合理的配慮に関する好事例集 目次 (運輸業の取組) 「三つの心構え」で実現する「声かけ・サポート運動」〜社会運動へ発展〜....p3 宅配サービスでのコミュニケーションの壁をなくす〜現場の実践から広がる合理的配慮〜....p5 (金融業の取組) すべてのひとが円滑に銀行取引ができる環境を整備....p7 (不動産業の取組) すべての人に「より優しい」ターミナルへ〜ハードとソフト両輪でユニバーサルデザイン化を推進〜....p9 (宿泊業の取組) 快適な滞在をすべての人に〜老舗旅館の取組〜....p11 (生活関連サービス業、娯楽業の取組) ユニバーサルツーリズムの実現に向けて....p13 当事者の声×専門知見を起点に改善〜センサリールームを常設運営〜....p15 ブラインドゴルフ練習会から始まった意識変化....p17 障害特性に配慮して一人ひとりに寄り添う旅をサポート....p19 ひとりひとりに合わせた理美容への工夫....p20 (教育、学習支援業の取組) 「対話で鑑賞する場」を20年以上継続〜手話ツアー/耳でみるアート〜....p22 (その他企業の取組) その他の企業のさまざまな取組....p24 障害種類別対応索引 視覚障害のある人向け ●東日本旅客鉄道株式会社....p4 ●ヤマト運輸株式会社....p6 ●一般社団法人全国銀行協会....p7 ●日本空港ビルデング株式会社、東京国際空港ターミナル株式会社....p10 ●有限会社なにわ旅館(なにわ一水)....p12 ●株式会社サンフレッチェ広島....p16 ●株式会社ジェイ・エス・エー....p17 ●森ビル株式会社(森美術館)....p23 聴覚障害のある人向け ●ヤマト運輸株式会社....p5 ●一般社団法人全国銀行協会....p7 ●日本空港ビルデング株式会社、東京国際空港ターミナル株式会社....p10 ●エイチ・アイ・エス株式会社....p13 ●株式会社サンフレッチェ広島....p16 ●森ビル株式会社(森美術館)....p22 知的・精神・発達障害のある人向け ●東日本旅客鉄道株式会社....p4 ●日本空港ビルデング株式会社、東京国際空港ターミナル株式会社....p10 ●株式会社サンフレッチェ広島....p15 ●株式会社ジェイ・エス・エー....p18 肢体不自由のある人向け ●東日本旅客鉄道株式会社....p4 ●日本空港ビルデング株式会社、東京国際空港ターミナル株式会社....p9 ●有限会社なにわ旅館(なにわ一水)....p11 ●エイチ・アイ・エス株式会社....p14 ●株式会社ジェイ・エス・エー....p18 ●株式会社らんぷ....p19 その他(すべての人)向け ●東日本旅客鉄道株式会社....p3 ●一般社団法人全国銀行協会....p8 ●日本空港ビルデング株式会社、東京国際空港ターミナル株式会社....p9 ●有限会社なにわ旅館(なにわ一水)....p12 ●エイチ・アイ・エス株式会社....p13 ●全国理容生活衛生同業組合連合会....p20,p21 p3 「三つの心構え」で実現する「声かけ・サポート運動」〜社会運動へ発展〜 東日本旅客鉄道株式会社 障害の種類 すべての障害がある人向け 知的障害・発達障害がある人向け 肢体不自由のある人向け 視覚障害のある人向け 所在地:東京都渋谷区 設立:1987年 事業内容:運輸事業、流通・サービス事業等 企業規模:大企業(単体従業員数約44,790名) 取組の背景と経緯 東日本旅客鉄道は、駅や列車においてお困りのお客さまを見守り、サポートする対応を日常的に実施している。全てのお客さまに安心してご利用いただくことを目的に、2011年度に「声かけ・サポート運動」を開始した。本運動は、共生社会実現に向けた取組の一環として位置付けられ、2013年度にはグループ全体へ、2015年度には利用者同士の声かけを呼びかけた。2016年度には、社会全体の運動として広げるため、首都圏民鉄との連携を開始し、現在は同社が事務局となって、鉄道事業者、障害者団体、自治体など多様な主体が参画する社会運動へと発展している。2024年度以降は、(公社)理学療法士協会や旅館・ホテル業界など新規参画が加速し、鉄道業界を超えた広がりを見せている。 取組の内容 すべての障害がある人向け ・困っていても自分から助けを求めにくい ⇒お困りのお客さまに対して社員が積極的に声かけを行う「声かけ・サポート」運動に取り組み、お客さまにも助け合いの声かけに協力をお願いしている ⇒年に1回、強化キャンペーンを実施。ポスター掲出、ディスプレイ放映、列車内・構内放送、ティッシュ配布等で周知。 ・どのように対応していいかわからない(社員) ⇒「三つの心構え」による対応を全社で周知 @積極的に声をかける 分かりやすくはっきりした口調で「何かお困りですか」と尋ねる、など A「手伝わせていただく」姿勢 不要と言われたら寄り添う気持ちで見守る、など B待つ・見守ることもサポート 不要と言われても見守ることもサポート、など 「その「声かけ」が力になります。」と書かれたポスター ▲「声かけ・サポート運動」ポスター p4 知的障害・発達障害がある人向け ・駅構内の複雑な環境で不安を感じる、乗り方や利用方法が分からない ⇒特別支援学校で切符の買い方・乗り方を教える出前授業を実施 ⇒駅・設備等の体験会を実施 ⇒マニュアルで社員が知的障害・発達障害の特性を学習 肢体不自由のある人向け ・乗降時や駅構内での移動の支援が必要 ⇒社員は車椅子をご利用のお客さまを駅構内や列車の乗降時に支援する際の対応について、勉強会やOJTで学習している ⇒マニュアルの整備(車椅子の種類や対応方法、ワンマン運転時を含む応対方法等) ⇒サービス介助士資格取得による人財育成 視覚障害のある人向け ・声をかけた後どう対応したらいいか分からない ⇒お声をかける際の方法等を、社内のマニュアルで説明している。 例:お手伝いが必要な場合は、どのようにお手伝いがすれば良いかなどをお客さまに尋ねます。いきなりお身体を触ったり、白杖・盲導犬に触れたりしないよう気を付けましょう。 研修・社内周知体制 ・声かけの三つの心構えは、社内広報誌等で定期的に展開し、心構えを社員に根付かせる取組を継続している。また毎年、社内のセミナー等で共生社会実現の取組を共有している。 ・グループ社員向けにバリアフリーの応対に関するハンドブックやマニュアル等の資料を公開しており、研修等で活用している。 ・駅業務を担う社員に対し、バリアフリーに関する勉強会を毎年実施している。 ・事故・輸送障害等の非常時には駅社員に関わらず全ての社員が、お身体の不自由なお客さまの介助を行う可能性があるため、「サービス介助士」資格のグループ全社員取得と社員のマインド醸成をめざしている。また新入社員は入社時研修にサービス介助士資格の取得カリキュラムを組み込んでいる。 利用者の声 ◎「車内でパニックになった時にアテンダントが声をかけてくれた」「体調不良時にタオル等をすぐ持参し支援してくれた」「遅延等で混乱した時に声をかけてくれて目的地までたどり着けた」といった声があった。 ◎「いつも利用する駅の駅員さんは、とても丁寧に案内をしてくれる。障害者割引の切符もスムーズに購入することができる」といった声もあった。 p5 宅配サービスでのコミュニケーションの壁をなくす〜現場の実践から広がる合理的配慮〜 ヤマト運輸株式会社 障害の種類 聴覚障害のある人向け 視覚障害のある人向け 所在地:東京都中央区 設立:2005年 事業内容:運送業 企業規模:大企業(従業員数:158,295名) 取組の背景と経緯 ヤマトグループは、経営理念に掲げている「豊かな社会の実現」に向けて2021年に「ヤマトグループ人権方針」を定め、「地域で一番身近で、一番愛される企業」を目指し、企業姿勢のひとつに「障害のある方の自立支援」などを掲げ、積極的に取り組んでいる。 イラストや文字を指差しながら手続きをサポートするツールであるコミュニケーションボードは、社内提案制度で営業所でお客さまに応対する社員から提案されたことをきっかけに開発をすすめ、2025年に導入した。制作にあたっては、聴覚障害のある社員が勤務する営業所や、聴覚障害のある顧客の来店が多い営業所へのヒアリング、現場の従業員による自作ボードの実際の使用事例、難聴者の団体へのヒアリングなどを参考にしながら試行が重ねられた。導入時は単語帳型(めくって使う形式)だったが、現在はシート型のファーストボードとタブレット端末を併用した二段階構成の運用となっている。 取組の内容 聴覚障害のある人向け ・発送や受け取りを依頼する際に、筆談でのやり取りに時間がかかる ⇒情報をわかりやすく整理したコミュニケーションボードを導入 ▼ファーストボード シート型で「送る・受け取る」等の要望の大枠を確認。 ▼iPadを活用したコミュニケーションボード 発送・受け取り手続きの流れに沿って確認漏れを防ぐ設計。利用者に配慮し、指差し確認でコミュニケーションが可能な構成となっている。 ※ヤマト運輸では、聴覚障害のある人だけではなく、外国語ユーザーなどすべてのお客さまに安心・快適に宅急便サービスを利用してもらう環境を実現するためのツールとして、コミュニケーションボードを導入している。 p6 視覚障害のある人向け ・ご不在連絡票に気が付かず、荷物を受け取ることができなかった ・ご不在連絡票がどこの宅配会社から届いたものなのかわからない ⇒ヤマト運輸からの配達があったことがわかるように、「ご不在連絡票」の両サイドにネコの耳の形をした小さな切込みをいれる ・代引きの際に、釣銭の判別をするのが大変 ⇒正しく金銭授受を行うために、紙幣や小銭を1枚ずつ確認しながら、丁寧に受け渡しを行う ・届いた荷物で動線を塞がないようにしたい ⇒生活動線に支障が生じないよう、置き場所を確認したうえで荷物を置く、もしくは、置き場所を明確に伝える ▲ご不在連絡票の猫耳カットの写真 研修体制 ・2022年9月から、ヤマトグループ独自の「ユニバーサルマナー検定」を株式会社ミライロと共同開発。障害のある方のお困りごとや、それに対する適切なサポート、必要な配慮などを動画で学習することができ、ヤマト運輸の全正社員を受講対象としている。ご自宅や営業所での荷物の受け取り・発送をする場面などを想定した、業務に即した内容になっている(車椅子利用者はインターホンを鳴らした後すぐに応答できないため、待ち時間を長めにとる、筆談対応時の注意事項など)。 ・ヤマトグループがこれまでどのように障害者福祉に取り組んできたのかを改めて伝えるとともに、障害者福祉は企業として取り組むべき事項であることを共有する「障がい者福祉研修」を動画配信で実施している。 ・社内報では、現場で働く社員からの共感を得て、実務に取り入れやすくするため、社員自身が経験を語る形式で好事例を紹介している。また、お客さまからのお褒めの言葉をきっかけに得られた好事例についても、社内報等で積極的に発信し、合理的配慮に関するノウハウの共有につなげている。 取組の結果 ◎「コミュニケーションボード」について、お客さまから便利だという声をいただいている。また、社員からも心強いツールだという声も上がっている。さらに、イラストの活用によって、聴覚障害のある人に限らず、高齢の方、外国語ユーザーなど、多様なお客さまの支援に繋がっている。 ◎「ユニバーサルマナー検定」で口話や簡単な手話を紹介したところ、お客さまとコミュニケーションをとったドライバーから「お客さまに喜んでもらえた」という声が上がった。 ◎「ユニバーサルマナー検定」受講後のアンケート結果から、お客さまとの関わりの中ですでに対応を身に着けている社員も多いことが分かった。お客さま応対における事例共有の展開につながった。 p7 すべてのひとが円滑に銀行取引ができる環境を整備 一般社団法人全国銀行協会 障害の種類 聴覚障害のある人向け 視覚障害のある人向け すべての障害のある人向け 所在地:東京都千代田区 設立:1877年 事業内容:適正な消費者取引の推進、銀行業務の円滑化ほか 正会員数:111会員 取組の背景と経緯 一般社団法人全国銀行協会(全銀協)は、会員銀行向けに「銀行におけるバリアフリーハンドブック」や「コミュニケーションボード」等を制作・提供するなどして、障害のある人が円滑に銀行取引を行えるよう、会員銀行の環境整備の促進に努めている。また、全銀協は、銀行法および農林中央金庫法上の「指定紛争解決機関」として、銀行法や「苦情処理手続及び紛争解決手続等の実施に関する業務規程」等にもとづき、全銀協相談室およびあっせん委員会を運営している。全銀協相談室では、ウェブサイト上に聴覚障害等により電話での受け答えが困難な人向けの「相談・苦情受付フォーム」を設けている。同フォームへの書込み後は、必要に応じて電子メールや文書(手紙)でやり取りを行っている。また、「電話リレーサービス」での対応も実施している。 取組の内容 聴覚障害のある人向け ・音声によるコミュニケーションが難しい <会員銀行の取組推進> ⇒銀行の店頭で、希望する取引や手続を円滑に銀行職員に伝えられるよう、業界共通の絵記号デザインを用いたコミュニケーションボードを会員向けに制作 <全銀協相談室の取組> ⇒全銀協相談室のウェブサイト上に、聴覚障害等により口頭による会話が困難な人向けの専用「相談・苦情受付フォーム」を設置 同フォームへの書込み後は、電子メールや文書(手紙)でのやり取りが可能 ⇒電話リレーサービスも利用可能 電話リレーサービスの活用にあたり、全銀協相談室の相談員は各種研修に参加して内容を習熟 視覚障害のある人向け ・全銀協相談室およびあっせん委員会の運営状況をまとめたディスクロージャー資料などが読みづらい <全銀協相談室の取組> ⇒2025年度第3四半期分より、全銀協相談室およびあっせん委員会の運営状況をまとめたディスクロージャー資料のデザインを、カラーユニバーサルデザインに配慮して変更 ⇒有識者からの助言を受け、「カラーユニバーサルデザイン推奨配色セットガイドブック」に準拠し、文字や図表の色を使い分ける、フォントはUDPゴシックを採用する等の配慮 ⇒2026年3月、「全銀協ADR小冊子」を第3版に改訂。同改訂版では、視覚障害のある人向けに、表紙右下のQRコードから音声アプリ読み取り用の大活字でのHTMLページに遷移可能とするなど、利便性を向上 p8 すべての障害のある人向け ・銀行窓口で快適に過ごせない <会員銀行の取組推進> ⇒銀行窓口等における行員のバリアフリーサービスの向上の一助となるよう、障害の種別に応じた応対時の心構え、コミュニケーション方法、必要な配慮や合理的配慮の提供事例などをまとめた「銀行におけるバリアフリーハンドブック」を会員銀行向けに制作 ⇒2024年には、改正障害者差別解消法や社会情勢の変化等を踏まえ、銀行における「合理的配慮の提供」として考えられる事例を追記したほか、様々な障害者団体から提案された改善点や要望を可能な限り反映し、障害のある人への応対に関する記述をアップデート ▲銀行におけるバリアフリーハンドブック2024年改訂版(見本)の写真 その他の取組 ・障害者対応等に向けた取組に関するアンケート調査 <会員銀行の取組推進> ⇒会員銀行のユニバーサルサービスの取組状況等の把握を目的として、毎年、障害のある人への対応や環境整備に関する取組状況等を調査し、その結果を会員銀行に還元 ⇒会員銀行のさらなる取組の充実や意識向上を図るため、必要に応じて項目を見直しながら、今後も継続的にアンケート調査を実施 (「視覚障がい者対応ATM設置台数 全体の推移」グラフ) (作業者注:以下グラフここから) 年度:2024年度(87行) 総設置台数:63,700台 対応ATM設置台数:10,314台 割合:16.2% 年度:2019年度(109行) 総設置台数:90,240台 対応ATM設置台数:84,924台 割合:94.1% 年度:2020年度(105行) 総設置台数:86,616台 対応ATM設置台数:83,012台 割合:95.8% 年度:2021年度(107行) 総設置台数:84,393台 対応ATM設置台数:80,279台 割合:95.1% 年度:2022年度(107行) 総設置台数:82,443台 対応ATM設置台数:79,637台 割合:96.6% 年度:2023年度(106行) 総設置台数:80,439台 対応ATM設置台数:78,583台 割合:97.7% (作業者注:グラフここまで) (「視覚障がい者対応ATM設置店舗数(無人店舗を含む)」グラフ) (作業者注:以下グラフここから) 年度:2010年度(107行) 総店舗数:48,628店 対応ATM設置店舗数:30,515店 割合:62.8% 年度:2019年度(109行) 総店舗数:54,782店 対応ATM設置店舗数:50,961店 割合:93.0% 年度:2020年度(105行) 総店舗数:53,228店 対応ATM設置店舗数:50,354店 割合:94.6% 年度:2021年度(113行) 総店舗数:52,286店 対応ATM設置店舗数:48,322店 割合:92.4% 年度:2022年度(113行) 総店舗数:51,801店 対応ATM設置店舗数:48,274店 割合:93.2% 年度:2023年度(113行) 総店舗数:51,223店 対応ATM設置店舗数:47,880店 割合:93.5% (作業者注:グラフここまで) ・障害者対応に係る取組み推進に関するセミナーの開催 <会員銀行の取組推進> ⇒会員銀行の障害者対応に関する理解促進と取組の強化を図るため、随時、関連セミナーを開催。直近では、2025年2月に、内閣府、障害者団体、有識者を講師に招き、「障害者対応に係る取組み推進に関するセミナー」をオンライン形式で実施 全銀協相談室を利用した方の声・取組の結果 ◎2024年度の全銀協相談室の「相談・苦情受付フォーム」経由での相談・苦情件数は、926件。そのうち、障害者向け専用フォーム経由は36件で、約3.9%であった。2025年度は、障害者向け専用フォーム経由での受付比率は低下の見込みである。 p9 すべての人に「より優しい」ターミナルへ〜ハードとソフト両輪でユニバーサルデザイン化を推進〜 日本空港ビルデング株式会社・東京国際空港ターミナル株式会社 障害の種類 すべての障害のある人向け 肢体不自由のある人向け 視覚障害のある人向け 聴覚障害のある人向け 知的・精神・発達障害のある人向け 所在地:東京都大田区 設立:1953年※日本空港ビルデング 事業内容:旅客ターミナルの建設、管理・運営 企業規模:大企業(日本空港ビルグループ従業員数:2,871名) 取組の背景と経緯 東京国際空港(羽田) は日本国内で最も利用者数の多い空港であり、性別、年齢、国籍、障害の有無を問わず、すべての利用者に「より優しい」ターミナルを目指している。 東京国際空港ターミナル鰍ェ運営する第3ターミナルは2010年に開業。開業前の更地の段階からユニバーサルデザインのコンセプトを決定し、障害の有無を問わず誰もが安心して利用できるターミナルを目指し、開業までの間に障害のある人を交えたワークショップを重ねた。 第1・第2ターミナルにおいても、有識者や当事者と連携し、意見を反映する形で順次対応している。ホームページや総合案内を通じて届いた利用者の声もすべて集計し、社内で検討の上、設備の整備やサービスの拡充を図っている。 なお、人にも環境にも優しい先進的空港の実現を目指し、2025年10月、日本で唯一の視覚・聴覚障害者が学ぶ国立大学法人筑波技術大学と連携協定を締結し、インクルーシブデザインの実現を目指している。 取組の内容 すべての障害のある人向け ・わからないことが多い、手続きが煩雑 ⇒日本ケアフィット共育機構認定の「サービス介助士」資格を持ったスタッフによる介助サービスを提供 肢体不自由のある人向け ・ターミナル内が広いため移動が困難 ⇒多くの人に使いやすい車椅子の貸し出し (様々な種類の車いすの写真) ▲車椅子ラインナップ(左から樹脂製※、木製※、アイルチェア、リクライニング、大型、折り畳み式)※樹脂製と木製は非金属車椅子のため金属探知機に反応しない p10 視覚障害のある人向け ・目的の場所にたどりつきづらい ⇒誘導(点字)ブロック、手で見るフロアマップ、音声案内、触知案内図などを用意 (手で見るフロアマップ(左)、トイレ内の音声案内・触知案内図(右)の写真) 聴覚障害のある人向け ・言葉によるコミュニケーションが難しい ⇒筆談・コミュニケーション支援ボード、ヒアリングループ(磁気ループ)、電話リレーサービスなどを用意 (筆談ボード(左)、ヒアリングループ(中)、電話リレーサービス(右)の写真) 知的・精神・発達障害のある人向け ・非日常な環境や音、光などに不安を感じる ⇒カームダウン・クールダウンスペース、センサリーマップ、ストレス軽減できる場を用意 (カームダウン・クールダウンスペースの写真) ▲キッズスペースに感覚特性に応じて”ストレス軽減できる場“を用意。(センサリーウォール(左)、フロアタクタイルマット(中)、デジタル遊具(右)の写真) 外見からは判断できない障害のため、支援や配慮が必要だと気が付いてもらいにくい ⇒「ひまわり支援マーク(ストラップ)」を配布し、スタッフが支援できる体制づくり (ひまわりストラップの写真) 2022年3月〜2025年10月迄累計700枚以上の配布実績 研修体制 ・第3ターミナル開業以降は隔年で実地検証を含めたユニバーサルデザイン検討会を開催し、常にブラッシュアップ。 ・第1・第2ターミナルでは、補助犬や発達障害についての理解教育など、空港内で対応し得る事例の研修を実施(年1回程度)。 利用者の声・取組の結果 ・利用者の声や実地検討会で指摘を受けた内容への改善活動は常時実施。 ・非日常を苦手とする障害のある人からの意見の増加や取組の認知拡大に伴い、駅に着いてから飛行機に乗るまでの細かなプロセスをHP上で写真と簡単な説明で紹介し、見通しを持って行動ができるように整備している。 ・上記のように視覚に訴えてイメージを抱きやすくすることで、障害のある人だけでなく高齢者や乳幼児連れも含めた多くの利用者からも「事前の心構えができる」と喜びの声が寄せられている。 p11 快適な滞在をすべての人に〜老舗旅館の取組〜 有限会社なにわ旅館(なにわ一水) 障害の種類 肢体不自由がある人向け 視覚障害のある人向け 嚥下障害のある人向け 所在地:島根県松江市 創業:1918年法人設立:1953年 事業内容:旅館運営 企業規模:中小企業(従業員数:70名) 取組の背景と経緯 なにわ旅館が運営する旅館「なにわ一水」では、高齢者や障害のある人への 対応を充実させることが他社との差別化になると考え、 2006年に段差を解消し間口を広くした「バリアフリー客室(※現在の基準に当てはめると準バリアフリー客室)」を設置した。以降、バリアフリー設備を充実させ、現在は全23室のうち、9室が車椅子対応、1室が視覚障害・聴覚障害のある人向け客室となっている。2010年からは、設計段階から当事者の声を反映した改装を実施。さらに、顧客アンケートの内容をもとに、利用しやすい空間になるようにアップデートを重ねている。 取組の内容 肢体不自由がある人向け ・車椅子とテーブルの高さが合わなくて食事(など)がしづらい ⇒高さ調節ができるテーブルを客室内に設置 ⇒お盆を重ねて車椅子ユーザーの高さに合うように調節 ・1階ロビーが厚手絨毯で車椅子では移動しづらい ⇒絨毯は非日常を演出するための演出する要素として変更せず、必要に応じてスタッフが車椅子移動の補助を行う ・接客時に上から話しかけられることに威圧感を感じる ⇒車椅子の隣で同じ目線で接客を行うように統一 ⇒フロントはカウンターを廃止し、車椅子の方と目線が合うようにデスク型に変更 (バリアフリー客室(リビング・客室内露天風呂・洗面台・クローゼット)の写真) p12 視覚障害のある人向け ・自分の部屋が分かりづらい ⇒館内の触地図を作成。また、ドアノブなどに目印を設置している。 ・何階にいるのか分からなくなってしまう ⇒フロアごとに異なるアロマやお香を焚くことで、香りで判別ができるようにする ・伝統工芸を楽しむことができない ⇒廊下に触って楽しめる組子パネルを設置し、点字の説明も付与している (組子パネルの写真) 嚥下障害のある人向け ・旅行中なのに食事を楽しむことができない ⇒専門医による監修によって、とろみ材開発メーカーと嚥下食を開発。通常食の会席料理に限りなく見た目を近づけることで家族と同じように食事を楽しめるように配慮。 (実際の嚥下食(左)と通常食(右)の写真) 研修体制 ・対面接客スタッフには、日本ケアフィット共育機構の「サービス介助士/準サービス介助士」の取得を会社として支援 ・社内で「合理的配慮に該当する/しない」の事例集作成を進行中 ・スタッフ間で合理的配慮に関するディベート型研修を実施(年1回) ・障害のある人の宿泊を想定した避難訓練を実施 利用者の声・取組の結果 ◎「設備・サービスが整っているから車椅子の子どもを初めて旅行に連れてこられた」「困りごとを相談するとスタッフが『その場にあるもので対応する』という配慮をしてくれた」 ◎他の旅館との差別化になり、利用客・売上増加につながっている ◎『Blue Badge Access Awards 24/2025』最優秀国際賞(英国)、『IAUD国際デザイン賞2020住宅・建築部門』金賞、『JAPAN TRAVEL AWARDS 2024』部門賞:アクセシブル部門特別賞:宿泊施設部門など、複数の第三者機関からの表彰を受けている p13 ユニバーサルツーリズムの実現に向けて 株式会社エイチ・アイ・エス 障害の種類 すべての障害のある人向け 聴覚障害がある人向け 肢体不自由がある人向け 所在地:東京都港区 設立:1980年 事業内容:旅行業 企業規模:大企業(従業員数:12,710名(連結)) 取組の背景と経緯 HISでは、2002年より「ユニバーサルツーリズムデスク」を設け、介護・福祉関連の専門知識を持つスタッフや手話のできるスタッフを配置している。また、車椅子・杖利用者向けの添乗員付き団体旅行「バリアフリーたびのわ」や、手話ができる専任添乗員が同行する「しゅわ旅なかま」も展開し、国内外の旅行プランを提供している。 取組の内容 すべての障害のある人向け ・行動に制限があっても、パッケージツアーや個人旅行に出掛けたい ・宿泊施設や観光施設のバリアフリー環境が分からず、自分で旅行が手配できない ⇒「ユニバーサルツーリズムデスク」を設置 肢体不自由のある人や聴覚障害のある人向けのパッケージツアーのほか、グループ旅行の手配や、顧客の希望を叶えるオーダーメイド旅行の見積り・相談も受け付けている。 (ピラミッドの前で撮られた車いすの方の集合写真) ▲「バリアフリーたびのわ」 (手話通訳による接客の写真) ▲ユニバーサルツーリズムデスクでの接客の様子 聴覚障害のある人向け ・ガイドの話が聞こえないため、情報取得が困難 ⇒旅先の情報を確保するための手話通訳を案内する ・飛行機の欠航等の緊急時に連絡手段が限られてしまう ⇒添乗員が同行する場合は、手話通訳によるサポートを行う ⇒個人旅行の場合は、メール対応可能な海外傷害保険を勧める p14 肢体不自由のある人向け ・団体旅行のスケジュールについていけるのか不安 ⇒「健康アンケート」を実施して、「段差を何段上がれるか」「一人でどのように動けるのか」を必ず確認。オーダーメイド旅行、手配旅行でお客さまに合った安全・安心な旅を検討していただく手助けにしている。 ⇒ツアー中の移動距離・速度に合わせることができるのかを判断する ・入浴時の動作に不安がある ⇒事前に歩行状態や移乗可否を確認し、バスタブの有無(バスタブ付き/シャワーのみ)について、利用者に適した客室調整が可能かを現地に確認している 研修体制 ・ユニバーサルツーリズムデスク以外のスタッフにも、「バリアフリーたびのわ」や「しゅわ旅なかま」のような、他店では取扱のないユニバーサルツーリズムデスク専用ツアーや旅行への理解や、障害のある人への対応方法を身に着けるための「ユニバーサルツーリズム研修」を2024年4月から実施している。研修では、車椅子利用者の相談対応や空港でのチェックインから搭乗ゲート利用までの具体的な困りごとの対応方法、アンケートで「対応が分からない」とされた質問への具体的な回答を行っている。 ・社内の障害者雇用スタッフと連携して、障害特性や配慮を学ぶ社内研修も実施している。 ・車椅子トラベラーによる講演も実施し、実際に車椅子で旅行をしている人の体験談を従業員に伝える機会も設けている。 取組の結果・利用者からの声 ◎通常店舗のスタッフでも障害の程度に応じて一般的な団体旅行の参加可否の判断や、予約前に必要な説明ができるようになった。 ◎配慮の行き届いた旅行に参加することで「安心して任せられた」という声が届いている。また、「旅行がリハビリのモチベーションになった」という声や、障害があることで旅行を諦めていた人からも「外に出て普段とは違う景色を見ることで感動した」という感想があがっている。 ◎他社で車椅子での旅行参加を断られた経験があるなかでも、「話を聞いてもらい旅行に出掛けられたことで人生が変わった」という声も上がった。 p15 当事者の声×専門知見を起点に改善〜センサリールームを常設運営〜 株式会社サンフレッチェ広島 障害の種類 知的・精神・発達障害のある人向け 視覚障害のある人向け 聴覚障害のある人向け 本社所在地:広島県広島市 設立:1992年 事業内容:プロサッカークラブ/スタジアム運営 企業規模:中小企業(従業員数54名) 取組の背景と経緯 広島市は、2024年2月開業のサッカースタジアム『広島サッカースタジアム(エディオンピースウイング広島)』の基本計画の中で、「障害のある方など多様な観客に配慮した客席、専用の観戦環境の整備」を計画に位置付け、発注時にはセンサリールームを設置するように明記した。設計にあたっては、強い照明や大きな音が苦手な方への配慮を課題と認識し、当事者・支援者参加のワークショップを実施してその声を施設に反映。エレベーターからすぐにアクセスできる常設のセンサリールームとカームダウンスペースを配置した。開業後の運用にあたっては、サンフレッチェ広島の試合日は、日本発達支援サッカー協会等からの助言も受け、当事者の声を運用面に反映させ、障がい者団体への招待から段階的に利用を拡大し、現在は個人募集も行なっている。 取組の内容 知的・精神・発達障害のある人向け ・長時間じっとしていられない ⇒固定椅子を置かず、靴を脱いでリラックスし、ビーズクッションを使って自由な姿勢で観戦できる。子どもが能動的にセンサリールームと、屋外にも設置した観客席を出入りし、保護者が見守りながら観戦できる構造 ・観戦したいが、強い照明や大きな音が苦手 ⇒室内での観戦だけでなく、思い思いにテラスに出て生の音や臨場感を体感できる観戦も可能。室内は調光できる照明とカームダウンスペースが整備されている ・試合終了後の退場時に混雑した場所を通ることができない、待つことができない ⇒できるだけ他の観客と同じ導線にならないように、センサリールームまでのアプローチは、専用の運用が可能な配置になっている。子どもが落ち着いて移動できるよう、状況に応じてクラブマスコットがセンサリールームを訪問し、気持ちの切り替えや待機のストレス軽減につながる“場づくり”を行う (センサリールーム内での観戦の様子の写真) p16 視覚障害・肢体不自由のある人向け ・視覚障害のある人からの声で、スタジアム内に誘導ブロックを設置してほしい ⇒視覚障害者と車椅子利用者の双方の利用しやすさを考慮した誘導ブロック(リーディングライン)を設置開発 ⇒一般の点字ブロック(幅300mm以上、突起高さ5mm)より幅を狭めた幅150mm、突起高さ3mmに抑え、一般来場者がつまずきにくいように、また車椅子ユーザーにも配慮している (リーディングラインの写真) 聴覚障害のある人向け ・周りの騒音・雑音に邪魔されずに、観戦したい ⇒難聴者が場内放送等を聞き取ることができるよう、集団補聴システム席(904席)を設けた ⇒スタジアム1層スタンドの縦通路に沿って設置 (集団補聴システム設置席の写真) 運営体制 ・運営面では、JDSFA代表理事・杉岡先生にアドバイザーとして運営サポートを委託している ・多様な障害特性に適切に対応するためには、高度な専門性が欠かせません。そこで2025年度からは、当事者支援の実績を持つJDSFAに協力してもらって体制を強化しています。 利用者の声 ◎「フラットな床でクッションもあり、とても過ごしやすい姿勢でいれたことにより、長時間いることが可能でした。人目が気にならない空間なので、多少のうろうろも気にならない安心感(親も)があり、本人の好きなグッズも気兼ねなく出せたので、より落ち着ける材料となりました。」 今後の展望 ・ウェブサイトやチケット購入ページ、入場案内に「センサリールームの利用方法予約/当日利用/同伴ルール」を明確化し掲載する。 ・センサリールームの運営支援企業の募集。企業のCSRニーズと合致しやすく、多くの共感をいただいているのが特徴。具体例として、企業による「お子様向けお菓子の提供」などの支援実績があり、多様な連携が可能である。 p17 ブラインドゴルフ練習会から始まった意識変化 株式会社ジェイ・エス・エー 障害の種類 視覚障害のある人向け 肢体不自由のある人向け 知的障害のある人向け 所在地:神奈川県横浜市 設立:1995年 事業内容:ゴルフ練習場運営 企業規模:中小企業(従業員数:23名) 取組の背景と経緯 ブラインドゴルフ協会から練習会の開催場所について相談を受けたことをきっかけに、同社が運営するゴルフ練習場「横浜スパークゴルフ」において、毎週土曜日にブラインドゴルフ練習会の会場提供を行っている。練習会には1回あたり5〜8名程度が参加し、介助者を含めると10名前後が来場する。 取組の内容 視覚障害のある人向け ・ゴルフを楽しみたいが、介助者と2人1組で行うため、大所帯となってしまう ⇒声を出すため、事前に主催者と相談したうえで、他の利用客の練習に影響が出ない打席を確保した。 ・ロッカーの照明が暗く、夕方になると見えづらい ・照明の明るさや角度によっては、フロント手続きや座席案内が暗さで見えづらい ⇒ロッカー照明の付け替えを行うとともに、丁寧に指差し確認をしながら案内をする ・動線上の暗い場所に荷物が置かれており、ぶつかってしまう ⇒スタッフ間で情報を共有し、荷物の置き場所に配慮する (動線が確保された共有部の写真) (介助者とともにゴルフを楽しむ利用者の写真) ▲ブラインドゴルフ練習会の様子 p18 肢体不自由のある人向け ・階段に手すりが設置されていない箇所がある ⇒利用者からの要望を受け、手すりを設置した (「施設入口」と「実際に設置した階段手すり」の写真) 知的障害のある人向け ・ダウン症の子どもでもゴルフ練習場を利用できるのか ⇒他の利用客が少なく空いている打席に案内するように従業員に対して指示を出した 利用者からの声・取組の結果 ◎ブラインドゴルフ練習会の受け入れだけではなく、身体障害のある人・知的障害のある人の利用客の受け入れ等進めている。練習会の受け入れ当初は、スタッフから「対応に不安を感じる」という声も聞かれたが、利用が進むにつれて、大げさな配慮や特別なサポートが必要なわけではないという認識が社内にも浸透した。 ◎目や足が不自由な方が介助者と一時的に離れた場合のサポートや、何かあった際にすぐに対応できるように注意して見守っている。 ◎「介助者が同伴するのか」「介助者はどこまで補助を行うのか」「ゴルフボールが左右や後方に飛ぶことで他の利用客の迷惑にならないか」など、具体的なサポート内容や利用状況が分からないことが、スタッフの不安につながっていた。利用前の問い合わせの際に、施設側はどのようなサポートが必要になるのかを具体的に確認することで、こうした不安の解消につながっている。 ◎足や目が不自由な方の利用客が増えたことで、スタッフから自発的に、盲導犬同伴の利用者や歩行が不自由な利用者でも通りやすいよう、ゴミ箱などの配置を見直す動きが出てきた。こうした配慮は、一般利用客にとっても利用しやすい環境づくりにつながっている。 p19 障害特性に配慮して一人ひとりに寄り添う旅をサポート 株式会社らんぷ 障害の種類 肢体不自由のある人向け 所在地:神奈川県厚木市 設立:2024年 事業内容:旅行業 企業規模:中小企業(従業員数:4名(業務委託含む)) 取組の背景と経緯 らんぷでは、日帰り旅行や国内・海外旅行を希望しているものの一人では旅行に不安がある人や、日常生活において移動・食事・入浴・排泄などに介助が必要な方、医療行為が必要な人に対し、看護師や介護福祉士、ヘルパーなどの専門スタッフが同行することで、安心かつ安全な旅行をサポートする「付き添い旅行」のサービスを提供している。 取組の内容 肢体不自由のある人向け 障害特性を十分に把握しておらず、旅行先で思うように行動ができなかった ⇒旅行プランの設計段階で、本人・家族に加え、医師や看護師、ケアマネージャー等にもヒアリングを実施し、利用者の現状の身体状況を適切に把握する 移動のための交通手段は何が負担が少ないのかわからない ⇒利用者が横になれる環境を確保できる新幹線を提案するなど、事前ヒアリングで利用者の障害特性や現在の状況を丁寧に把握し、必要な配慮を踏まえた旅行プランを設計する 宿泊施設や観光施設で望まれる対応 ・入浴介助では、シャワーチェアが常備されていたり、浴槽の手前に腰掛けるスペースが確保できたりする施設では、移乗動作をより安全に行うことができ、サポートもしやすくなる。 ・飲食店では、通路幅の確保や奥の席を案内してもらうなどの配慮があると助かる。また、車椅子利用者はテーブルの高さが合わないことも多いが、箱や板などで調整してくれた飲食店もあり、大変助かった。 p20 ひとりひとりに合わせた理美容への工夫 全国理容生活衛生同業組合連合会〜B.Bmomo(東京都文京区)の取組〜 障害の種類 すべての障害のある人向け 所在地:東京都渋谷区 設立:1957年 事業内容:Sマーク制度の推進、衛生遵守運動の実施など 組合員数:約35,000店 取組の背景と経緯 全国理容生活衛生同業組合連合会では2003年にケア理容師育成研修会を発足、肢体不自由のある人が訪れた時の安全な移乗の仕方などを学べるよう独自の制度により、障害のある人が安心して理容を受けられる環境の整備を進めている。ケア理容師は既に約4000人の理容師が受講を修了している。また、訪問福祉理容に熱心な理容師も多く、施設訪問や訪問サービスを通じて福祉関係の活動を行っている。 今回はケア理容師の講師をしている理容店『B.Bmomo』の障害がある人向けの理容や訪問理容サービスの取組について聞いた。 取組の内容 すべての障害のある人向け(B.Bmomoが提供する来店理容) ・バーバーチェアのステップの段差を上がることができない ⇒段差部分が取り外し可能なチェアを利用 ・シャンプーの際、洗面台まで頭を傾けることが難しい ⇒広い範囲の排水を受けることができるシャンプーケープを利用 ・視覚に障害がある人や車椅子を使用の場合、店内の安全な導線確保のため ⇒店内の備品にはすべてキャスターを付け、レイアウトの可動を容易にしている (「バーバーチェアステップ部分」、「大型シャンプーケープ」、「キャスター付き備品」の写真) p21 利用者の声・取組の結果 ◎障害のある人が理容施術に対して抱く不安は千差万別であり、一人ひとりにカスタマイズして、持っている不安を取り除きながら施術することを心掛けている。その結果、多くの障害のある人がリピートや口コミで来店や訪問理容を利用している。 すべての障害のある人向け(B.Bmomoが提供する訪問理容) ・切った髪の毛で部屋が汚れてしまう ⇒市販の「(高齢者向け)食事介護用使い捨てエプロン」を散髪用に加工して利用。また、床全体を覆うことができる大きなシートを訪問時に持参 ・ベッドや布団から起き上がることができない ⇒寝たままヘアカットができる通常より大きなカットケープを使用 ・訪問先の部屋やベッドの配置等の事情でカットの体勢がとりにくい ⇒小型のバリカンやハサミを使ってカット。道具の持ち方も工夫 ・カット&シャンプーの要望に応えるために、洗面台まで行くことが難しい ⇒ポータブルシャワーや大型のバケツを持参 (「使い捨てエプロン」、「ベッドを覆うカットケープ」、「小型の理容器具」、「ポータブルシャワーとバケツ」の写真) すべての障害のある人向け ⇒全国理容生活衛生同業組合連合会では、ケア理容師制度を設け、障害のある人向けの理容に関して通信教育、座学、講習、テストを実施 ⇒外出が難しい人に、訪問理容サービスを提供する (ケア理容師ステッカーとケア理容師講習風景の写真) p22 「対話で鑑賞する場」を20年以上継続〜手話ツアー/耳でみるアート〜 森ビル株式会社(森美術館) 障害の種類 聴覚障害のある人向け 視覚障害のある人向け 所在地:東京都港区 開館:2003年 事業内容:美術館運営/展覧会・プログラム企画 企業規模:大企業(従業員数1,680名) 取組の背景と経緯 森美術館では「手話ツアー」や「耳でみるアート」、「オンラインでアート」を実施している。初代館長デヴィッド・エリオット氏の欧州美術館運営経験をベースに、「パブリックプログラム」部署(現:ラーニング)を立ち上げ、森美術館が掲げるアート+ライフのもと、バックグラウンドの異なる誰もが来館できるプログラムを目指した。時代とともに変わる社会制度にも適応しつつ、当事者とともに設計・改善しながら育てている。プログラムの方向性も、一方通行の情報提供から、対話型へ変化している。 取組の内容 聴覚障害のある人向け ・音声ガイドが聞こえない ⇒事前にプリントした音声ガイド原稿を提供する。作品タイトルや作品表現に出てくる固有名詞を文字化するなど、必要な配慮を提供している。 ・来館途中の混雑した駅や電車で周りの状況が分かりづらく、不安になる ⇒手話ツアーの開催時間を、土日や平日夜に設定している。 ・アート鑑賞ツアーに参加したい ⇒「手話ツアー」の実施⇒進行性の病気で聴覚が低下する人、手話より音や空間体験を望む人等、多様である。鑑賞の目的も状況も異なるため、個別性を前提に運用する ⇒手話通訳者と事前打合せを行い、展覧会ごとに手話が見やすく、作品も見やすい立ち位置を確認する。 ⇒専門的鑑賞対話を支えるため、通訳者同席で新しいアート表現を都度確認している ⇒障害の有無に限らず、どなたでも参加できるアクセサビリティプログラムとして「オンラインでアート」を企画 (手話ツアーでの対話の様子の写真 撮影:田山達之 写真提供:森美術館 Photo: Tayama Tatsuyuki Photo Courtesy: Mori Art Museum, Tokyo) p23 聴覚障害のある人向け ・展覧会に行きたい ⇒当事者と現場スタッフが一緒に鑑賞しながら内容を組み立て、2004年に「耳でみるアート」(スタッフとの対話を通して作品を楽しむツアー)がプログラム化(6組/回) ⇒館内ではスタッフが介助を行い、白杖は畳んでもらう ⇒盲導犬同伴の場合は、状況に応じて犬を休ませ、スタッフが当事者の手引きをする ⇒申込の際に、電話等で配慮事項等の情報と確認する。盲導犬の団体等と連携した見直しも行っている ・初めて参加する方は駅の構造等が難しく迷う ⇒希望があれば改札まで迎えに行く。分かりやすい改札口で待ち合わせ、当日は電話で位置確認しながら合流する。駅員とも情報連携できる場合が多い ・イベントに参加するには、介助者・同行援護者を手配する必要がある ⇒少なくとも1か月以上前の告知を意識 (「耳で見るアート」の参加者の様子の写真 撮影:田山達之 写真提供:森美術館 Photo: Tayama Tatsuyuki Photo Courtesy: Mori Art Museum, Tokyo) 研修体制 ・担当者が知見を内部で引き継ぎつつ、国立アートリサーチセンターのアクセシビリティ講座やミライロの研修を活用したほか、エイブル・アート・ジャパンや日本盲導犬協会、東京都社会福祉協議会、港区社会福祉協議会と連携して、実地研修を行った。 ・加えて、森ビル社員向けにアクセシビリティや心構えを扱う研修(オープンマインド研修等)があり、街としても受入素地を作っている。 利用者の声、取組の結果 ◎「手話ツアー」の利用者からは、音声と手話が混在する中でタイムラグを感じさせない円滑な進行についてのコメントや、当事者の解説を通じた対話型の鑑賞により、一人では得られない多様な視点で深く作品と向き合うことができたという声があった。 p24 その他企業のさまざまな取組 『大企業』 運輸業・郵便業 視覚障害のある人向け 聴覚障害のある人向け ◎仮設の点字ブロックや周辺の床面のご意見を頂戴したので、素材の変更検討や変更を行った。 ◎聴覚障害のあるお客さまが円滑なご移動を行なっていただくために、みえるアナウンスの導入を行っている。 卸売業、小売業 肢体不自由のある人向け 視覚障害のある人向け ◎車や徒歩で来店されたものの、店内は車椅子でゆっくり買い回りしたいというお客さまに車椅子の貸し出しを実施 ◎誰でも使いやすいバリアフリートイレや車椅子使用者用駐車場の一部店舗設置と、設置店舗をHPに掲載し情報発信 ◎社員研修に車椅子体験を取り入れ、高齢者や障害のある方の気持ちを体感 ◎視覚障害のある人のために、廊下の絨毯の視認性を上げた色に変更。また、廊下にカーブミラーを設置しヒヤリハットの未然防止に取り組んだ。 医療・福祉業 肢体不自由のある人向け ◎身体に麻痺のある方から買い物や美容など楽しみたいダイビングしたいとの相談があり、ダイビングショップへ直接商談し、障害の特性や水圧の問題を解決しダイビングを実施した。 宿泊業、飲食サービス業 視覚障害のある人向け 肢体不自由のある人向け ◎ホテルフロントでは筆談などができる準備をしている ◎ブッフェレストランでは身体障害者だけでなく、高齢者にたいしても難しそうであれば、料理を取るお手伝いをしている。 ◎ホテルにて車椅子の準備、スロープの準備、盲導犬を利用した視覚障碍者体験 ◎ユニバーサルマナー研修を年1回実施 『中小企業』 教育、学習支援業 発達障害のある人向け ◎発達障害のある児童の親御さんから、パソコンを習わせたいとの相談があったため、企業として検討を行い、できる限り他の予約や受講時間を調整するなど、落ち着いて受講していただくための環境づくりに取り組んでいる。 医療・福祉業 すべての障害のある人向け ◎全店舗、バリアフリー設定にしています。手すりなども設置しています。会社の取組として小学校への福祉授業も行い、子供達に障害のある人の気持ちになって擬似体験や福祉について伝えることを行っています。 その他(葬儀業) 聴覚障害のある人向け ◎聴覚障害の方から公式LINEで相談があり、細かい事前相談はそのままLINEでやりとりを行った。実際仕事の依頼を受けた際にも、引き続き筆談や面と向かっての会話が困難な場合はLINEでのやりとりを行うことにした。 裏表紙 (手をつなぐ人々のイラスト) 令和7年度 障害者週間のポスター佳作受賞(小学生区分) 岐阜県中村嶺太さんの作品 『HandinHand,Thankyou』 障害者差別の解消に関する事業者等の取組状況調査 令和8年3月 株式会社矢野経済研究所