全国リレーシンポジウム〈千葉県〉 基調講演

3.基調講演「ワーク・ライフ・バランス社会の実現に向けて」

大戸 武元 株式会社ニチレイ 代表取締役会長

大戸氏

 今、わが国においてワーク・ライフ・バランスの推進は、官民をあげて取り組むべき大きな課題です。ワーク・ライフ・バランスには幾つかの視点があります。
社会的視点としては、少子高齢化や教育問題、地域活動への参画や、生きがいや働きがいといった人生の充実などの面です。経済的視点としては、少子高齢化による就業者減に対する仕事の担い手、生産者としての女性就業者の増加への期待、あるいはダブルインカムによる個人消費の増加への担い手としての消費者としての期待、これも大変大きなものがあります。また、経営的視点としては、従業員満足度の向上によるモラルアップや、人材活用による企業価値の向上、特に生活者の立場に立った商品やサービスの開発など、働き方の見直しがイノベーションにつながる行動への期待などもあります。

 本日は「ワーク・ライフ・バランス社会の実現に向けて」というテーマでお話をさせていただきますが、なぜ経営者の私がお話しすることになったのかを考えてみますと、このワーク・ライフ・バランスは経営者が本気になって取り組まないと職場の意識も変わらないし、推進できないという面があるからです。そこで、経営者はワーク・ライフ・バランスについてどう考えているのかということが一つかと思います。
もう一点は、ワーク・ライフ・バランスが必要というなら企業としてどう対応し、どのように進めていこうとしているのかという点があるかと思います。大きくはこの二点についてお話しします。

 まず簡単に、私どもの会社の紹介と自己紹介をさせていただきます。当社は冷凍食品やレトルト食品、アセロラ飲料などの製造販売、水産品、畜産品の輸入販売、あるいは冷蔵倉庫や冷凍車による低温度帯の食品の物流などを行っています。昨年度の売上高が4,700億円、営業利益が160億円、従業員が5,600名の会社です。私自身は昭和43年に入社して、最初に静岡県の焼津、その後は同じく静岡県の清水で冷蔵倉庫の仕事に従事しまして、フォークリフトやトラックの運転、あるいは営業などを3年ほどいたしました。マイナス24度の冷蔵倉庫の中での長時間労働も身をもって経験しましたが、利益を上げることは大変なことだということを痛切に感じました。その後は、人事、企画、総務、秘書、あるいは食品の支社長などを経験して、今から10年前に取締役人事部長、そして6年前に会長に就任しました。その間、人事部の主任として、また人事部長として二度の人事制度の改訂に携わってきました。


3‐1.経営におけるワーク・ライフ・バランスの位置づけ

 さて、まず経営に対する考え方とその中でワーク・ライフ・バランスをどう位置づけているかについてお話しします。
経営管理の概念を私なりに考え、ピラミッド型にまとめてみました。一番上がその企業のミッションやビジョンです。当社の場合、ミッションとして「暮らしを見つめ、人々に心の満足を提供することにより、健康で豊かな生活の実現に貢献する」というところに存在価値をおいています。そしてどのような事業領域で、どのような企業を目指すのかというのがビジョンです。私どもは「卓越した食品と物流のネットワークを備える食のフロンティアカンパニーとして、お客様にご満足いただける優れた品質と価値ある商品・サービスを創造・提供し、広く好感と信頼を寄せられる企業として社会とともに成長します」と規定しました。このミッション、ビジョンを日ごろの事業活動で具現化していく、これが企業としての目的です。
次に企業価値の創造と向上が各企業に共通する目的であると考えています。
この企業価値は誰のための企業価値かと申しますと、私どもは5人のステークホルダー、利害関係者のための企業価値だと考えています。お客様、株主、従業員、お取引先などのビジネスパートナー、そして社会一般です。
企業価値にはいろいろなとらえ方があります。株式の時価総額、あるいは将来にわたるキャッシュフローを現在価値に引き直した価値というとらえ方もありますし、株式と負債の合計という考え方もあります。しかし、私は、スウェーデンのスカンジア社という、100年以上の伝統のある保険会社の企業価値のとらえ方が、企業経営をやっていく上では有用と考えています。
この企業価値は、財務的資本と知的資本に分けられます。
財務的資本は、主にバランスシートをはじめとする財務諸表で計数的に表される財産を表しています。これは過去の事業活動の結果です。
一方、知的資本はお客様やブランドやネットワークからなる関係構造資本と、従業員や経営者からなる人的資本、仕事の仕組みや特許。あるいはノウハウなどといった知的財産権からなる組織構造資本、そしてどういう分野でどのようなやり方で利益を上げていくかというビジネスモデル、この4つから成り立っており、企業の将来の発展性を示すものと言われています。

 現在、日本経済の発展の鍵を握るのはイノベーションであると言われていますが、これは単に技術革新だけでなく、仕事のやり方の革新や新しいコンセプトの商品やサービスの提供、そして新しい価値基準への転換など広範な革新を含むものとされています。新しいコンセプトに基づく商品やサービスを開発し、受け入れられれば顧客基盤が拡大し、ブランド力が向上する。それによって関係構造資本が高まり、知的資本が高まり、企業価値が高まる。同じように新しい技術を開発すれば、組織構造資本が高まり、知的資本が高まります。また、経営者や従業員が自己啓発に励み能力が向上する、あるいは多様な経験を持つ人を採用すること等によって、人的資本を高めれば企業価値を高めることができます。企業で働く人たちは、この財務的資本と知的資本を高めるために、日々働いているということが言えるでしょう。
イノベーションにはお客様の視点、生活者の視点が大事であり、イノベーションの推進とワーク・ライフ・バランスの達成は不可分のように思えます。企業についてはそのように考えていますが、同じように国家公務員の方々の目的は国家価値の創造・向上でありましょうし、地方自治体の方々の目的は、地方価値の創造・向上であるでしょう。このような考え方に立てば、生活者の視点というものが、同じように重要であり、イノベーションとワーク・ライフ・バランスの関係も同様と思われます。
このように、ミッション、ビジョンの具現化や企業価値の創造、向上という目的を達成するために私どもはCSR(企業の社会的責任)経営を行っていくことを決意しました。CSRの3つの側面、すなわち、経済的側面、社会的側面と環境的側面、そして先ほど申し上げました5つのステークホルダーを念頭において、当社におけるCSR経営は6つの責任を果たしていくことと規定しました。第一は新たな顧客価値の創造。第二は働きがいの向上。第三はコーポレートガバナンスの確立。第四がコンプライアンスの徹底。第五は環境への配慮。第六が社会貢献の推進。この6つであり、働きがいの向上という項目では、まずワーク・ライフ・バランスを推進していくことを決定しました。そして、CSR経営の考え方に基づき、コーポレートガバナンス、すなわち経営監督機能を発揮し、そのもとで経営執行を行い、執行にあたってはコンプライアンスを重視し、リスクマネジメントを行い、これらがきちんと行われる内部統制を構築して、事業活動を管理・運営していくこととしています。
このようにワーク・ライフ・バランスを推進することが知的資本を高め、多くのイノベーションを生み出していくことにつながると考えていますし、もう一つは社会的責任経営、CSR経営を進める上で一つの重要なテーマであると考えています。

3‐2.ニチレイにおけるワーク・ライフ・バランス施策

 次に、ニチレイにおけるワーク・ライフ・バランスの施策についてお話しします。
発端は今から9年前の1998年度に戦後の混乱期を除いて初めて純利益が赤字になるという事態が発生したときでした。経常利益は辛うじて黒字でしたが、バブル期に投資したアメリカでの事業の精算や国内でのホテル事業の再編などから、大幅な特別損失が発生したためです。そこで会社は3年計画で事業収益構造の再構築に取組、構造改革の一つの柱として人材の活用のための新しい人事制度、名づけて「フレッシュアンドフェア・プログラム」、私どもではFFプログラムと呼んでおりますが、これを構築しました。求める人材像を「高度な専門性によって付加価値を生み出し続けるプロフェッショナルな集団」とし、プログラム全体のコンセプトを「個人と会社のフェアな関係を構築する」としました。人事の処遇において年齢、性別、学歴といった俗人的な人基準ではなく、役割と成果による仕事基準による仕組みへと転換を図りました。
例えば、賃金については新入社員から社長、会長まで14項目について職務調査を行い、役割に応じて職務等級を設定し、それに応じた役割給へと転換を図りました。この結果、賃金が上がる人も下がる人もいましたが、会社としての賃金総額は変わらず、下がった人については人事部長が一人ずつ面談をし、説明しました。
また一方で、能力開発やカウンセリングも重視し、会社全体の業績向上と社員の満足度の向上を目指しました。この新しい人事制度「FFプログラム」は、新しい賃金制度の他、WEBによる目標管理システム、コンピテンシー導入による新しい評価制度、自ら手を挙げ、適正テストや通信教育を受講し、役員プレゼンなどによって選抜する役職公募制度、ニチレイユニバーシティーと呼ばれる新しい人材開発体系、定年前に進路選択を希望する人たちのためのキャリアエントリー制度や、プログラムをフェアに運営するための人材委員会などの仕組みをつくり上げました。
また、このような新しい制度を、フェアに運用していく上で重要なことは、コミュニケーションとメジャーメント(測定)であるとの考えから、初めての社員満足度調査を実施しました。
この中で、女性の評価が最も低く、男性とも格差があった質問事項は「5年後、10年後の社内での自分を肯定的に思い描ける」という項目でした。男性中心の傾向のあった職場において女性の不満が一番現れたところだと思います。しかし、このままでは職務遂行に直接関係のない属性を排除するという、このことを意図したFFプログラムのフェアという概念に反します。そこで、女性社員の活躍を支援するには包括的な施策が必要だと考え、役職者に占める女性比率に注目して、この是正を図るポジティブアクションをスタートさせることとなりました。目標としては、2000年4月時点で役職者900名のうち1.2%の11名だった女性の役職者を5%、およそ45名まで3年間で増やすという目標を掲げ、毎年10名から15名の女性登用枠を設定し、支援することとしました。この結果、2003年4月には女性役職者が43名、およそ4.7%の比率となり、ほぼ目標を達成することができました。
このポジティブアクションの波及効果としては、女性の採用が大幅に増加し、2000年には17%だった新卒の女性採用の割合が、2006年には39%まで増加したことや、それに伴って女性の職域も大きく拡がっていったこと、特に営業関係では大きく増加したことがあります。さらに、女性に対する能力開発を複数の会社が合同で、異業種合同研修を実施するなど進展がありました。
また育児支援としては、在宅勤務プロジェクトや、OG、会社を退職した女性社員ですが、OG派遣プロジェクトの立ち上げや、資生堂さんの職場内保育所である「カンガルーム汐留」への参加、あるいはネット上に両立についての相談窓口を立ち上げるなど、両立支援に向けての方策を開始しました。
ワーク・ライフ・バランスを推進するにあたっては、まずどのような仕組みが必要なのかを考えてみました。
ワークを支援したり制御する仕組みとしては、労働時間管理、これは時間外労働管理ですとか、あるいは長時間労働の是正、休暇の取得推進などがありますし、定年後の再就職、あるいは一度辞めた女性の再就職、再雇用、このような制度、あるいは役割成果に応じた処遇や、キャリアプランを踏まえた人事異動施策、あるいは能力開発等といったものもあります。この能力開発についてはワークのところの仕組みということと、ライフという仕組み、両方にかかるというふうに考えています。
またライフを支援する仕組みとしては、育児、介護支援、社会活動・ボランティア支援、健康管理支援などがあります。
バランスを支援する仕組みとしては、多様な働き方の支援や、時間や場所や雇用形態といった面での選択の拡大があると考えました。これらは制度的には既に整備されているものも多いわけですが、その実行という点ではまだまだであり、新たに追加する必要がある仕組みもありました。ちょうどそのような折に、当社からほど近い、汐留の新しいビルに本社を移した資生堂さんから、自社内の保育所「カンガルーム」への一部参画を呼びかけていただき、それに応じた日本IBMさん、そして当社などが事務局となってワーク・ライフ・バランスを研究し交流する、ワーク・ライフ・バランス塾(Work Life Balance塾)を立ち上げることになりました。登録企業が36社、そのほかにオブザーバーとして千葉市役所や、東京大学なども参加していただき、平成16年から18年まで3カ年に及ぶ勉強会が始まりました。ここでの目的は、ワーク・ライフ・バランスのための社内制度づくりと、次世代育成支援対策推進法で定めました行動計画の策定に、勉強の成果を生かすということにしまして、3カ月に1度ぐらいのペースで活動を行いました。
この勉強会では、5つの分科会に分かれて研究を進めましたが、このテーマをご覧になると、企業がどのようなところに問題意識を持っているのかがよくあらわれているように思います。その5つというのは、年休取得促進、育児や配偶者の転勤のために退職した女性社員の再雇用制度、代替要員の配置、男性の育児休業取得推進、時間外労働の削減といった実務的で、かつ、大変切実な問題でした。
また、次世代育成支援対策推進法の行動計画策定では、ニチレイグループ全体で2年間の行動計画を策定し、届け出を行いました。具体的には目標として4つ掲げていまして、一つは、育児休業を取得しやすく、職場復帰しやすい環境の整備を行うこと。二つ目は、子どもの看護のための休暇の拡充。三つ目は在宅勤務利用の拡充。四つ目は、インターンシップ等の就業体系、受け入れ体制の整備。といったことです。
男性による育児休業取得ですが、残念ながら当社においてはまだ3件です。そのうちの一人、38歳の経理の役職者で奥様は専業主婦でしたが、3カ月の休暇取得後の感想では「今まで家庭での役割を担うことが難しかったので、子どもが生まれたら是非とも育児休業を取ろうと以前から考えていた」ということと「子育てのすばらしさ、大変さを体感できました」とのコメントを残しております。大変優秀な社員でして、この休業取得については全く問題がなく認められておりました。
また、在宅勤務の試みとしては、2003年の暮れには女性社員2名から在宅勤務の要請があり、その人たちと上司1名、IT責任者1名、そして、人事部がプロジェクトチームをつくり、完全在宅勤務のトライアルを実施しました。その後、労働組合の専従4名もプロジェクトに参加し、部分在宅勤務のトライアルを経て、2005年4月には在宅勤務制度の本格的導入を行い、その後7名の第2次トライアルを実施するなど普及に努めております。
次にOG、退職した女性社員の組織化と再雇用の試みについてお話しします。女性の退職者数は1988年から2004年までおよそ1,300名います。平成15年、2003年10月にOG派遣制度の案内と、登録希望アンケートを住所のわかる8年前にさかのぼって738名に送付したところ、92名の登録希望がありました。2004年に制度を発足させ、とりあえず7名の女性が就業し、現在は事務局の設置や担当者を選任し、当社の飲料の名前をとって「アセロラクラブ」というネット上のコミュニティを立ち上げました。現役の女性社員も加入できることとして、情報の発信や求人の拡大を行い、ゆくゆくはマーケティングの手伝いなどにも活用できればと考えている次第です。
また、異業種合同キャリア研修では2003年度4社で、年3回実施したのを皮切りに、2004年度には8社により4回、2005年度には12社により6回実施しています。そして2006年、昨年には総合的にグループ内でのワーク・ライフ・バランスを推進するために「ワーク・ライフ・バランスセンター」を発足させました。事務局はCSRの推進担当部署である経営企画グループに置き、グループの中心となる20社の男女社員と育児休業中の社員を対象に、労働組合とも共同し、推進役を務めることとしました。主な支援内容としては、妊娠、育児、介護についての情報提供と、当事者に対するマンツーマンでのフルサポートをするということです。
このようにワーク・ライフ・バランス推進の仕組みや道具立てについては、ほぼできあがり、実践でその成果を問う段階へと入ってきました。長時間労働の是正や、年休取得促進、代替要員の配置などさらに推進すべき課題が多く残っています。この長時間労働の是正については社内的には経営監査グループが各事業所に行って、超過労働時間の多い事業所については直接的に指導を行うという形にしています。また、年休の取得については昨年の幹部会議から「会長、社長も1週間の休暇を取るから、みんなも取るように」ということで、事業所ごとに事情が違いますが、工夫をして取るようにということでやっています。

 昨年の秋ごろでしたか、NHKの朝6時のニュースで日本のワーク・ライフ・バランスの現状を改めて思い知らされるようなニュースがありました。東京と、北京と、台湾と、ソウルで父親の帰宅時間を調べたところ、北京は夕方6時、台湾は7時、ソウルは8時、東京は11時が一番多かったとのニュースです。会社に行き、早速その資料の出所を調べた結果、ワーク・ライフ・バランス塾の有力メンバーの、ベネッセコーポレーションさんであることがわかり、早速資料を取り寄せてもらった次第です。ご覧の通り、東京の場合、帰宅時間がかなり分散している中で、一番多いのは11時台で、9時、10時、11時、この辺りが多くなっています。特に東京の場合には通勤に時間がかかるということもありましょうし、また会社は早く出ても帰宅するのは遅いという人もかなりいるのではないかと思います。しかし、これを見てもワーク・ライフ・バランスが、ワークとライフ、これがバランスするには、まだまだいろいろなことをやらなければならないというふうに痛感させられた次第です。
このワーク・ライフ・バランスの推進に向けては、行政と、企業と、個人が三位一体となって取り組んでいく必要があります。行政には啓蒙活動とか、あるいは法的整備をお願いいたしたいと思います。企業では、男女の別なく、役割や成果によって処遇するフェアな制度や、ポジティブアクションや、ファミリーフレンドリーな両立支援策、長時間労働の是正など、このようなことを推進し、個人においては能力開発などによるエンプロイアビリティー、雇用される能力の向上や、あるいは自らのキャリア設計の明確化、こういうことを進めていただきたいと思います。
また、私の個人的な見解としては、男性の家事への参画を、子どもさんを含めて増やしていく必要があるのではないかと思っています。私も支社長時代、一年間ほど福岡で単身赴任生活を送り、炊事、洗濯、掃除なども一人で行ってまいりました。まあ、下手でもなれればできるのではないかと、いうのが実感でした。
また、この問題は労使が協力して取り組んでいける問題ではないかと考えています。長時間労働の是正にしても、職場ごとに状況が違いますので、生産性を維持しつつ、あるいはコスト増を最小限にするということで、お互いに知恵を出し合い、実現していくことがワーク・ライフ・バランスを向上させる源泉になると思う次第です。
先ほど、企業にとってイノベーションの推進とワーク・ライフ・バランス達成は深い関係にあるということを申し上げましたが、最近、話を伺ったマーケティングの理論でもその思いを強くしました。少しご紹介したいと思います。
これは、一橋大学の楠木教授の脱コモディティー化、低価格化を防ぐにはどうしたらいいかとのお話の中で、脱コモディティー化のためのイノベーションということでの、マーケティングの基本原則を示された図です。WTP、これはウィリング・トゥ・ペイ(willing to pay)お客様が幾らその商品やサービスに支払いたいと思うかという価格が、このWTPです。Cはコストです。Pはプロフィット、利益です。今までの手法ですと、コストを下げてP、利益を増やすということが大変多く行われてきています。ここに書いてあるように、BPRとか、あるいはサプライチェーンマネジメント、リストラクチャリング、アウトソーシング、そういったコストの削減ということには随分行われてきました。しかし、このお客様が幾ら、商品やサービスに対してお支払いになるかというところの研究が、まだまだではないかと。で、ここのところ、お客様が幾らお払いになるかということは、やはり生活者の視点、消費者の視点というのが大変重要になってくるということです。そうすると、家庭が生活の基軸となっている奥様方の就労が増えるということになり、もっともっと生活者視点からの商品、あるいはサービス、こういったものの開発が進むのではないかということが考えられます。このことが企業にとって大変重要なことであると考えております。
現在、日本はいざなぎ景気超えということで、60カ月、5年に及ぶ景気上昇が続いてきたというふうに言われていますが、あまり実感がありません。日用品を扱っている、私ども食料品もそうですが、そういう企業にとっては実感がないのは、個人消費が伸びないということです。このような個人消費を伸ばしている国としては、例えばイギリス、ここは15年間景気上昇、なだらかで持続的な景気上昇が続いたというふうに言われていまして、今世界でおいしいレストランがあるのはロンドンだと言われていますけれども、そのような、なだらかで持続的な経済成長をやっていくには個人消費を高めていくことが必要です。そのためには、商品やサービスのイノベーション、消費者視点、生活者視点に立ったサービスや商品の開発、このようなことが大変重要であるということから、ワーク・ライフ・バランスとイノベーションの関係というのはやはり不可分な関係にあるのではないかと考えております。


3‐3.中小企業におけるワーク・ライフ・バランスに取り組む意義

 それから最後に、中小企業の会社もお見えになっていると思います。
今、私どもの経験をお話ししましたわけですが、世間的に見れば大企業ということです。私は会社の仕事以外に「社団法人中小企業研究センター」というところの理事を務めております。毎年、ここが優秀な中小企業を何社か表彰しております。1月にその表彰式があって、12社ぐらいが表彰されました。
この研究センターの表彰は40年ぐらい続いているわけですが、40年前の第1回のグランプリ、最も優秀な会社というのは、京セラさんだったそうです。これを見ましても大変伝統のある表彰制度です。そこで今年グランプリを受賞された伊那食品工業さんは「いい会社をつくりましょう。たくましく、そして優しく」ということを社是としているとおっしゃっていました。
また、岐阜県の関ヶ原製作所という会社の社長さんは、一時大変事業が苦しくなって人員整理を行ってきたと、しかしこれは会社経営、社員の方々にも大変大きな心の傷を負わせることになったと。これではいけないということで、社員の参画意識ということを非常に重要視して、研究開発への取組を熱心に進めて現在の会社をつくり上げたということを言っておられました。
また、大阪にある竹内精工という会社では、「想像無限」―想像することは無限であるということを社是としてやってきましたということを言っておられました。
さらに、東海メディカルプロダクツという会社では設立された動機として、社長のお嬢さんが心臓疾患を患っており、そのお嬢さんを助けたいということで、別の会社の経営をしていたその社長さんは、新しく医療機器関係の会社を立てられて、そして現在非常に優秀な成績を収められているというようなことをおっしゃっていました。
このように、中小企業の方々で大変伸びている会社、こういったものを見ますと、やはり従業員の方と一緒になって苦労をし、そして社会に役立っていこうというような理念を持って会社経営をされているというところが非常に多いように思われます。
ワーク・ライフ・バランスを進めることによりまして、個人が充実した生活を送れ、会社も発展するような win-winの関係が生まれますことを切に希望いたしまして、私の話を終わらせていただきたいと思います。
ご静聴ありがとうございました。