1.企業主導型保育事業の立ち上げ・運営のポイント

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パートI 1.企業主導型保育事業の立ち上げ・運営のポイント(PDF形式:569KB)PDFを別ウィンドウで開きます

本冊子では、円滑な運営が行われている保育施設を調査し、事例ごとに、参考となる取組や工夫をポイントとして記載しています。

保育施設設置までの準備

従業員のニーズ把握

従業員の働き方やニーズに合わせた柔軟な保育サービスの提供は、企業主導型保育事業ならではの特色の一つです。シフトに合わせた開所時間や曜日、保育料の設定など、従業員が利用しやすい運営は定員充足率の向上にも重要なポイントで、そのためにニーズを詳細に把握していくことが必要になります。今回取り上げた事例の中には、対象年齢、開所時間を含む利用希望の有無や希望する保育内容だけではなく、設置場所や利用者負担額の要望などについてもアンケートを実施した事業者がありました。また、ヒアリングだけでなく懇談会も開くなど、きめ細かく従業員のニーズを調査した事業者もありました。自社の従業員だけでなく、グループ会社や関連企業の従業員にも調査し、共同利用先の勤務形態も配慮した運営を行うことで利用者の確保につなげている事業者もありました。

【本冊子の事例】
  • 従業員の要望をアンケートで把握し、子育て中の従業員がどのような問題を持っているかをヒアリングし保育施設の運営に反映した(製造)。
  • 企業の営業日に合わせて開所日、開所時間を決定した(建設)。

設置場所の確保

保育施設の設置場所は、自社の敷地内や子どもの送り迎えに便利な駐車場を広くとれるところ、駅前の交通の便が良いところなど、従業員の利便性を考えた場所を選ぶ事業者が多いですが、自治体との情報交換を通じて、地域枠や共同利用先を確保しやすいよう、待機児童が多い地区や幹線道路沿いに保育施設を設置することとした事業者もありました。

【本冊子の事例】
  • 子どもの送り迎えがしやすいように、事業所から近く、駐車場も確保できるショッピングセンターの敷地内に保育施設を設置している(小売)。
  • 多くの従業員が通勤で使っているアクセスの良い幹線道路沿いに設置した(倉庫)。

設置方式・運営方式の決定

設置方式や運営方式はそれぞれ特色が異なりますので、運営のしやすさや利用者確保の方法など、自社の状況と照らし合わせて選択することが必要です。今回取り上げた事例の中には、全国の保育施設の取組を収集したり、近隣の事業者に見学に行くなどして情報を集め、各方式のメリットやデメリットを比較して方式を決定した事業者もありました。

共同利用をしている場合は、近隣の企業や関連企業に利用を呼び掛けたり、保育施設の見学会などで共同利用先を確保していくことが多いようですが、中には、保育施設の設置を聞いた近隣企業からの要望を受けて共同利用枠を設定したところもありました。

地域枠については、市との情報交換から保育需要が増加してきていることを把握した上で、地域貢献のために地域枠を設定した事業者がありました。

保育のノウハウを持たない事業者にとっては、外部への運営委託は事務量を軽減し、安定した運営が期待できます。今回取り上げた事例の中には、事業者自ら地元の保育事業者を探したところもありますが、公募で自社の理念との整合性や業務実績や保育士の充実度などを審査して適切な事業者を見つけた事業者もありました。

【本冊子の事例】
  • 外部に運営を委託している企業主導型保育施設を調査・検討した上で、近隣企業の従業員の働き方に応じた保育サービスを提供するために、自主運営方式を選択した(サービス)。
  • 運営は安定した職員配置や研修機会が確保できる外部委託事業者を公募し、プレゼンテーションを基に保育理念、職員配置の計画、業務実績などを審査し決定した(教育・研究)。

従業員等に向けた優遇措置等

今回取り上げた事例では、多くの事業者が、福利厚生として事業者が負担するなどして、従業員の保育料を地域の水準や地域枠での利用者よりも低く設定し、従業員が優先して利用できるようにしていました。中には、2人目以降の子どもの保育料をさらに割り引いたり、女性従業員の離職対策として、女性従業員の子どもの保育料を低くするなどの工夫をしている事業者もありました。

【本冊子の事例】
  • 年齢にかかわらず保育料を一定(市の平均水準の3分の1)とし、さらに兄弟の2人目以降は保育料を半額にしている(小売)。
  • 子育て世代の女性従業員の離職対策として、女性従業員の子どもの保育料を低く設定している(建設)。

運営のポイントの詳細

地方自治体との連携

保育施設の設置・運営に際しては、企業主導型保育事業として定める設置・運営基準に加え、地方自治体が条例で定める基準に適合する必要があるほか、地域枠を設定しようとする場合は、当該地域の保育ニーズを踏まえた定員設定とすることが重要です。このため、設置を検討する早い段階から自治体に相談して円滑な手続きや運営につなげていくことが望まれます。また、開設後も自治体と施設の空き情報を定期的に共有したり、自治体主催の研修に参加するなど、日頃から顔の見える関係を作っていくことが重要です。

今回取り上げた事例では、設置にあたり自治体から地域の待機児童状況を教えてもらい、設置場所や地域枠の決定に役立てたり、市に助言をもらいながら保育計画などを作成した保育施設がありました。また、開設後も市から入所希望者を紹介してもらい、安定的な利用者の確保と高い定員充足率を維持しているところもありました。

【本冊子の事例】
  • 設置に際し、市の担当者から開設後の連携、地域枠の設定などについて助言をもらった。また、開設後も定期的に利用状況を共有し、市は必要に応じて保護者に紹介してくれている(福祉)。
  • 設置を検討する際、学内に設けた検討委員会に市の担当課へ参加を求めるとともに、地域枠設定のため、待機児童状況の意見交換を行った。開設後は、卒園後の認可保育所の空き情報を得ている(教育・研究)。
  • 保育士を採用する際の留意点や嘱託医の候補などの情報を教えてもらい、運営の参考にした(小売)。

地域との関わり

保育施設を運営していく中で、地元に施設の存在を知ってもらい、理解してもらうことは重要です。設置場所にもよりますが、保育施設の設置について地元住民の理解を事前に得ておく必要がある場合もあります。企業主導型保育事業では、定員の50%を上限に地域枠を設定することができます。地域枠は、近隣地域の待機児童対策への貢献だけでなく、保育施設にとっても利用者を確保する手段として有効ですが、地域枠での利用を進めるためには、地元で認知してもらうことが重要です。

今回取り上げた事例の中には、町内会の回覧版やチラシで保育施設を案内するほか、地元の自治会や町内会の会合に事業者の代表自らが保育施設の必要性を繰り返し説明し、理解を求めたり、住民説明会や内覧会を開催するなどして地元住民に保育施設を周知したところがありました。さらに、近隣の幼稚園と連携し、卒園後の受け入れ先を確保したり、近隣の公園を屋外遊技場として利用するにあたり、町内会に理解を得たところもありました。

【本冊子の事例】
  • 施設の建設前に、近隣町内会の住民向けに説明会を開き、副学長が直接説明し、理解を得た。また、近隣の児童公園を屋外遊戯場として活用するため、地区町内会に出席し、理解を得た(教育・研究)。
  • 施設と隣接する幼稚園と協定を結び、兄弟が幼稚園にいる子どもを頂かったり、施設を卒園した子どもを幼稚園に受け入れてもらえるようにした(製造)。
  • 同じ法人グループが運営する隣接の介護老人保健施設に入所する高齢者からの要望で交流する機会を設けている。また、夏祭りやハロウィンなどの行事を地元の人たちに開放し、地元への定着を図っている(飲食サービス)。

保育士の確保・定着

保育士の確保・定着は、保育施設の運営において重要なポイントになります。開設準備の段階から十分な準備や検討が望まれます。今回取り上げた事例の中には、開設の3か月前から保育士などを先行的に採用したところもありました。

保育士を確保する手段としては、ハローワークや保育士養成学校での募集、運営委託事業者を通じた採用のほか、知人や人材派遣会社の紹介、従業員の関係者などから離職中の保育士を探すなどの手段を講じていたところもありました。

保育士の定着に向けては、十分な処遇のほか、無理のない職員配置や働きやすい労務環境とともに、キャリアアップが行える職場づくりが望まれます。今回取り上げた事例の中には、待遇面での配慮のほか、休憩時間や有給休暇などをきちんと確保できる体制づくりなど、職員の事情に合わせた働き方への工夫がされていました。また、人事評価に職員の自己評価を反映した上で、給与に反映しているところもありました。

【本冊子の事例】
  • 業務報告や保護者への情報交換に保育施設向けの業務支援ツールを導入し、業務を効率化することで残業をできるだけ少なくする工夫をしている(福祉)。
  • 職員の病気やストレスなどに対するサポートのため、法人グループのカウンセラーへの相談や治療と仕事の両立支援コーディネーター研修を受講した職員を配置している(飲食サービス)。

利用者の確保

利用者を確保していくための取組として、保育施設を知ってもらうことに加え、利用しやすい施設運営や保育サービスを提供することが重要になります。

今回取り上げた事例における保育施設の多くは、チラシやパンフレットを近隣企業や市役所などで配布したり、ホームページやインスタグラム、ブログなどで保育の状況や運営の内容を公開するなどして、保育施設の情報を発信しています。

従業員枠については、勤務状況等に配慮した柔軟な保育サービスの提供はもちろんですが、保育料について配慮するほか、従業員や利用者の要望を施設運営に反映することで利用者の満足度を高め、従業員の間で口コミなどで宣伝されていたところがありました。また今後、保育施設を利用する可能性がある従業員等に対して、内部や共同利用先との会議などで産休・育休取得者の情報を共有し、人事担当者から保育施設の利用方法を説明するなどの取組が行われていたところもありました。新卒採用時に保育施設があることを宣伝し、採用や利用者の確保につなげているところもありました。

地域枠を設けている場合には、地域枠があることを知ってもらうことに加え、自治体に空き状況を報告し、必要に応じて自治体から保護者に保育施設を案内してもらえるようにしておくことが重要です。

【本冊子の事例】
  • 施設設置後は、市と地域枠の空き状況について情報交換し、市から利用希望者の紹介を受け、空きがある場合は受け入れている(サービス)。
  • 利用者アンケートや入所を希望する保護者と園長との面談で保護者の要望を聞き、できるだけその内容を保育内容に取り入れ、利用者の満足度を高めている(建設)。
  • 求職希望者、新入社員、育休明けの従業員は、いつでも保育施設を見学できるようにしている。また、従業員と共同利用先の従業員には、認可保育所の申請が始まる10月頃までに、保育施設への入所希望者を募り、入所の可否を事前に通知している。さらに小児救急救命の経験を持つ看護師などを配置し、保護者からの相談に対応している(飲食サービス)。

企業の特色を活かした取組

企業の特色を活かし、特徴ある取組を強みにして、保育施設の認知度を高め、地域との関わりを深めることが利用者や保育士の確保につながっている面があると考えられ、様々な形で企業の特色を活かした取組が行われています。

今回取り上げた事例では、多様な事業を展開している社会福祉法人が事業者となっている施設において、同一法人の運営する介護老人保健施設との交流や療育支援につなげるなどの取組が見られました。また、食品を取り扱っている事業者は安全な食材の提供、食育に力を入れたり、倉庫業の事業者は保有する大型トラックを活用した行事を定期的に開催するなどの取組も見られました。

【本冊子の事例】
  • 大型トラックの見学や運転席に乗る体験、荷台で遊ぶイベントなど、子どもたちに物流業界に興味や関心を持ってもらうようなイベントを定期的に開催している(倉庫)。
  • 海外展開している強みを活かして、外国人講師を招いて外国の踊りや遊びを楽しむ時間を持っている(製造)。
  • 学生の活動機会や実習の場として、保育補助や子どもたちと遊ぶ機会を提供しており、学生は子育て支援に必要な知識や経験を得ている。子どもたちにとっても、多くの人と触れ合い楽しむ機会がうまれている(教育・研究)。

保育内容

保育の質(専門性の向上)

保育士等の質の向上につながる研修の実施や活用は、施設で提供する保育の質を担保・向上していく上で重要です。各保育施設の理念などを学ぶ施設内研修と自治体が実施する外部研修を上手く組み合わせるとともに、外部研修内容を受講者が報告するなどして職員全員で共有しているところがありました。自治体、実施機関、民間がそれぞれ実施している研修情報を収集して研修計画を立てたり、研修会へ参加する職員への支援を行うなど、研修に参加しやすい環境をつくることも有効です。定期的な人事評価や処遇改善も職員のモチベーション向上や保育の質の担保につながります。

【本冊子の事例】
  • 職員が個々に見つけた研修に対しても、参加費や交通費等を負担し、日当や研修手当なども支給している(建設)。
  • 年間30回程度の内部研修と外部研修で全職員の保育スキルの向上に取り組んでいる。職員向けの人事評価の仕組みを導入し、保育理念を理解し保育の実践ができているかなどを評価している(教育・研究)。

安全の確保

災害や事故等に備え、ハード面での安全対策を充実させることはもちろんですが、予めリスクや対応策を十分に検討して、危機管理、食物アレルギー、感染症、プール・水遊び、午睡チェックなどの事故対応マニュアルを整備し、共有しておくことが重要です。万一の時に迅速かつ適切に行動できるよう、定期的に地震、火災、水害、不審者対応などをテーマに避難訓練などを行い、マニュアルを見直していくことも大切です。何か問題が発生した時の対応は、事故報告やヒヤリハット報告として記録し、職員全員で共有することが望まれます。

今回取り上げた事例の中には、子どもたちも参加して警察や警備会社と連携した防災訓練や、市の消防局に消防訓練の指導をしてもらうなど、本番さながらの訓練をしているところもありました。また、避難先になると考えられる場所に日頃から子どもたちと行き来して、行き慣れるようにしているところもありました。

【本冊子の事例】
  • 小さな子どもたちでも理解できるよう、イラストや写真を使った訓練の説明書を作成している(福祉)。
  • 避難訓練や防災訓練は、発生時間や災害の種類、避難経路や避難場所を毎回変更し、保育士の役割分担もその都度変えるなど工夫している(教育・研究)。

食育の推進

乳幼児期の食事は子どもの心身の成長や発達に大きく影響します。今回取り上げた事例では、多くのところで、毎日の食事を通して、子どもたちが食べることを楽しみ、食の大切さを知るような工夫がされていました。施設内で栽培した野菜の収穫や皮むきのお手伝いなどの調理体験、添加物の少ない食材や季節の食材を取り入れた給食や行事食など、食材に関心を持ってもらう取組を行っているところもありました。また、給食のメニューを栄養士・調理師だけでなく保育士も一緒に話し合うなど、職員みんなで協力し合って食育を進めているところもありました。

【本冊子の事例】
  • 毎日、献立の実物を保育施設の入り口に並べて、保護者に子どもが何を食べているのかわかるようにしている(サービス)。
  • 子どもたちが遊ぶ部屋の隣が調理室で、野菜を刻む音や魚を焼いた時のにおい、皿を洗う音が聞こえるなど、視覚、聴覚、嗅覚全てから食べる意欲を育んでいる(製造)。
  • アレルギーの子どもには、食器の色を変え、トレーに名札を貼り、職員が複数で声を掛け合って確認、配膳している(飲食サービス)。

企業主導型保育事業への取組の効果

企業にとって

企業主導型保育事業では、単独事業者のみならず、複数の事業者が共同で施設を活用することや、従業員の働き方に合わせた保育サービスを提供することができ、仕事と子育ての両立を支援できる環境を整えることで、従業員の離職防止や新卒者・子育て世代の採用の円滑化につなげることができます。出産・育児を理由に女性従業員が退職することや長期間、職場を離れることによる人材確保などの課題を抱える事業者が、企業主導型保育施設を設置することで、従業員の定着や若い世代の採用が増えるなどの効果が期待できます。

今回取り上げた事例には、近隣企業からの要望を受けて共同利用方式を選択したり、従業員が利用しやすい保育料の設定や休日の開所など、自社に合った工夫をして従業員を優先的に受け入れ、こうした取組が地元の新聞などで紹介され、企業の認知度やイメージ向上につながり、人材の確保につながったところがありました。

地域にとって

企業主導型保育事業は地域の保育需要の状況を踏まえ地域枠を設定することにより、待機児童対策への貢献につながるほか、認可保育所では対応の難しい年度途中の受け入れや里帰り出産の際の一時受け入れなど、柔軟に対応することにより、子育て世代が安心して働ける環境が整うだけでなく、地元の若い世代の雇用創出にもつながることが期待されます。今回取り上げた事例では、働く場所と保育施設が一緒にあることで若い人が集まり、子育て世代の定住が増えたところがありました。

保護者にとって

企業主導型保育事業は、企業が自社の従業員のために保育施設を設置していることから、子育てと仕事を両立している保護者にとって職場の理解が得られやすかったり、職場復帰の際に子どもの預け先に悩むことなく、円滑な復帰ができるという利点があります。

今回取り上げた事例の多くで、職場の近くや送り迎えが容易な場所に保育施設が設置されていたり、開所日が勤務形態に対応したものになっているなど、保護者の利便性を考えた工夫が多く見られたほか、保護者からは、職場に近いので保育施設からの呼び出しにすぐに駆け付けることができる、保育の様子をいつでも見られるといった声が聞かれました。

また、企業主導型保育施設は小規模な施設が多く、手厚い人員配置で子ども一人ひとりに目が行き届く保育が行われ、保護者からは、きめ細かい保育の提供を受けられている、との評価が寄せられているところがありました。

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