株式会社マルト(小売)
パートII 株式会社マルト(小売)(PDF形式:964KB)
運営のポイント |
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○企業の概要 | ■事業所 福島県いわき市 ■設立年 昭和39年10月 ■資本金 5,000万円 |
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○業種 | 卸売業・小売業(スーパーマーケットとドラッグストア) |
○従業員規模 | 4,700人(うち女性3,700人) |
○企業の特色 |
・いわき市を中心にスーパーマーケット37店舗、薬局56店舗を展開し、元旦を除き年間を通し営業している。 ・平成29年6月20日に社長が「イクボス宣言」をし、子ども手当の増額、育児休業手当の追加給付などの子育て世代の支援に積極的に取り組んでいる。 |
○所在地 | 福島県いわき市(人口:約34万人) | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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○地域の特色 |
・県の東南端で、茨城県との県境にある。 ・平成31年4月1日現在の待機児童数は5人である。 |
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○設置方式 | 単独設置・単独利用型 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
○設置場所 | スーパーマーケット、ドラッグストアの敷地内に設置 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
○運営方式 | 外部委託方式(株式会社日本デイケアセンター) | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
○開設日 | 平成31年1月 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
○開所時間 | 通常保育 平日・土曜・日曜 8:00~18:00(延長保育 7:30~8:00、18:00~18:30)
一時保育 平日・土曜・日曜 8:00~18:00 |
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○月額保育料 | 従業員の子ども 10,000円、2人目から5,000円 ※令和元年8月2日現在 |
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○保育施設の特色 |
・保育施設内に子どもが駆けまわれるほどの広いスペースを設けている。 |
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○費用の状況 | 施設整備費 73,878,000円(うち助成分 46,894,000円) 年間運営費 約26,809,000円(うち助成分 10,607,470円*) * 運営費助成分は平成31年1月から令和元年10月の運営費の実績を掲載しています。 |
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○利用定員と利用者数 |
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○運営体制 |
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設立までの経緯
保育施設設置の背景
株式会社マルト(以下「マルト」という)では、育児休暇を取っている女性従業員が常に20名ほどいるが、市内の認可保育所に空きがなく、職場に戻れない従業員が増えていた。平成29年6月に社長が従業員の育児や介護、ワーク・ライフ・バランスに配慮・理解を示す「イクボス宣言」をし、地域で子どもを育てる仕組みづくりを目指すことを掲げた。その子育て支援の目玉事業として、低料金で利用できる保育施設の設置を考えた。保育施設には相当額の投資が必要なため、踏み切れずにいたが、同業のスーパーマーケットが保育施設を始めたことを聞き、企業主導型保育事業が始まったこともあり、設置を決めた。
従業員のニーズの把握
従業員に、保育施設への入所を希望する対象児童の年齢をアンケートで聞いた。アンケートでは、市内の待機児童数は減っているにもかかわらず、0歳~1歳児は希望してもなかなか認可保育所には入所できないとのことで、この年齢層で特に保育ニーズが高いことがわかった。
設置場所の確保
保育施設は、ショッピングセンター敷地内の使用していない医療施設用の建物を改修した。ここはマルトの本部に近く、駐車場もあることから利用者が車で送り迎えするにも便利な場所であると考えた。園庭はないが、屋内に子どもが走りまわれる広いスペースをとった。近くに運動できる施設があるので、そこを利用することもできる。
保育施設が設置されているショッピングセンターの全景
設置方式・運営方式の決定
福利厚生の一環として保育施設の設置を決めたことから、単独での設置とし、従業員のみで定員枠を十分確保できる見通しもあり、地域枠は設けなかった。運営は、保育のノウハウがないので委託することとし、3社の候補から、委託費用や実績などを考慮し、全国で保育運営の実績があり信頼できそうな事業者を選定した。
企業内に向けた対応
従業員に保育施設の開設を社内報で周知し、産休・育休取得者には入園パンフレットを配布した。
従業員が利用しやすいよう、年齢にかかわらず保育料を一定(市の認可保育所の平均水準の3分の1程度)とし、さらに兄弟の2人目以降は保育料を半額とした。
設立までの流れ
時期 | 内容 | |
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開設2年前 平成29年頃 |
従業員の育児や介護、ワーク・ライフ・バランスの支援を目的に、保育施設の設置を検討。 社内役員会に提案。 |
⇒従業員ニーズの把握 ⇒設置場所の決定 |
開設1年前 平成30年1月 |
企業主導型保育事業を児童育成協会へ申請。 | ⇒施設整備費の申請 |
開設9か月前 平成30年4月 |
保育施設の工事着工(~平成30年12月)。 | ⇒施設整備 |
開設8か月前 平成30年5月 |
運営を外部委託することにし、3社から提案を受け事業者を選定。 | ⇒外部委託事業者の決定 |
開設3か月前 平成30年10月 |
従業員に社内報で保育施設の開設を周知。 入園パンフレットを作成し、入園受付を開始。 |
⇒開設に向けた具体的準備 |
平成31年1月 | 保育施設の開設。 | ⇒開設 |
運営のポイントの詳細
自治体との連携
保育施設の設置にあたって、市の子ども未来部に相談し、市内の待機児童の状況や認可保育所の保育料、幼児教育・保育の無償化などの情報を提供してもらった。他にも、保育士を採用する際の留意点や嘱託医の候補などの情報を教えてもらい、運営の参考にした。県からは、企業主導型保育事業の支給対象外の外構工事や備品などに対して助成を受けた。
地域との関わり
マルトは地域住民が日常的に食品や薬を購入するスーパーマーケットとドラッグストアを運営しており、地域住民にとって身近な存在である。
スーパーマーケットと同じ敷地内に保育施設があることから、買い物に来た地域の人と子どもたちが登園・降園時や散歩の時に交流する場面がうまれている。
スーパーマーケット近くでの散歩の様子
保育士の確保・定着
保育士は、マルトの関係者の協力と外部委託事業者による募集を通じて確保した。保育士資格のあるマルトの役員や従業員の関係者が、復職や他の保育施設から移るなどし、保育施設の職員として勤務する体制で運営を始めた。
園長はマルト本部の係長の妻で、認可保育所での実務経験が豊富な人である。保育士も役員の親や妻で、調理員も役員の妻で長年調理に携わった経験者である。夫や親族の勤務先が開設する保育施設なので安心して働けると、潜在保育士の掘り起こしに一役買っている。保育士募集では、保育士が不足していると言われる中、多くの応募がある。応募者に応募理由を聞くと、昔から地域密着でスーパーマーケットやドラッグストアを展開しているマルトの知名度の高さからくる信頼感や小規模でかつ保育士の子どもを預かるという点で従業員枠の利用形態は安心感がある、とのことであった。
人員は専任保育士3人、非常勤保育士3人、調理員3人の計9人体制である。保育士の労働環境に配慮し、メンタルヘルスを含めた健康面と安全衛生面から職員をサポートしている。
利用者の確保
保育料は従業員が利用しやすいように低く設定している。保育施設の利便性も良いことから、従業員の中で保育施設の利用価値が高まっている。
マルトでは産休・育休取得者と今後、利用可能性がある従業員の一覧を作成し、常に最新の保育ニーズを把握している。産休終了日の半月前に従業員の自宅に保育施設の入園案内を郵送している。ホームページ、地元新聞、地元FMラジオ、県内NHKテレビなどでも保育施設の存在が周知されている。子どもの親同士の交友関係ができつつあり、従業員の口コミからも利用者確保につながっている。
企業の特色を活かした取組
マルトでは安全な食材を扱った食育に力を入れている。毎日、保育施設の隣にあるスーパーマーケットから新鮮で安全な食材を仕入れ、手作りで調理した給食とおやつを子どもたちに提供している。マルトでは、食育レシピのホームページへの掲載、お弁当コンテスト、健康相談などの食育活動や行事を年に数回開催している。こうした食育活動の取組から得られたノウハウや工夫を保育施設の献立に活かしている。
ハロウィンのおやつづくり
保育内容
保育の質(専門性の向上)
県主催の研修に参加し、研修内容を保育士間で共有し、日々の保育に反映している。令和元年度は県の保育士等キャリアアップ研修に参加した。
また、個々の子どもや家庭での養育環境の違いを情報共有しながら、一人ひとり丁寧に保育が行えるよう心がけている。
安全の確保
外部委託事業者で作成した安全管理対策マニュアルを活用し、毎月1回の避難訓練に加え、隣接するスーパーマーケットの従業員と火災避難訓練を行っている。
また、マルトは食品を扱う企業として、食の安全に最大の注意を払っており、食品トレーサビリティの取組や安心・安全な食材選び、食品放射能測定の自主検査を行っている。保育施設で提供する食事やおやつに同様の配慮をしている。
避難訓練の様子
食育の推進
マルトは、健康相談会や料理教室など食育に関する多くの取組を行っており、毎月の献立にもこれらのノウハウを組み入れている。3人の調理師が手づくりしたお昼のご飯を提供している。
手づくりケーキでお誕生会
企業主導型保育事業への取組の効果
企業にとって
保育施設の設置により、産休・育休後の従業員の速やかな職場復帰が可能となり、従業員の定着につながっている。新規採用でも若い世代が増えるという大きな効果があった。これまでの採用では、30万円ほどかけてチラシを作成し、新聞の折り込みなどで募集していたが、数人の中高年者の応募に留まっていた。保育施設を設置してから、マスコミなどで取り上げられるようになり、マルトの知名度が上がり、会社のイメージも向上した。その結果、求人費用をかけなくても若い世代の応募がくるようになり、人材不足の解消にもつながっている。
マルトでは、令和元年5月に2園目となる保育施設を市内に開設した。職場に保育施設を併設することで、若い世代の人材確保と定着につながることを実感し、今後、新しく開店するスーパーマーケットにも同様に保育施設を設置していくことを検討している。
地域にとって
待機児童削減と地域で子どもを育てる仕組みづくり、幼児の食育に貢献できている。また、地元の若い世代の雇用創出にも貢献している。
保護者にとって
これまで、産休・育休後に子どもを預ける場所がなかなか見つからず、働き続けたいと思っても叶わなかった人もいる。勤務先に保育施設が併設され、勤務先の関係者が保育施設の職員であることから、安心して子どもを預けられる環境ができた。保護者からは、早期の職場復帰が実現した、土日や連休に預かってもらえて安心して働ける、などの評価を得ている。
企業担当者・利用者・自治体関係者の声
企業担当者の声

保育士の募集についてもスタッフがチラシを持って団地を戸別訪問したり、入園ポスターを貼ってくれたり、一生懸命に動いてくれています。利用者の満足度が高いのは保育の質が高いからでしょう。地元にしっかり定着していると思います。いわき市や茨城県などでまだ店舗を出していない地域にも保育園の需要があると考えています。そのため、新店舗の開店と合わせ企業主導型保育施設を開設していきたいと思っています。
従業員利用者の声

スーパーマーケットの休みはカレンダー通りでないため、土日や連休でも子どもを預かってもらえる保育施設ができて安心して働くことができます。
園内の衛生設備も整っており、子ども一人ひとりに合わせた給食を提供してもらえており、子供の体調管理もしてくれるので安心できます。