資料2[2] ワーク・ライフ・バランスの実現に向けて2

3.ワーク・ライフ・バランスの推進は総合的な視点で―国全体の取組で

個々の政策論議ではなく総合的政策の検討を

ワーク・ライフ・バランスの推進は、政府においても、ようやく政策課題として前面に出てきたといえる。次世代育成支援対策推進法によって、関係省庁の施策が取りまとめられ、総合的なパッケージとして占めされるようになってきたことはその表われであろう。また、男女共同参画社会の実現など各省庁の施策を総合的な観点から論議し、主務大臣を置くことによって政府部内の総合的調整に取り組む例も見られる。

しかし、ワーク・ライフ・バランスに関するこれまでの施策の多くは、各省庁の枠内にとどまっており、今後の社会における基本的な「労働」や「国民生活」の全体像とその方向性をしっかりと見据えて、それを軸にした政策体系の整理を行っているとはいい難い。いま求められるのは、全体としての政策の整合性を考え、統一した視点からの位置付けや必要性をもって政策の立案を行うことであるが、そうした説明が不足していることや政策間の矛盾がみられることも少なくない。

産業・企業、個人、社会的基盤などのそれぞれの視点に立った取組が不可欠

例えば、育児休業の取得という政策は、生活のニーズに即しているが、一方で仕事の円滑な遂行には制約要因となりがちである。育児休業取得の促進を図ると同時に、その弊害を除去していく視点からの施策の充実が不可欠である。それは、経営全体の見直しにもつながる対応を必要としよう。就業形態の多様化が進む中で、保育政策の前提とする「働き方」のモデルが依然として男性正社員の世帯主中心の考え方から脱皮していなければ、様々な保育ニーズへの弾力的な対応はできないこともある。また、「保育に欠ける者」(注(3))が優先されるという考え方がある限り、在宅ワーカーの利用できる機会が低くなることがあるなど問題を抱えている。

このように、個々の政策が寄せ集められているような現状では、こうした論理は見えにくい。しかも、企業だけの努力には限界があり、育児環境の整備についての社会的な取組がなければ問題は解決しないという声も強い。産業・企業、個人、社会的基盤のそれぞれの観点からの取組は、いずれも欠けてはならないのである。

「仕事」と「暮らし」の両面が充実する総合的施策の推進を

仕事と仕事以外の生活を「ウイン・ウイン」の関係に立つような解決を導くことが重要である。その場合、お互いに悪影響を与えあわないようにするという消極的な対応にとどまらず、「仕事」も「仕事以外の生活」もそれぞれの「価値」を高めていく姿勢が求められる。しかも、ワーク・ライフ・バランスの実現が企業業績の向上と強い関係を持っているという研究成果も現れているように、「仕事以外の生活」が充実することは、「仕事」の質を高めることにもつながる。生涯学習の機会を整備してリカレントも可能な仕組みを考えることや、ボランティアなどの社会活動に参加するための基盤整備なども重要な施策である。

いずれにせよ、各省庁の政策がばらばらにならないようにするとともに、産業・企業、個人、社会が一つとなって、「仕事」を充実される施策と「仕事以外の生活」を充実される施策とを総合的に推進していく仕組みを考えるべきである(図表‐6 参照)。

4.「ワーク・ライフ・バランス推進基本法」の制定を

国民生活の観点からワーク・ライフ・バランスの推進を

ワーク・ライフ・バランスの推進対策は、労働政策に限るものではない。労働時間対策をはじめとして、仕事と生活との柔軟な関係をつくることは基本となるが、それを可能にするための関係施策は、各省庁の領域にまたがる。また、会社に雇用される多くの勤労者にとって、それぞれの「暮らし方」の充実をさせるための施策というのも不可欠であろう。ワーク・ライフ・バランスの推進のためは、勤労者とその家族の新しい姿を踏まえて、国民生活に関わるすべての政策を点検していくことを必要とする。

総合的な政策として「ワーク・ライフ・バランス推進基本法」の制定を

そこで、以上のような状況を踏まえ、「ワーク・ライフ・バランス推進基本法」を制定することを提案したい(別紙参照)。すなわち、男女共同参画政策のように、関係省庁の枠を超えて総合的に政策を遂行していくとともに、民間の取組を支援するなど、国全体が統一的な視点からワーク・ライフ・バランスを推進できる体制を整えることである。具体的には、ワーク・ライフ・バランスを基本的な理念として実現していくことを考え、すべての行政領域において見直しを進めていくことが考えられる。したがって、検討すべきテーマは、労働政策はもちろん、産業政策、文教政策、社会基盤整備、税制・財政および社会保障制度のあり方など広範な領域にわたることとなる。

具体的には、ワーク・ライフ・バランスを推進する観点に立って、例えば次のような政策の広がりを持って、これらを総合的に検討することが考えられる。

  1. 労働環境の整備を図る施策(労働時間の短縮と弾力化、在宅勤務・住宅就業の環境整備、仕事と家庭の両立の推進、女性のポジティブアクション、正社員と非正社員の均衡処遇など)。
  2. 税制・社会保障制度に関する施策(ワーク・ライフ・バランスを誘導するための企業税制の優遇措置、育児保険制度構想、仕事の期間の中断が不利にならないような年金制度設計、多様な働き方に対する社会保険制度の適用拡大)。
  3. 保育施設・サービスの充実など子育て支援環境の整備を図る施策。
  4. 自宅を勤務場所とする事業者や就労者に対する施策(SOHO事業者に対する支援政策の樹立など)。
  5. ワーク・ライフ・バランスの支援サービスを行う産業の振興に関する施策。
  6. 職業と生活両面のキャリア設計への支援と生涯学習の環境整備を図る施策。
  7. 生涯における様々なリスクに備える財産づくり支援と老後生活準備に関する施策。
  8. 国及び自治体の行政サービスに関する施策(夜間・休日のサービス提供体制、諸制度の利用条件、手続きなど)
  9. ボランティアなど社会活動への参加環境の整備を図る施策。
  10. 家庭・地域・職域それぞれにおける健康づくり支援に関する施策。

別紙

「ワーク・ライフ・バランス推進基本法案」の考え方

1 趣旨

社会経済情勢の変化に対応した豊かに活力ある社会が実現できるよう、勤労者が職業生活と家庭生活その他と調和した生活状況(ワーク・ライフ・バランス)形成の推進を図るため、政策の基本方向を定めるとともに、その総合的かつ計画的な推進をはかる。

2 ワーク・ライフ・バランス推進の基本理念

ワーク・ライフ・バランス形成の推進について、次のような基本理念を規定し、国、地方公共団体、国民がそれぞれの責務等を果たしていく。

  1. 社会における制度又は慣行についての改善
  2. 国等の政策・方針の立案及び決定にあたってのワーク・ライフ・バランス形成推進への配慮
  3. 企業等民間におけるワーク・ライフ・バランスの形成推進を図るための支援・誘導
  4. ワーク・ライフ・バランス形成の推進に資する労働環境の整備
  5. ワーク・ライフ・バランス形成の推進に資する生活環境の整備

3 ワーク・ライフ・バランス推進基本計画

  • 国、地方公共団体は、ワーク・ライフ・バランス形成の総合的かつ計画的な推進を図るため、実施する関係施策の実施方針を盛り込んだ「ワーク・ライフ・バランス形成推進基本計画」(中長期)および「ワーク・ライフ・バランス形成推進方針」(各年)を策定する。

4 推進する基本的な施策

  • ワーク・ライフ・バランス形成を推進する観点に立って、労働、税制・社会保障制度、保育・育児、SOHO支援、産業振興、キャリア形成支援、生涯学習、財産形成、生活設計支援、国及び地方公共団体の行政サービス、社会活動への参加、健康づくり支援などに関する施策の基本的方向を盛り込む。
  • 産業、企業ごとにワーク・ライフ・バランス形成を推進するための行動計画の策定を求め、国及び地方公共団体は、これらの計画の実行にあたって必要な助言指導及び援助を行う。

5 推進体制の整備

  • ワーク・ライフ・バランス形成の推進を総合的に行うため、基本計画及び推進方針の決定と関係施策の調整等を行うため、内閣府にワーク・ライフ・バランス形成推進会議を置く。
  • 会議においては、ワーク・ライフ・バランス形成の推進に関する調査審議のほか、関係施策の実施状況の監視を行うとともに、これら施策の及ぼす影響の調査と行う。

6 その他ワーク・ライフ・バランスの推進に関する基本的施策

  • 基本計画および方針に沿った国及び地方公共団体の施策を実施状況を把握するとともに、産業、企業の推進状況の調査を行い、これらを年次報告として取りまとめて公表する。
  • その他ワーク・ライフ・バランス形成の推進に関する基本的な施策として、国民の理解を深めるため普及・広報等の実施、調査研究の実施、地方公共団体及び民間の団体・企業等に対する支援措置の実施などを行う。

注釈

【注(1)】「短時間正社員」とは

フルタイム正社員より一週間の所定労働時間が短い正社員をいい、フルタイム正社員が短時間・短日勤務を一定期間行う場合や、正社員の所定労働時間を恒常的に短くする場合がある。フルタイム正社員より所定労働時間が短いことから、労働者が育児・介護、自己啓発などの必要性に応じて、正社員のまま仕事を継続する、または正社員として雇用機会を得ることが可能となる。

[厚生労働省「多様就業型ワークシェアリング短時間正社員制度導入マニュアル」(2006年3月)より]

【注(2)】「キャリア・コンサルティング」とは

労働者が、その適正や職務経験などに応じて自らの職業生活設計を行い、これに即して職業選択や職業訓練の受講等の職業能力開発等を効果的に行うことができるよう、労働者の希望に応じて実施される相談のことをいう。

[厚生労働省「キャリア・コンサルティング研究会報告」(2002年4月)より]

【注(3)】「保育に欠ける者」とは

児童の保護者のいずれもが、以下のいずれかの項目に該当することにより、児童の保育ができないと認められる場合にあって、かつ、同居親族その他の者が当該児童を保育することができないと認められた者のことをいう。

  • 昼間労働することを常態としていること
  • 妊娠中であるかまたは出産後間がないこと
  • 疾病にかかり、もしくは負傷しまたは精神もしくは身体に障害を有していること
  • 同居の親族を常時介護していること
  • 震災、風水害、火災その他の災害の復旧に当たっていること
  • 前号各号に類する常態にあること

[「児童福祉法施行令 第二十七条」参照]


参考1

ワーク・ライフ・バランス研究会 委員名簿

委員長 樋口 美雄 慶應義塾大学商学部教授
委員 奥田 香子 京都府立大学福祉社会学部助教授
高橋 徳行 武蔵大学経済学部教授
早見 均 慶應義塾大学商学部教授
廣石 忠司 専修大学経営学部教授
二神 枝保 横浜国立大学経営学部助教授
松原 光代 学習院大学経済学科後期博士課程
社会経済生産性本部社会労働部主任研究員(非常勤)
八代 充史 慶應義塾大学商学部教授
脇坂 明 学習院大学経済学部教授
和田 肇 名古屋大学法学部教授
北浦 正行 社会経済生産性本部社会労働部長

管理番号:労 18-N31-D001

※本名簿の取扱いについて

  1. 本名簿の個人情報の第三者への開示、提供をお控え頂きますよう、ご協力をお願いいたします。
  2. 本名簿の個人情報に関わるお問合せは、社会労働部(TEL:03-3409-1122)または総務部個人情報保護担当窓口(TEL:03-3409-1112)までお願いいたします。
  3. 当本部は、個人情報保護方針(参照:当本部ホームページhttp://www.jpc-sed.or.jp/)に基づき、個人情報の安全な管理と保護の徹底に努めています。
  4. 本案内記載事項の無断転載をお断りします。

参考2

【図表‐1】

男性長時間(60時間以上)雇用者比率(非農林業)企業規模別推移

資料出所:
総務省「労働力調査」

【図表‐2】

週当たり労働時間別雇用者比率(非農林業)男女計

 1-34時間1-14時間15-29時間30-34時間35時間以上35-42時間43-48時間49-59時間60時間以上
1980年 10.0 1.4 8.6 89.6 18.5 35.0 22.0 14.1
1985年 11.7 1.7 10.0 88.0 18.9 31.1 21.6 16.3
1990年 16.3 2.4 13.9 83.3 22.7 26.2 20.1 14.3
1995年 17.4 2.9 8.6 5.9 82.5 30.9 24.4 16.4 10.8
2000年 20.0 3.6 10.5 6.0 79.8 30.9 20.8 16.1 12.0
2001年 22.9 3.8 11.4 7.7 76.9 30.5 19.8 15.0 11.6
2002年 23.2 4.2 11.7 7.2 76.5 30.7 17.9 15.8 12.1
2003年 24.1 4.3 12.2 7.7 75.6 30.1 17.3 16.0 12.2
2004年 23.6 4.2 12.1 7.2 76.2 30.3 17.4 16.3 12.2
2005年 24.0 4.4 12.1 7.4 75.8 30.4 17.6 16.1 11.7
資料出所:
総務省「労働力調査」

【図表‐3】企画業務型裁量労働制の導入効果や影響

企画業務型裁量労働制の導入効果・影響(1)
「生産性や働き方、働く者の意識」


「生産性や働き方、働く者の意識」CSVファイル(CSV形式:1KB)ファイルを別ウィンドウで開きます

備考:
「企画業務型裁量労働制が導入されている事業所の制度適応者の部下にいるライン管理職」を対象に「裁量労働制の導入が、職場にどのような効果や影響を及ぼしているか」という問いに対する有効回答。(1)~(8)の各項目のスコアは選択肢ごとの加重平均したもの。選択肢は4択で「当てはまる」=4、「どちらかといえば当てはまる」=3、「どちらかといえば当てはまらない」=2、「当てはまらない」=1として算出、中間値は2.5。
また、制度の運用状況に関する別の設問をもとに、運用がうまくいっているグループ「A群」、運用がうまくいっていないグループ「B群」に分けて分析。
資料出所:
社会経済生産性本部「企画業務型裁量労働制に関するアンケート調査結果概要」(2006年2月)