第2節 少子化の原因の背景

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1 仕事と子育てを両立できる環境整備の遅れや高学歴化

○ 1980年代から働く女性の増大、とくに若い世代の女性の労働力率が上昇してきた一方で、仕事と子育てを両立できる環境が十分整っていなかったことが晩婚化や晩産化につながり、その過程で出生率の動向に影響を与えてきたと推測できる。また、男女双方の高学歴化も晩婚化に影響を与えている。
○ 初めて子どもを出産した母親の場合、出産1年前に仕事を持っていた人のうち約67%が、出産半年後には無職となっている。働く女性にとっては、出産・育児と仕事の両立が大きな課題であり、働く女性の増大を踏まえ、出産・育児と仕事の両立が可能となるように、子育て期において育児や仕事の負担軽減を図るため、保育所の拡充等の保育支援や育児休業の取得促進、勤務時間の短縮、再就職促進等の雇用のシステムをつくりあげていく必要がある。
第1‐2‐12図 初めて子どもを出産した母の出産前後の就業状況の変化


2 結婚・出産に対する価値観の変化

○ 女性の場合、「ある程度の年齢までには結婚するつもり」とする人は、54.1%(1987(昭和62)年)から43.6%(2002(平成14)年)と減少し、「理想の相手が見つかるまでは結婚しなくてもかまわない」とする人は、44.5%(1987年)から55.2%(2002年)へと上昇している。結婚を必然のことではなく、人生の選択肢のひとつとしてとらえている人も多い。結婚に対して、社会的規範意識よりも個人的な理由に基づくものへと、結婚に対する意識が変化してきている。
○ 個人が自由や気楽さを望むあまり、家庭を築くことや生命を継承していくことの大切さへの意識が失われつつあるのではないかとの指摘がなされている。
第1‐2‐15図 結婚の時期に対する考え方(未婚者)


3 子育てに対する負担感の増大

○ 理想の子ども数よりも実際の子ども数が少ない理由として、子育て費用や教育費の負担をあげる人が最も多い。続いて、若い世代では、育児の心理的・肉体的負担の重さや子どもの育つ社会環境の問題をあげ、高年齢層では、高齢を理由にあげる人が多い。たとえば、教育費の負担をみると、幼稚園から大学までの費用は、公立か私立により変わってくるが、概ね約1,400万円から約2,000万円かかっている(高校までは教育費、大学では生活費も含む)。
○ 夫婦が仕事と家庭に時間をどう配分するかということも、子育て負担の重さと関係している。現状では、父親が仕事優先という傾向にあり、家事や育児にあてる時間が極端に少なく、母親の負担をより重くしている。職場優先、経済優先の風潮などから、無関心や放任といった極端な養育態度の親などの問題が指摘されている。仕事にかかる時間とのバランスをとりつつ、育児にかかる親の時間を増やし、子どもに対して時間的、精神的に十分に向き合うことが、出生率の回復や健全な子育てに資するものと考えられる。
○ 家庭や地域における子育て力が低下しているため、育児に対する孤立感や疲労感、自信の喪失につながっていると指摘されている。
第1‐2‐24表 理想の子ども数を持たない理由
(%)
  子育てや教育にお金がかかりすぎるから 家が狭いから 自分の仕事に差し支えるから 子どもがのびのび育つ社会環境ではないから 自分や夫婦の生活を大切にしたいから 高齢で生むのはいやだから これ以上、育児の心理的・肉体的負担に耐えられないから 健康上の理由から 欲しいけれどできないから 夫の家事・育児への協力が得られないから 夫が望まないから 一番末の子が夫の定年退職までに成人してほしいから その他
総数 62.9 14.6 17.1 20.4 11.5 33.2 21.8 19.7 15.7 12.1 7.2 9.6 5.6
資料: 国立社会保障・人口問題研究所「第12回出生動向基本調査」(2002(平成14)年)
注: 予定子ども数が理想子ども数を下回る夫婦を対象。総数には25歳未満を含む。理由不詳を除く。

第1‐2‐25図 理想の子ども数を持たない理由

4 経済的不安定の増大等

○ 90年代以降の経済の長期停滞の中で、20歳代の若者の失業率が最も高く、若年失業者やフリーターの増大など、若者が社会的に自立することが難しい社会経済状況にある。こうした若者の経済的不安定が結婚に影響を及ぼし、ひいては子どもの出生に影響を与えている。2003(平成15)年には、フリーター数は217万人と推計されており、15~34歳の労働力人口のうち、10人に1人はフリーターとなっている。また、ニート(仕事をせず、学生でもなく、職業訓練もしていない無業者)は約52万人と推計されている。
○ 今後、政府による就業支援や人材育成策とともに、企業側としても、若者への雇用・就業の場の提供や、長期的な視点から人を大切にし、人材育成、キャリア支援を図るべく従来以上の主体的な取組を行うことが求められている。
第1‐2‐41図 フリーター数の推移

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