イギリスの「ワーク・ライフ・バランス」運動について

資料3

1.「仕事と生活の調和キャンペーン」の開始

○イギリスのブレア政権は、「仕事と生活の調和」(ワーク・ライフ・バランス)を進めることにより、企業にとっては競争力を高め、業績向上につながる、労働者にとっては生活の質の向上につながるという認識の下に、2000年3月から「仕事と生活の調和キャンペーン」を開始。
○その背景には、以下のような状況がある。
(1)多様な就業形態の進展
・90年代中頃から長期に景気が拡大して労働需要が逼迫したことにより、企業側において労働者の確保・定着を目的に柔軟な就業形態を導入
・共働きや一人親世帯の増加により、労働者側において多様な就業形態に対するニーズの高まり
・消費者ニーズの変化による土・日曜日営業や24時間営業に対応する柔軟な就業形態の広がり
(2)企業経営者において、多様な就業形態の提供など「仕事と生活の調和策」は、労使関係、従業員の労働意欲、従業員の定着などに良い影響をもたらすとみていること
(3)仕事と生活の調和は、1人親の就業が可能になるなど「福祉から就業へ」というブレア政権の基本方針に一致すること
(表1)英国でみられる柔軟な就業形態の例
 就業形態名称内容
時短型 労働時間の短縮化 パートタイム 週30時間未満の労働
学期期間労働 子供の学期中のみ労働する就業形態
期間限定時短制度 一定期間のみ労働時間を短縮して、その後通常の労働時間に回復していく就業形態
ジョブシェア フルタイム労働を複数人で分けて労働時間を分割する就業形態
裁量型 勤務時間の柔軟化 フレックスタイム 週あたりの総労働時間は定められているが、始業時間と終業時間を雇用者が自由に設定できる就業形態
集中労働日制 週あたりの総労働時間を減少させずに1日あたりの労働時間を増加させて出勤日数を減らす就業形態
年間労働時間契約制 年間の総労働時間を予め使用者と契約して、雇用者は好きな時間に仕事ができる就業形態
勤務地の柔軟化 在宅勤務 雇用者が労働時間の全部または一部を自宅で行う就業形態

(注)「時短型」「裁量型」は、藤森克彦氏(みずほ情報総研主席研究員)による分類。
(資料)NatCen, The Second Work-Life Balance Study: Result from the Employer Survey - Main Report, DTI Employment Relations Research Series No.22,2003. pp.14-15 をもとにみずほ情報総研作成。

2.「仕事と生活の調和キャンペーン」の内容

(1)チャレンジ基金(The Challenge Fund)プログラム
・2000年から3年間、仕事と生活の調和策の導入を検討する企業に対して、1年間の無料コンサルティングを提供。
・無料コンサルティングを希望する事業主は、申請書を貿易産業省に提出して審査を受ける。貿易産業省では、業績を向上させようとしている業務領域やプロジェクトの体制、測定可能な効果の量などの選定基準から、支援対象企業を決定。
・コンサルティング機関は、政府が25のコンサルティング機関を指定し、その中から選定。
・3年間で1,150万ポンド(約22.5億円)の公的資金が投入され、448企業が支援を受け、120万人の従業員が影響を受けた。
(2)先進事例紹介
・チャレンジ基金プログラムを活用した企業から情報収集を行い、企業業績にも良い影響を与える形で仕事と生活の調和策を導入した具体的な事例や成功要因の情報提供を行うことにより、他企業の自主的な取組を促進。

3.仕事と生活の調和を下支えするための条件整備


・仕事と生活の調和を下支えするために、法改正などの条件整備も行われた。具体的には、(1)新たな労働規制の制定、(2)出産・育児休暇等の法改正、(3)子どものいる世帯への経済的支援の引上げ、(4)保育所整備など、総合的な対策が導入された。(表2参照)

4.仕事と生活の調和策と出生率との関係

・仕事と生活の調和策は、出生率の向上を直接の目的としているものではないが、近年のイギリスの合計特殊出生率の水準(1.7程度)をみると、働きやすい環境の整備が結果として出生率の向上に寄与しているのではないかとみられる。
(注) 以上の記述は、藤森克彦氏(みずほ情報総研主席研究員)の論文や「平成17年版 少子化社会白書」に基づき整理したもの。
(表2)ブレア政権で導入された仕事と生活の調和に関連する施策
 施策名内容
労働規制 労働時間規制(1998年) ・週48時間労働規制等。
・ただし例外規定
パートタイム労働規制(2000年) ・パートタイムは比較可能なフルタイム労働者よりも不利な扱いを受けない(「時間比例」という観点から均衡処遇)
 →時間あたり賃金、企業年金、有給休暇、育児休暇と手当、昇進・リストラの選抜基準など
柔軟な働き方への申請権(2002年雇用法) ・6歳以下の子供か、あるいは18歳以下の障害者をもつ親は、柔軟な雇用形態で働くことを申請する権利をもつ
・ただし、事業主が申請拒否できる理由を広範に容認
 (例)追加的な費用負担が必要になること、顧客対応能力への悪影響、既存の従業員間で調整ができないこと、業績への悪影響など
出生・育児に伴う休暇 出産休暇手当の引き上げ(2002年雇用法) ・出産を理由に就労継続できない女性に対して、事業主は「法定出産給付」を支給する。法定出産給付は、2003年4月から週75ポンドから同100ポンドに引き上げられた。
追加的出産休暇(無給)(2002年雇用法) ・26週間の「有給出産休暇」に加えて、「無給出産休暇」を26週間とする。これにより、母親の法定出産休暇は最長1年間となる。
父親休暇の創設(2002年雇用法) ・2003年4月より、子供誕生にあたり、父親にも2週間の「法定父親休暇」を定め、法定出産給付と同額の給与が支払われる。ただし父親が同休暇を取得できるのは、子供の誕生から8週間以内に限る。
男女を対象にした育児休暇の創設(1999年雇用法) ・1年以上勤続する男女労働者は、子供が5歳になるまでに合計で13週間の育児休暇(無給)を取得できる。
・障害児をもつ親の場合、子供が18歳になるまでに18週間(無給)取得できる。
経済的支援 「児童給付」の引き上げ ・16歳未満の子供のいる全ての家族を対象。所得制限はない。
 <2005年度の支給額>
 第一子:週17.00ポンド(約3,300円程度)、
第二子以降:一人当たり週11.40ポンド(約2,200円程度)。
「児童税控除」の新設 ・2003年4月より「児童税控除」を設定。
・16歳未満の子供がいる世帯が対象。所得制限あり。
「チャイルド・トラスト・ファンド(CTF)」の導入(2005年) ・子どもの経済的自立を支援するために、2002年9月以降に生まれた全ての子供を対象に、子ども名義の口座に250ポンド(低所得世帯の子供は500ポンド)が支給。家族が運用。
・利子等の非課税枠あり。子どもは18歳になれば引き出し可。
保育所整備 ・2005年度までに保育予算を15億ポンドまで増加させる。
・2004年4月までにイングランドで160万人分の保育所を創出。
・4歳以下の児童を抱える低所得家庭を援助するための「シュア・スタート」プログラムの実施。

(資料)HM Treasury & DTI, Balancing work and family life, Jan.2003,HM Treasury, Budget 2003, March 2003. などを参考に藤森克彦氏作成が作成したものを、一部内閣府が修正。