフに事情を聞いてもらうようにしました。当時の運営スタッフは、一般的に通訳者が話者の近くに立つということを認識しておらず、他の参加者が集中しづらくなってしまうことを考え対応したとの事でした。「手話通訳者と講師が同じ視界に入っていた方が、聴覚障害者の方にとって理解しやすい」という考えに至らなかったのだろう、とのことでした。 ――認識不足からそのような対応をしてしまうこともあるのですね。相談者の要望に対してどのように対応したのでしょうか? (安全課B)相談者の方が、「次回以降は講師と手話通訳者の双方が同じ視界で見られるようにしてほしい」と御要望されていることを、勉強会の責任者に伝えていましたので、勉強会の責任者から、次回以降は相談者の御要望を叶えられるように、現場の運営スタッフに周知したと回答をいただきました。 ■ 生活安全課のその後の対応について ―― すぐに改善に向けて動かれたのは素晴らしいですね。その後開催された勉強会では、相談者の方は、講師と手話通訳者を同じ視界の中で見られるような配慮は受けられたのでしょうか? (安全課B)それ以降の勉強会では、しっかりと改善がなされています。相談者の方も、令和3年度は3回、令和4年度も5回、勉強会に参加をしています。また勉強会の募集チラシには、令和4年度以降「聴覚障害のある方も御参加可能です。手話通訳の方の配置を行います」との文言を記載し、より安心して勉強会に参加できるような工夫も行いました。 * 今回のケースから感じたこと ―― 「環境の整備」もなされたのですね。今回の相談対応を通じてどのようなことを感じましたか? (福祉課A)私は障害者福祉課で仕事をしているので、障害者の方がどのような困りごとを抱えているか、どのような配慮を求めているかなど他の方よりも考える機会が多いです。一方、今回の勉強会の運営スタッフの方においては、そういった場面に触れる機会が少なかったため、障害者の方が当たり前として考えていることに気づけなかったのかな、と感じました。  今回のケースでは聴覚障害のある方で手話通訳を利用される方であれば、話者と手話通訳者を同じ視界の中で捉えたいと考えるだろうということは想像が付きそうであるものの、普段から障害者の方に接する機会が少ない方においては、なかなかそうもいかないものだ、と気づきました。ただし、人によって違うという面もあるので、一概にこういうものだ、と言い切れないということも同時に認識しておかないといけないことだと思います。 * ケーススタディー集の読者に伝えたいこと ――ケーススタディー集の読者にお伝えしたいことはございますか? (福祉課A)とにかく対話が重要であるということを、障害者にも行政・事業者にも知ってもらうことが大切だということをお伝えしたいです。今回のケースでは、勉強会の運営スタッフが対話をすることなく、聴覚障害者の方と手話通訳者を会場後方の席に御案内してしまいました。そういった対応ではなく、対話を通じてお互いを理解することがとても重要であると思います。 ―― 対話を通じて、お互いがお互いを理解する、「相互理解」が大切ですね。 (福祉課A)また、今回は結果として障害者差別解消法の話であったことが分かりましたが、当初は情報保障担当として相談対応に当たっていました。途中から障害者差別解消法の担当にも話を伝えましたが、相談対応者がコロコロと変わるのも良くないだろうということで、私の方で引き続き相談対応を行いました。障害者差別解消法に係る相談の入り口は様々であることから、障害者差別解消法の担当のみでなく、障害者福祉課全員、ひいては、その他の課にも障害者差別解消法についてしっかりと理解をしてもらうことが大切だと思います。 ―― 障害者福祉課に限らず、自治体職員の皆様が、障害者差別解消法についてしっかりと理解することが重要ですね。本日は貴重なお話をありがとうございました。 (福祉課A)(安全課B)少しでも相談機関の皆様の参考になれば嬉しいです。本日は、ありがとうございました。   インタビューケースA:視覚障害者がスイミングクラブへの入会を断られたケースへの対応事例 相談対応をされた障害者支援課のAさん、スイミングクラブの運営会社のBさん、視覚障害者のCさんに、別々にお話を伺いました。 (3者同時にインタビューを実施したわけではありませんが、分かりやすくするために、3者の対話方式で記載しています。) ■ インタビュー参加者 【相談窓口の担当者】:障害者支援課のAさん(以降、支援課A) 【事業者】:スイミングクラブの運営会社のBさん(以降、事業者B) 【障害者】:視覚障害者の相談者Cさん(以降、相談者C) 【インタビューアー】NTTデータ経営研究所 ■ 相談内容について ―― 相談を受けた障害者支援課のAさんに伺います。どのような出来事があったのか教えていただけますでしょうか? (支援課A)はい。視覚障害者のCさんからお電話をいただきました。なんでも、「民間のスイミングクラブに通いたい」と、家から比較的近い場所にある3つのクラブに問合せをしたそうです。しかし、視覚に障害があるということを理由に3つのクラブ全てからお断りされたり、条件を付けられたりしてしまったとのことでした。 ――視覚に障害があるということを理由にお断りされてしまったのですね。 (相談者C)はい。スイミングクラブによってもお断りの仕方はまちまちでした。視覚に障害がある人が安全に泳ぐことができるような準備が整っていないので福祉プールに行ってはどうか、といったところもあれば、ガイドヘルパーが同行するのであればよいがガイドヘルパーの料金も支払わなければいけない、といったところもありました。 ―― 複数のスイミングクラブに断られたことが相談のきっかけになったのですか? (相談者C)はい。近くに福祉プールが無かったですし、少し離れたところにある福祉プールは、1週間のうち決まった時間帯しか開いておらず、もっと自由に泳ぎたいとの思いから、民間のスイミングクラブを探していました。やりたいことが、障害があることによってできないというのが悔しくて。諦めかけもしたのですが、たまたま相談窓口の存在を知って、自分一人ではもうどうしようもないなと思って、ダメ元で相談してみました。 (支援課A)最初は、Cさんは相談支援事業者の方に相談をされたようで、その方から市の支援課の条例担当職員である私に、「これは障害を理由とする差別ではないか」、と連絡が入りました。私は「当事者の気持ちを聞かせてほしい」とお伝えし、それ以降はCさんと直接お話をしました。 ■ 相談に対する窓口の対応について ―― Aさんは相談を受けてどのような対応をとったのですか? (支援課A)はい。3つのクラブに、「こんな相談がありました。お断りされた理由を教えていだけますか?」と電話をするとともに現地にも行きました。各事業者いろいろな理由を述べられていました。うちは障害者でない方のための施設であるといった話や、同行者がいないと難しいといった話がありました。「過重な負担」を持ち出し、お断りをされたクラブもありました。3つのクラブとの調整は大変でしたので、Cさんに「どこがいいですか?」とお尋ねし、Cさんに一つを選んでいただきました。 ―― スイミングクラブに対して、具体的にどのようなことをされたのでしょうか? (支援課A)実は、ここからはスムーズに物事が進みました。というのもCさんや複数の事業者とやり取りを繰り返している中で日数が経過してたいたのですが、Cさんが行きたいと言ったスイミングクラブの管理者である支配人が交代していたのです。交代後の支配人であるBさんに訪問のアポイントを取りました。訪問をする前に障害者差別解消法や条例に関するパンフレット等を送り、「事前に読んでおいてください」とお伝えしておきました。スイミングクラブを訪問した際には、事前に資料を読み込んでくださっており、既に話し合いの土壌ができていました。また、スイミングクラブは隣接の県に所在していたので、Bさんを訪問する際にはその県の障害者福祉課担当者である条例担当職員と相談員にも事前に連絡し、同行してもらいました。私のいる圏域では、各県や市町村の障害者差別解消に関する条例の窓口担当者が定期的に情報交換を行っていることもあり、訪問時の同席依頼も気軽に行うことができました。 ――当時、障害者支援課のAさんから連絡があった際、どのように思われましたか? (事業者B)はい。Aさんからご連絡をいただき、Cさんの相談内容について伺いました。我々にとっては、「障害者?」「差別?」と、寝耳に水の話でした。驚きはあったものの、事前にいただいたパンフレットを拝見し、視覚に障害のある方のために何ができるのかを考えなければいけないということが良くわかりました。そのうえでAさんとの打合せに臨みました。 (支援課A)打合せに臨んだ際には、支配人のBさんは事前に送った資料を読み込んでくださっており、非常に前向きに検討を進めることができました。視覚障害者のCさんに安全にプールを利用してもらうにはどのような対応ができるかを一緒に検討し、事前にCさんに施設を見てもらい、施設内の動線を把握してもらおうといった相談等を行いました。 ■ スイミングクラブと視覚障害者Cさんのやり取りについて ―― Cさんの入会に際してどのようなやり取りがあったのでしょうか? (事業者B)まず、うちの施設はバリアフリーが整っておらず古い施設です。Cさんに施設に来ていただき、施設内の動線を確認してもらいました。またプールの利用に慣れるまでは様子見として、付添いの方に来ていただいてはどうか(付添いの方の利用料は無料で構わない)とお伝えした上で、Cさんがプールを利用中に付添いの方もプールの中に入る必要があるのか、外で待っているのか、男性の同行もあるのか、一人での着替えはどの程度可能なのか、等を確認し、今の古い施設の状態で受け入れることができるかを確認しました。 (相談者C)支援課のAさんが直接説明しに行ってくれたこともあり、スイミングクラブの方がとても親身になって、具体的な方法を検討してくださいました。 (事業者B)我々も初めての出来事でしたので、支援課のAさんや視覚障害者のCさんとよく相談をしてから、プールを利用してもらうことにしました。ただし、プールを利用し始めて課題も出てきました。他の利用者から「あの人がコースのロープを伝って泳いでいるがとても遅い、泳ぎにくい」といった声が上がってきたのです。Cさんと相談し「視覚障害者の方が利用しています」という看板をコースに立てるようにしました。 (相談者C)そういった声は、私の耳にも届いていました。私が視覚障害者であるということは、一見しても周りの方からは分かりません。障害があるということを知らない他の利用者にとっては、コースをただ塞いでいるように見えたのかもしれません。そういった中でも「全然気にしないで良いのよ」と声を掛けてくださる他の利用者の方もいて、心強く思っていました。 (事業者B)他にも印象的であった出来事に、スイミングキャップに関する出来事があります。プールの周りに看板を立てていても、それに気づかない利用者様もいらっしゃいました。そんな方に、Cさんが泳いでいる最中にぶつかってしまったときに、その方がCさんに対して怒ったことがありました。我々にもクレームが入りました。そのとき我々はCさんに、スイミングキャップに視覚障害者であることが分かるようワッペンをつけることは可能ですかと御相談をしました。嫌がるのではないかなと思っていましたが、快く受けてくださいました。 (相談者C)運営事業者のBさんには、とても良くしてもらっていました。障害者でない方にも心地よくプールを利用してもらいたいと思いましたので、スイミングキャップにワッペンを貼ることは苦になりませんでした。周りの利用者も次第に自分のことを理解してくれて、今では週3回もプールに通っています。 ■ 今回のケースから感じたこと・学んだこと ―― 今回のケースを通じて感じたことや学んだことを教えてください。 (事業者B)今回、もし障害者差別解消法について知らなければ、あっさり断っていたかもしれません。障害者差別解消法について福祉課Aさんから教えていただき学べたことで、障害の有無に関わらず快適に施設を利用していただくための方法を考えることができました。  障害のある方を受け入れてみて初めて分かることも沢山ありました。私たちの対応次第で、障害のある方でも障害のない方と同じように問題なくプールを利用できるということがわかりました。これから新たに増えるスタッフも含めて、全員が今後も同じ意識で対応できるようにしなければいけない、と感じました。 (相談者C)障害者自身ももっと社会に出て、堂々と行動していくことが大事だと思いました。そうしないとなかなか一般の方に理解してもらうのは難しいと思います。今回の件で、障害者がスポーツをすることに対する理解が深まったと思います。 (支援課A)事業者に対してしっかりと障害者差別解消法に関する情報と法の趣旨(共生社会の実現)を伝えることが大事だと改めて感じました。もちろん、障害のある方の暮らしを少しでも良くしたいという熱意もとても重要です。また、今回の事業者のBさんの対応は、他の事業者にも参考になるものと思いますが、Cさんの対応も素晴らしかったと思います。スイミングキャップの件では、「障害者でない人と同じに扱ってほしいのでそんなキャップかぶりません」といって対話を拒否するのではなく、事業者や他の利用者の事をしっかりと理解して、キャップを付けていただいています。事業者と障害者がお互いを理解することの重要性を改めて学びました。また、障害のある方からの相談は共生社会実現の第1歩です。1つの相談から社会が変わるんだという視点が大切だと思いました。 ―― 相談機関の方にメッセージをお願いします。 (事業者B)障害者個人と、事業者のやり取りとなると、障害者の方はとても動きにくいだろうと思います。御本人ではなく相談機関の方が間に入ることで事業者に障害者の声を届けることができるというのはとても良いことだと思います。  また、今後、何か御希望をお持ちの障害者の方がいれば、民間事業者でも門戸を閉じているわけではないので、相談機関の方からぜひ、問合せをしてほしいです。障害者の方がどの施設の利用を希望されても受け入れができるようになれば良いなと思います。 (相談者C)障害者に対する対応は「特別対応」ではなく、自然な対応となるような社会を望んでいます。障害者が障害者だけで固まらず、一般社会に共生できるということを世の中に伝えてほしいです。 インタビューケースB:聴覚障害者がタクシー予約時に伝えた聴覚障害であることが運転手にうまく伝わっていなかったケースへの対応事例 相談対応に対応された障害者福祉課のAさん、タクシー事業者のBさんに、別々にお話を伺いました。また聴覚障害者のCさんにはFAXで質問に御回答をいただきました。 (3者同時にインタビューを実施したわけではありませんが、分かりやすくするために、3者の対話方式で記載しています。) ■ インタビュー参加者 【相談窓口の担当者】:障害者福祉課のAさん(以降、福祉課A) 【事業者】:タクシー会社のBさん(以降、タクシーB) 【相談者】:聴覚障害者のCさん(以降、相談者C) 【インタビューアー】:NTTデータ経営研究所 ■ 相談内容について ―― 今回お話いただくケースについて、具体的な相談内容やその後の経過について教えていただけますでしょうか。 (福祉課A)はい。聴覚障害者のCさんが福祉課の窓口にいらっしゃいました。タクシーを予約する際に予約アプリ上に、「耳が聞こえない」ということを入力していたそうなのですが、そのことが運転手に伝わっておらず、近くまで来たタクシーから電話が掛かってきてしまい、困ってしまったとのことでした。「今後そのようなことが無いようにタクシー会社に伝えてほしい」と御要望をいただきました。そこで、タクシー会社に電話をし、今回の出来事について御説明をしました。もともと、障害者差別解消法に関するパンフレットをお送りしていたこともあり、担当の方は協力的でした。 (タクシーB)福祉課のAさんからご連絡をいただいた時期に当社はグループ会社と共に、どのようにすれば聴覚に障害のある方にもタクシーを安心して利用いただけるのかを議論していたところでした。2か月ほど検討していたところで、聴覚障害者の当事者団体の方からもアドバイスをいただいていました。 ■ 行った対応について ―― 全国規模で対応を検討されていたのですね。どのような対応をされたのですか? (タクシーB)今回、大きく分けて2つの対応を行いました。一つ目がCさんのように予約アプリを使ってタクシーを利用する方向けの対応、二つ目が流しで走っているタクシーを聴覚障害者の方が利用しやすくするための対応です。 一つ目のアプリ対応については、まずAさんに伺った内容について、なぜ運転手がそのような対応をとってしまったのか社内で確認をしました。するとお客様が予約アプリ上で「耳が聞こえない」と入力したのは「備考欄」であり、運転手が確認するモニター上では、下の方にスクロールしないと確認することができない箇所に記載されていたことが分かりました。運転手は予約者のお名前や目的地については常に画面上で確認していましたが、下の方までスクロールを常に行うわけではなく見逃してしまったということが分かりました。 (利用者C)タクシー予約アプリは便利ですが、タクシーが近くまで来た際の連絡方法が電話のみであったため、電話をできない私にとっては使いにくかったです。 (タクシーB)社内でどのようにすれば、聴覚障害者の方に使いやすい形で予約アプリを運用できるかを検討しました。その結果、運転手がモニター上で必ず確認する場所に表示される項目の中に、聴覚に障害があることを示す文字をお客様に入力していただくのが良いのではないか、となりました。そうすれば運転手は予約をしたお客様が聴覚に障害があることに気づくことができます。また、そのような方には運転手からの連絡は電話ではなく、ショートメールを活用することで行うようにしました。 ―― 一つ目についてはアプリの運用方法を見直したということですね?二つ目の対応はどのようなものでしょうか? (タクシーB)はい。流しで走っているタクシーを聴覚障害者の方が利用しやすくするために、「耳マーク」を導入しました。助手席のヘッドレストに「耳マーク」を吊るしており、聴覚障害者の方が乗車された際にすぐに運転手に提示できるようにしています。タクシー会社で新しい仕組みを取り入れるとなると、タクシーの台数分機材を用意したり、一人一人の運転手に理解をしてもらうことが必要になります。それはとても大変なことです。さきほどお話した2か月間の検討の中で、聴覚障害者の団体からは「筆談用の電子メモを導入してはどうか」といったアイデアもいただいておりましたが、それは費用的に難しいだろうということなども議論していました。障害者福祉課のAさんから御連絡をいただいたのはちょうどこの時期となります。Aさんにもこのようなお話をしたところ、「耳マーク」というものがあることを教えていただきました。 (福祉課A)「耳マーク」とは、聴覚障害のある方が、聴覚障害があることを表すのに使用するほか、事業者等がこのマークを掲示した場合には、聴覚障害のある方から申出があれば必要な援助を行うという意思表示を示すマークです。 (タクシーB)「耳マーク」の存在はこのとき初めて知りました。このマークを貼っていれば、流しで走っているタクシーを利用する聴覚障害のお客様がドライバーに対し援助の申出をしやすくなると思い、グループ会社も含めて皆で検討をして、導入可能な費用感であること、運転手にとっても分かりやすいものであることから、話が進み「耳マーク」をタクシーに導入することが決定されました。 ――導入された2つの取組について、どのように現場での定着化を図ったのですか? (タクシーB)聴覚に障害のある方への配車について、従業員にアプリの新しい使い方や耳マークの意味について教育を行いました。また、当社がこのような取組を行うことを示すために、ホームページでの掲載やプレスリリースを行ったほか、行政や聴覚障害者団体の方にも広報にご協力をいただきました。 ■ 今回のケースから感じたこと・学んだこと ―― 一人の聴覚障害者の方の声をきっかけに全国規模のタクシー会社のサービスが変わったわけですね!今回のケースのポイントはどういったところでしょうか。 (タクシーB)企業としては本心では何とかしたいと思いつつも、できないこと、断念せざるを得ないこともあります。一方で、紹介いただいた「耳マーク」は簡単に導入でき、かつ運転手への意識づけに対する一定の効果も期待できるものでした。相談機関の方から「こんな方法があるよ」と教えていただけたことがポイントだったと思います。このケースから運転手個人に対して必要な対応なのか、会社全体として必要な対応なのかを切り分けて提案してもらえると助かるのだな、とも感じました。 (福祉課A)タクシー事業者の方に、普段から障害者差別解消法に関するパンフレットをお送りし担当の方が十分に理解してくださっていたことが、前向きに事が進む一つの要因になったのではないかと思います。地道な活動ですが、障害者差別解消法について周知活動を行うことはとても大切です。 (相談者C)相談に行っても解決できないと思っていましたが、頑張って困っていることを伝えることによって、自治体の方が解決に動いてくれるということがわかりました。 (タクシーB)ドライバーは“良かれと思って”大きな声で話しかけることがあります。ただそれが耳の不自由な方とっては良くないこともある、ということを知りました。耳マークの提示が、そういった双方の想いのすれ違いを解消することにつながると感じました。 ―― 事業者の方に、障害者差別解消法について理解してもらうためには、相談機関としてどういった対応が必要でしょうか? (福祉課A)はい。Bさんのタクシー会社は素晴らしい対応をしてくださっていますが、中には対応の好ましくない企業もあります。そういった場合、粘り強く話を続けることが大切です。これまで熱心に連絡をしたり、何度も訪問することもありました。事例集に付箋を付けて「ここを読んでください」とお渡しすることもありました。事業者の方が忙しい時期にはあえて間隔を開けてから訪問をしたこともあります。  行政の人間と思われてしまうと事業者の方も構えてしまいます。一方的に話をするのではなく、事業者側の事情もお聞きし、理解することが大切です。 (タクシーB)色々な事業者がありますし、事業者の中にも色々な方がいます。相談機関の方に対して、「障害を理由とする差別を解消するためにアドバイスをしてください」と言うような人もいれば、一方で行政からの連絡をクレームと捉え「申し開き」をすることに熱心になってしまう方もいます。残念ながら事業者の担当者や、担当者の気の持ちようで対応が変わってしまうこともあることをまず理解する必要があると思います。 ―― 障害者と事業者の間のみでなく、事業者と相談機関の間の相互理解も重要ですね。本日は貴重なお話をありがとうございました。 (福祉課A)障害者差別解消法では、「相互理解」というのが重要なキーワードですね。障害のある方と事業者の間のみでなく、障害のある方、事業者、相談機関の三者がお互いに理解をする姿勢を持つことがとても大切だと思います。本日はありがとうございました。 (タクシーB)相談機関の方には、障害のある方と事業者の双方の主張や立場を理解いただいた上で、相談に乗っていただけるととても助かります。障害を理由とする差別が解消される世の中に向けて、頑張りましょう!本日はありがとうございました。    令和4年度「障害を理由とする差別の解消に向けた事例の収集・分析に係る調査研究」障害者差別の解消に向けた事例分析検討会 構成員名簿  (五十音順、敬称略)  氏 名 ご所属・役職 大下 英和 日本商工会議所 産業政策第二部 部長 尾上 浩二 認定NPO法人 DPI日本会議 副議長 加野 理代 田辺総合法律事務所 弁護士 ◎熊谷 晋一郎 東京大学先端科学技術研究センター 准教授 須蒲 浩二 京都市 保健福祉局 障害保健福祉推進室 企画・社会参加推進課長 田中 正巳 日本チェーンストア協会 常務理事 又村 あおい 一般社団法人全国手をつなぐ育成会連合会 常務理事兼事務局長 松原 裕樹 兵庫県 福祉部 障害福祉課 障害政策班主幹(障害者権利擁護担当)  ◎:座長