第2節 少子化の原因の背景

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1 仕事と子育てを両立できる環境整備の遅れや高学歴化

(働く女性の増大)

 晩婚化や未婚化の背景として論じられることが多い女性の社会進出、すなわち働く女性の増大について考えてみよう。
 日本では女性の年齢別労働力率(人口に対する労働力人口の割合)がいわゆるM字型カーブを描くことが特徴的である。1960年代から70年代まで、女性の平均初婚年齢は24歳前後で安定していた。20代前半に就業後、25~34歳の年齢層になると、結婚や出産、子育て等のために離職し、40代からまた働く人たちが増加するという行動が顕著にみられた。これを年齢階級別の労働力率でみると、20代前半に70%前後になった後、20代後半から30代前半にかけて40~50%台にまで低下し、40代には60%程度に回復するというM字型のカーブを形作っていた。
 しかし、80年代以降、20代後半から30代の女性の労働力率は徐々に上昇していった。また、サービス経済化の進展や女性の職業意識の高まり等により女性雇用者が増加したことや、国際婦人年以来の男女平等を求める国際的な流れ等を背景に、女性の就労環境の整備の機運が高まり、1985(昭和60)年には男女雇用機会均等法が制定された。
 年齢階級別に女性の労働力率をみると、1990(平成2)年頃から25~29歳の年齢層の労働力率の上昇が大きくなり、2002(平成14)年では、20代前半と20代後半が逆転し、20代後半の労働力率が20代前半を上回った。
 M字型カーブの一番の谷間も、25~29歳層から30~34歳層に移行するとともに、労働力率は上昇している。育児は女性が主として担っている現状において、働く女性が増大する一方で、仕事と育児の両立を支える環境が整わないことや、機会費用(結婚や子育てにより失うことになる利益)の上昇等から、女性の結婚年齢や出産年齢が高くなる現象(晩婚化や晩産化)が生じ、出生率に影響を与えてきたと推測できる。
 このように、1980年代から働く女性の増大、特に若い世代の女性の労働力率が上昇する一方で、20代の女性の未婚率の上昇や出生率の低下が続いてきたことについては、様々な理由が考えられる。90年代前半では、家庭よりも職場を優先させることを求める固定的な雇用慣行や、それを支える企業風土の存在、固定的な男女の役割分業意識あるいは保育サービスの整備の不十分さなどが、大きな要因であると考えられた。そこで、第5章で説明するとおり、90年代半ばにエンゼルプランの策定等により、保育サービスの拡充や育児休業制度の充実など、仕事と育児の両立を図るための施策が推進されて、現在に至っている。
 今日、女性の就業と出生率との関係をみると、上述した状況に加え、育児休業制度はできても現実には取得しづらい職場環境、住居や職場近くの保育施設の整備状況、育児や家事に対する夫の協力の状況、親との同居の有無、職場への通勤距離など、様々な要因が影響しているものと考えられる。
第1‐2‐11図 年齢階級別女性の労働力率の推移


(出産・育児と仕事の両立)

 育児は女性が主として担うことが多い現状において、働く女性にとって、出産・育児と仕事との両立は大きな課題である。厚生労働省「21世紀出生児縦断調査」3の調査結果によると、初めて子どもを出産した母親の場合、出産1年前に仕事を持っていた人(有職者)のうち67%が、出産半年後は無職となっている(2001(平成13)年度結果)。また、常勤であった人が、離職して出産1年半後に有職となった場合でも、約6割はパート、アルバイトとなっており(2002(平成14)年度結果)、育児と仕事の両立の困難性を表わしている。

3 厚生労働省が、全国の2001(平成13)年に出生した約5万人の子を対象とし、その親に対して、2002(平成14)年から毎年継続的に調査を実施しているもの。
第1‐2‐12図 初めて子どもを出産した母の出産前後の就業状況の変化


 結婚前就業していた妻について、現在の就業状態と子どもの有無との関係を調べた国立社会保障・人口問題研究所「第12回出生動向基本調査」(2002年)によれば、結婚0~4年では就業している妻が43.5%、いわゆる専業主婦が56.5%いるが、子を持ちながら就業する妻は全体の16.8%である。また、就業者に占める子を持つ割合は38.7%であり、専業主婦の子を持つ割合の74.2%に比べて低く、出産に際して就業を継続せず専業主婦となる就業者が多いことをうかがわせる。
 こうした「出産・育児」か「仕事」かという二者択一の状況が、女性の自立やキャリア形成の障害、子育て世帯の収入低下、ひいては結婚に対する消極的な姿勢の原因となっていることは否めない。働く女性の増大を踏まえ、「出産・育児」と「仕事」の両立が可能となるように、子育て期において育児や仕事の負担の軽減を図るため、保育所や放課後児童クラブの拡充等の保育支援、育児休業の取得促進、勤務時間の短縮、出産等を理由とした退職後の再就職の促進等の雇用のシステムをつくりあげていく必要がある。
 なお、「第12回出生動向基本調査」によれば、結婚持続期間が長くなると、再就業する妻の割合が増加し、結婚後10~14年では子を持つ就業者が全体の54.4%と、子を持つ専業主婦の40.2%を上回る。また、1歳以上の子どもを持つ夫婦について、平均子ども出生数をみると、結婚後15~19年の夫婦では、「就業継続型」(結婚前に就業し、子どもを出産後も就業を継続)の場合には2.33人、「再就職型」(結婚前に就業し、第1子出産後は無職となったがその後就職)の場合には2.34人、「専業主婦型」(結婚前は就業していたが、子どもを出産後は無職)の場合には2.28人と、ほとんど差がない。
 また、北海道、東北等の地方ブロック別に、25~34歳の既婚女性の労働力率と、その地域の合計特殊出生率との関係をみると、労働力率の高い地域ほど、出生率が高いという関係がみられる。職業構成の相違の比較などさらに分析が必要であるが、働く女性の増大が直ちに出生力の低下をもたらすわけではない。
第1‐2‐13図 結婚持続期間別にみた、妻の就業状態及び子どもの有無の構成



(高学歴化)

 女性における大学等高等教育機関への進学率についてみると、最近では横ばい状態であるが、1960年代から90年代にかけては一貫して上昇してきた。とりわけ4年制大学への進学率の上昇が著しく、90年代後半には短期大学の進学率を上回った。2003(平成15)年度では、4年制大学への進学率が34.4%、短期大学への進学率は13.9%となっている。
 男性の場合には、女性よりも早く高学歴化が進み、既に1980(昭和55)年度において4年制大学への進学率が39.3%となっていた。その後、幾分増減があったが、2003年度には47.8%となった。
 女性の最終学歴別未婚率を年齢階級別に比較すると、いずれの年齢階級でも、高学歴の女性ほどおおむね未婚率は高くなっている。とりわけ、20代でその差が顕著であり、国勢調査(2000(平成12)年)によると、25~29歳層では、高等学校卒の女性の未婚率が45.1%であるのに対して、短大・高専卒では56.5%、大学・大学院卒では69.3%となっている。ただし、生涯未婚率(50歳時点での未婚率)についてみると、50~54歳層では、高等学校卒の女性の未婚率が4.5%であるのに対して、短大・高専卒では6.3%、大学・大学院卒では8.7%となっている。
 こうしたことから、男女双方の高学歴化の進展が晩婚化、すなわち結婚年齢を高める方向で作用したと考えられる。
 なお、最終学歴からみた完結出生児数(結婚持続期間が15~19年の夫婦の子ども数)について、国立社会保障・人口問題研究所「第12回出生動向基本調査」(2002(平成14)年)によれば、妻が高等学校卒の場合では2.29人、短大・高専卒では2.18人、大学卒(大学院卒を含む)では2.09人と、学歴が上るにしたがい若干の低下傾向がみられる。
第1‐2‐14図 大学等進学率の推移



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