株式会社ナカノアパレル(製造)
パートII 株式会社ナカノアパレル(製造)(PDF形式:1,044KB)
運営のポイント |
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○企業の概要 | ■事業所 山形県南陽市 ■設立年 昭和63年 ■資本金 1,000万円 |
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○業種 | 製造業(繊維二次製品の企画・製造・販売) |
○従業員規模 | ・グループ全体 450人(うち女性380人) ・単独 150人(うち女性125人) |
○企業の特色 |
・他社ブランドの受託生産を中心に、グローバルに展開しているアパレルメーカー。 ・本社を東京から南陽市へ移し、NAKANO VILLAGE構想を打ち上げ、雇用創出や地域の活性化にも積極的に取り組んでいる。 ・女性従業員が多い。 |
○所在地 | 山形県南陽市(人口 約3.4万人) | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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○地域の特色 |
・平成19年6月に子育て支援都市宣言を行い、子育て世代定住促進交付金や第3子以降の幼稚園、保育園等の保育料を無料にするなど子育て支援に力を入れている。 ・平成31年4月時点で待機児童はない。 |
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○設置方式 | 単独設置・共同利用型(5社と共同利用) | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
○設置場所 | 自社の敷地内 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
○運営方式 | 外部委託方式(株式会社みんなのみらい計画) | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
○開設日 | 平成30年1月 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
○開所時間 | 通常保育 平日・土曜 7:00?18:00(延長保育18:00?19:00) | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
○月額保育料 | 従業員枠 10,000円 兄弟利用2人目以降半額 共同利用企業 15,000円 兄弟利用2人目以降半額 地域枠 18,500円 兄弟利用2人目以降半額 延長保育 1回500円 従業員枠は無料 ※令和元年9月10日現在 |
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○保育施設の特色 |
・保育施設見学にも対応できるよう、研修センターの多目的ルームから保育施設へ通じる通路が設置されている。 ・保育施設の南側に広い園庭を備えている。 |
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○費用の状況 | 施設整備費 291,242,000円(うち助成分 26,727,000円) 年間運営費 42,108,000円(うち助成分 37,943,530円) |
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○利用定員と利用者数 |
※利用者数は平成31年3月1日現在 |
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○運営体制 |
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設立までの経緯
保育施設設置の背景
株式会社ナカノアパレル(以下「ナカノアパレル」という)は、主に受注による他社ブランドを生産するアパレルメーカーである。以前は主力工場を中国に置いていたが、平成24年に山形県南陽市に山形工場を建て、生産の拠点とした。また、平成28年に山形県は自然災害が少ないため危機管理におけるリスク回避や雇用創出による地域の活性化を目指して、本社を東京から南陽市に移した。
本社移転に伴い、社長の発案で従業員の生活環境の充実と地元の活性化を図ることを目的とした複合施設NAKANO VILLEGE(以下「ナカノヴィレッジ」という)のプロジェクトチームが立ち上げられた。この企画コンペの中で、建設会社から従業員のための保育施設設置の提案があった。
ナカノアパレルでは、生産体制の強化や自社ブランドの事業拡大などに取り組み、若い人材を積極的に採用してきたが、従業員の8割以上は女性で、出産・育児により多くの女性従業員が退職したり長期の休みに入ることが課題になっていた。会社敷地内に保育施設があれば、出産や育児をひかえた従業員も安心して働くことができる。子どもができても保育施設を探す手間が省け、早期の職場復帰も可能になる。さらに働きやすい職場は企業のイメージを高め、従業員を採用する上でも有利である。未来につながる保育事業に夢も感じ、保育施設の設置を決めた。
保育施設を設置することは、社長が社内説明会を開いて発表した。
従業員のニーズの把握
従業員にアンケートを行い、保育施設の設置への賛否、設置する場合に受け入れて欲しい子どもの年齢、利用者負担額への要望を聞いた。また、子どもを持つ従業員に対しては、子育てにどういう思いを持っているのか、どのようなことを問題と感じているのかを聞いた。さらに懇談会を開催して意見を聞いて、ニーズの集約を図った。
設置場所の確保
保育施設はナカノヴィレッジの一角に新設した。ナカノヴィレッジは本社工場の目の前にある。
みんなのみらい南陽園の全景
設置方式・運営方式の決定
保育施設は福利厚生の一環として計画したので単独で設置した。しかし、市との情報交換で0歳~2歳児の保育需要が増えているとの話を聞き、もともと地元の活性化を目指したナカノヴィレッジの取組でもあったので、地域枠を設けることにした。また、保育施設の開設を知った他の企業から利用の問い合わせがあり、共同利用枠を設けることにし、5社と共同利用契約を結んでいる。
保育施設の運営は、当初から委託を前提で考えており、園長経験のある人が立ち上げた保育事業に実績のある会社に委託した。
企業内に向けた対応
従業員が優先して利用できるようにし、従業員枠の保育料を地域枠の利用者より低く設定した。
設立までの流れ
時期 | 内容 | |
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開設2年2か月前 平成27年10月頃 |
従業員の離職防止や早期の職場復帰への対応として保育施設の設置を検討。 アンケートや懇談会で従業員の保育施設へのニーズを調査。 |
⇒社内での設置検討 ⇒社内ニーズの把握 |
開設1年前 平成29年1月頃 |
地元の保育需要の状況や周辺企業からの要望などを踏まえ、設置方式・運営方式を決定。 保育事業委託先の決定。 |
⇒設置方式と運営方式の決定 ⇒外部委託業者等の選定 |
開設8か月前 平成29年4月頃 |
企業主導型保育事業へ申請。 | ⇒申請手続き |
開設6か月前 平成29年6月頃 |
社内説明会を開催し、利用者を募集。 | ⇒利用者の募集 |
開設2か月前 平成29年10月頃 |
共同利用企業の募集など、開設に向けた具体的準備。 | ⇒共同利用企業の募集 |
平成30年1月 | 保育施設の開設。 | ⇒開設 |
運営のポイントの詳細
自治体との連携
開設前に、ナカノアパレルの担当者と園長が市のすこやか子育て課へ挨拶に行き、保育施設の設置基準や人員配置基準を確認した。また、市の待機児童の状況を聞いて受け入れについて話し合った。
「ヴィレッジ祭り」の案内
ミシン体験工房
「ヴィレッジ祭り」の様子
地域との関わり
保育施設と隣接する場所に幼稚園がある。この幼稚園と協定を結び、兄弟が幼稚園にいる子どもを保育施設で預かったり、保育施設を卒園した子どもを幼稚園に受け入れてもらうなど、地域で子育てが円滑に行える仕組みを整えた。
また、保育施設が入っているナカノヴィレッジは、地元住民などの交流の場としての役割も持っており、毎年「ヴィレッジ祭り」と名付けた催しを開催している。祭りでは、地元の農家が生産する野菜の販売や専門学校生によるファッションショー、ミシン体験工房などを開き、好評を得ている。このようなイベントを通じて、地域との関わりを深めている。
保育士の確保・定着
保育士は運営会社がハローワークで募集した。8人の求人に16人の応募があり、保育方針に共感できる人材を採用した。保護者が安心して保育サービスを利用できるよう、園長、園長補佐、保育士は認可保育所での保育経験者である。保育補助、調理師、事務員もみな実務経験者で揃えた。
人員は、園長、園長補佐、保育士、保育補助、調理師、事務員の計11人体制である。
保育士の定着のため、給与を地域の平均水準より高くしたり、盆や年末年始、休日の出勤にはシフト協力手当を別途支給している。また、子育て中の職員であれば短時間勤務や日中のみの勤務にするなど、できるだけ職員の事情に合わせた働き方ができるように気を配っている。人事評価も四半期ごとに職員による自己評価を考慮し、評価内容は個人面談で本人に伝えた上で、給与などに反映している。
利用者の確保
保育施設では、従業員の子どもを優先的に預かることとし、また従業員枠の保育料を他の枠よりも低く設定している。一方で、共同利用企業の営業日や勤務時間にも配慮して土曜日も開所している。
社内へは説明会を開催して保育施設の利用を呼びかけている。地元へはホームページやナカノヴィレッジでのイベントを通じて情報を発信している。定員は常にいっぱいで、入所待ちの状態が続いている。
企業の特色を活かした取組
海外展開している強みを活かして異文化交流にも取り組んでいる。保育施設の子どもたちは、ナカノヴィレッジに住むベトナム人実習生と日々顔を合わせ、挨拶を交わしている。外国人講師を招いた活動も行っており、外国の踊りや遊びを楽しむ時間も取っている。
今後は、アパレルメーカーとしての特色も活かし、子どもの遊びに生地を取り入れていくことを検討している。
保育内容
保育の質(専門性の向上)
保育施設では保育理念に幼児教育の教育法の一つであるシュタイナー教育を採用し、理念の実践のための職員研修を行っている。また、市主催の安全研修や県主催のキャリアアップ研修に参加している。安全研修では、子どもの人権、児童虐待に関して学んだ。研修に参加した職員は、携帯電話のアプリで研修内容を職員全員と共有し、保育の現場にすぐに取り入れられるようにしている。
職員全員で考えた子どものお誕生日マップ
安全の確保
防災計画を作成し、避難訓練は月1回実施している。避難訓練では、避難所に行くまでの行動を記録し、改善点があれば次の訓練に取り入れている。
防犯・事故防止のため、子どもの投薬状況や食物アレルギーを把握するとともに、登園・降園ルールを定めている。虐待防止のために、責任者を選任し、職員研修を行っている。家庭や保育施設で起きた問題は、職員全員で共有し、改善につなげている。外部委託事業者とも常に情報を共有しており、現場で適切に解決できない問題は外部委託事業者も関わりながら迅速に対応している。
避難訓練の様子
食育の推進
子どもの発育段階や健康状態に応じた離乳食、幼児食、食物アレルギーに配慮している。食育で重視することは、職員が子どもたちと一緒に食事をし、子どもたちに食べる喜びを知ってもらうことである。そこで、子どもたちには調理の前に野菜の収穫を手伝ってもらい、直接食材に触れる機会を提供している。子どもたちが遊ぶ部屋の隣が調理室で、野菜を刻む音や魚を焼いた時のにおい、皿を洗う音が聞こえるようになっている。視覚、聴覚、嗅覚全てから食べる意欲を育んでいる。
昼食の様子
企業主導型保育事業への取組の効果
企業にとって
保育施設を開設したことで、優秀な人材の離職がなくなり、従業員の採用にも良い影響が出て人手不足の解消にもつながった。これまで産休・育休後の従業員の復職が円滑に進まず、離職せざるを得ないこともあったが、保育施設の設置によって仕事と子育てを両立できる環境ができた。職場の近くに保育施設があるため送り迎えも容易で、緊急の時にもすぐに対応できること、勤務実態に合った開所時間も評価されているポイントである。従業員の子どもを優先して預かることができるため、工場の人員配置を適切に行えるようにもなった。
子どもは企業のイベントなどにも参加できるようになっており、従業員同士の交流が家族ぐるみで行われ、職場に一体感がうまれるようになった。
県では、知事が県内の企業を視察し紹介する「知事のいきいき企業訪問」を行っている。平成31年1月にこの企画でナカノアパレルを訪れた知事から、働きやすい職場環境づくりに積極的に取り組んでいるとの評価をいただいた。視察内容は県政トピックスとして県のホームページに掲載され、取材も増え、企業の知名度やイメージの向上につながり、人材が集まるようになった。
知事のいきいき企業訪問
地域にとって
市の人口減少が進む中、ナカノヴィレッジができたことで雇用がうまれ、若い世代が周辺に住むようになり、地域に活気が戻ってきている。保育施設が開設されたことで、子育て世代が安心して長く働ける環境が整った。
保護者にとって
産休・育休後の復職時に子どもの預け先で悩むことがなくなった。会社が保育施設を造ったことで、子育てを会社が理解してくれているという安心感もある。
企業担当者・利用者・自治体関係者の声
企業担当者の声

山形工場は女性中心の労働集約型の職場です。地方における労働人口が減少の一途をたどる中で、特に若い労働力の確保には大変苦労をしておりましたが、保育施設を設置した後は求人への応募も増えてきました。近隣の企業からも共同利用の依頼をたくさんいただいており、地域へも貢献できていると感じております。保育士さんと保護者がアイディアを出し合い、特徴のある保育施設に育てていきたいと思っております。
従業員利用者の声

1歳の子を預けています。先生は皆優しく、なんでも相談できます。洗濯も全部やってくれるので手ぶらでいけ、すごく助かっています。職場の近くなので、何かあってもすぐに飛んでいけるので安心して働けます。
自治体関係者の声

地域枠があるので、空きがあれば紹介するのですが、満杯のようで今のところ出番がありません。全体としては少子化が進んでいるのですが、この地域は保育の需要があるようです。県内ではどこも保育士不足が問題になっていますが、そこもしっかり解決していて感心しています。定員もいっぱいで、保育士も確保しているその辺のノウハウを教えてもらいたいですね。