働き方の見直しに関する政策提言

少子化社会対策推進会議
専門委員会提出資料

2006年4月11日


富士通総研主任研究員

渥美由喜

本稿の構成

I 企業の両立支援策

 (1)両立先進企業の特徴

 (2)両立支援策の分類

II 両立支援策が企業業績に与える影響

 (1)両立支援策の効果

 (2)両立支援策と業績の定性分析

 (3)両立支援策と業績の定量分析

 (4)分析のまとめ

III 両立支援策の推進に向けて

 (1)企業の課題

 (2)国の施策の課題

 (3)今後の対応策


I. 企業の両立支援策

(1)両立先進企業の特徴

・両立支援策を導入した経緯は何か?

<1>かつて業績が極度に悪化した際に、危機感から、社内の評価体系を抜本的に見直し、女性の有効活用に注目
<2>グローバル産業であり、経営トップが海外企業の女性活用事例に精通
<3>購買決定権が女性である産業や子ども関連産業であり、女性や子どもに優しいイメージを重視
<4>公的色彩が強い産業であり、公益性が追求され、社会的責務を感じている。

(2)両立支援策の分類

仕事と育児を両立する上で、現在大きく4つの課題があり、それぞれに対応して両立支援策も4つに分類できる。

両立上の4つの課題
両立支援策の分類
<1>経済的コスト
育児にかかる費用の負担(教育費等)。
育児によって生じる機会損失費用(育休取得時は6割の所得ロスあり)。
1. 経済支援

<2>時間的コスト
育児に関わると、時間の余裕がなくなる。
育休取得時は、業務知識をアップデートできなくなるロスがある。

2. 時間・場所のフレキシビリティ
<3>キャリアロス
育児休業取得で、キャリアアップに遅れが生じる。
3. キャリアのキャッチアップ
<4>サポート体制の不備
都市部では、家族サポート、保育サービスが受けるのが難しい。
4. 育児のサポート体制の整備

<1>経済的支援

例1) 用途に限定なく、年間30万円補助。最大7年間利用可能。
ベビーシッター代、遠方の社員の父母の手助けの際に発生する交通費、宿泊代に使える。
例2) 第1子・第2子は50万円、第3子に対しては200万円の出産一時金。
第3子に対する支払いは今のところ1名。
例3) 出産一時金として、1子の出産につき100万円を出産時に支給。
(特徴)
経済的に潤う。インパクトがあり、メッセージ性が強い。
家族手当という形で「薄く、長く」給付してきた費用を出産後に集中させることで、社員間で不公平感が生じかねない。

<2>時間・場所のフレキシビリティー

1.テレワーク

例) 育児休業中の社員に、休業前の就労時間の半分を上限として「在宅勤務」を認める。女性・男性社員ともに利用可能。
特徴) 所得ロスやキャリアロスが軽減される。業務の進行状況を把握でき、職場への復帰も円滑になる。

2.フレックスタイム、短時間勤務

例) 育児休業取得後の勤務時間短縮。子どもが満7歳の3月末日まで取得が可能。
1日当り1時間または2時間の短縮勤務、1週当り2日または3日勤務、 コアタイム勤務、半日勤務、在宅勤務。フレックスタイムから選択できる。
特徴) 時間を有効に使う事が出来る。自分にあった働き方を選べる。
職種により導入が困難。導入前に評価体系の確立が必要。

<3>キャリアのキャッチアップ

例1) 復帰後に完全にリカバリーできる制度
昇格条件として3年続けてAであることを、育休取得後に2年続けてAを取ったら飛び級のような形で短縮を可能にしている。
ただし、要件が厳しく実際にリカバリーしたのは1件のみ
例2) 成果主義+考慮による評価制度
昇格にあたって2期の評価を参考にしているが、1期目の評価しかない社員に対しては、部店長の推薦により人事で検討した上で昇格の機会が与えられる。
特徴) 休業によるキャリアロスを回復できる可能性により、不安を軽減できる。
大多数の企業では、依然としてキャッチアップは困難である。評価によっては不公平感が生じる。

<4>育児のサポート体制の整備

例1) 企業内保育所の設置
特徴) 子育てを支援する姿勢のシンボルとして効果大。企業間連携も見られる。
ただし、企業の負担が年数千万円かかる一方で、利用者10人程度。
例2) 地域サポート(ファミリサポート)。OBなどが会員となり、保育をサポート。
企業のcsrとして活動。
特徴) 早期復職を可能にする。仕事を継続しやすくなる。
企業内保育所は企業単独での導入が困難。
企業間連携、地域との連携が見られる。

<5>その他

A.育児休業の延長
例) 取得可能な期間を延長し、3歳までとする。
第1子出産後3年以内に第2子を出産すれば、計6年間可能である。
特徴) 育児を満喫する事が出来る。
復職を難しくする。実際の所得期間は1年未満が多数
B.評価体系の明確化
  評価体系が明確でないとキャリアロスに対する不安が生じる。
C.企業文化としての浸透
  制度はあっても利用しにくいという雰囲気を改善する。
B・Cにより、心理的ハードルは低くなる。

欧米企業ヒアリングのまとめ

・日本企業の現状を説明して、「育児支援策をコストと考えたことはありませんか?」とスウェーデン企業の経営者たちにたずねたところ、返ってきた言葉は、「コストではない。投資だ。しかもハイリターンが約束されている投資だ」、「経験豊富な女性の多くが辞めてしまう方がずっと大きなコストではないか。日本の優秀な経営者たちがどうしてそんなことに気づかないのか。」といった辛らつな言葉であった。
・北欧企業をヒアリングして感じたのは、ボルボ・エリクソンといった厳しい国際競争を舞台にしている超大企業も、従業員数が数人といった中小企業でも「従業員の労働意欲をいかに引き出して、生産性を高めるか。」を考えているという点だ。


II. 両立支援策が企業業績に与える影響

(1)両立支援策の効果

両立先進企業では、女性が多く、出産による退職率が低く、育児休業取得率は男女ともに高く、取得期間も長い。

→両立支援策の効果があったのではないか。

 
一般企業
両立先進企業
<1>社員に占める女性割合
20.1%
27.8%
<2>管理職に占める女性割合
3.0%
4.7%
<3>女性の就業継続年数
8.9年
13.4年
<4>就業継続年数の男女比(女性/男性)
65.4%
82.4%
<5>出産前の退職率
29.0%
9.9%
<6>女性の育児休業取得率
70.6%
93.7%
<7>男性の育児休業取得率
0.6%
1.6%
<8>女性の育児休業取得期間
7.7ヶ月
11.8 ヶ月

欧米では両立支援は業績をあげるという認識がある。

大半の両立支援先進企業で両立支援への取組が本格化した90年代における売上高の変化をみると、一般企業では1企業あたりの売上高が減少しているのに対して、両立先進企業では売上高が増大している。

1企業あたりの売上高
一般企業
両立先進企業
1992年(A)
255.8
7028.9
2002年(B)
213.7
8942.5
02年の92年対比(A/B)
0.84
1.27

(資料)経済産業省『企業活動基本調査』各年版、有価証券報告書等を基に、富士通総研が作成。


(2)「両立支援策と業績」の定性分析

・150社ヒアリングの結果、両立支援への取組が企業業績を向上させる要因には、3つの時間軸がある。

<1>短期(2~3年)
優秀な従業員の新卒採用、引き止めの誘引となる。
cf:女子学生就職四季報が就職時のバイブル化
<2>中期(5~6年)
CSRを果たしている企業としての宣伝効果
同じ従業員が育児を経て、生産性が向上する。
 a.時間の管理能力向上
 b.忠誠心の向上
 c.消費者の視点で自社の製品を見直す
<3>長期(10年) 組織・業務体制の見直し
従業員の空きを組織・業務体制の見直しの好機とする

・A社(中小企業、器械部品メーカー)では、育児休業取得者が出るたびに業務の無駄がないかどうかをチェッ
することで「人員の空き」をカバーしようとした結果、不良品の発生率がコンマ二桁低下した。

・B社(中小企業、包装材メーカー)では、エース研究者(女性)が育児休業を取得した際に、業務の難易度を
ランク付けし、分担した。その研究者は復職後に難度の高い業務に専念できるようになった。

・このように、両立支援策は組織・業務体制の見直しが並行して行なわれた場合に、企業業績を向上させるのではないか


(3)「両立支援策と企業業績」の定量分析

・昨年秋から日本でも、両立支援策が企業業績にプラスの効果をもたらすという研究が進められている。
・しかし、両者の相関を測定するだけでは不十分であり、組織・業務体制の見直しと「両立支援策」、組織・業務体制の見直しと「企業業績」との関係をそれぞれ定量的に分析すべき。

両立支援策と企業業績の定量分析図解

・企業が過去3年間に行った組織・業務体制の見直しと各種両立支援策の利用との関係を見る。様々な組織・業務の見直しをした場合、それがどれくらい両立支援策の利用につながるかを分析する。

・また、企業の組織・業務体制の見直しを図っている企業と図っていない企業の間では、売上高の上昇・下落とどのような相関関係があるかを分析する。

<1>組織・業務体制の見直しと「両立支援策」の利用度

図 企業組織・業務の見直しと両立支援策の利用度の関係

企業組織・業務の見直しと両立支援策の利用度の関係グラフ

資料:富士通総研「中小企業の両立支援に関する企業調査」(2005年)

<2>組織・業務体制の見直しと「企業業績」の上昇・下落

意思決定権限の分散化(下位職位への委譲)
0.1455
管理職と一般社員の職務の見直し
0.1405
業務のアウトソーシング化
0.1295
経営陣と管理職の権限の見直し
0.128
部署等の組織の統廃合
0.121
部署間の重複業務の見直し
0.1175
イントラネットなどit環境の整備
0.094
意思決定権限の集中化
0.0845
組織のフラット化職位階層の削減
0.0675
新規事業の開拓
0.066
業務の効率化・コスト削減の推進
0.049
社内業務のペーパレス化
0.047

(4)分析のまとめ

・組織・業務体制の見直しは、職場において仕事と育児を両立しやすくしている。具体的には、部署間の重複業務の見直し、下位の役職への権限委譲を行うと、両立支援策の利用度が上がる。

また、両立支援に取り組む中小企業では、社内の無駄な業務をなくし、労務管理権限などを下位の役職に委譲することで、業績を上げている。

・ このように、両立支援策はコストがかかるから、企業では実施しにくいというのは間違っており、組織・業務体制の見直しを並行して行なうことで、「両立支援」と「企業業績の向上」という一石二鳥の効果がある。

・現在、「育児支援はコストがかかるから、その余裕はない」という経営者は、発想の転換を図るべきだ。経営環境が厳しい時こそ、大胆に両立支援に踏み切るべきである。

・ 労働力人口が減少している中で、いかに優秀な人材を引きとめ、惹きつけるかが企業の浮沈の鍵となる。これからは企業の両立支援が常識になる。この点に早く気づけるかどうかで、今後の企業業績は大きく明暗を分けるであろう。


III. 両立支援策の推進に向けて

(1)企業の課題

・「育児支援はコストがかかるから、その余裕はない」という経営者は、発想の転換を図るべき
 ―経営環境が厳しい時こそ、大胆に両立支援に踏み切るべき。

・ 労働力人口が減少している中で、いかに優秀な人材を引きとめ、惹きつけるかが企業の浮沈の鍵。
 ―これからは企業の両立支援が常識になる。これに早く気づけるかどうかで、今後の企業業績は大きく明暗を分けるであろう。

・両立先進企業の取組は同じ組み合わせは1つもない。
 ―業種、経営環境、従業員構成等によって、各企業に合った最適ミックスを模索している。
 ―両立支援策を導入する際には、各企業の属性に即して最適ミックスの模索するプロセスが不可欠だが、大多数の途上グループは断片的な情報しか入手できず、最適ミックスを模索することはできていない。

・一方で、企業の取組は少数の最先進グループと大多数の途上グループに大きく二極分化しており、今後さらに、拍車がかかることが強く懸念。
 ―少数最先進グループでは情報交換が活発に行なわれている。
 ―今後の課題として、中小企業は制度面では遅れているが、大企業にも制度運用や長時間労働など大きな課題が残る。

・企業経営者および従業員を啓発するためには、日本国内における成功モデルの紹介が重要と考えられる。
 ―ワーク・ライフ・バランスやりなさい、少子化対策しなさい、というだけでは効果は薄い。
 ―成功モデルは、業種、従業員規模、従業員構成、従業員のタイプ別分布状況等によって大きく異なる。

・個別企業の最適ミックスをきめ細やかにコンサルティングする役割が非常に重要である。

(2)国の施策の課題

・四月に施行された次世代育成支援対策推進法(次世代法)は、企業や自治体に対して、今後十年間で育児支援に取り組むことを求めており、先進的な事例には「認定マーク」が付与。
 ―認定マークの条件の一つが、育児休業取得実績(男性の育児休業取得1人以上など)。
 ―認定マーク を取得できれば、自社の広告や商品に使用でき、企業イメージの向上にも役立つことから、「認定マークを取るために何とか男性社員の育休取得実績を作ろう」という企業が増えている。

・認定マークが両立支援への取組にインセンティブを与えていることは間違いない。しかし、他方で両立先進企業の一部からは批判の声も聞かれる。

・第一の批判:手厚い取組を行なってきた企業にとって不公平。
 ―企業の取組の絶対水準ではなく、プラスアルファ(今後の取組)について評価されるのは、これまで「次回の行動計画に書くことがなくならないように、紙ベースではペースダウンしておくつもり」という企業さえあることから、今後は企業の取組の絶対水準を評価していくことも検討すべきである。

・第二の批判:男性の育休取得実績という条件では判定困難。
 ―業種の特性上、女性が多く、長期にわたって両立支援の取組を行なってきた某企業では、そもそも若年男性が少ないために、実績を上げることが難しいケースもある。企業によっては、「男性の取得実績を上げるために、当事者に所得保障することも検討している」という抜け道を示唆しているところさえあることから、今後は幅広い評価軸を設けて総合的に判断していくことも検討すべきである。

・第三の批判:育休取得に準じた実績を考慮すべき。
 ―男性は女性よりも「家計の主たる担い手」であるケースが多いため、所得ロスは育休を取得しない一因。この点、子どもが産まれた男性従業員に対して、有給休暇を1~2週間取得させようという企業もある。これまでは、こうしたケースは男性育児休業取得としてカウントされないが、男性社員を応援しようという企業を増やすためには、こうしたケースも育休に準じた実績としてカウントすることも検討すべきだ。

・第四の批判:表彰制度に改善の余地あり。

・<1>各都道府県労働局長賞は、「基本的に全国から満遍なく受賞するように、推薦する方式をとっているため、地域によって選考水準の格差が大きい。すなわち、先進地域では選考水準が高く、後進地域では低い。」という不満が先進地域の企業から出されている。

・<2>厚生労働大臣優良賞の受賞企業には、産業別、企業規模別にみた偏りがある。これは、ある程度実態を反映したものではあるが、すべての企業に対する見本とはなっていない、PRが上手な企業に偏っているという批判もある。

・<3>ある程度取組を進めたら、表彰するというやり方は、「取組への最初の一歩」へのインセンティブにはならないという批判もある。

(3)今後の対応策
<1>表彰制度の改善策

<1>各都道府県労働局長賞に関して、両立先進企業が多い地域では、後進地域よりも受賞企業を増やす。

<2>「取組への最初の一歩」を踏み出した企業を「子育て応援宣言企業」として表彰とするなど、表彰のハードルを下げて、増やす(福岡県、さいたま県、千葉県)。

<2>企業の育児の取組を認証する機関の設立

・管理職登用度、男女均等度、ワークライフバランス度等に関して、各企業の基礎データに関する調査を実施し、定期的な担当者面接等によりデータを更新、取組の進捗等を把握し、認証する機関を設立する。
 ―同機関が公表する各企業の基礎データは、CSRの観点から利用されたり、学生が就職時に参考にするといった利用が見込まれる。
 ―同機関は、ワークバランスの導入により、優秀な人が採用できて、これだけ業績向上につながるという目に見える数字等を明示する。

<3>企業の行動計画開示に関して

・ 第一段階としては、有意義。
 ―両立先進企業の取組が広く知られるようになることが期待される。ただし、良いことしか書かれていないため、一般企業にとっては、「とても真似できない」となりかねない。

・第二段階としては、匿名性を確保
 ―企業の追加負担の有無など掘り下げた内容を開示する方が一般企業の参考にはなるであろう。ただし、匿名性を確保するのは厳密には難しい

・第三段階としては、個別の取組を抽象化
 ―さまざまな企業の取組を分析し・考察した結果を公開する

<4>導入支援のマニュアルの作成・普及

・企業が両立支援に取り組む際に、ケース別に導入プロセスを明記したマニュアルを作成し、普及させる必要がある。
 ―成功モデルは、業種、従業員規模、従業員構成、従業員のタイプ別分布状況等によって大きく異なる
 ―このため、両立支援の導入プロセスも決して一通りではなく、ケース分類したものでないと、実際の導入にはなかなか結びつかない。

<5>子育て基金の設立とコンサルティングの助成

・英国の「チャレンジ基金」(注)にならい、「子育て基金」を作って、それを基に企業の両立支援コンサルティングを進めていく必要がある。
 ―個別企業の最適ミックスをきめ細やかにコンサルティングする役割が非常に重要である。

 (注)貿易産業省が選定した雇用制度専門のコンサルタントが、個別企業の両立支援実施のためのコンサルティングを行い、その費用の一部をファンドで支援する。2000‐03年まで実施し、累計400社、1130万ポンドが利用。