パネルディスカッション

パネルディスカッション 15:20 ~ 16:15

テーマ:「子どもと家族を地域で支えるために」

コーディネーター:大日向 雅美
(恵泉女学園大学大学院平和学研究科教授、
NPO法人あい・ぽーとステーション代表理事)

パネリスト:渥美 由喜
(厚生労働省
「政策労働評価に関する有識者会議」委員、
(株)東レ経営研究所研究部長)

パネリスト:岩田 喜美枝
(恵泉女学園大学大学院平和学研究科教授、
NPO法人あい・ぽーとステーション代表理事)

パネリスト:清水 朋宏
(「FQ JAPAN」発行人)

大日向
自己紹介をかねて活動の紹介をお願いいたします。
渥美
6Kライフと自称しています。会社員、共働きの妻と家事、子育てで3K。
次に、介護と看護で4K。3年前から父の介護、昨年から闘病中の次男の看護で5K。最後のKは、子ども会活動。20代半ばの独身時代から、週末に近所の公園で子どもたちを集めて、紙芝居を見せたり、鬼ごっこをして遊ぶ子ども会をやってきました。19年で、おおよそ1900人の子どもたちと出会いました。人口減少社会のキーワードは、一人三役であり、私の『座右の銘』は、「市民の三面性=職業人、家庭人、地域人」。多面性をもつことで、今後、日本は人口が減少していったとしても社会活力は維持するという戦略が大切だと考えています。
岩田
現在の厚生労働省、旧労働省で長く労働行政に携わってきました。労働省に勤務している時に、結婚し、2人の子どもを授かりましたが、役所は長時間労働で、仕事と子育てとの両立が大変でした。自分の給料を全部使い、お手伝いさんを雇ったり、ベビーシッターをお願いしたりして両立をはかっていましたので、生活はぎりぎりでした。それでも、仕事は「辞めない」という気持ちでとにかくやってきました。そうして、雇用均等・児童家庭局長を最後に退官し、民間の(株)資生堂に入りました。女子社員が8割という会社です。女性社員がしっかり活躍できるよう、行政経験や個人としての経験を活かして、仕事と子育ての両立支援策や全社員の働き方の見直し(ワーク・ライフ・バランス)に取り組みました。
また、私が現在会長をしている21世紀職業財団では、子育てとの両立支援、ワーク・ライフ・バランスを含め、企業がダイバーシティマネジメントを推進することを支援する活動をしています。
清水
FQとは英国の男性向け子育て情報誌で、もともとはその日本版として2006年にスタートしました。
当時はまだ男性が子育てするということに半信半疑ではありましたが、イクメン人口は確実に増え始めていました。ただ、我々の父親世代は育児に関わってこなかったため、父親業のロールモデルが少なく、どこかぎこちない感がまだありました。さらに、母親と比べると圧倒的に情報量が少ないと感じました。そこで、欧米の父親スタイルをモデルにした、育児専門誌があってもいいかなと思いました。実際、子育ては経験してみると、とても面白くやりがいや達成感などもあり、何より自分自身が成長できました。しかも、子どもとの生活を通じて競争社会から協調社会への思考の変化を経験することもでき、日本もイクメンが増えると、子育てフレンドリーな人に優しい社会へと変わるかもしれないと思いました。
大日向
「家族の多様化」が進んでいます。それに伴い「男女の役割に変化」が見られます。「ワーク・ライフ・バランス」「女性の活躍」「企業の役割」などの実態や改善点など、ご意見をお聞かせください。では、清水さんからお願いします。
清水
父親が育児や家事に積極的になると、母親の第2子を産むモチベーションが高くなるという調査結果があります。また、母親が仕事に復帰しやすくなるため、キャリア志向の女性も結婚や出産に積極的になれるという、2つの理由で少子化の抑制効果を期待できます。つまり短期的にみても、女性の活躍で労働力を確保でき、長期的にも少子化を抑制でき将来の労働人口を増やして高齢化に対応できます。すでに欧米では男性のイクメン化はスタンダードなライフスタイルとして定着しています。
例えば、スウェーデンでも30年ほど前に少子化の問題を抱えたとき、国は育休手当てを拡充しました。そして同時に男性も2ヶ月以上取らないと、手当てが少なくなるようにして、男性の育休取得を奨励しました。おかげで、今では出生率も元に戻り、ほとんどの父親が母親と半々で1年くらい育休を取り、子育てライフを楽しんでいます。その際、母親は父親と入れ替わりで元の職場に復帰します。ちなみに企業側は、育休前のポストを確保しておく義務があります。社会全体がこんな感じなので、だれも出産や育児によるキャリアダウンの心配をしません。男性も長期の育休で子育てしながらスローライフを味わうきっかけとして楽しみにしているようです。またレベルの高い安心できる保育施設がニーズに合わせて多様化しているので、女性が働き続けることも難しくありません。子どもが幼少期から保育施設に通うことは、母親のメンタル的にも、子どものコミュニケーション力にも良い影響があると考えているようです。
今や欧米の先進国では男女のキャリアは平等で、子育て期間中も稼ぎの多い方が積極的に働くため、男性が専業主夫化するパターンもよくあります。日本でも女性のキャリアはこれからの時代の財産であり、これを上手く運用するには男性のイクメン化と、いつでも安心して預けられる保育施設の充実がポイントなのではないでしょうか。
渥美
最初に勤めたシンクタンクは長時間労働の職場でした。入社したての頃、朝、部の掲示板に『部内会議は午前2時スタート』。そういう職場風土に嫌気がさして、最初の職場を辞めました。次の勤務先が決まるまでの失業中は、共働きの妻に養ってもらい、今でも感謝しています。
二つ目の勤務先で最初の子どもを授かり、1回目の育児休業を4ケ月取得。以前、私は内閣府から委託を受けて、スウェーデン企業500社、社員1000人のアンケート調査をしました。驚いたのは、スウェーデン企業では、育休を取得した人の割合は、平社員は7割、役員で9割。つまり、育休取得した社員の方が出世しているという事実に興味をもって、20社にヒアリングをしました。
「乳幼児期の手がかかる時期を夫婦で手を携えて乗りこえるほうが夫婦の絆が強まり、安定した家庭基盤があるから仕事に打ち込める。」
「何事にもチャレンジする姿勢がある人のほうがビジネスでも成功する。」
といった話を聞いて、「なるほど」と思い、私も張り切って育休を取りました。子ども会をずっとやってきたぐらいなので、家事をほとんどしておらず、とても苦労しましたが、家事・育児を同時並行でこなすことでタイムマネジメント力が向上するんだと思いました。
また、育休中に赤ん坊と一緒に散歩をしようと思って、公園にいけば、それまで和気藹々とおしゃべりをしていたお母さんたちの話がピタッととまる。仕方がないので、3日間、砂場の隅っこで息子と二人で淋しく砂遊びをしていたら、4日目に親切な女性が私の背中から声をかけてくださった。ようやく公園デビューできました。そんな中で、もまれてコミュニケーション力は高まったと思います。
男性も育児・家事に取り組むことで、ビジネスパーソンとしてのスキルが向上するというのは「まったくそのとおりだ」と実感しました。
一方で、妻にとっては私が人並みに家事・育児できるようになったことで、長期間、海外出張することができます。共働きしているから失業リスクを乗りこえられたし、夫婦それぞれが家事・育児できるから、お互いに頑張って働くときは働ける。お互いにとっての『保険』だと思います。
東日本大震災後、企業のワーク・ライフ・バランスの取り組みは二極化していると感じます。夏冬の節電など、エネルギー制約がある中で、メリハリのある働き方を推進している企業も少なくない一方で、不景気なんだから、ワーク・ライフ・バランスなんて言ってる場合じゃないだろう、と過重労働に拍車がかかっている企業もあります。
しかし、後者の企業に未来はありません。今後、人口減少社会で労働者が減っていく中で、働き手が職場を選ぶようになっていきます。働き甲斐のある職場を作らなければ、優秀な人材は確保できません。また、いま子育てさえできない職場では、介護ラッシュにはまったく太刀打ちできません。だから、先が見えている企業はワーク・ライフ・バランスに取り組むようになってきているし、そういう企業では社員の就労意欲が向上し、さらに生産性の高い働き方が実現できるという正の連鎖が起きています。すべての企業は、そういう風にならないと生き残れないはずです。
岩田
グローバル経済化や人口減少が進む日本経済が活性化し成長するためには女性の活躍は欠かせません。M字型カーブをなくすことにより労働力人口の減少を補うという量的な側面だけではなく、女性の活躍によって消費者のニーズを新しい商品開発に結び付けるなど、価値創造につながるという質的な側面でも重要です。
翻って、私自身の体験からいうと、仕事を続けるうえで一番障害になったのは、やっぱり長時間労働でした。子育て期の自分は30代でしたので、男性の働き方に自分を合わせるしかなかったのです。従来型の働き方というのは、配偶者にサポートしてもらっていくらでも働けるという男性型のモデルです。そのなかで子育てしながら頑張ろうという女性がいても、時間制約があり男性型モデルでは働けません。
そうすると、2流社員、2軍社員とみなされてしまうのです。やはり、従来型の男性型の働き方のスタンダードを、共働きを前提としたスタンダードに変える、といった見直しがなければ女性の活躍というのは、大変難しいと思います。
大日向
子どもがすこやかに育つために、親が子育てをしやすくなるために、社会制度や環境、意識をどう変えていったらいいでしょうか。それぞれのお立場からのお考えやご存知の事例をご紹介ください。国際比較調査などを実施されている、渥美さんからお願いします。
渥美
これまで私は、欧米諸国や韓国など、海外120社を訪問ヒアリングしてきました。また、実際の家庭生活がどのようなタイムスケジュールで営まれているのか、夫婦それぞれの時間の使い方を調査したこともあります。その上で、2つのことを述べます。
まず、『子育て期間』と『子どもへの愛情の注ぎ方』。スウェーデンで子どもに支給される児童手当は16歳未満の子どもを持つすべての親に支給されます。ただし、16歳以降も学業を続ける場合は、20歳になるまで支給が延長され、子ども本人が受け取ります。
子どもたちは18歳で親元を出て一人暮らしをするように準備するために、児童手当を蓄えるケースが大半です。
欧米の子育ては、16歳あるいは18歳で自立する子どもの自立を目標に、子どもが幼少の頃から、両親ともに子育てにエネルギーを注ぎ込みます。そして、子どもの加齢につれて、徐々にフェイドアウトしていく。いずれ子どもが親の庇護から自立できるように、子どもに生活力や知恵をつけさせる。
私は子どもが小さい時に、思いっきり愛情を注いで、子どもが一定年齢に達したら、自立するように促すというほうが健全だと思います。
もう一つは、父親の地域における子育てへの貢献。フランスの小学校をいくつか視察した際に、平日の課外授業を指導しているのは保護者を含む市民たちでした。特に、児童のお父さんたちが活躍しており、自分の子どもだけをかわいがるイクメンではなく、自分の子育てをきっかけに地域とつながり、地域活動をする「イキメン」が増えることが日本でも大切だと思いました
清水
柔軟な考え方や意識の持ち方も、多様化していくこれからの社会では大事なことだと思います。同じ環境でも、それを不幸と感じる人もいれば、幸福と感じる人もいるように、もっと何でもありと考えると、どんどん楽になっていくと思います。例えばカナダという国は、とてもリベラルで、子育てに関しても決まった型も無く、日本みたいにお手本があって、そこから外れるとダメ的な減点方式ではなく、こんなことも出来たね、あんなことも出来るようになったねというような加点方式で評価しているので、自然と叱るより褒める機会の方が多くなりますよね。
私の場合も元妻がカナダ人だったせいか、家族の形にもリベラルで、彼女が仕事の関係で地元に帰ることになったときも、彼女と私のキャリアを考え、しばらくは私が逆単身赴任で日本とカナダを行き来していました。ちなみに、その頃の私のワーク・ライフ・バランスは日本では24時間働き、カナダでは専業主夫ライフを楽しむというスタイルでした。
結果的に、彼女とは離婚しましたが、今でも子育て友達として良好な関係を保っています。彼女の両親とはもちろんのこと、彼女の今のパートナーとも友達です。さすがに、最初はチョット違和感もありましたが、我が子の立場を考えると彼とも仲良くなることができて良かったと思います。息子も日本にいるときは、私のパートナーのことも母親のように慕っているので、彼にとっては家族が2つに増えて大きくなったと感じてくれていれば、こんな家族もありだと思います。リベラルに考えた結果として、お互いのキャリアを続けながら、子どもとの絆もしっかりと保つための最善の家族の形だったと思います。
また、私の仕事のスタイルはワークライフミックスなため、息子も小さい時から会社に出入りしていて、うちのスタッフからも可愛がられ、将来的にはお父さんの会社で働きたいなどといってくれたときには、とてもうれしかったですね。今やみんなが幸せであれば、家族の形はいろいろあってよいと思います。
岩田
企業経営の場から、企業が何をすべきかについて、話させていただきます。
1つは非正規雇用についてです。育児のために退職した女性は育児が一段落すれば再就職するのですが、その場合はパートなど非正規雇用になるケースがほとんどです。非正規社員は正社員と比較して処遇に大きな差があること、またキャリアの天井が低く、いくら頑張っても長く働いてもキャリアアップしない、したがって処遇が上がらない、という問題があります。正社員と非正規社員の間の均等待遇は企業から見ると大変難しいテーマです。なぜならば、非正規社員は仕事に値段がついているんですが、正社員は人に値段がついています。処遇の基準が違うために均等処遇の実現は難しいのです。企業がやれることとしては、非正規社員の中でも処遇のランクを設け、非正規社員のままで処遇が上がっていく仕組みを作ること、非正規の最高ランクが正社員と連続し、希望すれば正社員に転換できる、このような仕組みを作ること、これは企業が努力すればできることです。
2つ目は両立支援策の質の転換が求められています。資生堂でも他社に先駆けて、思いつく限りの両立支援策を実施しています。が、充実すればするほど、また、制度を利用するのはほとんどが女性であるという現状が変わらなければ、男女間に仕事体験の差が生まれ、これが能力差、キャリア差になるリスクに気づきました。これからは、育児中も仕事を普通にすることを応援する支援策にシフトしていくことが必要だと思います。具体的には、フレックスタイム、在宅勤務、事業所内託児所の設置、ベビーシッター費用助成などです。
3つ目は働き方のスタンダードを変えるためのワーク・ライフ・バランスの実現です。長時間労働の是正は人手を増やせば解決できますが、人件費増で競争力を削ぐことになるためにそのようなことができる企業はまずありません。そこで企業がやるべきことは1時間当たりの生産性を高めることによって労働時間を短縮することです。そのためには、業務の棚卸をして優先順位が低い仕事はやめてしまうこと(業務の削減)や、同じ成果をより少ない労働投入量で出すために仕事のやり方を変えること(業務プロセスの簡素化)が不可欠です。考えてみれば、「業務削減」や「業務プロセスの簡素化」は業務改革に他なりません。業務改革が成功しなければワーク・ライフ・バランスは実現しないのです。
大日向
それでは最後に、先ほど、内閣府の伊奈川審議官からご説明がありましたが、日本も新しい子ども・子育て支援制度が動き始めることから、期待を込めて一言メッセージをお願いします。
清水
まずは、いつでも誰でも安心して、子どもを預けられる社会にすることで、女性が活躍できる国にしてほしい。そのためには使いやすい制度と、それを使わせる環境と、使おうという意志が大事だと思います。
岩田
女性が頑張れるかどうかは、子育てと仕事の両立支援やワーク・ライフ・バランス対策など、企業の努力だけでは不十分だと思います。行政においては、新しい子ども・子育て支援システムにより、保育所の待機児童が一日も早く解消されることを期待します。
女性の皆さん、どうか、仕事を続けることを「あきらめないで!」。時代は女性の力を必要としています。これからは、今までは考えられなかったようなチャンスが皆さんに回ってきます。
渥美
子ども子育て新制度は、半世紀ぶりの大改革であり、とても画期的なことです。
新制度では、市区町村の果たす役割が重要になります。国レベルでも『子ども・子育て会議』が作られますが、自治体でも、できるだけ『子ども・子育て会議』を作るようにという方向で進んでいくと考えられます。
子育てしている一人ひとりが、居住している自治体に当事者の声を伝えながら、行政と一緒になって新制度を育てていく姿勢がとても大切だと思います。
私もささやかながら、地元の公園で子ども会を実施してきました。本日お集まりの方々はすでに子育て支援の活動をなさっていたり、志の高い方々だと思います。
ぜひ、行政と一緒になって、新制度がうまくいくようにみんなで支えていきましょう。
最後に、家族がいるからこそ、仕事に打ち込めたり、多少仕事がうまくいかなかったとしても、家族と過ごす時間で笑顔になって、仕事でも踏ん張ることができると思います。家族と過ごす時間を大切にして、ハッピーな人生を送りましょう。