国立大学法人岩手大学(教育・研究)

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パートII 国立大学法人岩手大学(教育・研究)(PDF形式:921KB)PDFを別ウィンドウで開きます

運営のポイント
  • 教職員、学生、銀行行員など、多様な職種の保育需要への支援や地域の男女共同参画社会の実現に向け、地元銀行と連携することで新たな保育モデルをつくった。
  • 保育設置の設置・開設に向け、副学長が学内保育所設置検討委員会の委員長となり主導した。
  • 利用対象となる教職員の状況を常に把握し、銀行では送り迎えしやすい店舗への保護者の異動などに配慮。保育料は地元自治体の認可保育所より低く設定した。
  • 学生による子育て支援の実習やボランティア活動など、保育施設を活用し、学生と子どもたちの交流の場や学生の成長機会を提供している。
設置者の概要
○企業の概要 ■事業所 岩手県盛岡市
■設立年 昭和24年5月
○業種 教育・研究
○従業員規模 1,033人(うち女性386人)
○企業の特色

・東日本大震災の被災県にある大学として、復興活動に取り組んできた。

・異文化融合的な教育研究を行い、グローバルな視点を持ちながら地域の課題に向き合うグローカルな人材育成を実施している。

保育施設の概要
○所在地 岩手県盛岡市(人口:約29万人)
○地域の特色

・市の待機児童は平成31年4月1日現在いないが、市内の入園希望者は年々100人規模で増え続けており、年度の途中で待機児童が発生している。

○設置方式 単独設置・共同利用型(岩手銀行と共同利用)
○設置場所 大学の敷地内
○運営方式 外部委託方式(社会福祉法人わかば会)
○開設日 平成30年3月
○開所時間 通常保育 平日・土曜 7:30~18:30
○月額保育料
年齢区分 世帯収入(月額)
379,000円以上 301,000円以上
397,000円未満
268,000円以上
301,000円未満
268,000円未満
0歳児 56,000円 41,600円 37,100円 35,900円
1歳~2歳児 56,000円 41,600円 37,100円 35,700円
3歳児 36,900円 34,800円 32,800円 30,600円
4歳児以上 30,500円 30,500円 28,300円 27,100円
※令和元年8月21日現在
○保育施設の特色

・外観・外壁・屋根の形状や材質は、自然素材をイメージする色になっている。

・4方向に窓があり、明るい室内になっている。
○費用の状況 施設整備費 52,631,025円(うち助成分 31,028,000円)
年間運営費 39,218,606円(うち助成分 32,229,400円)
○利用定員と利用者数
  0歳 1歳 2歳 3歳 4歳 5歳 合計
従業員枠 定員数 3人 7人 1人 1人 12人
利用者数 5人 6人 1人 0人 0人 0人 12人
合計 定員数 3人 7人 1人 1人 12人
利用者数 5人 6人 1人 0人 0人 0人 12人
※数に縛られる年齢設定はしておらず、入所希望者の年齢により、柔軟に変更することを前提に考えている。
※利用者数は平成31年3月1日現在
○運営体制
  専任 非常勤 合計
保育士 3人 2人 5人
子育て支援員 1人 1人
調理員 1人 1人
栄養士
看護師
その他 2人 2人
合計 6人 3人 9人

設立までの経緯

保育施設設置の背景

国立大学法人岩手大学(以下「大学」という)では、平成20年に男女共同参画推進室を設立し、教職員などの研究と子育てとの両立を図ることへの支援を目的に、保育のためのスペースとして大学が提供する、学内保育スペース「ぱるんひろば」を設置した。保育スペースには専任の保育者は配置せず、利用者自らが保育者の手配を行って利用していた。こうした支援で、女性の教職員や研究者が増えたが、それに伴い産休・育休からの円滑な職場復帰、ワーク・ライフ・バランスを支えるための学内保育所設置へのニーズが高まっていた。そこで、教職員に保育施設整備の必要性を調査したところ、高い要望があることがわかり、保育施設の設置に向けて検討を始めた。

大学では、教職員のみならず、留学生や社会人学生などの学生なども含め、多様な職種に対する保育需要を検討対象とした。その中で、地元企業と共同で保育施設の設置を考えていたところ、地域の男女共同参画社会の実現を先導するものとして、文部科学省の地域と教育機関の連携による女性の学びを支援する保育環境のあり方の検討事業に採択された。この委託事業で、大学等における保育の仕組みづくりのモデル構築に係る検証を平成28年7月~平成29年3月にかけて行った。県内で女性活躍推進の先導的役割を果たしている岩手銀行(以下「銀行」という)と連携に向け協議を進め、平成29年1月に事務所内保育所の設置・運営に関する相互協力及び連携協定を締結した。

教員のニーズの把握

平成27年10月に、育休中や妊娠中で保育ニーズが比較的高いと想定される教職員や社会人学生11人を対象に、学内保育施設の必要性を調査し、8人から回答を得た。5人が保育施設を利用したいと答え、学内保育施設の要望は高いと判断した。続いて、平成28年1月に、教職員、外国人研究者及び留学生を対象に保育施設の運営に関する調査をした。調査内容は保育施設設置への賛否、受け入れて欲しい子どもの年齢、開所時間、地域枠設定の必要性、希望設置場所、福利厚生としての経費支援の必要性などである。アンケートには184人(女性91人、男性93人)が回答し、約7割が「学内保育所の設置は必要だと思う」と答えた。

設置場所の確保

当初、学内の既存の建物を改修して活用することを検討していたが、費用面や市道からの距離などを考え、学校敷地内にある学生寮隣の空き地を活用して、保育施設を新設することにした。

設置方式・運営方式の決定

男女共同参画推進事業の一環として設置することを踏まえ、大学による単独設置とし、銀行との共同利用とした。ニーズ調査や自治体への相談結果から利用定員を12人と小規模に設定したことで、定員枠を大学と銀行のみで満たせると考えて地域枠を設けなかった。

運営は安定した職員配置や研修機会などを確保できるよう外部に全て委託することとし、外部委託事業者を公募した。4団体から応募があり、3団体にプレゼンテーションを実施してもらった。保育理念が優れていること、保育士などの職員の配置が質・量ともに充実していること、業務実績などを審査して決めた。

大学内に向けた対応

保育施設の設置・開設の検討に際し、男女共同参画推進委員会の下、副学長を委員長とする保育所設置ワーキンググループや学内保育所設置検討委員会を立ち上げた。ワーキンググループでは、保育施設に関する具体的なニーズを調査し、学内保育所設置検討委員会では、設置場所や運営方式に係ることなどを検討した。平成29年5月から学内保育所設置検討委員会に代わり、事業所内保育所管理運営委員会を立ち上げ、保育施設の管理運営に関する事項の検討を開始した。

設立までの流れ

時期 内容
開設2年4か月前~
平成27年11月~
岩手大学男女共同参画推進委員会にて保育施設の設置検討を了承。
保育所設置ワーキンググループを設置し、教職員などのニーズを調査。
岩手大学学内保育所設置検討委員会を設置。
⇒大学での設置検討
⇒自治体等との連携
⇒ニーズの把握
開設1年8か月~
平成28年7月~
文部科学省の男女共同参画事業に岩手大学がモデル事業として採択。
岩手大学学内保育施設設置決定。
⇒設置の決定
開設1年2か月前
平成29年1月
岩手大学と岩手銀行間で相互協力及び連携協定締結。 ⇒運営方式の検討
開設10か月前
平成29年5月
学内保育所に関する管理運営委員会設置。
企業主導型保育事業へ申請。
⇒申請手続き
⇒設置場所の決定
開設9か月前
平成29年6月
企業主導型保育事業助成決定。 ⇒助成決定
⇒外部委託事業者の決定
開設8か月前
平成29年7月
教職員への開設案内。
利用希望者向け説明会の実施。
⇒説明会の開催
⇒利用者の募集
平成30年3月 保育施設開設。 ⇒開設

運営のポイントの詳細

自治体との連携

県や市の担当課には外部アドバイザーとして相談に乗ってもらった。県の保健福祉部子ども子育て支援課には、設置に必要な手続きや情報収集、指導を検討段階からお願いした。市の子ども未来部には、学内保育設置検討委員会への参加と助言を依頼するとともに、地域枠設定に必要な待機児童の状況について意見交換を行った。保育施設開設後は、保育施設卒園後の転園先となる認可保育所の空き状況の情報を得ている。

その他、市の保育士の処遇改善や保育士宿舎借り上げ支援事業の助成を受けている。

地域との関わり

保育施設の建設前に、近隣町内会の住民向けに説明会を開き、副学長が直接住民に説明をして理解を得た。また、保育施設の園庭の整備ができなかったため、保育施設の前にある児童公園を屋外遊技場として利用することを考え、副学長たちが上田地区町内会班長会議に出席し、児童公園や遊具の利用についてお願いし理解を得た。保育施設の開設時に、町内会会長との懇談会を開催し、開設の挨拶をした。

保育施設の全景

保育施設の全景

保育士の確保・定着

保育士は、ハローワークや保育士養成学校での募集に加え、外部委託事業者の他の保育施設から異動してもらうなどで、必要人数を確保した。

人員は専任・非常勤含め10人体制である。園長は認可保育所で園長歴15年の経験があり、副主任保育士やその他の保育士も認可保育所などでの保育実績がある。調理員も保育施設経験者で、事務員も会計事務所や地方自治体事務などでの実務経験者である。

保育士定数の充足や職員の休憩時間をきちんと確保するよう労務管理を適切に行う体制を整えている。

利用者の確保

教職員に配布するチラシやホームページで保育施設を周知している。学内窓口へ相談に来た人に、随時、空き状況を提供し、相談に乗っている。銀行では人事担当者が窓口となり、入所希望者を保育施設の近くの店舗に異動させるなど子育てに配慮している。大学と銀行の人事担当部署が窓口になっていることから、産休・育休に入る人の把握が継続的に可能である。保育料は、地元自治体の認可保育所よりも低い料金に設定している。

大学の特色を活かした取組

男女共同参画推進室の授業の一つに、次世代育成サポーター養成講座があり、講座を修了した学生を次世代育成サポーターとして認定している。次世代育成サポーターというのは、子どもに関する基礎的知識と地域における子育て支援の状況を学ぶほか、具体的な遊びのスキルなどを身につけた、地域の子育てを支援する人である。

大学では受講する学生の成長につながる活動機会や実習の場を提供している。学生は、保育施設で保育補助や子どもたちとの遊びを通じて、子育て支援に必要な知識や経験を得る。学生は実習だけでなくボランティアでも、子どもたちと一緒におもちゃを作ったり、絵本の読み聞かせをするために保育施設を訪ねている。子どもたちにとっても、多くの人と触れ合い楽しむ機会がうまれている。

次世代育成サポーターと子どもたちの交流

次世代育成サポーターと子どもたちの交流

保育内容

保育の質(専門性の向上)

年間30回程度、内部研修と外部研修で全職員の保育スキルの向上を図っている。

内部研修は、外部委託事業者が実施しているもので、新人研修と園内研修がある。新人研修は、保育を専門とする大学教授などを外部から招き、保育士の資質向上を目的とした研修をする。平成30年度は、保育運動と保育実践のあゆみ、求められる職員像・職場づくり、新人カンファレンス、リズム運動・うたの研修を行った。

園内研修では、より具体的な子どもへの接し方や発達の捉え方、夏のプール遊び・水遊びでの安全確保などについて学ぶ。

外部研修では、県や民間団体等主催の研修に参加している。平成30年度は、県主催の保育士等キャリアアップ研修、児童福祉施設等職員児童虐待対応研修に参加した。民間団体主催では、医師会主催の幼稚園・保育園関連研修、生活リズムと子どもの発達研修、保健所主催の感染症集団発生予防研修会に参加した。

また、質の向上という観点から、職員向けの人事評価の仕組みを導入している。評価の視点は保育理念を理解し保育の実践ができているか、日々の保育の中で他の保育士とどのように連携し仕事をしているか、リーダーとしての力があるかなどである。園長はこれらの視点に基づき、さらに同僚による多面的評価も取り入れ、総合的に評価している。

安全の確保

安全対策は、安全対策マニュアルに沿って、火災、地震、不審者、洪水、その他(散歩・プール・雪遊び)への訓練を行い、全職員で情報共有している。

避難訓練・防災訓練は毎月1回実施している。毎月の訓練では、午前、午後、夕方、予告なしといった発生時間や災害の種類、避難経路や場所を変えて行うなどの工夫をしている。保育士の役割分担も、子どもたちを連れて避難誘導する人、避難用リュック・緊急連絡網・携帯電話を持って出る人、残留児確認や戸締り確認をする人など、その都度担当を変えて実施している。

ヒヤリハット、事故報告事例の記録・共有では、対応した保育士が記録を作成し、それを職員全員が回覧して情報共有している。さらに毎月行っている職員会議でも再度確認をし、対策を共有することで、日々の保育に活かしている。

大学内の訓練では毒劇物の処理や大型機械設備の安全措置訓練なども行われるが、子どもたちの安全面が確保できないことから、子どもたちは訓練の様子を近くから見学するだけにとどめている。

食育の推進

子育ての基本は食育にあるとの考えから、子どもたちの昼食やおやつ、離乳食、アレルギー食は農薬や添加物の少ない食材や旬の食材を使い、保育施設内で安全な手作り食を心がけている。また、秋にはさんまと芋の子汁、おやつにがんづき、すいとんというように季節の郷土料理も取り入れている。

子どもたちにトウモロコシの皮むきやパンづくりなどのおやつ作りを手伝ってもらい、食育につなげている。日々の献立は、暑い時期を除いて保育室の前に展示して、保護者に子どもが何を食べているのかわかるようにしている。

使用する食器も化学樹脂製ではなく、陶器の皿や木製のおわんを使用するなど、化学物質が子どもに有害な影響を及ぼさないようにしている。

企業主導型保育事業への取組の効果

大学にとって

保育施設が設置されたことで教職員の職場復帰が円滑に行えるようになり、仕事と出産・育児を両立する教職員の満足度は高い。学生の学業継続にも貢献している。

保育施設の設置で、仕事や学業と子育ての両立、女性の活躍促進の効果が示されたことで、新聞などのメディアに多く取り上げられるようになり大学の知名度も上がった。企業主導型保育事業を活用し、大学と銀行が共同で地域を牽引していく取組は全国初で、保育施設の設置を検討している大学や事業者から多くの視察や問い合わせが寄せられるようになった。山形大学でも企業主導型保育施設の導入を検討することになり、情報交換を行った結果、山形銀行との保育施設を開設した。琉球大学、徳島大学などからも問い合わせを受け、今後も多くの大学に広がっていく可能性があり、注目されている。

地域にとって

大学と銀行による保育施設の設置は、地域の新たな保育モデルとして、県内にも影響を与えている。岩手医科大学からは企業主導型保育施設を設置する際に申請内容について意見を求められた。また、企業、法人、専門学校や病院などからも相談や視察の依頼が相次いでいる。県内の保育施設の設置が増えていくことで、仕事と子育ての両立支援の仕組みが徐々に整い、地域の子育て世代の女性が活躍しやすい環境が整ってきている。

空きがなくすぐに保育施設に入所できない場合は、別の企業主導型保育施設の地域枠を融通してもらうなど、大学が中心となり、早期の職場復帰を支援している。

保護者にとって

保護者から、保育施設があったおかげで大学への勤務が可能になった、産休・育休後の復帰が問題なく行えたなどの声が聞かれている。また、復職後の職員からは、子どもの体調が悪くなり保育施設から呼び出しがあってもすぐに駆け付けられる、職場に近いので短時間勤務にしなくてすむなどの評価を得ている。

保育料を市内の認可保育所の平均利用水準より低めに設定したことも、保護者の負担軽減に役立っている。

企業担当者・利用者・自治体関係者の声

大学職員担当者の声

大学職員担当者

岩手大学では、子育て中の教職員の支援や、次世代育成サポーターという地域で子育て支援に携わる学生の育成をしています。学生は保育施設での実習やボランティア活動をする中で、おもちゃを手づくりしたり、園児と遊んだりして、交流を深めています。保育施設については、大分大学が視察に訪れたほか、琉球大学、山形大学、徳島大学等の問い合わせがあり、設置したことの影響の大きさを感じています。

教職員利用者の声

従業員利用者

保育園には感謝しています。保育施設が職場内にあるため送迎の負担が少なくとても助かっています。先生・職員の方々がとても良くしてくれていると感じます。先生・職員の方々の日々のご尽力で、行き届いた保育をしてくれているのだと思います。欲を言えば、定員がもう少し多くてもいいと感じています。できれば子どもを長く通わせたいです。

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