第2章 なぜ少子化が進行しているのか

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第1節 少子化の原因


 第1章では、少子社会の現状について解説してきたが、こうした出生率の低下という少子化の現象はどのような原因で生じてきたのであろうか。
 前述した晩婚化の進展や夫婦出生力の低下などが、少子化の直接の原因として指摘されている。1997(平成9)年の人口問題審議会報告「少子化に関する基本的な考え方について」においても、未婚率の上昇(晩婚化の進行と生涯未婚率の上昇)や、夫婦の平均出生児数と平均理想子ども数との開きを少子化の原因とし、それぞれの背景となる事項を指摘している。
 そこで、本章では、少子化の原因やその背景にある要因としてこれまで取り上げられてきた主な事項について、最近のデータを基にあらためて分析する。
 本章で少子化の原因やその背景にあるものとして取り上げる項目は、次のとおりである。最初に、少子化の原因である「未婚化の進展」、「晩婚化の進展」及び「夫婦の出生力の低下」について言及する。続いて、これらの背景にあるものとして、「仕事と子育てを両立できる環境整備の遅れや高学歴化」、「結婚・出産に対する価値観の変化」、「子育てに対する負担感の増大」及び「経済的不安定の増大等」を取り上げる。
 なお、本章全体の分析を整理すると次のフローチャートのとおりである。
第1‐2‐1図 少子化フローチャート

1 晩婚化・未婚化の進展

(未婚率の上昇)


 わが国では、子どもは男女が結婚してから生まれる場合が大半であるので、結婚しない人たちの割合が増加すれば、子どもの出生数に影響を与えることになる。20歳代後半から30歳代の未婚率(結婚していない人の割合)をみると、1970年代頃まで安定した率で推移していたのが、70年代半ば頃から上昇傾向が顕著となってきた。そこで、出生率低下の原因として、未婚化の進展が主な理由として指摘されるようになってきた。
 総務省「国勢調査」によると、2000(平成12)年の全国における20~39歳の未婚者数は、約1,833万人であり、男性が約1,040万人、女性が約793万人である。
第1‐2‐2図 2000年の未婚者数(年齢階級別)



 また、国勢調査によれば、20~34歳の未婚率は、1950(昭和25)年から80(昭和55)年頃までは、男性が約50%、女性は約33%と、さほど変化がなく推移をしてきた。しかし、1980年代後半から未婚率が上昇傾向となり、2000(平成12)年には、男性68.2%、女性55.5%となっており、結婚していない人の方が多くなっている。
第1‐2‐3図 未婚率の推移(20~34歳)



 5歳年齢階級別の未婚率をみると、1980(昭和55)年と2000(平成12)年を比較して、男性の場合、25~29歳では55.1%から69.3%へ、30~34歳では21.5%から42.9%へと倍増し、女性の場合、25~29歳では24.0%から54.0%へと倍増し、30~34歳では9.1%から26.6%へと3倍になっている。
 女性の25~29歳では、1970年代では「5人に1人が独身」であったが、30年間に「2人に1人が独身」という状態に変化している。男性の25~29歳では、70年代では「2人に1人が独身」であったが、現在は「10人に7人は独身」となっている。
第1‐2‐4図 年齢別未婚率の推移



(晩婚化の進展)

 20~30歳代の未婚率の上昇に伴い、男女ともに平均初婚年齢が上昇する晩婚化が進展している(晩婚化の状況については、第1章 第3節参照)。晩婚化は出生年齢を引き上げることから、晩婚化の進展中は、出生率が低下する傾向となる。
 1980年代後半から合計特殊出生率の低下が社会的に知られ始めたが、当時は、晩婚化の進展による「出産の先送り現象」のために、一時的に出生率が低下したものであり、いずれ晩婚化傾向が一段落をすれば、出生率は回復するであろうと認識されていた。しかしながら、2000(平成12)年になっても晩婚化は進展中である。
 20~30歳代の未婚率の上昇等により、生涯未婚率(50歳時点で結婚していない人の割合)も近年上昇している。1980(昭和55)年では男性2.6%、女性4.5%であったのが、2000年には、男性12.6%、女性5.8%となっている。
 国民の全てが結婚をするという「皆婚社会」が、いまや崩れつつある状況に至っている。
第1‐2‐5図 生涯未婚率の推移



(独身者の結婚意思)

 20~30歳代の未婚率が上昇していることについて、あるひとつの理由で説明することは難しい。
 未婚者の生涯の結婚意思について5年ごとに調査している「出生動向基本調査」(国立社会保障・人口問題研究所)によると、未婚者の約9割は、「いずれ結婚するつもり」と回答しており、「一生結婚するつもりはない」という人の割合は、男性5.4%、女性5.0%にすぎない。ただし、20年前と比較をすると、「いずれ結婚をするつもり」と答える人の割合は、男女とも数ポイントの減少がみられる。
第1‐2‐6図 独身者の結婚意思



 結婚する意思は高いにもかかわらず、未婚の人が多い理由は何だろうか。同じ調査で、独身にとどまっている理由を尋ねた結果をみると、18~24歳では、男性、女性ともに「まだ若すぎる」、「必要性を感じない」、「適当な相手にめぐり合わない」をあげる人が多い。また、最近では、男性、女性とも「仕事(学業)にうちこみたい」をあげる人が増加している。
 25~34歳では、「適当な相手にめぐり合わない」をあげる人が最も多いが、以前よりは割合が低下している。次いで、「必要性を感じない」、「自由や気楽さを失いたくない」が多くなっている。選択肢を「結婚できない理由」と「結婚しない理由」とに分けると、25~34歳では、独身にとどまっている理由としては、「結婚できない理由」が多かったが、近年、「結婚しない理由」のウエイトが高まりつつあるといえる。なお、「結婚資金が足りない」という理由をあげる人は男性に多く、若い男性の経済的状況が、結婚に影響を与えていることがわかる。
第1‐2‐7図 独身にとどまっている理由



(婚外子割合の国際比較)

 わが国では、出生のほとんどが戸籍法に基づき婚姻の届出をした夫婦によるものである。厚生労働省「人口動態統計」によれば、2003(平成15)年の出生数1,123,610人のうち、98.07%は嫡出子(法律上の婚姻をした夫婦間に出生した子)であり、非嫡出子は21,634人と、全出生数の1.93%にすぎない。
 これを欧米諸国と比較をすると、スペイン、イタリアといった南ヨーロッパでは低いものの、いずれの国も日本よりもはるかに高い水準にある。スウェーデン56.00%、フランス44.30%、イギリス43.10%、アメリカ33.96%という状態である。しかし、非嫡出子(いわゆる婚外子)が多いからといって、男女関係が乱れているというわけではなく、男女のカップルが結婚に至るまでに同棲という事実婚の状態を経ることが多いこと、非嫡出子であっても法的に嫡出子とほぼ同じ権利を享受できること、結婚形式の多様化に対する社会一般の受け入れなどが背景にあると考えられる。
 たとえば、スウェーデンでは、サムボと呼ばれる事実婚カップルが、サムボ法という法律により、法律婚カップルとほぼ同様に保護されている。また親子法により、サムボカップルの子どもに対する法的差別も全くない。内閣府経済社会総合研究所編「スウェーデン家庭生活調査」によれば、このように制度が整備されていることもあり、法律婚カップルの9割以上がサムボを経験しており、法律婚への移行過程として機能していると考えられる。サムボはライフスタイルのひとつとして社会に受け入れられ、現在では生まれてくる子どもの半数以上が婚外子である。ただし、出生順位別にみると、第一子の婚外子率は65%に達するものの、第二子では44%、第三子では29%に減少しており(1990年代)、サムボが法律婚に移行する前の段階として定着していることを示している。
第1‐2‐8表 嫡出でない子の割合
(%)
  嫡出でない子の割合
日本 2003 1.93
1980 0.80
アメリカ 2002 33.96
アイスランド 2003 63.60p
スウェーデン 2003 56.00
ノルウェー 2003 50.00
デンマーク 2003 44.90
フランス 2002 44.30
イギリス 2003 43.10p
フィンランド 2003 40.00
オランダ 2003 31.30p
ドイツ 2003 26.20p
スペイン 2003 23.20e
イタリア 2002 10.80e
資料: 日本は厚生労働省「人口動態統計」、米国は疾病管制局(CDC)資料、その他の国はEuro-Statによる。
注: eは推計値、pは速報値


(妊娠・出産と結婚との関係)

 わが国では、婚外子(非嫡出子)の割合は極めて小さいものの、最近では、妊娠してから結婚をするという形態(俗に「できちゃった婚」と呼ばれている)により子どもが生まれるというケースが増加している。
 厚生労働省「人口動態特殊報告‐出生に関する統計‐」(2001(平成13)年)によれば、結婚期間が妊娠期間より短い出生数は増加傾向にあり、2000(平成12)年では、嫡出第1子出生数の約4分の1を占めている。これは20年前と比較をすると、約2倍の増加となっている。母の年齢階級別にみると、10代後半では8割、20代前半では6割、20代後半では2割となっており、年齢層が若くなるほど多くなっている。
 同棲の状況についてみると、毎日新聞社の「第1回人口・家族・世代世論調査」(2004(平成16)年)1によると、15%の女性が「同棲をしている。または過去に同棲の経験がある」と答えている。30代前半では21%に上っている。こうした状況からみると、わが国でも結婚前に、あるいは同棲中に妊娠するという事態が少なくないものと想像できるが、出産となると、いわゆる「できちゃった婚」のように法律上の結婚という行為と密接に結びついている。
 なお、10代後半など若い世代の「できちゃった婚」の中には、親としての準備などが整っていないため、若い夫婦のそれぞれの親やきょうだい、地域、行政における支援が必要な場合が多いものと考えられる。

1 全国の20歳から49歳までの女性4,000人を対象に、調査票を預けて記入してもらう「留め置き法」で実施した世論調査。有効回答率は61%

2 夫婦の出生力の低下

 第1章 第3節でみたとおり、1990年代以降、夫婦の出生力が低下してきている状況がみられる。妻の生まれ年別にみると、1960年代以降に生まれてきた世代から低下傾向にある。
 国立社会保障・人口問題研究所「第12回出生動向基本調査」(2002(平成14)年)によれば、夫婦に対して、理想的な子どもの数(理想子ども数)と、実際に持つつもりの子どもの数(予定子ども数)を尋ねたところ、結婚期間が短い夫婦ほど、理想、予定子ども数とも少なくなっている。全体の平均では、理想子ども数は2.56人、予定子ども数は2.13人であるが、結婚持続期間が5~9年の夫婦では、理想子ども数2.48人、予定子ども数2.07人、同じく0~4年の夫婦では、理想子ども数2.31人、予定子ども数1.99人となっている。結婚持続期間が0~4年という結婚後5年未満の夫婦の場合、以前の調査では現在よりも高い数値を示していた。たとえば、1987(昭和62)年調査では、理想子ども数2.51人、予定子ども数2.28人であった。90年代以降、理想、予定子ども数ともに比較的急に低下しつつある。
 このように最近における結婚持続期間が短い夫婦では出生力の低下傾向がうかがえるが、その原因は後述する様々な要因に加えて、バブル経済崩壊の心理的影響が夫婦の出生力の低下に影響を与えているのではないか、晩婚化による出生力の低下が夫婦の出生力の低下にも影響を与えているのではないか、自分の子どもに自分以上の高学歴を求める傾向があり教育費等の負担を考慮して、出生抑制を行うなどの影響を与えているのではないか、都市部において継続就業する女性の存在、一方では仕事と子育てを両立できる環境の不十分なことなどが、夫婦の出生力に影響を与えているのではないかなどの指摘がなされている。2

2 「夫婦の出生力の低下」を議論した社会保障審議会人口部会委員の意見を参考にしている。
第1‐2‐9図 結婚持続期間別にみた、平均理想子ども数と平均予定子ども数



第1‐2‐10図 調査年別にみた、平均理想子ども数と平均予定子ども数(結婚持続期間0~4年)



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