全国リレーシンポジウム〈千葉県〉 分科会2「子どもの笑顔がはじける地域づくり・企業ができること」

(事例発表者)

野老 真理子
 大里綜合管理株式会社 代表取締役社長
井上 宏人
 株式会社千葉興業銀行 人事総務部 調査役
井川 浩一
 京葉ガス株式会社 人事グループマネージャー

(コーディネータ)

坂爪 洋美
 和光大学人間関係学部 助教授

(要旨)

問題提起

坂爪洋美 和光大学人間関係学部助教授

近年社会が変化する中で、子育てが難しくなってきて、子育てに関する支援を受けることが難しくなってきたと言われている。養育者が不安や負担感を感じながら子どもを育てているのが現状であろう。

坂爪氏

子育て支援の中心は養育者をどう支えるかということであるが、視野を養育者個人から地域まで広げると、子育ての資源はかなり広がる。養育者だけでは提供できないが地域では提供できるものがいくつもある。では地域、特に企業は何を提供できるのだろうか。これが本分科会のテーマである。
企業は地域を構成する一員であるが、同時に良い製品やサービスを適切な価格で顧客に提供するという使命を持つ。その使命を果たしながら、地域にどのような貢献ができるだろうか。
一つは自社の従業員が子育てしやすい環境を整備することである。女子従業員が出産した後も働き続けられる。もしくは出産・育児のために退職した後にもう一度働くことができるようにする。父親が育児に関われるようにすることも必要だろう。それをもう一歩進める、つまり従業員以外も対象とするならば、何ができるのだろうか。本分科会では、企業は自社の従業員に対して、という以上に地域においてどのようなことができるのか考えていきたい。

事例発表1 地域貢献活動と仕事の矛盾のない両立を

野老真理子 大里綜合管理株式会社代表取締役社長

わが社は、「創立以来32年にわたり、仕事をさせていただいてきたこの地域に感謝し、さまざまな環境問題や目をつぶりたくなるような社会問題を真正面から受け止め、地域における大里の役割を自覚し、"スタッフひとり一貢献"を手段に、"社会的責任のある企業"として、地域社会に貢献します」という方針のもとに、現在45種類の地域貢献活動を行っている。その中で最初に取り組んだのが、学童保育である。始めてから13年が経過しているが、実費分は親御さんたちに出してもらって、ボランティアで運営している。

野老氏

今は、平日の学童保育に大体10人、土曜日になると30人ぐらい、夏休みになると60人ぐらいの子どもたちが会社の中で過ごしている。
特段、この子どもたちのために何か用意をしているわけではないが、会社の社員さんたちと一緒に夏休みは朝礼をしたり、すき間を利用して遊んだりしている。女性が多い会社なので、それはいけないよ、などと声をかけられながらやっている。また、当社の学童保育は卒業がないため、大きな子は高校生までおり、小さな子どもたちの面倒を見る側になってくれている。さらに、卒業生の内2人が、去年の4月に入社した。いろいろなお金の使い方があると思うが、企業としてこのようなことにお金を使っていくとこうなるということで、私自身嬉しく思っている。
仕事とどう絡むのかというと、10数年間、地域貢献活動と仕事は矛盾なくできるという実績を積み上げてきた。また、子どもを守るために、社員も子どもたち自身も皆、本気で話し合いをしたりして、それを客観的に見ると、とても豊かなことだと思っている。
小さな会社でやっていくには限界があると思うが、その限りを尽くして、地域の役に立ちたい、この子育ての問題は、やれる限りのことはやろうと覚悟を決めている。

事例発表2 次世代育成をCSR(企業の社会的責任)の一つの柱として積極的に推進

井上宏人 株式会社千葉興業銀行人事総務部調査役

自社の従業員のための育児とか介護という支援制度をつくる中で、自然と少子高齢問題が身近な問題となってきた。自社の子育て支援と少子化はつながってくるのではないかと思いながら、企業体力に沿ってできることはやるということが非常に大事なことだと思う。
一方、ちょうどCSR(企業の社会的責任)が新聞紙上を賑わしている折でもあり、地域の皆様と共に生きる地方銀行の定めとして、地域の方の育児支援のお手伝いができないかと考え、各種のCSR活動を発案した経緯がある。

井上氏

社内のコンセンサスを得る際にもっとも力点をおいたのは、地域のお客様から「おたくの会社ではこういったよい活動をやっているね」というお褒めの言葉をいただけることがサービス業に従事する者にとって最も嬉しいことであり、従業員のやる気が高まるということであった。金銭的なインセンティブによることなく、従業員のモチベーションを上げていくということを強く意識した。いい会社だねと言われることが、我々の一番のエネルギーになるはずだと考えた。
大きく分類すると、女性に対する活動、子どもに対する活動、企業に対する活動の三つの活動を行っている。中でも、企業に向けた取組ということでは、千葉県の「社員いきいき!元気な会社宣言企業」という取組に対して、両立を支援している会社に勤める従業員の方向けに、昨年から各種のローンの金利を優遇している。
私どもの設立の理念である、中小企業の皆様を応援する商品であると同時に、そこに勤める個人のお客様が子育てしやすいように何かお手伝いをできないかという、二つの意味合いを込めた商品である。正直、なかなか従業員の福利厚生にまで行き届かないが、地元の銀行がこういうことをやってくれるとありがたいね、という喜びの声もいただいている。
今日のテーマは、「働き方の改革が少子化の流れを変える」ということだが、その企業に勤めている従業員が働き方を変えることが、まずは少子化社会に挑戦する第一歩なのだと常々感じている。そういった中で、企業における両立支援は有効であるものの、両立支援をやっている会社が少なくては全く意味がない。私どもの会社は、女性を大切にしている会社だと自負をしているが、女性が沢山頑張っている会社は、それだけ出産・育児に際して、退職するリスクも高い会社だということでもある。旦那さんのいらっしゃる会社にも同じベクトルで動いていただかないと両立支援はできない。
千葉県では「社員いきいき元気な会社宣言企業」があるが、こういった取組をどんどん増やして、そういう企業を増やしていければいいのではないか。会社も元気であり従業員も元気であり、また元気な企業がたくさんあれば、千葉県も元気になれるのかなと考える。千葉県の人口も、2010年で頭打ちになるという統計も出ているので、今が転換期なのかと思う。ぜひそういったことに賛同していただけるような企業、諸活動団体に対して、メッセージを発信していきたいと思う。

事例発表3 地域における6つの社会貢献活動

井川浩一 京葉ガス株式会社人事グループマネージャー

地域における子育て支援では、6つの社会貢献活動に取り組んでいる。

井川氏

まず一つは、地域の小学生を対象とした柔道教室。当社は、企業スポーツとして柔道に力を入れており、柔道教室を開いたらどうかという話があった。現役選手はなかなかそういう指導はできないが、柔道部のOBも沢山いるので、何か役に立てないかということで、柔道関係者からの要請と、社内の地域貢献というのがリンクして、平成15年の夏休みの1ヶ月間、開催してみようということでスタートした。30人の生徒募集に対して55人の応募があり、夏休みが終わっても、生徒や親御さんから続けてもらいたいということで、今までずっと継続している。幸い非常に評判が良く、定員70人だが、現在40人弱の方が入部を希望され、早い人は、幼稚園の年中の時から申し込んでいると聞いている。
二つ目は、地域の小学校の出張授業に取り組んでいる。小学校からの要請により平成16年から始まったもので、これまで18校で実施している。テーマは、エコクッキング・冷熱実験・燃料電池・紙すき教室などがあり、例えばエコクッキングであれば、材料を無駄にしない、ごみを少なくする、ガスの使い方、水を無駄にしない使い方を説明し、これも自前で持っている料理教室の講師の方が料理を教えるという形になっている。
三つ目は、地域の小学校を対象とした絵画コンクールの実施。これは平成9年、当社の70周年事業としてスタートしたものを継続している。平成18年は、240校に対して234の小学校から、16,900点の応募があり、非常に応募数が多くなっている。
その他、会社施設見学、職場体験での、ガス製造の仕組や電磁調理器との比較実験、夏休み・春休みの親子料理教室の開催、サッカー大会の協賛を行っている。

<質疑応答>
○参加者 点を面にするということで、企業だけでなくて、行政や保育団体等とどういうふうに関わっていくのか。また、働いていないお母さんも含めて、どういう子育て支援ができるのか。さらに、子育てに対して企業としてどう関わっていくかを聞きたい。

○井上 大変難しい話だと思う。ワーク・ライフ・バランスというのは特定の企業だけがやっても意味がない。いろいろな会社が同じベクトルで従業員の生活を豊かにしていこうと思う会社になっていくことが大事ではないか。そこに行政が取り組むべき役割があると思っている。
また、働いていないお母さんにかかる問題提起があったが、皆が皆フルタイム、あるいは正社員で働ける時間がなかったとしても、社会に出てきていただいて、広く社会で交流を持っていただき、皆で子どもを育てていくという視点があってもいいと思う。

○参加者 景気が良くなったとはいえ、状況がかなり厳しく、特に中小企業の場合、子育てと仕事の両立できる企業を作る上で、企業の安定ということが前提となる。銀行のアドバイスや支援のようなことが欠かせない要件になる。そのような意味で、金融機関が個々の中小企業に対して、もっと突っ込んだ関係をどのように作っていただけるのか。

○井上 企業の安定ということでいえば、一義的には決算書の内容や納税能力等いろいろあると思うが、むしろそういったことよりも、将来に対して、従業員が頑張っている会社であるとか、社長さんが夢とか希望を持っていて、将来に投資をしている会社などは、世の中からもっと尊敬をされていいのではないかというのが、私が人事にきて銀行員として目覚めたことの一つである。
決算書は過去の精算、通信簿で、これからのことは何も書かれていない。このようなことから考えると、単に静的な資料だけではなく動的なものを見ながら、企業の良し悪しというのを見ていくことが必要かと考えている。本業だけでなく、人のモチベーションを上げるとか、社員の生産性を上げることでも、お手伝いや一緒に話し合いをさせていただくなど、地域の銀行としてできることがたくさんあるのではないかと考えている。

○参加者 野老さんに、周囲から助言などを受けて取り組んだこと、特に周囲から支援を受けてやったことはあるか。

○野老 CSRと営業活動はリンクしないのではないかとよく言われるが、不動産会社も、地域が豊かにならないと不動産価値は上がらない。今日、明日のことを追っていたら町を豊かにする活動はできない。この微妙なところのバランスで、「この町っていいよね」と思えることとわが社の発展とは矛盾がないはずだと信じて、毎年やれることを増やしてきた。先ほど話したが、13年間学童保育に取り組んできて、新しい社員を2人迎えた。リクルーターにお金を払うより、出会いの場を作って、自分の会社を知ってくれたことが、生きたお金になるのではないか。選択肢は限られたお金をどのように使うかである。
さらに言えることは、行政からサポートを引き出すには、「手法」が必要だ。行政にこのようなものを作ってくれ、と言うと構えるが、自分はこのようなものをやりたい。自分はこのようにするが、その先をサポートしてくれないか、という話の持っていき方をすると、拡がることが沢山ある。制度がそうするわけではなく、その話を受けた行政職員の心を動かす。どの人を見ても、行き詰っているのは最初のこの一点ではないか。


とりまとめ

坂爪洋美 和光大学人間関係学部助教授

 企業には第一に良い製品やサービスを適切な価格で顧客に提供することが求められる。それを実現するために、もしくはその上で地域貢献として何ができるのかが問われている。本日のみなさんのお話の共通点として、地域貢献としての活動が企業の業務とうまく連動していることや、何らかの要請によって始まった活動をうまく地域貢献につなげていることが挙げられる。大里綜合管理では「地域の価値をあげる」というポリシーのもと、仕事と地域貢献が矛盾なく実現されている。千葉興業銀行では、宣言企業を対象とした優遇策の実施など商品特性を活かした地域貢献を行っている。京葉ガスでは、70周年記念事業や地域からの様々な要請にこたえる形で立ち上がった取組を継続的に実践している。企業の業務と矛盾することなく、さらには企業の業務と地域貢献を包括するようなポリシーを立て、できることをできる範囲で行っていくことが企業の地域貢献を推進するのであろう。また企業ではできない部分を地域の他のメンバーや行政がどのように補っていくのかも重要な点となる。