松葉倉庫株式会社(倉庫)
パートII 松葉倉庫株式会社(倉庫)(PDF形式:989KB)
運営のポイント |
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○企業の概要 | ■事業所 静岡県藤枝市 ■設立年 昭和47年3月 ■資本金 1,800万円 |
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○業種 | 運輸・倉庫業 |
○従業員規模 | ・グループ全体 110人(うち女性47人) ・単独 85人(うち女性45人) |
○企業の特色 |
・生産と消費のパイプ役として、商品の保管・管理・梱包・発送・輸送に関わる全分野で事業展開している。 ・良質の物流サービスの提供をモットーに地域に密着した営業を展開し、従業員のワーク・ライフ・バランスにも意欲的に取り組んでいる。 |
○所在地 | 静岡県藤枝市(人口:約14.5万人) | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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○地域の特色 |
・藤枝市と焼津市の市境。 ・藤枝市の待機児童数はゼロである。しかし、0歳~2歳児の潜在需要は存在している。 |
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○設置方式 | 単独設置・共同利用型(8社と共同利用) | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
○設置場所 | 松葉倉庫本社に隣接し、幹線道路沿いに設置 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
○運営方式 | 外部委託方式(株式会社あき) | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
○開設日 | 平成30年4月 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
○開所時間 | 通常保育 平日・土曜 7:30~18:30(延長保育7:00~7:30、18:30~19:00) 一時保育 平日・土曜、祭日 8:00~17:00 |
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○月額保育料 | 0歳児:30,000円 1歳~2歳児:25,000円 兄弟利用2人目以降半額 延長保育:30分300円 一時保育:60分600円 4時間まで上限1,500円 4時間以上上限2,000円 給食費300円 ※令和元年8月19日現在 |
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○保育施設の特色 |
・保育室内は扉を開け放すことで開放的なスペースを確保できるようになっている。 ・二階建てのメリットを活かし、幹線道路沿いの窓を大きくし、道路を往来するトラックなどの車が良く見えるようになっている。 |
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○費用の状況 | 施設整備費 42,674,178円(うち助成分 31,274,000円) 年間運営費 33,084,714円(うち助成分 22,985,936円) |
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○利用定員と利用者数 |
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○運営体制 |
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設立までの経緯
保育施設設置の背景
松葉倉庫株式会社(以下「松葉倉庫」という)では、かつては即戦力となる人材を中途採用していたが、最近では中途採用が難しくなり、新卒採用中心に切り替えていた。その結果、若い人材の採用が増えていったが、各部署に配属していく中で、結婚や出産で休職や退職をする女性従業員が出てきた。このままでは復職の目途も立たない状況であり、従業員の子育て支援の必要性を認識するようになった。そのころ、倉庫協会の会報に入っていた企業主導型保育事業開始のチラシが保育施設設置を考えるきっかけとなった。長年働いている高齢の従業員が、夏休みに孫の面倒を見るという理由で1か月休んだこともあり、勤務先の近くに保育施設があれば、里帰り出産や一時預かりなどにも対応できて働きやすくなるとも考え、保育施設の設置を検討することにした。
保育施設設置に向けた検討経緯は、毎月の社内幹部会議で報告をし、従業員に社内報で定期的に検討内容を報告した。
従業員のニーズの把握
社長が中心となり、女性従業員全員に社内にあったら安心だと考える制度や施設などについてアンケートをしたところ、育児に関する要望と介護に関する要望が多く挙がった。若い人たち中心の採用や女性の働き方を応援していくという会社の方針と照らし合わせ、保育支援をまず行うことにした。当時、妊娠している従業員2人が産休・育休後の職場復帰を希望しており、会社側も彼女たちの職場復帰を望んでいたので、保育施設設置は双方にとって大きな安心材料となった。
設置場所の確保
「会社の隣、会社の近く、通勤の途中」をコンセプトに場所を選定した。本社倉庫に隣接するビデオ店が廃業した土地を数年前に購入していた。本社倉庫前の道路は藤枝市、焼津市、静岡市とつながる幹線道路で、アクセスが良く、多くの従業員も通勤に使っている。今後も近隣に工業団地の整備が見込まれ、この場所なら保育施設のニーズはあると見込み、保育施設の設置場所に決定した。
松葉倉庫本社に隣接して設置しているまつの実
設置方式・運営方式の決定
保育施設は自社単独で設置することにしたが、中小企業単独で保育施設を運営するのはハードルが高いので、運営は委託することにした。地元との連携の中で事業をやっていきたいという思いもあり、地元の保育事業者を探した。その中に、障害者の社会復帰や障害児と健常児の統合保育に実績のあった会社があり、理念も方向性もパートナーにふさわしいと判断し委託先に決めた。
運営の委託先を探したり、保育事業の情報を収集する中で、松葉倉庫のみでは定員の充足は難しいと考え、保育施設建設予定地の立地からも自社以外の利用者を確保できる方策を検討した。その結果、近隣企業の8社と共同利用することとし、地元貢献・還元の思いから地域枠を設定した。
企業内に向けた対応
福利厚生として従業員の保育料を低く設定し、複数児童を預け入れる場合の兄弟割引も適用した。
設立までの流れ
時期 | 内容 | |
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開設2年前 平成28年前半頃 |
創立、50周年に向けた社会貢献、地域貢献活動の一環として、保育施設設置の社内検討開始、決定。 | ⇒設置検討 ⇒社内ニーズの把握 ⇒設置場所の決定 |
開設1年前 平成29年3月頃 |
保育施設の運営委託先として、地元で実績のある企業を探索、決定。 | ⇒運営方式の決定 ⇒外部委託事業者の決定 |
開設11か月前 平成29年5月頃 |
自治体から保育施設の設計実績が豊富な地元の設計士を紹介いただき、整備の検討を開始。 児童育成協会への申請準備を開始。 |
⇒設置方式の決定 ⇒申請手続きの開始 |
開設9か月前 平成29年7月頃 |
従業員に保育施設設置の概要を説明。 設置場所に隣接する各地元自治会や近隣企業、近隣工業団地への説明を開始。 |
⇒社内説明会の開催 |
開設7か月前 平成29年9月頃 |
保育士の募集を開始。 保育施設の特色やコンセプトなど運営内容の詳細検討。 ホームページの開設やキャラクター検討、保育料の設定など利用者の募集要項の詳細検討を開始。 |
⇒開設準備 |
開設4か月前 平成29年12月頃 |
近隣地域の各町内にチラシを配布。 近隣企業への訪問や会社ホームページ、経営者同士のネットワークで保育施設を周知。 |
⇒利用者の募集 |
平成30年3月~4月 | 静岡新聞やトラック業界の広報誌で保育施設開設記事を掲載。 保育施設の開設。 |
⇒開設 |
運営のポイントの詳細
自治体との連携
保育施設の立地を考えると、藤枝市や隣接する焼津市のみならず、静岡市や島田市などからも子どもを預けにくる可能性があるので、そうした自治体にも保育施設を設置する予定を伝えた。
松葉倉庫の社長はこれまで藤枝市の産業政策づくりに地元企業の代表の1人としてかかわっており、市とは必要に応じて意見交換できる関係ができていた。保育施設の設置に際して、市の児童課に保育施設の設置基準や人員配置基準、防犯基準などについて情報交換を行った。また、中小企業の保育施設の運営というチャレンジに対する支援の働きかけを産業政策課に行った。市では平成29年度に藤枝市地域経済を支える「がんばる中小企業」振興基本条例を制定した。この条例に基づき、松葉倉庫の保育施設設置の取組が評価され、補助金の給付が実現した。
焼津市には、保育を必要とする乳幼児が認可外保育施設を利用した際の月額保育料の一部を補助する認可外保育施設利用者補助金制度があり、この制度を活用した。
今後も、藤枝市や焼津市と協力体制を維持し、保育施設の運営を支援してくれるよう継続的に働きかけていく。
地域との関わり
保育事業への取組は子育て支援に留まらず、産業や地元の活性化に有効な取組であると社長が認識し、決断したものである。保育施設の設置検討の早い段階から、地元の自治会や町内会の会合に社長が何度も出向き、保育施設の必要性を繰り返し説明し、理解を求めた。地元住民に対しても町内会等を通じて保育施設開設のチラシを配布した。公民館や公的な子育て支援機関、近隣の認定こども園など3園にも開設前後に、保育施設設置の目的や松葉倉庫としての関わり方などを説明に行った。このような地道な取組が功を奏し、保育施設の開所式や入園式に地元の町内会の人たちも参加し盛大に祝うことができた。改めて保育施設の設置は地域と一体となった取組で、そして地域の理解が進んでいることを実感した。
保育士の確保・定着
外部委託事業者のネットワークで、認可保育所で13年の実績を持つベテランの保育士を園長として採用し、園長のネットワークで保育士を採用した。
人員は、専任・非常勤含め10人体制である。主任、副主任、保育士も副園長経験者や認可保育所、乳児保育園での保育経験者である。保育士以外の事務員や調理員も子育て支援員の資格を持っている。調理員は、認可保育所での調理経験があり、事務員は認可保育所、幼稚園事務での長い経験を持っている人を採用した。常勤の保育士は保育経験が豊富で、これまでの経験を活かした保育は、経験が浅い保育士の良い手本となっている。
子どもたちの情報は全職員で共有しており、どの保育士でも子ども一人ひとりに対応できるようになっている。事務局長や園長は保育士が働きやすい職場環境づくりに向け保育士の職場改善の要望に真摯に耳を傾け、できる限り応えるようにしている。また、保育の内容や方法も園長の指示で決めるのではなく、保育士同士の話し合い、意見交換に基づいて保育計画を作っている。
利用者の確保
保育施設の開設決定後は、社長自らが近隣の企業を訪問し、開設のお知らせや企業主導型保育事業の利点や共同利用ができることなどを説明し、利用の呼びかけを行った。
運営開始後は、安定的に利用者を確保するため、本社前に園児募集の立て看板を出し、ホームページで保育施設の情報や利用者募集を行っている。従業員には社内報で保育施設の運用状況を報告している。また、保育施設に通う子どもの保護者の勤務先や近隣企業、周辺の産婦人科医院や子育て支援センターにも定期的に訪問し、保育施設を宣伝している。
今後は、藤枝工業団地に隣接する土地に計画されている新工業団地に入所する企業にも営業を行い、利用者確保につなげていく予定である。
その他、保育施設を活用して保護者と子どもが一緒に体験できる食育、ヨガ、身だしなみ、お茶会、ベビーマッサージなどをテーマにした女性講師による講座も実施している。保護者同士の情報共有、情報発信の場所づくりをすることで、保育施設の存在をPRしている。
本社前の園児募集の立て看板
保育施設で開催された保護者向け講座
企業の特色を活かした取組
保育施設では倉庫業ならではのイベントを定期的に開催している。大型トラックの見学、運転席に乗る体験、荷台で遊ぶイベントで、子どもたちに物流業界に興味や関心を持ってもらいたいと考えている。子どもたちの安全を確保した上で、散歩で使用するカートの中から大人が働く様子を見学することもある。園内の玩具類も乗り物に親しみを持ってもらえるよう、乗り物の玩具を多く揃えている。従業員に保育施設の給食を食べてもらう体験会や勤労感謝の日の子どもたちによるお遊戯など、従業員と子どもたちの交流も行っている。
また、従業員と保育施設をつなげる取組として、家庭で使わなくなった絵本や玩具を保育施設に寄付してもらう活動を始めた。中には退職者が孫と一緒に絵本を持ってきてくれたこともあった。退職者も含め多くの松葉倉庫関係者が保育施設と関われる仕組みになっている。
大人が働く姿を見学
大型トラックの見学
園内の乗り物の玩具
保育内容
保育の質(専門性の向上)
研修は、隣接する焼津市の研修に参加するほか、自前で勉強会を開催している。
焼津市では年8回の研修が予定されており、保育施設にも案内がくるので、受講計画を立て、毎回参加者を変えて職員1人ずつ参加してもらっている。令和元年は、わらべうた、絵本の読み聞かせ、手づくりおもちゃなどを習得するワークショップ形式の研修だった。
研修に参加した職員は研修内容を報告書としてまとめ、全職員に回覧し、月1回の職員会議で改めて研修に参加した職員から発表してもらうことにしている。研修内容を共有することで、成果の共有を行い、保育の実践にも反映していけると考えている。保育施設では自治体が研修で取り上げたテーマを重視しており、自治体の研修テーマについて自分たちで勉強会を開いて、保育への取り入れ方などを話し合っている。
また、日々の保育で発生する問題点や改善点は反省点としてまとめ、次年度の保育計画に活かしている。
防災訓練
安全の確保
防災訓練は毎月1回、警察や警備会社と連携して本番さながらの訓練を実施している。毎月行うことで、子どもたちは迅速に行動できるようになってきた。
日々の安全対策については、ヒヤリハットをとりまとめ、保育士間でその情報を共有している。ヒヤリハットを体験した保育士は、体験直後に他の職員とすぐに情報共有し、対応策を記録し、再発の防止に努めている。
食育の推進
調理員には、認可保育所で調理経験がある人を採用し、保育施設の中で調理している。栄養面はもちろんのこと、アレルギー対応にも万全を期している。アレルギー対応が必要な子どもの保護者と情報交換し、全職員で情報共有し対応できるようにしている。
また、子どもたちには遊びを通して日々野菜が育っていく姿を観察し、収穫する喜びを体験してもらっている。園庭でブロッコリー、きゅうり、トマトなどを栽培し、食べごろの野菜を収穫してもらい、昼食やおやつの献立に加えて提供している。子どもたちの食育につながる取組となっている。
庭で育てたトマトが入った昼食
トウモロコシの皮むき
企業主導型保育事業への取組の効果
企業にとって
保育施設を設置したことで、妊娠や子育てによる離職率が低下し、従業員の職場満足度が向上した。従業員の新規採用、産休・育休後の職場復帰、人材の定着等にも大きな効果があった。
また、子育て支援や地元に貢献している企業として、新聞や自治体の情報誌等に保育施設が紹介され、知名度やイメージアップにつながっている。今まで紹介された媒体は、物流ニッポン、静岡トラック協会、藤枝情報誌、商工会議所季刊誌、静岡第一テレビなど多数で、子育てしやすい会社を取り上げた書籍でも紹介された。こうした紹介記事は、企業にとって大きな宣伝効果となっている。
その他、韓国の大邱(テグ)市からの視察団をはじめ、国内の物流企業や保険会社等の視察も受け入れた。
新聞に取り上げられた保育施設開園の記事
地域にとって
近隣に認可保育所や認定こども園もあるが、0歳~2歳児の潜在的な保育ニーズの解消につながっていなかった。地元自治会から、保育施設が設置されたことで子どもの新たな受け皿になると期待が寄せられている。
子どもたちは散歩の途中で農作業中の人によく声をかけてもらっている。地元の人に保育施設の存在を受け入れてもらってきていることを実感している。
保護者にとって
保育施設が勤務先に隣接しているので、保護者は保育現場を訪れ、子どもたちと親しむ時間を持てている。送り迎えも楽で、熱が出た時でもすぐに駆け付けることができ、安心して子どもを預けて仕事する環境ができた。
企業担当者・利用者・自治体関係者の声
企業担当者の声

「地域の子どもは地域が育てる」という理念で保育施設を運営しています。私は一日何回も園に顔を出していますが、監視しているわけではありません。運営は安心してお任せしていますが、企業主導型保育施設なので、共に責任を背負っているのです。
従業員利用者の声

会社の隣に保育園があると本当に便利だなと感じます。子どもを病院に連れて行くため、遅刻させてもらう時も保育園と会社が隣同士にあるので時間の短縮になり助かっています。仕事で保育園に行く時にも、お昼寝をしているところをこっそり覗き見することもでき安心します。急なお休みにも理解をしてもらえるのでありがたいです。